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モデル体験ツアー〜らららガーデン♪〜 タグ:【モデル】  (藍鼠)

●らららガーデン♪
 埼玉県春日部市西口にあるショッピングパーク『らららガーデン』。
 三階建てからなるH型の建物は赤を基調としたチェックのヴァレンタインデーカラーに彩られていた。
(ケイさんとの初旅行っ! しかも御琴くんも一緒だし、なんか緊張しちゃうなぁ)
 親友の田村 ケイ(ja0582)と同じ中等部3年2組の御琴 涼(ja0301)と共にウィンドウショッピングを楽しみながら、椎名結依(ja0481)はほんのりと頬を染める。
「ま、時間までのんびりいこうかな。そこの無印優品よってみようよ。観葉植物みてみたいのよね」
 最近ガーデニングに目覚めたケイは、観葉植物の飾られたディスプレイが気になるようだ。
「ん……結構種類豊富なんだな。たっぷり見て行こうぜ」
 御琴は上着のポケットに両手を突っ込んで、ケイと結依の後に着いて行く。
「黒い天然石は扱っているかい?」
 ストーンマーケットでは、ヒンメル ヤディスロウ(ja1041)が店員に尋ねる。
 尋ねられた店員は直ぐに数種類の天然石をヒンメルの前に。
 特にいまはブラックスピネルがお勧めだとか。
「なかなかにいい色だな」
 ブラックスピネルと水晶、そしてスワロフスキーを飾ったイヤリングを手に取る。
 蝶のモチーフのそれは、ヒンメルの神秘的な雰囲気を寄り一層引き立てた。


「3時ごろに動かす機械なんかないかな? 奇妙な音について知りたいの」
 百嶋 雪火(ja3563)は携帯を片手に、らららガーデンの専門店を一軒一軒尋ねて回る。
 愛らしいわんちゃんにゃんちゃんとペットグッズが売られている『にゃんわんショップ』では調査には関係ないものの、写真をとりまくったり。
 普段はペットショップに限らずイベントステージ以外は店内撮影禁止のらららガーデンだが、久遠ヶ原学園の生徒達には事前に許可が下りていた。
(予定外だったけれど、いい写真が撮れたわ)
 間近でミニチュアダックスフンドの写真を撮り、雪火は義実家に預けている最愛の子供に写メール。
「あっれ、百嶋先輩いいな〜。俺にも写メ送ってくださいよ」
 雪火と一緒に聞き込み調査をしていた荘崎六助(ja0195)は、雪火がメールを送っているのをみて自分もおねだり。
「メアド、もう知ってるでしょう?」
「ちがうっすよ、先輩からメールが欲しいんですよ〜」
 へへっと笑う彼に、雪火はやれやれと肩をすくめてさっき撮ったばかりの別の犬の写真を送る。
「白い子犬、可愛い!」
 雪火からのメールに喜ぶ彼自身が子犬のようだ。
 そんなはしゃぐ彼に、ショップの店員が近づいてくる。
「その子達、本当は三つ子なんですよ。この子の兄弟は今日のファッションショーに出演するんです。良かったら、お二人も参加してみては」
 恋人に見えたのだろうか?
 ショーへの出演を勧める店員に、けれど六助は別の事が気になった。
「一匹はこの店内の子で、もう一匹はファッションショー。じゃあ、後もう一匹は?」
 尋ねる六助に、店員は肩を落として「行方不明なんです……」と小さく答えた。


●ファッションショー準備♪
「着る服は……お任せする事にしようか」
 ファッションショーに出ることになった天風 静流(ja0373)は、そう呟く。
 長身の彼女なら、どんな服も着こなせそうだ。
「まあ……貴重な体験にはなりそうだな」
 あれもこれもと静流に着せたがるレプシームの店員に、静流は苦笑しながら差し出された衣装に袖を通してゆく。
「おっと、これはそのままで」
 メイク担当のスタッフを杏子 イェーガー(ja0736)は手で遮る。
「このオッドアイの瞳も、この頬の傷も含めてあたしなんでね」
 そういって指差す彼女の右頬には、大き目の傷跡があった。
 彼女にとっては左右で色味の違う紅い瞳も、コンプレックスではなくむしろ確たる自信の源のようだ。
 その証拠にストーンキングで杏子が選んだ石はガーネット。
 ピアスに加工されたそれは、彼女の瞳と同じように左右で微妙に色が違う紅い色をしている。
「れぷしーむとやらのひらひらした装束は女らしい印象があるな」
 宗方 怜(ja4599)はユニックロとレプシームの服を見比べ、ふむと頷く。
「森ガールは定番よね。着方にコツがあるから着せてあげるわ。ただ沢山着込めばいいというものではないの」
 見よう見まねで重ね着をしようとした宗方を江口 いをな(ja1303)は手伝う。
「森がーるというのは、森に出入りする神秘的な女子という事かな?」
「そうね、基本的にはその考えであっているわ。でも上着もスカートも全てロングで合わせると、もったりとしてしまうの」
 背の高い宗方だからまだいいが、余りにも重ねすぎると丸っこい布の塊のようなファッションになってしまうらしい。
 いをなは足し引きが大事なのよと、クールな宗像の雰囲気を崩さないように、それでいて森ガール独特の緩さと優しい雰囲気を合わせていく。
「男装もありなのか……」
 周囲のモデル達を見回して、セイジュ・レヴィン(ja3922)は頷く。
 元々はレプシームの女性らしいファッション、そう、ロングスカートなどを着るつもりでいたのだが、男装もありなら話は別だ。
 セイジュはレプシームではなくユニックロのスタッフに声をかける。
「あざみんは〜……素で和風感強いからねえ。あえて洋モノで攻めてみるか」
 一緒にファッションショーに参加する黒咲 薊(ja4144)の衣装を、ハルカ・シャルダン(ja5200)はそう判断。
「ハルカー、俺、こういう服わかんない……」
 そう言いながら、とても小学生とは思えない大人びた雰囲気をまとう薊は、けれどハルカに選ばれた服を嬉しそうに眺めている。
「レザーベルトはありますか? ……いいえ、それではありません。そちらもイメージと違います。カジュアルな中でも引き締め感のある……そうですね、そちらを希望します」
 ファッションに疎い薊から見ればベルトなどどれも同じように感じるのだが、デザイナー系のフランス人の母を持つハルカはファッションに関しては一切の妥協無し。
 最終的に数十本の中からこれという一本を見つけ出し、ハルカは春の装いにプラスする。
「わあ……可愛い服がいっぱいや……! 普段着ないし……たまには可愛い格好もしてみようかな……?」
 人気モデルさながらの容姿を持っているというのに、自身のファッションに無頓着な凰龍 桜(ja3612)は色取り取りの衣装に目移り。
「恥ずかしさもあるが、楽しむ気持ちが大切だな」
 カジュアル中心のユニックロでも、大人びた洗礼さを窺わせるスーツスタイルを選び、赤いチェックのワイシャツで遊び心をプラスして、藤沢 龍(ja5185)は「こんなもんかな」と鏡の前で確かめる。
「これなんかいいやん?」
 あれもこれもと目移りする鳳龍に、藤沢は黒フリル付チュニックと白いタートルネック、そして膝丈デニムを選んでみる。
「かわいいわぁ……」
 デザインもだが、藤沢が選んでくれたことが嬉しくて、鳳龍は飛び跳ねそうな勢いだ。
(芸能デビューのきっかけ……にはならないでしょうけど〜)
 そんな事を思いながら、奉丈 遮那(ja1001)はおっとりと衣装を選ぶ。
 自分で撮影した動画をアップするついでにレプシームのサイトも事前に見ておいた遮那は、フライスレースエリの上にリネンスラブドルマンニット、そしてボトムはイージーフレアショーツと黒のタイツ、足元はミニブーツというレプシームの定番ともいえるアイテムをチョイス。
 他のモデルが大きめのトートバックを下げているのをみて、遮那もそれを取り入れる。
「サマになる所を見せてやる」
 おっさん臭いといわれて意地になった関 アズサ(ja1550)はぐっと口を結ぶ。
 アズサの小麦色の引き締まった肌は艶やかで、おっさんというよりもエキゾチックな魅力で溢れているのだが……。
「うちも負けてられんなぁ」
 アズサと同じくおっさんくさいと称された鎌刈 珠緒(ja4434)はレプシームの服を手にとって見る。
 それだけでなんだか周りに笑われているような変な気分になってしまうぐらい、珠緒は今まで女らしい服というものに縁がなかった。
「笑ったらあかんで、笑ったらおのれら全員しばいたるで!」
 誰ひとり笑ってなどいないのだが、珠緒は真っ赤になって試着室へ。
(音響はどうしているのでしょう〜?) 
 色々興味津々な遮那は、裏方作業をしているスタッフの所へ。
 スタッフの所には、Leviathan Melvillei(ja1759)が先に手伝いをしていた。
「色々と人手が足りないみたい……」
 大量の衣装を運んだり、飲み物を配ったり。
 ゲストであるはずの彼女は最初からスタッフであったかのようにてきぱきと仕事をこなしてゆく。
 

●屋上
 モデル出演者達が準備を進める中、久遠ヶ原学園『でんげき部』の面々は屋上駐車場に来ていた。
 目的は無論、謎の声の正体を調査する為だ。
 H型の建物だから、通路で繋がれた反対側の棟にも同じように屋上駐車場が見えている。
(華やかなショーの裏に潜む影、だな)
 時坐 まつり(ja0646)は眼鏡のフレームを中指ですっと抑える。
「ムズカシー事は分かんないんで、リュー先輩とかにくっついて行動ッス」
 不知火 まなり(ja1147)はもう何が何でも暴れたいのだろう。
 らららガーデンのスタッフにきちんと許可を貰ってはいるものの、刀を既に抜いて今にも切りかかりそうだ。
「モデルおもしろそうだったけど、やっぱりあたしはこっち側だよね★」
 耳元に人差し指を当てて悪戯っぽく微笑む相楽井 亜綾(ja0665)は事前の聞き込み調査で気になる情報をゲットしたらしい。
「物音がする場所が出没する場所か? 音を立てるだけで何をするってのが不明だけど」
 鬼定 璃遊(ja0537)は小首をかしげる。
 現場の屋上に来たものの、謎の声が聞こえる15時にはまだ時間がある。
 屋上の隅にある警備室には今は誰もいないようだが……。
「必ず戦闘って訳ではないのかしら」
 敵がいるのを目撃されたわけではなく、奇妙な声が聞こえるというだけなのだから、無理に戦わずとも済むかもしれない。
 けれど勇浪 結羽(ja2688)は油断しないようにと屋上をゆっくりと調査。
 事前に聞き込みを行ったのだが、奇妙な声を聞いた人は多くいてもこれといって決定的な情報は得られなかったのだ。
(無駄に歩くのは嫌いなんだけど)
 軽く溜息をつきながら、身を隠せそうな場所やもしも戦闘になった場合の危険地帯―― 屋上駐車場は閉鎖されているとはいえ、放置自動車や関係者の車が数台止まっている。これに火炎系の衝撃を与えないようにしないと大惨事だ――をチェック。


 そしてでんげき部とは別の棟の屋上に、影野 恭弥(ja0018)と紅 鬼姫(ja0444)。
「ねぇ恭弥、鬼姫はお化けは信じない方なんですけれど……今回はどちらだと思います?」
「例えばそう……誰かが犬をこっそり屋上で飼っていたとか」
 謎の声の当たりをそうつけつつ、亮はダガーをいつでも使えるように手の中にしのばせる。
「もし敵でしたら気を付けないといけませんの」
 給水塔がこちら側の棟にある事に気づき、鬼姫は気を引き締める。
 雪火と六助ももちろんきている。
「子犬探さないと!」
 六助は雪火と一緒になって屋上を子犬を探し回る。
「やっぱり子犬がいるんだなっ?」
 捕まえるぞーっと、花菱 彪臥(ja4610)は噂というより子犬を捕まえることに熱心らしい。 
「追跡! 謎の声とそれを追う撃退士達! ……見出しはこうね」
 スタッフの軽トラックの荷台に青いビニールシートを被せた中に潜んだ燕明寺 真名(ja0697)は、シャッターチャンスを待つ。
「ふむふむ♪ やっぱり噂っていうのは興味を引きますよね♪」
 一緒に荷台に隠れているドラグレイ・ミストダスト(ja0664)は、「おーい、わんこ何処だー!」と叫ぶ彪臥に興味津々。
 彼が一番早く声の主を見つけそうな勢いだからだろう。
「単なる迷い犬なら、それが一番だよね」
 桐原 雅(ja1822)は子犬を探す仲間達をみて思う。
「白い犬を見た者のがいるらしいが……目立った被害がないなら、悪いものではないかもしれない」
 久遠 仁刀(ja2464)も敵とは思いたくないらしい。


●ファッションショー♪
「結構人が多いのね……」
 妃宮 千早(ja1526)は舞台袖から観客を確認し、呆然とする。
「わ! わ!……。人……ほんとにいっぱい……なの……」
 柏木 優雨(ja2101)も千早の隣からちょこっと観客を確認し、わたわたと慌てだす。
 その腕の中にはらららガーデンのペットショップから特別出演の真っ白い子犬が。
 首輪にハートの大きなモチーフをつけた子犬は、もともと他のモデルが連れて歩く予定だったのだが、優雨を一目見た瞬間懐いてしまい、彼女と共に出演することに。
 優雨がなんとなく動物の気持ちがわかるからなのか、常に動物と一緒にいることが多いせいで仲間の匂いを優雨から感じて安心なのか。
 ちょっと慌て始めた優雨とは対照的に、子犬は彼女の手の中で安心しきっている。
「そんなに慌てなくとも大丈夫よ。私達がついてるわ」
 嵯峨山 知紗(ja5584)は小柄な優雨の頭を撫で撫で。
 けれどそんな彼女は実は一つだけ、気にかかっていることがあったり。
(胸、きついのよね……)
 流石に言いづらくてそのままなのだが、まぁ、間違ってもステージの上で破けたりはしないだろう。
「HEYそこのボーイ&ガール! お暇ならファッションショーでも見にきなよ!」
 多岐 紫苑(ja1604)の辞書には緊張の二文字はないらしい。
 ステージ裏に来る途中ですれ違うらららガーデンのお客様相手に元気良く呼び込み。
「モデルだけで暇なら、あんたもファッションショーの客寄せでもしてきたら」
 出番を終えた九 真尋(ja4121)がステージから戻ってくると、知沙はそんな事を提案してみる。
「呼び込みと、誘導も必要そうですよね」
 混み出したステージ前は、ショーを見ないお客様達の妨げになっていた。
 真尋はステージ衣装のまま、お客様の通路確保に向う。
 そして静流は全身モノトーンでシックに決めた、レプシームにしては珍しい色合いで登場。
 いつも身に着けている銀の懐中時計がステージライトに反射する。
 そして次に登場した沙耶は、深く黒と見紛う赤い衣装で登場。
 実年齢よりも上に見られることの多い沙耶は、衣装のチョイスも可愛らしさよりも落ち着いた中性的なデザイン。
 長い銀髪から覗く耳元には瑪瑙のイヤリングが煌いた。
 マニッシュな衣装を選択した杏子は、強いライトと観客の視線にふと家族を思い出す。
(兄貴、今のあたし見たらなんて言うだろうな)
 理想主義者の杏子の兄がみたら、言う言葉は一つだろう。
 兄の台詞を考えていると、知らず知らず頬が赤くなる。
(何考えてんだあたしは!)
 ぶんぶんと頭を振って想像を否定して、不思議そうな顔をしている観客に思いっきりドヤ顔で何事もなかったかのようにステージの奥へと去ってゆく。
 入れ違いにステージに上がったレイジュは思う。
(……なんで男装して参加したんだろうな……)
 膝まである白とも銀とも見紛う髪を横で束ね、ロングのミリタリーコートとシャツ、ナチュラルなニットとチノパンツを合わせたレイジュは、その長身も相まって男女の見分けがつかなくなっていた。
 その見事な男装に目が合った観客の少女が頬を赤らめる。
(さて……たまにはこういうのもいいかな)
 ついノリで男装をしてみたレイジュだったが、なかなか悪い気分ではないようだ。
「おいでハルカ。デートしよ」
「でっ、デートとか言うな、興奮スルから」
 舞台に上がる瞬間に微笑んだ薊の言葉に、ハルカは右足と左足が同時に出そうになって慌てる。
 物理的に無理なのだが、それぐらい緊張。
「ハルカのチョコ、楽しみにしてんね」
 さらに追い討ちをかけるように、薊はハルカの耳元でそんな言葉を囁く。
 ハルカがさらに真っ赤になったのはいうまでもない。
 そして鳳龍と藤沢は、見ている観客が真っ赤になるほどに二人寄り添い、手を硬く繋いで登場。
 舞台の中央で、藤沢が鳳龍の青い髪を撫で、そのままするりと胸元のネックレスへ。
 鳳龍の瞳を思わせるグリーンガーネットのペンダントトップに、藤沢がそっと口付けると、観客から羨ましげな溜息が漏れた。
「こんにちは、可愛い人。貴方の瞳に僕だけを写してはくれないかい?」
 ヒンメルはリヴィアにすっと手を差し出す。
 カメラを手に、舞台横で裏方に徹していたリヴィアは驚いてカメラから顔を上げた。
「よろしく」
 急展開に戸惑いつつも友達を増やしたかったリヴィアは、ヒンメルの手を取って舞台へ上がる。
 この展開に焦ったのはヒンメル。
 よもやまさか笑顔で応じられるとは思わず、逃げ去ろうにも彼女の手を握っている。
 ヒンメルの表情からなんとなく事情を察したリヴィアは咄嗟にカメラのシャッターを切る。
「貴方の姿は美しすぎて、私の瞳だけでは納まりきらないようです。ぜひ観客の皆様に、その笑顔を!」
 リヴィアに促され、動揺の収まったヒンメルはマントのように黒いシャツを翻し、リヴィアと共に毅然として舞台の奥へと去ってゆく。
「これこれ、これだよ、俺が見たかったのは! モデル体験なら美女揃いだろうって事で、温泉旅行と秤にかけて三日三晩悩んだんだ!」
 ステージに次々と現れる美女たちに、明石 拓馬(ja3651)は興奮気味に両手の拳をぐぐっと握り締める。
 何気に美男子もステージに上がっているのだが、拓馬の目には映らないらしい。
 女性だけは老若男女その目に焼き付けてはしゃぐ拓馬は、みるだけみたらくるっと踵を返して屋上へと走ってゆく。
 
  

●噂の正体は……?
 3時少し前に、休憩に入った警備員が警備室に入ってゆく。
「時間っすよ!」
 3時の鐘の音に、まなりは背後を警戒しながら刀を構える。
「鳴き声……!」
 子犬とや複数の犬の鳴き声が混ざったようなそれは、どこかで反響して異様に結羽の耳に残る。
「みんな、間違いないの! 警備室に突撃よ!」
 亜綾が警備室を刀でびしっと指し示す。
「あたしはアストマルダンバードじゃから、敵を戦うのじゃ!」
 亜綾に言われて意味もわからず緊張状態だった小山田 美花(ja5021)は、あわあわと警備室に突撃!
 急にドアを蹴破られ、でんげき部の面々に襲撃を受けた警備室には、驚く顔の警備員と鳴きまくる犬達が!
「やはりな……」
 事前調査である程度の事体は把握していたまつりは、弓を背中に担ぎなおして戦闘態勢を解く。
「どうなってるんだ?! ……って、白い犬!」
 驚く璃遊にこちらも驚いたのだろう、白い子犬が警備員の腕をすり抜けて開け放たれたドアからダッシュ!
「ちょっと待った、何匹いるのじゃ?! 怖いなどとは決して言わぬ……うあっ?!」
 想定外の事体に硬直している美花を突き飛ばし、噂の白い子犬だけでなく変な鳴き声のシェットランドシープドックにダックスフンド、それに柴犬までもが警備室から脱走!
「歩くのは嫌いだけれど、無駄に走るのはもっと嫌いよ?!」
 脱走したわんこを捕まえるべく、結羽も走る。
 白い子犬は連絡通路を走って隣の棟へ!
「あははははっ、大スクープよー!」
 爆笑しながら真名は走ってくる子犬を何枚も激写。
「もふもふしないとっ」
 笑いをこらえながらミストダストも小犬達との追いかけっこに参戦!
「うわー、やっぱりいたー! かわえぇええええっ!」
 もっふもっふの白い子犬に彪臥はもう両腕を広げて全力アタック!


 数分後。
 

 屋上には、武器の変わりに全員わんこを抱きしめて居並ぶという異常な光景が。
「これも士道の導きか」
 臥神 亮(ja5141)は気がつくとここに来ていて、何故か犬を抱きしめる羽目になった現状をそう自分に納得させる。
 問い詰めた警備員によれば、自宅はアパートでペットが飼えず、こっそりと迷い犬達を警備室で飼っていたのだとか。
「3時に鳴いていたのは、お前の休憩時間だからか」
 亮は深い溜息をつく。
 犬達はどう見ても愛されており、警備員が戻ってくる午後3時になると嬉しくて鳴いていたようだ。
 その鳴き声が屋上と、H型の建物の構造上の何かしらが相乗効果を起こして反響し、奇妙な鳴き声としてらららガーデン一帯に響き渡ってしまったのだろう。
「でもこの子達を飼いだしたのって最近じゃないよな? 数日でこんなに増えるわけない」
「白い子犬がキーポイントかな?」
 璃遊の疑問に、亜綾が答える。
 人一倍甘えん坊らしい白い迷い犬を飼うようになり、その子犬が3時に鳴くと周りもつられて鳴くようになってしまったらしい。
「警備員なら『屋上には異常ありません』と答えれば下手に調べられる事もなかったろうしな」
 仁刀は無駄に戦う事無く事件が解決した事に心なしか嬉しそうだ。
 一緒にわんこを抱いている雅に「缶紅茶でも飲みにいくか。奢るぞ」と誘っている。
「あれっ? その白いわんこ、さっき百嶋先輩がくれた写メにそっくりじゃ」
 雪火から強引に貰った写メと白い子犬を見比べる。
「そっくりね……」
 子犬なんてみな似たような雰囲気だが、大きさといい耳のタレ具合といい、円らな黒い瞳といい、同じ犬のようにすら見える。
 それが意味する所は……。
「一件落着ですのっ♪」
 迷い犬の飼い主が判明して、鬼姫はちゅっと子犬にキス。
「あれ?! 敵はー!! 俺様のファッションショーを邪魔するやつはどいつだっ!」
 事の終わった屋上に凄まじい勢いで階段を駆け上がって登場した拓馬は肩で息をしながら叫ぶ。
 愛らしいわんこがくぅーんと一声鳴いた。


●フィナーレ♪
 いをながステージに立った瞬間、会場が一瞬静まり返る。
 彼女の凛とした雰囲気と日本人離れした8頭身に観客の目が釘付けになる。
 モデル然とした彼女は静まり返った会場に悠然と、堂々と微笑む。
(次は私か)
 いをなを真似ようと決めていたアズサだが、少々難易度が高い。
 舞台袖に下がるいをなを拍手で送る観客達の前に、アズサは意を決して堂々と登場。
 笑顔のない彼女に会場はざわついたが、それもほんの一瞬の事。
 いをなとは正反対に、アジアンテイストな雰囲気と、わざと肌を多めに露出させたカジュアルスタイルが神秘さすら醸し出し、一匹の黒豹が南国を優雅に歩いているかのようにすら見える。
 堂々とした立ち居振る舞いはいをなには及ばないものの、アズサのステージは大成功だったといえよう。
(やっぱりアズサはかっこえぇなぁ……!)
 ステージをみていた珠緒は惚れ惚れとアズサをみる。
 アズサにおっさん臭いとからかったのは実は珠緒なのだが、本心ではスーパーモデル並みの彼女の美しさをきっちり理解していた。
(あいつがおるわけやないけど……)
 珠緒をおっさん臭いと称して振った男を一瞬思い浮かべ、ほんの少し苦い気持ちになりながらステージに上がる。
 次々とモデルたちがステージで衣装を披露する中、結依は親友とお揃いで購入した天然石のブレスレットに触れる。
「おそろいで嬉しいなぁ」
 長袖で覆った左手首につけたそれは、シトリンを基調にムーンストーンをあしらい、水晶が添えられている。
 癒しと幸運、そして幸せな結婚と幸運を意味しているとか。
 同じデザインでもケイは「恋人は、ね?」と苦笑してほんの少しだけ石の種類を変えてある。
 そんなケイは、ユニックロのスタッフに長身を生かしたロングスカートを勧められたのだが、これを断固拒否。
「だってスカート嫌いだから」
 制服のスカートすらも嫌がる彼女には、スタッフも降参。
 今は緩めのカジュアルパンツルックで、御琴と並ぶと男性が二人で結依をエスコートしているかのように見えた。
 スタッフの合図が入り、御琴は花束を片手に、もう片方は結依と手をつなぐ。
 結依は頬を染めながら、空いているほうの手で沢山の風船の花束を抱きしめてステージに。
 そしてその少し後ろからケイがステージに上がる。
 ケイは初めてとは思えないほど堂々とウォーキング、笑顔で手を振り、曲に合わせてくるっとターン!
(上手く歩けてるかな……!)
 普段のロリータファッションに比べると、今日の服は幾分レースが少なくて、勝負服には少し弱い。
 緊張に強張る結依に気づいたケイは、すっとターンしながら演出の一環として結依と御琴の前を横切る。
(頑張れ)
 親指を結依だけに見えるように立て、ケイはウィンクしてステージの奥へ。
 そう、結依には親友と御琴がいるのだ。
 強張っていたのが嘘のように気持ちが軽くなり、結依はふわりと客席に微笑む。
 御琴は薔薇の花束から一本、一際咲き誇るそれを抜き取り、結依の胸に飾る。
 結依も風船の束から一つ、一番御琴に似合いそうな色を手渡す。
「幸せのおすそわけ」
「幸せなヴァレンタインを」
 そういって、御琴と結依は風船の花束を観客に向って投げる。
 風船は観客達の上でふわっと散らばり、吹き抜けの天井から青空に向って飛んで行った。
「皆、幸せになれりゃぁいい」
 けらけらと悪戯っぽく笑って、御琴は幸せそうな結依の手を引いてステージの奥へと去ってゆく。
 幸せそうな観客達の笑顔と、鳴り止まない拍手が響いた。


●食べ放題のみ放題! 未成年はお酒は駄目よ♪
「事件の無事解決を祝って、カンパーイ♪」
 雪火の声に、皆もカンパーイ♪
「焼き肉食いに行くぞ!! こんな機会滅多にねぇし!」
 食べ放題の宴会場に杏子は一番乗りで飛び込む。
 余程楽しみにしていたらしい。
「そんなに焦らずとも、肉は追加でどんどん来るようだ。ほら、これも焼けたようだ」
「焼肉焼肉〜っ!」
 静流は口いっぱいにほうばって、さらにそのまま小皿にも山盛りにしていく彪臥に苦笑しながら、次々と追加される肉を丁寧に焼いてゆく。
「お肉……おいしいの……」
 優雨はふにふにと口元を隠しながらお肉を食べている。
「んにゃ〜! 私の肉返せ!」
 誰のものでもないのだが、目線で狙っていたお肉を目の前で取られたらしく、紫苑はむきーっと叫ぶ。
「そんなに急がなくても……お肉は逃げたりしませんよ……」
 千早は紫苑に苦笑しながらお肉を取り分ける。
「……そんなにがっついて食べたら、喉につまるわよ?」
 言っている側から咽こんだ紫苑に、知紗は微笑みながらハンカチを差し出す。
「オニキス……魔除けにもなるって。良かったわね」
 大切そうにバックを抱きしめた薊にお肉を取ってあげながら、ハルカは昼間購入したアクセサリーを思い出す。
 ファッションショーの後、少しだけストーンキングに寄ったのだが、そこで購入した薊の母親へのプレゼントがオニキスのペンダントトップなのだ。
 薊はオニキスのペンダントトップと、五月の誕生石の翡翠のイヤリングが入っているバックを、もう一度ぎゅっと抱きしめる。
 そして沙耶は見た目とは裏腹にいつの間にか大量の肉を平らげたらしい。
 澄ましているものの、その席には尋常でない空の皿が山盛りに。
「鶏肉もあるのですね〜。お酒も頂けるようで、嬉しいですね〜」
 未成年も参加しているものの、きちんと成人しているなら飲んでも良いらしい。
 焼肉食べ放題と聞くと豚肉と牛肉が主流だが、遮那の好きな鳥料理も種類豊富で、メニューを見ながら彼女は食前酒に口をつける。
「みんなと一緒って楽しい……」
「そうだね、やっぱ楽しいね」
 未成年だからお酒は飲まず、雰囲気に酔っている藤沢は同じように幸せそうな鳳龍に頷く。
 人見知りの強い鳳龍はやはり今日も藤沢と以外は余り話せていない。
 どうしても他人には緊張してしまうようだ。
 人目を引く美貌も、人見知りに更に拍車をかけてしまっている。
「このデザートもうんまいなぁ。手作り杏仁豆腐やで。桜も、ほらそこのお嬢さんも一緒にどうや?」
 藤沢とだけいれば鳳龍は幸せそうだけれど、同時に、沢山の人と話せるようになりたいという鳳龍の気持ちを感じ取り、藤沢は鳳龍とリヴィアに声をかける。
「良い思い出になりそうだね」
 和洋中全ての料理が得意な藤沢の舌は肥えていて、お勧めの杏仁豆腐はとろんと甘く、リヴィアの口の中に溶けてゆく。

 
●最後は温泉とマッサージ♪
「マッサージは整体がいいかな……」
 日々の戦闘で身体の歪みが気になる静流は、春日部ゆったり温泉のマッサージ&エステフロアへ。
 色々な種類があることは事前に聞いていたのだが、整体も数種類ある。
 静流はその中でも腕が良さそうに思えた細身の女性に声をかける。
 整体師にぐぐーっと背中を押されると、ぱきぱきと小気味良い骨の音が響いた。
(天魔との戦いもあるし、やはり身体が歪んでいるようだね……)
 ずれた骨が元の位置に戻るかのように思えた静流は、だが整体師曰く、静流の身体は歪みとは程遠いらしい。
 やはり静流の祖父から習い続けていた槍術や徒手空拳といった身体を鍛える習い事が彼女の身体を健康に保っているのだろう。
 セイジュが選んだのは、整体の中でも屈強な男性が揃っている店だった。
(い、意外に……)
『ソフト整体。痛みなく身体の歪みを直します』
 そんなキャッチフレーズに心惹かれたのだが、キノセイだろうか、かなり……。
「うあっああっ?!」
 余りの痛みに、セイジュは堪えきれずに叫ぶ。
 バキバキとおよそソフトなどどいう表現が程遠い音が部屋中に鳴り響いた。
 セイジュはここの整体なら痛くなさそうだなどと思った数十分前の自分自身を殴りたい気分になった。 
「これ、昼間の写真。被写体が良いから、綺麗に写っているわ」
 整体を受けようと店を選んでいたリヴィアは、ヒンメルを見つけて声をかける。
 ファッションショーの後もスタッフの手伝いをしていたリヴィアは、自分が撮らせてもらった写真を何枚か頂いて来ていたのだ。
「もし良かったら一枚もらえないかな。お土産にしたい」
「良い思い出になりそうだね」
 二人で写真を見ている今この瞬間も、きっと良い思い出になるのだろう。  
「フットマッサージでもしてもらいましょうかね」
 普段から小まめに良く動く知沙だったが、流石にモデル体験は自身が思うよりも身体に負担をかけていたらしい。
 軽くふくらはぎをつまんでみると、ほど良い張りの奥にコリがあるのがわかる。
「歩いたからな……」
 知沙と並んで、真尋もフットマッサージへ。
 らららガーデンのイベント片づけまで手伝った彼は、なんとバスの集合時間に間に合わず、徒歩でゆったり温泉まで来てしまったのだ。
 もちろん同じ市内ではあるし、歩けない距離ではないのだが、手伝いで疲れきった身体には流石に応えたのだろう。
 フットマッサージでリラックスチェアーに座った瞬間、彼はすうっと夢の中へ。
「にひひ、まひろんの顔に落書きでもしてやるか♪」
 整体に向かうつもりだった紫苑はおもいっきりいたずらっ子のように笑って、マジックでキュっキュと額に落書きを。
 温泉で火照った身体を冷ますように、沙耶は屋上へ。
 冬の夜空には射手座が輝いている。
 その星に惹かれるように、沙耶は歌を口ずさむ。
 ロシア語で詠われたその音色は、子守唄のように優しく響き渡った。
 


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