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スペイン雄牛三昧ツアー タグ:【牛追】 MS:マメ柴ヤマト

●牛追い
 牛追い祭り。正式名称はサン・ フェルミン祭。
 いわずと知れたスペインが誇る伝統の祭りである。
 起源は、町外れの牧場から、市外中心地にある闘牛場まで雄牛を運ぶことが始まりだ。
 本来なら7月に開催されるこの祭りだが、遠野の友人であるジェームス・富原のコネで久遠ヶ原学園の修学旅行のため、特別この時期に開催してもらう運びとなった。
 そして、祭りが開催されているこの街は、異国の地からやってきた若者たちが繰り広げる名珍プレイによって異様な熱気に包まれていた。
「ほぉら、こっちですよー」
 黒百合(ja0422)は、赤いマントをヒラヒラさせて牛を挑発した。
 猛突進をかける牛を紙一重で避ける黒百合。
 彼女が避けた牛を日下部 司(jb5638)が引き受けた。
 牛たちの迫力に気おされる。
「流石闘牛、アウルなしじゃ太刀打ちは難しいな」
 今回の旅行では、遠野からアウルの使用を禁止されていた。
 いくら撃退士とはいえ、受ける心構えもせずにあの突進を受けたら無傷では済まないかもしれない。
 雄牛を先導する日下部の眼差しは、真剣なものだった。
「牛さんこちら」
 雄牛を挑発する犬乃 さんぽ(ja1272)のテンションは、最高潮に達していた。
 犬乃が上機嫌な理由は、彼の目の前で涙目になりながら雄牛から逃げている高峰真奈だ。
 恋人の高峰と修学旅行に来れたのが堪らなく嬉しくて、及び腰になっている彼女を半ば無理やり牛追いに誘ったのだった。
 犬乃の挑発に乗らなかった数頭の雄牛は、なおも高峰を執拗に追いまわす。
「真奈ちゃん、危ない!」
 恐怖のあまり足が縺れて転びそうになった高峰を庇うため、犬乃は彼女を庇うように横から飛びつき、抱きかかえるように縺れ転んだ。
「真奈ちゃん……もが?」
 犬乃の顔面に伝わる柔らかな2つの弾力。
 慌てて顔を上げると、驚きと戸惑いが入り混じった複雑な表情浮かべている高峰と目が合う。
「はわわわわ」
 思わずパニックに陥る犬乃だった。
「…………ほほぅ」
 ネピカ(jb0614)の眼光が鋭く光る。
 彼女の目の前を風が吹きぬけ、回転草が横切っていく。
 彼女の眼前には、猛突進で迫りくる1頭の雄牛があった。
「牛の分際で中々な闘気じゃのう」
 口の端に笑みを浮かべる。
「じゃが相手が悪かったのう。この私をづ頭突こうなど百年早いのじゃ」
 地面に両足を踏ん張り、頭突きの構えをとるネピカ。
「真の頭突きとはどういうモノか、気ざまの脳髄に刻み込んでくれようぞ!!」
 頭突きの真っ向勝負に出たネピカは、雄牛の猛烈な突進に負けて遥かかなたへと飛ばされていった。
 ネピカ、君の勇姿は忘れない。
 雫(ja1894)の頭の中は、食べ物のことでいっぱいだった。
「ロース、カルビ、ハラミ、スジ……レバー!」
 重体から回復したばかりで、とにかく血が足りない。
 迫りくる雄牛だって、彼女には肉牛にしか見えなかった。
「ヘレフォード、ショートホーン、アバディーン・アンガス!!」
 最初は雄牛から逃げていたはずなのに、いつの間にか眼球を血走らせながら雄牛を追いまわす側になっている雫だった。
 周りが脱落していくなか、スタートからずっとトップを走り続けているものがいる。
 佐藤 としお(ja2489)だ。
 世界的にも有名な祭りのひとつに参加できて、感無量の佐藤。
 撃退士になって良かったの心の底から思っていた。
「これがサムライ魂だっ!」
 観客たちも『サムライ』という言葉に反応して一気に沸き立つ。
 しかし、そんな佐藤にも体力の限界が近づいていた。
(もうダメだ、疲れた……)
 徐々にスピードダウンしていく。
(横へ逃れよう……)
 コースアウトして雄牛たちをやり過ごすことを選ぶ。
 ふぅと一息ついて振り返ってみると、雄牛たちは目の色を変えて佐藤に迫っていた。
「んな!?」
 佐藤は慌てて全力で走り出す。
 なりふり構わず逃げながら、ふと大切なことを思い出した。
(あ、俺、赤褌いっちょうだった……)
 そして、雄牛に追いつかれた佐藤は、群れの中へ消えていった。
 雄牛の背に乗る異様な一団があった。
 骸骨姿のヴォルガ(jb3968)率いる【こそこそ団】のメンバーだ。
 彼らは雄牛に乗って闘牛会場を目指す。
 ちなみに、最初に雄牛の背に乗ったのはLatimeria(jb7988)だった。
 雄牛が赤くなくてもヒラヒラしたものであれば反応すると聞いたことがあったので、ためしに尻尾で挑発をしてみた。
 すると、雄牛は見事挑発に乗ってきた。
 雄牛は2色型色覚だ。ムレタが赤いのは、返り血を目立たなくするという意味しかない。
 雄牛の隙をついて背中に飛び乗ったラティメリアは、そのまま闘牛場まで無賃乗車させてもらうことにした。
 それを見た【こそこそ団】のメンバーが、それを真似しだしたのだ。
 どうやら、彼らにこそこそする気はないように見える。
 メンバーの中で雄牛に乗っていないのはパウリーネ(jb8709)だけだ。
「大型の動物は、見ていて癒されるのう……」
 そんなセリフとは裏腹に、かなり真剣に走っている。
 本当は全身で牛の愛と猛進を抱きしめたいところだが、死活問題なのでそれは自重しているようだ。
 
●闘牛
 闘技場では、遠野が闘牛への参加希望者を募っていた。
 闘牛用に用意された雄牛は、牛追いで彼らがここまで連れて(追われて?)きた8頭だ。
 数名の生徒が名乗りを上げる。
 はじめの数戦は、デモンストレーションとして本物の闘牛士による闘牛が行われた。
 ピカドールが乗っている馬ごとひっくり返されてしまったりというハプニングもあったが、闘牛士がカポーテを巧みにあやつり牛の突進を避けるたびに歓声もあがる。
 闘牛士が雄牛に止めを刺すと、観客たちは白いハンカチを振って闘牛士を称えた。
 そのあまりにも華麗な戦いぶりに、日下部は思わず歓声をあげた。
 スペイン人の死に対する感覚は日本と全く異なる。「命を懸ける」という表現をスペイン語にすると「jugarse la vida(命を遊ぶ)」とあらわす。
 この価値観の違いが分からなければ、闘牛を理解することは出来ないだろう。
 止めを刺された雄牛は、ラバに引きずられて退場した。
 ちなみに今日の闘牛で戦った牛たちは、今晩のディナーとして学園生たちの前に並ぶことになる。
 次は、いよいよ名乗りを挙げた学園生たちの番だ。 
 最初の挑戦者は、藤村 将(jb5690)だ。
 両拳を振り上げ、プロレスラーさながらの派手な入場をしてきた。
 三島 奏(jb5830)は、その様子の動画をスマホで撮影する。
「ふふ、面白い動画が取れるかな」
 藤村の良い姿が撮れたら、見せてあげたい相手がいる。
 観客たちが日本語を理解できないのを良いことに、藤村が観客たちに向かって叫んだ暴言を聞いて、三島は思わず苦笑いを浮かべた。
 藤村は、係員が持ってきたムレタとエストックの受け取りを拒否する。
「俺にはこれがあれば十分だ」
 握りこぶしを突き出して、助手を追い返す藤村。
 高名な空手家にあやかり、牛殺しの称号を得るためには、素手でなくてはならない。
 やがて雄牛が入場してくる。
 体重600kgを超える牛は、正面から見ると圧巻だった。
 闘牛の趣旨を理解していない藤村は、自ら雄牛へ突貫をかける。
 右の強烈なフックが牛の横っ面へ炸裂。
 牛が体勢を立て替える間もなく目潰しの追撃を食らわせた。
 たまらず雄牛は角を振りまわす。
 角の先端が藤村の服の袖を裂いた。
 藤村は怯むことなく雄牛の首に腕をまわし、そこを軸に雄牛の首を巻き込むようにして倒れこむ。
 そして、牛が絶命するまで気動を締め続けた。
「見たか!? やっぱり俺のほうが強い! これで俺も牛殺しだ!」
 観客たちのブーイングの嵐のなか、勝利の雄たけびを上げる藤村。
 その様子を見ていた三島は、スマホをそっと閉じた。
「うん……現場で見てる分には面白いけど……うん……」
 三島は、この光景を自分の記憶の中にだけ留めることにした。
 次に登場したのは、金鞍 馬頭鬼(ja2735)だった。
 後ろには、友人の浪風 悠人(ja3452)も控えている。
 恋人に『生き様を見せつけてやる』という意気込みで牛追いに参加した悠人は、結局牛から必死に逃げていただで良い所を見せられていない。
 だから、名誉挽回のために闘牛へ出場した。
 悠人の恋人の浪風 威鈴(ja8371)は、その様子を観客席から眺めていた。
 本当は、自分も一緒に行きたかったのだが、迷子になるからとふたりに言われて大人しく観客席で観戦していた。
「ふたり……もと……がんば……って……!」
 闘牛に参加するふたりの勇姿をみて、威鈴は心から彼らを応援した。
「jugarse la vida……か……」
 金鞍は素面のまま、真剣な眼差しで牛を見据える。
 通常、闘牛士が戦う前にピカドールが馬上から長槍を雄牛に突き刺したあと、バンデリジェロスがバンデリージャと呼ばれる飾りのついた銛を打ち込む。(※中にはバンデリージャを自分で刺す闘牛士もいる)
 しかし、金鞍はそれらを下がらせ、己の肉体と剣のみで戦うことを希望した。
 ムレタを構えて雄牛の正面に立つ金鞍。
 雄牛は助手たちのあしらいによって、かなり気を荒立てているようだ。
 金鞍がムレタを翻すと、雄牛はそこへ向かって突進をかけてくる。
 金鞍は、それをひらりとかわす。
 相手の攻撃を冷静に見定めれば、光纏しなくても何とかなりそうだ。
 だが、無傷の雄牛は頭が下がっておらず、首の後ろにある急所を狙いづらい。
 文化の違い故、金鞍は闘牛という見世物が理解できなかった。
 闘牛に参加した雄牛は、その生死にかかわらず闘牛場に隣接されている解体場で食肉加工されるらしい。
 それならば、急所をひと突きし、出来る限り苦しまないように死なせてやりたいと思っていた。
 躱す姿が無様でも構わない。金鞍は回避に専念して、急所を突く隙をうかがった。
 そして、その時はきた。
 ムレタに突進する雄牛の頭が下がり、急所ががら空きになっている。
 金鞍は、ここぞとばかりに雄牛の急所目掛けて剣を突きたてた。
 急所を刺された雄牛は、のそのそと金鞍へ向きなおって動きをとめる。
 やがて前足をがっくりと折り、そのまま横倒れになって動かなくなった。
 しばし、会場はしんと静まり返る。やがて白いハンカチを振った観客たちの大歓声が沸き起こった。
 緑色のスーツを着た紳士、よほど感動したのか涙まで流している。
 会場に沸き立つ歓声とは裏腹に、金鞍の表情は暗い。
 だが、金鞍はその胸のうちを口にだして言うことはなかった。
 その後、金鞍には倒した雄牛の両耳を贈呈されたことを付け加えておく。
「負けてられないぞ」
 ムレタとエストックを受けとった悠人は、やや緊張した面持ちで雄牛と対峙した。
 悠人がムレタで挑発すると、雄牛は猛突進をかけてくる。
 悠人は、それを紙一重でかわし、エストックで切りつけた。しかし、エストックは突き専用の武器で、雄牛に有効なダメージを与えられない。
 再び雄牛を突進させ、すれ違いざまに剣を突き刺した。
 雄牛は、剣を背中に突き刺したまま再び悠人と対峙する。
 助手から2本目の剣を受けとる悠人。
「次こそ……っ!」
 悠人の三度目の正直。剣をより深く刺すために雄牛の突進をすれすれまで引き付け、剣を突く力に雄牛の突進力を上乗せさせて剣を根元まで突き刺した。
 雄牛がどっと倒れ、闘牛場が観客たちの歓声に包まれる。
 悠人は、観客席の中から威鈴の姿を探しだし、かっこ良さをアピールするために決めポーズを送った。
 次に登場したのは【こそこそ団】部長のヴォルガだ。
「私はこそこそ団部長ヴォルガである」
 普段、裏方にまわることが多い彼は、ここぞとばかりに目立ってみたかった。
「観客の皆様、どうぞこの骸骨めの技をご覧あれ」
 片手を添えた深い礼を見せるヴォルガ。
「いやぁー♪ 骨かっこいいいいーー!!」
 観客席からは、卯左見 栢(jb2408)の黄色い歓声がとんできた。
 骸骨剣士と雄牛の死闘がはじまる。
「骨いけー! 骨やれー! 牛そこだー!!」
 ヴォルガが華麗に舞うたびに、卯左見が歓声をあげた。
 ヴォルガの骸骨姿は、観客たちを畏怖させていた。
 だが、彼の見事な戦いは、しだいに観客たちを魅了していった。
 闘牛参加を希望したのは男子生徒だけではない。
 水竹 水簾(jb3042)が舞台に登場すると、先ほどまでとはまた違った沸きかたをした。
「鷲には乗った経験はあるが……」
 素手で対峙する水竹。セリフが既に怪しい。
 雄牛はやる気らしく、鼻息荒く前足で地面をけっている。
「か、かわいい……」
 にらみ合いのなか、ぽつりとつぶやく水竹。
 まるでそれを合図に雄牛が突進をかける。
 水竹は突進を躱す際、角を掴んでそのまま背中へ飛び乗った。
 振り落とさんと暴れる雄牛。
 水竹は落とされまいと必死に耐える。
 それ、闘牛ちゃう。ロデオや……。
 水竹の勘違い珍プレイは、観客たちを笑いの渦に巻き込んだ。
 結局、水竹は数分耐えた後、観客席の中へ振り落とされて目を回してしまった。
 観客席が笑いに包まれるなか登場したのは、バアル=セテフ=セネトファラオ(jb8822)。
 左手にはくまのぬいぐるみ。彼女の宝物だ。
 観客席の最前列では、友人の那斬 キクカ(jb8333)がバアルを応援している。
「牛なぞ、我にかかればお茶の子さいしゃ……」
 気迫満点にゆっくりと振りかえる雄牛を目の当たりにして、バアルは思わずセリフをかんだ。
「待て、何故ああもいきり立っておるのじゃあ奴は!?」
 水竹を振り下ろす過程で、雄牛はかなり気が立っているようだ。
「し、仕方にゃ……ない。ここは戦術的撤退と……」
 雄牛はバアルとの距離をゆっくりつめる。
「怖くないぞ? 断じて怖くなぞないからな?」
 バアルはじりじりと後ずさった。
 雄牛が助走をつけはじめる。
「いやいやいや来るでない来るな来るな来るな……!」
 くまのぬいぐるみを抱きかかえ、半べそをかいて逃げるバアルを追いまわす雄牛。
「やれやれ、仕方ないな」
 バアルを助けるべく那斬が乱入した。
「暴れ牛くん、真打の登場だよ」
 那斬は上着を脱ぎさり、バアルへ投げ渡す。
「ここは私がお手本というものを見せてあげよう」
 雄牛は、ゆっくり旋回し、まっすぐ那斬へ向かった。
 その勢いと迫力は、観客席から見ているのと真正面から見るのでは、大きく違っていた。
「……って、ちょっとまって! 早い早い! 早いってばぁ!」
 雄牛は、那斬が迎撃体勢を整える前に彼女を射程圏内に捕らえていた。
 踵をかえし、慌てて逃げる那斬。
「いぃやぁああああ!!」
 雄牛の角で何度もお尻を突かれながら、とにかく必死に逃げまどう。
「見本見せるという話は、どうなったのじゃ?」
 既に安全地帯へ逃れたバアルは、那斬の醜態に冷静なツッコミを入れた。
 那斬は、泣きながら闘牛士に助けを求める。
 結局、雄牛は闘牛士の巧みな技によって倒された。
 応援に熱がこもっている生徒がひとり。
 ミーノ・T・ロース(jb6191)だ。
 最後の雄牛が倒されると、彼女はおもむろに席を立つ。
「あーもう、見ていられませんです……」
 彼女が応援していたのは雄牛。
 ミーノは、ゆっくりとフィールドへ降りてきた。
「牛が足りないなら、ここにいますよ?」
 身長2mを超える彼女は、まさに牛そのものだった。
「私が相手になりますよぉ」
 嬉々としてあらわれたのは、牛怪人と化した黒百合。
 ちなみに顔は牛の仮面。
「さあ、いきますよぉ!」
「きゃはァ、たまにはこんなのもありよねェ……♪」
 こうして、雄牛ならぬ牝牛同士の戦いの火蓋が切られ、思わぬ迷勝負に観客席が沸いた。
 ちなみにお互いが牛に扮したこの勝負は、なかなか決着がつかず、結局ふたりが疲れてぶっ倒れるまで続いたという。

●ディナー
 闘牛が終わり、生徒たちは闘牛場に隣接されたレストランへ移動した。
 筋肉質な闘牛の肉はとても硬く、近隣の町や村へ安く出荷されるのが一般的だ。
 だが、このレストランで出される闘牛の肉は、とても柔らかく非常に美味だった。
 それもそのはず、つい数時間前まで生きていた雄牛の肉なのだから。
「さあ、肉呑もうぜ!」
 ディナータイムは、Unknown(jb7615)のこんなセリフから始まった。
 彼は、この一瞬が楽しみでスペインまできていた。
 1枚1口で綺麗に食べるアンノウン。
 彼の前に並べられた分厚いステーキが瞬く間に消えていった。
 本人曰く、きちんと噛んでいるらしい。
「ステーキ最高ー!」
 ひたすら食べる卯左見。食べ方は割りと綺麗だ。
 そんな彼女の姿を見て、パウリーネはいつもの仏丁面が嘘のように爽やかな表情を浮かべている。
 友人たちと旅行にこれたということが堪らなく嬉しい。
「修学旅行、さいっこぉぉ〜♪」
 卯左見の叫びに相槌をうつパウリーネだった。
 桃園 小夏(jb9196)は、次々と運ばれてくるステーキにガツガツと食らいついていた。
 これがさっきまで駆け回っていた牛なのかと思うと、ちょっぴりだけ複雑な気持ちにもなったが、こうやって食することで、闘牛たちが桃園の血となり肉となり、彼女の中で生き続けるのだから。
 桃園は、牛1頭まるまる食する勢いで、更なる追加注文をした。
「俺はグレートバリアリーフに行きたかったが……」
 肉を頬張りながら猪川真一(ja4585)。
「いいじゃない。こういう旅行は初めてだし、ふふ、楽しませてもらおうよ」
 そう返したのは、若宮=A=可憐(jb9097)だった。
 彼らは兄妹のような関係だが、ふたりだけで旅行をするのは初めてだった。
 それにしても若宮は良く食べる。
 ペースは決して速くないのだが、食べる量は明らかに猪川よりも多かった。
「先輩、図体のわりに食は女の子なみよね」
 自分が食べるより、周りが食べているさまを楽しんでいる猪川をからかう若宮。
「お前の底なし胃袋と一緒にするな」
 猪川はジト目をかえす。
 なんだかんだいって、仲の良いふたりであった。
 隣のテーブルでは、空木 楽人(jb1421)と川内 日菜子(jb7813)がステーキを堪能していた。
 川内は、ステーキにがっついている空木と目の前に分厚いステーキを同時に眺め、思わず胃もたれをおこしそうな感覚に襲われた。
 空木は、よほど空腹だったのだろう。口の端についたソースも気にせず、つぎつぎと肉を口に運んだ。
 紙フキンを手に取った川内は、テーブルに身を乗り上げ、腕をいっぱいに伸ばして空木の口の端についたソースをふき取った。
「まるで出来の悪い弟が出来たみたいだ」
 苦笑いを浮かべる川内。
「あ、あはは……」
 頬を掻く空木。
「一応、僕年上なんだけどなー……」
 そう言ったあと、なんだか可笑しくなってしまい、川内とふたりで声を出して笑いあった。
「血が、血が足りてない……」
 そうつぶやきながら食べるのは雫だった。
 その小さな体からは想像できないほどの量の肉が、彼女の胃袋の中へと消えていった。
「部位は何処でも良いです。じゃんじゃん持ってきてください」
 その食べっぷりは、あの遠野ですら足元にも及ばないほどであった。
 8頭いた闘牛の肉は、一部の生徒のブラックホール胃袋によって、ほとんどが食べ尽くされた。
 ディナータイムが終わり、店を出る間際にアンノウンが持ち帰りようステーキ300枚を注文したときは、店の従業員が悲鳴をあげたことを付け加えておく。
 全てのイベントを詰め込んだ怒涛の旅行初日が終わり、翌日は生徒たちが自由に街を散策した。
 こうして、スペイン牛追い祭りツアーは、事故もなく(?)無事に終了したのだった。









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