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古き鐘の音が響く町で食べ歩きツアー♪〜 タグ:【小江戸】 MS:ユウガタノクマ

●撃退士ご一行様

 総勢40数人の撃退士達を乗せ、バスは高速道路を北上する。
 目指すは小江戸、川越である。
「よかったらご一緒しませんか?」
 物見 岳士(ja0823)は隣の座席に座るアルクトゥルス(jb2305)に語りかけた。
「……ナンパ?」
「い、いえいえ。隣に座った誼です。袖振り合うも何とやら、ですよ」
 岳士は冷や汗を流しつつ慌てて否定した。
「一期一会、って奴?」
「はい。実を言うと父親の勤務地が近いもので、この辺りは若干土地勘があるんです。軽いガイドぐらいはできますよ?」
「うん、まぁそれも悪くないかな。どれ、それならお姉さんが付き合ってあげよう」
 こんな一幕がありながらもバスは川越ICを降りて国道16号線を進む。そして一同は小江戸の地に降り立つのであった。
「さあ、みんな!」
 バスを降りた猪狩 みなと(ja0595)は【学食会】のメンバーである岳士と九条 穂積(ja0026)を前に大仰に言い放った。
「これからは各自自己責任で行動することー。
最悪バスに乗り遅れてもそこは埼玉、自力で適当に帰ってくるように。以上!」
「ずいぶんいい加減なんだな」
 アルクトゥルスは苦笑いを浮かべた。
「さて、まずはどうエスコートしてくれるのかな?」
「そうですね……やはり川越と言えばさつまいも菓子と鰻、ですね」
「あたしはとりあえず鰻食べたいわー」
 穂積はハイ、と手を上げて言った。
「あの鰻のタレと一緒に焦げる匂いとかごっつ好きやねん。で、それが終ったら菓子屋通りと和菓子!皆の者、腹のすき具合は充分か?」
「あれ、づみちゃん。恋結び神社行くんじゃないの?
恋愛成就お願いするんじゃなかったっけ?食べ歩きしてると時間なくなっちゃうよ?」
 それに対し穂積は、
「あーあー、聞こえへーん。そんな意見は受け付けんでー」
 耳を塞いで空とぼけるのであった。
 その一方でアルクトゥルスは「ふぅむ」と考え込む。
「その国の古都に来たなら伝統菓子とか料理を食べるのは基本じゃないかな?
どうせなら両方味わいたいものだけど……」
「ああ、それでしたら確か菓子屋通りの入口に鰻と芋御飯を組み合わせた料理を出すお店がありましたね。お昼はそこにしますか?」
「お、ええね。その後は菓子屋通り行こうや。お嬢様のために色々お土産買うて帰る!」
 岳士の提案に穂積はみなとの言葉を忘れるように明るく努めて答えるのであった。
「私は人力車にも乗ってみたいな。蔵造りの和風建築とモダンな洋風建築が織り交ざった街並みはなかなか飽きないと思うぞ」
「2人とも、割と好き勝手言いますね……まあ、いいです」
 様々に出される要望をコースとして纏めながら、彼は一つの結論に達した。
 なるように、なれ。
「まずは芋系の和菓子でも買い食いして、適当に歩きましょう。時間はたっぷりあるんですから」

●蔵の街巡り・前編

 食堂 駿一(ja0393)は「わぁ……」と感嘆の声をあげた。見上げるのは西洋の建築物のような旧国立銀行。
「こういう昔からの古い建物を大切に保存しているのって素晴らしいですね」
「……たしかに」
 フランクス スマートリー(jb2737)は銀行の隣にあるお店から買ってきたお饅頭を口にしつつ、駿一の言葉に頷き返した。
「……人の歴史を旅行すると、色々なものが見えてくる」
 そこで一息つくと、彼は懐から何かを取り出した。
 それは川越の歴史観光ガイド。
「……腹が減ったな」
 彼は手に残ったお饅頭を口に放り込むと「まだまだ足りない」といった様子でページを開いた。
「あ、えっと……で、でしたら……今度は菓子屋通りのあるところまでいきませんか?
その間に何件かお店をはしごすれば、お腹も膨れると思いますよ」
「……鰻が食いたい」
 フランクスは観光ガイドのうち「お食事ガイド」のページを開く。
 駿一はおどおどとページの一部分を差した。
「あ、じゃ、じゃぁ……ここを目指しましょうか。和菓子屋さんが途中にたくさんありますよ」
 こうして駿一とフランクスは並んで目的地へ向かう。

 蒼井 御子(jb0655)は道路に並ぶ蔵造りの街並みに感動しながらトコトコと適当に歩き回っていた。
「あ、お酒屋さんだ。おねーちゃんお酒好きだったなぁ」
 今は連絡先となっている私書箱だけが、彼女の姉と唯一やりとりできる場所となっている。
「きっと、プレゼントだけなら、受け取ってくれるよね」
 そんな淡い期待を込めて彼女はガラス戸を開けて中に入った。
「あ、地ビールもあるんだ」
 小さなビンにホップの花をあらわした紋がプリントされたラベルを興味深く眺めている御子。
 と、どこからか視線を感じた。
「……ありゃ」
 店員である。
 当然といえば当然だが、彼女はまだ高等部3年生。さらに言うと彼女の見た目は10歳ぐらいにしか見えない。
「いくらボクでもこの外見で買おうとは思ってないってば……!」
 そう言って店員へ必死に弁明するのであった。
「あ、でもチラシ、貰っていい?ホームページが載ってるのがあれば、嬉しいなぁ」

「改めてこういう所の観光もいいわね」
 桐村 灯子(ja8321)は隣を歩く柊 太陽(ja0782)に話しかけた。
「ああ、そうだな。それに……」
 太陽は一度だけちらり、と灯子の姿を見るとすぐに目を逸らした。
(あー、やべぇ。俺の嫁が可愛すぎて困る)
 灯子は今身につけているのは矢絣の小袖に紫色の袴、そして足にはブーツという姿である。
 ちなみに太陽も今は着流しにマント、そして頭には学生帽というスタイルだ。
「それに……どうかした?」
「あ、いや……」
 灯子の問いに太陽は慌ててみたらし団子に齧りついた。
「やっぱりこういう和菓子も、日本らしい味で美味しいな……灯子もこれ食う?」
「いいの?ありがとう」
 灯子は彼が差し出すパックからお団子の串を掴んだ。
 そして当然とでも言うように、
「近場の旅行も楽しいわね」
 彼女は太陽の手を握って歩きだすのであった。
「おや?」
 2人は映画館を過ぎた所にある、とある建物の前で立ち止まった。
「こんなところに喫茶店があるのか。まるで隠れ家だな」
 それは一軒の喫茶店。
 まるでひっそりと佇むような雰囲気に興味を持った彼女は、
「ねぇ、入ってみない?」
 太陽に視線を向けて言ったのであった。
 扉を開けると中から珈琲の香りとジャズの音楽が彼等を出迎えてくれる。
 席に着いた二人はさっそく紅茶とケーキを注文した。
「太陽さんもこれ食べてみない?」
 不意に灯子はフォークを太陽に差し出して言った。
「お、もらうもらう」
 何の気なしに太陽はフォークを受け取ると、先に刺さったケーキを口にするのであった。

 ごおぅん、という厳かな音が蔵の街に響き渡った。
「……鐘の音?」
 永倉 藍里(ja0451)は揺れる人力車に乗りながら空を見上げる。
 藍理はそっと結い上げた髪に留まる蝶の髪飾りに触れた。着物の袖が流れるように風になびかれていく。
「……綺麗ですね」
「そうだな」
 隣から壕戸 恒尋(ja0673)の深く渋い声が聞こえてきた。彼は濃い灰緑色の着物姿をしている。
「着物というのもたまにはいいものだな。洋服や制服とは違った、その人の魅力があらわれる」
「……私が言ってるのは鐘の音のことですよ?」
「そうだったか?」
 恒尋はとぼけるように言うと周りの風景へカメラのレンズを向けるのであった。
「藍理」
 突然、恒尋は彼女の名を呼んだ。
 なんですか、と藍理が振り向いたその瞬間、
「きゃっ!?」
 目の前でぱちり、とカメラのシャッターが切られた。
「〜〜〜……消して、ください……!」
 彼女は恒尋からカメラを奪うように身を乗り出す。
「記念だ記念……着物も似合う」
「そ、そういう問題では……!」
「……わかったわかった……消すよ。(ボソボソ)印刷が終わった後でな」
「聞こえてます……い、今……今消して……!」
「……暫く余韻に浸らせろ。車夫サン、時の鐘を入れて記念撮影するのに良い場所は無いか?」
「〜〜〜〜……!」
 話をはぐらかされて何も言えず拗ねる藍理。
 時の鐘を背景に恒尋と2人で車夫の持つカメラに向かった時、藍理は彼に呟く。
「修学旅行に来ることができて……嬉しいです……今回は、ありがとうございます……」
 恒尋は相変わらずの無愛想な表情で、彼女の手をそっと握るのであった。

●恋結び神社にて

 神社にある大鳥居を見上げながら、島津・陸刀(ja0031)は不思議そうに首を傾げた。
「ホンットにココでいいのな?」
「ええ。もちろん合っておりますよ」
 陸刀に車椅子を押して貰いながらニコニコと笑顔を向ける御幸浜 霧(ja0751)。
 そのまま拝殿の前でお参りすると陸刀はちらり、と霧を見下ろした。
(熱心にお祈りしちゃってまァ……何頼んでンだか)
「お待たせしました」
「待たされました。ずいぶん時間かけてお願いしてたじゃねェか」
「普段は私もあまり神頼みはしませんけど……たまには、ね」
「ふぅん」
「では行きましょうか。今度はあちらへお願いします」
 そんな2人と入れ替わる形で御手洗 紘人(ja2549)と有田 アリストテレス(ja0647)は拝殿の前に歩み出る。
 参拝を終えた2人はその後、社務所に向かいお守りを授かった。
 そして、
『人がいっぱい来てたねぇ……みんなやっぱりご縁に預かりたいんだ☆』
「そうなんだろうな。やっぱり、それだけ後利益があるってことだ」
 チェリーとアリストテレスは掌に乗る、小さな袋を見つめた。
 それは神社が参拝者に贈る「縁結びの小石」。
 この恋結びの神社のいわば「名物」である。
「いいねえ、こいつは思い出になるんじゃないの……ん?」
 ふと、アリストテレスは遠くからなにか音楽のようなものが聞こえるのに気づいた。
 大鳥居の方を振り向く。
 どうやら神社の隣にある建物からなにやら行列がやってくるらしい。先頭を進む神職の者達が雅楽を奏でながらこちらに近づいてくるのが目に入った。
 そして、
『わ……お嫁さんとお婿さんだ☆』
 行列の中心を静々と、白無垢を着た艶やかな女性と紋付袴姿の男性が進むのであった。
『結婚式か……』
 チェリーは思う。
 いつか自分も、あの女性と同じようにあの場に――。
『いつか出来たらいいね☆』
「ああ」
 アリストテレスはチェリーの言葉に力強く頷いた。
「なに……いつかこんな式をあげてやるさ。それまでは仲良くやっていこう」
 その言葉にチェリーはぎゅ、と小石を握った。
(出来るわけないのにね……結婚式)
 理想と現実の狭間で揺れ動きながら、
『…………うん!チェリー気長に待ってるよ!これからも仲良しでいこうね!』
 チェリーはそんな暗い思考を表に出さないようにアリストテレスを見つめるのであった。
「いいなぁ、結婚式」
 猪狩みなとはポケットに入れた小石を握りしめて行列を眺めていた。
「機会を逃しちゃった感じだけど……まあ、こういうのを失いたくないからみんな戦うんだろうなー」
 みなとは考える。
 もし天魔が存在せず、自分にアウルの能力も無かったら――。
 もしかしたら――。
「……なーんてねっ」
 みなとは胸を張って行列を見た。
 雅楽の調べと共に新郎新婦はゆっくりと拝殿へ向かう。
「こういう風景が今もなくならないって救いだよねー。日常を大切にする強さっていうかさ」
 彼女は誰にでもなくそう言うと、しばらくの間行列を眺め続けるのであった。
「ぁーそォいう神社ね」
 手の中の小石を弄びながら、目の前を過ぎる結婚式の列を眺め陸刀は呟く。
「そういう、とはどういう所なのでしょう?」
「いーえべっつにィ」
 不貞腐れる陸刀とは対照的に霧はふふ、と笑みを浮かべた。
「っつーことはだ。さっき霧は誰かのと縁を頼んでたってェことか……」
 陸刀の呟きに彼女は先程の参拝を思いだす。
 赤髪で筋肉質な粗野だが、本当は優しい人との縁を――。
 彼女は思考を追い出すようにそっと紋付袴姿の新郎に目線を向けた。
「島津様は、いったいどなたにあの格好を見せるのでしょうね?」
「……着る機会あンのかねェ」
「あるんじゃないでしょうか?ほら、この通り縁結びの小石も授かりましたし」
 こうして結婚式の行列を見送った2人は神社を後にする。
 その途中、
「なァ霧よォ」
 陸刀は霧の車椅子を押しながら聞いた。
「はい、何ですか?」
「……ンや、いい。学園帰ったら聞くわ」
「ふふっ、そうですか」

●蔵の街巡り・後編

 ルー・クラウス(jb0572)は蔵の街を歩きながらじぃ、と何かを見つめ続けていた。
「何を見てるんだ?」
 彼と一緒に歩く朱史 春夏(ja9611)は彼の目線を追う。
 その先には一台の人力車。
「なんで日本は自動車大国なのに、あんなプリミティブな乗り物があるの?」
「あ?」
 今度は春夏が不思議そうな声をあげた。
「さぁ……風情ってやつを楽しみたいんじゃないか、きっと。俺も人力車の実物を見たのは初めてだから、その辺はよくわからないが」
「ふぅん……ん、このにおいはなんだっけ、うさぎ、じゃないくて、うな……うなじ?」
「うなぎ、だな」
「そうそう。でも、やっぱりさっきの人力車にも乗りたい」
 ルーは言った。
 まあうなぎは後でもいいか、と思った春夏はその言葉に従う。しかしそれが間違いの始まりであったと今の彼が気づくことはなかったのである。
「朱史」
 もぐもぐと和菓子を頬張っていたルーは鯛焼きを二つに割ると春秋に差し出した。
 差し出した……のだが。
「あーんして、ってこの前学食でやってる人がいたよ。これも日本の文化?」
「違う、それは断じて違う」
「違うの?」
 そう言いながら春秋の口元にぐいぐいと鯛焼きを押し付けるルー。
「普通は男女でやるもんじゃねーかな……って、だから鯛焼きをそんなに押し付けるな」
「そう」
 ルーはようやく諦めたのか、鯛焼きを引っ込める。
 そして。
「じゃあ焼き芋ならいいよね。石焼きじゃなくてえっと……つる焼き?かめ焼き?って言うんだって。はい、あーん……」
「だからそういう問題じゃ……あちち、それまだ熱いから!」
 こうして2人を乗せた人力車は賑々しく市街を進む。

「人力の乗り心地は如何ですかね、アイリ嬢?」
 猫柳 睛一郎(jb2040)は着物と羽織りの襟を正しながら隣に座る黛 アイリ(jb1291)に聞いた。
「結構乗り心地がいいんだね……眠くなりそう」
「おやおや、眠かったら寝ちまってもいいんですぜ?」
「でも、それだと景色が楽しめない。こんな歴史を感じられる風景が残っているのって、とても凄い。
いいことだと思うから、少しでも楽しみたい」
「なるほど。それは素晴らしいお考えですねえ」
 睛一郎は感心したように言った。
 その時、丁度遠くからごおぅん、という音が響いてきた。
「おや、丁度御三時のようです」
 Guildenstern(jb2525)は鐘の音に耳を澄ませながら言った。
「ん、だったら、なにか甘いものが食べたい、かな?」
 アイリは小さく呟く。
「ギルの旦那、アイリ嬢が甘味を御所望ですぜ。姫君のお気に召すような店はありますかねえ」
「でしたらこの先の湯浴み場の隣に甘味所があります。餡蜜が大変美味とのこと」
 そんな2人の会話にアイリは軽く頬を染める。
「姫君だなんて2人とも、からかってるの……?もう」
「おや姫君はお気に召しませんか?からかうわけがない、愛でているだけですよ」
「……ありがとう」
 彼女ははにかみながらも微笑みを2人に見せたのであった。
「それにしても旦那にゃ驚いたね。ガイドが裸足で逃げ出すよ。此処にはよく来るのかい?」
「いいえ、初めて参りました。軽く下調べをしたまでで御座います」
 そう言って眼鏡の位置をくい、と直すギルデンスターン。
 お店の前に人力車を留め、3人は揃って降り始める。
「さあ、足元にお気をつけなさいな」
「ありがとう睛一郎」
 アイリは睛一郎の手を取り、足を踏み台に置いた。
 その瞬間ぱちり、とシャッターが切られる音が聞こえてきた。
「失礼をどうかお許しください。勝手ながら、最高の一瞬と思い、カメラを撮らせて頂きました」
「あ……」
 頬を染め、目を逸らすアイリ。
 ちなみに今の彼女の姿は矢絣の着物に海老茶色の袴という、かつて「海老茶式部」と呼ばれた服装である。
 頭には揚羽蝶の飾りが揺れ、彼女をより美しく仕上げている。
「こんな恰好初めてだから……その、似合う?変じゃない」
「アイリ様のその姿は御髪の色と合い、とても御似合いに御座います」
「ギルの旦那の言うとおり。よくお似合いでさぁ」
 睛一郎は両手で彼女の手を包むように握ると、励ますように声をかけた。
 
「皆も楽しんでくれるかな♪」
 虎守 恭飛虎(jb3956)はうきうきとした様子で、どこからか借りてきた人力車を引いてくるのであった。
 その隣には本来の車夫が連れ添って歩いている。やがて十字路にある休憩所の前に差し掛かると、
「2人ともー。いいもの借りてきましたよー!」
 と声をあげた。
 その声にベンチから立ち上がる2人組みの少女。強欲 萌音(jb3493)とメリー(jb3287)である。
 2人は紅白の矢絣に赤紫の袴という出で立ちであった。
「わー、虎守さんどうしたんですかそれ?」
「ちょっと無理言って借りてきたっす。へぇ、変わった服っすね。でも2人ともよく似合ってるっすよ」
「ありがとー。昔の日本の服を着れるなんて嬉しいのです!虎守さんもその姿カッコいいのですよ!」
 メリーは恭飛虎の姿をじぃ、と見惚れる見つめるように眺めた。
 彼の姿は書生スタイルの和服にとんびコートという、なかなかにハイカラなものであった。
 恭飛虎「へへ」と照れた様子で頭を掻いた。
 その一方、
「コレ、人力車っていうっすか……?」
 萌音は人力車に対して非常に興味があるらしい。
 そこかしこを穴が開くほど眺めると、なにやら手帳を開いて付き添いの車夫に質問したりメモを取っている。
「あたいもちょっと引いてみたいっす……!あたいにとっての百年なんてあっという間な話っすけど……人間はこんなにも素晴らしいモノを作れるんすね。
あたい……久遠ヶ原に来てホント良かったっす!」
 こうして3人は人力車に乗って蔵の街へ向かったのであった。
「さあ、いくっすよー!」
 メリーと萌音を乗せた人力車を恭飛虎は力を込めて引っ張る。
 ごとり、と車輪が音を立てて動き出すと、後は滑るように人力車は動き出した。
「虎守さん早いのですー!この乗り物楽しいのです!」
 メリーははしゃぐように言った。
「折角だからこの地らしい経験をしてみたいすね。どこに行くっすか?」
「どうせなら和菓子が食べたいっす!お金儲けのヒントになりそうなものは片っ端からメモるっすよ!」
「じゃあ、この菓子屋通りに行ってみましょう。メリーは『こんぺーとー』っていうのを食べてみたいのです!」
 そう言って彼女は恭飛虎にガイドブックの一角を指した。
「りょーかいっす。行くっすよー」
 恭飛虎は人力車を力いっぱい引き、さらにスピードを上げるのであった。

●お化け屋敷のあるお寺

「うう……本当に入るの……?」
 海城 阿野(jb1043)はびくびくとお化け屋敷の前で立ち竦みながら海城 恵神(jb2536)を見つめる。
 恵神は対照的に「うん!」と元気よく頷いてみせた。
「ここ出たら一緒にお菓子買いに行こうぜー!」
 恵神笑顔を浮かべて河野に手を差し出す。
(兄さんと2人っきり……ふへへ)
「手、ほれっ!こうしとかんと迷子になるぜよ」
「うっ……それじゃ、は、入りましょうか……」
 こうしてお化け屋敷に入っていく2人。
 そして数秒後、
「キャアァァ!こっち来ないでー!」
 お化けにびっくりした河野は悲鳴をあげ、当てずっぽうに屋敷内を走り回るのであった。
「に、兄さんどこいくぜよ!これ、ただの映像ぜよ!」
 引っ張っていくつもりが逆に引っ張られる恵神。
『お兄さんお兄さん、そっちは道が違うよ!戻って戻って!』
 女性スタッフ(以下おばちゃん)の声がスピーカーから聞こえてくる。
 そしてぺたり、と彼は床に腰を降ろした。
「オバケ無理っ!倒せないじゃないですか!」
「もう、仕方ないなぁ……」
 オバケに対してけろり、としている恵神はそう言うと、
「よいしょっと」
 河野を両手で抱き上げるのであった。
「これなら平気でしょ?ほら、そこ曲がれば出口だっておばちゃんが言ってるよ。もう怖くないぜよ」
「こ……怖くなんてないわ」
「もう、強がっちゃって……」
 によによと恵神は笑みを河野に向ける
 その後外に出た二人は駄菓子や太麺焼きそばをゆっくりと味わうのであった。
 
「な、なんか、、雰囲気あるね……!鈴音ちゃん、平気……?だよね?!」
 びくびくしながら天原 茜(ja8609)は六道 鈴音(ja4192)の手を握りながらお化け屋敷の通路を歩いていた。
 最初こそ「修学旅行は未知との遭遇だよねーっ!私、ここに来るの初めてなんだ♪」と軽いノリでいたものの、いざ入ってみると本来のオカルト耐性の低さもあってやはりびくついてしまう。
「お化け屋敷って……そんな子供じみたアトラクション……」
 対して鈴音は毅然とした態度で茜の手をぎゅ、と握りしめた。
「茜ちゃん、怖いんじゃない?手をつないであげるわよ?」
「わわ、ありがとー」
 しかし、そんな鈴音の内面はと言うと、
(うう……さすがお寺なだけあって雰囲気あるなぁ……)
 一歩ずつ足を進めるごとに気後れする心。
 彼女は隣を歩く茜に、
「ぜぜぜ……ぜったい手を離しちゃダメだからね!ぜったいだからねっ!」
 と上ずった声で忠告するのであった。
 そんな彼女の表情を見て、茜はある直感を抱く。
(あれ……これだめな方の表情じゃ……)
 茜の背筋にひやり、と嫌な汗が流れ落ちる。
 その瞬間、
「きゃ!?」
「ひいっ!?」
 がたり、と何かが動く音が聞こえた。
 短い悲鳴が2つあがると同時に、鈴音は近くにあった提灯を手に取った。
 そして、
「やだやだやだっ!こっちくるなぁー!」
 ぱっかーん、と。
 彼女は現れたお化けに対して全力で投球するのであった。
「きゃー!きゃー!」
 茜も茜で鈴音と一緒にオブジェを投げつける。
『お嬢ちゃん達!物壊したらだめよ。落ち着いて落ち着いて!』
 おばちゃんが必死に彼女達を宥める中、彼女達は必死にお化け屋敷の出口へ到着した。
「ぜんぜんたいしたことなかったね、茜ちゃん……」
 髪をぼさぼさに振り乱し、目は赤く充血させながら鈴音は言う。
 そして茜はただただスタッフに「ごめんなさいっ!」と頭を下げ続けるのであった。

「うう……周りは友達連れてるのにあたいは1人……」
 ビル風かばん(ja9383)はしょんぼり、と肩を落としてお化け屋敷を進む。
「だれか、友達になってくれませんかー……なんてね。あれ?」
 彼女はふと、通路の先に座り込んでいるザラーム・シャムス・カダル(ja7518)を見つけた。
「どうかしたっすか?」
 かばんは壁に背を預けて寝息を立てるザラームの肩を揺らす。
 と、
「んぁ?」
 ザラームは意外とすんなり目を醒ました。
「ここはどこだ……貴公は誰だ?」
「え?」
「ああ、失礼した。我の名はダウゥ。ザラームの……そうだな、『男性格』といったところだ」
「そうなんすか……あ、あたいはビル風かばんっす。ここはおばけ屋敷の中っすよ」
「な、おば……」
 ダウゥは一瞬怯んだ様子を見せた。
「おばけ……苦手っすか?」
「いや、大丈夫だ。大丈夫……それよりも貴公、どうせなら一緒に行動せぬか?」
「いいんっすか!?やったー!」
 ダウゥの言葉にぱぁっ、と顔を輝かせるかばん。
 しっぽがあればぶんぶん、と大きく振っているであろうその姿にダウゥは顔を綻ばす。
「そうと決まれば早く此処を出……」
 ダウゥが言いかけたその瞬間、
「のわぁ!?」
 目の前に突然おばけが現れた。
 反射的に光纏してしまうダウゥ。ダウゥの体から黒いオーラが迸るのを見てかばんは「うひゃぁ!?」と驚きの声をあげた。
「ああ、済まない!悪気はなかったのだ」
 こうしてお化け屋敷を後にする2人。
「まったくザラームも困ったヤツだ。これだけ悲鳴が聴こえるというのに起きる気配すらないとは……」
「難儀っすねぇ」
 ずるずる、と太麺焼きそばを啜りながらしばし悲鳴とおばちゃんの客寄せに耳を傾けるのであった。
 
 ソーニャ(jb2649)は鐘撞き堂の石壁に腰掛けながら、隣に座る教師に語りかけた。
「今日は引率してくれて、ありがとうございました」
 嬉しそうにいうものの、その瞳には小さく涙が浮かんでいる。
 彼女は川越の伝説・妖怪めぐりをしていた。河童に白狐、戦絵屏風や天狗などなど……。
「えへへ……先生の怪談話上手だったから本当に怖かったです」
 そうして彼女は教師の服をぎゅっ、と掴む。
「愛するもの不幸、理解されず疎まれる悲しみ、狂っていく戦い様もない怖さ……悲しいのは厭だよ〜」
 普段は毅然な態度を見せる彼女も、今は頼れる人の傍にいる甘えもあって少々気弱になっていた。
 ソーニャはそっと、寺の中にある駄菓子屋で買ったお菓子を手渡した。
「ね、ボク今手を使えないからさ……あ〜ん、して」
 そう言って再び教師の服にしがみつくソーニャ。教師は困った風に頬を掻くのであった。

●菓子屋通りにて

「自分、こういう雰囲気、大好きです!実家を思い出します!」
 相楽和(ja0806)は駄菓子の入った袋を揺らし、楽しそうに笑う。
「和君と旅行に来るのも久しぶりだな。今日はめいいっぱい楽しまなきゃ!」
 その隣を歩くエイルズレトラ マステリオ(ja2224)も嬉しそうに笑みを浮かべた。
 和が先導する形で2人はとある駄菓子屋に向かう。
 その店頭でエイルズレトラは思わず呻いた。
「話には聞いていたが……実際に見るとやっぱり長いなぁ」
 それは長さ1m近くもある黒糖ふ菓子。
 和は早くもそれを買ってくると、
「はい、はんぶんこにして食べましょう」
 ぼきり、とふ菓子を折って彼に渡すのであった。
 さくさく、とふ菓子を食べ歩きながら駄菓子屋をはしごする2人。すぐに両手は袋でいっぱいになった。
 エイルズレトラは割り箸の先に着いた飴に苦闘していた。やがて彼は諦めるようにため息をつく。
「どうやって食うんだコレ?」
「それはまず手で水飴を暖めるんですよ。それで割り箸を割って……」
 和はエイルズレトラから水飴を受け取ると、ぱきんと割り箸を割った。
 そして水飴を練る様にぐるぐると割り箸を回転させる。やがて水飴は白濁して柔らかくなり始めた。
「はい、そろそろいいですよ。あとは割り箸に着いた水飴を舐めてください。
歯にくっ付きやすいので注意してくださいね」
「ありがとう。和君もこれ食べなよ」
 そう言って割り箸の片方を差し出した。
「わ、ありがとうございます」
 和はにっこり、と微笑むと割り箸に着いた水飴を口に入れる。エイルズレトラも顔を向かい合わせ、水飴を舐めるのであった。
(普段は撃退士として命を削ってるけど……本当は僕たち、まだ子供なんだよなぁ)

「異国の珍しいお菓子を食すのも良い。日本国内にもご当地ならではの珍しいお菓子がある。しかーし!」
 下妻ユーカリ(ja0593)は突然宣言するように腕をあげる。その手に握られたビニール袋がかさり、と音をたてた。
「久遠ヶ原学園が誇るスイーツマスターとしては!今、ここで、原点回帰すべきではないかと考えたのだ!……なんてね」
 えへへ、と笑みを浮かべる。
 彼女は首に下げていたカメラを取り出すと、
「今度の新聞は『懐かしのお菓子特集』で決まりだね」
 駄菓子を頬張りながら写真をぱしゃぱしゃと撮っていくのだった。
 その途中、
「あ、すみません。取材いいですか?」
 ユーカリは1人で黙々と「日本一長い黒糖ふ菓子」を食べ続ける陸路 燿(ja7682)に話しかけた。
「あん……なんだお前?」
「エクストリーム新聞部の下妻ユーカリでっす!どうですかそのふ菓子?日本一長いとのことだけど……」
「まあ、美味いな」
 口の周りについた黒糖を手で拭い取ると燿は呟く。
「修学旅行なんざ面倒くせぇと思ってたが……まぁ偶にはこういうのも悪くねぇかもな」
「満喫してますねぇ。写真いいですか?」
「それ新聞にするんだろ?面倒くせぇな……お、そこに駄菓子山ほど持って歩いてる奴がいるぞ」
「え?」
 燿の言葉を聞いてユーカリは振り返る。
 そこには買った駄菓子を大量に抱えてはそれをひょいぱくと口にしている如月 千織(jb1803)がいた。
「なにか用ですか?」
 ユーカリの視線に気づくと、千織はぶっきらぼうに彼女に話しかけた。気づくと燿は逃げるようにその場からいなくなっている。
 ユーカリは取材のターゲットを千織へと変えた。
「わ、すごい量だね。これ全部1人で食べるの?」
「ええ」
 当然、とでも言う風に千織は頷く。
 それが彼女の闘争心に火をつけたらしい。
「むむ!スイーツマスターとして負けられないよ!私も駄菓子食べる!」
「……これはあげませんよ」
 そうしてユーカリと千織はもしゃもしゃと駄菓子を食べながら歩き続ける。
 そんな彼女達を背景に、
「ふむ……ケーキやクッキーとは何度か食べたことがあるが、それとは違ったものなのかな」
 水鏡(jb2485)1m近くもある黒糖ふ菓子を眺めては不思議そうに呟いた。
「学園に帰るまで食べていられるように何本か買っていくか。
……そういえば、旅行ではこういう長いものを背中にさして歩くのが常識だと聞いたことがあるな」
 そうして彼女は買ったふ菓子を襟首から背中に差した。
 木刀じゃありません。
「いや、今年の方角を向きながら黙って一本食べきるんだったか……」
 それは恵方巻きです。
「まあいい。とりあえずせっかくの修学旅行だ。駄菓子屋全制覇といこうではないか!」
 水鏡は背中からふ菓子を突き立て、菓子屋通りを練り歩くのであった。

「大変ですチョコーレさん、コンペ・イトゥもお菓子ですって!」
 マーシュ・マロウ(jb2618)は駄菓子屋から走り出ると、チョコーレ・イトゥ(jb2736)に「こんぺいとう」の入ったビンを差し出した。
「ほう、これも『イトウ』というのか」
「いざ、いざ、食べてみましょう(ぱくー」
 瞬間、
「……!」
 ばさぁ、と。
 マーシュの背中から『光の翼』が生え、彼女は飛び上がった。
「マーシュ、気をつけろ。また昇天しかけてるぞ……」
 チョコーレは急いでマーシュの両足を掴むと、地面に引き降ろした。
「はっ、旅先でまで昇天してしまうところでした」
「これは!甘いな!甘くてコロコロするな。特にこのイガイガの舌触りがなんとも……!」
 しばしコロコロと口の中で金平糖を転がすチョコーレ。
「おいしくて可愛いのでこれはお土産にします……ふみ?」
 マーシュはふと、隣のお店に置いてある日本一長い黒糖ふ菓子に目を移した。
「……これは」
 ケースから頭を出すその黒い姿に彼女はごくり、と生唾を飲み込む。
 さっそく購入する彼女。
「フガシ……ですか。見た目は少々悪魔的です。チョコーレさん、わけっこしましょうか」
「ああ、いいぞ」
 そうしてマーシュは恐る恐るふ菓子に齧り付くと、
「……!」
 ばさぁ、と。
「ふむ、不思議な食感だな。悪くない」
 チョコーレはぽりぽりとふ菓子を食べながら、再び昇天しかかるマーシュの足を引っつかむのであった。

「あっちもこっちも全部、駄菓子のお店なんですか……!?」
 福島 千紗(ja4110)は連れ添う青柳 翼(ja4246)の手をぎゅ、と握りながら驚いたように周囲を見渡した。
「そうらしいな。このご時世に駄菓子屋がこんなに有るなんて嬉しすぎる♪」
 翼と千沙はさっそく近くの駄菓子屋に入っていった。
「おじゃましますー。ご主人のお勧めとかありますかね?」
 そうして適当に手を繋ぎながらお店を覗いている最中、
「……」
 千沙はじっ、と何かを見続けていた。
 それはビーズでできたおもちゃの指輪。
「千沙?どうかした?」
「あ……な、なんでもない……です」
 きらきらと輝かしていた瞳をさっと逸らし、彼女はさらに強く翼の手を握るのであった。
 棒付き水飴を買って外に出た翼は、水飴を練った後に割り箸の片方を千沙に渡そうとする。
 ふと、
「千沙〜、これ美味しいよ〜♪」
 割り箸を彼女の手ではなく、水飴を口に運ぶように差し出した。
「ありがとです。はむっ」
 千沙はなんの迷いも無く水飴を受け入れる。
「えへへ、おいしいです……。おにいちゃんも、あーん……です?」
「あはは、千沙には適わないな。あーん♪」
 こうして口の周りをべとべとにしながら、2人は互いにお菓子を食べ合うのであった。
 
 からん、ころぷつん。
「あら?」
 唐突に、駿河紗雪(ja7147)が履く下駄の鼻緒が切れた。転びそうになった彼女の体を天ヶ瀬 焔(ja0449)は慌てて抱き寄せる。
「おっとっと。どうした?」
「んぅー、下駄の鼻緒が切れちゃったみたいです。すぐに直しちゃいますねー」
 紗雪は手荷物をすべて焔に渡し、その場に座り込んだ。
(んぅー、いつもならすぐに直せるのですが。指が強張ってうまく……)
 そうこうしているうちに遠くからごおぅん、という音が響いてきた。
「あっ!バスの集合時間なのです!」
 紗雪は叫ぶように空を見上げた。
「お、おい大丈夫か?」
「むぅ……このままだと間に合いません……」
 急いで鼻緒を結ぼうとするも、鐘の音を聞いて手元が覚束なくなる紗雪。
 彼女はここからバスの停留所である博物館前までの距離を図ると、
(ここは走らなければ……裸足になればなんとか……)
 そう考えて彼女は両足の下駄を脱ぎ取ろうとするのであった。
 その瞬間、
「わわっ!?」
 急に視界が高くなった。
「よっと……乗り心地悪いだろうけど我慢してくれな、捕まってろよっ」
 そう言って紗雪を抱き上げる焔。
 本当は恥ずかしい気持ちで一杯なのだが、意識すると足が止まってしまいかねない。
 彼はひたすら無心で走り続けるのであった。
 撃退士の足は総じて常人とかけ離れている。
 突風のように集合場所へ到着すると、焔はやさしく紗雪を降ろす。その時、彼女は小指に焔の赤い髪の毛が絡まっているのに気づいた。
 それはまるで運命の……。
(……ない、ですよね)
 彼の顔と小指を見つめながら彼女はふふっ、と笑みをこぼすのであった。

●おかえりなさい

 こうして一同は再びバスに乗って川越を後にする。
 鐘の音が彼等を出迎えるようにごおぅん……と鳴り響いた。









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