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冬の富山湾を食べつくせ! タグ:【寒ブリ】

●寒ブリ食べ放題
 氷見を選択した27名の参加者はバスに揺られ、漁港近くの元海鮮市場へと到着した。
 日本海から吹く風は冷たく、バスの添乗員さんに案内されながらの短い移動に身体を震わせる。
 しかし、レストランスペースの中に入ると暖かな暖房と美味しそうな香りが彼らを出迎えてくれた。
「今日は富山の料理を楽しんでかれー」
 案内係なのか数名のおばちゃん達がそう言うと、彼らを席へと案内する。
 席に座り、温かいお絞りで手を拭くと彼らは食事を取る為に立ち上がった。
 同時に外の少し離れた場所からお昼を告げるサイレンが鳴ったのが聞こえた。

「富山の寒ブリはすっげえ美味いって聞いたぞ!」
 そう言いながら鐘田将太郎(ja0114)は刺身が並ぶスペースへと向かう。そこには大量の小さい船が並んでいた。
 その一つ一つに刺身が大量に盛られており、腹一杯食べれると共に均等に食べる事が出来る心意気を込められてこんな風にしたのだろう。
 一隻の船を取ると将太郎は席へと付く。
 そして片手には大盛りのほかほかご飯。
「魚沼産ではなく、氷見産コシヒカリか」
 地産地消やちゃ。とご飯を盛ってくれたおばちゃんは笑って言うのを思い出す。
 小皿に醤油を垂らし、鰤を箸で摘むと醤油に潜らせた。
 寒鰤は脂が乗っていると言うのが頷ける程に醤油にジワッと脂が浮かぶ。
 箸に乗って震える鰤を将太郎は口の中に運んだ。
 肉厚な噛み応えと共に噛む度に脂が口中に広がっていく。
 味のアクセントに醤油の辛さが混じり、味覚を味わいながら呑み込む。
 そのまますぐにホカホカご飯を口に運ぶ。硬めに炊かれたご飯は噛応え良く鰤の味と混ざり合って行く。
 向かい側の席では氷月 はくあ(ja0811)が海鮮丼を片手にいざ出陣!
 イクラのプチプチと弾け染み出る味、鰤の噛み応えある食感、様々な魚介類がはくあの口の中で混ざり合いハーモニーを奏でていく。
 それらはバラバラだが酢飯が指揮者の如く、すべての味を混ざり合わせひとつの甘美に至らせる。
 そして海鮮丼の中で一番の魅力は甘エビだ。
 柔らかな歯応えと共に口の中で甘く溶けていき、甘さが広がっていく。
「んー……、美味しいですっ!」
「うどん自体がちょっと苦手なのですが……ものは試し、折角なので味わってみましょうか」
 器の中には茹でられ、適度な分量に盛り付けられた氷見うどんが入っており……それを立花 雪宗(ja2469)が取る。
 中にはうどん以外にこの地域ならではの薄く切られた赤巻の蒲鉾、刻み葱が入っており、そこへ温かい汁を注いだ。
 鰹節と昆布で取った出汁なのか、あっさりとした香りと琥珀色の液体が麺を沈めていく。
 席に座り、雪宗はうどんを取ると口へと運んだ。
 細麺のうどんはちゅるると口の中へと入っていった。
 少し塩味が効いた麺は力強いコシがあり、噛む度に普通のうどんと違った食感を与える。
 そのまま汁を啜ると琥珀色で味は薄く思うだろうがしっかりしており、麺との相性はばっちりだ。
 付け合せの蒲鉾は少しモチッとした食感があり、葱はサクサクと歯応えが良いと共に辛味を与えてくれる。
「うどんなのですが、うどんっぽさがあまり無いですね。そういえばかぶす汁のかぶすってなんて意味なんでしょう」
「かぶすって言うのは漁師言葉で分け前って意味やちゃ」
「ほぇ〜」
 おばちゃんに意味を教えてもらった、ネピカ(jb0614)が感心したのか頷く。
 その手には大きなお椀に盛られたかぶす汁。
 感心しながら、彼女はかぶす汁の椀に口を付けた。
 見た目は魚介類たっぷりの普通の味噌汁と思われるが、飲んでみた瞬間にその考えは一気に変わった。
 それもその筈だ。大量の魚介類で取れた出汁が美味しくない訳が無い。
 味噌はこうじ味噌で優しい味わいが広がっていく。
「〜〜〜♪♪」
 満面の笑みを浮かべながら、ネピカはかぶす汁を食べるのだった。

 桜井・L・瑞穂(ja0027)とリネット・マリオン(ja0184)は向かい合うように座ると2人は別々の物を食べていた。
「リネット、美味しいわね」
「はい、瑞穂お嬢様。流石、鮮度抜群だけに美味ですね」
 そう言う瑞穂は朝獲れのムツの刺身を食べており、リネットは焼き魚を食べる。
 淡白な白身魚だが噛み応えのあった。カワハギの干物は干された事により旨みが凝縮し、噛む度にあっさりとした塩の味が広がり舌鼓を打っていた。
 そして瑞穂が刺身の次に鰤大根に箸をつける。
 煮込まれた大根が柔らかく、アラに付いた身は味がしっかり染みこんでおり口の中で蕩けていく。
「ん〜っほら、リネット。此れ、凄く美味しいですわ。食べて御覧なさいな」
 鰤大根の美味しさに瑞穂は至福の表情を浮かべ、箸で摘み上げリネットに向けた。
 汁をたっぷり吸った大根は白から琥珀色になっており、今にも零れてしまいそうだ。
「え、よ……宜しいのですか? それはお嬢様が召し上がっておられた……」
 喜々と微笑む瑞穂に対し、リネットは何処か頬を赤らめごにょごにょと言いよどむ。
 そんなじれったい彼女の態度に瑞穂はちょっと我侭を言う。
「あら、わたくしの物を食べれないのかしら?」
「……も、勿論お断りする理由などございません。謹んで頂戴致します……」
 口を開き、リネットは中腰で立ち上がりながら顔を近づける。
 その口へ瑞穂は大根を入れ、リネットは租借する。
 味の感想を聞かれたが、顔を真っ赤にしたリネットには味も判らない状態だったりした。

「寒ブリは我等しっと団が頂いたっ」
 船盛、氷見うどん、かぶす汁、鰤大根を掴むと天道 花梨(ja4264)が持ってきたコタツの上に置いた。
 どうやら花梨が持ち込んだようだ。珍しい物好きな氷見のおばちゃん達からは好奇な目で見られていたりする。
「新鮮なお刺身盛を鍋で火を通して台無しにしてあげるのだわっ!」
 そう言いながら花梨は鍋に持ってきた物を全てぶち込む。
 結果、混ぜすぎた為に何やら危険な臭いになり始めた。
 臭いにコタツムリのナレル・アンゲロイ(jb2540)が顔を出し始めた。
「のう、花梨よ。我に美味い物をご馳走すると言っておったのではないか?」
「これは少しはしゃぎ過ぎだと思います」
 和泉 恭也(jb2581)がハリセンを取り出し、花梨を狙う。
 食事は美味しく取らないといけないものである。
「うっめえええーー!! こんな海の幸がタダなんて普通ありえねぇよな!」
 刺身や海鮮丼を大量に持ってきてがつがつと美味しそうに食べながらガル・ゼーガイア(jb3531)が大声を上げる。
 気持ちよく食べてくれると嬉しいものである。
 その間にも鍋はカセットコンロの上でぐつぐつと煮られていく。
 だけど、作った手前食べなければならない(訳:恭也のハリセンが狙っているから)
 恐る恐る花梨は鍋を突き食べた……。
「うっ……!」
 直後、彼女は倒れたのだった(結論:一つ一つが美味しくても一つにしてはいけない)
「我は何を食べればよいのじゃろう……」
「ぶりしゃぶしたかったんけ?」
 良く分からないままナレルが頷くと、鍋が入れ替えられ透き通った汁が置かれて薄切りの鰤が置かれた。
 どうやら、鰤版のしゃぶしゃぶのようだ。
 気絶した未来の従僕(予定)を無視して、ナレルは箸を掴むと切身をしゃぶしゃぶして食べる。
 少し硬い食感とぶりぶりな食感が口の中に生まれ、噛み締める度に脂が溢れていく。
「うむ、これは美味じゃな」
「自分も相伴に預かりますか……うん、美味しいです」
「おっ、どれどれ……はむ、もぐ……うっひゃ! うんっめぇえええーー! 新食感って感じだし刺身と違うし、普通のしゃぶしゃぶと違ってるぜ!」
 賞賛しながら、3人はぶりしゃぶを食べるのだった。

 船盛りを3席ほど机の上に出港させながら96No lCa(jb4039)は目を輝かせながら刺身を食べる。
 一隻を沈める(完食する)とまた新しい船に狙いを定め、時折ホカホカご飯を口の中へと放り込む。
 モグモグモグモグと租借し、呑み込むと再び新しい標的に狙いを定めて箸を動かす。
 寒ブリ、鱈の子付け、イカと色々な味わいに無表情ながら少なからず楽しみを感じているのだろう。
 眼鏡の奥から見える瞳は何と言うか所謂狩猟者の瞳だった。
 美味しい料理と底なしの胃袋が成せる技なのだろう。
 その向かいでは玖珂 円(jb4121)がモクモクと船盛りを食べていた。
 醤油にイカを潜らせ、プルプルと震えるそれを口の中へといれる。
 こりこりという硬い食感と共にねっとりとした滑らかさが噛む度に舌の上を通っていく。
 次に鱈の子付けを食べてみる。薄くも歯応えのある食感と口の中に転がる鱈の子のザラザラとした感触が不思議な感覚を与える。
 それを繰り返し食べ、時折付け合せの大根や大葉と共に食べたりして、船が綺麗になると手を合わせる。
「ご馳走様でした。あまりに美味しいので、つい食べる事に没頭してしまったわね」

「一杯食べていいんですよね!?」
 入学してから島からずっと出ていなかった牛図(jb3275)は弾けているのか、配膳のおばちゃんを問い質す。
 そんなおばちゃんは笑いながら、牛図にいう。
「いいちゃいいちゃ、元気そうやからお腹一杯食べられ」
「ではお言葉に甘えて、頂きます!」
 力いっぱい手を合わせ合掌をすると、彼は立ち上がり海鮮丼を巨大などんぶりに装ってもらい着席した。
 そして即座に醤油を掴み、海鮮丼に軽くかけると箸を掴み……一気に食べ始めた!
 口の周りにご飯粒が付いていようが御構い無く、牛図は海鮮丼を食べる。
 そして瞬く間にどんぶりからご飯は消え去り、満面の笑みを浮かべる牛図が居た。
「美味しいですね。っと、あれなんでしょうか? 美味しそうだから次はアレを食べてみましょう!」
 次の目標に狙いを定めて、立ち上がると氷見うどんに向かって歩き出した。
 きっと次もどんぶりに入れて食べるのだろう。
 意気揚々と歩く牛図とすれ違い、ラル(jb1743)は鰤の味噌焼きが乗った皿を持ちながら席へと座る。
 隣では仲良しアヤカ(jb2800)が笑顔で鰤の塩焼きを食べようとしていた。
「海の幸ニャ! いっぱい食べまくるのニャ〜☆」
「美味しいとイイけど……」
 笑顔で箸を握るアヤカと疑問を持ちながら箸を握るラルは焼かれた鰤を摘むと口の中に入れた。
 炭火で焼かれた鰤は熱々で噛み締める度に身から脂がジュワ〜っと溢れていく。
 更に味噌焼きからは味噌の甘みが広がっていき、脂っぽさを感じさせる所か美味しさを引き立たせていく。
 塩焼きは少し辛めの塩が切身に良く揉みこまれており、辛めだが優しいしょっぱさが混じった脂が口いっぱいに広がっていく。
 更に付け合せの大根おろしが少し脂っぽくなった口の中をサッパリさせていく。
「……ん。美味しい」
「ニャハハハハハ☆ このブリ、脂が乗ってて最高ニャ☆」
 静かにそれで居て幸せを感じるラルと対照にアヤカは笑いながら笑顔。
 そんな隣でよく似た焼き物を食べていれば、必然と視線はそこに向くものだ。
(ホカの人達と、食べ比べとかも面白そう……カモ?)
「ニャ? 食べ比べしてみたいのかニャ?」
「うん……まあ、いいけど……」
「それなら食べてみるニャ☆ 替わりにあたいは味噌焼きを貰うニャ☆」
 そうして、2人は味噌焼き塩焼きの食べ比べを始めるのだった。

「なるほど、これが日本海の海の幸だな。山も海もある……いい場所だ」
 バスの中から覗いた景色を思い出しながら、烈堂 一葉(ja0088)は綺麗な土地に関心をする。
 そんな彼女の手には御飯茶碗と箸があり、テーブルにはブリ大根とお刺身。
 食事は人情味溢れ暖かく、ご飯は水も良いからかそれだけで美味しく行けるくらいだった。
 これほどに美味しい海の幸やご飯は土地が生み出した賜物だろう。
 その対面では泉源寺 雷(ja7251)が海鮮丼とかぶす汁を食べていたが、意外な顔をしていた。
「もっと食べるかと思ったが、意外と食わないのだな」
「失礼だな。あなたは私が大食いだと見ていたのか?」
 ぶっきら棒に応える一葉に雷は軽く謝る。
 その後は特に話題を振る事無く、静かに食事を楽しむのだった。

「いただきまーす!」
 船盛を前に水尾 チコリ(ja0627)が元気良く合掌するとお刺身を食べ始めた。
 隣では佐藤 健太郎(jb0738)が氷見カレーにスプーンを突き刺そうとしていた。
(煮干出汁で取ったカレーってのはちょっと気になるな)
 そう思いながら健太郎はすくい上げたカレーを口に入れた。
 煮干出汁で取ったカレーだからか口に入れると、カレーのマイルドな辛さと共に煮干独特のコクが口に広がってきた。
 カレー単体だけでは少し味がきついが、固めのご飯と食べると美味しく感じられた。
 そしてトッピングはととぼちと呼ばれるすり身揚げを団子状にしたものだった。
 ととぼちを齧ると外は揚げられており硬く、中は弾力性があり混ぜられた微塵切りの人参と玉葱が甘くなっていた。
 食べる仕草が美味しそうに見てたチコリはそろーっと手を伸ばしカレーをつまみ食いしようとする。
「って、こらチコ。俺のを取ろうとするんじゃない。向こうに一杯あるんだから自分で取ってきなさい」
 しかし、気づかれ阻止された上に健太郎に諭すように怒られ、しょんぼりとする。
「いいもんいいもん、チコもあとでとってくるもん!」
(というか船盛一つ手出しといてまだ食べるのか……)
 フグのように頬を膨らませるチコリを見ながら、健太郎は内心驚くのだった。

「お、この氷見カレーって美味しい。食べ放題の時って案外カレー食べないけれど、これなら結構いけるな」
 モクモクと色んな海の幸を食べていた桝本 侑吾(ja8758)だったが、氷見カレーに反応して感想を漏らす。
 お代わりを取りに行った時、テーブルにパンフレットが置かれている事に気づいた。
 『氷見カレーマップ』と言うこの街の氷見カレーを創っている店のマップが描かれていた。
 どうやら店によって氷見カレーの味も種類も違っていたりするようだ。
 感心しながら、マップを持って行こうとしていると侑吾の周囲が闇に包まれた。
「……ん。カレーは。飲み物。飲み物。飲料」
 暗闇から声が聞こえた。更にズル、ズル……ズビビという何かを吸い込む音が聞こえた。
 何の音かは判らないがとても不気味な音だった。
「……ん。ココは。戦場。油断大敵。弱肉強食。焼肉定食」
 そして暗闇が明るむとそこにはカレーが入った寸胴鍋を持った最上 憐(jb1522)が立っていた。
 あ、この子見た事ある。学園入口でカレーを飲んでいた子だ!
「……ん。無くなった。おかわり。追加を。全力で。超大盛りで」
 何と言うかリスやハムスターな小動物が頬一杯に食べ物を溜め込んでモキュモキュするイメージが浮かんでしまうが、凄すぎた……。
 お代わりが届くまで憐は別の目標に目をつける。
「……ん。バイキングは。胃に収めるまでが。バイキング」
 そう言って憐は新たな目標目掛けて移動を開始した。それを侑吾は呆然と見るのだった。

「このブリ大根。味の染みた大根がまた格別に美味しいですね」
 去年闇鍋で病院送りになったからか、旅行先で美味しい食事を味わえる事に楯清十郎(ja2990)は感無量で思わず涙が零れそうになった。
 去年の悲しい舌の記憶を消すように清十郎はブリ大根、ブリの塩焼き、味噌焼き、ブリのお刺身を次々と食べていく。
 冬の寒ブリ万歳! そして、口がちょっと脂っぽくなったら、氷見うどんを啜り始める。
「氷見うどんが思ってたより塩っ辛いです」
 いや、多分君が泣いてるからだよね。涙という隠し味が付いているからだよね。
 そんな事はお構い無しに清十郎は氷見うどんを食べ終えると、壁に掛けられた魚の旬が描かれた板を見る。
「春になるとホタルイカとシロエビが美味しいそうですね。今度来る時に期待ですね」
 此処でしか味わえない味覚なのだから大変楽しみであった。
 その近くではヴェス・ペーラ(jb2743)がフグの干物を食べ始めていた。
 皮が剥がされて照かりを放つ肉厚の白身の背から背ビレを引き抜き、骨にそって片身を剥がしていく。
 するとフグの身は簡単に剥がれ、それをヴェスは口に入れた。
 肉厚の食感と共に日に干されて凝縮された美味さが口の中に解れ、程よい甘塩の美味さで引き立てられる。
「美味しいですね。現地の特産品はやはり美味しいですよね……では遠慮なく頂きましょう」
 そう呟くとヴェスはフグの干物を食べ終え、もう一つの干物であるカワハギを食べ始める。
 そんな彼女の隣にはうず高く積まれた船やカレー皿、うどん鉢が置かれていた。
 悪魔だからいくら食べても太らないと言う自信があるからのようだ。……果たしてどうだろうか?

「ハイ、先輩『あ〜ん』なのですヨ〜」
 箸で鰤の刺身を摘み、巫 桜華(jb1163)は隣に座る穂原多門(ja0895)へと差し出す。
 差し出された多門は恥かしいのか顔を赤らめて何も言わずに……口を開ける。
 そんな仕草に桜華は嬉しいのかニコニコ笑顔を浮かべながら味の感想を尋ねる。
「美味しいデスか?」
「ああ、美味いな……。ではお返しに桜華にも食べさせてあげようか」
「では、ウチは甘エビをいただきマス!」
 餌を与えるのを待つ雛鳥のように桜華は目を閉じ口を開ける。
 そんな仕草に多門は心の中で身悶えするが、冷静を装いながら甘エビの頭を外して醤油につけ……口に入れた。
 甘エビの尻尾から身を外すようにチュッと多門の指先を唇が掠めていき、味わい……呑み込んだ。
「ぷりぷりでほんのり甘くて幸せでス〜」
 頬を押さえほにゃりと微笑む桜華だが、多門は物凄く静かだった。
 ……あ、幸せすぎて気を失ってる。食後には目を覚ますだろう。

●遊覧船
「エミルエル、私と一緒で良かったのか?」
「お爺様一人だけでは心配です」
 船室の座席に座りながら、黒兎 吹雪(jb3504)とエミルエル(jb3874)が会話をしている。
 どうやら祖父と孫な関係のようだ。
「友達同士と参加すれば良かったものを……」
 こんな年寄りと一緒に居ても面白くないだろう。そんな意味を込めて吹雪は言う。
 しかし、エミルエルは影を落としながら窓の外から見える海を眺める。
「一緒に行くような友達なんて居ません……。それに、お爺様と一緒に居たいのです」
「……まあ、そなたが良いのならそれでも良い」
 そう言いながら、身を寄せる孫に対して吹雪は静かに頭を撫でるのだった。
 何時か友達と呼べる者達に囲まれる孫の幸せを願って……。

 甲板の上は潮風が当たり、潮の香りが漂う。きっと夏だったら清涼だろう。
 しかし今の季節は冬。運が良いのは少し晴れ間が覗いている事だ。
 青と蒼の水平線を見ながら、桜華は呟く。
「立山連峰観れるでショウか……?」
「観れたら良いが、観れなくてもこれはこれで良い景色だ」
 遊覧船が波を切りながら走った後には白い泡が生まれ、その先には大きな橋が見えた。
 話によると氷見の見所の一つであるらしい。
 そんな時、海風に身体を震わせた桜華が可愛らしいクシャミが口から洩れ、多門が着ていたコートを脱ぎ……彼女へと羽織った。
「ちょっと重いが俺のコートなど暖かいぞ……」
「ありがとですネ……とても、あったかヨ♪」
 ダブつくコートに袖を通し、桜華は多門へと微笑む。
 お礼が恥かしかったのかそっぽを向きながら多門は口を開く。
「その……なんだ。これからも一緒にこうやって過ごしたいな」
 多門の言葉に桜華はきょとんとするが、子供みたいに微笑む。
「ウチも先輩と一緒にいる、好きでス♪ またお約束しまショウ! あ、立山連峰ですネ!」
「ああ、そうだな」
 今は理解出来ていなかったみたいだが、きっと何時か報われる時が来るそう信じたい。

 薄っすらとだが、雪を被った立山連峰が海の向こうに見えた。
 その山々の美しさはきっと快晴だったらもっと美しく見える事だろう。
 そう……青空の中にくっきりと美しく。
 しかしそれでも、学園に来るまで雪を見たことがほとんど無かった円は雪を被った山々の美しさに感動していた。
「ゆ、雪の白さがこれほどまでに山々を綺麗に映すとは……感動で――は、ハクッション!」
 そして雪を見たことが無い円は日本海の寒さに盛大にクシャミをした。
 寒さに身体を縮ませながら船室に入り暖房の効いた室内から外の景色を覗いていると、雪が降り始めてきた。
「綺麗です……」
 ちらほらと降る雪に円はうっとりするのだった。

●広場
 ちらほら降る雪は牡丹雪となり、次第に地面を白く染めていく。
 更に風が強くなり始め、牡丹雪は外を歩く者達の身体に張り付き身体を冷やしていく。
 そんな雪の広場で鐘をガンガンと鳴らす一団が居た。
「この結婚式場はしっと団が占領したァー!」
「しっと団参上! 桃色な奴らは許さねぇぜ!」
 花梨率いるしっと団の面々だった。
 何か身体が震えて、雪が張り付いているが心には炎が燃えているから平気なのだろう。
「何じゃしっと団と言うのは? 奉仕活動の親戚かのう……ところで、我は物凄く寒くて眠いのじゃが」
 状況が理解しておらぬナレルは弾ける花梨を冷ややかに見詰めながら……眠りの世界に落ちかける。
 遭難者が1人居ます! 助けてください!!
 しかも雪が酷いから遊んでいる親子連れとかカップルは市場の方に行っちゃってるよ!
 だけど所構わないのはしっと団!
「さぁ、立ち上がれ、全世界の非モテ達!」
「てめぇらだけ彼女が出来るなんて可笑しいんだよ! リア充は成敗してやるぜ!」
 花梨が叫び、ガルが空想のリア充に向けてハリセンを打ち込む。
 晴れていたとしてもあまり近づきたくない集団だ。
 その近くでは恭也がにこやかな表情でハリセンを手に立っていた。
 あれー、何か1人だけちゃっかりコート羽織ってませんかっ!?
 そしてガルが叫びながら防波堤近くまで走ると、日本海の荒波が防波堤にぶつかった。
 直後、防波堤の隙間を通り荒波はガルの眼前で吹き上がった。
「こんな目に遭おうとも! 俺は俺に彼女が出来るまで基本しっとしてやる〜! 覚えてろチク――えくしっ!」
 豪快なくしゃみが出た。寒い中で海水を被るから一気に寒くなったのだろう。
 吹雪く中、しっと団の決起を行う花梨。天使なのに天使が迎えに来そうになっているナレル。体をずぶ濡れにしてガクガク震えるガル。
「はしゃぎすぎです」
 そんな3人へと、恭也がニコニコ笑顔のままハリセンで頭を殴りつけるのだった。

●海鮮市場
「実家に送るのは……かまぼこで良いか」
 呟きながら将太郎はかまぼこが売られている店に入る。
 そこには食紅で色がつけられた蒲鉾を使い細工を行った、鯛などの飾り蒲鉾や昆布で巻いた蒲鉾。
 変り種のベーコン巻やチーズ巻といった蒲鉾。
 普通の地域で見かけるような形の蒲鉾とは違った珍しい種類の物がたっぷり並べられていた。
 試食用の蒲鉾チップスを味見しながら、彼はお土産を決め始めるのだった。

「リネット。こっちの乾物も良いのではなくて?」
「はい、物凄く美味しいそうですね」
 鮮魚フロアを歩きながら、瑞穂とリネットは品定めを行う。
 そして今2人が見ているのは干物を取り扱う店だった。
 ホッケやカマス、イカやブリ。色んな種類の乾物や干物や一夜干、燻製や塩辛が店内には売られていた。
 その中から幾つかの種類を見繕い、リネットは会計を進める。
 それらがどんな味かを期待している瑞穂へと期待に沿えるようにリネットは言う。
「帰りましたら、腕によりをかけて調理させて頂きます」
「帰ってから暫く楽しめそうですわね。期待していますわよ?」
 仰せのままに、そう言ってリネットは袋に入った商品を受け取るのだった。

 その近くでははくあが腕を組みながら真剣に悩んでいた。
 隣では観光目的の雪宗が鮟鱇をまじまじと見ていた。
「これが鮟鱇ですか〜丸々みるのは初めてですが……キモ美味しそうです」
 深海魚の一種だからか、茶色の肌に口は凄く大きく歯がギザギザしていた。
 観賞し終え、雪宗は別の所に歩いて言ったと同時に。
「むー……結構張るけど……旅行でお金を考えるのは負けなのです!」
 決心し、彼女は鮮魚店の店員へと寒ブリと鮟鱇を大量に注文をした。
 頼みながら、クール便を使い自分が所属しているクラブ等に贈って貰う様に依頼した。
 買い物を終えて満足していると、後ろから話しかけられた。
「あれ、氷月さん。買い物ですか?」
「あ、楯さん。はいですよっ、皆にも美味しい味を知ってもらうのですよっ」
「それはいい考えですね。海鮮市場と聞いて魚や野菜だけかと思ってましたが、洋菓子まであるんですね。バラを使った四角いシュークリームなんて初めて見ましたよ」
「それは興味深いですよーっ」
「それでは買ってフードコートで食べてみますか?」
「はいですよー」
 そう言って2人は店へと向かうのだった。

 鰯、秋刀魚、シシャモ、鯵、カマス、鯛、蛍烏賊、鱚……色んな種類のみりん干しが箱の中に入れられ、店頭に並べられていた。
 それを侑吾は、試食しながら見ていた。
「……買うのは良いけど、焼くの面倒臭いな……お?」
 そんな侑吾の目に付いた物があった。焼かずに食べる事が出来るみりん干しだった。
 それを思わず購入し、後ろを見ると焼かずに食べれるが焼いたらもっと美味しくなるという説明だった。
「ま、たまにはやってみるか」
 近くではヴェスが鯵のみりん干しを購入していた。
 小鯵が捌かれ開かれた物が幾つも重なり合い、白ゴマが降られていた。
 焼いた物はきっとカリカリだが甘くて美味しいだろう。
 期待しながらヴェスは別のフロアへと移動していった。
「寮の皆にお土産でも買っていくか」
 考えるや否や、彼はそのまま土産売り場へと歩き出すのだった。

 フードコートには幾つかの店が並んでいた。
 洋食、ラーメン、ジェラート、丼の店があり、それらの店の食べ物を制覇すべくネピカは無心にモリモリ食べ続け、近くの席では憐が洋食屋の氷見カレーを飲んでいた。
「お〜! 食べるものがいっぱいなんだよ! いっぱい食べるねだよ! もぐもぐ……」
 伊達眼鏡を外したエルカが容器に笑いながら、ラーメンを食べる。
「ニャ!? 地酒のジェラート!? 食べるニャ〜☆」
 アヤカが売られている地酒のジェラートに目をつけ、注文したそれを食べる。
 見た目は普通のミルクジェラートなのだが、ミルクの味わいの中に日本酒の風味と味わいが広がって行き普通とは違った味わいを生み出していく。
 同じ様に地酒ジェラートを味わっていたラルは簡単に食べ終えると店へと再び歩き出した。
「美味しい……コレ、もう1個……」
 そう言って、受け取ったジェラートをまた受け取ると食べお代わりを求め始めようとしていた。
 ジェラートを美味しく食べている者達の中で、牛図はたこ焼きを何舟も食べていた。
「デビルフィッシュ! ……凄く美味しいです!」
 外はカリカリ、中はトロトロそんな8個入りのたこ焼きを幾つも食べていく。
 バイキングで食べたのにまだ入るようだった。

 本館といったフロアから少し離れた人工の小高い丘の上には足湯があり、訪れた観光客を足から暖めてくれる。
 こじんまりとした中は扉を開けると湯気が舞い上がり、暖かい温泉が少ないが溜められていた。
「腹いっぱいでまったり足湯とか最高だなー……修学旅行万歳……」
 芯まで温かくなりそうな足からの温かさに健太郎は気持ちよい溜息が洩れる。
 隣ではチコリが幸せそうにジェラートをもぐもぐ食べていた。
 しかし何も食べていない健太郎に気づき、視線を食べかけのジェラートに向ける。
「うーん……うーん……」
「ん? どうした、チコ?」
 見えない何かと戦った結果、スプーン代わりの小さめのコーンにジェラートを少し取ると躊躇いがちに差し出した。
 そんな彼女の行動に健太郎は眼をパチクリさせる。
「サトケンちゃんも、たべる?」
「へ、くれるのか? はー……お前が食い物を分けてくれるなんて珍しいな……」
「誰かと一緒に食べる方が美味しいの、たぶん」
 それはきっと素で言ってるのだろう。珍しいチコリの行動に腹ペ娘のイメージが過ぎりながら、健太郎は微笑む。
「折角だしもらっておこうか……あーん」
「どう、美味しい?」
 もぐもぐと食べる健太郎を見ながら、チコリも笑うのだった。

 空から降る雪を眺め、その儚さに想いを寄せていた一葉だったが足湯に向かい始めた。
「烈堂、よかったら足湯で食べないか?」
 そんな時、差し入れとしてジェラートを持った雷が近づいてきた。
「ああ、それはいい――なぁっ!?」
 そんな時、踏み固められた雪に足を滑らせ、一葉が前のめりに倒れてしまった。
 氷が無いから油断してしまったのだろう。
 その結果、彼女のパンツを雷は目撃してしまった。
 とってもファンシ〜なクマさんだった。
「……下着が見えているぞ、烈堂」
「……パンツの柄の事は誰にも言うな、いいな?」
 黙っておけと言う要請に雷は何も言わず首を降るのだった。
 それから暫くして、足湯の温かさに一葉は眠りの世界へと誘われた。
「ああ、あの時は……大変だ……った」
 眠る一葉に肩を貸しながら、身長差を感じながら改めて認識する。
(……烈堂も女なのだな)

 こうして、きときとな学生27名の寒ブリを味わう修学旅行は終わりを告げた。
 氷見の料理の美味しさや景色の美しさが、日々の戦いを忘れさせる事が出来たかはわからない。
 しかし、今この時だけは……彼らに精一杯の休息が与えられた事は間違いないだろう。
 そうして……氷見での修学旅行の一日は過ぎていくのだった。









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