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夜市とお茶の国☆台湾 【台湾】

●台湾へようこそ!
「台湾だーっ! うわぁ、暖かーい! 南の島だよ、南の島っ!」
 武田 美月(ja4394)は興奮して叫んだ。
 それもそのはず。ここは台湾であって日本ではなく、ましてや、今は授業中じゃない。
 現在、修学旅行初日☆(←ここ重要)
 そして、台湾は北半分が亜熱帯気候、南半分は熱帯気候という、東京の寒さと比べれば、ここは南国といいたくなるほど温かい土地。
 日本では真冬といえる春節(2月14日)頃でも、気温20度以上なのだ。
「本当に温かいよね。台北観光が楽しみだね」
 美月の楽しそうな声に、点呼担当の月遊 神羽 (jz0172)が声をかける。
「うん! すっごい楽しみ♪」
  元々は体が弱く、本を読むなど一人で遊ぶことが多い内向的な少女だった美月は、嬉しそうに笑って答えた。短めのポニーテールを揺らして振り返える。
「えーっと、【チームいよかん】さんのチームメイトはあと誰だっけ……。あ、武田さん。これ持ってね」
「?」
 美月に手渡されたのは、神羽お手製の小さな旗だった。
「人数多くて点呼が大変なのよね。よろしくね♪」
「わーい♪ 旅行らしくなってきたぁ!」
「でしょでしょ☆ 他のチームのもあるんだよ。点呼の際には誘導をお願いね……あの子たちは?」
 視線の先には、螺子巻ネジ(ja9286)と石上 心(jb3926)がいた。
 まずは「当然のごとくネジ巻きから☆」と、ちょーんと座って心にじぃーこじぃーこ巻いてもらっている。
「うちのチームの心さんたちだよ」
「へぇ〜、気合入れてるのかな? でも、きっと楽しい気持ちでいっぱいなんだね」
 そう言って神羽は笑った。
 空港での点呼が終わると、この日は台北市内のホテルに泊まることになった。

●台北一日目【昼】カフェ巡り
「ここが猫カフェですね。随分とシックですねぇ」
 田中 裕介(ja0917)は店内の様子を見つつ呟いた。
 そこはナチュラルテイストなのに、どこかモダンな雰囲気のあるカフェだった。非常に居心地のいい感じがする。
「台湾にも、猫カフェってあったんだねー」
「さあさあ、エリーゼさん、ベベトアさん。こちらへどうぞ」
 祐介から誘ったためか、三人には特に気を配っているようだ。
「ん?」
 ふと、遠くにいる元気のない生徒が気になったが、今は声をかけた相手が優先だ。
「美月さんもこちらへ……あぁ、旗もお願いしますね」
「はーい♪」
 美月は嬉しそうに旗を振った。チームの旗には、いよかんっぽい祐介の顔が描いてある。
「いらっしゃいませ」
 総勢二十名という学生の集団にも驚かず、とても嬉しそうに笑っていた。
「おお、日本語だぜ!」
「ええ、話せますよ。この国では、75歳ぐらいのお年寄りならほとんどが話せますしね。日本語学校もありますから」
「学校かよ! すげぇな、この国の流行か?」
 巨漢のアドラー(jb2564)はごっつい腕を組んで関心していた。
 入店した生徒たちは次々に注文し、適当なところへ座ったり、猫を見るベストポジションへと移動する。
 そこへ大きな箱がやって来た。
「はいはい、どいて〜」
「おお?」
 驚くアドラーの真横を、猫耳の黒いバルーンキャスケットを被った女性がデッカイ箱を運んでいく。
「なんだこれは?」
「カーディス君が引き籠ってるのだよん♪」
 黒猫(ja9625)がアドラーの質問に応えた。
「は? まさか生徒? こんなところで引き籠りかよ」
「さっき、心ちゃんにビビられたらしいのねん」
 箱の中を見ると、しょげまくったカーディス=キャットフィールド(ja7927)が黒猫の着ぐるみ姿でうずくまっていた。
 向こうを見ると、心がドアに隠れるようにして立っている。
「ナチュラルに石上さんに避けられているとは思ってたんですよ。でも、やっぱりショックです〜」
「ご、ごめん。カーディス先輩の猫姿で近づかれた時、つい反射的に引いちまって……申し訳ないから、ちゃんと謝ったよ」
 心はすまなさそうに謝った。
 メンバーと一緒にはしゃぎながら観光して回っていたものの、猫カフェに近づくとどんどん動きがぎこちなくなっていったのだった。
「俺、四つ足毛むくじゃらか苦手なんだよ」
「そんな……猫は愛らしい生き物なのですよ!」
「ひいッ!」
 箱から勢いよく顔を出し、力説するカーディスの様子に心は短い悲鳴を上げた。
「そんなに驚かなくても」
「カーディス君、挫折禁止なのねん♪」
「そんなことで落ち込まないで。猫さんと戯れて気持ちを回復回復♪」
 ひょっこりと顔を出し、小さな猫さんをカーディスの頭に乗せたのは、点呼係の神羽だった。
「あぁ、癒されます……」
「ここの猫さんは少ないときでも六匹いるんだって〜。今日は結構多いみたいね」
「おおっ……今日は猫さんも大盛況と……これはカフェの美猫さん達に癒されなければ」
 すっくと立ち上がったカーディスは猫まみれ天国を敢行するため、もそもそと箱から出てゆく。
 心に慣れて貰えるようあまり接近せず、程よい距離をキープしながら猫天国オーラを出し始めていた。
「よしよし、これで問題解決だね☆」
 しっかりとメイド服に着替えていた神羽は、店員と見せかけてカーディスのお猫天国に隠れようと試みる。
「猫だお〜、にゃーん♪」
 手を頭の上でピッと立て、猫のフリをする。
 すかさず突っ込んだのは、カフェ組の点呼係の柳瀬美穂。
「だめですよ〜」
「や〜だー、お猫さまぁ」
 神羽は美穂に撃退され、エステコースの方へと去って行った。
「やっぱり……猫カフェ、行く、人気。猫。もふる。たくさん。楽しみ……」
 針生 廻黎(ja6771)はお手製の和風ゴスロリ服の裾をふわりと広げて床に座っていた。
「鳴き声、は……同じ、ね。日本語 わかる、かな。異文化、交流。仲良し、目指して、頑張る」
「頑張らなくても、友達になれるのねん」
「宿泊。ホテル より、ここが……いい。ダメ?」
 猫カフェに永住する勢いだ。だが、止められて少しがっかりしている。
「うぉぉぉ、猫カフェだ。写真いいか? フラッシュ炊かないからよ」
「どうぞ〜」
「お前ら可愛いな、こんちくしょう☆ こっち来い来い」
 アドラーは猫じゃらしをぱたぱたさせる。
「やばいな。俺、ここに住みたいぜ」
「ですよねー」
「そうですよ。心様、猫はもふもふなのです♪ 可愛いのですー♪」
「わかった、わかったから!」
 ネジに勧められ、心はビクビクしながらも触りにいって克服しようとする。
「ネジも、支給品で頂いたねこのしっぽも装着なのですにゃーお☆」
「猫増えたし!」
「キニシナイですにゃーお♪ 」
「学生として旅行なんて、初めての経験だけど。猫カフェってのもいいね」
 独特の雰囲気をアウレーリエ=F=ダッチマン(jb2604)は楽しみつつ言った。常に周囲より一歩引いた立ち位置で、穏やかに周囲を見ているのは気持ちの良いものだった。
「ていうか、かわいいっ! あぁ、ご飯食べてる場合じゃないよ! ごちそうさまでしたっ!」
 我慢できなくなった美月は、頼んだ根菜のスープと魚の煮込みも早々に切り上げる。そして、猫を驚かせたりしないように向こうから猫が寄ってくるのを待っていた。
 持参した百均の猫じゃらしを取りだし、一緒に遊んだり、そっと撫でたりしてもふもふを堪能する。
「はふぅー、幸せぇー……」
 その隣で、猫をモフりながら猫と話そうとするべべドア・バト・ミルマ(ja4149)。
 ぬいぐるみを抱えたまま猫を撫で、どこか楽しげに淡々と話す。
「ニャーニャ、ニャ? ナーゴー……うふふ、アナタ、気持ちいいのね」
「ベベトアさん」
「ニャ……にゃにかにゃ?」
「ニャ(な)まってますよ?」
「!」
 カーディスに話しかけられ、ベベトアはそのままのノリで話してしまった恥ずかしさの余り、背中に背負った棺桶の中に特攻した。そのまま籠城を決め込む。
 エリーゼ・エインフェリア(jb3364)は祐介たちとお喋りしつつ、猫とみんなをたくさん写真に収めた。
 せっかく堕天までしてるんですからと言う彼女は、記念写真をいっぱい撮りたいのだ。
「わぁ〜、猫カフェは初めてなのですよ」
 伝統料理に興味があるエリーゼは、おすすめメニューの花枝丸(ホワツーワン)や、小エビと白菜を煮込んだルーツァイパイなどを頼んでみることにした。
「これ、あっさり味ね」
「こっちも、結構美味しいよ? 食べる?」
 そう言って声をかけたのは、先ほどから喫茶店巡りをして、色々なお店のコーヒーやケーキだけでなく料理をも堪能していたユリア(jb2624)。エリーゼのメニュが気になったようだ。
「あ、揚げた卵豆腐ですね。いただきます」
 二人はお互いのご飯をつまんだりして料理の話に花を咲かせた。ユリアはすべての食べた料理をレパートリーに加えるべく、メモをしているのだった。

 少し離れたところでは、浅間・咲耶(ja0247)、伊那 璃音(ja0686)、水杜 岳(ja2713)の三人が膝の上に猫を乗せ、お茶を楽しんでいた。
「連れてこれなくて残念」
 飼い猫のサクラを連れてきたかったが、校内行事ということで諦めるしかなかった。
 その代り、サクラと友達になれそうな写真をたくさん撮って行くつもりだ。
 璃音は念願の蜜香紅茶を堪能し、膝の上の猫に癒されてご満悦だった。
 従兄弟の岳は茶菓子を口に咥え、猫じゃらしとデジカメで猫を撮影だ。
 少し奥づまったところでは櫟 諏訪(ja1215)と藤咲千尋(ja8564)が猫も、料理も居心地の良さも堪能していた。
 二人仲良く、台湾の家庭料理をちょっとずつ頼んで食べたりしている。
「猫カフェ! ひゃーひゃー、写真撮ってもいいのかなー?」
 少し興奮気味に千尋が言った。
「いいんじゃないでしょうかー? おー、結構人懐っこいですねー?」
「ちょっとブサイクちゃんなくらいが可愛いねー♪ あ、でも美人さん……美猫さんも可愛いにゃー」
「ん、でも千尋ちゃんが一番可愛いですよー?」
「あばばばッ」
 そんなことないと言いたげな彼女に、諏訪は少し余裕の笑みで返した。

 猫カフェで楽しむ人間がいる一方で、華僑の子供たちは親の生まれ故郷を楽しんでいた。
「何か初めて来た気がしないの!」
 周 愛奈(ja9363)は目を輝かせる。
 楊 玲花(ja0249)は公用語の北京語に台湾語混じりで会話して、地元の人のお勧めの隠れた名店を探し当てていた。
 三人はそこでお茶や食事を楽しんでいたのだ。
「母様から習った台語が役だったわね」
「そうだね。やっぱり味付けはちょっと違うね」
 弟の楊 礼信(jb3855)が答えた。
 それぞれに台湾のカフェをい楽しんだ一同は、各々目的地へと向かって行った。

●台北一日目【昼】お洒落巡り
「ほわわぁ……いっぱいお服があるの!」
 愛奈は一層目を輝かせて言った。
 目の前には輝くばかりの布の山。チャイナドレスのオーダーメイドのショップ内に三人はいた。
 母親のように見守りつつ案内してくれたのは、従姉妹の玲花。彼女のように素敵なレディーに見える服が愛奈は欲しかった。
「姉様、愛ちゃんに似合うのを。見立てて欲しいの」
「既製品じゃなくて?」
「だめなの。愛ちゃんのが欲しいの」
「……姉さんはともかく、愛ちゃんも興味津々なんだ。女の子ってそんなものなんだね」
 礼信は感心したように言った。
「いつも赤い服だから、今度は白とピンクなんかどうかしら? 雰囲気が一層変わるわよ」
「んー……ピンクなら着る!」
 お気に入りは赤だけれど、白地にピンクの蓮が美しいなら素敵かもしれない。
 玲花も既製品ではバストサイズが合わず、オーダー品を頼むことにした。色は牡丹色だ。
 商品が出来上がるのは帰国前日の夜ということで、その日に届けてもらうことにした。
 三人は選んだ服に合いそうなチャイナシューズを探しに近辺の店に行くことにした。

●翼の名を持てし者の休日
「凄いな。学園の修学旅行生で余計にごった返してるな……」
 ユウリ=アルバート(ja5312)は溜息を吐いた。
 ここは光華商場。八徳路、市民大道、新生北路が交わる三角地帯に完成した6階建てのビル(光華数位新天地)にかつての光華商場にあったショップと西寧電子商場にあったショップが移った場所だ。400近いPC,電子機器、ソフトウェアの専門店が集中する巨大市場である。
「お〜! 何か、別世界って感じや〜」
 月岡 華龍(ja5306)は興味津々に周囲を見回し、顔を輝かせながら言った。
「なかなか綺麗な建物やな」
「これだけ賑やかだと、良からぬ事する奴も居そうだな」
 麻生 翠(jb0725)もそう言いながらも楽しげだ。
「迷子になるなよ。千歳も何かあったら言えよ?」
「僕はみんなといるだけで楽しいから、これといって欲しいものは……それより、ユウリは何か欲しいモノあった?」
 伏見 千歳(ja5305)は穏やかな笑顔で答える。
 彼が笑うと、いつでも場が和むような柔らかな雰囲気が漂うように誰もが感じるものだ。
 故に、裏で『慈悲の天使=ミカエルと』呼ばれるのも当然であろうか。
「俺? とりあえず、煙草の煙が欲しい」
 ユウリは人ごみの多さを慮って煙草を吸うのを控えていた。通りすがりの人間を火傷させてしまわないようにとの配慮だ。
 それだけここは混雑していた。
「タバコ吸えるところで休憩したらええんちゃうか? 俺はちょっと、新しい機材が欲しいんやけどな〜。持ち帰ったらアカンかな?」
「欲しいの見つかったんですか? たぶん持ち帰っても、大丈夫だと思いますよ」
「なら買うかなあ」
「歩くの、疲れた……」
 月岡 朱華(ja5309)は壁際に座り、荷物を地べたに置いて深い溜息を吐く。
 元々、騒がしい場所を苦手としているせいもあるだろうが、暑いのと疲れたのとでダウン寸前だ。
「そんな所で座り込んでると迷子にならないか?」
「朱華、何処かのお店入る?」
「そうよ。私たちの買い物は休憩の後でもいいのよ?」
 朱華の双子の姉である月岡 瑠依(ja5308)は心配なのか声をかけた。
「いい……更に動くと、疲れる」
「じゃぁ、メインの買い物を終わらせて、あとはゆっくりとしましょう。それでいいわね?」
 地図を広げ、テキパキと行く先を確認すると、瑠依は最短距離で行ける道の方を向いた。

●中山北路へ
「濃い緑より赤かな」
「瑠依には、赤が似合うかな〜。濃い緑も可愛いかも。あ、脚は見せてね!」
 村沢 昴(ja5311)は微笑んだ。
 愛しい瑠依がより魅力的になるのは、恋人として至福の時とも言える。
「もう……からかわないで」
 言いながらも、瑠依は恋人からの「可愛い」の言葉に頬を染めた。
 深緋で蝶柄のスリット入りミニ丈のチャイナドレスを纏い、瑠依は皆の前に登場する。
「あら、思ったより、スリットが深いっ」
「凄く似合ってるよ。可愛いし、綺麗だよ」
「まぁ、チャイナドレスは身体のラインが出るからな。でも、3人共似合ってる。瑠依は……頑張ったな」
「おー……綺麗、だねー」
「わー! 瑠依さん綺麗ですっ! 那耶ちゃんも可愛い」
 マリア=クリスファー(ja5310)は眩しそうに微笑んだ。
「お、やっぱり似合う! 超綺麗!」
「昴、恥ずかしいから。朱華も有難う」
「じゃあ……はい。瑠依、これで完璧だね」
 昴は瑠依の後ろ髪を上げ、買ってきた髪飾りを丁寧につけた。
「買って来たの?! あ、有難う」
「凄いねぇ。俺も髪留めとかほしーなー」
 紫音=コトニー(ja5322)は少し羨ましそうに言った。
「瑠依姉もマリアも似合ってる〜! 可愛い!」
 嬉々として抱きついたのは四条 那耶(ja5314)。濃い赤のミニ丈のチャイナで鳳凰の模様入りのドレスを着ていた。
「那耶もマリアも似合ってる。可愛いわよ」
「えへへ♪」
「へぇ、似合ってるな。那耶も、意外とな」
「いやいや、ユウリ。那耶ちゃんも普通に似合って当然でしょー?」
 そんなやり取りの横で、幼い恋心たちが囁き合う。
「り、リオン……似合ってる……かな?」
「……いや、あの。にっ、似合ってる! 似合ってる……うん。可愛い、と……思う」
 リオン=アルバート(ja5307)の声が段々と声が小さくなっていくのは、マリアが片想いの相手ゆえ、照れて直視出来ないためだろう。
「皆で、一緒に写真撮ろう?」
 恥ずかしさと嬉しさがない交ぜになった笑みで、マリアに皆に言った。
 そして、皆で記念写真を撮った。

●エステ天国
「お肌がとてもきれいですね!」
「ありがとう……」
 神凪瑞姫(jb2553)は店員に向かってミステリアスな笑みを浮かべた。
 悪魔らしく欲望に従順に台湾を楽しむつもりだったが、まず、自分磨きと疲れを癒やしに来たのは正解だった。 
「えっと……久遠ヶ原の方ですよね?」
「え?」
 そっと声をかけてきた人物を振り返ると、小さな青い天使のような少女がいた。
「しょ、小等部?」
「は、はい……」
 申し訳なさそうに言ったのは逸宮 焔寿(ja2900)。
 箱入り娘ゆえ、外出に制限があった分買い物を楽しもうと選んだコースに、エステが入っていたのだった。
「不釣り合いとか……ううっ」
「そんなことないわよ。綺麗になることは良いことだと思うのよ。点呼係の人間が連れてきてくれたんだから、問題ないよ。あんた、独り?」
「はい」
(これからフォトスタジオとか……恥ずかしいですぅ)
「そうかい、じゃあよかった。チャイナドレスのオーダーメイドとアクセサリーを見に行く予定だったのよ」
「え? ショッピングはかかせないですよねっ! よ、よろしかったら……」
「ああ、いいわよ」
「よかった!」
 焔寿は心の中で「ネイルアートも一緒に受けれるかも!」と快哉を上げた。
 二人は会話に花を咲かせつつ、小龍包など、グルメを堪能した。

●パンダイズム・猫空
「やはりここしかあるまい」
 呟いたのは、ジャイアントパンダの着ぐるみを纏い学園内を闊歩する奇人、下妻笹緒(ja0544)。
 それに応えたのは?
「うぉぉぉ、てめぇら、可愛いじゃねーか。パンダか、でかいくせにその愛嬌はなんだ、俺を悩殺しようってのか! あ、もう一頭居やがるぜ☆」
 檻の前で少年のように目を輝かせるオッサン、それはアドラーだった。
「私はパンダではない! しかし、真のパンディスト(パンダを愛する者)であることは違いがないな」
 食事も楽しみだが、やはり一番の目当ては台北市立動物園と、すべての楽しみを捨て笹緒はここへ来たのだ。
「パンディスト?」
「広い園内をじっくり回ってみようという者もいるだろう。ここでしか見られない動物を一目見ようとする者もいるだろう。だがしかし! そういうワケにはいかない」
「ほう……」
「あくまで、そうあくまでパンダを追求しなければならないのだ」
「それがパンディストか。あぁ、もふりてぇぇぇ」
「私をもふるな!」
「チッ、ダメか」
「では、二頭のパンダ、団団と円円をじっと見つめる作業に入る。来たばかりの時期ならともかく、今ならゆっくり見られるハズ」
「じゃあ、俺も一緒に見るぜ。お前詳しそうだからな」
「智こそ黄金。求めよ、強く求めよ!!」
 二人が妙な一致団結を見せた頃、諏訪と千尋は恋人とのデートを楽しんでいた。
「檻のない動物園!!来たかったのー!! あ、パンダ!!本物のパンダ!!」
「おー、すごい近い感じがしますねー。トレインバスも楽しかったし、来て良かったですね」
 諏訪は動物園の檻がないことにちょっとびっくりしていた。
 しかし、パンダのところは檻がある。
「……すわくん、あのパンダ、動かないねー。撮影しやすいからいっかー」
「そうですね。たくさん写真撮ってくださいね」
「はーい♪」
 千尋は元気に手を上げて言った。

 その横で、ひたすらパンダ鑑賞に明け暮れているのが東 冬弥(jb1539)。
「パンダ、可愛いよパンダ」
「はろーはろー。アイム悪魔の怠惰ちゃんだ。良かったら一緒にどうだい?」
(やべ、変なのに絡まれた)
 ゆるゆるオーラを放つ不破 怠惰(jb2507)に声をかけられ、冬弥は「見つめ合うと素直に話ができん」と、全力で茂みに退避。
(まじ不覚……あ、どーもお構いなく。いやいやほんと)
「あれ、驚かせた? いきなりはまずかったか」
(伊達に数年引き篭もってねーのよ、諦めな)
 呟いた不破は悪魔独自の能力を使うことにした。
(あーあー。……今……君に直接……語りかけています。良ければ……名前、くらいは教えて貰えないか、い?)
(!? 今こいつ喋ってないのに声したぞ)
「何、今の腹話術?」
(そういや悪魔だっつってたっけ。俺、あいむ人間の東冬弥。とりまよろー。いーな、その能力)
(ん、私も引き籠り冥界時代は世話になったスキルだ。でも、人界面白いのによく引き籠ったな)
(俺の人見知り生活が捗りそ……)
「よし! もうちょいよく見える所を探そう」
 相手に笑って欲しい気持ちが芽生えた不破は、冬弥を抱えて自分の羽で飛ぼうとした。
「ちょ、おま、飛、やめ、ぎゃあぁあ!」
「あ、ごめっ」
(死ぬかと思った)
 焦りながら冬弥は地面に降ろしてもらう。
 少しばかり話しをした二人は次第に打ち解けていった。ぬいぐるみを強請られるぐらいに。
「えへへー、ありがとうな」
「まぁ、久々に楽しかった、かな。またね」
 学園でもまた会えるかなと期待を胸に、二人は別れた。

●太魯閣峡谷へ
「久々の海外!ゆっくりしますか…」
 ソリテア(ja4139)は峡谷を見上げて言った。早くも羽を伸ばす気満々だ。
 こちらは中等部の温泉めぐり御一行様。他の生徒に紛れ、ゆっくりと歩いていた。
「ふむ、炭酸カルシウムの味。流石、大理石の産地ね。この青い水も、全部大理石が溶けたせいなんだって」
 エヴァ・グライナー(ja0784)は岩肌を少し指で擦って、それを口に含んだ。
「そう、なんですか? 綺麗な色……大丈夫、ですか?」
 ユイ・J・オルフェウス(ja5137)は心配そうだ。
「うん、練り歯磨きにも入ってるし、食品添加物として認められてるよ?」
 そんな話に花を咲かせ、峡谷を進む。
 そして、たどり着いた文山温泉で三人は温泉に向かった。
「早速入りましょうか!」
 エヴァは突如として脱ぎだしたものの、しかし中身は水着であった。
 ユイも恥ずかしいのか、水着にラップタオルを巻いていた。
「はふぅ……体が軽く」
 ソリテアの日頃見せない気の抜けた感じはダダ漏れ状態だ。
 それほど、昼間の温泉は心地よい。
「みんなで、温泉、嬉しい、です」
 ユイにとって、これが一番楽しみだった。
 皆も一緒に笑い合った。

●九分のノスタルジックな散歩
「爽やかで花の様な香りは本当に素敵……修学旅行帰りに渋谷でルピシアのお茶でもと思ったけれど、こっちで凍頂烏龍茶を買いだめしちゃいましょう」
 シノワテイストのインテリアにうっとりしつつ、伊那 璃音は九分茶坊で、憧れの特級の凍頂烏龍茶を楽しんでいた。
 先程はあの有名な阿妹茶酒館(アーメイチャーグァン)でテラス席を希望し、眺めと茶器とお茶の香りを満喫。本当に今日はお茶三昧だった。
「そうだね」
 真剣に店員の手つきも見入る璃音に苦笑しつつ、浅間・咲耶は記念写真を幾度も撮った。
 女性と見紛う容姿の咲耶に気付き、店員が写らないのは勿体ないと写真を撮ってくれた。
「おや……先程の猫カフェにもいましたねぇ」
 カーディスが声をかけたのは、もちろん璃音たち三人だ。
「あ、黒猫さん……じゃなかった、えっと……」
「カーディス=キャットフィールドと申します」
 黒猫の着ぐるみ執事――ではなく、黒猫紳士の彼が立っていた。
 岳はへらっと笑いつつ話しかけた。
「ここで着ぐるみ?」
「これが礼服なんですよ」
 などと嘯いてみたりして、カーディスは伊達眼鏡を指で押し上げ、ふふりと笑う。
 九分での服装は黒猫着ぐるみに礼服という出で立ちである。
「よかったらご一緒にどうですか?」
 田中 裕介も声をかけてくる。
「あ、みなさんカフェにいた人たちばかり……」
「あなたは阿妹茶酒館にもいましたよね?」
「えぇ、見てたんですか?」
「私たちも同じコースだったんですよ。それにちょっと猫カフェで元気がなかったみたいですし」
「あ……うちのさくら――飼い猫なんですけど、連れてきたかったなあって」
 思い出して璃音は寂しそうに笑った。
「それは残念です! というか、あなたも猫好きですか☆」
 カーディスは少々ノリノリの様子。
 璃音も微笑んで頷く。
 螺子巻ネジも璃音に声をかけてきた。
「ネジもいたのです☆ あったかいモノが飲みたいのですー♪ あ、いい匂い、くんかくんかなのです☆」
「これ、おいしいですよ?」
「じゃあ、同じのを頼むのです♪ さっきのお店もアニメの中みたいで素敵だけど、こっちのインテリアも素敵です☆」
「ですよね! 席も空いてるし、どうぞ♪」
 璃音が端に寄り、咲耶も岳も少し端に寄った。
 そして、総勢12名のお茶会が始まった。
 知らない人間が増えたことに驚いたべべドア・バト・ミルマが棺桶から出てこなかったり、店員が着ぐるみのカーディスに驚いたり、武田 美月が撮ったスマホのデータの中にメイド姿の点呼係が写っていたせいで田中氏が異常反応を示したりとか。
 にぎやかなお茶会は、九分の街並みが夜の帳に包まれるまで続いた。

 お茶会が終わると、夜の九分を楽しむため、皆で移動する。
 阿妹茶酒館の目を通りかかると、赤い提灯が並ぶ様はとても美しく、皆はずっと眺めては写真を撮った。
「こういった建物は、割と好みなんだ……」
 アウレーリエ=F=ダッチマンはじっくりとその景色を眺める。
「じゃあ、皆で写真を撮りましょう」
 咲耶が気を聞かせて言う。
「ボク様は幽霊みたいなものだからね。下手に堂々と写って、思い出の一枚が思いっきり心霊写真になっても不味い気がするけど?」
「そんなことないですよ」
「そうだよ、気にしなきゃいいのに」
 岳も買い食いの小龍包に齧り付きながら言った。
「でもねえ……」
「一緒に移りましょう! そうだ、ベベトアさんもいかがですか? ……あっ!」
 咲耶が声をかけると、ベベトアは恥ずかしがって棺桶の中に隠れこんだ。
「イヤじゃない、でもワタシは恥ずかしい……」
「べ、ベベトアさん……階段で棺桶に入るのは……あ〜〜」
「!!!」
 棺桶が落ちる瞬間、黒猫がやってきて、運送アルバイターのテクニックでひょいと抱え上げると落ちないように支えた。
「ひッ……お、落ち、る」
「大丈夫大丈夫♪」
「うう、怖かっ、た。み、ミンナ撮るならやる……」
 棺桶から顔を出し、ヌイグルミを抱きしめながらベベトアが言った。
「おお、それはよかった! では、全員で写真を撮りましょう」
「あ、入れて入れて!」
 茶館の方は観光もそこそこに、買い食いしまくって食の方で大いに楽しんでいた心が走ってきた。
「あ、私も写してほしいです♪」
 九分の美しい景色をこっそりと翼で飛んで楽しんでいたエリーゼ・エインフェリアが舞い戻ってくる。
 滑空してくるエリーゼを受け止めるように、みんなの笑顔が輝いた。
 その瞬間、カーディスのセットしたタイマーがゼロを示し、カメラが思い出の一コマを切り取った。

●翼の名を持てし者の休息
「急に皆と離れるから何かと思えば…」
 月岡 瑠依は村沢 昴に連れてこられ、超高層ビルの前でその巨大な建物を見上げていた。
 台北101(イーリンイー)。全長508mという摩天楼である。
「夜景が綺麗な所を探しておいたけど……ここが一番なんだ。さあどうぞ」
 昴は麗しの皇女をエスコートするかのように、すっと自分の腕を差し出した。
「しょうがないわね」
 微笑を浮かべて瑠依はその腕に自分の腕を回した。
 85階のレストランへと向かうと、すでに予約はされていたようで、すんなりと入ることができた。
 モダンでシックなインテリアと美味しい台湾料理を楽しみながら、二人だけの空間を楽しむ。
「この光をあげるっていうのは出来ないけど」
 不意に昴が言った。
「は?」
「……俺は、あげられるよ? いる?」
 食事中は料理を楽しむべきと、台湾料理を味わっていた瑠依はその声にふと顔を上げる。
「そうね……」
 並んで二人は夜景を楽しんでいたが、瑠依は横を向くと軽くキスをする。
「仕方ないから……貰ってあげる。昴は……私がいる?」
「もちろん」
 そして、二人の影がまた重なった。

●遼寧街夜市

「わぁ……色んなお店がある!」
 マリア=クリスファーは溜息を吐いた。
 遼寧街夜市(リャオニンチエイエスー)は台湾の中でも異色の夜市だ。食べ物しか扱わず、生き残りをかけた店舗同士の競争は熾烈極まる。
 そんな夜市の看板をマリアは目を回しそうになりながら見上げていた。
「そうだな」
 リオン=アルバートはぼそぼそっと呟くように言い、片思いの相手のマリアに微笑んだ。
 しかし、周囲はそんな淡い恋心に干渉したいもので、リオンの周りで好奇心を発揮し始める。
「何〜? 二人でデートしようとか考えてるのー?」
「うるっせぇし! あぁぁ、こっち見んな!」
「えー? 何で見ちゃダメなのー?」
「何だよ!」
 からかわれ、顔を赤くさせてリオンは紫音=コトニーに怒鳴り返した。
「リオン、顔真っ赤だぞ? 男がそれで良いのか?」
 麻生 翠もからかい始め、助けを出すようにマリアが言った。
「……あの……手、繋ぐ…?」
「ああ……」
 照れ隠しに短く言うと、マリアの手をしっかりと握る。
「へっ!? あ、う、うんっ♪」
 マリアは不意の相手の返事に、ふわと表情を変えた。花のような笑顔がこぼれる。
「あ、リオン……何か屋台で買って食べよう?」
「そうだな、行こうぜ」
 照れた表情を隠し、リオンはマリアの手を強く握りしめた。そして二人は駆け出していく。
「あんま、遠くまで行ったらアカンで〜」
「本当に2人とも可愛いね。微笑ましいな」
「微笑ましいというか、一進一退状態だろ」
 千歳の言葉にユウリが呆れる。
「紫音、いい加減にからかうの止めろ。お前は酒でも飲んでろ」
「ちぇ〜、つまんないなあ。華龍、これ強いけど、なかなか美味しいよ? ほら、もっと飲もうよ」
「ペース早過ぎやろ」
「おかわり買って来ようか。僕もマンゴー豆花とか買いに行って来るから」
 千歳は言った。そして、周りに気遣いを忘れない千歳は那耶にも声をかけた。
「那耶、食べてる? あと、楽しんでる?」
「ありがとうございます。千歳さんも食べてます?」
「僕? 食べてるよ」
「そういえば……瑠依姉がいない。まさか、あの男……帰ってきたら、しばき倒す」
「あれ? 昴もどこ行ったんだろう……? 那耶、どうかした?」
「絶対、レストランあたり行ってる!」
「まあまあ、揚げパンドック買ってきてあげるから、ね?」
「はい、千歳さんが言うなら。……もぉ」
「おいおい……あんまり邪魔したら、馬に蹴られて死んでまうで?」
 瑠依の弟である月岡 朱華は、姉がいないことを気にもせず、黙々と食事を平らげていた。
「美味い。おかわり」
「お、意外とこの飯美味いな」
「さてと、俺も何か買って来る。朱華の食べるペースじゃ、買いだめしといた方が楽だしな」
 四条 那耶は立ち上がると、追加の食事を買いに行くことにした。
「千歳、俺もついて行く。新しい飯欲しいからな」
「あ、はい」
「華龍、酒飲み過ぎるなよ。紫音のペースで飲んでたら潰されるぞ」
「こっちの酒って、強いなぁ……飲みすぎ注意やで〜」
 すでに華龍は出来上がりかけている。
 そんな大人たちから遠く離れ、リオンとマリアは手を繋いで星空の下を歩いていた。
 リオンの手には、マリアからのお守りが一つ。
 そして、二人の心には、お揃いの思い出がしっかりと刻まれていた。

●花蓮の朝
「踊り……楽しみです」
 ユイ・J・オルフェウスは期待に胸を躍らせてMRTに乗り込んだ。
 先日、太魯閣で宿泊したユイたちは、リゾートホテルを後にして花蓮へと向かう。
 美しい海岸線も擁し、サイクリングロードのあるホテルにチェックインすれば、夜になるまで遊びつくす予定だ。
「温泉も堪能したし、ばっちり遊びますよー☆」
 ソリテアは背伸びをして言う。
 MRTの座席から解放され、エヴァ・グライナーも背伸びをする。
「次は阿美文化村よ。花蓮海洋公園はあとにしましょ」
「阿美文化村か……アミ族の結婚儀式の踊りが見れるんですよね」
「そうですね。見たら詩のいい案浮かんでくるかも、です。とても楽しみ♪」
 ユイは心躍らせて微笑んだ。
「あのー」
「はい?」
 声をかけられ、ソリテア達は振り返る。
 そこにいたのは、単身花蓮までMTRでやって来た逸宮 焔寿だった。
「阿美文化村に……行くんですか?」
「あ、はい」
「よかったら一緒にどうでしょう? わ、私……一人で」
「それは、寂しいですね」
「はい。でも、踊りが見たくって」
「ですよね。結婚儀式の踊り、と聞いたら、女の子じゃ、我慢できない……です」
 ユイは気持ちがわかるのか納得したように頷いた。
「よかったら、ご一緒、しませんか。たくさんの方が、楽しい」
「本当に?! わァ〜、ありがとう!」
 焔寿は快哉を上げた。
 四人は阿美文化村に向かうため、駅へと向かって歩きはじめる。今日は一日楽しくなりそうだった。

●日常への旅立ち
「すわくん、楽しかったね」
 藤咲千尋は微笑んで言った。
 櫟 諏訪も頷いて「そうですねー?」と答えた。
 あちこちで楽しかったねの声が聞こえる、にぎやかな空港。
「ここでも写真を撮りましょうか」
「あ、みなさん。チーズ、のタイミングで撮りますよ? 咲耶さん、岳さん、璃音さんもこっちへどうぞ」
 エリーゼとカーディスの声も聞こえる。
 岳は相変わらずの着ぐるみ紳士に笑顔で答えた。
「ありがとう! おーい璃音、転ぶなよ。転ぶの撮るぞ」
「え、やだぁ。意地悪言わないで。ああ、早くサクラちゃんに会いたいな」
(でも、ちょっと寂しい……)
 心の中で璃音は呟いた。
 今日一日みんなで台北で遊んだものの、少し寂しくて、空港の窓から見えた台湾の夕日が目に染みる。
 バイバイ、台湾の太陽。また来ますね、いつか。
 そんな気持ちを心に秘めて、生徒たちは闘いと学業の日々へと戻っていった。









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