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リプレイ

ヴェネツィア=マスカレード タグ:【水都】 MS:御影堂

●ゴンドラツアー
「あ、綺麗……」
 目の前の水面と街並みを眺め、樒 和紗(jb6970)は声を漏らす。
「竜胆兄もベネツィアは初めてですか?」
「ん? そうだね、ベネツィアは僕も初めてかな」
 応えるのは、ジェンティアン・砂原(jb7192)。和紗をエスコートしながら、ゴンドラへ乗り込む。ゴンドラはカーニヴァル仕様になっていて、色鮮やかだった。彼女らを始め、次々と決められたゴンドラに乗っていく。

 中には、龍風 燐(jb5781)のようにおやつを持ち込む者もいた。燐はゴンドラに乗り込むと、隣に座った葉月 琴音(jb8471)らグループのメンバーに渡していく。
「わわ、狼さんありがとうございます」
 顔を赤らめながら、琴音は受け取る。胸がドキドキするのは、初海外だからかそれとも……。 
 同じゴンドラに乗る神司 飯綱(jb9034)は目を輝かせる。
「ここがベネチアか!」
「ふむ……とても有意義な時間だ。幸せともいうかな」
 紫々堂 御奈(jb7155)が呼応するように呟き、飯綱をなでつける。その様子に、ゆかり(jb8277)がワインを飲みながら笑みを零していた。

「水面が街並みに映りこんで、ゆらゆら、綺麗……」
 フルルカ・エクスフィリア(ja7276)は呟くと、シャッターを切っていく。いくつも撮りながら、身を乗り出すフルルカをリオネル・カーティス(jb6151)がたしなめる。
「危ないであろう」
 そんなリオネルに、ケイオス・フィーニクス(jb2664)がいう。
「年寄りが若者を恐縮させるのはいかんな。好きににさせるがよかろう」
 一理あると言った風のリオネルに、酒瓶を見せケイオスが続ける。
「で、時にリオネル汝はいける口か?」
「酒か。たまには酌み交わす、というのも良かろう。赤にするか? それとも白か?」
 露店に並ぶワインを眺めつつ、ケイオスは尋ねるのだった。
 そのゴンドラの前では、佐倉井 けいと(ja0540)がお土産の入った袋を確認していた。カラフルなパスタや、仮面、妹とお揃いのガラスアクセ……。中でもアンティークの夜間時計を眺めて、少し顔を緩ませる。
 けいとの隣で、お菓子をつまんでいた御庭 藍(ja7120)がけいとの横顔をのぞき込む。
「そのお土産、誰の分ですか?」
「え、あ」
「どうしたのですか?」
 後ろからフルルカもカメラ片手に聞いてくる。
 顔を真っ赤にしながら狼狽するけいとと、楽しそうに見守る藍とフルルカ。
 同好会桜月のゴンドラは賑やかだった。

 カップルや兄妹で乗り合うゴンドラも多い。
「あ、揺れますからご注意を」
 そう相手を気遣う、石田 神楽(ja4485)。気遣われた宇田川 千鶴(ja1613)は、
「ん?」
 と平気そうな表情を浮かべる。漕ぎ手が上手いのか、酔いはない。
 お昼のピッツァを分け合う。
「本場という言葉だけで美味しく思えますよね」
「美味しいね」
「さすがにこのレベルを自宅で作る、というのは無理ですよね」
 といいつつメモする神楽。
「その内、窯とか作りそうやね」
 千鶴は、そんな神楽に笑いかけるのだった。

 ファレル・ロウ・ド・ロンド(jb3524)とシェリア・ロウ・ド・ロンド(jb3671)は寄り添いながら、街を眺める。カーニバル一色の街は、見ているだけで華やかだ。
「素敵な街ですわ……。ね、ファレル?」
「ああ、そうだな。いい街だ」
 そんな会話をしながら、リアルト橋へ差し掛かる。昼食にカルツォーネを買い、シェリアは少し顔を赤らめながらファレルにいう。
「口を開けてくださいな、ファレル。食べさせ合いっこしましょう恋人らしくっ。はい、あ〜ん」
「……たく、しょうがないな。恋人らしくね。ほら、これでいいか?」
 はにかみながら、ファレルは要求に応じるのだった。

「街並み、素敵……」
 Spica=Virgia=Azlight(ja8786)は、オブリオ・M・ファンタズマ(jb7188)がかつて住んでいたというこの街に思いをはせる。
 初めて降りてきた街、いろんなことがあったけれどこの街が大好きだと、リオは語る。
 ガイドブックで見たリアルト橋で昼食。
「ピッツァ・アル・タッリョがお勧めなのです」
 というリオに従い、スピカも同じのを買う。
 ドイツ商館やグリマーニ宮等々、スピカの読み込んだガイドブックと同じ建物が並ぶ。
 リオにあれやこれやと聞きながら、幸せな時を過ごすのだった。

「リアルト橋は……大運河にある橋の、中で……一番大きいのです……」
 蟻巣=ジャバウォック(jb3343)は、調べたことを一生懸命に教える。
「ほう、そうなのか」
 ヴィレア・イフレリア(jb7618)は感心するように頷きながら、石橋を見上げる。
 多くの露店がある中で、ヴィレアは蟻巣に聞く。
「お土産は何があるのじゃ」
「ベネチアグラスが、有名……」
 二人で居並ぶ土産物屋を見て回る。
 ヴィレアは不意に、小さなアクセサリを手に取った。お揃いのガラスのキーホルダーを購入する。
「お揃いじゃ」
「え、あ……ありがとう」
 頬を紅潮させて、蟻巣は受け取る。好きですと言おうとして言葉を飲み込み、もじもじする彼女を連れ、ゴンドラへと戻るのだった。

 こうしたゴンドラの中、兄妹で旅行を楽しんでいるのがマキナ(ja7016)とメリー(jb3287)だ。
「お兄ちゃんと一緒に旅行出来てメリー嬉しいな!」
 はしゃぐメリーを兄のマキナは、そっと宥める。
「うれしいのは分かったから、他の人の迷惑にならないようにな」
 いい返事をしたメリーだったが、リアルト橋でお土産を見るマキナにあれやこれやと質問したり、様々なピザやドルチェに目移り。そのたび、マキナはため息混じりに笑みを零す。
 昼食代わりのピザも横からパクリ。
「お兄ちゃんのはどんな味?」
「コラ、マナーは守れ」
 たしなめられ、メリーは口を尖らせる。
「折角の旅行なんだからー」
 はいはい、といいながらマキナはメリーの口元をぬぐう。
「メリー。口元汚れているぞ」
 何だかんだで仲のいい二人だった。

「カルツォーネ? ピザの仲間でしょうか」
 と疑問を漏らしながら食べる和紗に、ジェンティアンが不意を突く。
「ふむ、予想通りよく似合う」
 いつのまにか和紗の頭に、ベネツィアグラスの髪飾りがあった。
 それにふれ、和紗は顔を真っ赤にする。
「あ、え、ありがとう、ございます」
 ほほえましい光景はあちらこちらで繰り広げられているのだった。

「お、おい。安全運転で頼むぞ」
 そう最初に言っていたフント・C・千代子(ja0021)は、
「結構楽しいな!」
 と陽気に買い込んだピッツァを消費していた。
 そんな千代子の食欲に、紅葉 虎葵(ja0059)が微笑みかける。
 揺らめくゴンドラの中、ふと後ろを見れば、玖神 周太郎(ja0374)とノルトリーゼ・ノルトハウゼン(ja0069)の姿があった。
 いつもと違う雰囲気を作るノルトリーゼは、食べまくる千代子や街並みを撮っては周太郎に笑いかける。
 リアルト橋を歩くときも、今も、頑張って周太郎とツーショットを撮ろうとしていた。
「水夫さん」
 そんな様子に周太郎は船頭に頼んで写真を撮ってもらう。嬉しそうなノルトリーゼに、周太郎は笑顔でよかったなと返していた。
 二人の様子に、虎葵はポツリと漏らす。
「……何だろう、眩しく見えるや」
 ふと周太郎は、虎葵の寂しそうな表情を見るのだった。
 が、それ以上に千代子の食いっぷりに滅入りそうになっていた。

 千代子に負けず劣らずに昼食を買っていたのが、オウル組の面々だ。
 二階堂 光(ja3257)をはじめとして、
「えっと、マルゲリータとパニーニと……。あ、ブルスケッタも下さい!」
 ついでにお姉さんの笑顔もと言うほどに浮かれていた。
 光と同じくピザを買い込んだ桐生 直哉(ja3043)やシンプルな隣でピザをパクつく澤口 凪(ja3398)も、
「どれもうまいなー」
「おいしい〜」
 ともぐもぐしていく。
 最初、
「おー、ゴンドラすごいねー。水路にお魚っているのかなー?」
とはしゃいでた鬼燈 しきみ(ja3040)も、
「ふぉいふぃーふぇー…ピザじゃないのー? おー、ルツォーネっていうのかー」
 とご満悦。
「ジェラートも食べたいです」
 という凪の言葉に、光が奢ると言い出す。
「それでは全種類を」
 斐川幽夜(ja1965)がしれっと冗談を言い、一つ奢ってもらう。他の面々も、ジェラードに舌鼓を打っていく。
 その後、幽夜はちゃっかり全種類制覇を目指していたり、ティラミスやチョコも逃さずに買っていた。

 学生たちのゴンドラの中で、異彩を放つのが猫狐亀グループだ。
「ほら、おねえちゃん、綺麗な景色だよ」
 と来られなかった姉の写真に告げる亀山 幸音(jb6961)はいいとして……。
 大きな黒猫カーディス=キャットフィールド(ja7927)&大きな白猫ラカン・シュトラウス(jb2603)、そしてテンション上がりっぱなしのニオ・ハスラー(ja9093)。
「綺麗っすー! 素敵っすー!! ふおお、揺れるっすー!!」
 大はしゃぎするニオのため、揺れに揺れるゴンドラに幸音も思わずヘリを掴む。
「ふわ、ふわ、ゆ、揺れる、の」
 船頭も何とか制御しているが、意に介さずカーディスがゴンドラから身を乗り出して落下した。
 慌てる船頭を前に、カーディスは水上を走る。
「む、カーディス殿。手を掴むがいいのである!」
 さっと飛び出したラカンは白い翼をはためかせ、カーディスをゴンドラまで連れ戻す。
 
 傍らの船で御堂・玲獅(ja0388)は、彼らが船頭に叱られる様を見ながら本場のイタリア料理を味わう。
「今のうちに楽しめる時は楽しまないと」
 デジカメを駆使して、玲獅はいろんなものを写していく。
 まさか、水上で手を取り合う大猫の姿まで写すとは思っていなかったけれど、それはそれで面白い。
 そうこうしている間に、ゴンドラ漕ぎたちが目配せを始めた。
 同船者に勧められるがままに、ピザを味わっていた夢屋 一二三(jb7847)がその気配に反応する。
 カンツォーネを歌うというのだ。しかも、一緒に謳うならどうだという。
 これを目的に、一二三は来たのだ。なら、謳わない手はなかった。

 猫狐亀の一人、亀山 淳紅(ja2261)はリクエストがあればという水夫にサンタルチアをリクエストした。
「有名所ってのが、ミーハー? そんな感じするけど……」
 はにかみながら隣に座るRehni Nam(ja5283)にいう。一緒に謳おうと誘い、手をそっと握り返す。
 他のメンバーにも声をかけ、カーディスやラカン、幸音が快く応じる。ニオも、
「かんつぉーね!! おお!! あたしもうたいたいっす!」
 とテンション高々だ。

 しっとりと始まるサンタルチアの旋律に、一二三をはじめとする歌いたい者たちが乗っていく。水面の揺らめきを滑るように、一二三は清涼に高らかに歌う。中には、玲獅のように現地の音楽に身をゆだね、幸せな時間をかみしめる者もいた。

「Bravo!」
 そういってシルヴァーノ・アシュリー(jb0667)が拍手をする。合わせて隣にいたユーナミア・アシュリー(jb0669)も笑顔で拍手を送る。
 そんなユーナの頭を撫でながら、シルヴァーノはいう。
「上手に歌っていたね」
 ユーナは嬉し恥ずかしそうに、ありがとうと返すのだった。
 別のゴンドラでは、和紗がジェンティアンに笑いかける。
「プロにも負けてないですよ」
 恥ずかしそうに、ジェンティアンは
「これでも歌は得意だからね」
 と返す。
 リクエストをした淳紅に、レフニーが聞く。
「そういえば、イタリア語は歌うための言葉なのでしたっけ?」
「せやな。イタリア語は歌うための言葉っていうよねぇ」

 ナイスミドルの船頭が、次はどうする、と問うと幸音が間髪入れずにフニクリ・フニクラをリクエストした。
 聞き覚えのあるメロディーに、替え歌を含めてさっきより多くの参加者が混じる。
 賑やかなゴンドラ隊は、川辺を下り終点へと近づいていった。

 サンタ・マリア・デッラ・サルーテ教会に辿り着いた一行は、ゴンドラから下りていく。
 一二三は、カンツォーネの歌詞や旋律について船頭と話し込む。
 歌について興味を持つ、淳紅らもカンツォーネについての質問をしたりしていた。

 その横を、オウル組のしきみが通っていく。
「ねーねーゴンドラ終わったらどこいくのー? ムラーノ島でヴェネツィアングラスーブラーノ島でヴェネツィアンレース作ってるんだってーお土産にいいかなー。あ、しきみちゃん本屋街行きたーい」
 ガイドブック片手に駆けるしきみをオウル組の面々が追う。
 他の者たちも好きに自由時間を楽しむことにした。
 
 終点の教会へ辿り着くとユーナとシルヴァーノは黄昏れる建物の前まで、来ていた。
 ユーナは素敵な風景だねと、言った後、シルヴァーノを見上げる。
「あなたは永遠の愛を誓いますか?」
 不意打ちのように告げて、そのまま優しいキスをする。
「なんてね」
 唇を離して、そう微笑む彼女にシルヴァーノは最高の笑みを添えて。
「Lo giuro amore eterno」
 ベネツィアの海は、穏やかに学生たちの行く末を見守るのだった。

●サン・マルコ広場ツアー
 陸路のツアー参加者は、サン・マルコ広場周辺に集まっていた。
 カーニバルの色彩と喧騒が、広場を平生以上にもり立てている。
「素敵ね……。流石、ベネツィアだわ」
 月守 美雪(jb8419)は、サン・マルコ寺院やドゥカーレ宮殿に囲まれた風景に、感嘆の声を漏らす。
 カメラ片手に、鮮やかな街並みを数枚撮っていく。
「あ、あれはなんだろ〜」
 と、そんな美雪の前を片桐 のどか(jb8653)がふらふらと人波の中へ分け入っていく。
 カメラから目を離した美雪が気付き、もう一人の同行者ロゼッタ(jb8765)に聞くが……。
「え、片桐ちゃんがいない? あは、旅行にトラブルは付き物っていうけどぉ。まぁ、片桐ちゃんも子供じゃないんだしぃ、その内会えるんじゃない?」
 とあっさりしたものだ。
 そのまま、サン・マルコ寺院が見たいと言いながら歩き出す。
「……あの二人、高等部よね?」
 美雪は一抹の不安を覚えつつ、彼女の後を追うのだった。

 中にはカップルでの参加も多い。
 椎名結依(ja0481)は、
「わぁ、綺麗……」
 と感動を表しつつはしゃぐ彼女の手を、御琴 涼(ja0301)はそっと握る。
「迷子になったりぁしねぇよう、な」
 少し恥ずかしげにいう涼に、結依は嬉しそうに笑い返す。
「ねぇねぇ涼くん、写真撮ろ! 今度こそツーショットね」
 寺院や宮殿をバックに、行き交う人に頼んで写真を撮ってもらうのだった。

 同じく手を繋いでいくのが、Erie Schwagerin(ja9642)とキイ・ローランド(jb5908)の二人だ。
「エスコート、お願いしてもいい?」
 自分のガイドブックはカバンの中に、エリーはキイを伺う。
 キイはガイドブックを片手に、エリーに頷く。
「いろいろ、綺麗なところを回ろうね」
 幸せそうなオーラを纏いながら、二人は人波をかき分けていった。

 ベネツィアを庭と称する飯島 カイリ(ja3746)は、千 庵(jb3993)にあれやこれと説明する。
「世界遺産に含まれるのはこの広場内にある建造物とかだね」
 広場を歩いてはそういい、サン・マルコ寺院に近づけば、
「このサンマルコ寺院は、正しくはサンマルコ大聖堂が正しいの」
 彼女の説明を聞きながら、庵は楽しそうに広場を見て回る。
「おー、おー元気じゃのぅ」
 はしゃぐ彼女について行きながら、寺院の拝観料を彼女の分も一緒に払うのだった。

●サン・マルコ寺院
「日本とは全く違う歴史を感じますね。何だか引きこまれてしまいそうです」
 紅葉 公(ja2931)は、目を輝かせながら隣にいる楯清十郎(ja2990)に、告げる。
「すごい。よく見ると絵じゃなくて、タイルでできてます」
 サン・マルコ寺院を覆うように描かれたモザイク画に、二人は感嘆の息を漏らす。
 手を繋ぎながら、公と清十郎は奥のパラ・ドールを目指していった。

「ここが、サン・マルコ寺院……」
 公たちカップルにやや遅れ、ユウ(jb5639)は入り口で荘厳な内部に嘆息していた。
 その隣では、コートで生足を隠したサミュエル・クレマン(jb4042)がいう。
「すごい……中世の騎士はここで剣を振るってきたのかな」
 スーツ姿の祁答院 久慈(jb1068)もこの雰囲気に、首元のネクタイを締め直す。
「モザイク画、見事だね」
 所狭しと作られたモザイク画に囲まれ、気が引き締まる。
 かと思えば、
「あれとあれ、カメラかな」
 と監視カメラに興味を示す紫鷹(jb0224)やすぐにあくびをする雪代 誠二郎(jb5808)がいたりもする。
 一方で、敬虔に寺院を楽しむ者もいる。カソックを身に纏ったエルディン(jb2504)とリコリス=ワグテール(jb4194)は、金色に輝くパラ・ドーロを見上げて十字を切った。
「神に信仰を捧げる場所…ですか。……祈っていきましょうか。皆の安寧を」
 両手を組み、祈りを捧げるリコリス。彼女に合わせて、エルディンも目をつむり祈る。
 しばらく、回ってみた後、ダイス組はそれぞれに分かれていった。
 一人、ふらりと行く誠二郎は声をかけられると、
「いや、俺の事は放っておいて、ごゆっくり見てくれ」
 といって立ち去っていった。

●ドゥカーレ宮殿
 ドゥカーレ宮殿&牢獄ツアーには、橘隊をはじめ複数が参加していた。
 或瀬院 由真(ja1687)と橘 優希(jb0497)は、エヴァ・グライナー(ja0784)と叢雲 菜沙(jb8522)を間に挟むようにして移動する。そのやや後ろを、完全UVカット仕様の秋桜(jb4208)がよたよたと追う。
「はう……み、見たことないもの、い、いっぱいです」
 と目移りしまくりの菜沙に由真が優しく注意する。
「菜沙さんに、エヴァさんも、はぐれちゃだめですよ」
 タブレットで地図を出しながら、エヴァは
「大丈夫よ」
 と返していた。
 二人の手を引きながら、ドゥカーレ宮殿内の絵を見て回る。室内だが、窓から光が差し込む。秋桜は、影の方へ影の方へと引っ張られていた。
「すごいですね。圧倒されそうです」
 由真がため息するほど雄大な、大評議の間を後にして、ため息橋を渡る。
「前は時間が無くて中まで入れなかったから、新鮮かな」
 優希の台詞は、鐘の音に溶け消えていった。

「地元では、日没時ここの下でキスすると永遠の愛が約束されりらしいですよ」
 エルディンの話を聞きながら、ため息橋を渡る。
「ここは入ったことないですねぇ」
「牢獄なんて見る機会は、そうないでしょうし」
 牢獄の入り口を見て、リコリスも興味津々といった様子。
 スッと入っていく二人に、ついて行く形でサミュエルも追う。薄暗い中を進みつつ、サミュエルは気丈な声をあげる。
「暗くてちょっと怖……雰囲気がありますよね」
 残念、少し震えていた。
「窓が小さいですねぇ」
 そんなサミュエルと違い、エルディンはしっかり観察し、
「ここでのお土産とか、気になりますよね」
 リコリスは、ほんわかとした感想を述べるのだった。

「ね、あのゴンドラ漕ぎの人、イケメンだよね」
「後ろに載っている人も、格好いいわよ」
 そんな会話をしながら、橋下の男を物色する少女が二人。嵯峨野 楓(ja8257)とポラリス(ja8467)だ。
 ため息橋の上で、楓とポラリスはテンション上がりっぱなしだった。陰鬱な空気を纏う牢獄にあっても、変わらない。
「あっちにいたガイドさんヘタレ受けっぽいわよね」
 とポラリスが言えば、
「それなら看守のあの人は、鬼畜攻めだよね」
 と楓は返しまくる。
 日本語だから、大丈夫といわんばかりの暴走っぷりに、牢獄はぴったりかもしれないのだった。

「限界だぉ」
 完全にバテてしまった秋桜を優希が背負い、橘隊はドゥカーレ宮殿を後にする。
 秋桜に日傘を差して、由真は
「時間も丁度いいですし、カフェで休憩にしましょうか?」
 と提案するのだった。

●カフェ
 カフェでは、寺院で別れた誠二郎がゆったりしていた。
 堪能なイタリア語で、この辺りの店について聞いたり、コーヒーを楽しんでいた。

 まったりした空気の中、視線を巡らせば、ファング・CEフィールド(ja7828)とシエル・ウェスト(jb6351)がお茶をしていた。
 日当たりよいテラス席で、シエルはホットチョコとフルーツタルトに舌鼓を打つ。そんな彼女を眺めつつ、ファングはカフェラテを口にする。
「ふふ、楽しいかい? シエル」
 はい、と笑顔で応えたシエルはファングを見つめる。
 サンドウィッチをついばむファングが、どうしたと問いかける。
「一口いかがですか?」
 シエルは無邪気にタルトを乗せたフォークを向ける。
 やや恥ずかしそうにしつつも、ファングはタルトを口にしていた。

「本場の味を味わってみたかったので、楽しみですね」
 一通り回った後、公と清十郎もカフェを訪れていた。
 カーニバルの彩りの中、楽団の音楽を聴きながら、カフェラテを頂く。
「三百年くらい続いてるお店ですから、ここで生まれたカフェ・ラテも歴史を感じる一杯ですね」
 優雅な雰囲気の中、名所や夜の宴について談笑するのだった。

 一方でかしましい一行も……。
「エスプレッソにっが!? ポラリスちゃんのピザくれよぉ」
「あ! ちょっと、勝手に食べないでよ! ユーロ、1枚分のユーロ払いなさいよ」
 とピザ一枚で言い争う、楓とポラリスであった。

「もう、心配したよ」
 そういうのどかに、こっちの台詞と美雪が返す。
 無事に合流できた三人組もカフェに辿り着いていた。
「ふふ、実は食べ物が一番気になってたの」
 出されたドルチェを撮りながら、美雪は言う。
「あ、私もそれ食べたいな」
 といいながらのどかは、目を輝かせる。
 二人がドルチェに感動したとき、パシャッという音が鳴った。
「あはっ、隙あり」
 ロゼッタが幸せそうな二人の食べ顔を撮ったのだ。
 慌てる美雪に、のどかはほんわかと
「折角だから、みんなで記念撮影しよ」
 と提案する。カフェの人を呼んで、三人の笑顔が写真に映えるのだった。

「あぅ、どれがいいんでしょう」
「エヴァさん、翻訳お願いします……」
 メニューに戸惑う菜沙や由真に頼まれ、エヴァが翻訳し注文を取る。
 数分後、エスプレッソに苦戦する優希や、ピザのべたつきに指ぺろぺろしてぉと懇願する秋桜がいた。
 エヴァは置かれた伝票に目を通し、コーヒーを飲んでいないのに苦い表情をするのだった。

●広場
「リュミ、見てください。すごいです〜」
 運河近くの橋の上、行き交うゴンドラを見ながら黒葛 瑞樹(jb8270)は声をあげた。
 他の参加者とは違い、瑞樹はリュミル=K=フォーゼ(jb5607)に連れられて人混みを避けるように移動していた。しっかりと腕を組み、異国の景色にはしゃぐ瑞樹をリュミルは楽しげに見つめる。
 食事時には、露店売りのピザを買って運河を眺めながら食べる。
「あーん」
 とリュミルが食べさせようとすると瑞樹は恥ずかしがったりもした。
 なお、ちかづいてくるナンパ野郎は瑞樹にばれないようリュミルが威圧して追い払っていたという。

 現地の人と仲良くなった者もいた。
 リョウ(ja0563)は、観光案内所で仲良くなった一般女性といい感じになっていた。
 彼女の案内で、寺院や宮殿だけでない様々な場所を回ることができた。事前に、リョウが調べた情報以上にベネチアの路地や水路は面白いものであふれていた。
「折角だから、何かプレゼントしよう」
 リョウは、目に付いたガラス雑貨を指さして、逆に案内役の女性をエスコートするのだった。

 こちらは、その雑貨店。
「とっても綺麗なペンダントトップですね。折角ですし、お揃いのものを買いませんか?」
 ユウの提案に、
「それはいいな。揃いにしようか」
 と、紫鷹は返事をする。
 虫型のアクセに驚く紫鷹を支えたり、荷物持ちとして久慈が後方に控えていた。
 ふと、外を見れば空はオレンジがかっていた。

 黄昏時の鐘楼に差し掛かった御琴 涼は、目を輝かせ椎名結依の手を引き駆け出した。
 結衣の体調を気遣いつつも階段を駆け、てっぺんまで登り切る。
「好きなんだよ、絶景」
 そっぽを向いてそんなことをいう涼を、結衣は不思議そうに見ていたが、絶景に目を奪われた。
 オレンジ色に染まる街並みをみて、
「幸せだな……」
 と呟く結衣を涼がふと振り向かせる。そして、口づけをした。
 偶然、誰もいなかった。数秒して、口を離す。涼が微笑み、結衣は呆ける。
 不意に鐘の音が響き、結衣は頬を夕日に染めるのだった。

 鐘の音が響く、サン・マルコ広場の中程でカイリは立ち止まり空を見上げる。
「……憎い父は死んだ、ここにもう来る事は無いと思ってた」
「お前は父親を憎んでいたからのぅ」
 そう返す庵は、不意にカイリの前に跪いた。
「え、どうしたの」
 戸惑う彼女に微笑みながら、庵は告げる。
「お前は親が決めた婚約者だから、最初は何も思わなかった。が、接していく内、知らず好いていると思えた」
 一拍の間、緊張が走る。
 だから、と告げる。
「――愛しい人、俺の伴侶になってくれますか」
 何が起こったのか察したカイリは
「ば、バカ、ボク、でも、いいの?」
 と必死に言葉を絞り出す。
 頷く庵に、カイリはありがとうと告げた。
 言語はわからずとも、雰囲気を悟り、周囲の人々に祝福される二人なのだった。

●カーニヴァル
 色とりどりの人混みの中、ドレス姿に蝶のマスクをつけた常塚 咲月(ja0156)が歩いていた。
「おー。流石、水の都。カーニヴァルも楽しめそう……」
 最初、期待に胸を膨らませて進んでいたが、多くの人波に、
「人いっぱい……酔いそう……」
 とぐらぐらし始めていた。美味しそうなにおいも混ざって、お腹もすく。
「月、見つけた。一人でうろうろするなって何時も言ってるだろ」
 呆れた表情の鴻池 柊(ja1082)が近づいて来た。
「あ。ひーちゃん……。む、スーツだ……」
 スーツ姿に、少し不満げ。
「スーツに着替えただろ。我慢しろ」
「でも、マスク着けてるのに、よくわかったね……?」
「当たり前だろ。いつから幼なじみやってると思ってるんだ」
 肩をすくめながら返し、柊は咲月の手を取る。
 そのまま、二人はカーニバルの散策に出るのだった。

 恵夢・S・インファネス(ja8446)は悩んでいた。
「ひーふーみー……。あれ、通貨レートの桁間違えたかな。あれ?」
 異国の服飾文化を学ぶため、義姉に渡された資金を数えなおす。
 華やかさに釣られて、思ったより使ったのかナンナノか。考えてもわからず、露出多めの戦闘スーツで、カーニバルを散策しては色鮮やかなドレスを観察していく。
 その中に、紛れる一人のクラウンがいた。
 鴉乃宮 歌音(ja0427)は道化師の仮面装束で、賑やかなカーニバルを行く。道化師らしく、誰彼構わず踊りやパフォーマンスに巻き込みながら、場を沸かせていた。
 マントを翻し、喜びと悲しみが半分ずつのマスクを付けた歌音は、
「ヘイソコノ彼……カノジョ! 君モ見テナイデ踊リナヨ!」
とキンキン声で呼びかけた。呼びかけられたのは、南部春成(jb8555)だった。
 春成は、中華風の仮面の下で少し驚きつつ、歌音に近づく。
 彼は、ドレスを翻しばっちりと口紅を決めていた。完璧な女装である。
「あら、素敵なお誘いね」
 ハスキーボイスで応えながら、近づく春成に歌音はおどけてみせる。
「ワカル人ニハ、ナントヤラダヨー!」
 そんな様子を屋根の上から、ソフィスティケ(jb8219)が見ていた。
 帽子と抹茶色の猫をモチーフとしたマスクを被り、ギター茶寝子さんを片手に飛び降りる。
「誰でもいいよ、一緒に演奏して見ない?」
 練習でノッてきた勢いそのままに、ギターをかき鳴らす。
 周囲の人々も巻き込んで、即興の音楽が繰り広げられる。イタリア的な陽気な音楽に誘われて、歌音はジャグリング混じりの踊りを始める。
 春成も女性と間違えたイタリア男たちに、踊りに誘われ踊り始めたり……。

 音楽が鳴り始めた頃、
「どうした? ……ったく、どこにいても見つけるって言ったろ」
 ルナジョーカー(jb2309)は、はぐれていた華澄・エルシャン・御影(jb6365)を見つけていた。
 華澄は、極彩色のコロンビーヌを纏いエメラルドの仮面を着けていた。いつも通りの格好なルナジョーカーの手を取る。
「さぁ、踊るわよ」
 カーニバルの陽気な音楽に合わせ、二人は踊る。
 周囲も舞踏会のように、音楽にのっていく。
 ぎこちないルナジョーカーは、リードされながら
「悪かったな……初めてなんだよ、こうゆうの」
 とバツが悪そうにいう。しかし、次第に慣れてくると軽やかなステップを踏み始めた。だんだんと情熱的に華麗になっていく。
 抱きつくほどに体が近づいたとき、ルナジョーカーは華澄の耳元でささやいた。
「大好きだよ」
 驚きと嬉しさと恥ずかしさが混じったような表情だった。
 ラストダンスを待った後、華澄は花冠をルナジョーカーに渡した。
「似合ってるわ」
 という彼女に、はにかみながら
「花冠……さんきゅな!」
 ルナジョーカーは答えるのだった。

●宴
「リゾットにピザに……ステーキにチーズソース!? けしからん! けしからんぞ!」
 夜の宴、目の前に広がるチーズの世界にシエルはテンションを上げ続けていた。
 ファングはシエルを見守りながら、自分の分を取る。
「ほらほら、あっち行きましょう! まだ見ぬチーズが我々を待っています!」
 シエルに手を引かれ、苦笑しつつも楽しげにファングも付き従うのだった。

 黒に紅のレースをあしらったドレスで、ユーナミアはシルヴァーノの前に現れた。
 シルヴァーノも正装に黒マントといった出で立ち、ワインを片手に
「やぁ、こちらの美人はどなたかな? よければ俺と過ごしてくれないか」
「もちろん」
 ユーナミアは答えてその手を取った。
「美人でしょ?」
 ちらりと網タイツを見せつつ、聞いてみれば
「当たり前じゃないか」
 と笑顔で返される。ドルチェとワインを楽しみながら、楽しい時間を過ごす。

「料理もドルチェもおいしそう! 何から食べようか迷ってしまいます」
「色鮮やかで見た目も楽しいですね。それにしてもすごいボリュームです」
 目の前に並ぶ料理の数々に、幸せそうにいいあうのは、民族衣装を纏った公と清十郎だ。
 一口食べては目を輝かせ、また別のを一口食べては頬を緩ませる。
 清十郎がおいしいですねと聞けば、公は大きく頷く。ゆったりと料理に舌鼓を打つのだった。

 同じく料理を楽しみながら、玲獅は綺麗な盛りつけを写真に納めていた。
「トマトの赤に、バジルの緑。色鮮やかですね」
 見目にも美味しいそれらの料理を少しずつ味わっていく。
 ゆっくりとじっくりと味わう人がいる一方で、にぎやかな面々も多い。

 スピカとオブリオは、たくさん並べられたピッツァを順番に堪能していた。
「本場のピッツァ……美味しい……」
 静かに喜びを表現し、スピカはため息を吐く。
 オブリオも熱々のピッツァに舌鼓を打ちつつ、スピカの喜ぶ顔もいただいていた。
「ピッツァに飽きてもパスタがありますしね」
 匂いだけでもお腹がふくれそうだ。
 スピカはこくこく頷く。
「デザートは……もちろん……たくさん」
 そして、向こうに並べられたドルチェを見るのだった。

 桜月の面々は、女子たちがおしゃべりに興じる傍ら、昼間から続けてケイオスとリオネルは飲んでいた。
 会話はすっかりと昔語に落ち着いていた。
「フフ、汝の剣で空けられた風穴のおかげで危うく命を落としかけたがな」
 そう、ケイオスがいえばリオネルも語気を荒げて言葉を返す。
「こちらも翼を1枚やられたのだ、命を落しかけたのもお互い様といった所だろう」
 そして、お互いに不敵な笑い声を上げるのだ。
 宴が始まってから、一事が万事こんな調子だった。次第に話の内容もエスカレートし、時折声も荒げていた。
 飲みきったグラッパのビンを転がし、音が立つ。ふと気付けば、心配そうな顔で桜月の面々が見ていた。
「どうした? 汝等も楽しむと良いぞ?」
 けいとや藍は乾いた笑いを浮かべ、フルルカは寝ッシーをそっと抱きしめる。
「何かあったか? 食が進んでないようだが」
 心配そうにケイオスは三人を見やるが、自分がその原因とはわからないようなのだった。

 ケイオス等の声は、会場で目立っていたが、それを意に介せず食べ続ける者がいた。
 ピッツァやパスタを自分の皿に招き続ける、フントだ。
 その傍らでは、虎葵が自分のペースでピッツァを頬張っていた。食べることに一生懸命といった風の彼女に周太郎が近づいて来た。
「シュー兄、どうしたのかな」
 食べる手を一度止めた、虎葵に周太郎は頬を掻きつつ聞く。
「昼間、元気なさそうだったからな」
「……んとね」
 少し考えるようにピッツァをかじる。周太郎は、虎葵の言葉を待ちつつグラスに口を付けた。
 咀嚼し、飲み込み、ナプキンで口をぬぐう。
「僕……自分が欲しいものを見つけようかなって」
 まっすぐに述べる虎葵に、周太郎は受け止めるような笑みで
「そうか」
 と応えた。
「大丈夫! シュー兄はお兄ちゃんみたいだし、きっと幸せになるよ」
 何のことだと聞く周太郎に、何でもないよと虎葵は気丈に笑ってみせる。
「ほら、ノルトリーゼさんのところに行ってあげなよ」
 元気そうな姿を見せられ、周太郎は頷いてノルトリーゼの元へ戻る。
 その姿を見つめていた虎葵へ、フントが声をかける。
「たくさん食べないと元気が出ないぞ!」
「うん! たくさん食べよう」
 元気に返し、虎葵もピッツァやパスタを食するのだった。


 宴も中頃に差し掛かると、優雅な音楽が会場を包み込む。
 華澄は、ルナジョーカーを誘い、中央の舞踏場へと足を運ぶ。昼間の続きといわんばかりに、軽やかに踊り始め周りを誘う。
「みんな! 見てるより踊りましょ!」
 その声に応じるように、音楽も情熱的な感じになっていった。

「パスタとピザは、外せないよね……」
 目の前にもられた様々な料理に、咲月は目移りする。
「ドカ盛りで助かった……」
 その隣では、柊が安堵の表情で咲月に付き合っていた。
 見てるだけで胸焼けしそうだと視線をそらしながら、ワインをたしなむ。そこへ、軽やかな音楽が聞こえてきた。
「そうだ……。月、一曲どうだ?」
「う? ダンス?」
 逡巡して咲月は聞く。
「後で、ジェラート食べていい?」
「はいはい。好きなだけ食えばいい」
 呆れたように笑いかける柊に、咲月は少し不満げに言う。
「むー……ひーちゃん。上手だから、上から目線」
「別に上手じゃない。普通だからな」
 差し出され手を咲月が掴む。二人は舞踏場へと歩んでいった。

 エリーは、壁際でダンスを始めた面々を眺めていた。
 お姫様のような白いドレスを纏い、マスクで目元を隠した格好だった。何人かと談笑しながら、料理をつついていたが、始まったダンスをじっと見入っていた。
 そこへ、黒い騎士の格好をした少年が近づく。
「一緒に踊って頂けるかな、お姫様?」
 仮面で隠されていない顔は、キイのものだった。エリーは、恥ずかしげに、
「喜んで、お願いするわ」
 と応えたのだった。
 踊りながら、キイは告げる。
「また楽しい思い出作ろうね」
「もちろん」
 エリーは、笑顔で頷くのだった。

「お嬢さん、ダンスはいかがかな?」
 ジェンティアンは、イタリアらしい華美な衣装で和紗に手を差し出した。
 和紗は、
「喜んで」
 といって手を取る。どこか自信なさげな彼女に、ジェンティアンは柔らかな笑みで告げる。
「僕がリードしてあげるから、大丈夫だよ」
「はい」
 ジェンティアンに合わせるように、和紗はステップを踏む。ぎこちない動きも、慣れてくれば少しずつなめらかになる。楽しげに踊る和紗の髪に、ヴェネツィアングラスの髪飾りが光る。
「やっぱり、よく似合ってるね」
 ジェンティアンに言われ、和紗は顔を赤らめるのだった。

「ふふ、やっぱり正装のお姿も格好いいですわ」
 タキシード姿のファレルに、シェリアは賛辞を送る。
「ありがとう。シェリアも似合ってるよ」
 シェリアは煌びやかなドレスを身に纏っていた。袖から伸びるたおやかな手を差し出して、ファレルを誘う。
「さあ、準備はよろしくて。On va dancer?」
「お相手しよう。やるからにはしっかりと、な」
 ファレルはシェリアの手を取り、微笑む。
「わたくしがリード致しますわ。この水都で、わたくし達のハネムーンです」
 舞踏場で息を合わせ、足取りを合わせ、優雅に踊る。手を回し、ステップを決めていく。
 一つの音楽が終わりに向かう頃、二人は距離を詰める。息のかかる程の距離から、さらに近づき、ゆっくりと口づけをかわすのだった。


「エスコートさせて頂こう。私の命よりも大事な姫君達」
 紅いドレスを翻し、御奈はグループの女子達の手を取る。
 恥ずかしそうにしていた飯綱や、ゆかりと踊っていた。
「まぁ、これくらいはしないとな」
 といいつつ、燐は琴音の手を引き踊り始める。
「狼さん、ありがとう」
 エスコートされながら、琴音は顔を赤らめるのだった。
 曲調もゆるやかなワルツを奏で、いい雰囲気を醸し出す。
 やがて一曲が終わると、琴音は御奈と踊り始める。踊りの途中で、御奈は手を離して指を鳴らした。琴音が気づいたときには、御奈は執事服へ様変わりしていた。
 驚く琴音に悪戯っぽく笑いながら、御奈はダンスを続けるのだった。
 そんな二人を壁際で見ていた飯綱は、ゆかりが外から戻ってきたのに気付いた。
「写真を撮ってきました」
 ワインを飲みながら、ゆかりはデジカメの画面を動かす。昼間、夕方、夜と同じ位置から撮られた写真だった。それぞれに違う表情を見せる街並みに、飯綱も狐の面の中で目を輝かせていた。

 夜は更けていく、思いっきり食事を楽しんでいた恵夢は食べる手をはたと止めていた。
 時計は20時を回ったところ、義姉によるボディコントロールのためだった。恵夢は、恨めしそうに食事を食べる人たちをひたすらに眺めている。
 その中には、相も変わらず女装を続ける春成の姿もあった。どこまで通じるのか限界への挑戦といわんばかりに、ダンスを踊る相手を変えてみたり、談笑したり……。
 そこは久遠ヶ原学園生、見破るものは見破るし見破れないものはとことん見破れないのであった。

「千鶴さん。よろしければ、これを」
「え?」
 神楽に声をかけられると同時に、千鶴の首にはネックレスが光っていた。
 昼間に二人で見て回ったうちの一つに、ヴェネツィアングラスのネックレスがあった。神楽も首に、お揃いのネックレスを付けていた。
「お揃い……?」
「お揃いですよ。よくお似合いです」
 千鶴は顔を赤らめて、きらっと光るガラス細工を見つめる。
「別にえぇけど……こんな綺麗なん、勿体なくてつけれんかも」
「私がつけるときに、一緒につけましょう」
 そういいながら、神楽は千歳の頭を撫でるのだった。

 優希は、宴も終盤に差し掛かったところでグループのみんなに、ガラス細工のネックレスを渡していった。
「記念と思い出の品、という事でね?」
 お揃いの中に、それぞれ色合いが違う部分があり、一人一人手渡ししていく。
「……ありがと、大切にするわ」
「ありがとうございます! 大切にしますね」
 エヴァや由真は嬉しそうに受け取り、秋桜はさっそくつけてみたりくるくる回したりしていた。菜沙は、じっと光りにすかしてネックレスを見つめ、
「姉兄上、ありがとう」
 とお礼を述べるのだった。

 ダイス組のリコリスは、
「昼間はどこに行かれましたか?」
 と皆に聞いていた。
「迷子になるのが怖かったんでね。ずっと近くにいたよ」
 そんな彼女に労いにと葡萄ジュースを注ぎながら、誠二郎が応える。
 肩をすくめる彼に、誰かが言葉はと聞けば、
「おいおい、その位は紳士の嗜みだぜ?」
 というのだった。
「こっちは色鮮やかなガス細工が多かったな。エンゼル人形が可愛かった」
 紫鷹の言葉に、ユウや久慈が相づちを打つ。
 そちらはと問われたエルディンやサミュエルも宮殿の感想を述べていく。
「楽しい時間はすぐに過ぎてしまいますね」
 少し寂しげにいうユウの言葉を、久慈が次ぐ。
「……また来てみたいね」

 夜は更けていく。
 寂寥感を払うように、談笑の声と音楽が続く。
 土産物と土産話を両手に抱え、水都ベネツィアの旅は終わりを迎えるのだった――。









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