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花の都パリを巡る旅 タグ:【パリ】 MS:水綺ゆら

●シャンゼリゼ通り

「ビヤンブニュ。ようこそ花の都へ! ……なんちゃって♪」
 シェリア・ロウ・ド・ロンド(jb3671)は、恋人であるファレル・ロウ・ド・ロンド(jb3524)に恭しく御辞儀をしてみせ、顔を上げれば悪戯っぽく笑う。
 花の都パリ。シェリアの故郷であるフランスの首都である華やかな街だ。ファレルはゆっくりと周囲を見渡して、息を吸った。
「ここがシェリアの故郷か……悪いけどガイドお願いねシェリア」
「ふふ、任せておいて。折角の旅行なんですもの、楽しみましょう」
 里帰りも兼ねた旅行。抱き着くようにファレルの腕を組み、賑やかな大通りを歩いていく。様々なカフェやショップを転々としながら辿り着いたのは少し高級感が漂う服屋だった。
「あ、この服なんてファレルに似合うんじゃない?」
「シェリアにもこういうの似合うと思うぞ?」
 二人同時に相手に選んだ服を見せようと振り返った。しかし、見事なペアルック。
 何だかそれがとてもおかしくて、愛おしかった。
 買い物を終えたふたりが到着したのは大聖堂。ミサの聖歌が厳かに鳴り響いている。
「素敵ね……引き込まれてしまいそう」
「ああ……」
 薔薇窓越しに舞い降りてくる繊細な光を受けながら、ふたりは佇んでいた。

「買い物に行きたい、付き合え」
「いいよ、どこいく?」
「フランス」
「……はい!?」
 シャルル・ブルームフィールド(jc1224)と木嶋 藍(jb8679)の修学旅行はこんな会話から始まった。
 実際は祖母に負担をかけないよう修学旅行を見送るつもりだった藍を連れ出す口実でしかなかったのだが、それをシャルルは口に出さない。
 一通り買い物が終わり、シャルルが勧めたカフェへと入った。荷物を下ろし椅子に腰掛けると心地良い疲労が襲ってきた。
「買い物でパリに来るとか……やっぱシャルは発想が違うわ」
「褒め言葉か? 有難く受け取っておこう。何にするんだ?」
 藍はシャルルに渡されたメニューを覗き込むが、何が書いてあるのか全く解らない。
「……どんなものがあるのか解らないなぁ。シャル、お勧めある?」
「ほら、deux cafe s'il vous plaitだ、注文してみろ」
「ど、ドゥ、カフェ、シュ…シルブプレ??」
 フランス語堪能のはずのシャルルに何故か注文するよう丸投げされ噛みながらも漸く注文出来た藍。出てきたのはコーヒーに見せかけたエスプレッソ。
「濃っ!!」
「藍は本当によく表情が変わるな。そうやって表情筋を鍛えてるのか?」
「鍛えてるわけじゃないよ、もう。シャルはよく平気だね」
 面白がっているシャルルに藍は笑いながらも少しだけ拗ねてみる。その様子に何か感じたのかシャルルはマカロンを頼み、藍へと差し出した。
「甘いマカロンの組み合わせ……悪くないかも」
 マカロンのおいしさに感動しつつ珈琲を啜った。

 いつも通りの着物を着てきた生駒 カコ(jb9598)だが、先程から何やら多くの人に囲まれている。
「……さすがに目立つか」
 あれよあれよとカコの周りは人集り。しかも、スマホで写真まで撮られながら、何やらフランス語でまくし立てられている。
「え? いや、フランス語は無理だぞ……ええと。あい、きゃんと、すぴーく……ふらんす?」
 しーん。
「……さすがに、こんな英語じゃ無理か」
 カコ、軽く絶望。
「ほえぇえ!!」
 一方、初めての海外旅行。日本とは全く違う街並みに五代 小町(ja0845)は圧倒される。
「この辺りだと思うのですが……」
「えっとぉ、目印ってないかなぁ〜?」
「どこも同じ店に見えるばい」
 ガイドブックを片手に目当ての店を探すフィーア・マリアルド(jb8882)とブリジット レジェフォール(jb5110)だったが、一向に見つかる気配がない。
 誰かに聞いてみようか。そう思った時――。
「すまない、ちょっと助けてくれ」
 傍らにいつの間にか出来ていた人集りの中心から声が聞こえた。見知った声、カコだった。どうやら、取り囲まれているのに言葉が通じず困っている様子。
『彼女、困ってるようなんです。解放してくれませんか?』
 フィーアが人集りに向けてスペイン語で言うと、幸い、スペイン語が解る人間が居た。仕方ないね、とヤジは散り散りになっていく。
「……ふう。ありがとう。このまま日が暮れるかと思ったよ」
 礼を言うカコの顔には疲労が浮かんでいる。
(す、すごかぁ! こん人、外人しゃんと話とー!!)
 一連のやり取りを眺めていた小町はフィーアに神々しさを感じ勝手に感動していた。
「よければ、同行させて貰えないか?」
「勿論いいよぉ〜」
 カコの打診を快諾したブリジット達はその後少し探して目的のカフェを見つけて入る。
「……三人は、何を食べますか?」
「よ、読めんとやぁ! えっと、これとこれ!」
 勘で選んだ小町。ミルクとケーキを頼んだブリジット。カコとフィーアはお勧めの紅茶とパンにした。
「そういえば、この後、どうなさいますか?」
「食事終わったら? そうだねぇ〜。小物のお店行きたいー♪」
「私は茶葉見たい。よかやか? お土産にしたいばい」
 フィーアの問いに眠そうな笑顔とともに言ったブリジットの意見に同意する小町。
「では、荷物持ちをさせてくれ。さっきの礼だ」
「はい……全て廻りましょうか。時間に問題ありませんし♪」
 カコとフィーアも頷いて、一同はカフェを後にした。

「凄い凄い! 一度来て見たかったんだよね、パリ!」
「紫苑、凄いって何回言ってるの」
 先程から口を開けば凄いの連呼。永連 紫遠(ja2143)と彼女にそっくりな少年、永連 璃遠(ja2142)は少しだけ苦笑い。
 二人は狗月 暁良(ja8545)に連れられて、
「お姉さんが奢るから二人共イイ服を見付けてきナってコトで」
 ふたりとも見る目を養わないといけないといけない。今日、此処へとやってきたのは輝良のそんな計らいだった。
 その言葉に二人は頷いて、早速服を選びに散る。
「どう……かな?」
「どう……かな?」
「二人ともよく似合ってルな」
 流石双子。見事に発言が被った。
「と……最終関門、俺に似合いそうナ服を選んでくレと」
 悪戯っぽく微笑みながら暁良はそんな提案を投げかける。
「暁良の服を選ぶの?」
「うん、紫遠。頑張ろう」
 驚きつつも真剣に服を選び、暫く時間が経過。
「暁良、こういうのは?」
 璃遠から差し出された服は見事暁良の好みにどんぴしゃ。流石だなと暁良は璃遠の頭を撫でた。
「じゃあ、行こうか……暁良? 紫遠も待ってる」
「カフェで一息吐こうな」
 手を繋ぐと璃遠は頬を赤らめながら、幸せそうに微笑んだ。

「パリって聞くと凱旋門が出てくるよね」
「凱旋門どこ?!」
 落ち着き歩くジョシュア・レオハルト(jb5747)と対象的にそわそわと落ち着かない様子を見せるのは瀬波 有火(jb5278)。ふたりはある意味浮いていて周囲の注目を集めていた。
(姉さんや兄さんも来れれば良かったんだけどね……)
 シャンゼリゼの街並みをしんみりと眺めるジョシュア。
「……姉さんはもう限界に近いのかな、最近ずっと眠ってばかりだし……」
「あれかー!! よーっし。瀬波有火凱旋しちゃいます」
 物思いに耽るジョシュアの横で跳ね回り凱旋門を発見してしまった有火。話に聞いた通りシャンゼリゼ通りを直進コース。
「どっちが先に凱旋するか勝負だよジョシュア君! せーの、よーいどーん!」
「ねぇ有火、お土産何がい……って有火待ってちょっと待って迷子になるから離れないで凱旋門に突撃しないでー!!」
 ジョシュアが気付いた時には時既に遅し。撃退士の身体能力をフルスロットし有火は全速力で駆け出した。
「まだかなー」
 当然、有火が到着した時にジョシュアが居るはずもなくぽつーんとひとりで待ち惚け。暫くしてから漸くジョシュアがやってきた。
 彼はちゃんと地下入り口を通り周囲に気を配りながら向かってきた為、色々とショートカットした有火より随分と時間が掛かってしまった。
「あたしだから許したげるけど、女の子を待たせちゃいけないと思うんだよ!」
 明るい一言にジョシュアの疲れがどっと増えたようなそんな気がした。
「しゃーん、ぜりーぜりーぜー♪」
 気持ちよく走れて機嫌が良い有火をしっかりと確保しながらジョシュアは土産選び。
「有火、何がいいと思う?」
「あ、これなんか良いんじゃない?」
 有火の手には自由の女神型ライター。此処はパリ。

「やってきたぜ、バリ! 灼熱の太陽!煌めく海! そして美しい水着のお姉さんたち!!」
 燦めく真夏の海のように瞳とやる気を滾らせた若杉 英斗(ja4230)。しかし、彼は気付いた。
 何か様子がおかしい。飛行機からバスでの移動中はずっと寝ていたから気付かなかったが――。
(俺の記憶が確かなら、アレに見えるのは凱旋門。まさかココは、バリではなくて、パリ!?)
 気温だって灼熱の太陽とは程遠く寒い。周囲の人だって水着なんかではなくコートだ。
「だってさー。『パ』と『バ』って似てるじゃん!? フォントと文字サイズによっては見分けつかないじゃん!?」
 誰に言い訳してるんだろう。
「こうなったらパリジェンヌに声をかけるしかあるまい!」
 このポジティブさは彼の長所だと思われる。
 しかし、彼に問題があるとすればフランス語など話せないことだった。
「だが、ここはジュテームの国! 愛があればきっと俺の気持ちは伝わるハズ!」
 頑張れ若杉 英斗。彼はめげることなくナンパ活動に勤しんだ。頑張った。努力はした。
 二時間経過。
「……伝わらなかったよね」
 お疲れ様です。明日はあるさ。

「静矢さん、凱旋門なのですよぅ☆」
「ふむ、実物はやはり迫力があるな……」
 鳳 蒼姫(ja3762)に引っ張れられるように訪れた鳳 静矢(ja3856)は凱旋門の迫力に圧倒される。
 しかし、ゆっくりと圧倒される間もなく蒼姫に記念写真をせがまれ、シャッターを切った。
 一緒に撮ろう。このポーズで、この角度でと随分と写真を撮り、シャンゼリゼ通りへと繰り出し蒼姫の買い物に付き合う。
「しかし、結構買ったな、蒼姫よ……」
「なんでも、とーっても素敵なんですよぅ☆」
 両手には紙袋。カフェに入り一休みしようとどっさりと荷物を下ろした。静矢に預けられた荷物だが、何が入っているのか中々に重たい。
「さすがは花の都、か……デザートにも洒落た美味しそうな物が沢山あるな」
 どれも目を惹かれる。目移りしてしまう。しかし、お勧めだというスイーツになんとか絞って
「美味しいのですよぅ☆ 来てよかったのです」
「たまには外国というのも良いな」
 満面の笑みでスイーツを頬張る妻の顔を眺めながら静矢は呟いた。

「なー、神楽さん。どっちがえぇと思う?」
「どちらも良いと思いますよ」
 黒地に花柄のワンピースとドット柄のトップスを手に宇田川 千鶴(ja1613)は石田 神楽(ja4485)に訊ねてみるが返ってくる答えは同じだった。これで多分5回目。
「さっきもそう言ってったやん……」
「こうした知識皆無な私ですはい」
「……まぁ、わかってたけどな」
 神楽の私服はコスパ重視で服装に其程気を配るタイプでもなかった。にこにこといつもと変わらない服装で変わらない微笑みを浮かべる神楽に不満げな視線を向けつつ千鶴は溜息を吐く。
 手に取った服を棚に戻した千鶴は再び少しだけ落胆する。良いだけじゃなく似合うやもうひとこと欲しかったと願う自分は少し我が侭だろうか?
「これなどはいかがですか?」
 その声に千鶴が顔をあげれば神楽が白基調のワンピースを手に微笑んでいた。どうやら選んでくれたらしい。
「神楽さんはえぇの?」
「千鶴さんの服を見にきただけだったのですが、折角ですし千鶴さんに何か選んで頂きましょうか」
 頷いた千鶴は傍目からも上機嫌に見えた。
 買い物を終え通りをうろつくうちに、ふたりが見つけたのは店先に色とりどりの花が咲く小洒落たカフェ。
 早速オープンカフェのテーブルにつき、メニュー
「やはり海外は空気も違いますね。面白いものです」
「せやな、けど美術館とかあるらしいし、そういう方が好きやろ」
 折角だし服を見たいと言ったのは千鶴の方だった。自分に合わせず其方へ行きたいと言えばよかったのに。
「いいんです。これが楽しいんですから」
「神楽さんが楽しいのなら良かったわ」
 神楽にしてみれば千鶴と平和に過ごせるだけでよかったらしい。少しぐったりとした千鶴が答えると、注文していたケーキがきた。暫く他愛もなく話していたが不意打ちのように神楽が自分のケーキを切り、フォークを千鶴に差し出した。
「あ、これ食べてみます?」
 あーんとばかりに差し出されたフォークに硬直する千鶴。周囲を見渡す。
「……頂くわ」
 やはり視線は気になった。神楽からフォークを借りた千鶴は普通に食べた。

「流石フランス、美味しそうな物が多くて迷うな」
「このレモン良いレモネードの材料になるですぅ〜♪」
 レモネードの材料を探しにやってきた三鷹 夜月(jc0153)と神ヶ島 鈴歌(jb9935)。離れたところに佇む蒼月 夜刀(jb9630)ははしゃぐふたりにちょっと苦笑い。
「あ、このチョコとかいいな、買ってこ〜」
「蜂蜜も良いですよぉ〜」
 あれよあれよとお買い上げ。
「鈴歌ちゃんはレモネードの材料見つけたみたいだけどジョセフはいい物あった?」
「まぁ……そろそろ昼の時間じゃないか?」
 夜刀の問いに答えた夜月が時計を指し示すと丁度お昼の時間を迎えていた。
 入ったのはパリの老舗中の老舗。丁度お昼のピーク時。有名店とだけあって混み合っている。
「忙しさを感じさせない接客対応は凄いのですぅ〜♪」
「接客対応は見習わせてもらいたい……うちはいつも騒がしいからねぇ」
 旅行中であっても商売のことは忘れない。店員の様子を眺めながら鈴歌と夜刀は感心したように呟いた。

 初めて行く場所だから、伸び伸びと見て回ろう。
 友人と選んだ洋装を身に纏い、特に目的もなく何となく知っている凱旋門から雑貨屋や本屋を見ながら大通りを歩いてきた望人(jb6153)は陶器屋でコーヒーカップを選んでいた伽藍 桔梗 (jz0263)の姿を見つけた。
「おや、伽藍先生こんにちは」
「おや、奇遇だね。楽しんでいるかい?」
 にこやかに挨拶してみるものの、望人は思い出す。教師の間で指導対象として目を付けられているのではないか。
「……用事があるので、失礼します」
「ちょ、ちょっと人混みの中で走るのは危険だよ! 歩くように!」
 追い掛ける為に教師が走るわけにもいかず、望人はまんまと逃げ出すことに成功した。
 この時の為に走りやすい靴を履いてきてよかった。

 姉妹で旅行に来た。
 こう書けば当たり前のことのように感じるけれど、エルネスタ・ミルドレッド(ja6035)とErie Schwagerin(ja9642)にとってはとても尊いことに感じた。
「着飾らないのぉ?」
「特に気にしてないから……私は……」
 などと言ってしまったエルネスタ。エリーのやる気に炎が灯る。
(あぁ、またか……)
 早速通りすがりの青年にフランクに道を聞きながら、店へと向かう。
 まずは化粧品らしい。
「ほら、ぼーっとしないのぉ! はやく行くわよぉ〜♪」
「分かったから、そんなに急がないの」
 手を引っ張られ、危うく転びかけるところだった。困りながらもエルネスタは喜んでいた。そんな姉の様子を見て、エリーも満足。
 たったひとりの相手。ともに居られることがとても、愛おしい。
 その後、暗くなるまで続いた。

「ここが……少尉の墓か。中々良い場所じゃないか」
「少尉、あれから4年になるのね。そっちでは元気にしてるかしらぁ? 私は最近初恋を経験したのよ」
 一方、中心地を離れて墓地へ来ていたのは雨宮アカリ(ja4010)とリリィ・マーティン(ja5014)の姉妹。
 育ての親でもあった上官の墓参り――なのに、アカリの手には花ではなく日本のアニメグッズが。
「うっふふ、愛しの愛しのゴライアスお義父様もヴァルハラに行ってるらしいから仲良くねぇ!」
「お前の頭の中がお花畑なのはよく分かった」
 ハートを乱舞させくねくねとドリーム満載夢一杯に語るアカリにドン引きしたリリィの容赦無いツッコミが襲い掛かる。
「ひとついいか?」
 顔を引きつらせながら墓標を凝視しているリリィ。アカリにも言いたいことは解る。分かってしまった。
「なんだ、この気の抜ける軍人の墓らしからぬ漢字は……」
「ツッコんだら負けって奴よ、リリィ……」
 墓標に刻まれていたのは『萌』の文字。ロリコンとオタクは死んでも治らないらしい。


 日は暮れて、パリの街に明かりが灯り出す。


 ひんやりとしたパリの夜。エッフェル塔の夜景を見上げるシェリアとファレルを結ぶのは一本のマフラー。
「ずっとこうして居られたら良いのに……」
「俺もそう思う。これからもずっと一緒にいたいな」
 愛おしい時程、瞬く間に過ぎてしまう。それでも、失わないよう大切に思い出に刻み込んだ。

「で、土産は決まったのか?」
「うん、おばあちゃんのお土産はマカロンにしたよ。一番おいしかったし」
 藍とシャルルが見上げるのはライトアップされた凱旋門。
「これ、ずっと案内して貰ったからお礼」
「どうも。甘いものはあまり食べないけど、これは貰っておくよ」
 差し出されたマカロンのケースを受け取ってシャルルは鞄に仕舞い込んだ。
「今日は、本当にありがとうね」
「礼を言われるようなことはしていない。こちらも楽しませて貰った」
「どういう意味? それ」
 少しだけ拗ねてみせる藍。しかし、また直ぐに笑顔を浮かべた。




●チュイルリー公園
「そういえば……一緒に国外、って初めてだよね 今日はトコトン楽しもう!」
 おっとりとした雰囲気のパウリーネ(jb8709)は、それでもとてもわくわくしていた。もう、胸がはち切れそうな程にワックワク。
 恋人であるジョン・ドゥ(jb9083)と初めての海外旅行なのだ。否、彼と居られるのであれば何処でも楽しいとは思うのだが、
「何度か一緒に遠出しているが、静岡、京都と来てまさか次は一気に世界へ出るとはね……次は雲の上か深海かな?」
「ジョンとだったら、雲の上や深海も楽しいと思うな」
 陽の光を浴びてきらきらと輝く噴水の水面。風が吹けば木葉を歌わせる木々。猫は昼寝をして、人々は穏やかに笑い合っている。
 ジョンはデジタルカメラを弄りながら周囲を見渡した。初めての海外旅行、記念写真を撮って貰おうと気合を入れて持ってきたものだ。
 誰に声かけよう。周囲を見回していると暇そうにしていた絵描きの老人に声をかける。日本語で話しかけようとし、慌てて止めて言葉を出す。
『写真お願いしてもいいですか。ここ押せばシャッターです』
『良いが、ちょっと待ってくれんかね。デジタルは不慣れなのだ』
 最低限話せるフランス語でジョンは老人に声をかけると返ってきたのは快諾だったが、慣れないカメラに操作がおぼつかない。噴水の前に立って並ぶと、パウリーネが腕を組んできた。
「しかしお互い最初会った時はこうなると思わなかったな。まぁ……」
「……きっと昔の私も、今の私を見たらビックリするな、きっと」
「だな……なんだ、つい最近も言ったが大好きだ。というか愛してる」
 ジョンの言葉に一瞬驚いたような表情を見せるパウリーネだったが、直ぐに花が咲くように笑みを浮かべて。
「嬉しい。人生、ってか魔女生?の後半に、こんな幸せになって。大袈裟じゃなく"生きてて良かった"よ、ホントに!」
 パウリーネは背をいっぱい伸ばし、ジョンの頬に軽く口付けをした。その瞬間にシャッター音が着られる音がした。
『良い絵が取れたよ。君のモナムールを大切にな』
 和やかに笑う老人に、ジョンは喜びながらも、どうしようもなく照れくさかった。
 その後入ったカフェのコーヒーは砂糖を入れてもないのに、やたらと甘く感じた。

「僕よ、これがパリの灯だー!」
 メトロから降りた九鬼 龍磨(jb8028)は周囲の光景に目を輝かせる。憧れのフランス。必要そうな会話も丸暗記した。朝一番に出かけて向かうのはチュイルリー公園。
 公園内にあるオランジュリー美術館に入り、睡蓮という名の油絵を眺める。
「大きな窓から、池を見てるみたい」
 まるで額縁が窓のようだ。
 ミュージアムショップで先程見た絵画のカードもちゃんと購入。
 カフェオレに、キッシュ。クロックムッシュもいいな。シャンゼリゼ通りの旧オペラ座にも行こう。
 美術館を出ると、日は高い。まだまだこれから。親友に教わったルートでパリを楽しもう。

「こうして公園一つとっても目新しく新鮮だな」
 カフェで一息ついた鳳夫妻が次に訪れたのは公園だった。
「なかなか二人だけで居る時間も少なくなったからな……」
「ちょっと疲れました」
 そんな蒼姫の声に促され、静矢もベンチに腰掛けて一休み。
 こうして、のんびりと過ごしてみるのも。
「ふふふ、まぁたまには良いかね」


 お昼の後、公園に訪れた三人。
「ぁぅ? 公園賑っていますねぇ〜」
「大道芸をやっているみたいだな」
 鈴歌の呟きに其方へ夜刀が目を向けてみると大道芸をやっていた。
「私達もやらせてもらいましょ〜」
「……ってうちらもやるのか!?」
 大道芸の飛び入り参加なんて早々あることではない。驚きのあまり素っ頓狂な声をあげる夜月だったが、どうやら鈴歌は本気らしい。
 レモンとナイフ。その場にあったものを使用し披露した大道芸は好評を博したらしい。

●モンサンミッシェル
「これって超ヤバイ〜ドキドキしちゃうね☆」
「はい、わくわくします!」
 参道グランドリューを歩く藤井 雪彦(jb4731)と駿河 紗雪(ja7147)の目的は名物のスフレリーヌという名のオムレツ。
 迷子にならないよう雪彦の。早速出てきたスフレリーヌは思ったよりも大きい。
「このふわしゅわ感癖になりそうですね。食感が楽しく味は……」
 そこで言葉を止めて紗雪は雪彦にフォークを刺しだした。あーんのポーズ。雪彦は恥ずかしがる様子を見せず、食べた。
「ふおお……噂通りの、塩と卵の味だね! でも、食感がしゅわしゅわ〜とする不思議☆」
 今までにない体験したことがないような不思議な食感に思わず驚きの声をあげそうになったが必死に声を小さく。初めての修学旅行で目一杯同じを感じられることが何よりも嬉しかった。

「三島先輩との修学旅行は初めてっすね! 恋人同士として迎えられてうれしいっす」
「ちょッと照れ臭い気もするけどサ」
 カメラを手にグランドリューを写真を撮りながら九 四郎(jb4076)の少し先を歩く三島 奏(jb5830)は少し微笑む。
 最初は慣れない異国に緊張してキョロキョロと辺りを見渡していた四郎も次第に落ち着いてきたのか自然体。石造りの街は長身のふたりに驚く程に似合っていた。
「先輩は写真撮らないっすか? あそこの看板にとまってる鳥」
「後でデーター分けて貰える?」
「勿論いいっすよ」
 四郎はそのやり取りの最中もしきりにシャッターを切っていた。
 先輩との大切な思い出。いつまでも残しておく為に。そして、思い返せる為に形に残して。
(古い石畳のプロムナードに佇むシロー……アラン・ドロンも霞むくらい絵になっちゃうでしょ、これ!)
 四郎を見守っていた奏もカメラを構えた。けれども、その光景に見とれてしまいシャッターが押せず呆然と立ち尽くす。
 先程までに一緒に歩いていた。そんな事実を今更自覚し、急に胸の鼓動が早くなる。
「先輩、ボッとしてたら時間が勿体無いッス」
 四郎、思い切って奏を壁ドン。
(マジで?!)
 声すら出せない奏。息が止まるかと思った。いつもよりぐっと近い距離。自分から仕掛けておきながら、四郎の顔だって赤くなっている。
 暫くふたりの間の時間は止まっていたように感じた。

 ぶらぶらっとのんびり一人と一匹フランス旅。
 特に目的も決めず島内を散策していた箱(jb5199)はカフェに入り只管食そうと、只管頼んでみた。
「美食ノ国デスカラ!」
 流石に頼みすぎなのではないか。無表情なケセランが言っているような気がして箱は言い訳などをしてみる。
 機嫌を取るかのようにガレットを切り分けてフォークで差し出す。
「ケセランチャン、ア〜ン」
 べちゃ。失敗し、ケチャップがケセランの真っ白な体を染めてしまった。
 飛び去っていきそうなケセランに留まるよう必死に頼み込んだという。

「私、海外旅行は初めてなんですけど……レーヴさんと一緒に来れて嬉しいです」
「私もだよ」
 初めての恋人との旅行に若干緊張気味の藤宮真悠(jb9403)の手を繋ぎきちんとエスコートするのは黒色の神父服に身を纏ったレイヴナス・ヴィリアーズ(jc1197)。
「元々は私の故郷……アイルランドにもいたケルト人達の聖地であったと言われている。モン・トンブ……墓の山、という意味だ」
 名所を周りながら丁寧に解説をするレイヴナスの声が心地好くて繋いだ手のぬくもりが、やけに暖かい。ちょっと恥ずかしいけれど、とても嬉しくて真悠は幸せそうに微笑む。
 修道院に着けば、レイヴナスは祈りを始めた。
「すべてを造り、治められる神よ、いつくしみ深いみ手のなかで始めるこの集いを祝福し、み旨を行うことができるよう、わたしたちに知恵と勇気を授け、導いてください」
 か細くも何だか暖かな光
「わたしたちの主によって……アーメン」
 どうやら、真剣に祈るレイヴナスには自分の姿は見えていないようだ。それも彼らしいと思いながら、少しだけ苦笑して、真悠も祈りを捧げる。
(いつか、あなたの隣で私がウエディングドレスを着られますように)

「ふぁあ……音が幾つも反響して重なって……パイプオルガンの音色も歌声も、物凄く幻想的で、荘厳で、素敵なのです……」
「だね、音が良く響く」
 賛美歌を聴きに聖堂を訪れたRehni Nam(ja5283)と亀山 淳紅(ja2261)は、その荘厳な響きに圧倒される。
(ミカエルの山、か。天魔とは別物やってわかってるけど、なんか有難み薄れてしまうな)
 その一方、内心そんなことを思ってはちょっと苦笑い。そんな淳紅の袖がついついと引っ張られた。淳紅が目を向けてみるとレフニーが伺うように此方を見ている。
「……歌わせてもらう、なんて、出来ないですよね」
「そうやねぇ……流石になぁ」
 歌ってみたかったけれど。歌を聴いてみたかったのに。残念に感じるのはふたりとも同じで、だからこそ名残惜しくも聖堂を後にすることを決めたレフニーは淳紅の手を取った。
「大聖堂から出て空が物凄く明るく感じるのです……さ、次の場所へ行きましょうか?」
「ん、行こか」
 取られた手をきょとんと握り返し、淳紅は聖堂から出た。



 ――どうしてこうなった。
 先程から星宮 乃々華(jb5712)は何度も何度も自分に尋ねている。
『自分はドMじゃない』
 そう主張していたはずなのに、何故か懺悔室に連れ込まれ瓜生 璃々那(jb7691)に尋問を受けていた。
「今なら神もお許しになるでしょう。いじめませんから真摯にお答えください、ドMですよね?」
「というか、懺悔室、よく借りられましたねっ!」
「正直に話すんだ」
「ひりょさんまで……」
 黄昏ひりょ(jb3452)に助けを求めて見るがこりゃダメだ。呆れながらも助けてくれる様子がない。刑事ドラマのカツ丼のように杏餅を差し入れてきた。嬉しいけど今欲しいのはそれじゃない。
「何をしてるのです! いじめは神様ぷんぷんするのですよ!」
 乃々華は光が射したと思った。偶然通り掛かったのは制服姿の天花寺 桜祈 (jz0189)。
 救いの神キタコレ。
「取りしら……いや、ちょっと交流をね」
「なるほどー、仲良きことは美しきかななのですー!」
 ひりょの取り繕うような言い訳にあっさり納得。いつの間にか璃々那が乃々華の鞄からノートを取り出し取り調べ情景を詳細に書き込んでいる。
「ちょっ! それ私の黒歴史ノート?! 勝手に書かないでー?!」
「あ、桜祈さんこれは感想文だから」
「偉いのですー!」
 ひりょの言葉を素直に信じる桜祈。
 しかもボールペン。消せないオワタ。
「あぁ……」
 去っていく桜祈の背中に力無く腕を伸ばすが、がくりと垂れた。

「……なぁカルラ。少し、寄って行きたい所があるんだが」
「うん……いいよ。でも、何処にいくの?」
 昼間は島内を見て巡り日が落ちて空は茜色に染まっている。宿への帰路を辿りながら持ち掛けられたドニー・レイド(ja0470)の問いにカルラ=空木=クローシェ(ja0471)は微笑みながら頷く。
「結婚承認証を作りに行こうと思う」
「!? ………け、っこ……承認って……えっ……え…?」
 瞬間沸騰するようカルラが顔を真っ赤にして固まった。彼女が我を取り戻すまで、少々の時間が掛かったという。



 日が暮れて、夜。
 モンサンミッシェルに明かりが灯り始める。





「画像の比ではなく実際に目にすると壮麗ですね。息を呑む美しさ……」
 写真で見るよりもずっと美しい夜景に紗雪は感嘆の息を漏らした。
「寒くない? ブランケット借りてきたよん♪」
「おぉ……ありがとうございます。ふふっ、あったかですね」
 ブランケットにふたりで包まって、肩を寄せ合う。
「これだと視線の高さも一緒だし…同じ景色を見られるね♪」
 雪彦に紗雪は頷く。
 写真など要らない。それよりも心に深く焼き付けよう。
 ずっとずっと、忘れないように。

「ふふふっ。如何ですかしら緋色? 最高の眺めでしょう?」
「話に聞いていた以上の凄い眺め、だね、綺麗……♪」
 満面の笑みの桜井・L・瑞穂(ja0027)に連れられてやってきた帝神 緋色(ja0640)は眼前に広がる絶景に感嘆を漏らす。
 フランス出身の瑞穂に任せたのだが、これが正解だった。知る人ぞ知る穴場スポット。ふたり以外に人は居らず、おのずと二人の距離は近くなる。
 瑞穂は腰掛け、膝の上に緋色
「春先、まだ寒いですけれど緋色と一緒なら心はとても暖かいですわ」
「じゃあ、体も温かくしてあげようか」
 緋色は甘えるように瑞穂に抱き着く。瑞穂も嬉しそうに彼を包み込むように抱き返した。
「改めて、今日はありがとう。瑞穂が僕のために頑張ってくれた、って思うと、尚更この時が大事に感じるよ…♪」
「貴方が喜んでくれるだけで、わたくしは満足ですわぁっ♪」
 暫く絶景すら忘れて抱き合っていた。


「アノ高イ塔ノ上ノミカエルサントヤラ、実ハ天魔サンダッタリスルノデショウカ」
 島の中では出せなかった体の大きなストレイシオンと一緒に箱は夜景を眺めている。
「ストレイシオン、島マデ泳イデミマス?」
 召喚獣は首を振った。昔から此処は危険な海域。
「……ヤメトケデスッテ? ハァーイ」

「……あぁ、夜景が綺麗だなぁ」
 一方、乃々華はしんみりとあんず餅を食べながら呟く。頬から流れ落ちる涙が、夜景にきらりと輝いた。



「海の向こうに経つ城と孤島、か。なんやちょっと学園みたいやねぇ」
 ホテルの部屋のテラスから淳紅とレフニーは夜景を眺めている。
「昼も夜も美しくて……まさに、天使の名を冠するに相応しいのです」
「綺麗やねぇ」
 呟いた淳紅の視線はレフニーへと向かう。ふと、島内で少し残念そうな様子を見せていたレフニーのことを思い出す。
「島の中では歌えへんかったけど……うん、じゃあ恒例、レフニーの為だけのコンサートな」
 そんな淳紅の提案にレフニーの表情が輝き出す。
 流れ出る旋律。淳紅の歌声は何処までも夜の空に澄み響き渡るようだった。

 部屋の夜景は絶景だ。
 先程、宿に届いたばかりの承認証を封筒から取り出したドニーとカルラは部屋から微かに漏れてくる光でなぞるように書かれた文字を何度も読み返す。
「これ自体は只の紙、記念品だ。けど、俺は意味があると思うし……」
 ドニーは言葉を選びながらゆっくりと告げる。
「今はこれを……カルラ、お前に持っていて欲しいんだよ」
「うん……ありがと、ドニー。 私、その日が来るまで…ちゃんと持ってるから……っ」
 彼の言葉は嬉しさしかないはずだった。けれど、止め処なく溢れてくるように流れる涙。
「…あ、あれ…? …ご、めんね…私…何で…っ」
 謝るカルラ。ドニーは彼女を優しく抱きしめて口付けをした。
 承認証に零れた涙の跡は、幸せの証だ。









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