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のんびりのどかに、花巻温泉郷 タグ:【花巻】  (茨木汀)

●到着!
 白く踏み固められた、分厚くかたい雪の上。常塚 咲月(ja0156)はほう、と吐息をもらす。
「真っ白だ…。――…雪…京都とは違う気がする」
「賑やかな街も楽しいが、落ち着いた山里の風情も素晴らしいな…!」
 華やかな少年のようなラズベリー・シャーウッド(ja2022)も、声を弾ませる。瑠璃谷 紫織(ja0129)が頷いた。
「空気が美味しいです」
 また、これからを期待するものもいる。古河 直太郎(ja3889)もそのひとりだ。
「この年齢になってまさかのオリエンテーリングか…。ワクワクしてるな…俺…」
 それぞれ旅館に荷物を置くべく、部屋割りを確認して動き出した。

 同室になったのは、まず楠 侑紗(ja3231)と武田 美月(ja4394)、部活の仲間同士がふたり。それから阿見門 悠(ja5542)と近衛 薫(ja0420)、こちらは初見の計四人だった。自己紹介してそれぞれ予定を話し合う。
「冬と言えば…そう! 温泉だよね!」
 侑紗は素直に温泉目当て、美月(ja4394)は夜間の耐久ゲームにみんなを巻き込む気満々。で、悠は。
「露天風呂に入りたいけれど…、男性客の少なそうな、早朝を狙うわ」
「この時期の露天風呂ってとても寒いんだよ! …多分…いや、きっと寒いはず!」
 冬だし、東北だし。だから檜風呂にする。侑紗の可愛らしい主張に、悠は笑った。
「お湯に浸かっちゃえば寒くないわよ」
 そして、視線はおのずと薫へ集まる。
「えっと…、ハーブティーや薔薇を使ったお料理とか、です」
 つまり、全員バラけた。
「武田さん、お風呂は…?」
「じゃあ、侑紗ちゃんと一緒に行こうかなー」
「上がったら卓球とか、しませんか?」
「あっ、いいね! 薫ちゃんはやらない?」
「えっ、あっ、はい、卓球ですよね。行きます」
「お風呂はどうするー?」
 美月の朗らかさに、しかし薫はうろたえた。
「えっと、そのお風呂はその…」
「…気にしないでいいわよ、女の子なんだから。しょうがないわ。どこか部屋、借りられないかしらね」
 悠の言葉に、こてんと首をかしげる薫、しかし助かることに変わりはないので沈黙を選ぶ。見た目可憐、言動クール、でもお人よしで存外面倒見のいい悠は、シャワールーム付きの部屋を時間限定で貸してもらえるよう交渉までしてくれた。
「あの…、ありがとう、悠さん」
「いいわよ、別に。温泉に入れないのは残念だけど、薔薇園楽しんでくるといいわ」
 とりあえず、よくわからないまま解決したものの…、とても、助かった。

 そんな中、四人部屋を三人で使う申請をしてきたのは、音羽 紫苑(ja0327)だった。
(静、小中と修学旅行熱出して行ってないし。大部屋だと気が休まらないだろうし)
 花巻に来たのも、後輩である礼野 智美(ja3600)の行き先選びによる。
(俺や先輩だけならバイトや妙な噂がある所でも良かったけど…)
 タフな自分たちはいいのだ、別に。どこに放り出されようが楽しめる。ただ、さして丈夫でない姉――礼野 静(ja0418)が楽しみにしているから。いろいろ二人なりに考えて、静の楽しめるようにと手配したのだ。
 到着した部屋は手狭だが、ほのかに畳の香りのする落ち着いた部屋。ひとまず休憩し、落ち着いたところで静は二人の気遣いに礼をのべた。
「ワインと焼酎と日本酒の美味しいのが全部購入出来るから」
 だから花巻を選んだのだ、と嘯く紫苑に、静も苦笑する。
「最初は薔薇園に行きましょうか?」
 智美の提案に、紫苑も頷く。ぜひ、と静が応えた。

 司 華螢(ja4368)は、雑然とした中を戸惑うように、あるいは興味を込めてあたりを見回した。
「大勢での旅行って、初めて」
 表情こそないものの、意識があちこちに引き寄せられている。ふらふらと歩いていってしまう。

 こんな女の子を見なかったか。時迅 輝結(ja5143)は通りすがりのレイン・レワール(ja5355)に声をかけた。
「女の子が迷子かい? それは大変だ、俺が探してついでにお友達に」
「いえやっぱり結構です一人で探すので」
 ソッコー断る輝結、声かける相手間違えた。
「大丈夫、君のこともちゃんと守るよ」
 ちがう、そうじゃない。
 実のところ彼がとても一本気だとか、そんな諸々が出会い頭にわかるわけもなく。ライム・アンティー(ja4676)がレインの袖引っ張って連れてったせいで、人となりを知ることなく別れた。
 いったいどこ行ったのか。

 到着早々、浴衣に着替えて露天風呂に直行するのは長成 槍樹(ja0524)と常木 黎(ja0718)。
 黎の隣で岩に背を預け、槍樹はのんびり景色を鑑賞する。雪積もる渓谷、のぼる湯煙、何より他の女性客――
「そのだらしなく伸びた鼻の下どうにかしなよ…」
 じとり、と黎に見られて愛想笑いでごまかした。気兼ねの要らない友人は、すらりと長い足を抱えて膝の上に顎を乗せている。そんな彼女へ、世間話のノリで問いかけた。
「そろそろ、いい男の一人や二人見つけたかい?」
「部室に引き篭もりだし、オジサンと部長位なもんさ」
 黎も同じ軽さで返す。
「勿体無いな、きみくらい美人なら、引く手数多だろうに」
「束縛するのは良くてもされるのは嫌いなのよねえ」
「ここに似た者気性の軟派男が一人居るんだが、立候補してもいいかな?」
 からかうような雰囲気を滲ませて、
「ご随意に。靡くかどうかは槍樹さん次第だけど」
 くすくすと軽やかな笑い声を立て、さらりと振舞う黎。大人びた対応の下に待ちの姿勢を潜めて、今は。

●薔薇園
「ここが薔薇園? わぁ…。広いねー」
 クリス・クリス(ja2083)は雪の積もった茂みに顔を寄せる。
「そっか…冬だからお花、咲いてないんだ…。
 キミたちが綺麗に咲く時にまた遊びに来たいな…」
 紫織は説明用のパネルからさっと雪を払い落とした。
「この…」
 とんとん、と指先で色あせたパネルの写真を叩く。
「綺麗に咲く時期にまた来たいですね?」
 その言葉に頷き、クリスはぶるりと震えて温室の中へ入る。
「おー♪ 温室の中は常夏だー」
 縮こまらせた身体から力を抜いてはしゃぐクリス、ラズベリーも鮮やかな薔薇の咲き乱れるさまに目を奪われた。
「陽の下で咲き乱れる庭園の薔薇も、きっと美しかろうな」
 機会があれば、其方もいつか見てみたい。そう思う。それでも、温室という限られた空間で咲く薔薇もまた綺麗で。
「花々の自然美もさることながら、やはり手入れをする人達の愛情を強く感じるね」
 眩しげに青い目を細めるラズベリー。
「あれ? あの人って園丁さん?」
 とことこ農夫めいた格好の老人へ近づくクリス、園芸部員だということとオフシーズンの世話についてたずねた。
「手入れのコツなども伺えませんか?」
 紫織も便乗してたずねる。
「なっちょなとこで育てておりますか」
 独特のイントネーションで、紫織たちの状況を聞きだしながら話す。この季節は地植えなら元肥をやって木立性品種なら冬剪定をして…と。
 話を一通り聞いてから、ラズベリーはカメラを小さく持ち上げた。クリスが喜び、紫織も小さく微笑んで場所を選ぶ。色とりどりの薔薇に囲まれた一角で、園丁がシャッターを切ってくれた。

 薔薇の中を、神凪 宗(ja0435)はゆったりと歩く。薔薇に囲まれて、なぜかキラキラしていた。
「しかし、同行してくれる者がいて、助かった。さすがに男一人で、というのはどうもな」
 レインは、その感謝へ、宗にレンズを向けつつにこやかに応えた。
「良いね〜まったり旅行…しかも女の子と」
 その視線の先には、二人の少女。レインにとって家族同然のライムと、その友人、ペルセス・フィエラッハ(ja0798)。
「旅行なんて初めてです! それもお友達と行けるなんて…」
 わくわくしているライムが、ペルセスをリードするように温室を歩いて話しかけていた。
「お土産話沢山作りましょう〜えへへ」
「は、はい…」
 素直に感情を示すライムに、戸惑うように、けれど期待を込めて頷くペルセス。
「綺麗な薔薇には棘がある、と言うが、ライム殿やペルにも隠れた棘がありそうだ」
 宗はそんな微笑ましい二人を眺めつつ写真をとる。
「そんな神凪君を、薔薇まみれでキラキラ倍増しにしてあげよう」
「あ、やるやるー!」
 レインとライムが鉢植えの薔薇を持ってきて、宗を囲んだ。いつのまにか持ってたはずのデジカメが見知らぬおじいさん――たぶん園丁――の手にあって、四人そろった写真がパシリと写される。
「良い空気だ。こういった息抜きは大切だ」
「次、ペルセス様と薔薇に囲まれてツーショット撮って!」
「よし、もう少し薔薇を寄せるか」
「はい、ペルセスちゃん」
 ちょこんとその髪に、小さい薔薇を挿してやるレイン。花がら摘んだやつで悪いけど、と断りながら飾った。

 冬薔薇はなかったが、瑠璃堂 藍(ja0632)はかわりに土産物屋を満喫していた。ピックアップされていた砂糖漬けや他諸々、それから薔薇の香水。綺麗なガラス細工の瓶で、可愛らしく華奢なリボンが結び付けられている。
 紫織が一口薔薇ジャムを口に含むと、口いっぱいに薔薇の香りが広がった。
「薔薇ジャム、花の砂糖漬け、ローズヒップティーは沢山買いましょうか。
 皆さんのお土産に」
 そう言う紫織に、ラズベリーもしっかり部活用、自宅用、知人の土産用と確保してご満悦。
「ん…これにしよ。
 園芸部いちの甘々カップルに負けない、あまーい花びらの砂糖漬け☆」
 クリスも花びらの詰まった瓶を手に取る。
 店内を眺めて、レシピについていろいろ考える薫。やはりサラダやスープ、あとはお菓子だろうか。薔薇そのものにはろくに味がないのが選択肢を狭めている…。
 レインは店員からあれこれ調理レシピの情報を引き出していた。それを聞きながら、ペルセスも薔薇を使った料理に思いを馳せる。
(薔薇の花びら入りの野菜サラダ、チキンソテー…食用薔薇の使い道は多そうですね)
 いろいろ考えは広がる。
「帰ったら…作りますね」
「わー、楽しみ!」
「俺も何か作ろうかな〜」
 わいのわいのと言いながら、四人は旅館に戻った。
 また、静が温室を見ている間に、紫苑も母や祖母への土産物を物色していた。
「婆様、ドライフワラーに出来る薔薇好きだし」
 色あせるが、それもまた風情があって美しい。あれでもないこれでもない…選ぶのはけっこう大変だ。押し花やポプリといった素朴なものから、手の込んだ加工品まで。関連書籍も多くあるし…、はて、どうしたものか。ちなみに、真紅の液体が満たされた瓶には目をくれないようにしている。静にはああ嘯いたが、残念ながら身分証明書はとても正直者なのである。
「余裕があれば酒蔵に行って。二日目午前中裂織体験…と思っていますが。姉様、大丈夫でしょうか」
 同じく商品棚とにらめっこしながら、智美は懸念していた。
「まあ、何かあったら私たちでどうにかすればいい」
 窓から外が見える。温室の中は見えづらいが、綺麗な黒髪の少女が見て取れた。

 れんがの敷かれた温室の道を、こつりと踵を鳴らして歩く。むせ返る花の香り、緑の気配。慣れ親しんだ植物、静の好きな、もの。
 こつり。ゆっくり散策し、ほころぶ花弁を愛でた。二人は今いないけれど、そば近くに気配を感じるから安心していられる。
(ジャムや砂糖漬けは下の妹が良く作るし、わたくしも美味しく頂きますけど…やっぱり咲いているのを見るのはまた別ですわよね)
 瑞々しく花弁はその繊維の間に水分をたたえ、鮮やかに広がっていた。
(のんびり暮らしたかったけど…でも妹達も友もいるんだから頑張らないと)
 庭をいじって草花に水をやって、そんな日々のほうが、どれだけいいかわからないけれど。

●裂織
「どうしたん?」
 ふらふらしていた華螢に、山本 詠美(ja3571)は声をかけた。首を傾げる少女の予定地が裂織工房であることを引き出し、連れて行く。途中、幸いに輝結と出くわして無事に事なきを得た。

 新聞部の取材として訪れた下妻笹緒(ja0544)がまず注視したのは、合掌造りの民家だった。白川郷でよく似たものを見たことはある。
(中々どうして花巻の景色に馴染んでいるではないか)
 茅葺の屋根が味わい深い。中に入れば、大きな織り機が並んでいた。壁際にはいくつかの作品が置かれている。洒落たものではないが、どこもかしこも素朴で温かみがあった。
「これ、展示販売されていないの?」
 可愛いから、欲しい。そう言う藍に、説明をしていた女が顔を皺だらけにして嬉しそうに笑った。
「裏に値札がついていますから、好きなのお持ちくださいな」
 笹緒はその全てをじっくりと吟味するかのように顔を近づける。柔らかな語り口の中年女性が、簡単に裂織について説明していた。

「実に興味深い」
「着物は着慣れてるけど、こういう布は初めてみた…」
 律儀にメモをとる華螢、輝結は彼女に似合いそうな古着をとっかえひっかえ少女にあてがう。
「今度はこれ着て。はい、次はこっちね」
 面倒くさそうにしていたのに、実はとってもノリノリな輝結。不器用に織機へ向かう華螢もカメラにおさめた。
「たまには和服っていうのもいいものね〜♪」
 年季を感じさせる古い柄は、若者が身に纏うとふしぎに色映えた。雀原 麦子(ja1553)の茶髪が映えるような萌黄色。染めた当初は目も覚めるように鮮やかだったのだろう。ワントーン暗い帯をしめれば、下町の娘のようだった。
 くるりと回ってみたり、艶やかなポーズをしてみたりする。
「へえ〜色々あるんやね」
 そう言いながら、詠美は男物の着物に袖を通した。
「やっぱ最後やし、着てあげんとな」
 くたびれてはいるが、大事に使われていたのだろうとわかる使い込まれたそれ。さらりと肌に心地いい木綿で、しっくりと肌に馴染む。男性用なので衣紋は抜かないのが大きな差だろうか。
「今までご苦労さん」
 労うように、詠美は袖を撫でた。
 篠田 沙希(ja0502)が、なぜそこに来たのか。冷やかしでないのは確かだが、彼女は確たる動機や思惑をだれに話すこともなかった。
 笹緒のよう凝視でも知識欲でもなかったが、その古い建物も着物も、重ねた時を数えるかのように目を留める。擦り切れた袖、ほつれを直したあと。
 着てけねかや。腰の曲がった老婆が着物を差し出す。その中から似合いそうなものを選んだ。背の高い人間は、存外よく着物が似合う。おはしょりが短くなるから、着物の柄が映えるのだ。落ち着いた色調の小袖を着付けてもらうと、鏡の前で軽く首を傾げる。
「悪くはない…たまには」
 当たり前のように着物が着られていたころの、ように。
 笹緒も着ぐるみの上から袖を通し、着ぐるみの下で満足気な顔を浮かべ。
(いずれ裂織を使ったパンダ着ぐるみを…)
 だいぶものめずらしい野望を燃やした。
 機械ではなく、手織り。そのことに鞍馬 理保(ja2860)は心を浮き足立たせていた。
「なんか風情があって、好きだな!」
 古い着物を引っ張り出してきて、あれこれ自分に当ててみる。赤と青の玉がついた簪に似合うのはどれだろう。深い藍色、淡い桜色。柔らかな藤色も合うだろう。
「兄さんも何か羽織ってみるー?」
「理保を撮ったらね。決めた?」
 カメラを持ち上げる鞍馬 真治(ja0015)に、悩みながらも桜色のを選んだ。理保の髪の色にも映えるだろう。
(使い古された布って、いろんな人の行動や想いが込められてるんだろうな)
 ――お疲れさま、ありがとうね、そしてこれからもよろしく。
 帯をしめて、髪を少し直して。
「…こういう文化は、ちゃんと守っていきたいよね」
 そうだね。兄は優しく頷いた。

 ちょっとしたものなら、すぐに織り上げられるだろう。鼻歌歌いながら、トントンと布を織る理保。
「大きな着物とかならエプロンとかに出来るかもしれませんね」
 真治は裂かれていない端切れを縫い合わせて、巾着を作る。
「…コースターくらいなら作れるのかしら」
 藍も好きな裂き糸を選んで通していく。少し繰り返すとコツが掴めて来て、端がきれいに揃うようになった。
 全部織り終えてから、ふと藍は気づく。
「…あれ、なんか買い物ばかりしたかも」
 でも、とても満足だった。あとは旅館に帰って、温泉に入って戦利品をながめよう。

●わんこそば
 温泉入ってあったまり、すっきりさっぱりしたらご飯。
「チルルー、お前食べ過ぎて倒れても部屋までは運ばねぇから加減は自分で考えろよ?」
 明海 絡(ja0139)の言葉に、考えるの苦手な雪室 チルル(ja0220)は。
「食べ過ぎたりしないよ! 大丈夫、ちゃんと食べきれる!」
 超不安な返答である。さらに不安なのが、部長の神崎・倭子(ja0063)だ。
「嗚呼、実に! 実にここは美味しそうなものが多くて目移りしてしまうね!
 とりあえずまずはわんこそばに一度挑戦してみたいね! 晩御飯は前沢牛が出たりしないかな!」
 ストッパーになりえない。結局俺か、俺なのか。なんだかんだと冷静な絡が最後の砦だ、たぶん。
「ん…蕎麦も喉越しが良いし…美味しい」
 目指せ二百杯越え、つるつるそばを流し込む咲月。西垣 弥(ja0269)はしっかりタイミングを見計らい、かちっと蓋を閉める。
「西垣くん、もう食べないの…?」
「そう食べれない」
 理性的な判断下す十二歳、自分の腹は自分で管理していた。

●酒
「ああ…とにかく、リア充たちのあふれる現実から離れたい」
 そんなこと呟きつつ、ラグナ・グラウシード(ja3538)は憂さ晴らしとばかりに酒屋へ向かった。
 ワインに日本酒、焼酎に薔薇酒、夢心地になるには十分すぎる。
「ふふ…酒と甘いものくらいだからな、傷ついた私を癒してくれるのは」
 次々杯を重ねるラグナ、なんというか…もうちょっと他になんかないのか、癒し。飲みたいなら飲むがいいさ…、店主と周囲の客はそっと好きにさせていた。やさぐれた心をなぐさめるのも酒の役割である。うむ。
「これは美味いな…こっちはどうだろう?」
 けっこうラグナも強いのだが、アルコールをがばがば飲めば…もちろん酔う。ご機嫌で旅館へ帰っていった。

「バイトの納期も済んだ! 抱えているレポートもない! これは存分にやんなさい、ってお告げね!」
 暮居 凪(ja0503)は、酒屋で身分証明書の提示を求められ。
「確かに未成年だけど。あと半年ぐらいで20歳になるし…だめ?」
「べっこ足りねぇなはー」
 のんびり却下。そのとき携帯電話が着信音を告げた。ヤ〜な予感。
「…は? 仕様を変えたい!? ちょっと待ちなさい!!」
 Q、花巻でネカフェは見つかる? A、ノー。携帯片手に青くなった凪を、店主はこっそり奥へ呼んだ。
「こったなのでわかねぇかや」
「ありがとうございます…!」
 型式古いとか、言ってらんない! 凪はパソコンの電源を入れる。ことん、と林檎ジュースが脇に置かれた。

「本当花巻って良いところアルな〜。自然も豊かで人も温かくて…私、大好きネ!」
 孫 矢麗(ja3701)は、土産物を選びながら機嫌よく好意を示した。昔から酒蔵として使われていたそこは、広い土蔵だった。あちこちに店舗としての改造が施されているが、昔の名残も多い。それに、壁際にはミニチュアが展示されていた。それは昔ながらの、直径2メートルもあった酒仕込み用おけやいろいろの酒造用品、酒造りにまつわる蔵内行事など。
 常磐木 万寿(ja4472)もそんなミニチュアや建物の中をゆっくりと見学して回っていた。
「素敵な雰囲気だわ…。ここでいただくお酒は、全部美味しそうね」
 ブロンドの美青年、美女ではなく美青年。ニナエス フェアリー(ja5232)はさっそく席に着き、ワインを頼む。
「お邪魔してもいいアルか〜?」
「一人で飲むのもなんだし、相席願えるかな」
 見学を一通り終えた矢麗と万寿に席をすすめ、快く迎える。
「普段はどんな酒を飲むんだ?」
「ワインかしら。白でも赤でも好きよ」
 言葉や仕草は女性めいているニナエスだが、矢麗の椅子を引いてあげるあたり、紳士だった。
「ありがとうアル〜」
「俺もワインにしようかな」
「あなたは頼まないの?」
「飲むより、お土産買いに来たネ! それ美味しいアルか?」
「ええ、これは青林檎みたいにフルーティーな香りね。酸味が強めかしら、キレもあるし、どちらかといえば辛口のはっきりしたワインだったわ」
 白ワインの入ったグラスを傾けるようにして差し出す。くんくんとその香りをかいで、いいアルね〜、と礼をのべた。
「でも、年間三万本限定の製造なのよね」
「三万本アルか…。そっちはどうアル?」
「葡萄果汁を加えたって言うやつだな。瑞々しくてフルーティー、こくもある。あと、辛くない。甘口だな、そういうのが好きな相手にはいいと思う」
 ふむふむ、と頷きながら購入ボトルを絞り込んでいく。
「自分用にも買うつもりネ。おすすめとかないアルか?」
「そうねぇ…」
 アルコールの香りがほのかに漂う中、和やかに互いの情報を交換し合った。

 目の高さまで持ち上げたグラスに、薔薇色の鮮やかな液体が注がれていた。ふわりと広がる薔薇の香りと、喉を焼くアルコールの熱。
「綺麗な、色。ですね」
 そう言う宮田 紗里奈(ja3561)に、直太郎もそっと紗里奈の肩を抱き寄せた。
「二人で酒を巡るというのも中々…いいものだなぁ…」
「お酒、は。誰と飲むかで、味が変わる。ような。気が、します」
 こくりと喉を鳴らして薔薇色の酒を飲み干す紗里奈。
「今日のお酒は、特別。美味しい、のです」
 肩を抱く腕に少し、力を込めた。
 杯を重ね、薔薇酒から日本酒、焼酎、ワインと種類を変えた。くいくいと次々飲み干す紗里奈のペースに巻き込まれないよう、直太郎は控えめに飲む。
「飲んで、ます、か?」
「飲んでる。…おいしいよ。でも少し飲みすぎじゃないか?」
「そんなこと、ない、です。この焼酎、すごく口当たり、よく、て」
 たしかに。飲みやすいからつい次々と空けたくなるが――。
 アルコール度数、30。紗里奈もそろそろ酔っ払い始めて、直太郎に絡む。
「私の、お酒が。飲めません、とでもぉ?」
 苦笑しつつ飲むふりでごまかして、泥酔してしまう前に部屋へ連れ戻そうと、悪戦苦闘する。

●売店
 ロビーでライムとレインはさっそくたんまりと買い込んだお土産の余剰分を開封していた。パリパリと音を立てて砂糖漬けを食べるライム。
「じゃあ、ソフトクリーム!」
 それぞれ好きな味を買って、分けっこだ。
「はい、ペルセス様〜、あ〜ん」
「あ…あ〜ん…」
 いちゃいちゃしている二人を、またパシリと写す。
 また、売店のそばに居座ってソフトクリームのフルコンプに単身勤しむのは佐藤 七佳(ja0030)。ホットドリンクで身体を暖めつつの挑戦、ただいま三本目。
「甘いものは別腹だよね!」
 鮮やかに言い切る倭子、頷くチルル。
「…本気でアイス完全制覇するつもりか」
「と、当然あたいは全種類食べてみるんだからね!」
 ご当地限定味を優先して注文するチルルに、ふと絡は閃く。
「ちょっと分けてくれよ、俺のもやるからさ」
 弥はつんつん、と服の端を引っ張られた。見上げると咲月が。
「西垣くん、西垣くん…アイス、いっぱいあるよ…」
 売店では既に、倭子が両手に持てるだけ持っていた。
「どれから食べよう…まず、定番のバニラかな…薔薇も苺も美味しそう…。西垣くん…アイス食べる…? 奢るよ」
「りんご味か薔薇味がいいな」
「皆で分け合って食べればいいのだよ!」
 胃にやさしい提案をした部長により、分けっこが始まる。
「ばっ、取り過ぎだろチルルー」
「りんご味と薔薇味をとらなければ構わないよ」
「あたい、ここでしか食べられないのを優先して食べたいよ!」
「ははは、ならもう一本ずつ注文しよう! 薔薇味は咲月嬢もご希望かな? ならば二本あったほうがいいね!」
「あ…、私、買ってくる…」
 そんな様子を、絡はカメラにおさめた。シャッター音に振り向く一同。
「あー後で現像して…つーか、データ送ってやるよ」
 和気藹々と和やかな売店は、なにもソフトクリームだけの販売ではない。
「娘も一緒に連れてきたかったんだが、人が多い所は嫌だと振られたよ」
「じゃあ私はその娘の代り?」
 娘への土産選びのさなか苦笑する槍樹に、からかい半分茶化す黎。
「何かコレって物あるかしら?」
「甘味というと、やはり温泉饅頭が、基本でしょうか?」
 東雲 桃華(ja0319)と柳津半奈(ja0535)は、包装された箱を手に検討していた。

●露天風呂
 おっかなびっくり、つま先を水面につける。温かな湯の感触、そろりと足首から膝までを入れる。
(これが、温泉…)
 アシュリー・ソーンウッド(ja1299)はおずおずと湯船に身を沈め、景色を見るのによさげな場所を探す。無意識に男性客と距離をとるのは、やっぱり恥ずかしいからか。
「うーん…ちょっと恥ずかしいですけど、やっぱり景色がいい方が楽しめますよね」
(あ…)
 岩に身をもたれ、渓谷を眺めていたのは七佳だった。タオルを胸元できゅっと握り、黒髪をタオルでまとめた、色の白い少女。アシュリーより十ばかり年下に見えたが、どうも似たような感じを受ける。
「あの…」
 声をかけると、きゃいきゃいと髪や肌についての話が弾んだ。
「綺麗な金髪ですよね、お手入れ大変じゃないですか?」
「そうだ、髪を洗ってあげますね」
 そうして洗い場へ連れ立って行く。
「気持ちいい…」
 元看護師ならではの手際のよさで、優しく七佳の地肌を揉みながら洗っていくアシュリー。
「流しますね、目を瞑っていてください」
「はーい」
 シャワーのコックを捻り、湯を出す。一度自分の手で温度と水圧を確かめて、七佳の髪にかけた。

「お・ん・せ・ん・だぁぁぁぁぁ!! やたぁぁぁぁ!」
 喜び勇んで露天風呂ゴー、高野 晃司(ja2733)は目的地に直行する。
 ビール片手にのんびりするのは、麦子だ。誰はばかることなく好きなだけ飲めるビール。最高である。
「こっちきて一緒に飲みましょ〜♪」
 男女おかまいなし、ジョッキ掲げて手近な人間誘う麦子。そのあけすけで気軽な呼びかけに、何人かが湯の中を移動してきた。
「おや、そちらはビールですか」
 戸次 隆道(ja0550)が手にしているのは日本酒だ。景色を肴にゆっくり飲んでいたらしい。
「私の燃料〜♪」
「寒い時期に景色の良い露天風呂に入るのは最高だよね、そしてこの薔薇酒…幸せ」
 ミルヤ・ラヤヤルヴィ(ja0901)はそんなことを言いながらの薔薇酒。アルコールに乗って、ふわりと薔薇の香りが漂う。
 南條 唯(ja0313)もそんな中にいた。
「あたりまえのように、あたりまえに暮らす日常、か…」
 悪くない。ただ懐かしいものに思える、それが不思議だと唯は思った。
「天使と悪魔、まるで小説の世界だな。正義は勝つと言ってもそれは人道的の話。天使相手にその話は意味無いだろうしな」
 晃司が、応えるように自分たちの「日常」を語る。唯の切りそろえた銀髪が、さらりと揺れた。
「戦う事に迷いはないが…いつか、私の日常にも平穏を取り戻せるのだろうか…」
「まぁ、戦うだけだ、でしょ」
 そう言う晃司の目に迷いはなくて、今も温泉につかりながら気を緩めていないのがわかる。こんなときまで敵襲を警戒しているのだなと、唯は気づいた。
「生きる。ただその為にね」
 さざめく声が聞こえる。立ちのぼる湯煙が満ちている。
 肺まで湿った空気が流れ込んで、時折吹く風が乾いた空気を連れてくる。
 見下ろす景色は白かった。空はよく、晴れている。
 こんな何もない日が、いつか日常になるのだろうか。
「ずいぶんと…遠く険しいな…」
 だから今は、暫しの休息を。

 水着の上にタオル。重装備の篠宮さくら(ja0966)は、露天風呂でほっこりしていた。
「誘って下さった皆さんはどこに居るのかしら…」
 湯煙の中をきょろきょろ探す。
「あ!」
 ガラガラ、とやってきたのは緋伝 璃狗(ja0014)と緋伝 瀬兎(ja0009)の姉弟。
「…まさか旅行で地元近くに来るとはな」
「やっぱり露天風呂最高っ!
 これであのお箸で食べるソフトクリームがあればもっといいのになー」
 続けて竜宮 乙姫(ja4316)も現れて、身を洗いざぶざぶと湯船へ入っていった。
「乙姫ちゃん、肌綺麗だねー」
 瀬兎はまず、手近な乙姫に絡む。日本人らしい象牙色のなめらかな肌に、濡れた黒髪が張り付いていた。
 あれもう一人…、きょろきょろと見回すと、隅っこにさくらを発見。
「さくらちゃーん、おいでー」
 あけっぴろげな瀬兎に躊躇いがちに近づくさくら。
「さくらちゃん可愛いー」
「…どうやったら、そんなに大きくなるの…?」
 ひとり、乙姫は二人と自分の胸を見比べて落ち込んでいた。

「…ああ、こう、疲れが溶け出していくような…」
 佐倉 哲平(ja0650)は、ひとり静かに癒されていた。そこへ。
「水遁の術っ!」
 瀬兎が湯からざっぱー、と出現。
「哲平さんって結構いいカラダしてるよねー」
 ぺたぺた触る瀬兎に誘発されたか、乙姫もその筋肉に興味を示した。
「…ちょ、佐倉哲平のクセに生意気なカラダだよね?」
 べたべた。両手に花ですね、なんて思っていたさくらも、さすがに様子をいぶかしんで近寄ってくる。
「…お前ら何してる」
「…いやん、そんなに見ないで? タオル巻いてても、恥ずかしいよぉ〜?」
 ワザとらしさ漂う可愛らしさを振りまく乙姫。もちろんからかっていた。
(…! 哲平さんがからかわれてる。えと、助けた方がいいのかしら…。でも)
「細身な方だと思っていたのですが、筋肉を見ると男の人なのですねぇ…」
 さくらもそっと二の腕に触れた。折角の機会ですし。
(すまない佐倉先輩。だがお陰でのんびり湯を楽しめる)
 苦労人オーラの出ている哲平にはなんとなく親近感を持っている璃狗だが、それはそれ、これはこれ。生贄がいれば自分は安全、とばかりに湯を楽しんでいた。味方ゼロ。しかし哲平も、ただおとなしく生贄なんぞごめんである。
 さくらと乙姫を振りほどく。不満げな乙姫の声を聞きつつ瀬兎も振り払おうとして。
「わっ…!?」
 振り払われまいとする瀬兎と、半ば強引に引っぺがす哲平の均衡が崩れて。
 ずてんっ、と転ぶ音。むにゅりと手に柔らかな感触。半ば押し倒すような格好で転んでいた。
 や・ば・い。
 殺気全開、光纏付きの本気モード璃狗。立ち上る黒に近い緋色のオーラ。
「ああうん、なんかもう済まん…」
 何故こっちが謝る羽目に。思いつつも謝るしかない。…謝っても収まりそうもないのはなんでだろう。
 が、そこへ元凶であり救いの女神が璃狗へ手を振り上げた。
「えいっ」
 チョップ。は、とわれに返った璃狗は、気まずげに哲平へ謝った。
「…すまない、つい、頭に血が上った」
 いいよ、わかってる。ため息混じりに許容する哲平は、やっぱり苦労人かもしれない。
「…と言うか竜宮、またお前は…」
 お仕置きでもしてやるべきか。尻叩きとか。
「何考えてるのよ、佐倉哲平?」
 反省の兆し、なし。
「篠宮に至っては…お前までやるとは思わなかった…」
「えっと…すみません? 怪我はありませんでしたか?」
 ほわんとしたさくら相手では怒る気も失せる。
「お風呂入ったらまたお腹空いちゃった。璃狗、売店行こうー」
「風呂上り直後に食うと腹壊すぞ、瀬兎姉」
 瀬兎は大股で露天風呂を出て行く。もちろん璃狗もなんだかんだ言いつつくっついてった。

●檜風呂
 薫を除く三人は檜風呂に入り、侑紗は水鉄砲の研究に勤しんでいた。重ねた両手の中に水を含み、ぴゅーっ、と押し出す。
「…いまいち…です」
 改良の余地アリ。黙々と打ち込む侑紗に、先上がってるよ? と声をかける美月だった。

(まったり気持ち良く寝れる処が良いのだとうちは思いますねえ)
 高虎 寧(ja0416)は、温泉三昧寝三昧、徹底してまったりのんびりし尽す心積もりだった。
(当たり前に風光明媚しか有りませんが、余計な事をしなくても良いので却ってうちには好都合ですねえ)
 就寝前に温泉三昧しておけば、温まるし筋肉はほぐれるし。意外と入浴は体力を消耗するから、動かなくとも夜はぐっすり眠れることだろう。水分補給のペットボトルを脱衣所に用意して、檜の湯につかる。さわやかな木の香りが快い。ショートボブにした黒髪が湿り気を帯び頬に張り付いた。
 うつらうつらとおぼれない程度に船を漕ぎ、至福のひとときを味わった。

●続
 ミルヤは酔っ払っていた。
「わらひよっれないよー、きみものみゃれ…の…のみゃれる?」
「…はいはい」
 苦笑しつつ隆道は杯を差し出す。が、もはやぐんにゃりしたミルヤに酒を注ぐ腕力など期待できるわけもなく、結局自分で注いだ。いったいミルヤに誰が服を着せて部屋まで連れて行くのか。ふと景色を見下ろしていた唯が顔を上げ、目が合った。
「頼めますか」
「そうだな…、引き受けよう」
 だからそっちは頼む、と、無言で温泉のへりを見やる唯。飲んだくれたあとで温泉に入ったため、へばってるラグナがいた。
「…まあ、居合わせたのも何かの縁ですしね」
「なになに〜? ミルヤちゃん運ぶの〜?」
 麦子は酔ってはいるが、いつものことで潰れてはいない。唯と協力してミルヤに肩を貸した。
 泥酔者を寝かしつけたあと。予定がないならとポーカーやブラックジャックを提案する晃司。
「いいですね、飲んだ後に運動はなんですし、それにしますか」
 ロビーの一角を陣取ってトランプを広げた。
 また、こちらは合流した少女(?)たち。
「あまり慣れてませんけど、真剣勝負です!」
 びし、とラケット構える悠と、ダブルス組んだ薫。対するは侑紗と美月、友達同士の息のあったコンビネーション! …といいたいところだが、悠&薫の圧勝だった。妙に悠が強かったのである。
「お。混ぜてもらってもいいか? ルール知らないけど…」
「もちろん、いいよー」
 晃司たちが混ざって、わいわいと卓球大会が開催された。

●夕飯
「お〜! なんか凄そうな料理よ!」
「すき焼き御膳だな! 苦手なものがあれば箸をつける前に言いたまえ、下げてもらえるからね! むしろ半端に残すとまずいのだと思われるから、それが礼儀だよ!」
 チルルに説明する倭子、ついでにチルルをなでなでなで。それをパシリと写す絡。
「干支の仲間に牛がいようと、酉がいようと俺はなんでも食べるぜ!」
 共食い(?)宣言かましつつ、レンズを料理に向ける。
「おっと、なんだこれ。このスイーツ可愛いぞ写真に…」
 接写モードでカシリ。
「貝殻はどうしたらいいの?」
「吸い物の蓋を右に置いて、そこに入れるのがマナーだよチルル嬢!」
 実演してみせる倭子の手元を覗くチルル、弥は淡々とすき焼きの鍋から肉を取り出していた。

●夜
 眠らずにひとり、静かに酒を楽しむのは万寿。ひとつ、ふたつと酒瓶を空けてから喫煙所へ足を運ぶ。
「寒いな…、しかし、いい土地柄だ…」
 煙へ乗せるかのように言葉を吐き出して、窓から満天の星空を見上げた。

 一方、賑やかな部屋もあった。
「寝る子は誰だー!」
「無理なら寝たほうがいいわよ、薫さん」
「大丈夫です」
 むしろ騒いでいたほうが気も紛れる。次は何を出すべきか。七並べの手札とにらめっこする薫。
 そんなとき。ひっそり隠密使ってまで美月に忍び寄る影、なんか頭部が人間でないシルエット。
 ぽん、と肩を叩くと、なにー? と無邪気に振り向く美月。馬の頭と対面。
「ひぁぁぁぁぁっ!? サーバント? ディアボロ!?」
 慌てる美月に、馬の頭をべろっと自分ではがす犯人。
「侑紗ちゃん…? び、びっくりしたじゃんかー!」

 人の少ない、静かな頃合。夜中から早朝にかけての時間帯を選び、東雲 桃華(ja0319)と柳津半奈(ja0535)は浴場へ足を運んだ。暖色系の照明が、ぼんやりとあたりを照らしている。
「良い湯治になりそうです」
 訓練、依頼と続けば生傷も耐えない。半奈の言葉に、桃華も同意する。
「中々疲れが抜け切らないものね」
 だから本当に癒しを求めて、って感じ…。
 と、いうのは建前で。
 桃華の本音は、半奈とゆっくり話のできる場所の確保だった。檜の浴槽に身をもたれる。湯が注がれる音、すぐそばにいる、部員であり憧れであり大切な人でもある先輩、半奈の気配。
「…ふぅ、気持ちいい…」
「…良い香りですね。落ち着きます」
 何気ない桃華の呟きを拾うように、半奈が応えた。半奈もこの年下の友人との時間を楽しんでいる。背を預けて戦ったこともあった。親友…だと、思っている。それに、強くなる事を目指し無骨な日常を送る半奈は、一人だと手持ち無沙汰になった可能性、大だ。
「桃華さんと来られて、良かった。私一人では、中々勝手も判りませんで」
「…私も先輩と一緒で良かった、凄く…その、落ち着くの…」
 普段の強気な仮面から、不器用に桃華本来の優しさが滲む。
「私も。背中を預けられる桃華さんと一緒だと、安心します」

 露天風呂をひとりで楽しむのは真治。
 透き通るような夜空に星が煌く。湯船が光を照り返していた。

●朝
 妙に疲れたような薫を心配しつつも、悠は予定通り露天風呂へ。朝日の昇る瞬間の空の鮮やかさを、見続けた。

「おぉ…バイキング料理の種類も豊富…」
 ふわりと甘いご飯のにおい、どこかから漂うコーヒーの香り。咲月は皆と連れ立って列に並ぶ。ねばねばコーナーなるシロモノもあり、納豆にオクラにとろろと、ねばねば尽くし。弥は表層普通にしながら、その実しっかり寝ぼけていた。が、納豆の前に来た瞬間しっかりそれだけは回避する。二日酔いでふらふらしつつ直太郎に支えられた紗里奈も納豆を回避し、どっからどう見ても北欧人なミルヤはフツーに納豆を取り分けていった。

 戦士たちの、束の間の休息。
 明日からはまた、自分たちの日常の中へ。



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