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粉雪のスイーツ王国 タグ:【粉雪】  (白河ゆう)

●粉雪のゲレンデで遊ぼう
 今日び外国人と行楽地で一緒になろうと気にも留めるものでないが、セシル・ジャンティ(ja3229)は地元民の目、特に男性達の視線を集めるには充分であった。
 気高い雰囲気を漂わす金髪のお姉さん。
 だが、そんな彼女の手を取ってエスコートしているのがオリオン・E・綾河(ja0051)。
 とても勝ち目は無いとナンパ男達も肩を竦ませ、遠くから指を咥えて眺めるに留まる。
「まあ!とてもお上手ですね!」
「故郷はあんまり雪とかなかったけどね。ふふ、これくらいならヨユー」
 レクチャー実践編のお手本を。彼の軌跡をまだ少しぎこちなく辿ったセシルの感嘆に、くすぐったそうに笑う。
「次は下までノンストップでいってみようか」
 時には転倒も交えながら微笑ましいひとときを過ごし。
 ロッジで休憩しようかとその時になって彼女の歩き方が足首を庇っている事に気が付いた。
「無理はいけない」
 隠そうとしているセシルが断る言葉も紡がぬうちに、颯爽と抱え上げる。俗に言う『お姫様だっこ』。
「すみません…」
「ううん、気にしないでいいよ」
 覗き込むような顔の近さに胸が高鳴るセシル。鼓動が聴こえてしまいそうと思ったら、余計に心が静まらない。
(…嬉しいものですね)

「先輩、ゴンドラ降りたとこで待ち合わせって言ってたはずだけど…」
「はいはいそこで立ってると後続の邪魔だよ〜。あ、鳳さんじゃない、携帯出して何やってんの」
 待ち合わせ相手が約束の場所に待っておらず困っていた鳳 覚羅(ja0562)に降ってきた声は染 舘羽(ja3692)だった。
 彼女の横には一人なら一緒に滑ろうと誘われたルイーズ・J・ハーディントン(ja4280)。
「前のゴンドラに並んでいた佐倉井さん達と待ち合わせかしら?」
 英国からの留学生という事で、移動バスの中で自己紹介した際に双子姉妹とは母国の話題をちらと交わした。
 確か、彼も彼女達と同じ同好会のメンバーだと言っていたな、と思い出し。
「そうなんだけど…あ、メール来た」

『一足先に下の分岐点で待ってるよ。まりあがバージンスノーに我慢できなくて』
 佐倉井 まりあ(ja0534)の姉、佐倉井 けいと(ja0540)からの連絡。
「分岐点って何処!?たくさんあるし」
「何も書いてないならきっとすぐ下の分岐でしょう。行ってみれば判りますよ、きっと」
「じゃ、そこまで一気に。あたし、いっちば〜ん!」
 初体験と称する割には、余裕の調子でボードを滑らせた舘羽に続いて。
 余裕のシュプールを描くルイーズ。彼女達に先導されるように覚羅も向かう。

●それぞれのコースにて
「居た居た。あれ、一人しか居ないよ〜?」
 分岐点に設置されたリフトから少し離れて、手を振っているのは姉の方か。
「まりあは待つ時間も勿体無いとまた上に行ったよ。すぐ降りてくるだろう」
 高速カーブを描いてミサイルのように向かってくる、あれはまさか。
「ルイーズさん、あれって止まれるのかな」
「上級者でも厳しいですね。スピード出し過ぎです」
「鳳く〜ん☆はわっ!?」
「先輩、ちょ。ボクに突っ込んでこないでっ!?」

「あ…超難関コース行っちゃったぁ…けいとさんも顔色変えて追いかけてったけど大丈夫かな」
「見に行きましょうか。私は元々そちらを滑る予定でしたし」
「ルイーズさんが行くならあたしも行くっ!」

 保護者同伴だから大丈夫、ソリを抱えて頂上までやってきた紅葉 虎葵(ja0059)と依巫 桜(ja3314)。
 本当にここから滑る気かい!?と周辺客の注目を集める中、笑顔で二人乗り。いや笑顔は虎葵だけ。
 桜はあり得ない角度と眺望に怖気ながらも、背中から抱きかかえてくれる虎葵を信じて。
「イィエェーイ!」
「ちょっと、これ、スピード、出過ぎ。え、あかん。あかんコケるってば!?」
 カーブは曲がりきったものの引っくり返って、そのまま斜面をゴロゴロ。
「怖いけど、これめっちゃ楽しい!」
 二人揃って雪塗れになりながら、同じ事を繰り返し。
 中級コースの感触を楽しんでいたグラルス・ガリアクルーズ(ja0505)が180度のスピンをかけて進路を変える。
「…っとあれは何回もやったら危険行為で注意されるかな。ちゃんと僕達以外が居ないの見計らってやってるようだけど」
 今度はブラインドのスピン。再び軌道を元に乗せて、異なる色対の瞳を進路へと柔らかく向けた。
 その先。
「あぁ…そっちソリ飛んで行ったぞ!」

「どーだ、瑠華!俺のことも少しは見直しただろうっ」
 その気になればこんな技だって、と格好付けた星野 玲(ja0500)が転んだ上をソリが飛んで雪山に突き刺さる。
 桜を抱きかかえた虎葵は相変わらずゴロゴロ。
「もうっ、兄さんはすぐに調子に乗るんだか…ら!?」
 見直したのも束の間、呆れた顔をした星野 瑠華(ja0019)の瞳が大きく開かれる。
「今のは見極めた計算尽くの…」
「そうは見えませんでしたが。怪我しなくて良かったですけど」

「よーっし、滑るぞぉー!滑りまくるぞぉー!」
「おーっ!」
 初心者コース引率のお姉さん、鳴海 鳴海(ja2970)の掛け声に元気よく拳を振り上げて応える一騎 イェーガー(ja1796)。
 雪面に鮮やかなグリーンのウェア。その横でホワイト&ブルーに身を包んだ白馬 理央(ja5201)が見下ろす景色に感動している。
「雪!ゆき、ユキーッ!すごーい、何処までもまっしろーっ!」
 完璧を超える防寒装備。目出し帽にゴーグル、マフラーまでして。素顔は何処へ行ったやら。
 ちなみにウェアの中は、あらゆるポケットに携帯カイロだ。バスを降りる前からシャカシャカと振りまくっていた。
「…ボクも滑るの?」
 ソリ遊びするって言ったけど。まぁ、いいか。せっかくのお誘いだしね。
 一色 万里(ja0052)も杜七五三太(ja0107)の勢いに押され、スノーボードに挑戦。
「そのウェア、ヒーローみたいなデザインでかっこいいな!」
「そ、…そうか?」
 サイズが子供用しかなくて不満爆発だった七五三太だが、一騎から無邪気にそう言われては何とも。
(小坊じゃねぇーっての。ってか、その小坊に20cmも負けてる俺って…うわあああっ!?)
 絶対負けねぇ。絶対負けねぇ。
 そんな様子を微笑ましく落ち着いた雰囲気で眺めるリョウ(ja0563)。彼は黒一色。
 今日はのんびりと鳴海からスキーの手ほどきを受けるつもりだ。
「スノボはお手本見せれないけど。基本は一緒だからね、雪を怖がらず仲良くなろうっ」
 まずは邪魔にならない場所に移動しようね。そちらこちらで似た光景がほのぼのと繰り広げられている。
「…むむ。…っと!?」
 姿勢を崩したリョウが持ち直した反動で転倒して斜面に尻餅をつき、苦笑い。
「バランスが…難しいな」
「慣れだよ、慣れ。エッジ立てればスピード出ないから、もっと思いきって前に重心かけてもいいよ」
「ふむ」
「とりゃあぁっ!?」
 逆に思いきり過ぎて、派手な雪上大回転を見せてるのは一騎。真っ白である。
 だが徐々にコツを掴んで、滑れるように。一騎の上達速度に危機を感じた七五三太。
 対抗意識を燃やして力み過ぎて、大変勢いのある滑落を見せる。
「おー。七三五太殿、お見事」
「これはパフォーマンスだかんな!」
「ボクだってやれば…」
「ちょ、待って万里。俺の方に突っ込んでくんな。うわああっ」
 スキーは初ではないが上達の為、基本から癖を見直してみようと理央は励んでいた。
 一緒になって笑い、たくさん滑って。とにかく目一杯みんなと時間を過ごせるのがいいね。

●ほのぼのファミリーゲレンデ
「もう、龍兄遅いよ〜っ!って俺、もうそんな子供じゃねーから!」
 スキーを満喫して戻ってきた末松 龍斗(ja5652)に頭をわしわしと撫でられて、頬を膨らませつつも瞳を輝かせた末松 愛(ja0486)。
 最初は一緒にと難関コースへ挑戦してみたが、降りられずに兄を困らせてしまった。難関は本気で難関だった。
 悔しいからその後は、同年輩の女の子達とソリ遊びしながら待つ事にして。午後は中級か上級のコースを一緒に滑る約束だ。
 愛の傍には同じ小等部のキャラメリゼ・ブランシェット(ja3985)とあまね(ja1985)がはしゃいでいる。
「キャメルね、スキー場って来たの初めてなの!」
「みんなで…犬ぞりごっこしてたの」
 転げながら元気一杯走り回ってたようで可愛らしいワンピースウェアが雪まみれである。
 スイーツ柄と和柄、二人とも二人らしいのをレンタルショップで選んだようで。
「ん、おまえらだけで滑ってたのか?」
「紅華荘のお兄ちゃん達は上でスノボ?してくるって」
「カンシインのおじちゃん達もわんこさんしてくれたんだよ」
 大仰な身振りで伝えてくれるキャメル。表情がくるくると動く子だ。
 学園の団体さんという事でスキー場側も把握している。楽しんできなさいと年長の子から監視員が預かっててくれた。
「そろそろご飯で戻ってくる時間かな〜、あまねちゃん」
「うん。お腹空いてきた…遅れたら…」

 あまねの表情が黒くなる前に、ジャストタイミング。
 英 御郁(ja0510)とジェニオ・リーマス(ja0872)が颯爽と運動に火照らせた顔でやってきた。
「いやあ、ゲレンデは最高だぜ!な、やってみて良かっただろ?ジェニオ」
「僕、スイーツとか可愛いふわもこと遊ぶ予定だったんだけど」
 と言いながらジェニオも満更でもない様子。見よう見真似であっという間に上達。
 華麗に銀片を撒き散らせてトリックをキメる御郁と、ベストコンディションの斜面を楽しんできた。
「スイーツも可愛いふわもこも、ここに居るじゃん。雪だってふわっふわだぜ。だからオッケー」
 びしりと指さされたキャメルは、うんまぁ確かに全身スイーツ?耳あてまでマカロンみたいで美味しそうだ。
「よーし、ロッジで温まったら撤収時間まで滑りつくすぜっ!」
 翌朝になって、全身筋肉痛で動けなくなったジェニオが御郁に慰めて貰っていたのはご愛嬌。

「龍兄、ニヤニヤ見るな!負けたくせに〜」
 本気勝負で妹に負けるとは。
 うん成長したな…って甘々のミルクコーヒーを注文する姿はやはりまだ子供。
 負けたらオゴリの約束も売店のおでんと可愛いものだ。
 さ、残り時間は少ないし近場でソリ遊びでも一緒にするか。

「万里、何作ってたんだ〜?」
 集合時間だよと呼びかけに来た七五三太。
 せっせと大量の小さな雪だるまを作っていた、万里がにっこりと笑って振り返る。
「ここに来たみんなの雪だるまだよ。え〜と、一番低くて小さいのが七五三太殿♪」
「そんなちっこいの俺とか言うなっ」
 むきーっ。
「おーい、そこの二人。雪合戦してないでバス前に集合しないと、置いてっちゃうぞ〜」
 面倒見の良い鳴海が呼んでいる。
 さあ、宿舎に向かわないとね!お風呂入る時間も無くなっちゃうよ。

●触れ合いの牧場体験
「ぬ…中に着込み過ぎたのじゃ」
「北海道初めてだけど〜、建物の中ってこんなに暖かいんだね♪」
 もっこもこに着込んだ楠木 くるみ子(ja3222)にコートを脱いだ西条祐子(ja4491)が笑い。
「くるみ子、もっと近くに来るのですよ。牛さんが人懐こくて可愛いですよ〜」
 真っ先に突撃していった黒羽愛(ja3739)が顔をべろべろにされながら笑顔で振り向く。
「いや大きくて…あ、綾夢だって見学じゃろう?」
「あたしは、愛お姉ちゃんのお手本を見てからなのですぅ」
 巫女衣装が揃って。くるみ子(ja3222)と各務綾夢(ja4237)の鮮やかな色の袴は牛舎に眩く。
 向こう側に居る神城 朔耶(ja5843)もなので、まるで三人が並ぶと制服のよう。
「わ、妾達を見て興奮したりしないのか。そのぅ…闘牛みたいに」
「楠木さん、牛は色を識別できないそうですよ?」
 牧場主から聞いた知識を披露するソリテア(ja4139)。カラフルな格好でも全然問題ない。
 服が汚れるかもしれないから気をつけなよとは言われたけど。
「牛さん…よろしく。おいしいミルク…ちょうだい?」
 乳牛と会話してる、ように見える女の子。いや彼女の方は本気で会話している。
 舞川 千里(ja4716)は慣れぬ指遣いで牛が首を横に振ればこうかな?と顔色を伺いに行き。嬉しげな鳴き声を聞いては頬を緩める。
 牧場のおじさんがアドバイスするまでもなく、不思議な自己流で効率的な絞り方を会得していた。

「…皆さんみたいに出ませんね」
「怖がったら牛も緊張するから思い切ってやるといいんだって」
 本に書いてあった事を思い出して、シェルティ・ランフォード(ja5363)にアドバイスする四条 和國(ja5072)。
 場所を代わって挑むが。
「って、あれ出ないや」
「四条君、指は人差し指から順にですよ?」
「そうだ。そういえばそう書いてあったっけ」
 和菓子(ja1142)に言われるまで頭からすっぽり抜け落ちていた。
 せっかく予習してきたのに!でも会話のきっかけ掴めたから、いっかぁ。
 添えた指を上から順に絞ると、今度はちゃんと乳が勢いよくピューッと出る。
「状態がいいですね…日々愛されて生きておりますか」
 和菓子は朔耶と組になって。ずっと目を閉じた彼女の手を取り、まずは牛を撫でさせて。
 腰掛ける木箱を運んできてあげたり、買って出て世話を焼いていた。
「ありがとうございます」
 目を開かないというだけで他は変わったとこはない。和菓子と雑談に興じながら楽しげに乳を搾っている朔耶。
「バケツが一杯になってきましたよ」
「あら。では交代にしましょう。和菓子様どうぞ」

●さあお菓子作りますよ
「スイーツと聞いては黙ってられませんよね!さあ、お菓子部の本気を見せる時ですよ〜っ」
「美味しいお菓子を作りましょう〜」
 二階堂 かざね(ja0536)の声に櫟 諏訪(ja1215)が続く。
「うん、美味しいお菓子をね。みんな、大丈夫だと信じてるよ?」
 かざねは材料の準備にうきうきで、大浦正義(ja2956)の視線には気が付いていない。
 本人はもちろん自信満々である。
「…クッキー作りたいな」
 スタンダードなのは得意だけど。色んな材料あるしアレンジの練習もしたいよね。
 自分で作ったバターは室温でよしっと。あ、ダブルチョコとか作ってみようかな。
 湯銭する前に刻んで…と、あおい(ja0605)の手際は淡々と一般的なレシピ通り。
 勉強中だけあって基本の基本から忠実。
「ユキもクッキーにする!あおいちゃん教えてね!」
 羊山ユキ(ja0322)もクッキーに挑戦。
「ところで諏訪さんは何作るんですかぁ?」
 羽鳴 鈴音(ja1950)は何を作ろうかと思案中。仲間にまずは確認してみたり。
「自分はミルクパンケーキにしようかな、と」
「かざねちゃんは〜?」
「私?私はね、しっとりふわふわのスフレ!」
 言ってる傍から違う物が出来そうな勢い。
「ああ、かざねさん!メレンゲ作るなら卵は冷えた物を…って最初に入れる!?」
「え、全部混ぜるんじゃないの!?」
「材料はあってますけど…」
 普通のベイクドを作るなら。でも、それにしても手順が。まだクリームチーズが固まりだし。
「メレンゲはこの後入れるし大丈夫だって♪」
 後ろでヘラを握り締めた正義の笑顔が心なしか引き攣ってるよ。
(諏訪さん、頼む。まともな物に誘導してくれ…)
 さてと黙々と作業している更科 雪(ja0636)は大丈夫かなと振り返れば。
 選んだボウルが小さ過ぎて、材料が溢れ返りそうになっている。
「普通に作るより、一工夫したほうがいいかなぁ?」
 首を傾げる鈴音。とりあえず時間内で色んな物を作れそうなクッキーで。
 レシピ通りなら自信あるし。色々試しに入れてみようっと〜。

「リコッタチーズは熟成要らずなおかげで割と短時間で作れるから、一から自作なんてのも、ね」
 お鍋にたっぷりと牛乳を注いで、レモン汁と塩をひとつまみ。よく混ぜたら、後は火にかけて分離するのを待つだけ。
 様子を見ながら、その間にパイ生地の準備をね。バターはさっき牛舎で作ったのだと柔らかすぎるかな。
 溶かしこむ方に使うくらいなら大丈夫よね。と蓋付きの小瓶に入ったそれも取り出して。
「イタリアでちょくちょく作ってたけど。…あら、もういい感じかな」
 火を止めて、熱と水分が取れるまで。生地の方も冷蔵庫に入れてっと。
 その間暇ね、ジェラートも作っておこうかな。何も加えずにミルクの香りを楽しめるのでも。
 生き生きと料理の事で胸が一杯。ソフィア・ヴァレッティ(ja1133)の手際は慣れたもの。
 たくさん出来ちゃうけど、今日は試食する人も一杯いるものね。後でスキー組の人にも食べて貰おうっと。

 その向かい側で。
 黒髪をツインテールに結んだ少女?少年?が、料理というより怪しげな儀式を行なっている。
 魔女の秘薬でも作っているのかい。呪いでも込められそうな真剣な表情で大鍋を混ぜているが。
「で、き、たっ!」
 どろ〜り。
 謎のゲル状のペーストを作った姫路 ほむら(ja5415)。
 ぺろりと味見。熱っ!?
 見た目はともかくとして、味はまぁ悪くない。奇跡?いやたまにはこんな事もあるよ。
 何をどうやったら、こんな物質ができたかは。ほむら本人も再現できない。ゲル状にするだけなら得意だけど。
 今回の作品の味はチーズのようなミルクのような系列らしい事だけが確かである。色ととろみが何か間違ってるのは横に置いておくとして。
「俺、これ持って帰りたいんですけど。お土産用の袋って貰えるんでしたっけ?」
「さっきの実習で絞った牛乳とバター以外だったら、パッキングもしてくれるっておじさん言ってたね。鞄の中で漏れないようにやって貰ったらいいんじゃないかな」
 ジェラートの盛り付けに取りかかっていたソフィアが、お姉さんらしく答えて。
「ところで、今試食する分もあるんだよね。他のお菓子と一緒に盛り付けしてみたらどうかな?」
 ジェラートの周囲に絞ったら、何か本格的なデザートプレートっぽいし、プレーンクッキーやスコーンと組み合わせてディップにしても美味しそうよね。
 そうでもしないと、とても食べ物には見え…いえ、こほん。
「そうか、単独じゃなくてもいいんだなっ」
 想像するだけで瞳がきらきら。甘い物パーティ!この工房に立ち込める匂いだけで期待がそそられるよね〜♪

●お待ちかねの試食会
「これはちょっと焼く時間を間違えただけなんですからっ!味は絶対完璧です☆」
 ぺったんこの、たぶんスフレチーズケーキになるはずだった物体。
 表面はそれっぽいかな。表面は。
(いやこれ以上焼いても焦げるだけだと思いますけどね…)
 諏訪が止めなければ、本当に焦がしていたかもしれない。
 まだ救われている。食べられそうだから。
 牧場産のバターにクリームチーズ、生クリームに小麦粉。贅沢に牧場の香りを詰め込んだ一品だ。
「こっちはお土産用だよ♪」
 可愛くラッピングされたクッキーは成功作の一部。試食用も含めたくさんできた。
 テーブルの片隅に罰ゲーム用と書かれたプラカード。そこにある袋も一杯詰まってるのは気のせいか。
「リミッター解除して、例え体重が増加しようと食べまくるっすよ♪」
 ここからが本番と気合たっぷりの大谷 知夏(ja0041)。
「あ〜もう、テーブルの上が天国っす。どれから試食するか迷うっすよ!」
 全部制覇する気は満々っ。
「諏訪先輩のパンケーキ、ミルクほわほわで幸せっす。んぐ、こっちのプリンも」
「知夏さん、夕食も美味しい物が出るっていうからほどほどにね」
「判ってるっす。余裕で…もぐもぐ…ごくん。別腹に入るっすから!」
 美味しいよ〜♪と雪もプラカードを掲げ、幸せそうな表情で頬張っている。

「雛さん、はは…お口の周りが白髭になってるよ」
「え…!?」
 懸命に牛乳を堪能していた月夜見 雛姫(ja5241)。菓子も進んでいるが、牛乳それで何杯目?
 慌てて手の甲で拭おうとするのを笑って制して、響 彼方(ja0584)がハンカチを出す。
「美味しいよね、ここの牛乳」
「はい…」
 濃厚で何だか効き目がありそうな気分。ええ、もちろん身長に。
「椎名、これも美味しいよ。食べてごらん…名前えと何だっけスフォ…」
「…スフォリアテッレ」
 小声で正確に発音する橘椎名(ja4148)。無表情に見えるが楽しんでる様子が鳴上悠(ja3452)には感じとれる。
 あーんとでもするように摘まんだ菓子を彼女の口元に差し出し、目を閉じた椎名が再び開いた瞳は輝いて。
 真似して同じ仕草で悠の口元へその白い指を運ぶ。

「ああいうの見てるとアテられるっすね。あ、そのシュークリーム俺が作ったんっすよ。どうっすか?」
「チーズクリームというのもいいですね。すごく美味しい」
 一人、何処か鬱いを帯びた横顔を見せていた氷雨 静(ja4221)だが、隣に座った虎牙 こうき(ja0879)に話しかけられると朗らかな笑顔に変わった。
「良かったぁ。牛乳も美味いし、みんな作った菓子も美味いし、最高っすね」
「そうですね。来て良かったです」
 あ…もしかして顔馴染みが居なくて退屈だったのかな?
 そう思い、積極的に話題を提供し続けるこうき。饒舌に返す静もお喋りを楽しんでいるように、見えた。

●研修施設に到着
「あれ…響さんと一緒じゃないの?」
 割り当てられた部屋番号を忘れないように、頭の中へメモしながら。
 壁に掲示されたプラスチック製の案内を見上げてる彼方から離れない雛姫。みんなそれぞれの部屋へとぞろぞろ移動を始めている。
「宿泊室は男女別棟みたいだね」
 建物は全部二階建て。レストランや浴場、絨毯敷きの大きな談話室はこの棟にあるけれど、宿泊室は幾つかの棟に分かれて連絡通路で繋がっている。
「でもすぐ夕食だから、ここで合流しようか」
「はい、荷物置いたら戻ってきますね」

「椎名、ここ二人分空いてますよ。同じテーブルいいですか?」
「どうぞどうぞ、舘羽さんいいですよね?」
「もちろん。せっかく一緒なんだから、ね〜」
 口数の少ない椎名にも積極的に話題を振る舘羽。人見知りなんて言葉は彼女に無縁。
 悠も同じテーブルに座った和國とあおいに話し掛け。頻繁に椎名の横顔に柔らかい笑顔を向ける。
「さって、デザート何取ってくる〜?」
「…全部」
「あおい、工房でも結構食ってなかった?そんなに入る?」
「別腹だから大丈夫だよね〜。ずる〜い、あたし昼スキーしまくりだったから倍食べてやるんだから!」
「はは、スキー組の分もお土産いっぱいあるから後で甘味三昧できますって。椎名、僕が持ってくるから座ってていいよ」
「悠?あたしも一緒に選ぶの」

「お風呂は女子8時半まででしたっけ。のんびり浸かろうと思ったら、あまりここに長居している余裕はなさそうですね」
 髪は部屋に戻ってゆっくり乾かすとしても、着替えが遅れたら早く来た男子を待たせてしまいますからね。
 宿舎に着いたら部屋に荷物を置いて、職員から注意事項を聞いたら施設内のレストランでバイキングの夕食。
 事前に資料で知らされていた通りだけど。
 昼間スキー場と牧場でたっぷり楽しんで貰う為に組まれたツアースケジュール。
 そこからバスで更に研修施設まで移動したら、着く頃には外はとうに真っ暗であった。
 周囲の会話からそろそろ19時になってしまうと、気付いた。
 時間にきっちり縛られたスケジュールで時計を見られないのは不便だが、誰かと一緒に居れば大抵不自由しない。
 返却台までトレイを下げに行った朔耶。瞳は相変わらず閉じたまま。
 連れ立つつもりは無かったが、静も早めに風呂を済まそうと思っていたので同じタイミングになってしまった。
 朔耶の横で静もトレイを置くが、乗っている皿は何度も交換した後である。
 少量ずつで合計しても腹八分目とは言っているが、さりげなく短い時間で全種類を制覇。
 ジャガイモのグラタンも牛肉コロッケもジンギスカンもポークカレーもシーフード焼きそばも。
 野菜サラダもアイスクリームもフルーツ白玉もスイートポテトも。
 ――美味しく平らげた。
 集団行動。常に誰かと一緒。もう一人の私が…絶え間無く元気に喋っていたよう。…だから身体は、相応の食欲を示していたと言える。

●まだまだ楽しむよ
「まりあ、そろそろ僕上がるよ」
「え、待って〜。私も一緒に上がる〜」
「さっきのアイス、談話室の冷蔵庫に入れといたから一緒に食べようか」
「うんっ」
 入れ替わりに入ってきた賑やかなのは、お菓子部の女子か。
「さぁさぁ、裸の付き合いをするっすよ!スキンシップっす!なで回させろっすよ!」
「知夏ちゃん、はしゃぎ過ぎ!」
 ばっしゃ〜ん。
「やったなぁ!ふふん、ユキは水鉄砲持ってきたもんね、反撃だ〜っ」
 大浴場、特に温泉とか特別なものではないけれど。ゆったりと楽しむのも良し、ここぞときゃっきゃするのも良し。
 後はもう寝るまでの時間を、満喫するだけだ。

 談話室。
(…結局、兄さんに教えて貰えなかったな)
 賑やかなトランプの輪には加わらず、ぼんやりと座っていた瑠華。スキーの快い疲れ、大きなお風呂でほぐした身体。
 ともすれば、このままうとうとしてしまいそうな。でもまだ部屋には戻りたくない。
 兄さんとおやすみって別れるまでは。
「起きてるか〜。俺もこれから風呂に行ってくるけど、ほらシュークリーム。牧場組が作ったんだってさ、瑠華好きだろ?」
「俺が作ったんすよ。たくさんあるし良かったら食べて欲しいっす!」
 包みを差し出した玲の向こう側でぶんぶんと手を振っているこうき。彼は大富豪の真っ最中。
 幾組かに分かれて、大勢がゲームに興じている。

「お〜い、次こうき君の番だよ〜。これパスしたら罰ゲーム決定だね」
「おっと鳴海さん待って〜。え、ちょっと。櫟さん何キング3枚も出してるっすか!?うわあ〜パスっ!」
「3回目きた〜っ。罰ゲーム♪罰ゲーム♪はい、罰ゲーム♪」
 ノリの良いお姉さん、鳴海の掛け声に合わせて罰ゲームの手拍子と合唱。
「くぅ。甘味の平和を守るヒーロー、虎牙 こうき!失敗作の無念、この俺が受け止めてやるっす〜っ!」
「いよっ、かっこいいね〜」
 むしゃむしゃごっくん。そのお味は…うんイマイチだが、白い歯を見せる爽やかな笑顔で。

「ん?…どうした、瑠華」
「……私は兄さんと一緒に食べたいです」
 壁の時計を見上げた玲、まだ時間は全然余裕。風呂はもう少し後でもいいか。
「しょうがない奴だなあ。一緒に食うかっ」
(駄目な姿ばっかり見せてくれる兄さんだけど、やっぱり優しいから…大好きです)
「今日はいっぱい遊んで、…楽しかったな」
「そうですね。明日はまた飛行機に乗って、この時間には久遠ヶ原ですか…旅の時間はあっという間ですね」

「おや、そっちもか」
 遊び疲れて談話室でそのまま眠ってしまった連れの愛を抱きかかえた龍斗。虎葵も桜を同じようにして運んでるのを見て唇が綻ぶ。
「女子棟にお邪魔していいかな。愛を部屋まで運ばないと」
「その子、同じ部屋だから。僕と一緒に行こうか」
「悪い、宜しく頼むな」

 毛布にぐるぐるに包まって、キャメルと部屋ではしゃいでいたあまねもすっかりお疲れ。
 夜更かしする〜と言ってた傍から。キャメルのベッドでそのまま一緒に眠ってしまった。
 万里とセシルも心地よい疲労感が全身に渡り、早めの就寝の支度。
「あ、でもまだ消灯の点呼があるんだったっけ。ボク瞼がもうくっつきそうだ」
「わたくしが起きてるから構いませんよ。全員部屋に揃っておりますし」
「じゃ、甘えてお先に…七五三太殿ももう寝ちゃったかな…」

「ん…お腹一杯で…ふぁ。ソリテア、せんり先に寝るね…」
 寮から持ってきたぬいぐるみを抱き締めて、半分もう夢の中という状態で二段ベッドの梯子を上っていった千里。
「お菓子…おいしい…むにゃむにゃ…牛さんも?これ…もっと食べる…?」
 どんな夢を見ているのだろう。彼女がちゃんと布団の中に入ったのを見届けて、そっとソリテアは扉を閉める。
 しっかりと重ね着の上にコートを羽織って。
「お待たせしました」
 ロビーでは愛、綾夢、くるみ子、祐子が同じように防寒対策をしっかりとして待っていた。
 彼女達は同じ部屋なのでルームメイトへの気兼ねは要らない。
「結構皆外に出ておるようじゃの」
「綾夢ちゃんまだ眠くない?」
「うん…あたしもみなさまと星を見たいですぅ」

●星空――銀世界
「さ、寒いですね…」
 マイナス、一体何度だろう。一桁では済まない。これだけ着込んでいても気を張りつめていないと全身が震える。
「見よ、なんと綺麗な星空じゃ…」
 星の事、久遠ヶ原に来るまでの事。とりとめもなく話し、空を見上げてるうちにくるみ子がふと無言で立ち尽くしていた。
 頬を伝う冷たい空気に晒された雫。
「くるみ子さま…?」
「いや、大丈夫じゃ、今の妾にはくるみ子とそして御主らがおる」
 いつものくるみ子に戻っていた。不安げに見上げる綾夢に笑顔を見せ、頬を拭う。
「旅先の思い出がたくさんできましたね。これからもみなさまと一緒にたくさん、たくさん作っていきたいのです…」
「そうじゃな…」
「ね、寒いけどここで星を見ながらケーキ食べない?冷たいけど、紅茶の方は熱々だよ♪」
 カットしたチーズケーキ1ホール。祐子がスイーツ工房で作ったうちのひとつだ。
 材料使い放題だからって一体どれだけ!?しっかりとこの他にお土産用に1ホール確保している。
「あったかい紅茶…はぁ、生き返りますね…」
 でも食べてるうちにやっぱり寒いっ!紅茶も冷めるのはこの気温ではあっという間。耳はもう痛い程。
「もっと見てたいけど、戻ろっか。風邪引いちゃうものね」

「少年とは会えませんでしたね…この星の数程の偶然…幾重もの巡りの末、彼に再会する日は訪れるのでしょうか」
 一人、ふらりと離れて学園に来るきっかけとなった夢へと想いを馳せる。
 長い長い夢。世界の姿を見失っていた少年の心を幾日も掛けて解き解し。
 自分は現実よりもたくさん世間を知っていて、導き手として彼の目指す新しい扉を指し示して。
 …目覚めたら柔らかな色調で統一された部屋のベッドで。半ば以上減った点滴の液。
 そう、どうしてか僕は北海道に居た。
「――君、和菓子君?」
「…ん?」
「そろそろみんな宿舎に戻るみたいだから」
「あ…すみません。ガリアクルーズ先輩も一人で見てたんですか」
「何となくね。そうだ、言いそびれてたけど抹茶ミルク美味しかったよ。あれも体験実習で絞った牛乳を使ったのかい」
「それを使おうかなと思ったんですけど。実習のは衛生管理上持ち出した後の責任取れないからって、お土産用のを貰いました」
「ああ、観光用の牧場だって、食品の安全にはうるさいんだろうなぁ」
「でもおおらかですよね。スイーツの材料もお土産も、全部実習のサービスに含んでるっていうんですから」

「和菓子おかえり〜。さすがにここじゃオーロラは見えないよな!」
 ゴォーッとリョウにドライヤーでかちんかちんになった緑髪を炙られている一騎。
 風呂ではしゃぎまくった後、星空を見に行くという面々に遅れじと乾かす間もなく飛び出していったからこれだ。
「俺も星を見るつもりだったが、風呂に入った時間がもう遅かったからな」
 もう一人同室のほむらはといえば、就寝前の全身お肌の手入れに没頭している。今は菓子とは違ういい匂いに包まれて。
 荷物がやけに大きいと思ったら、マイシャンプーにトリートメントに、ベビーオイルのボトルに。…メイクボックス?
 広げた中身はとてもここが男子部屋とは思えない。
 部屋の割り当て時に職員がまじまじと書類と見比べて、更に学園まで電話を掛けて確認したのもこれなら仕方がない。

「やった!そっちの部屋行ってもいいの?」
「規則は規則ですけど。灯りを消して静かにしてれば大目に見てくれそうですし、ね」
 部屋へ戻る廊下にて。足取り弾むユキに微笑むシェルティ。こういう時に羽目をはずしてみるのも、素敵かな。
「ベッドは4つしかないけど。雪ちゃん私のベッドでもいいですかねぇ」
「…わふ」
 かざねに手を引かれながら小さな欠伸がお返事。もう瞼がくっついてしまいそうな雪。
「知夏は鈴音ちゃん先輩と一緒寝るっすよ!」
「うん、鈴は小さいので大丈夫〜。旅先の宿での定番といえば枕投げだけど、さすがに怒られるかなぁ?」
「全員で冷たい廊下に正座は、ちょっと嫌っすね」
 施設職員による就寝前の各部屋点呼が済んだ後、暗い廊下をこそ〜っと。
 何を話してたかって?それは女の子だけの秘密☆

 翌日の空港へ向かうバスの中でも。お菓子の匂いが席巻していた。
「龍兄、その静の作ったブラウニー俺にも寄越せ」
「お前、さっき俺の分までマドレーヌ食っただろが!?」
「シェルティにちゃんとお礼言ったもんっ!静〜、俺食べてもいいよね?」
「はい。ルイーズさんこの袋、前に回して貰えますか」
「私も一個貰いますわね。理央さんもどうぞ」
「わ〜い、いっただきま〜す♪」
 白銀に輝く旅路。学生達がこれから開く扉は、それ以上にきっと眩く輝いてゆく事であろう――。
 若き撃退士達よ、大志を抱け。広大な北の平野が彼らの新たなる旅立ちを見送った。



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