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マスター:ガンマ
シナリオ形態:イベント
難易度:易しい
形態:
参加人数:25人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2014/07/27


みんなの思い出



オープニング

●教師である元撃退士と、実家の駄菓子屋を継いだ元撃退士
『もしもし棄棄さ〜ん お誕生日おめでとー』
「ウースありがとありがと〜 やべぇよ俺もうすぐ40だわよ 時の流れマジ早」
『光陰矢の如しだねぇ。でさ、プレゼントって事でお菓子いっぱい送ったから。皆で食べるといいよ』
「マジでか」
『マジです。時間的にそろそろ届くと思うよ』
「うおーありがとうなお菓子大好き」
『君、昔っから甘いもの好きだもんね〜。……で、お元気ですか?』
「まぁボチボチかな〜。お前も元気そうで」
『うん、静かでのんびりしてるけど、平和だよ。こないだ滋賀でさ、色々あったじゃん? アウル覚醒者とドンパチしたって。近かったからさ、結構ハラハラしてたんだけど……無事で良かったよ。お互いにね』
「ぶゎか、頑張ったのは俺じゃねぇさ」
『ああそれもそうだね、ハハハハハ。……懐かしいね。昔は僕らがそういうドンパチを最前線でしてたのに』
「そうだな……懐かしいな。戻りたいとは、思わないが」
『同感。それじゃ、暑い日が続くけどお元気で』
「あいよ。お前も元気でな〜」

 ピッ。
 つーっ。つーっ。

●スクールの屋上
 久遠ヶ原学園は広大だ。そしてその校舎にもまた広大なものがあり、それは当然屋上も広大で。
 そこには教室から持ってきた机と椅子が雑多に並べられていた。丁度、立食パーティやらあの辺を思わせる。
 そして机の上には、というと――お菓子だ。駄菓子だ。コンビニとかでよく見かけるようなものから懐かしいものから色々と。
「ハイ、そーゆーワケで」
 その『会場』の真ん中にいたのは棄棄。
「お菓子パーティ……俗に言う菓子パをしませう。それじゃ〜皆〜! 今日はカロリーとか健康的食生活とかそういう俗世の事なんか忘れてお菓子に溺れようぜーーー!」


リプレイ本文

●すてきたん01
 キラキラ7月の日差し。夏の気配、蝉の声。
 暑いから、という訳で、屋上には幾つもパラソルと扇風機。
 そして教室から運ばれた机には、それはもう大量のお菓子がオンパレードだった。
 それらに加えて、

 矢野 胡桃(ja2617)が金平糖、チョコクッキー、生チョコ、ホットチョコレート、うまいスティック、ふわふわハニートースト、アイスクリーム、アンパンを。
 翡翠 龍斗(ja7594)が財布にモノを言わせて有りっ丈のアンパンを。
 イリス・リヴィエール(jb8857)が紅茶(ダージリン、アッサム、アップルティ、ローズヒップティ)を。
 四月一日蓮(jb9555)があんこ味の串団子と大福を。

 それぞれ持って来、更に九鬼 龍磨(jb8028)が調理道具にたっぷりの材料を両手に抱えてやって来た。カセットコンロにフライパンに、小麦粉、卵、バター、etc……つまりこれから彼が始めるのは、
「クレープ祭りだーーーッ!!」
「クレープ祭りと聞いてーー!」
 いろいろ持って来たよ、と不破 怠惰(jb2507)が机の上に材料を並べてゆく。
「バナナに餡子に生クリームにイチゴジャム、ツナにチーズに唐辛子パウダーもあるからお好みで! ……私は辛いのダメだけどさ、好きな人はいるものな、カーティス君とか」
「これだけあれば料理の幅が広がるよ! ありがとう、助かる!」
 どんなものでもクレープにするよ!と無邪気に微笑む龍磨であるが、それは容易に闇鍋化する危険性も孕んでいる――というのは面白そうだから黙っていよう、と微笑み返した怠惰であった。
「あ、棄棄殿が用意したお菓子を包むのも良さそうだね」
「ん、焼くんだね? OK♪」
「……ここにイカチョコとハッカ飴が」
「そ、れは……やめといたほうが……」
「だよね……冗談だよ。まぁ私に任せて」
 これとこれをこうしてこうすれば、と。
「じゃじゃーん、クリームイチゴマーブルチョコ〜! すごい! 美味しい!」
 材料はいっぱいある。無限の可能性が眠っている。
 その一方、ギィ・ダインスレイフ(jb2636)も面倒臭そうな表情のまま(とは言えこれがデフォなのだが)料理を始めた。
「夏だから、冷たい物がいい」
 と言う訳で、机の上にあったココアクッキーを無造作に手に取ると、これまた無造作にビニール袋に入れてゆく。
 それを、傍らでじっと見ているのは紅 美夕(jb2260)だ。一体彼は何をするんだろう?と目をぱちくりする目の前で――ぐしゃり、ビニールの中でギィに握り潰され砕かれるココアクッキー達。
「!?」
 何でそんな事を。折角のクッキーなのに、と言いたげに美夕はギィとココアクッキーを交互に見やる。相変わらずギィは平然としている。そして程よく砕けたクッキーをバニラアイスに混ぜ、大きめのビスケットに挟めば――
「……完成」
「わっ……簡単に出来ちゃうんだね。美味しそう」
「あぁ。簡単、美味しい」
「ギィさん、そのアイス、お手伝い出来ますか……?」
「俺クッキー砕くから。……混ぜて挟むのよろしく」
「はいっ……!」
 そうして、クッキーアイスサンドが量産されてゆく。
 料理する者はここにもいる。桐生 直哉(ja3043)と澤口 凪(ja3398)だ。
「焔先輩にケーキの大きさ聞いてきましたよー!」
「お疲れ。準備できてるぞ」
「ありがとうございます! それじゃあ作りますかー」
 と言う訳で、二人の料理が開始する。
「あ、先生って鈴つけてたじゃんか、鈴も作らないと……っ」
「笠のところも考えると意外とバランスが難しいですね……むむー」
「……マジパンで三つ編み難しい」
「細かい細工がいるので頑張りましょう……!」
 四苦八苦、棄棄先生ブロマイドと顔を突き合わせながら丁寧に丁寧に作っていくのは――棄棄の姿をしたマジパン人形だ。越南笠に、ピンクの髪。如何せんゴチャゴチャしている棄棄の姿だ……これがなかなか難しい。
「くっ、上手く先生っぽいピンク色にならない……ッ!」
「服の模様、どこまで再現します……?」
 おれたちのたたかいはこれからだ!

 そんな料理人達とは対照的に。お菓子、お菓子、お菓子の山。わぁっ……と死屍類チヒロ(jb9462)は目を輝かせた。
「お菓子いっぱい! 夢いっぱい! のワンダーランドじゃないか〜!」
 あれも、これも、それも、どれも。食べていいのだ。故に食べる。ひたすら食べる。食べて食べて食べまくる。
「美味しい! 美味しい! これも美味しい!」
 手当たり次第に食べているように見えて、チヒロはどれもこれもを美味しそうに食べてゆく。クッキーも、チョコも、アイスも、お煎餅も、団子も、アンパンも、飴玉だって、幸せそうにほっぺを膨らませてもぐもぐごっくん。最早大食いこそが棄棄への誕生日祝いだと言うように。
 勿論それもあるし、チヒロ自身、暇が嫌いなのもある。何かしてないとイライラする。だから食べる。食べて食べてペースも上げていっぱい食べる。
「もっともっとお菓子を! 健康? 何それ美味しいの〜? ボクの食の進撃は何人たりとも止めさせぬ!」
 その横を、この夏の温度に溶けてしまう前にとチョコを取りつつ通り過ぎたのは龍崎海(ja0565)だ。硬貨型チョコ。しかし、何故こういう駄菓子系のチョコって存外に溶け難いんだろう?なんて思いながら、甘味を飲み込んだ後に棄棄のもとへ。
「お誕生日おめでとうございます」
「棄棄先生お誕生日おめでとうございます」
 下げた頭と祝いの声が、蓮と偶然重なった。
 にかっと笑んだ教師は、二人の頭をわしょわしょ撫でる。それから「まぁ飲んでけよ」と手渡したのは酒――ではなく、よく冷えたラムネである。
「「いただきます」」
 礼儀正しい声が再度重なる。透き通った薄青の瓶。しゅわしゅわと炭酸に転がるビー玉。
(いろいろ思い出があるなぁ……)
 しみじみと、海はそれを眺めていた。
「飲み物っていえば粉末ジュースは、加える水の量で試行錯誤したなぁ……」
「あるよ。飲む? 何味がいい? っていうか全部あげちゃう」
 ぐいぐいと海のポケット(それもあらゆるポケットだ)に粉末ジュースの小袋を詰めてゆく棄棄であった。「いいんですか」と言葉を返す海に「遠慮なさらずに」ともう一袋。
 そんな様子についつい蓮は笑みをこぼし。是非行かなくては、と意気込んでやって来た誕生会だ。自分自身も楽しまねば――と言う訳で、ティーカップと飴玉を使って手品を開始した。伏せたカップに入れた筈の飴玉がなくなる、かと思えば何も入れてなかったはずのカップから飴玉が出てくる。
 ほう、と眺める棄棄が目を丸くした。
「大したもんだな、蓮ちゃん」
「えぇ。手品、ちょっと得意なんです」
 楽しんでいって下さい、と彼は微笑んだ。
 誰かが望み、誰かが喜び、誰かが祝う。ただそれだけ、それだけで、その者の存在には意味が生まれる。その先には、『無意味』は生まれない――龍斗は平和な光景に目を細めつ、駄菓子へと徐に目をやった。懐かしいパッケージがそこにある。
「懐かしいな。当時の当主……祖父に隠れて、姉さんや弟と一緒に食べたっけ」
 長い長いグミ。懐かしい。そうだ、恋人――否、『妻』といっしょに食べよう、そう思って翡翠 雪(ja6883)へ目をやった。蓮の手品を見ている背中がある。
「雪――」
 と、呼びかけた瞬間。
 ガッ、と何かに躓いて。
「あ」
 ぐらり、体が傾く。雪の方へ。
 嗚呼このままだと雪の胸に顔からダイブしてしまうか!? なんてラッキースケベな可能性も無きにしも非ずだったが。
「あっ、龍斗さま!」
 素早く気付いた雪がふわりと彼を抱きとめた。お姫様だっこっぽい感じで。
「大丈夫ですか……? お怪我は」
「……あ、ごめん。怪我はないよ」
 普通、男女逆じゃね……?的な展開だが、後光が差して見える雪がテライケメンだったので、「俺の嫁がこんなにも可愛い」的惚気でその場は片付いたのであった。
 でもその後、足元には気をつけなくてはいけませんよ、とか、もし戦場だったら、とか、お怪我をなされたら、とか、キッチリお説教されて凹む龍斗なのでした。ちゃんちゃん。
 兎も角まぁ気を取り直して。
 二人は棄棄へ「先生」と呼びかける。
「先生様。お誕生日おめでとうございます。こうして、一年を共に刻めて光栄です」
「先生、誕生日おめでとうございます」
 花束の代わりに、とお菓子にあいそうなお茶詰め合わせを贈る雪、「おうよ、ありがとな!」とそれを受け取りつ嬉しそうに応える棄棄――実は彼は自分の父親と同い年なのだけれど、という思いをこっそり飲み込む龍斗。
「そういえばさ、雪ちゃんや」
 棄棄が雪を見、それから龍斗を見る。苗字の事だ。そう、その事も言いに来たのだと、二人は頷いた。
「今回は、先生様の誕生日を祝うという事ともう一つ目的があるのです」
 と、龍斗へ目をやってから教師を見る雪の顔は、幸せそうな色で満ちていた。
「先生様、別の機会でもとは思いましたが、このように落ち着ける時のほうが良いとも思いましたので。
 ――この度、正式に籍を入れまして。龍斗さまと、結婚致しました。その節には、相談にも乗ってくださって、本当にありがとうございました。どのような立場になっても。夏野の姓でなくとも。私は盾である事に変わりはありません」
 そっと、二人は手を重ねた。握り締めたその手、それ以上に、二人の絆は、愛は、確かなもので。
「龍斗さまも、護るべき人々も、そして先生様も。私が守れるようになってみせます」
「雪共々、どうかこれからもよろしくお願いします。学生結婚だけれども、……これからも色々あるかもしれないですけども、二人で一緒に、頑張っていきます」
 そう言って、二人が見た棄棄は。
 顔面大洪水。つまり、泣いていた。
「ぶふぉおおおおーー良かったなぁ〜良かったなぁ〜〜二人共良かったなぁ〜〜〜! 俺はもう嬉しくって嬉しくって……陰ながら見守ってたのもあるからよぉ〜〜……疑ってたとかそういうのじゃないけども、やっぱ心配してたんだよ」
 二人の肩をばすばす叩く。ありがとうございますと言えばよいのやら大丈夫ですかと言えばよいのやら、取り敢えず龍斗は棄棄の背をさすり、雪はハンカチで教師の顔を拭う。
「もう……ホント……幸せそうだからサ……なんだろうこの気持ち……多分、子供が結婚した時のお父さんの気分というか……」
 ズビ、と鼻を啜って、それから棄棄はようやっとニッと笑ってみせた。
「婚約の話、しかと聴いた。……精一杯、人生一杯、幸せになりなさい」
 はい、と新婚二人は笑顔で頷いたのであった。
「鬼の目にも涙、だな。鬼呼ばわりは少々悪いかもしれないが」
 隅の方で涙を拭っていた棄棄に、そう呼びかけたのはハンカチを渡す強羅 龍仁(ja8161)だった。
「おうたっちゃん、ハンカチありがと……たっちゃんのかほりがする」
「せ、洗濯用洗剤のにおいだと思うんだが……」
 苦笑を浮かべつ、龍仁は棄棄に言う。
「誕生日おめでとうだ。こうして祝うのも3年目か? 時が経つのは早いな……」
「ホントだわ〜光陰矢の如しだな」
「はは、だな。……そうこれ、良かったら」
 と言って龍仁が机の上に置くのはアンパンと日本酒だ。
「昼間っから酒は大丈夫か? まぁ目出度い日という事で」
「おう、飲む飲む〜 目からいっぱい水分出したしな」
「今日は無礼講か? と言ってもやる馬鹿はいないだろうがな」
「俺様は常時無礼講よーーーフハハハハ はいカンパ〜イ」
「あぁ、乾杯」
 日本酒を注いだグラスを、チンと合わせ。同時にあおる。その間にも、あちらこちらで楽しそうな声が聞こえていた。
 龍仁の手元にあるデジタルカメラは、そんな光景を写真として切り取ったものが収められている。一緒にわいわいと言うよりは、見守る保護者の眼差しで。
「来年もこうして祝う事が出来るといいな」
「そうだな。また、『月日が経つのは早いな』って乾杯しようぜ」
「ああ、勿論だとも。……なぁ。話は変わるが……聞きたい事が」
 低く小さな声音に変わった龍仁に、棄棄はグラスを置きつつ彼へと顔を向けた。沈黙で言葉を促す。
「こんな日に聞く事では無いのは分かっている……」
「いいぜ。話してみろよ」
「あの双子は……どうなった? 悪魔とハーフの」
「あぁ……。俺はそこまで管轄じゃないから詳細までは分からんが、平たく言やちゃんと社会復帰できるように更生中って奴だな。勿論母親も一緒だ。悪い待遇にはなってないから、安心してくれ」
「そうか……。祝いの日に済まなかった」
「いいのさ。気にすんな」
 無事に過ごしてくれていれば、と思っていたからこそ。安心した。そこから棄棄の過去を詮索するような事はなく、ただ龍仁はもう一度「良かった」と繰り返すともう一口、酒をあおいだ。

 そんな様子――棄棄を遠巻きからジト目で見ていたのは御門 莉音(jb3648)だった。さっきからこんな調子。なので、見かねたアルフォンゾ・リヴェルティ(jb3650)が彼の頭を平手でスパコーンと張り倒した。
「い゛っ……! な、なにすんのさ」
「阿呆。祝いの場でいつまでも辛気臭い顔をしてるんじゃない」
「うー……」
 別に莉音にお祝いしたい気持ちが無い訳じゃない。けれど、色々と隠し方が彼の『お師匠』ソックリで――それをアルフォンゾは聞いた事があるし、心配する気も解るけれども。状況を見ろ、と言わんばかりの眼鏡越しの眼差し。莉音はふいと視線を逸らす。
「……いつまでも睨んでてもしゃーないよねぇ」
「分かってるんならどうするんだ?」
「うん、わかった。行ってくる」
 そういう訳で、こちらの視線に気付いた棄棄に先ずは「どうも」と挨拶しつつ、その傍へ。
「せんせ、お誕生日おめでとう」
「おめでとう」
 いつも通り、いつも通りに。棄棄も変わらぬ様子で「ありがとうな!」と二人に応えた。
「せんせ。四十路も近いと足腰にくるんじゃなーい?これ、プレゼント。俺のお師匠のおスミ付きなんだから」
 と、莉音が渡したのは湿布だった。足を折った師匠が平然と歩けていた程度には鎮痛作用がある。
(わかった、と言った割には――)
 莉音の様子にアルフォンゾは思う。彼はすっかり、教師と師匠を重ね切ってしまっているのだろう。そう思いつつ、アルフォンゾは棄棄へ近所で美味いと評判のアンパンを投げ寄越した。
「祝いにしちゃつまらんもんだが、まぁ受け取ってくれよ」
「ありがとな! 美味しく頂くぜ。貰ってばっかもアレだしよ、お前らもお菓子食ってけよ」
「そうだね! さて、萌とお菓子を堪能しに行こうか、アルフ」
 笑顔の莉音は、周囲を色々見渡した。獲物を見るハンターの目だ。ただし腐ったハンターだ。脳内ではあの子が受けであの子が攻めでと野郎共がくんずほぐれつ。卓越したかけざん(意味深)マスターである。
 そんなお楽しみ中の莉音に、アルフォンゾは真顔のまま手当たり次第のお菓子をひょいひょい彼の口に放り込んでゆく。きっとこの場に貴腐人がおられたら、それはもう熱心にかけざん(意味深)なさった事であろう。ああ、そんな、あんなに黒々として立派なうまいスティック(チョコ味)を……とかなんとか。厄介なのはアルフォンゾがそれを自覚していても全く気にしていない事であった。

「せんせー!」
 シュタタタターン。元気な声で棄棄を呼び、矢の様に駆けて来たのはカーディス=キャットフィールド(ja7927)。めでたい誕生会だからおめかしモード、夏毛のネコぐるみは蝶ネクタイでオシャレして、いつもより多く回って華麗に棄棄の前に着地した。
「今年もご生誕記念日おめでとうございます! アンパン祭りではなくお菓子祭りで祝うとは、さすがすてきせんせー! わかってらっしゃるです!」
「フフフ。同じ事じゃあつまんねぇからな!」
 カーディスのサムズアップにサムズアップで返した棄棄。に、「そうそう!」とカーディスはプレゼントを差し出した。
「これつまらないものですが〜……少し不格好ですが頑張って作ってきたのです!」
 それは持てる技能をフル活用して手作りしたアンパンだった。直径30cm程、上にはパンで作った棄棄人形と黒猫忍者人形を乗せ『ご生誕記念日おめでとうございます』とチョコでデコレーションまでしてある。
「いやこれ 全然不格好じゃねぇよ! すげぇよ! すげぇじゃん! カーディスってマジ料理上手よな」
「いや〜それほどでも」
 アンパンを受け取った棄棄がカーディスの喉したをゴロゴロにゃんにゃん撫で撫でする。
 と、その時である。
「棄棄殿は誕生日おめでとうだー!」
 ぱーん、とクラッカーの音が大きく響いた。見やれば、怠惰がカラカラ笑っている。そして彼女はあんパン型安眠クッションを棄棄にプレゼントしつつ、
「ハイこれプレゼント。この日をまた共に過ごせることを嬉しく思うよ」
「おっありがとな怠惰! クリスティーナからいつもお前の話は聴いてるぜ。一緒にいて楽しいってよ」
「や〜こちらこそこちらこそ。カーティス君によろしく伝えて下さいな」
「呼びました?」
 はっと振り返るカー『デ』ィス。
「あ、ごめん、悪いけどカー『テ』ィス、クリスティーナ君の方ね……」
「おっと失礼……」
 それにしても、クリスティーナと同じ名前の人がいたり、似たような名前の人がいたり。まぁ久遠ヶ原学園はこれだけ広いのだ、それも仕方ない。うん。
 そんなこんなで。浮かれた空気を楽しみながら。怠惰は会場をぐるりと見る。天使も、悪魔も、人間も、ハーフも、分け隔てなく楽しんでいるこの空間を。
「楽しいことも苦しいことも、クレープみたいにくるくる包んでパクりできたら幸せかもね」
 今日は皆で先生を祝福する日。いっぱい楽しい時間にできたら、そう思う。
「そうだな」と、棄棄は応えた。怠惰と同じく、この楽しげな世界を見つめながら。
 と、そんな棄棄の左側からにゅっと顔を出したのは若杉 英斗(ja4230)であった。
「先生、誕生日おめでとうございますっ!!」
「おう若ちゃん! おめありなんだぜ〜」
「先日、右目を負傷したらしいですけれど、具合はどうですか?」
 その言葉、に。
 は、と顔を上げて視線を向けたのは龍磨とイリスだ。二人共、棄棄の目の具合を訊ねようと思っていた故に。
「あぁ」
 それらを気付きながら、棄棄はニッコリと微笑んだ。
「大丈夫。義眼も馴染んでるしな、傷跡とかにもならんで済んだし、痛みとかもないし。ありがとね」
 わしょわしょと棄棄は英斗の頭を撫でる。時々眼鏡を触ったりする。その最中、英斗はじーっと棄棄を見ていた。このいつも通りな笑顔の教師を。
(先日の報告書をみましたが、おかしいですよね、先生。卓越した技能を持つルインズの先生が、わざわざ生徒の応援を呼ぶなんて……先生だけで倒すなり逃げるなりできたハズじゃないんですか)
 そんな視線を投げかける。けれど彼はそれに気付いていないようで……否、気付いているのかもしれない。分からない。「はい、あーん」とされるままにスナック菓子をモグモグしつつ、
(もしかして、自分が考えている以上に身体の具合がよくないんじゃ…… チーズ味スナックうまい)
「美味しいかー? まだまだあるからなー」
 更にほっぺに詰められる。英斗はそれをモグモグする。ハムスター状態である。
(先生……身体をいたわってあまり無理はしてほしくはないな。実技指導でなくても、伝えられることはいろいろあるだろうし……と言っても実技指導をやめる人じゃないだろうしな じゃがバター味うまい)
 モグモグ英斗。若杉ハム斗。
「先生、お誕生日おめでとうございます」
 そこへ声をかけたのは美夕、そして棄棄とは初対面のギィ。
(生まれた日は祝うべき佳い日だと聞いた。美味しい菓子沢山食べれるの、ありがたい)
 なので、クッキーアイスサンドを美夕と共に差し出しながら。
「……こういう時は……ハッピーバースデー、と祝うのだったかな」
「38歳おめでとうございますー!」
 更に龍磨が加わった。これどうぞ、と差し出すのは金平糖をあしらった餡入りクレープ。
「美夕ちゃん、ギィ君、クッキーちゃん、ありがとな!」
 うめぇーうめぇーと棄棄はプレゼントを食べている。龍磨は微笑みながらそれを見守っている――努めていつも通りに、折角の日だから暗くなったりしないように。
 詫びも、懺悔も、きっと彼は望んでいないだろう。だから、笑顔で約束を。
「来年も誕生日パーティーしましょうね、先生」
「その時はまた、うまいもん作ってくれよな」


●閑話休題/桜井家のモンダイ
「こんにちは」
 宴の最中、桜井疾風(jb1213)は旅行鞄を持った出かけの姿で棄棄の前に現れた。
 オッス、と応えた後に棄棄は彼の姿を順に見やる。何処かに旅行にでも行くのかい、と問う前に、それを察した少年は苦笑を浮かべて話し始めた。
「今度進路について話し合うために一旦本土に戻ることになりました。だから最後にご挨拶に。それとお誕生日おめでとうございます。こんなものでなんですがどうぞ」
 深々と頭を下げて、差し出すのはアンパンだった。
「それから――」
 ごそごそ、更に棄棄へ差し出したのは、鞄から引っ張り出した色紙とサインペンだった。
「何か一言お願いします。帰ってくる日まで大事にしますので」
「ああ、勿論! あとアンパンありがとうとおめありな」
 快諾した棄棄は色紙にサラサラ文字を書いてゆく。深い事情は詮索せぬ。ただ、簡潔に。
『いつでも戻って来いよ! 疾風君の幸せを、久遠ヶ原で祈っています。棄棄より☆』
 それを「ホイ」と疾風に返し、教師は生徒の背中をぽんと叩いた。
「いってらっしゃい。お前さんなら大丈夫さ」
「はい! ……いってきます。どうかお元気で」
 笑みを躱し、手を振って――

 ――それからグルッと時間を進める事となる。
 すっかり宴が終わった後、屋上の棄棄を呼び止めたのは桜井明(jb5937)だった。
「――まさか年上だったとはね」
「おう。俺様ってば若々しいだろ?」
「驚いたよ。あ、これプレゼントね」
 言下に明は棄棄へと缶ビールを投げ寄越す。暗くなった空に弧を描く冷えた缶。受け取る手。その一部始終を見届けてから明は自分の分の缶ビールを開けた。ぷしっ、と開封の音が重なる。
「乾杯、桜井さん」
「ん……あぁ、乾杯。そう言えば誕生日だったんだってね」
「はいよ、ありがとね〜」
 距離が近くないから形だけは乾杯をして。一口、二口、冷えた味。喉に流れる。ふは、と息を吐いた。
「――今度、本土に戻ることになったよ」
 徐ら。柵に凭れた明が語り出す。
「あ〜、疾風君から聞いたよ。進路についてとか」
「そう。疾風の進路について本土の親戚と色々話すことになってね。これを機会にあの子には本土の高校に転校してもらう」
 棄棄は静かに聴いている。ので、明は言葉を続けた。
「――正直ね。今でも思ってるんだ。あの子に撃退士は向いてないって。だからね。きちんと選択肢を示してやりたい。普通に高校に通ってそれでも撃退士やりたいっていうならそれは尊重するよ。
 ――でも、もし日常にとどまる事を望むなら僕は全力でそれを叶える。君の希望とは違うかもしれないけどね」
「ハハ。最初に会った時、アンタ俺に敵意向けたの覚えてる? イマイチ信じて貰ってないのが悲しいけど、ま、実の親からしたら教師ってのはそんなもんなのかな」
 笑っていた。教師は空を見上げる。
「俺は疾風君の肉親でもなければ、疾風君でもない。だから俺があの子の人生にああしろこうしろ言う権利はねぇし、アンタにも何も言ったりしねぇさ、安心しな。俺が出来る事っつったら……信じてやる事ぐらいさね。あれでしっかりしてる子さ、どんな人生になろうとも、きっと幸せになれる。俺は生徒が幸せならそれでいいんだ。
 おっと、長くなったな。それじゃ、疾風君によろしく。あの子もお前も、俺にとっちゃ大事な生徒さ。いつでも帰ってきていいんだからな? ……んじゃ、達者でな」
「じゃあね。また」


●すてきたん02
 時計はぐるっと太陽の時刻に戻る。
 つまり、お菓子パーティーはまだまだ続く。
「あ、先生! お誕生日おめでとうございます! 食べてますか? 喰ってますか? 召し上がってますかー?」
 咲魔 聡一(jb9491)が笑顔で棄棄の横にやってくる。その両手にはお菓子がいっぱい抱えられていた。
「おう、食べてるし喰ってるぜ! なんせ、愛しい生徒諸君が美味しいものをいっぱいプレゼントしてくれるからな!」
「あ! それじゃあ僕も」
 渡そうと思っていたんです、と取り出して教師へ渡すのは煎茶の詰め合わせだった。
「挨拶が遅れましたが、いつもお世話になっています。アンパンがお好きだと聞いたのでアンパンを……と思ったのですが、売り切れてまして。代わりに僕の好きな煎茶の詰め合わせをご用意いたしました。多分、アンパンにも合うと思います」
「おぉ、ありがとうな! 嬉しいぜ〜」
 聡一の頭をうりうり撫でる棄棄。
 そこへ、
「ステキ先生、お誕生日おめでとうございました!」
 お菓子に溺れるその前に、とRehni Nam(ja5283)がやって来る。
「ここにきてから3回目のお誕生日ですか……こうして考えてみると、お世話になり始めてから、もう随分経つのですねぇ」
「生徒諸君と知り合って3年だな。いつもありがとうよレフニーちゃん!」
「こちらこそです! あ、そうです。これ、私からの誕生プレゼント! エクストリームあんぱんと、某コンビニの巨大あんぱん、それから個人店舗の小倉クリームあんぱんに、変り種の南瓜あんぱんとサツマイモあんぱん! どれも美味しくてお勧めなのですよ〜」
 ドッサリ並べるアンパンアンパン、棄棄が「スゲー」と目を丸くしたそこへ更に、イリスが顔を出し。
「Joyeux anniversaire……お誕生日おめでとうございます、棄棄先生」
「ようイリスちゃん、おめあり!」
「よろしければ……お茶、お淹れしましょうか」
 料理は殺人レベルらしいので(知り合い談)、と、棄棄が「それじゃお願いしようかな」と言えばヒリュウのエールを手伝いに召喚しイリスはテキパキとお茶を淹れてゆく。
「あ、よかったらあなたもどうぞ。僕の好きな煎茶なんです」
「ありがとう。それじゃ、お言葉に甘えて」
「勿論、あなたのヒリュウさんの分も」
 聡一の言葉にエールがきゅーっと鳴いて喜んだ。そんな相棒をもふもふしつつ、イリスは今一度聡一へ「ありがとう」と。
 さて煎茶がはいれば、パラソルの影の椅子に座り。
「いい香り……アンパンにも合うと思います。――エール、なにかお菓子持っておいで。お前も食べていいから」
 きゅうーと返事をしたエールが黒い翼をパタパタさせて飛んでいった。戻ってきたのはほどなく、甘いお菓子と香り高い煎茶でひと時を。
「美味しいですね〜!」
 レフニーはニコニコしながらお菓子とお茶を楽しんでいる。ですね、と応えた聡一は棄棄へも目を向け、
「先生、この世界は美味しいものがいっぱいですね! 会う人もとても優しいし、冥界では考えられないことです」
「フハハ、そうだろう良い所だろう。イリスちゃんは甘いもの好きかい?」
「はい、甘いものは好きです。特にチョコレートが。……あんまり食べ過ぎると太ってしまいそうですが」
 明日からのジョギングを頑張りましょう。いつもより若干真顔気味に、自分に言い聞かせる様に。そして話題逸らし(または一種の現実逃避)も兼ねて本題だ、イリスは棄棄にメッセージカードとミニブーケをプレゼントする。
『お誕生日おめでとうございます。貴方の幸せを願って』
 そう綴ったメッセージ。喜んでくれると嬉しいのだけれど……と棄棄の顔を窺い見れば、彼は満面笑顔で彼女の頭をわしわし撫でた。「ありがとうな」という言葉と共に。
 その様子を微笑ましげに見守りつつ、聡一は徐に語り始める。
「僕、元々戦うのって、嫌いだったんです。けど棄棄先生や、他の実技の先生に学んで、少し楽しさが分かるようになりました」
 教えられる事、学ぶ事。レフニーも湯呑を置き、水面を見つめ上がらぽつりと言葉を放つ。
「……私は、私達は、いつも先生にお世話になりっぱなしで……少しはその恩を返せているのでしょうか……?」
 顔を上げる。先生、と何だかこみ上げる感情に目が潤みそうになりながら、手の震えを必死に抑えながら、レフニーは言葉を続けた。
「先生は死なないですよね。いろいろ、教わりたい事がまだまだ、たくさんあるんです。だから……元気に、長生きして下さいね」
「死んだら嫌ですよ? 早死にしたりしたら、先生の恥ずかしい秘密、捏造してでも語り継いであげますからね」
「あったりまえよォ。俺は天下の棄棄先生だぜ? 死んだりしねぇよ、大丈夫だ」
 生徒達をぎゅっと抱き締める。まだ残された時間はたくさんある。たくさんある筈だ。大丈夫、と棄棄はもう一度、優しく言った。


「え? 私にも……?」
 一方、ギィから無言で差し出されたクッキーアイスサンドを、美夕は交互に見比べていた。ギィ曰く、「手伝ってくれたから」。
 外はサクサク、中はひんやりクリーミィ。甘い、冷たい、頬張った美夕は思わず小さく笑みを零す。感情表現が得意でない彼女が、友達の前では見せれる自然で素直な面。
「……やっぱり美味しいね、ありがとう」
 それから――そうだ、と美夕はギィへ。
「私は苺大福を持ってきました。お気に入りなんです。ギィさんもどうぞ……?」
「苺大福……?」
 人の世界の飲食物に興味津々なギィは、美夕から手渡されたお菓子をまじまじと見つめふんふんとにおいを嗅いだ。いいにおい、と呟いてから、一口。
「中に果物入ってる餅……甘酸っぱい、美味しい」
「そうそう。中は餡子で、苺が丸ごと入ってるの」
 説明しながら、美夕は周りを見渡した。駄菓子は小さいけれど、たくさんの種類を食べられるから良いものだ。
「ギィさんはどんなお菓子が好きですか? これとか楽しいです。どうですか……?」
 そう言って差し出したのは、綿菓子の中にパチパチするものが入っている駄菓子だ。それを躊躇なくギィは口に含み――パチパチする感触に興味深そうに頷いた。
「こっちの菓子は、口の中でぱちぱちする……どうやって作ってるんだ……?」
 まじまじと袋の裏、原材料名欄を見つめながら。
「大福も、駄菓子も気に入った。美夕は物知り、すごいな」
 彼のその言葉に。良かった、と美夕は微笑みを浮かべる。お誘いして良かった。
(ギィさんは大切な友達。喜んで貰えたなら、嬉しいな……)


「先生」
 四人の声が、重なった
「先生、誕生日おめでとうございます」
「おめでとうございます〜」
「先生、誕生日おめでとう」
「先生! お誕生日おめでとうございます!」
 星杜 藤花(ja0292)、星杜 焔(ja5378)、 直哉、凪。
「今日はわたし達が先生にプレゼントです。普段は先生からアガペーをいただいていますから」
「この日の為に材料の配合や調理方法をいっぱい研究したんですよ〜」
 自宅で作ってきました、と星杜夫妻が机上に置いたのは、手作りの超特大あんぱんけーきだった。上には落雁で作った板にピンクの食紅で『お誕生日おめでとうございます』と柔らかく美しい文字が書かれており、更に直哉と凪が作った棄棄のマジパン人形が乗せられている。
「私達手作り、と言っても私はこの落雁と文字を担当しただけで、調理したのはほとんど焔さんですが……」
 と藤花が焔へ目をやれば彼はニコニコ笑顔で、
「中の餡子は小豆の粒餡漉し餡鶯餡白餡黄身餡梅餡と部分毎に違う味を楽しめるようにしてみましたよ更に上に落雁や桐生さん達の人形等がデコれるように成形してゴマ散りばめ艶出しもしてみました」
 この間およそ3秒。ふんす……と何処か誇らしげな焔。
「今年はマジパンで先生の人形を作ってみたよ」
 笑顔の直哉も、ふんす……とドヤ顔をしている大型わんこの様だ。
 棄棄はと言えば、感無量の様で。照れながらも嬉しそうで。
「ありがとうなぁーーー!」
 むぎゅーーっと、皆に抱きついてもっふるもっふる。
「蝋燭持ってきましたよ〜お願い事しながら一回で火を吹き消せると叶うって聞きましたよ〜」
 大きな蝋燭3本に、小さな蝋燭8本。
 38歳のその記念に。灯した火。手拍子で歌う祝い歌。
(今日、依頼やいろいろでここに来られなかった、先生をお祝いしたい人たちの分まで……たくさん、たくさんお祝いしたいと思います!)
 皆の分まで思いを込めて、凪は歌う。
 吹き消される蝋燭。教師は一体、何を願ったのだろう?拍手と喝采、切り分けられるケーキの甘い香り。
 美味しい、と直哉と棄棄の声が重なった。笑顔の彼らにニッコリ微笑み、藤花は棄棄の隣にやって来る。
「先生、良かったらこれ……不格好かもですけど」
 そう言って差し出したのはお守りだった。「お守りと言っても自作のレジンストラップですが」と彼女は苦笑する。
 その中には小さな四葉のクローバー。喜んでもらえれば、と棄棄を見れば、彼は嬉しそうに「ありがとう」と微笑んだ。それから彼女に抱かれた幼子へと視線を移す。
「こないだも言った気がするけどよ……望ちゃん、大きくなったな」
「小さな子の成長は本当に早いですね。……この子に出会えたのも先生のおかげのようなもの。本当に……ありがとうございます」
「いやいや、礼を言いたいのはこっちさ。幸せそうだ。諸君の幸せが、俺は一番幸せなのさ」
 これ、大事にするよと棄棄が四つ葉のお守りを懐に仕舞う。それから藤花が抱く子を優しく撫でた。
(最近棄棄先生身体がきつそうに見えるよ)
 その様子を藤花の隣で見守る焔は、ふと思う。
(……思えばあの先生もあの先生も身体を悪くして……棄棄先生程の方がここにいるって事は、やっぱり……なのかな……)
 奇しくもそれは、凪も同じ気持ちで。
(なんだか先生、最近ちょっぴりぴりっとしてるというか……うまく言えないのですが、ちょっと気になるかもです)
 なんと言えば良いものだろうか、と銘々が思ったその時。
 ふわり、と紅茶の芳しい香りが周囲に広がった。
「えへへ」
 その香りの中心には、ティーポットを持ったエプロン姿の胡桃が居た。
「お誕生日おめでとう御座います、ですよ、棄棄先生!」
 ほんとは、もちょっと立派なもの、って考えてたけど――お菓子を棄棄の前に並べつつ、彼女は教師に微笑みかけた。
「おう胡桃ちゃん、ありがとよ! この紅茶は胡桃ちゃんが淹れたのかい?」
「ですです! 先生は紅茶、飲めるです?苦手じゃなかったら、どですか? 料理はまだまだだけど、飲み物は得意なんです!」
「そりゃ〜勿論!」
「よーし、モモが美味しいの淹れますからねっ」
 世話になっている教師の為だ。いつもより張り切って淹れて、とっておき。折角だから皆にも振舞うけれど、ゴールデンドロップは今日の主役に。
 美味しい。紅茶を飲んだ誰もがそう口にする。
 ホッコリ、一息ついた所で。藤花と焔は棄棄へ言葉をかける。
「次の誕生日も、その次も、ぜひお祝いさせて下さいね。――そう、何時までも先生でいて下さい……」
「また来年もお祝いしましょう〜。先生と出会うまで、俺は本当にぼっちだったから……縁を繋いでくれた先生に、ありがとうを何回でも伝えたいんだよ」
 その言葉に続いて、凪と直哉も大きく頷いた。
「また皆でアンパンケーキ食べましょう、先生!」
「俺も、また皆でわいわいお菓子食べれたら嬉しいです」
「おうよ」と棄棄は応えた。満面の笑顔で、幸せいっぱいにそう応えた。
「当たり前だろ? 俺はこれからも久遠ヶ原にいるからさ」
 笑う。笑っている。いつものように、力いっぱいガハハと口を大きく開けて。
 それに、シュルヴィア・エルヴァスティ(jb1002)はヤレヤレと息を漏らした。暑い所為もある。パラソルの影の下、椅子に座って紅茶を少しずつ飲みながら。
「落ち着きのない38歳も居たものね。ま、おめでとう先生」
「ようシュルヴィア、こっち来いよ」
「……この暑さがマシならそうしたのだけれどもね」
 基本的に夏バテ中。座ってジッとしていたい。真横に引き寄せた扇風機の風を浴びながら、近くにあったクッキーを一枚手に取った。
「ほんと、ハロウィンパーティーのようなお菓子の量ね……ま、好きだからいいけど」
「しばらく3時のおやつに困らなくっていいわ〜。お前はもっと食べんさい」
 シュルヴィアの隣に来がてら棄棄がアンパンやらクレープやらクッキーアイスサンドやらを持ってくる。シュルヴィアは「こんなに持ってこられてもわたくしの口は一つで胃袋も大きくないわよ」と肩をすくめつつも、受け取ったアンパンをチビチビ噛じりだす。
 棄棄もアンパンを食べている。僅かな沈黙。尤も、周囲は賑やかなのだけれど。
「先生?」
 沈黙を破ったのはシュルヴィアだった。
「その……右目、というか……いえ、なんでもないわ。ほら、誕生日プレゼント」
 彼の事だ、どうせ「大丈夫」だと微笑むのだろう。そんな気持ちを脳の裏で思いつつ、シュルヴィアは棄棄へ押し花にした四つ葉のクローバーを差し出した。
「この前クリスと四葉のクローバーを探してね。一つだけ見つけたのよ。幸運のお裾分けね」
「……あ〜! そういやこないだなんかアイツ言ってたな、俺が右目の治療で小忙しい時にガサゴソと。なるほどなぁ〜」
 太陽に透かす様にクローバーを見る。幸運の象徴。
「いいわよ」
 『幸運』を見ている彼に、彼女は徐に言った。
「あなたが、先生でいるうちは、ちゃんと生徒しててあげる。ま、わたくしはどっちにしたって今は学生なんだけどね」
「あいよ。これからもよろしく頼む、生徒シュルヴィア」
「こちらこそ、先生」
 と、棄棄が生徒達に呼ばれた。「今行くよー」と立ち上がる棄棄。
 その、背中に。
「そうね……今夜はきっと、月が綺麗よ。よく見ておくといいわ」
 微笑みかけた。振り返る顔。それもまた微笑んでいて。
「いつも見てるさ」

「――先生、お誕生日の記念撮影しましょう、です!」
 カメラを手に、胡桃が棄棄へ手を振っていた。
「おう撮ろう撮ろう。たしかたっちゃんもカメラ持ってたよな? 皆で撮ろうぜ。ハイ集合〜!」
 棄棄の一声で生徒達が集まってくる。その最中、胡桃は棄棄を見遣った。
「先生が、どんな過去抱えてても。自分より生徒の幸せ願ってても。一人くらいは、先生の幸せ願う子がいても、いいでしょう? だから先生。先生のこれからに、たくさんの幸せが降り積もりますように!」

 はい、ちーず。

 ぱしゃり。

 ――さて、そろそろ夕方、日も暮れる。
 楽しい宴もお開きが近い。
 満腹になったチヒロははっふぅーーーと大きな息を吐くと、両手を合わせてお菓子とそれを提供してくれた物に対して、この言葉で礼を述べるのであった。とびっきりの、大きな声で。
「ごちそうさまでしたーーーっっ!!!」



『了』


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:12人

思い繋ぎし紫光の藤姫・
星杜 藤花(ja0292)

卒業 女 アストラルヴァンガード
歴戦勇士・
龍崎海(ja0565)

大学部9年1組 男 アストラルヴァンガード
ヴェズルフェルニルの姫君・
矢野 胡桃(ja2617)

卒業 女 ダアト
未来へ願う・
桐生 直哉(ja3043)

卒業 男 阿修羅
君のために・
桐生 凪(ja3398)

卒業 女 インフィルトレイター
ブレイブハート・
若杉 英斗(ja4230)

大学部4年4組 男 ディバインナイト
前を向いて、未来へ・
Rehni Nam(ja5283)

卒業 女 アストラルヴァンガード
思い繋ぎし翠光の焔・
星杜 焔(ja5378)

卒業 男 ディバインナイト
心の盾は砕けない・
翡翠 雪(ja6883)

卒業 女 アストラルヴァンガード
盾と歩む修羅・
翡翠 龍斗(ja7594)

卒業 男 阿修羅
二月といえば海・
カーディス=キャットフィールド(ja7927)

卒業 男 鬼道忍軍
撃退士・
強羅 龍仁(ja8161)

大学部7年141組 男 アストラルヴァンガード
さよなら、またいつか・
シュルヴィア・エルヴァスティ(jb1002)

卒業 女 ナイトウォーカー
オペ子FC名誉会員・
桜井疾風(jb1213)

大学部3年5組 男 鬼道忍軍
撃退士・
紅 美夕(jb2260)

高等部3年4組 女 バハムートテイマー
撃退士・
不破 怠惰(jb2507)

大学部3年2組 女 鬼道忍軍
precious memory・
ギィ・ダインスレイフ(jb2636)

大学部5年1組 男 阿修羅
撃退士・
御門 莉音(jb3648)

大学部4年317組 男 インフィルトレイター
撃退士・
アルフォンゾ・リヴェルティ(jb3650)

大学部7年207組 男 ルインズブレイド
地上に降りた星・
桜井明(jb5937)

大学部6年167組 男 アストラルヴァンガード
圧し折れぬ者・
九鬼 龍磨(jb8028)

卒業 男 ディバインナイト
目指せ二月海百周年・
イリス・リヴィエール(jb8857)

大学部3年1組 女 バハムートテイマー
ローカルヒーローを継ぐ者・
死屍類チヒロ(jb9462)

大学部6年264組 男 鬼道忍軍
そして時は動き出す・
咲魔 聡一(jb9491)

大学部2年4組 男 アカシックレコーダー:タイプB
『満腹戦争』参加撃退士・
四月一日蓮(jb9555)

大学部2年3組 男 インフィルトレイター