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知床観光 流氷ファンタジー タグ:【知床】

●砕氷船
 ここは知床半島オホーツク!
 北海道は2月が寒さのピーク迎えるここでは、茫洋としたオーシャン・ブルーに真っ白な大流氷群が広がる。絶景かな、絶景かな。がとにかく
「‥‥寒い」
 砕氷船はその乗船場に到着するやいなや、影野 恭弥(ja0018)は白い息とともにそんな台詞を吐き捨てた。
 厚手のジャケットは着てきたものの、周囲の客人たちは皆ひざ下丈のダウンコートである。だがま、いんだけどね、とひとたび船に乗れば双眼鏡片手に海の風に吹かれるその姿をクールに決める。
 しばらくの後船底がゴリゴリという音を立て始めれば、周囲の海面に流氷ひしめき合う光景が広がった。
 船内販売より買い得たサンドイッチを食みながら、恭弥は携帯電話のカメラにその光景を収めていく。
「カメラっ? 撮影よろしく」
 その横より突然顔を出したシェールュ・ルュー(ja0214)。鉄策を跳び越え下に落ちると、一際分厚い流氷の上にふわり降り立った。
「りゅーっ、ひょーっ、だーっっしゅ!」
 そう叫ぶとフィギュアスケーター顔負けの大ジャンプ、大回転を見せ、氷上を華麗に舞ってみせる。がしかしどやぁ、とばかりに振り返るも、恭弥は素知らぬ顔。カメラははるか遠方を捉えている。
彼女がなにゆえー? と問うても返答は
「さして珍しいもんでもないしな」
 あっさりとしたものである。
 だがそんなことは気にしない、のシェールュ。海面に島のように浮かぶ流氷の上をぽんぽん跳び越え渡っていく。
 その光景に驚いたのが他の一般乗客たちだ。皆次々にカメラを向ける、がそのタイミングでシェールュは流氷の継ぎ目に真っ逆さま。
 乗客の心配もよそに氷上に舞い戻った彼女は何事もなかったかのように、知床の海を撃退士らしさ(?)全開で渡って行く。
 そうして恭弥が遠くに見つけたアザラシの赤ちゃんを存分に撮影し終え、食後のホットコーヒーもすっかり飲み干した頃。
 甲板に戻ってきたシェールュの髪の毛はカチコチに凍りついていたのだがしかしやはり
「お腹すいたー、ごはんー」
 気にしてない風な彼女であった。
「お土産どうですかー?」
 そこで再び戻ってきたのが船内販売のワゴン車だ。
 お土産を悩む風でもなく手早く選んでいく恭弥。対しシェールュは何を買って食べたらいいのか、と大いに悩み抜くのであった。

●寒中ダイビング
 時刻は昼時飯時を迎え、ところ少し変わってここはとある魚市場。
 撃退士一行様歓迎と書かれた旗はためく中型漁船が、沖の手前を航行中。流氷をごく近くに望めるところまで来ると漁師は船を停め「あい、いーよー」と後ろに向かって声をかける。
 甲板ではすでに準備を終えてる者、これからという者さまざまであったが
「海の幸が私を呼んでいる‥‥」
 いの一番に飛び出したのが雫(ja1894)(シズク)である。全身をダイバースーツに着替え背中には酸素の入ったボンベ。彼女の身体に14リッターサイズはちょっと大きいみたい。だが気にせず水かきはめた足でいざ船外へざぶん、と海に飲まれる。
「ダイビング初めてだけど、真っ青な蒼の世界! 楽しみだな!」
 海に潜るのは初体験、のヴィオレット・N・アーリス(jb1985)。いささか緊張気味であったがここまで来たからには「せっかくなので精一杯楽しませて貰おう」と意を決し銛を片手に飛び込む。
「知床‥‥北海道東部からオホーツク海に突出している半島で、名前はアイヌ語の『シレトク』が由来、意味は『地山の先』‥‥でしたっけ」
 字見 与一(ja6541)は準備運動の最中にそんなことを考えながら、一人ぼそりと呟く。
「あらぁよく知ってんねぇ、兄ちゃんまだ若いのに」
 漁師の感心に与一はこれでも物書きですから、と答えると彼は躊躇いなく海に消えた。
 その後ろでラヴ・イズ・オール(jb2797)が
「しれ、とこ。しれとこのう。‥‥しかしなんじゃ皆して」
 そんなけったいな格好をしおって、そう首をひねる。
「じゃがこの先に温泉があるんでは、行かねばなるまいて」
 何か勘違えしてないかと漁師が「おーい」と止めるが時すでに遅く、装備完了のちラヴは海に飛び込んだ。
「騙されたのじゃぁあああ!」
 真冬の海がその絶叫ごと、ラヴの身体を攫う。
「ボンベ残圧確認よし! ボンベ背負う! 水面確認よし!」
 ちょっとした騒動の脇で、海保さながらに装備を整え指さし確認も怠らないは新田原 護(ja0410)。
「ダイブ!」
 銛を携えイン・ザ・オーシャン。入水の仕方にも無駄がない。
「どのあたりがポイントになるのでしょう」
 食材狙いの鷹司 律(jb0791)。 漁師にあっちでもない、こっちでもない、と方角を教えてもらうと、次に同じくらい重要な敵の出没箇所含めた情報を求める。
 皆がダイビングを楽しむためにも見回り役は必要だよね、と得られたものを頭に詰め込みいざー。両手を広げて海中へ。
 その後ろに控えていた雪風 時雨(jb1445)
「(北海ダイビング。常人が沈めば数秒で心臓麻痺。これは獲れる物なら獲ってみよという我ら撃退士への挑戦と見た)」
 ならば全力で受けて立つのみ! と海に向かって吠える。
 そんな彼を引き留める漁師。
「兄さんさっきクジラがどうのこうの言ってたけど、ここいらで変なことやらかすと一発国際問題になるから気ぃつけてな」
 だがしかし
「ぬかりはしない」
 時雨は海に消える。
「寒中水泳や素潜りはお手の物! 待っているで御座るよ〜高級食材〜!」
 静馬 源一(jb2368)は持ち前のテンションの高さで元気いっぱい、明るさいっぱいに飛び込んだ―――が音もなければ飛沫も上がらない。何事かと漁師が船の下見やればそこには海上をたたーっと渡って行く源一の姿。そして魚影発見すればすかさず、それを網でひょいひょいと掬い上げていく。
「寒いです! ですが高級食材の為なら!」
 そして彼の為なら氷の海の中だって、氷雨 静(ja4221)は慣れぬスーツ姿に四苦八苦しながらもどうにか装備完了して自身に気合を入れる。
「行きましょう」
 そんな静の手を取り龍仙 樹(jb0212)。身体強張らせる彼女に「肩の力を抜いて」と声掛け、そうして二人は仲良く海へのダイブを果たす。

 身を切るような冷たさを越えて―――。
 この日のオホーツク海は視界良好で差し込んだ日光が海底を明るく照らし、その美しい姿には一行の誰もが目を奪われた。
 どこからかやってきたイワシの群れが、頭上を駆け抜けていく。
 これほどまでに贅沢な水族館他にあろうか。
 日の光は流氷の裏側を青く光らせその美しさもさることながら、合間合間から差し込んだそれはさながら天国の階段のよう。
 今まで見たこともない光景を目にした律は泳ぐのを止め、時が止まったかのような瞬間を目の奥に焼き付ける。
 そのすぐ傍を遊泳していたヴィオレットもまた、無知ゆえの喜びに浸った。
 だが直後肩をつつく者があり、振り返ればそこにいた護が遠くを指さし何かを伝えようとしている。
 その指の先にあるもの目を凝らしてみれば、巨大なイクラに尻尾が生えたような不可思議な生物が何匹かゆったりと近づいてくる。
 その生物は一行の前までくると突如頭をパカッとまるで卵の殻を割るみたいにして開き―――中からニョロリ、と伸びた無数の触手がヴィオレットの身体を捉えた。
「(敵じゃ!)」
 ラヴが三人が交戦中であることを周りにジェスチャーで知らせると、雫が「(邪魔はさせません)」と向かっていく。だがその手の中には捕まえたばかりの毛ガニを離すまじとしっかりと。
 離れた場所で海底の調査に当たっていた与一にも、流氷の天使ならぬ悪魔の触手が襲いくる。だが彼はそれらを態よくあしらうと、去る者は追わずに再び遊泳と散策に戻っていく。生態系を本に記す必要があるのだ、そんなものにかまけてる時間はない、と与一は移り行く景色はそのひとつひとつをしっかり記憶していく。
 その後ろでは時雨が、広げた網でトロール船ばりに海底にあるものみなを攫っていた。
 だが敵のクリオネは物質透過により、その網から確実に漏れ出ている。
 護が水中銃放てば、雲丹を頭に括り付けた雫がそれを切り捨てる。
「(邪魔です」
 静の攻撃に続いて樹も弓銃で応戦、海中戦が展開されていく――のだがしかし高級の二文字がつく食材求める撃退士たちの前に敵はなかった。
 浮かび上がってきた者は源一が串刺しに。良いお土産になるぞ、と喜んだのもつかの間。その身体は日の光にあぶられデロリ溶けて海中に沈む。

 楽しい海の時間を終えた一行は市場へと戻り、出迎えた婦人会の人々が起こした炭火に冷えた身体を温める。
 各々今獲ってきたばかりの食材を持ち寄りそれを金網の上に乗せれば、煙と香ばしい匂いに腹の虫も鳴るというものだ。
 酷い目に合った、とヴィオレットがそしてラヴが泣きそうな表情を浮かべていると、そこに雫が蒸しガニをおすそ分け。自身は白飯の上にトロリとこぼれそうなほどのウニ丼を楽しむ。
 律もまたスケトウダラの鍋をつつきながら、舌鼓を打っている。
 その傍では静が自家用のタレに漬け込んだマリネ風サケの刺身を「はい、樹様。あーん」と彼の口に運ぶ―――そして誰もが食事に夢中になってる隙を狙って、樹は「ありがとう」と彼女の頬に軽く口づけるのだった。
 そうして
「お願いするのでござる」
 源一にデジカメ渡され撮影を頼まれたご婦人がそのシャッターを押せば、一行の楽しい時間はパシャリ切り取られたのである。

●オーロラ・ファンタジー
 満天の星空。ここは雪の上というかもはや氷の上。自然公園にてレーザー照射によるオーロラを待つ一行、とその他一般客。
 そのあまりの寒さに人々が吐いた息は白く天にも昇る勢いで、狼煙なんて必要ないんじゃないかってくらい。
「ぐ‥‥流石四季の国日本。二月の北端ともなれば、薄綿のコート一枚じゃ寒いな」
 八幡 叶(jb3941)が身体を震わせ両肩を抱く。
「流石に冷えてるね。温かい物飲んで温まっておこう」
 どうぞ、とそれまで星空を眺めていたソフィア・ヴァレッティ(ja1133)が、叶に持参した温かいスープを勧める。
 すぐ傍で紅葉 公(ja2931)が
「今年もこの季節がきたのかと実感だな」
 片目細めて苦笑った。
 どうやら照射の前にちょっとした余興があるらしい。だがあまりの人だかりに良く見えない。
「(楽しみなのですワ」」
 ミリオール=アステローザ(jb2746)は極光翼広げ空を飛び、観衆の頭上から胸躍らせながその時を待っていた。
 ティア・ウィンスター(jb4158)もまた同じくして会場に流れるアナウンスを背に空を飛び、暇持て余し気味ながらもオーロラとはいかほどのものであるのか、と強い関心を示しているようだ。 
 その下では渡瀬 渚(ja7759)がレーザー射出機を目に収めることは出来まいかと、背を伸ばし見るも雪に隠された装置の詳細を確認するには至らない。
「う〜‥‥やっぱり寒いなあ」
 最前列にて龍炎(ja8831)がそんな一言を漏らせば、傍にいた詩道 彩女(ja7811)が手を伸ばし「こうすれば暖かいよ」と二人は重なり合った手を繋いだ。
「しばれる、ね」
 防寒着着込んだエコーズ(jb3271)は、連れのフィルウ・ルー(jb3684)とともにその時を待つ。
 フィルウが編んだちょっぴり目の粗い橙色のマフラーが、お互いの首に巻きつき二人の距離を縮めている。
「うん、美味しい」
 笹鳴 十一(ja0101)はアンネリーゼ カルナップ(ja5393)が注いでくれた彼女自慢の紅茶に、にっこりとほほ笑んだ。
「リーゼがしっかり考えてくれたってわかって、いっそうあったまるよ」
 さりげなく距離を縮めてくる十一に、アンネリーゼは頬赤く染めちょっぴり照れくさそうだ。
 そこから少し離れた場所を、桐原 雅(ja1822)(キリハラ ミヤビ)が久遠 仁刀(ja2464)と腕組み歩いていく。
 二人がベンチに座ったところで、狼煙は上がり荘厳な音楽とともにファンタジアの幕があけた。
 原色のレーザー光線のいくつもの束が、それぞれまじわり醸し出すオーロラの美。人工のものなれど夜の闇と狼煙の白を背景にした光のアートはどこまでも幻想的に、人々の目の奥を輝かせた。
 だがその限りある夢の光景はどこか儚げで、雅は横に居るはずの仁刀をどこか遠くに感じ―――それがなぜなのかを考えるよりも先に
「‥‥仁刀先輩は、どこに行ってもちゃんと帰ってきてくれますよね」
 そんな言葉が口をついて出ていた。
「負けるのは嫌なんだ。弱い自分が弱いままでいることが何より怖い」
 バカだな、と叱ることできたらどんなにか幸せだろうと思いつつも、仁刀は雅に自分の気持ちの正直なところを伝えるしかない。

「まるで砂漠の空ね‥‥」
 砂原 小夜子(jb3918)はファンタジアの上にも広がる冬の星空に、懐古のひとときを見出していた。
 一つのベンチをともにする仁科 皓一郎(ja8777)に「あれが冬の大三角形‥、スバル座も見えるわ」と指を差し教えていく。
「へェ、お前さん、物知りだねェ‥星座、気にしたコトなかったが」
 それまでぼんやりとファンタジアを眺めていた浩一郎だったが、小夜子に食指動かされ彼女の指先を目で追う。
 続いて星座はなに? と訊かれて答えれば
「双子座ならちょうど見える季節よ」
 小夜子がほら、と指を差す。
「私の星座は見えないの」
「それじゃ代わりに」
 浩一郎が星座に譜面を起こせば、星の瞬きも弾ける音の雫。
「静謐な中に垣間見える激情‥勝手なイメージだがよ」
 その言葉に小夜子は小さく微笑み、彼女は浩一郎の傍らでゆったりとした時間を過ごすのだった。

 そんな甘いムード漂う輪の中に、ちょっと違った雰囲気纏うはノーチェ・オリヘン(jb2700)、キャロライン・ベルナール(jb3415)、ベティーラ・トワイニング(jb3554)の三人衆である。
「まぁ、なんて素敵なんでしょう」
 手を合わせ両目瞬くノーチェ。旅行前に学園の図書館で下調べは済ませていたものの、良い意味で聞くと見るとでは大違い、と胸にこみ上げる感動を素直に表現する。
「再現力すさまじいなっ」
 そんなキャロラインの傍でベティーラが
「やだぁーめっちゃオーロラ綺麗なんですけどー」
 みたいな? と周囲を省みないはしゃぎっぷりを見せる。
「ツン子も初めて?あたしも初めて見たー! まぢ感動的ー」
 きゃぴっと、語尾に今時文字がくっつきそうな勢いで、
「おい、ギャル子よ。あまり騒ぐと周囲の者に迷惑が‥‥と、う‥なんだこの甘々なムードはっ」
 やっと周囲と自分たちとの温度差に気づくキャロライン。
「甘いムード‥ですか?」
 ベティーラが携帯電話のカメラ機能を連射モードに写メりまくってるのをそれまで興味津々に眺めていたノーチェだったが、キャロラインの言葉に周囲を見渡し首をかしげる。
「え、私たちってもしかしてお邪魔虫? ありぇなーい、オーロラだけに(ピンクな)オーラって感じぃ?」
 途端、ベティーラ発冬将軍顔負けのブリザードが吹き荒れる。
「さ、寒いことを言うなっ ギャル子!」
 氷点下軽く下回るとこまで落ち込んだ温度計のメモリを押し戻そうと、キャロラインはファンタジアについての疑問をノーチェにぶつける。
「本によると確か‥‥」

 レーザーアートも終盤にさしかかりフィナーレへと向かうそれは、いよいよもって大がかりなものになっていく。
「なるほど‥天然モノじゃなくっても中々だねぇ」
 感心を示し頷く十一。その傍でアンネリーゼは、胸の内で自分の今までを振り返る。
「(こんな自分初めて‥‥私も丸くなったのかな)」
 美しいものを素直に綺麗と思える、それは誰のおかげ?
 十一の横顔を見やり、クスッと笑う。
「どうした?」
 それに気づき尋ねる十一に
「ううん、幸せだなぁって」

「中々綺麗だね」
 ソフィアは携帯電話のカメラを起動させると、光の糸が紡ぐ幻想的な光景を切り取っていく。
「本物もこんな感じなのだろうか」
ソフィアの横で公がいつか見てみたいもんだな、との言葉を漏らした。
「‥‥‥」
 渚も最初はただただ感動するばかりであったが次第、脳裏に自分が失った者のことを思い気が付けば下を向いていた。
 ―――強くなろう、撃退士として。そしてこれからを守る。それが自分に与えられた使命である、と固く胸に誓い。渚は再び顔を上げる。
「お父さんもお母さんも、お空の上から、このオーロラを見てますかぁ? とっても、きれいだねぇ〜」
 人々の輪の中袴姿でいた深森 木葉(jb1711)もまた渚同様亡き人を想い、胸いっぱいに広がる感情のやり場を求めていた。
 こんなに美しいならばやはり愛するヒトたちと見たかった、と思い募らせるがヒトの性と情―――。
 木葉は泣き笑う。
 観客の一人が差し出したハンカチを「ありがとうございます」と受け取り、彼女は涙を拭いた。
「私たちにできるのは、忘れないことだけだよ」
 女性はそれだけ言って後ろを向いてしまったが、その目に光るものを見た木葉は「(でもやっぱり寂しいよ)」との言葉を胸の内だけに留める。
 その涙は凍てついた風に攫われて。
 小さな氷の粒がきらきらと輝いて、夜の闇に消えていった。

「綺麗、でもちょっぴりがっかりなのでしたワぁ」
 肩すかしとばかりにそんなことを呟きながら、空から戻ってきたミリオール。
 彼女が翼たたんだちょうどその時、舞台は終幕を迎え大勢の拍手が沸き起こる。
「あら、もう終わりなのね」
 ティアもまた物足りなさを感じていたようで、少し残念そうな表情を浮かべている。
 しかし彼女が背を向けた、ちょうどその時だった。
「?」
 いつまでも鳴り響いていた拍手はピタリと止み、それまで頭の高さまで上がっていた人々の白い息が消える。
 静寂の中皆何かに目を奪われているように見え、ティアは後ろを振り返った。
 そこに広がっていたのは、恐らくそこにいた誰しもが一度も見たことのない景色。
 玉虫色に輝く淡いエメラルドグリーンの光。一粒が集まり一筋となり一筋は織物のような一枚の布に変わって、それは風に揺らめくカーテンのように人々の頭上に降り立った。
「‥‥‥なんて綺麗」
 気が付けばティアは、そこに手を伸ばしていた。だがそれは決して届かぬ虹のような存在であることに気が付き、自然美を確信する。
「わたしじゃまだ全然、ぜんっぜん敵わないのですワぁーーーーっ!」
 思わず再び上空へと飛び出したミリオール。
「素晴らしいですワー」
 感動に翼震わせ嬉しそうに、いつまでも舞い踊るのであった。 

「It's so cool!」
. いやこれは素晴らしい、口笛を吹き手を叩く叶。
「本物が見られるなんて、凄く運が良いね。しっかり記憶に残すのはもちろんだけど、画像や映像でも残しておこう」
 ソフィアがその言葉通りに、デジカメ取り出しそれを空の先に向ける。
 公が「後で移させて」と願い出ればOK、とソフィアは目線を画像と現実とをいったりきたりさせるのだった。

「すごい、すごい綺麗っ」
 ねっと雅が顔を仁刀の方に戻せば、彼は何故か顔赤くしている。
「どうか、した?」
「い、いや‥‥」
「来年もまた来ようね」
 にっこりとほほ笑む雅。仁刀は「ああ、そうなるといいな」と返しながらもやっぱりまだ顔赤い。
 美しいものを美しいと思う、そんな貴方が何より―――なのは古今東西、種族を違えずなようで。
 煌めきを瞳に映し言葉を失ったままのフィルウを見て、エコーズは普段自分が年下に見られることは嫌じゃないにしろ、彼女は自分より年下なのだなあと改めて思う。
 またフィルウも視線空に戻した彼を見て、自分の好きと思う気持ちがいかなるものであるのかを自身に問う。
 だがしかし二つのオーロラの美、それに本物も偽物もないように。
 自分の気持ちもまた―――とフィルウがエコーズの頬にちゅっと口づければエコーズは一瞬驚いたような表情を見せ、次の瞬間彼は青年の姿に戻るとそのお返しに彼女と同じものをプレゼントするのだった。
 ―――大好きだよ、と甘いひとときが過ぎていく。

 嬉しいハプニングも永遠には続かない。どんなものにも終わりはあって、平素の姿取り戻した会場内に残る人影はもうまばらに。
「楽しかったわ、ありがとうよ」
 浩一郎が小夜子の肩に上着かけ、そのポケットから取り出した砂時計を彼女に渡した。
 その一粒一粒には星の砂が使われており「砂漠も星も、好きみてェだしよ‥‥両方やるわ」そう言って笑う。
「ありがとう、浩一郎さん」
 小夜子もまた口の端を緩め、二人はその場をあとにした。

 その後方行く彩女が、横歩く龍炎に身体を寄り添わせる。
「ぇへへ、綺麗だったね」
「そ、そうだね」
 愛しいヒトの体温を布越しに感じ龍炎は一瞬ちょっと慌てたが、でも
「彩女、こんな彼氏だけどこれからもよろしくね」
 大切な想いをはっきりと伝える。
「私‥‥今一番幸せ♪」
 彩女はとても嬉しそうに、二人もまた帰路を仲良く歩いていく。

「ックシ」
 何回目かのくしゃみ、鼻を啜る叶。
「旅行先で風邪とか、子供みたいじゃないか。笑えない」
 と足早に、一歩先行く公やソフィアたちを追いかけていく。

 こうして彼らの修学旅行な一日は、過ぎていくのであった。









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