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東京もふランドバスツアー タグ:【もふ】  (梵八)

●戦慄のバス旅行
 ある晴れた冬の日、『久遠ヶ原学園 もふランドバスツアー』と銘打たれた紙をフロントガラスに貼り付けて、大型バスは常磐道を東京方面に向かって走っていた。
 新入生歓迎オリエンテーションとしてテーマパークへ。若者達を乗せたバスは明るい期待に満ちているはずだ。
 しかし、今や車内は極度の緊張状態に置かれてるのだった。

「もう駄目かも‥‥」
 小柄な少女が今にも死にそうな表情で弱音を吐く。シルバー・ジョーンスタイン(ja0102)は今、窮地にあるのだ。
「聞いてはいたがこれ程とはな‥‥」
 シルバーの隣に座っていた、青龍堂 夜炉(ja0351)はリュックを面倒くさそうに漁り出す。シルバーが乗り物に弱いという事で、保護者代わりに連れて来られた夜炉の準備は万端だ。

 が、その動きは少し遅すぎた。

「‥ごめん」
「あ?」
 シルバーが小さく謝った直後、車内の緊張は最高点に達するのだった。

 途中、悲しい出来事もあったが、バスは目的地の『もふランド』に到着する。
「よし!遊んで騒いで、めいっぱい楽しむわよ!あたしが!」
 バスから駆け下りて夢見 碧葉(ja2946)はヘッドフォンから漏れ出る音など余裕で掻き消す勢いで宣言する。
 そうだ、ここは『もふランド』だ。戦場でもなければ仕事場でもない。力の限り楽しむと良い。
 ちなみに碧葉は予備の電池までもばっちり備えている。電池切れなんて無様な事になりはしない。
「‥‥遊園地か。是非楽しみたい」
 ここに来るまでの準備として事前にガイドブックを熟読してきたフォルトレ(ja4381)に抜かりは無い。予算もまた十分だ。まさに万全の備えと言っていい。
「まいごせんたーなるものはどこですか」
 エディ=ロウ(ja3825)に至っては最悪の事態まで想定した訓練を行ってきている。この様な訓練まで行ってきた者はそうそういないだろう。
 碧葉が遊園地に来たことのないというエディとフォルトレの二人の後輩を案内という事になっているが、最も準備に気合を入れてきた三人といっても過言ではない。
「準備万端、引きずりまわしてレッツゴーゴー♪」

●もふら様
「昔は良く一緒に行ってたよね〜」
「そうだね〜適当にぐるっと回ろっか〜」
 そんな岩崎澪(ja1450)と大曽根香流(ja0082)の二人は幼馴染である。
 特に目的も無く歩き始めた二人の目の前に白い怪しげなもふもふしたモノが現れる。
「あっもふら様よ!」
「本当だ!写真、取りましょ?」
 基本的に白くて犬みたいな良く分からないマスコット、それがもふら様である。(色違いや大小はある)そんな得体の知れないもふら様であるが、香流の様にもふら様好きはそれなりの数が居るらしい。
「きゃーもふもふよもふもふ」
「やっぱこれよね、もふもふよね」
 そのポイントはもふもふ感であり、もふら様愛好者の中でもそのもふもふがもふら様の魅力だと言う者は多い。

「きゃーい。もふもふのー♪」
 さすがはもふら様は力持ち。ぴっこ(ja0236)が飛び込んできてもびくともしない。とはいえ小学一年生のぴっこの重量などたかがしれたものであるが。
「しゃちん、とて」
 こんな風に写真撮影を頼まれて断れる者などそうはいない。通りすがりの誰かが顔をほころばせながら携帯をぴっこに返す。
「あがとのなの♪」
 そして故郷の兄へメールを打つ。ぴっこは割合手馴れた感じでメールを打つが、返事もまた早かった。
 しかし、どうもぴっこの期待していたような返事ではなかったらしく少々ご不満だ。
「ちなーう!もふらさぁまが、わかないのーね」

「もふらさまだ!もふかわいー!」
 辰川 幸子(ja0248)がもふら様に飛びつく。そんな愛らしい小学生を見つめる中年男が二人。
「あんな着ぐるみのどこが可愛いんだ‥?」
「これ、もし俺がもふら様の中に入ったら幸子ちゃんと‥」
 もふら様を可愛いと言う娘の感性が理解できぬと思うのは辰川 幸輔(ja0318)。
 一方どう考えても危険な想像をしているのは、周防 螢(ja0218)。しかし幸輔の鋭い視線でこれ以上の発言を憚られる。
「しゃしんとろ!おとーさんもすほーくんもいっしょに!」
 幸子にそう請われては幸輔としても断れない。だが、螢が娘と近すぎるのがどうにも気になる。
「おい周防、引っ付き過ぎだろ離れろ!」
 その結果、『天使のような笑みを浮かべる小学生女児と必要以上に男らしさ溢れる中年男性二人とおまけにもふら様』といういささか妙な組み合わせの記念写真が出来上がるのだが旅の記憶としてはまあありだろう。

●貸衣装
「こ、こんなに‥‥」
 貸衣装屋にいる方羽 智(ja3868)の前には多くの衣装。その大部分は着物に属されるものだが、どう考えてもコスプレだろとか、誰得だかわからない衣装まで広く取り揃えられている。
「ちょっと迷ってしまいます‥」
 でもさすがに『スク水』とかはありえないよね、と思ってそれを避けながら何か良いものは無いか智は衣装を探す。
一方、『普段着られない和服着てみたいっ』という高槻 ゆな(ja0198)が選んだのは禰宜の衣装。いわゆる神社にいる神職の衣服である。
「なんだか、引き締まる気がするね」
 とゆなは上機嫌に出て行く。それを見ていた智も思いつく。
「巫女さんも、いいかな‥?」

 唐突だが八塚 小萩(ja0676)は天狗姫である。
 『妾の美貌が見えなくなるのは人類全体の損失』との理由から、天狗の面こそしないものの、山伏の如き装いにミニスカートとなれば天狗姫と言わざるを得ない。
 一本歯の下駄なんて普通の人間にはまともに歩けない様な代物まで履く気合の入れようだ。
 小萩が下駄を器用に扱って出て行ってもまだ貸衣装屋には人が溢れている。
「十二単、あるんだあ‥‥」
 雪成 藤花(ja0292)が嬉しそうに貸衣装を見ている。
 十二単なんてまず普通に生活をしていたら着る機会はないであろう服の一つだ。そんな物があるだけでも大した物だが、それですら数種類あるのがもふランドの凄い所である。
「色は、どうしようかな‥」
 紫の薄様、雪の下、季節と色合いを考えつつ、試着。一回一回に時間が掛かるが仕方が無い。
「やっぱ、これかな」
 藤花が選んだのは紅梅の襲色目。春先の気配を思わせるピンク色中心の色合いでまとめたものだ。
「折角ですので、十二単を着てみるですのね」
 十二単を選んだのは藤花だけではなかった。
 『お姫様にしては、筋肉質すぎるかもしれないですけど』と宅間 谷姫(ja1407)は言うが、裏山吹の色を纏った谷姫のその振る舞いや所作に育ちの良さが垣間見える。
 こうして二人の姫が園内へ出て行くのだった。

●色んな人に色んな衣装
「記念に」
 そう言って忍装束の双翼 集(ja5017)がカメラを向けるのは、巫女衣装に身を包んだ双子の姉、双翼 宴(ja5023)。銀色の髪にあう巫女の清楚な衣装が宴の魅力を引き立てている。被写体として申し分ない。
 だが、その後も続いて撮り出したのは何の変哲もない柱とか木陰とか。対象もアングルも一般的に写真に収められるような事がないものばかりで、一体何が彼の感性を刺激したのかわからない。
「そろそろ行くぞ」
 宴は可能な限りアトラクションを回るつもりだ。それを考えると余り時間に余裕は無い。

 白いキャスケットに白いうさぎのぬいぐるみ兼ポシェットで、年齢の割りにはやや大人びていて全体的に白っぽい逸宮 焔寿(ja2900)は迷っていた。
「んー‥焔寿にはどれが似合うかなぁ」
 巫女もあるし、魔術師だってあるけれど彼女が見つけてしまったのは『まるごともふら様』。ああ、着ぐるみだ‥。

「リア充だらけな予感がするわね。しっと団の力を見せてやるのだわ!」
「承知致した!」
 天道 花梨(ja4264)と虎綱・ガーフィールド(ja3547)は学内の過激組織しっと団のメンバーである。
 そしてまずは準備と言う事で貸衣装でコスチュームチェンジというわけだ。
「これで『まじかる♪かりん』なのだわ」
 いささかアレンジが過ぎる忍者衣装に着替えた花梨。忍者なのか魔法少女なのかは意見が分かれる所だ。
「拙者も準備できましたぞ!」
 虎綱は、『まるごと闇目玉』。なんとも悪趣味な着ぐるみである。恐らく彼は知らないだろう、この着ぐるみがいかにモテ度を下げるかという事を‥‥。

●思惑
「折角あちぇ助にお誘い申し上げたのですから。まぁ、楽しむべきでしょうねぃ、ええ、はい」
「そうか。ふむ‥‥十八よ、何か可愛い衣装でも見立てて貰ってこい」
 ラドゥ・V・アチェスタ(ja4504)はまるで下僕に申し付けるかのように、十八 九十七(ja4233)に命じる。
「か、可愛いですの?」
 声が裏返りながら、九十七は聞き返す。
「そうだ。早くするが良い」
「は、はい」
 割合素直に九十七は足取り軽く貸衣装屋に消えていった。
『可愛いって、少しはその、気があるんでしょうかねぃ‥?』
『十八の奴えらくはしゃいでおるが‥そんなに楽しみだったのか、もふらんど』
 二人の思いが交差する。
「それにしても可愛いって、どれにすればいいんですかねぃ‥‥」
 九十七は首をかしげた。

「これは新手のイジメか何かか?」
 市女笠に虫の垂衣。これはどう考えても男の衣装ではないわけで、佐野 和輝(ja0878)の主張ももっともだ。
 何せ顔立ちは良くても体格が良すぎて、いくら露出が少なくとも中身が男であるのは一目瞭然だ。
「お兄ちゃん、せっかくだから‥」
 そう言う佐野 七海(ja2637)も和輝と同じ格好なのだが、こちらは相当に小柄なものだから並ぶとなおさらその差が酷い。
 もっとも普段の七海は『見えていない』わけだから、意地悪でそう言っているわけではない。単純に兄と同じ格好であるという事を喜んでいるだけだろう。
 それゆえ和輝も下手に断るわけにはいかなかった。
「まあいいか‥」
 幸い市女笠は顔が隠れる。和輝は七海の手を取って、その格好のまま店を出るのだった。

「どうだ?」
 引率役とはいえ中学生美少女三人とテーマパークを回れるという恵まれた立場でありながら、麻生 遊夜(ja1838)の選んだ服装は『友達の居ない、早なんとかさん並に影の薄い拳士』の服だ。何かの皮肉だろうか。あるいは自慢だろうか。それとも爆発したいんだろうか。
「お待たせしましたーーっ!どうです?変じゃないですかね?」
 遊夜に対する感想は置いといて、黒瓜 ソラ(ja4311)が吟遊詩人のなりで姿を現す。長い髪とゆったりとした服とあいまって独特の雰囲気を紡ぎ出している。
「‥大丈夫、可愛い‥‥」
 そう言う樋渡・沙耶(ja0770)も狩衣姿で陰陽師を模した衣装に着替えている。沙耶が『似合っていない』などといえばソラもがっくりきてしまうかもしれないが、さすがに嘘をついてまでへこます様な真似はしない。
 沙耶も狩衣を気に入ったようで、扇子を静かに開けたり閉じたりしている。
「お待たせしましたっ」
 と四人の中で最後に出てきたのは吉岡 千鶴(ja0687)。新撰組という事で、鉢がね、羽織できりっと締めている。千鶴は元よりそうである事が多いかもしれないが、往々にしてこういう場合はポニーテールとなるわけで、一言で言うと素晴らしい。
「それじゃ、行くか」
「はーい」
「はいっ」
「‥はい‥」
 衣装はバラバラで返事もバラバラだが足並みがそろった三人を引き連れて、遊夜達は貸衣装屋を後にするのだった。

●再びもふら様
「もふら様もふら様、いつか恋人と一緒に来てみたいなあ‥‥」
 そんなお祈りをしながら、十二単を着てもふら様に抱きつくのは藤花。思いっきり抱きしめるのは、その願いの強さゆえだろうか。
 もふら様と立場を変わりたい感じだが、とにかくもふら様は人を集めるものらしい。
「いっしょに撮ろうぜ!」
 そう言ってやってきたのはサムライ姿の松原 ニドル(ja1259)。
 もふランドに来て衣装に着替えているのなら、写真は撮りたい。どうせなら大勢で撮ったほうが良い。
「いい機会なのでごいっしょさせていただきますの」
 谷姫が混じり、もう一人十二単が増える。
 多くの人と知り合う事を望むのであれば、積極的に関わっていこうという意思が必要で、こういうオリエンテーション等の行事はきっかけに関しては事欠かない。
「ありがとうございます」
 とカメラを返すのは焔寿。もふら様にしがみついていた時、本当に目が輝いてた。
 こうして彼らの間にはちょっとだけ賑やかな写真が手元に残る事になるのだった。

●湯呑をまわそう
 『万屋湯呑』と書かれた看板と、湯呑と言うにはいささか不恰好で巨大な湯呑が並んでいて、そこには三人の若者の姿があった。
「叔父上様、これはどういう乗り物なのですか?」
「これはな、思いっきりまわして楽しむもんだ!」
 徳川 夢々(ja3288)の無垢な問いかけに叔父、珠真 冬也(ja4330)は全力でもって答える。
「そうよ、思いっきり回すのよ」
 もちろん、珠真 緑(ja2428)も全力で回す。ちなみに三人の中で最年長であるはずの緑が一番幼く見える。
 そして三人を乗せた湯呑型のいわゆるコーヒーカップは唸りを上げて物凄い勢いで回転している。
 傍から見れば、一つの湯のみだけが異常な動きをしているのが一目瞭然だ。
「母様‥すごく回っています‥」
「まだよ、こんな程度で諦めたらダメ」
「そうだ!俺達の力はこんなもんじゃねえ!」
 若者達は己の限界を知らない。そして、時として冒険心は無謀という言葉を勇気に置き換える。
 彼らは時間一杯、精一杯湯呑をまわした。恐らく今、世界で一番全力で回っていたであろうコーヒーカップ(湯呑)は動きを止めた。
「や、やりきったわ」
「母様‥世界が、世界が回っております‥!」
「こんな程度で、どうにかなるほどやわじゃねえぞ」
 と言いながら冬也の足取りも怪しい。とにかく、三人にはしばらく休養が必要なようだ。

 そしてまた休養に入った三人とはまた別の三人が万屋湯呑へやって来た。
 碧葉、エディ、フォルトレの三名が意気揚々としてやって来たのだ。
「そうか、回せばいいんだな」
 フォルトレがまず回す。
「おお、まわりますね」
 いつの間にか忍び装束に衣装変えをしていたエディもまたぐるぐる回す。
「そうだ!回すのよ!どこまでも!」
 もちろん碧葉が回さないわけもない。
 何だろう、さっきも同じ様な光景を見たかもしれない。だが、やはりこういったものは全力で回す事になっているようで、一つの湯呑だけが高速回転モードに突入してしまうのは仕方の無い事なのだろう。
「もっと!もっと!もっとよおおお!!」
「もっとですか、わかりました」
「もっとか、わかった」
 碧葉の加速要求に無垢な後輩二人は疑う事も無く回し続ける。余り表情の見えない二人ではあるが、手元は忙しく動いており、手を抜いているようには見えない。
 三つの若い力が織り成すパワーは絶大だ。そして絶大なパワーは思いも寄らぬ未来を引き寄せる。
「ハンドルが、はずれました」
「ハンドルが無いなら‥‥仕方ない」
「な、なんでー!?」
 高速回転する湯呑の中で、さすがの碧葉も叫ばずにはいられないのであった。

●お昼を食べよう
「ルカちゃんと一緒に回れてすごく嬉しいよ!」
「私も椿姫さんと回れて嬉しい!」
 と仲良く園内を楽しむ神楽 椿姫(ja2454)と獅堂 遥(ja0190)も昼食時。別々の物を頼んで、分け合うこれまた仲の良い食事風景である。
「こっちの美味しいよ?‥あ、うん、コレも美味しい」
「両方とも、美味しいね!」
 料理が美味しいのか、二人だから美味しいのか。下手なカップルよりも余程仲睦まじく幸せそうである。

 香流と澪はともに料理研究会の仲間である。料理研究会にいるからには澪にとっても弁当作りなどお手の物というわけである。
「香流ちゃん、どう?」
「うん、美味しいよ」
 外で食べるには若干寒くはあるものの、日が当たる場所であればそれほど酷い我慢を強いられるというわけでもない。
「結構写真撮ったよね〜」
「もふら様とたくさん撮ったもんね」
 香流が持ってきたカメラは午前中だけでも相当な活躍をしている。カメラがもふもふしそうなくらいもふら様やもふランドの写真で一杯だ。
「〆は観覧車かな〜」
「そうだね、まだ時間もあるし楽しみましょ」
 すっかりお弁当も空となり、女子高生二人組みは午後も遊ぶ元気を充電した感じだ。

 あんみつをいじくりながら、和輝は妹に尋ねる。
「何か乗りたい物とかないのか?」
 妹、七海はあまりアトラクションに興味を示さない。貸衣装屋を出てから散歩を続けている様な状態だ。
「大丈夫。沢山の人が並んでる場所に行くのはちょっと怖いし‥」
 乗りたくないわけではないのだろうと思う。
「でも、お兄ちゃんと沢山一緒にいられて、こうして話も出来るから‥」
 だから退屈でも寂しくもないのだと言う。
「ゆっくりした時間があればいいの」
「そうか」
 ゆっくりと言いつつも、七海は兄よりも先にあんみつを平らげていた。それに気付いた和輝はハンカチを手に取り七海の口元を優しく拭うのだった。

「アリサちゃん、寒くない?」
「大丈夫さー」
 青い長髪の少女、否、少年である清清 清(ja3434)が沖縄出身の与那覇 アリサ(ja0057)を気遣う。
 なお、二人はこれが初デートとなる。したがって清は精一杯リードするよう頑張らねばと思っているわけだが、アリサも清を立てつつ、所々で助けの手を入れている。
「清、お茶飲む?」
「あ、うんありがとう」
 手持ちの水筒から暖かそうな湯気が上る。アリサはそれを清に手渡す。そして園内MAPを見ながら次は何処へ行こうかと考える。とりあえずここから近いのは『闇目玉の間』ではあるが。
「おれ、あんまりお化けとか好きじゃないぞ」
「ボクも得意じゃないけど‥」
「けど?」
「‥ボクがアリサちゃんを守るよ!」
「て、照れるぞ!でもおれも清を守るさー」
「じゃあ、行こうか」
「行くぞー!」
 二人は手を繋ぎ、仲良く歩いていった。

●飛空船
「た、大変だー!ひまりんが迷子になったんだしーっ」
 ちょっといい匂いがするなと思ってミシェル・ギルバート(ja0205)が余所見をしていたら、いつの間にかいっしょにいるはずの市来 緋毬(ja0164)がいない。緋毬の叔父の癸乃 紫翠(ja3832)もいない。
 はてそもそもいつからいなかっただろうとミシェルが考え始めた時、場内アナウンスが案内を告げる。
『ミシェル・ギルバート様、ミシェル・ギルバート様、市来緋毬様がお待ちです。飛空船前までお越しください』
「‥‥アタシが迷子だったー!!」
 なんという驚愕の事実。相方が迷子になったと思ったら、自分の名が迷子案内されていた。

「これ、大丈夫かな?」
 ゆなが近くで見る『飛空船』はなかなかに巨大だった。
 色あせた鉄材。どういう設計かわからないがやたらと多い木材。そして、近くに来るとわかる、走行する度に生じる何かが軋む音。
「きっとそういう狙いなんだと思うけど‥」
 果たして高さと速度以外から感じる恐怖感が狙ったものなのかそうでないのか判断がしがたい。
「でも、行くよね。折角来たんだし」
「そりゃあ行くだろう」
 と同じく飛空船に乗りにきたニドルが反応する。話をした事はないが、同学年でもあるし高校内で顔は見た事があるというくらいの間柄だ。
「乗ろうぜ」
「うん」
 ゆなに断る理由はない。こうして二人はいっしょに飛空船に乗る事にしたのだが、ゆなには施設の老朽化よりも二ドルの叫び声の方が気になったと言う。
「のおおおおおお!!」

 そんな飛空船乗り場の出口から遊び人風の派手な着物を着た螢や丈の短い旅装束のような幸子が出てくる。
「最近の乗り物も馬鹿にはできないね」
「たのしかったー!!もっかい‥」
 案外見た目よりも良かった飛空船をお気に召したか、幸子はもう一回乗ろうと提案しようとして言いよどむ。
「おとーさん?だいじょうぶ‥?」
「どうした辰、顔色が悪いが‥」
「だ、大丈夫だ‥」
 大丈夫とは言うものの、黒ずくめの幸輔が顔面蒼白になり死にかけていた。
「少し休憩するか。ちょっとそこのベンチで休んでいるといい」
 そして『飲み物を買ってくる』と幸子に言いつつ、小声で幸輔にだけ聞こえるように囁く。
「情けないね、君も。幸子ちゃんがもう一回乗りたいって言っているのに」
「‥うるせえ‥まさかあんな揺れると思っうっぷ‥」
 どうやら本気で駄目な様だ。無理やりもう一回乗せたりでもしたら、胃の内容物を空中散布するはめになりかねない。
「‥幸子ちゃん、次はゆっくりしたものか、見る系のアトラクションに行こうか」
「うん、そうだね‥のれないのざんねんだけど‥おとーさんといっしょじゃないと、さちはたのしくないから!」
 外見だけでなく中身も天使の様な娘に救われる幸輔であった。

 そう遠く離れていたわけではないのでミシェルと緋毬の二人はすぐ再会する事ができた。緋毬は余程心配したのか涙目だ。もしかするとアナウンスを依頼する時は泣いていたのかもしれない。
「み、みつけたーっ‥‥でも、あの‥‥放送‥‥超ハズぃ」
「ごごめんなさいっ慌ててしまって‥電波も悪かったし恥ずかしいとか思いつかなくて‥‥」
「心配かけるんじゃないよ」
「ご、ゴメンなさいしっ!ちょ、ヤメッ‥にゃーっ」
 ミシェルは紫翠のゲンコツぐりぐり制裁の餌食となっている。
「あ、もうその辺で‥‥合流出来たことだし‥」
 いつまでも心配そうな顔をしていては、ミシェルの頭蓋骨が破壊されそうだったので緋毬は慌てて止める。ここは涙を流す様な場所ではない。目一杯楽しむ所だ。
「早く乗るんだしっ!」
「行きますか」
「あ、うん」
 紫翠のゲンコツから開放されたミシェルがまた迷子になりかねない勢いで駆け出す。その後を紫翠はやれやれと緋毬はおろおろとついて行くのだった。

●闇目玉の間の前
「絶対イヤ。行かない」
 緑は冬也と夢々の誘いに対して、断固拒否の姿勢を見せる。どんなアトラクションでも全力で挑んでいった緑が拒んでいるのは『闇目玉の間』いわゆるお化け屋敷の類だ。
「何かが居る様な気がしてなりませぬ。わたくし達が調伏せねば‥」
「ほら、夢々もこう言ってる事だし」
「なおさらイヤよ」
 緑は嫌がるが夢々としては中に潜む怪異の予感が気にかかり、冬也としては嫌がる緑を無理やりにでも連れ込みたい。
「かくなる上は、叔父上と二人ででも‥」
「いや、緑もいっしょにだ」
「だから行かないって言ってるでしょ!」
 どうもまだ三人の話はしばらくまとまりそうにない。

「ほらほら行きましょう。暗い室内でライト無し、ナイトビジョン無しのCQB訓練よぉ♪」
 お化け屋敷をクロース・クォーターズ・バトル、まあ平たく言えば暗所の室内戦闘の訓練場にするなどという斬新な使い方を提案する雨宮アカリ(ja4010)であるが、ジェイニー・サックストン(ja3784)は乗り気ではない。
「いや、あの、私はここはいいので。その、どっかで道草食ってますんで」
 とても分かりやすい。
「部長、お化けとか苦手だったのかぁ」
 そんな態度であれば、雨宮 歩(ja3810)にだってすぐ分かる。
「意外ねえ‥‥。ミス・サックストンがお化けが怖いなんて」
「こ、怖くはねーですよ、別に。しょ、所詮作りものですから」
「作り物に本物が紛れ込むって言う話はよく聞くよねぇ」
「!」
 歩がカメラを構える。まだ建物の外ではあるが、何か撮れるかもといった所だ。
 ジェイニーは身構える。まだ建物の外ではあるが、もう臨戦態勢だ。
「まぁ怖くないって言ってるんだし、多少混じってたって問題ないわよねぇ?」
「部長、本当にいいのぉ?やめるなら今のうちだけどなぁ」
「こ、怖くなんかねーっていってるのです。や、やるなら今でしてよ?」
「じゃあ、決まりねぇ」
 こちらは案外さっくりと話しがまとまったようだ。

「おう、紫翠さん。こんなとこで何してんの」
「休憩。緋毬達は若いから」
 年の差を感じるとばかりに紫翠は呼びかけてきた宇野 巽(ja3601)に答える。
「そだ。そこの闇目玉の間とかいうの。行ってみようぜ、肝試しにさ」
 と自ら闇目玉の間に足を踏み入れた巽であったが、実はお化けとかが苦手な男だ。いざ中へ入ってみれば、自然と早足になる。
 が、紫翠はそんな巽に甘くは無い。
「何をそんな急いでいるんです?じっくり楽しみましょう」
「べ、別にこわ、怖いわけじゃ、ねぇけど、さ」
 といい終わる間もなく、紫翠が巽の背中を押す。
「うわぁぁっ、な、なん、なんだっ!?」
「度胸試しです。前を行ってください」
「頼むよ紫翠さん、手離すなよ?絶対離すなよ?」
 ──そんな感じで巽が散々慌てふためいてようやく外に出た二人であったが、巽の手がいまだに紫翠を放さない。
 それはもう仲がいいカップルにしか見えないくらいしっかり握ってる。紫翠は塞がってない片手で拳を作って振り上げる。
「‥我に返れました?」
「ああ、かえれたよ‥‥」
 そう言いながら巽は頭を両手で押さえるのだった。

●闇目玉の間の中
「‥‥なあ、みんな‥‥」
 七瀬 晃(ja2627)が呆れた様に一言。
 晃は小学六年生。しかし並みの小学生とは違う。どう違うのかといえば、彼に寄り添う者達を見ればすぐ分かるだろう。
 左手にフェミリア・ソードグラス(ja2519)、同じく小学六年生。
 右手にレナ(ja5022)、小学四年生。但し胸はある。
 そして後ろに月子(ja2648)。女子高生。巨乳の域を超えている。
 リア充の低年齢化が叫ばれている昨今、その象徴とも言えるべき存在が晃である。小学生男子なんて、鼻たらしながら下品な単語を連呼するもんだと思いきや、時代はもう違うのだ。よし、爆発しろ。

「ギャー!おばけー!怖いのだー!」
 レナがそう叫んで晃に引っ付く。確実に胸を当てている。何気ない振りをしているが晃から微かに喜びの表情が漏れている。それを見てフェミリアが露骨に嫌そうな顔をする。
「これたぶん二千円ぐらいなの‥‥」
 フェミリアはフェミリアで冷静に解説を始める。全く怖がるとかそう言う気配は無い。あまりに冷静すぎる。
「かわいいなー、かわいいなーっ」
 月子が後ろから頭をなでなでしまくってくる。晃はいちいち振り返りはしないが、どうせ顔もニヤついているのだろう。
 こんなんじゃ、いくらお化け屋敷と言ったって怖いとかそんな事になりはしない。
「‥‥はあ‥‥」
 リア充小学生はため息をついた。

 そんなこんなでお化け屋敷、闇目玉の間を進む一行であったが、レナが異変を指摘する。
「これなんだー?」
 レナが不思議そうに指差すのは目玉。
 目玉が浮いている。
 目玉が月子をガン見している。
『このショタコンめ!!』
 誰もそんな事を言ってはいないが、無言の眼差しがそう告げていると月子は思った。
 実際には全力で胸元を見ているだけだが、月子はそんな事には気づかない。その巨大すぎる胸を見つめる視線は、心の底を見透かされるような視線に思えてしまったのだ。
「私はショタコンなんかじゃ‥!」
 いつから見られていたのだろう。
 よだれをたらす勢いでニヤニヤしていたところから?頭を撫でていた所から?
「レナ!」
「にゃ?すごい!忍者みたいに早いのだー」
 月子はレナを抱えて駆け出す。これ以上あの目に見られるのは耐えられないと出口にむかってまっしぐら。

 そしてその目玉もいつの間にやら、いない。となれば晃とフェミリアだけがぽつんと取り残される。
「置いてきぼりかよ‥‥。ま、行こうぜ」
 そして晃は極々自然にフェミリアの手を握る。
「ムードもあったものじゃないの‥‥でも悪くないの」
 フェミリアも晃の手を握り返す。まだそれほど大きくない白い手が重なり合う。ほんの僅かな時間だけど間違いなく二人の時間。
 こうして小さなカップルは最後にちょっとだけデートっぽさを味わうのだった。

●闇目玉の間の後
「問題なさそうねぇ‥」
 アカリは曲がり角から最低限の顔を出して前方の安全を確認する。もしこのタイミングでお化け役のバイトが出てきたりでもしたら銃を突きつけかねない。
 しかし、当然と言えば当然だが、暗い。霊感なんて無くてもこういう場所だと、どうもそういう気分になるものだ。歩はジェイニーの耳元でぼそっと呟く。
「どうにも嫌な感じだねぇ。本物、いるかもよぉ」
「ほ、本物なんて、い、い」
「お、落ち着きなさぁい‥‥。幽霊よりライフルを持った人間の方が怖いものよぉ」
 言われてみれば確かにそうだ。だが、やはりお化けは怖い。何といっても良く分からない存在は恐怖感を与える。
 良く分からない存在といえば、今ここにいるジェイニーの足元でスカートの中を凝視している目玉はなんだ。
「なあ部長、それって‥‥」
 見つめあう目と目。続く沈黙。そしてその沈黙は唐突に破られる。
「‥‥むぎゃ〜〜!」
「部長!」
「まさか天魔!」

 そこにいるのがお化けでなくディアボロの変なのっぽいとわかれば、しっと団としても作戦を変更せざるを得ない。
「まじかる♪パワーボムなのだわ!」
「ぐああああ!」
 花梨の背丈では大した高さではないが、それでも叩きつけられればかなりとんでもない威力がある。
「やったのだわ!」
 と喜ぶのも束の間、花梨はローアングルからの視線を感じ取る。
「手ごたえはあったのに!」
「めだまのおばけ、たいじなの」
「ぎゃあああ!」
 ぴっこと虎綱の声がする。暗い中ではどうなっているのか良く分からない。さっきのパワーボムの時の悲鳴も虎綱の声に似ている様な気がしないでもないが、気のせいだろう。
 やっぱり暗いので確かではないが、ぴっこが殴ってるのはハリセン持った目玉の着ぐるみ、つまりは虎綱の気がしてならないが、きっと気のせいだろう。
「とぉー!」
「ふっ‥いい攻撃で御座る‥‥」
 しつこいが暗いので定かではないが、虎綱っぽいのが崩れ落ちた気がする。

 にわか騒然となった闇目玉の間であり、最早何が何だかよくわからない。
 小萩はスカートをたくし上げて、ディアボロを誘う。しかし、敵は小学生女児(しかも低学年)の誘惑に乗るだろうか。と思ったら、
乗ってきた。ごくごく自然に乗ってきた。情熱を隠そうともせず押し寄せるエロティック目玉。
 もちろん小萩はただ見られて終わるつもりは無い。
「このロリコンめ!」
 ケーンを具現化した小萩の制裁は止まらない。最終的に約一名だけが怪我を負ったが、学生らの活躍により闇目玉の間からディアボロは撃退されるのであった。

●爆発注意
「楽しくやりましょうね」
 もふランド到着時にそう言って穏やかな笑顔を見せた中西 緋翠(ja5058)と行動をともにしてきたのは日向 迅誠(ja5095)。
 迅誠と緋翠は観覧車の中で二人きり。二人きりではあるが。
『俺はデートな気分なんだけど、緋翠は違うんだろうなあ‥‥』
 としみじみ思えてしまう。
 手をつないでテーマパークを遊ぶなんて、仲の良いカップルの所業そのものだろうが、あくまでそれははぐれないための行為であって、好意ではない。
 そして緋翠がどこぞのカップルを羨ましそうに視線で追っていたのを見つけてしまった時はいかに迅誠にとってもショックであった。
 しかし、そんな事でめげる迅誠ではない。この様な好機を逃す男ではない。
「ひ‥緋翠は高い所は大丈夫か?俺は好きなんだけどよ‥」
「はい、大丈夫です」
 『俺は好きなんだけどよ』の後の言葉を飲み込んだ迅誠の思いなど全く知る由もない緋翠は微笑みながらただ率直な返事を返すのだった。

「まあお約束ですよね、ええ、はい」
 と言う九十七であったが、観覧車に乗り込む時は一番の笑顔を見せる。
 ちなみに九十七の格好はくのいちスタイルになっている。
 迷いに迷って試着を繰り返していた九十七にしびれを切らしてやってきたラドゥが『ほう、可愛いではないか。馬子にも衣装といったものだな』と言った時に着ていたのがそれだったからで、ラドゥの言葉で即決だった。
「あの程度の事で我輩の存在を脅かそうなど‥笑止」
 上から飛空船や闇目玉の間を眺めてラドゥが笑う。ちなみにラドゥはそれらから逃げてきたわけだが。
「それで‥‥今日は楽しかったかね」
「ええ、まあ。‥‥はい」
「なら、良かった」

 観覧車は様々な人間の思いを乗せて回っていた。
「怖かったね‥」
「終わったと思ったのに最後にあんな仕掛けがあるなんてずるいさー」
 清とアリサの二人は観覧車の中、感想を述べ合う。ちなみに闇目玉の間ではさんざん悲鳴を上げる羽目になったが、終始お互いの手は離さぬままだった。
「着ぐるみも怖かったさー」
「もふら様?ボクは可愛いと思うけど‥」
 アリサはどうももふら様も怖かったらしい。まああれも妖怪とかそういう類と大して変わらないかもしれない。
「でも楽しかったさー」
「また、来よう‥‥え!?」
 清のおでこに不意打ち。軽く触れるアリサの唇。
「やっぱりおれは清が大好きさ。こーして居られて幸せなんだぞー♪」

 ちょっと爆発しかけた籠があったが、まだまだ観覧車は回る。
「‥‥いい眺め‥‥」
「‥‥‥何時か、好きな人とこーゆうの乗れる日がくるのかなー」
「そうですねー。沙耶ちゃんは?」
「‥よく‥わからない、かな‥?」
「千鶴さんはなんかないのかな?」
「私も、そのちょっと‥ってソラさんは?」
 女三人寄れば姦しい。彼女達だけですでに独自の世界が構築されている。
「‥‥‥」
 突如、何の前触れも無く始まったガールズトーク。そこに遊夜は巻き込まれた感じだ。巻き込まれたと言うよりも、むしろいない事になっていると言った方が適切かもしれない。
 うかつに口は出せないどころか聞き耳を立てるべきでもないし、かといって沙耶がなんて言うのかなんて物凄い気になる。
『なんだこの流れは、俺は、俺はどうしたらいい‥!』
「キャー!」
 悲鳴何だか嬌声なんだかもう何が何だか。
 せめて暮れてきた夜空にこの黒い服が溶け込みはしないかと遊夜は静かに願った。

●行列を見送りながら
 結局、バスの中で盛大にリバースしてしまったシルバーは、この時間になるまでぐったりしたままだった。
 そして夜炉はリバースの直撃を受けた上に、ほとんどシルバーの世話やらで、もふランドに来たは良いものの何のアトラクションにも乗れていない。
 ついさっき何処かへ行ってしまったが、もうすぐパレードも始まろうとしている時間だ、残された時間は少ないはず。
『悪い事したな‥』
 流石にシルバーもいつもの様な態度とは違って小さくなっていた。
「はぁ‥」
 とため息を一つついたら、夜炉がいた。なんで戻ってきたかと問いかける前に夜炉が口を開く。
「‥‥もう気分はいいのか。なら、さっさと出かけるぞ」
「‥う、うん!」
 もちろん夜炉は言わない。シルバーのためにパレードの場所取りをしていたなんて。

 結局、突撃も妄想もしなかったものの、決定的となるものもなく観覧車は終わってしまった迅誠であったが、パレードの人ごみの中、ちゃっかりと緋翠の手を握っていた。もちろん『はぐれないため』だ。
「綺麗ですね‥」
 テーマと電飾を大量に使って地球に優しくないパレードではあるが、これはこれでまた幻想的と言えなくも無い。
 そして、迅誠、『君の方が綺麗だよ』を言うか言わまいか。
「ああ、綺麗だな」
 ──言わない。まあ言わないのが正解だ。まだ明日もあるぞ。

 地上ではアヤカシ行列がきらめきながら進んでいる。だがしかし、宴と集は観覧車の中に居る。
 『闇の中に浮かぶ電飾の灯り、上から眺めればさぞや壮観でしょうから』と集が観覧車を選んだ理由だ。眺めるだけでなく、写真を撮るにも面白いかもしれない。
 しかし観覧車は密室。その内の一台は宴と集が二人だけ。
「弟」
「姉さん‥」
 姉の声で集はカメラを地上に向けるのを止め、宴と向き合う。
『電飾なんぞよりも余程に美しい姉弟愛、他の者達に見せ付けてやれんのが残念だな』
 宴がそう思うように、今や観覧車の事を見ている者など誰もいない。二人が乗っている観覧車から微かに白い煙が上がり始めているなんて誰も気付きはしないのだ。

「おそろい、だね!」
「良いのがあってよかったね!あ、ぬいぐるみもありがとう!」
 全てのアトラクションを制覇して、記念という事でおそろいのもふら様ストラップを購入してノベルティショップを出てきた遥と椿姫の前にもパレードがやってくる。
「きらきらしてて綺麗だね‥‥また‥見にこようね」
 遥の青い瞳が電飾の光に負けぬくらい輝く。
「うん、そうだね。また来よう。絶対、また来ようね!」
 椿姫また溢れんばかりの笑顔で応える。
 撃退士という危険がすぐ横にある生活で、『絶対』という言葉は少なからず希望的な要素が伴う。
 だが、買ったばかりのこのストラップがこの約束を守ってくれる気もする。仮にももふら様は神様なのだから、一つのマフラーに巻かれた二人の少女の約束くらいどうにかしてくれる御利益があってもいいはずだ。

 こうしてパレードの電飾よりも目を輝かせながら、学生達の夜は更けていくのだった。



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