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あなたの小説をピックアップ!


スタッフが毎週なろうコン応募作品から気になる作品をピックアップいたします。
原則選考とは無関係ですが、より多くの優れた作品を多くの方の目に触れていただくことは、ポイントに関係なく参加できる当コンテストの目的のひとつでもあります。
週1〜2回程度の更新をおこなってまいりますので、ぜひご覧ください。

タイトル
あえて寝る! 〜睡眠世界のダークロード〜
作者
櫻乃つるぎ
あらすじ
眠っている間だけできる大人気ゲーム《勇魔戦記ヴァモス》は、人間軍と魔族軍に分かれて戦うVRMMO。 プレイヤーの中から極微少の確率で選ばれる魔族軍の頂点――魔王は、他を圧倒する無双の力と、魔族を統率する権限を与えられ、倒されるまでの間それを行使する事ができる。 諫早冬人は現実世界では冴えない高校生だが、このゲームでは知らない者はいない伝説の魔王だった。
スタッフコメント

主人公の諫早冬人は普段は冴えない高校生ですが、眠っている間だけプレイできるゲームの中で、特殊な能力を与えられた魔王として君臨します。
魔王を倒した際には、その魔王の在任期間に応じて報酬が手に入ります。しかもこのゲーム、ゲーム内の通貨であるマグナは現実世界の現金に換金することができます。
魔王在任期間90日である諫早冬人には1800万ラグナ=1800万円の賞金がかかっています。

従って冬人はゲーム内で勇者達に狙われることになるのですが、魔王側も勇者を倒すことによってマグナを獲得することができます。
現実世界での冴えない生活と、ゲーム世界で多額の賞金を背負って魔王として君臨する生活。そんな冬人の2つの生活が丁寧に描かれているのが、この作品の魅力の1つです。

また、少々ご都合主義な感はありますが冬人のクラスメイトにはゲーム内の上位プレイヤーたちが集まっており、そう言った部分でも現実世界とゲーム世界双方のリンクを楽しむことができます。

現金に換金できるゲーム内マネー。それを守るためにどう戦うのか。あるいは“それを使って”どう立ち回るのか。
なろうでは主流の1つとなっているゲーム内世界ものに、「そこで稼いだゲーム内マネーを現金に換金できる」という要素を加えることで、他の作品とは違ったドラマを生み出すことに成功しています。
短い作品ではありますが、その設定を活かしたラストの演出は、とても熱く、格好良いので、是非ご一読ください。

タイトル
人間観察家《アプリーシエーター》
作者
中條利昭
あらすじ
親孝行のために仕事に精を入れる元不良の三十五歳の男、気の弱さと自らの過去に悩むサラリーマン、冷酷な心を持つ学生。
互いを知らない三人は半面の仮面を被る男によって謎の「空想世界」に集められ、「試練」を受けさせられる。
試練のルールは「洞窟に入る。そこから脱出する。そして元の世界に戻る。以上」。
更に仮面の男は「誰かひとりを試すためにこんなことをしていて、残り二人はただの巻き添えだ」と告げ、
彼らを洞窟の中に送り込むが、そこは不可解な無限階段の洞窟だった。三人の男は互いにぶつかり合いながら洞窟の脱出に挑む。

脱出の鍵は「勇気と力」、M.C.エッシャーの騙し絵、とある童話。

彼らはどうして集められたのか。半面の仮面の男の正体とは。
そしてバラバラの人生を歩んできた彼らの唯一の共通点とは。
新感覚の脱出ミステリーが幕を開ける。

『人間観察家』シリーズ第一作。
スタッフコメント

不良を卒業し、親孝行に励む巻貝飛雲。気弱なサラリーマンの北山寺脩。冷静な学生の蜩秋刀斗。
性格も立場もまったく異なる3人の主人公の視点が相互に補完しながら物語が進行していくのがこの作品の魅力です。
半面の仮面を被る男から突然与えられた試練を、3人の男たちが時に衝突しながら乗り越えていきます。
複数の視点で描写される脱出ミステリーということで、一見複雑そうに見えるかもしれませんが、
3人のキャラクターがはっきりしており、視点変更もスムーズなので混乱することなく読み進めることができます。
キーワードとしてあらすじでも紹介されている「エッシャーの騙し絵」も、しっかりと物語の真相に組み込まれており、
「タイトル」「キャラクター」「それぞれの過去」など、様々の要素がパズルのように組み合っていく展開はとても魅力的です。
脱出ミステリというジャンルや、騙し絵というテーマなどの表現の難しい題材ですが、3人の視点をバランスよく切り替えて描写していくことで、見事に描ききっています。
結末の読後感も良く、試練に挑む人達の苦難と成長を感じることのできる、おすすめの作品です。

タイトル
最速の女神たち
作者
YASSI
あらすじ
 二輪ロードレースの頂点WGP。
 その中でも最も排気量の小さなバイクで争われるMOTOminimo《モトミニモ》は、他のクラスとは違った進化を遂げ、独自の人気を確立していた。
 軽量で非力なマシンを駆るライダーたちは、自転車レースのようにチームを主体として、集団で風を避け合い、エースライダーを中心に他のライダーがアシストとして走るという独特のチーム戦術が発達してきた。そしてもう一つの特徴は、主役のライダーの多くが体重の軽い女性であった。
 このモトミニモに、女王として君臨するエレーナと、彼女の率いるレーシングチーム、通称『ストロベリーナイツ』。
 そのチームのライダーの一人が怪我で出場出来なくなったために、急遽GPアカデミー練習生であった愛華が代役に抜擢された。
 憧れのエレーナのチームに加われることに緊張と不安を抱きながらも、なんとかチームに役立ち、認められようと懸命に愛華は走る。
スタッフコメント

「レースもの」「百合要素あり」という小説家になろうでは決して主流とはいえないジャンルではありますが、
 「練習生がトラブルによって正メンバーに抜擢」
 「戦略を立てて勝利を目指す」
 「仲間との友情や信頼関係をはぐくみ、レース中で爆発させる」
 「強力なライバルの存在と、レース勝敗・挑み方を巡っての感情のせめぎあい」
 など、スポーツジャンル小説のみならず漫画・アニメにおける王道をついております。

 バイク性能への考察もあり、バイク好きにもお勧めな小説ですが、
 基本的にはスポ根の王道をついており、文章力のなせる業かテンポよく進みますのでストレスなく閲覧することができます。

 舞台イメージがロシアであり「Да! 」がうまく主人公とマッチして魅力を引き出している点にも注目です!

タイトル
塔の管理をしてみよう
作者
早秋
あらすじ
考助は、仕事帰りに車に轢かれてしまう。その際に魂が弾き飛ばされて、別世界へと行ってしまう。
別世界で出会った女神さまに見送られて女神さまの管理する世界へと転移するが、その世界にある塔を攻略して管理することになる。
塔に様々な種族の亜人たち(人間含む)を受けいれて、塔を発展させていきます。
主人公自身は、直接的な戦闘能力は高くありませんが、傍にいる二人がチートです。
スタッフコメント

異世界に転生した主人公の考助が、塔の管理をしていきます。
主に管理層に引きこもって神具の開発をしている考助の戦闘能力は、
敵からただひたすら逃げ回るくらいでしかありません。
しかし、コウヒとミツキという、まさにチートな力をもった存在をそばに置いているため、
戦闘能力に困ることはありません。
しかも考助が開発する神具もチート性能です。

そんなチート軍団を従えて(しかもコウヒとミツキは美少女です!)
考助は塔を発展させていきます。
塔には様々な種族があつまってきて、作品全体の雰囲気をとても賑やかにしています。
作品が展開していくなかで、様々な種族が集まり、チート生物に成長していく様が面白く、ついつい見守りたくなってしまいます。
次はどんな種族が登場するのか、そしてどのように成長していくのか、そしてそして塔はどのように発展していくのか。
「塔の管理」というテーマからは一見地味な印象を受けますが
まるでゲームの育成RPGのような「収集」と「育成」の楽しさを味わえる、とても魅力的な作品です。

タイトル
おひとりさまでした。 〜アラサー男は、悪魔娘と飯を食う〜
作者
天那 光汰 (=ΦωΦ= )
あらすじ
速見誠一郎29歳、独身。恋人なし。食べ歩きと、一日一冊の読書。一人の時間をこよなく愛する誠一郎は、一人きりの食卓に並ぶ料理を日々笑顔で見つめていた。
そんな誠一郎はある日突然、偶然にも魔界の悪魔を召喚してしまう。リリスと名乗る悪魔娘に、願いを一つ叶えてやると言われた誠一郎。……後になって振り返る。自分は何故、あんな願いを言ったのだろうと。
この話は、アラサー男が悪魔娘と飯を食う。たったそれだけのお話です。
スタッフコメント

アラサー男が悪魔娘と一緒においしいものを食べる。
基本は1話1食というシンプルな展開ながら、人間に擬態して登場する悪魔娘リリス(美少女)の服装や、誰もが一度は食べたことがあるだろう身近な料理など、次は何が出てくるんだろうと気になる要素がしっかりと用意されており、どんどん読み進めてしまいます。

とても美味しそうな(そして読んでいてお腹の空いてしまう)料理描写もさることながら、誰かと一緒に食べる食事の楽しさや幸せを感じさせる描写がとても上手く描かれています。
高威力な飯テロであるとともに、読んだあとに「誰かと一緒にご飯を食べたくなる」そんな作品です。

アラサー男 誠一郎の食事の相方であるリリスは悪魔なので、今まで食べてきたものは供物として捧げられた生肉などです。
調理の施されたものを食べた事が無いので、人間界の美味しい料理を食べる度に、感動の表情を浮かべます。
しかも美少女。そんな彼女と一緒に食べる食事が楽しくないはずがありません。

次はどんな料理が登場するのか。
リリスと誠一郎の関係性はどのように変化していくのか。
今後の展開に期待です。

タイトル
迷宮レストラン
作者
悠戯
あらすじ
迷宮(ダンジョン)。
その中には多くの宝と魔物が存在し、命知らずの冒険者たちは一攫千金を目指して迷宮へと挑む。
これは、とある迷宮の奥になぜか存在する奇妙なレストランのお話です。
スタッフコメント

多くの罠やモンスターの待ち構える迷宮(ダンジョン)。
何故かその奥深くに存在し、不思議な料理をふるまうレストランとそこを訪れる冒険者たちの物語です。

驚くべきことにこのレストランの経営者は、圧倒的な力を持つ魔王なのですが、彼はもの凄い天然で常識とは異なる感性で行動します。
レストランが迷宮の奥深くという異常な立地に店を構えているのも、彼が特に問題のある立地だとは思わなかったためなのです。
むしろ楽しいアトラクション(罠)や、可愛い動物(モンスターや猛獣)とのふれあいも楽しめる好立地だと思っていたからなのです。

そんな魔王様をはじめとする登場人物達がとても個性的でイキイキと描かれているのがこの作品の魅力です。
とくに上層部を含めた魔族達が全体的に天然で、細かい事を気にしないタイプのキャラクターとして描かれているため、物語全体がほのぼのとした独特のゆるさを醸し出しています。
勇者編で登場する、異世界から召喚された勇者ちゃんもとてもかわいらしいです。

勇者や魔王にまつわるエピソードの中で時折見えるシリアスもありつつ
基本的にはほわほわした雰囲気で進むので、明るく愉快な気持ちで読み進めることができます。
どんどん一般的な迷宮(ダンジョン)とはかけ離れた姿に改装されて行く迷宮の今後にも注目です。

タイトル
異世界ダンジョンでRTA
作者
ユウリ
あらすじ
RTAとはリアルタイムアタック(Real Time Attack)の略で、
ゲームのプレイスタイルの一種である。

たとえば、あなたがRPGで50Gと安物の剣と鎧を王様から託されたとしよう。
おそらくあなたは、王様のくせにしけてんなーと言いつつもその剣と鎧を装備して冒険に出かけるだろう。

これはそんな当たり前の事をしないRTA世界記録を持つ男一条海斗の物語である。
スタッフコメント

リアルタイムアタック(Real Time Attack)略してRTAという言葉をご存知でしょうか。
ゲームのプレイスタイルを表す用語で、ありとあらゆる手段でゲームスタートからクリアまでの実時間(時計で計測した現実の所要時間)を短くするプレイスタイルを指します。
この作品は、そんなRTAを趣味とする一条海斗が、ロールプレイングゲームのようにステータスやスキルの存在する異世界に転移し、趣味を活かしてダンジョンを最速で攻略していく物語です。

異世界の常識では考えられない速度でダンジョンを攻略する海斗は、「ダンジョン最速記録保持者」の称号と勘違いを利用して、周囲を振り回していきます。
海斗の適当な発言が良い方向の勘違いを生んでいく展開は、ともすればご都合主義にも見えますが、RTAという題材との相互効果により独特のスピード感を感じさせます。

他にも、ヒロインが落ちるのがやたらと早かったり、描写に無駄がなくさくさくと読み進められたりと、スピード感を感じさせることを意識して工夫されているように感じます。
読後感は爽快で、本格ファンタジーというよりはRTAというメタ視点を取り入れたコメディよりのファンタジーといった印象です。

ダンジョンに対して普通とは違う攻略法を示してくれるRTAの魅力が、異世界ファンタジーという人気ジャンルに見事にマッチしており、
海斗の法螺吹き&周囲の勘違い展開と併せて、先の展開が気になるとても魅力的な作品です。

タイトル
異聞・妖刀百物語 - 月に叢雲花に蟲 -
作者
痴れ者ラボ
あらすじ
高校生になる臼木陣太郎には才色兼備の幼馴染みがいた。
神社の一人娘で巫女でもある彼女とは、随分前から疎遠になりこれからもそうである筈だった。
しかしある日、自宅に尋ねて来た高嶺の花であるはずの幼馴染みを助けた事から、陣太郎は古より続く刀鬼の祟りと神威に対峙する事になってしまう。
スタッフコメント

蛇女に襲われた幼馴染の甘菜を助けるために、祟りの宿る妖刀を抜いてしまった甚太郎。
才色兼備で周囲から「高嶺の花」として認識されている甘菜と、「頭の悪いチビ」程度にしか認識されていない甚太郎は、しばらく疎遠になっていたが、妖刀の祟りは甘菜と甚太郎のそれぞれの家にまつわるものであり、2人は助けあいながら祟りと神威に対峙する事になる。

普段は頼りなく、頭の悪い言動が目立つが、いざという時には根性を見せる甚太郎。
そんな甚太郎を馬鹿にしたり、からかったりしながらも、心の中では信頼や感謝の気持ちを向ける甘菜。
お互いにお互いのことを意識しながらも、素直になれない絶妙な距離感がとても魅力的に描かれている作品です。

和風伝奇ものとしてもしっかり作り込まれており、オムニバス形式で描かれる神威(一般的にイメージする妖怪のような存在)のエピソードは、深い薀蓄を感じさせ、物語の基盤を支えています。神威や祟りにまつわる深く重厚な設定と、甘菜と陣太郎のラブコメ的な関係性のコントラストがとても面白いです。

タイトルや和風伝奇というジャンルから敷居の高さを感じてしまうかもしれませんが短編オムニバス形式なので、1話1話、気軽に読み進めることができます。
キャラクターも魅力的で、特にヒロインの甘菜がとても可愛いので、読みはじめれば敷居の高さを感じるはほとんどないと思います。
硬派な和風伝奇好きな方にも、ラブコメ的なキャラクターのかけあいが好きな方にも、お勧めの作品です。

タイトル
異世界落語
作者
朱雀伸吾
あらすじ
世界を救う為、救世主を召喚せよとの命を受けたサイトピア国宮廷付きのダマヤ。
だが、ダマヤが手違いで召喚したのは「ハナシカ」だった。
これは、一人の噺家が落語で世界を救う物語である。
スタッフコメント

異世界に召喚されたハナシカ(噺家:落語をする人)の一福がハナシ(落語)を駆使して様々な事件を解決していく物語。
落語と異世界召喚という組み合わせによって生まれる化学反応がとても魅力的です。
一福が異世界特有の文化や言葉回しを学びながら、それに併せて落語をアレンジしていくのですが、
生み出される異世界落語がとても秀逸で、次はどんなハナシが聞けるのかと登場人物たちと同じ気持ちになって読み進めてしまいます。

一福はハナシの力によって、異種族間のケンカを収めたり、誰かのちょっとした悩みを解決したり、間接的に異世界を救っていきます。
落語というアクの強い切り口であり、ワンパターンな展開になりがちなところを、毎回違った展開になるよう工夫をこらしているところに好感がもてます。

物語がすすんでいくなかで、ハナシによって魔法や武力が生み出され、落語の武力利用という新たな展開が提示されます。
そのなかでも、ハナシカとして、「笑い」のために落語に向き合う一福の姿はとても魅力的で、それが発揮されるシーンは思わず鳥肌たってしまうほどです。

派手な戦闘シーン等はほとんどありませんが、ハナシの面白さにぐいぐい引き込まれていく魅力のある作品です。
落語を知っている人でも知らない人でも楽しめますので、是非ご一読くださいませ。

タイトル
夜伽の国の月光姫
作者
青野海鳥
あらすじ
とある小国にアルエという美しい王女がいました。
けれど、この国には隠されたもう一人の美姫、第二王女のセレネという少女も居たのです。
セレネは、その異質さにより忌み子として扱われ、国ぐるみで秘匿され、暗い部屋でひっそりと命を繋いでいました。
でも、セレネには誰も知らないもっと大きな秘密がありました。
セレネの中身は、おっさんだったのです……
スタッフコメント

平凡な日本人男性(おっさん)としての前世の記憶持つ幼い王女セレネ。
中身(おっさん)と外見(幼女)のギャップが、この作品のキーです。
とある小国の第二王女に転生したおっさんは塔に監禁されつつも、悠々自適なニート生活(しかも可愛い姉が時折気遣って)をそれなりに楽しみます。
むしろセレネの監禁されている塔は、転生前のおっさんが住んでいた集合住宅のゴミだらけの一室よりも広くて清潔で、監禁されているので働く必要もないという至れりつくせりな状態でした。

しかし、そこに一人の皇子が登場し、物語は進展していきます。 リア充な皇子の事を内心で馬鹿にしつつ、ニート生活と姉へのちょっとしたセクハラのある生活を維持したいセレネ(おっさん)。
しかし皇子はセレネの中身がそんなおっさんであることは知りもせず、かわいそうなセレネを助けようと奔走し、様々な勘違いを生みつつ、引き籠っていたセレネは表舞台に引っ張り出されていきます。

TS(性転換)勘違いものということで、勘違いが勘違いを生むドタバタ展開が本作の魅力となっています。
TS(性転換)ものは数あれど、他に類をみない変態性とダメっぷりを見せるセレネ(おっさん)。
最初はセレネの中身のおっさんの残念っぷりに驚愕しますが、読み進めるうちに、中身を含めてセレネのことがかわいいと思えてくる不思議な魅力があります。

ジャンルとしてはTS(性転換)ものに分類されるかもしれませんが、中身おっさんな幼女が生む勘違いのドタバタを楽しむ作品なので、敬遠せずに気軽に挑戦してみてはいかがでしょう。

タイトル
騎士団付属のカフェテリアは、夜間営業をしておりません。
作者
あらすじ
騎士団付属のカフェテリアでくいっぱぐれた騎士団長と、彼女を迎える料理長の物語。
スタッフコメント

騎士団所属のカフェテリアの料理長ロビンと、騎士団団長サラが、料理を通じて心を通わせる物語です。
戦いで疲弊したサラをもてなすロビンの料理には、優しさや気遣い、ちょっとした嫉妬心や独占欲など、色々な思いが詰まっています。
物語の小道具として登場する「りんご」を使ったやりとりも、2人の関係性をとても魅力的に表現しています。
キャラクターの心情描写も丁寧で、料理を通じて垣間見えるサラとロビンの人間味あふれる感情に、とても暖かに気持ちになります。
物語全体としても童話のようなほのぼのとした優しい雰囲気をもっており、疲れた心を癒してくれるような不思議な魅力を感じます。
すでに完結している作品であり、文字数はそれほど多くはないのですが、情緒豊かな文体に、自然と行間を読む想像力が膨らみます。
そしてなにより、登場する料理がとても美味しそうに表現されていて思わずお腹がすいてしまいます。
空腹時に読まれる方は覚悟してください。

タイトル
カードゲームではよくあること
作者
9891
あらすじ
全世界で大人気のカードゲームに嵌り、有数の実力者となった天地 冠(あまち・かむろ)。
しかし、世界大会決勝を目前にしてその命は凶弾に奪われた。
ファンタジー世界へ前世の記憶を持たずに転生した彼は、極めて平凡な学生として成長し、そのまま普通の日常を続ける……はずだった。
だが、丁度15歳の誕生日に起きたある事件によって、彼の運命は大きく変わり始める。
カードから強大な召喚獣を呼び出し、剣と魔法の世界で暴れ回る新感覚ファンタジー!
スタッフコメント

全世界で大人気のカードゲームの実力者である主人公の天地 冠が、異世界の召喚士オーランド・デュランとして転生し、双方の記憶が入り混じる中で、カードから呼び出した強大な召喚獣と共に大暴れする作品です。
カードゲームという題材を扱っており、少年漫画的な熱い展開と、カードゲーム特有の勝負のかけひきが見事に表現されています。
特にカードゲーム的な特殊能力解説と、詳細な描写で表現される召喚獣たちは、読者の想像力を刺激し、次はどんな召喚獣が現れるのかととてもワクワクさせてくれます。
「殲滅の虐殺獄炎砲撃(ジェノサイドインフェルノ)」など、召喚獣の攻撃名もカードゲームらしいとても中二的なネーミングで、期待を裏切らない熱い世界観を作り上げています。
トレーディングカードゲームを遊んだことのある人ならテンションがあがること間違いなしでしょう。
国家間の勢力争いなどの異世界モノならではの情勢もきちんと描写されており、勢いだけでなく厚みのある作品となっています。
次はどんなモンスターが登場するのか、情勢はどう変化していくのか、先の展開にワクワクしながら読んでもらいたいおすすめの作品です。

タイトル
勇者様の親友様
作者
緑茶ハイ
あらすじ
異世界への行き来が可能で、勇者としての適性が健康診断ついでにお手軽に判定される現代風日本。
そこに暮らすごく平凡で健全な男子高校生瀧本優樹(たきもとゆうき)。
伝説級の勇者適性を持つことがわかった親友タクミの傍らで、一般人の限界に挑んだり物事を斜めから諭す日々。
これはあくまで脇役にスポットを当てた、勇者の隣で精一杯背伸びする一般人の物語。

本作はバトル成分ほぼ無し、語り成分やさぐれ成分を多めに含んでおります。どうか肩肘張らずごゆるりとお読み頂ければ幸いです。

スタッフコメント

「異世界転生(転移)」「チート級な勇者適正」「ハーレム展開」まさに「小説家になろう」の王道とも言えるキーワードがちりばめられた本作。
しかしこの作品は、よくある異世界転生モノの作品とは一味違います。

「異世界留学」という制度が存在し、努力すればある程度誰でも転移できるようになった世界。
伝説級の勇者適正を持つことが判明した親友と一緒に異世界に転移することになった主人公のユーキ。
しかし、ユーキは転移した先でも平凡な能力しか持っていません。
才能をいかんなく発揮し注目を集める親友のタクミの隣で、凡人なりに日々を過ごすユーキ。
この作品はあらすじにもある通り、「異世界に転生してチート能力でハーレムを築く」という王道展開の中で、その主人公の傍らに立つ一般人の物語なのです。

素直で愛嬌があり、根拠の無い自信で自分の道を突き進むタクミ。
その傍らに立つユーキは、タクミを心配し、タクミを諭し、時には努力したり、時には「自分もモテたい」と思ったり、色々な考えをめぐらせます。
異世界転生モノでよくある展開を、その傍らに立つ一般人の目線で描くことで、新たな魅力を生み出しています。
変化球好きの方はぜひ読んでみてはいかがでしょうか。

タイトル
おんらいん こみゅにけーしょん
作者
とりまる
あらすじ
不良に虐待されていた子猫を助けようとした彼は、逃げる途中で階段から突き落とされて瀕死の重傷を負ってしまう。
激痛の中、死を覚悟して意識を手放した彼が目を覚ました時、その身体は幼い女の子へと変貌していた。
自らの異変を家族や友人にひた隠しにしながら、現実で部屋から出ない言い訳を考えた彼は、
サービスが開始されたばかりという仮想現実を舞台にした完全体感型ネットゲームに逃げ道を求めた……。

これは女の子になってしまった心に傷を持つ男の子と、彼を取り巻く愉快で優しい人々の物語。

スタッフコメント

 不良から猫を助けて瀕死の重傷を負った上、幼女にTS(性転換)しちゃう主人公。ある意味、王道ですが、ここからの展開がこの作品のミソですね。
 幼女化したことを周囲に悟られないよう、必死になった結果、VRに逃げる。
 人見知りの幼女サンとして友人たちにあったり、新しい友人が出来たりと交流を広めていくのですが、友人・栄司に徐々に惹かれてしまう。


 主人公・日向はとても可愛らしいですね。精神が体に引っ張られているのか、子供らしい部分や無邪気な仕草が目立つ一方、元は男子高校生であるという矜持やしっかりとした考えの元に行動する部分もあって、そのアンバランスさがとても魅力的。
 しかも、主人公・日向が魅力的であるだけでなく、他の主要人物もそれぞれに立っていて、作品自体の雰囲気が暖かで優しいものとなっています。
 また、構成も良く、展開は王道ものに似た部分も多々ありますが、型に囚われない独自性もありつつ、安定のハッピーエンドに仕上がっています。
 語り部であり主人公である日向が良識ある大人と幼児という両面を持っているため、文面は極冷静を装いつつも自然な形で感情描写が出てきていて、一ページの文量は多めな作品なのですが、テンポ良く読みやすかったです。
 挿絵が多くて、分かりやすいのもこの作品の特徴ですね。

 TSと言うこともあり、初見では手に取りにくいという意見の方もいるでしょうが、一度挑戦してみてはいかがでしょう。

タイトル
戦国リーゼント
作者
寛喜堂秀介
あらすじ
時は戦国。
ヤツらは突然やってきた。
唸るバイクにはためく長ラン。風になびくはリーゼント。
喧嘩上等の暴走族。山田正道と舎弟100名、乱世に特攻むぜ!
「……ところで、戦国時代ってなんだァ?」
こんなやつらが乱世をナナメ上に突っ走る戦国ヤンキーコメディ! 今度は米国だ!

スタッフコメント

ヤンキーコメディと歴史小説。
まさに真逆なこの2つのジャンルを組み合わせたらどうなってしまうのか。
その答えがこの「戦国リーゼント」にあります。

県内最強の武闘派でリーゼントがトレードマークのヘッド、山田正道を中心に、 チーム一のインテリ(偏差値38)のヤスや、頼れる副ヘッドのトシ、歴史好きで、その知識を活かし密かに成り上がりを狙うシゲルなど、個性豊かな暴走族たちが戦国時代にタイムスリップしてしまいました。
そして正道が、あの「織田信長」に漢気を認められ、信長の妹を嫁にもらって兄弟になってしまうところから物語は動き出します。

現代日本でははみ出し者として扱われている暴走族達ですが、戦国の世では、鉄の馬(バイク)を駆り、一風変わった髷(リーゼント)を結って大暴れする一大勢力として名を轟かせていきます。
コメディタッチな台詞回しと歴史解説を交えた情勢描写、考えなしに行動する暴走族達とその結果が巡り巡って勢力を大きくしていく信長勢。

ヤンキーと歴史という2つの要素は意外な共通項で調和し、独特の魅力を醸し出します。
「桶狭間の戦い」に始まり「本能寺の変」へと続く信長の歴史。そこにヤンキーがいたらどのような結末を迎えるのか。是非、あなたの目でお確かめください。

タイトル
ニート探偵 地縛霊と出会う
作者
一夜ノ朋煮
あらすじ
ある晩、一人の少女の命が奪われた。
その少女の無念と後悔は地縛霊となり、とある少年に取り憑いてしまう。
自分を殺した犯人を見つけて欲しい。自分はこの地へと縛り付けられて、復讐を果たすことも出来ない。
少女の願いを果たすため、引きこもりの少年は犯人探しを始める。
ただし、自宅からは一歩も出ずに、徹底した人任せ主義を貫いて。

スタッフコメント

推理小説には安楽椅子探偵という、「部屋から出ないで推理する探偵」を指す言葉があります。
本作品の主人公である、キザでひきこもりな探偵 菱道文継もその一人と言えるでしょう。
屋敷から出ず、徹底して人任せにしながら事件を解決していく文継の姿は、ニート探偵というタイトルと相まって、この作品の個性であり魅力となっています。

そんな彼に事件を持ちこんだ依頼人であり、被害者でもある地縛霊の少女 古宮千冬も、とても魅力的なキャラクターです。
最初は幽霊らしくおどろおどろしい描写で登場しながらも、ドジな一面を見せたり、照れたり、怒ったり、笑ったり、とても人間らしく可愛らしいキャラクターとして描かれています。
(考えてみれば幽霊と言えど、もともとは人間なわけで、内面が可愛らしい少女なのは当たり前といえば当たり前ですね。)
そんな彼女と文継達のやり取りはとてもコミカルで、推理モノというジャンルの取っ付き辛いイメージを払拭してくれます。

推理小説なので事件の詳細やその顛末についてあまり紹介してしまうとネタバレになってしまいますが、 千冬の「幽霊」という特性を上手く活かした解決編の展開は、普通の推理モノとは一味違った読後感を与えてくれます。
推理小説好きな方にも、そうでない方にもおすすめの作品です。

タイトル
白銀の王子(小)と夏別荘のDIY乙女
作者
なんごくピヨーコ
あらすじ
ホームセンターでブロック500キロを買物する日曜大工(DIY)趣味のガテン系乙女と愛らしく生意気な妖精族王子(小)のお話。
カナは夏休みのあいだ大叔母さんの貸別荘管理人を頼まれたが、妖精森と呼ばれるその別荘地に現れたのは、まるでハリウッド映画子役のような男の子でした。
でも王子(小)は敵に追われていて……。別荘リフォームにツリーハウス、手作りピザ焼き石窯と美味しい料理に夏休みの思い出。そして番犬はケルベロス。
スタッフコメント

雰囲気から台詞から、始終面白い作品です。
 特に、登場人物は魅力的ですね。この作品の主要人物はDIY趣味が激しすぎる女大生カナ、妖精国からやって来た王子ルーファス一行。
 異世界交流ということで、常に翻訳機能が働いているのですが、ポンコツすぎる翻訳によってそれぞれの台詞が改変。
 常に誤訳、なのに会話が成り立っている(ように見える)。
 ここで生まれる、壮大な勘違い。

 カナに懐いたルーファス王子が「オヤカタ」と連呼しながら後を追いかける光景、また護衛たちがカナのDIYに扱き使われる光景が主体の話となっています。
 クーデターの話もシリアス少なく、ちゃちゃっと解決。
 ポンポンと会話が進む、アホで平和でどうしようもなく長閑な雰囲気が読んでいて安心感を抱けます。

 カナの台詞に対し、妖精国側が台詞を繰り返す。
 けれどポンコツ翻訳によって台詞の内容が全く異なっており、勘違いが増産されるというのが異様だけれど面白いですね。こんなに勘違い多量でよくも会話が成立するな、と逆に感心するぐらいです。
 なんごくピヨーコさん独特の作風でもある、効果音を口でいいながらの実況台詞、グルメレポーター並みの台詞を合わせた食事風景なども見どころです。

 続編、「冬薔薇塔」の方はルーファス王子が成長し、恋愛色も多めになっているのですが、やはり「夏別荘」は勘違い増量で発端としての面白さがあります。
 決して長い作品ではなく気軽に読めるので、まずは一頁読んでもらいたいですね。最初はシリアス、けれどカナとルーファス王子一行が出会ってからはギャグ一直線で笑わせてくれます。


タイトル
戦場のフロンティア 〜気がついたら銃と兵器のゲーム世界に生産職で転生してた〜
作者
主水
あらすじ
しがないおっさんサラリーマンの悠吾が、帰宅途中にふと寄ったゲームショップで発見した新作ゲーム「戦場のフロンティア」
銃と機械のガンシューティング型MMOという言葉に惹かれて購入するも、それは悪夢の始まりだった!

 ゲームをプレイしていたはずなのに、気がついた時に悠吾が立っていたのは「戦場のフロンティア」のゲームと酷似した世界。
さらに、死んでしまったらリスポーン(復活)が不可能になる最悪の特殊称号「亡国者」というとんでもないものを与えられて……

 強力なスキルも無い生産職で敵の領土のまっただ中に降り立ち、敵対国家のプレイヤー達から命を狙われてしまう最悪の状況で、悠吾は持ち前の「鈍感力」を武器にバッドエンドを避け無事に現世に戻ることができるのか!?
スタッフコメント

 危機的状況を機転で回避する主人公がカッコイイです。
 最初は情けなく平凡で地味なサラリーマンがその交渉力と頭の回転の速さで活躍するのが読んでいて気持ちがいいですね。
 主人公は生産職ながら前衛もこなせちゃう器用さやツンデレの小梅の愚痴に付き合ってあげるような優しさもあって魅力的ですし、他のキャラも微細に心情描写があり、シリアスの抜けた部分も表現されていて物語に緩急がついているのが読みやすかったです。
 主人公たち「亡国者」のみが復活できないデスゲームで、他の陣営は復活できるという、この「最悪の状況」により、常に緊迫感のある雰囲気が漂っていて、克明に描かれる戦闘描写は息を呑まされます。

 読者としては主人公が死ぬわけない、主人公だから乗り越えられる、と思うのにギリギリの状況で読んでいてドキドキはらはらさせられます。そう言う時に仲間が駆けつけてきたりして、主人公「が」強いのではない、「みんなで」強い。だからこそ、絆や信頼感を少しずつ深待っていく様子がとても伝わってきます。
 けれど、一方で裏切り者が出るなど、ゲームに似て非なるこの世界に突然放り込まれた人々の苦悩が表されているのが印象的ですね。
 復活できるできない、ここに隠されるゲームと非ゲームの不一致がこの作品のミソですね。世界観を深めると同時に、作品の核である。このアイディアは独創性に優れていると思います。

 文字数もページ数もありますが、基本的にシリアスだけれど笑いや安堵・希望の描かれる部分が間に挟まっていて、非常に展開が上手いため、読み始めたら一気に読んでしまいます。


タイトル
悪討賭博師 D&D/札束舞い降るデスゲームで生存する、たった一つの冴えたやり方
作者
白城海
あらすじ
ゲーム中で得たカネが、そのまま現実世界の札束となって降ってくるゲーム 《ダイモンズ・フロンティア》。  代償は一つ。『ゲーム内のキャラクターが死んだ場合、プレイヤーも死ぬ』。 カネで命を買う死のゲームを攻略するのは――賭博で収監中の悪党刑事と、お人好しの女子校生。
生命の危機と欲望が渦巻く世界で二人が編み出した攻略法は、悪魔のゲームを根本から否定するものだった……!
スタッフコメント

 一攫千金か、死か。
巧みに欲望を煽ってプレイヤーを死に至らしめる呪われたゲームに囚われてしまった香取寧々子と、悪魔の起こした事件『D案件』について調査をしていた元刑事、葛城恭一。
ゲーム内の『ネコ』(寧々子)の戦いと、現実の『桂木恵一』(葛城恭一)の戦い。
物語は、この二つの視点で進んでいきます。

まだ物語は序盤であるものの、冒頭から最新話まで緊迫した展開が続いており、一気に読み進めてしまいました。
ゲームの要素を織り交ぜつつも、決してそれのみに終始しておらず、流行りのデスゲームものとは一味違う作品になっています。
また、恭一が寧々子にアドバイスをする時の内容に、彼が昔ギャンブラーだった設定が生きてくるなど、魅力的な登場人物でありながら設定に無駄が少なく、完成度が高い印象を受けました。

物語が進むにつれて、ゲームはさらに悪質なものへと変化していきます。
果たして恭一は、ゲームの主催者である『契約者』を見つけ出すことができるのか? 
いなくなってしまった寧々子の親友、小鳥遊蓮華の行方は?
寧々子は無事にゲームを終えることが出来るのか?
今後の展開に注目です。

タイトル
愛すべき『蟲』と迷宮での日常
作者
マスター
あらすじ
二度目の生を魔法が存在する世界で過ごすレイア・アーネスト・ヴォルドー。その世界においてレイアしか持っていない特別な魔法を駆使して、迷宮探索における日常生活や魔法を使ったよくある祖国発展。加えて、義理と人情を重んじる紳士達による心温まる物語。
スタッフコメント

 変態という言葉には3種の意味がある。性的な意味、変人と言う意味、虫の生体に関する意味。
 であるならば、変態紳士と称するに彼、この作品の主人公・レイアほど体現している者はいないでしょう。
 世界唯一の『蟲』魔法の使い手にして、虫に変態することができる最強転生主人公。
 しかし、その性格はあらゆる意味で他の作品の主人公とは隔しています。
 蟲を家族として愛し、人の命を軽々切り捨てる、正論で以て容赦なしの最恐・最凶・キチガイ。もはや歩く災害。
 変な方向に振り切れてるレイアの視点から語られる日常風景はとにかく「面白い」の一言に尽きます。常に一般的解釈の斜め上を行く主人公。周囲と主人公の認識の違いと言うのがよく伝わってきていて、ある意味彼はアホなのではないかと思うくらい。地球で人生送っていた時の常識は既に破壊されていると言っても過言ではないですね。
 また、レイア以外のキャラも魅力的ですね。紳士淑女を自称する規格外たちに、悪女なギルド受付嬢。
 作品中で一番性格が良いのはレイアの育てた蟲たちということの素晴らしさ。なぜこんな主人公から良い娘(息子)たちが生まれるのか…。むしろ、ギルド受付嬢(悪)より、幻想蝶(蟲)がヒロインでしょう。
 美少女・美少年エルフたちが筋肉ゴリラに変身する迷宮の神秘も見逃せない特徴ですね。
 文字量は多いのですが、テンポ良く進んで読みやすく。また、人がバタバタと死んでいくのですが重すぎず、残酷描写はあれどシリアスが続くことなくギャグに落とされていて、ツッコミどころも満載。とても面白い作品です。


タイトル
魔法学校の落ちこぼれ
作者
梨香
あらすじ
昔、偉大な魔法使いがいた。シラス王国の危機に突然現れて、強力な魔法で国を救った。
アシュレイという青年は国王の懇願で十数年を首都で過ごしたが、忽然と姿を消した。数人の弟子が、残された魔法書を基にアシュレイ魔法学校を創立した。
それから300年後、貧しい農村の少年フィンは、税金が払えず家を追い出されそうになる。フィンはアシュレイ魔法学校の入学試験の巡回が来るのを知る。
「魔法学校に入学できたら、家族は家を追い出されない」
魔法使いの素質のある子供を発掘しようと、マキシム王は魔法学校に入学した生徒の家族には免税特権を与えていたのだ。フィンは一か八かで受験する。ギリギリの成績で合格したフィンは「落ちこぼれ」と一部の貴族から馬鹿にされる。
しかし、何人か友人もできて、頑張って魔法学校で勉強に励む。
『落ちこぼれ』と馬鹿にされていたフィンの成長物語です。

スタッフコメント

 ほぼ貴族のステータスと成り下がってしまっている魔法学校に、貧乏が故に税金免除を願って魔法学校に入るフィン。周囲から落ちこぼれと評されるフィンだったが、大魔法使いルーベンスの弟子に選ばれたことからその学園生活は一変することに。
 偏屈ルーベンスを師に、振り回されつつ(無自覚に)周囲を振り回しつつ成り上がっていくのですが、いわゆる「成り上がり」にもかかわらず作品全体に童話めいた雰囲気が漂っているのが他の作品とは毛色が違っていますね。
 世界観はしっかりと重厚にしつつ、展開はファンタジーの王道ともいえる、魔法学校を舞台にした主人公と竜の交流。台詞や登場人物は可愛らしくも、聡明さが垣間見え、どこか教訓を含んでいる。
 特に、国の大事に関わる部分や、国家の陰謀なども描かれつつ、悪役にも人情味があり、情けないところや間抜けな部分も描かれているので、陰鬱な空気を作り出すことも無く、非常にさっぱりとしているのが独特な雰囲気を作り出していて面白いですね。

 また、個性ある登場人物たちの数々、端役の心情なども細かく描かれている一方で、心情に偏って重くなり過ぎないとバランスが良く、ページ数や文字数は長編に相応しい量がありますが、テンポが良いためにサクサク読めます。
 特に、主人公のフィンは最初は子供らしい、慌てん坊で不満や反骨精神あるところなど描かれていたのが、徐々に落ち着いてきたり物事を理解するようになって、物語が進むにつれ「成長」しているのが読んでいて自然と分かるようになっています。
 ファンタジー特有のドキドキがありつつも、ほのぼのとしていている作品です。


タイトル
黒き聖伝
作者
ヨクイ
あらすじ
人生における転機はいくつも存在する。
啓示、戦乱、死別。そして何より――生死の境目。
天使の相貌を持つ少年は、とある転機により闇を飼い始める。
その闇は人を、時代を、歴史を巻き込み、膨れ上がった黒色はいつしか――。

思考思想に理想と謀略渦巻く史実の中、作り上げていく伝説と言う物語。
スタッフコメント

この作品の素晴らしいところは、あくまでも「戦記」として書かれているところですね。
前世の記憶を思い出したところから始まる成り上がり物語、といえば王道かもしれませんがこの作品は主人公の日々を細かく描写するよりも、その人生を描くと言った形で省略・簡略化されている部分もかなり多く、年代的部分など実質的な数字はあまり出て来ません。
これはセルベクの生活ではなく、人生が描かれている。心情・感情面は描かれつつも、それに偏ることなく、それどころか限りなく省かれていて、セルベクが野望を果たすための一直線な道筋が描かれていて、常に理知的で効率的思考によって進んでいくというのが、とても特徴的な作品ですね。
最終話で、彼のこの歩みを「黒き聖伝」と呼ぶ、として構成としても綺麗にまとめられていて、読み始めたら一気に読んでしまいました。

また、セルベクや他の登場人物たちも一人一人、魅力的です。
特に、ハンは最初、セルベクを虐げる悪童であったのが、利用し合う関係に、徐々に信頼ある関係になってゆくその様が実に丁寧に描かれていて、彼の最期にセルベクが激昂しつつも、それさえも最終話では遠いかつての微かな感情として描かれる、というのが物悲しくも、この作品の味ですね。
野望に始まり、野望に終わる。しかし、その物悲しさ、どこまで突き進むのかと言う終わりなき道。血塗られた、救いのないセルベクの物語。
マラエヴァとの決着が描写されず、簡潔にして終ったことで、足早さ・物足りなさを覚える部分もあるけれど、それが逆にこの作品の奥深さでもある。
歴史もの、戦記ものというほど難しげでもなく、けれどファンタジーというには重厚な世界観が広がっていて、バッドエンドながら素敵な作品です。


タイトル
片翼のリク  ‐退魔師の一族だけど、魔王軍に就職しました‐
作者
寺町 朱穂
あらすじ
リク・バルサックは恋愛ゲームの世界で、主人公のハーレム要員になるキャラだ。
だけれども、現実はゲームとは異なり、ゲーム開始の10年前「退魔師としての才能がないから」という理由で、退魔師の一族を追放されてしまう。
少しずつ歯車が狂った世界で、リクが辿り着いたのは……
スタッフコメント

幾人ものヒロインを恋に落としてハーレムを築き上げるギャルゲーの主人公であり、転生者で前世の知識を持つルーク・バルサック。
この物語の主人公は、そんなルークから「好みではない」という理由で攻略されずに見捨てられ、破滅に追いやられてしまったゲームヒロインの一人、リクです。
ルークは可愛くて自分好みのヒロインたちをゲーム知識や主人公補正を駆使して誑し込みつつ、退魔師一族の中で成り上がっていきます。
そして魔族に拾われ命を救われたリクもまた、魔族側について人間との戦争に参加し、成り上がっていくのですが……

まるで催眠術でも掛けられたかのように簡単に恋に落ちていくヒロインたちや主人公のチートが、敵側の視点からだと歪で理不尽に見えてくる所に目を洗われる思いがしました。
戦記としての面白さだけでなく、攻略されずに早々に切り捨てられたヒロインが恋愛ゲームの主人公に復讐を誓うという、メタ的な視点からも楽しめる作品です。

まさにゲームの主人公といった優秀な能力を持つルークや、そんな彼を盲信するヒロインたちと、敵対することになった元ヒロインのリク。
退魔師一族を憎み、半ば狂ってしまった彼女とルーク達の戦いの行方はどうなっていくのか?
今後の展開に注目です。


タイトル
山下緋紗子の人生を笑うな
作者
佐伯琥珀
あらすじ
山下緋紗子は、乙女ゲームの世界に攻略対象「朝比奈礼司」の使用人として転生した。緋紗子は原作知識を活かし、礼司とメインヒロイン「桜川小百合」がくっ付くよう努力する……が何故か上手くいかない。それもそのはず。このメインヒロイン「桜川小百合」には誰も知らないとんでもない秘密があったのだ。
スタッフコメント

実のところ、同著者にはより人気の作品があるのですが、ぜひこの作品を皆さんに読んでほしいです。

重度の乙女ゲーマーが、悪役でもヒロインでもない、つまり役無し(脇役)として転生し、ヒロインと攻略者をくっつけようと画策する、という基本的な部分は王道の話なのですが、この作品の面白いところは「サイド視点」です。
主人公・山下緋紗子はゲーム知識のある転生者ですが、作品中には他に2人の転生者が描かれています。一方は前世を覚えていない、緋紗子の弟・翔。もう一人はヒロイン・小百合。

攻略者・朝比奈礼司の使用人として転生した山下緋紗子は使用人として主の幸せを願い、そしてゲーマーの誇りとしても原作にある「トゥルーエンド」を目指し動くのですが、その一方でその行動を傍から見るとどうにも歪んでいるように見える。
翔は姉の緋紗子を「神様になったつもり」だとか「予言者じみていて気持ち悪い」と痛烈に批判し、始終敵視した視線を送っており、また、小百合は目が覚めたら女の子になっていた、元・男の子。もちろん、同性(男)を相手に恋愛する気も無く、緋紗子が恋愛を推奨してくるのに困惑と訝しんでいます。

新しい人生までも主人・礼司の幸せのために捧げている緋紗子を翔が嘲笑している場面など、タイトルも相俟って印象深いシーンでした。

三つの視点が、三つとも違う味を出していて物語に深みを持たせていて面白いです。恋の甘酸っぱい青春である一方で、前世や乙女ゲームというイレギュラーの異常性が語られていて、シリアス好きの人も満足できる作品です。
親しみがありつつも魅力的な登場人物たちにより、重くなり過ぎずちょうどよいテンポで物語が進んでいて読みやすく、面白い作品です。


タイトル
異世界太腕漂流記 〜乙女ゲームは衰退しました〜
作者
笹の葉粟餅
あらすじ
女子力底辺の日本在住ゲーオタ社会人女性(喪)が、こともあろうに乙女ゲームの世界に、しかもヒロインをあの手この手でいびる悪役に転生しました。
わりかしベタな剣と魔法と恋の学園物語の世界、だそうですが、こいつはんなこと知ったこっちゃありやがりません。ゲームの内容的な意味も含めて。
前世においてVRMMOにどハマリした、血沸き肉踊り骨軋む剣風囂々吹き荒ぶ戦闘大好き女子力底辺の戦闘脳は突き進む――最強を目指して!
スタッフコメント

斬新さはピカ一!
テンプレ通りに車に引かれて転生しちゃった女主人公はヒロインを苛める悪役侍女。――のはずが、イケメンにしか見えない上に男装。もはや、彼女は乙女ゲーの悪役キャラからは逸脱している。

幼少期からの血反吐吐く様な訓練(自主)に、自給自足(狩り)をガチに行い、果てはきっちり隠蔽工作(事故死偽装)を行った上での家出。

向かう先はゲームの舞台(自国)から離れた場所。目指すは生前に見た極致を越え、最強になること。

描かれるは筋肉(戦闘)脳な彼女による、鍛練と戦闘と異世界事情。

チートは一切なし。努力だけで超人な漢女(八歳)による、筋肉と戦闘と狩りとやっぱり筋肉な話。設定は割とシリアスなのにネタ満載で読みやすい。そして筋肉と戦闘描写に胸が熱くなる作品です。

「乙女ゲームは衰退」というタイトルは伊達じゃない。濃厚なだけに癖はありますが、血沸き肉躍るオッサンと戦闘と冒険の旅が読みたいならこの作品がお勧めです。



タイトル
ごめんね、お兄様!
作者
かんなぎ
あらすじ
大好きだった小説に転生したからには、大好きなキャラクターを窮地から救うために東西奔走!
輝かしい人生を送ってもらう為には悪役だって切り伏せて、運命だって捻じ曲げてみせます!
だから幸せになってね、お兄様!

―――でもまあ、ラスボス、私なんですけどね。
スタッフコメント

ただのブラコン物語じゃない。
立場、背景、事情。複数の要素がオリガに押し寄せ、彼女の行動と心情の乖離は進んでいく。

大好きな小説の中に転生した彼女は、主人公・ギルフォードを救うためにストーリーを六年前倒しにする計画を立てる。
複雑な家庭環境に、立場を失くしてゆくギルフォードを家から追い出すために若干10歳で火の魔術一門・ルージル家当主の座を父から略奪したオリガ。

徹底した実力主義の世界でさえも、その圧倒的強さから周囲に怖れられるオリガは徐々に魔術師の迫害に移ってゆく世風の中、隣国との戦闘前線に立たされ続ける。


「物語」を六年も前倒しにした罪か、世界は加速度的に動き戦争は激戦化していく。

まるで「物語」の通り、オリガを魔王とするがために世界が動く様な、そんな呪いにも似たストーリーにぞっとさせられます。

「兄の為」――それだけを思って、どんなに難しい状況でも自分を曲げず突き進むオリガの姿は「炎獄公女」と渾名されるのに相応しく、また冷静ながらも苛烈な彼女の生き様はまさに炎。
期待と妬み嫉みをともに背負い、悲鳴を上げる心を押し隠し、物語に忠実に強く毅然と「悪役」に徹するオリガ。
そんな彼女だから、せめて読者だけでもオリガの心に寄り添いたい、そう思わされます。

後は、「主人公・ギルフォード」の活躍を待つばかりですね。

要素だけでは悪役令嬢転生ものの王道。
けれど描かれるのはひたすら、一生懸命なオリガの覚悟と命を燃やすかのような生き様。

ページ数は少なくも、そのぶん濃厚に読者の心へと訴えかけてくる話です。


タイトル
悪役転生だけどどうしてこうなった。
作者
関村イムヤ
あらすじ
ファンタジー系乙女ゲーの悪役お嬢に転生したつもりだったんだがなにかおかしい。何で私は武勲を獲得して伯爵になっているのか。 ちなみにチート能力なんてありません。魔法も使えません。倫理観は、生まれ変わってちょっとおかしくなったかもしれない。
スタッフコメント

正に「どうしてこうなった」という予想外の展開が次々となされていて、読むのがわくわくする作品です。乙女ゲーというライトな題材からのシリアス比重多めの内政ネタ、この意外性はずば抜けている。
乙女ゲーに転生してしまった主人公・エリザ。ファンタジーな世界ではありがちな、悪徳貴族の娘として転生してしまい、将来的にはヒロインを苛めたりしたせいでバッドルートを辿るはずの悪役令嬢…のはずが、いつのまにか冷酷非道な男装領主さま。

幼いながら領主として貴族の陰謀渦巻く世界に踏み込んだのが過ちか、学園に入学するより前に初陣にて敵将を討つ偉業を成し遂げ、学内では女性たちからの熱い視線を浴びる。
漸く「王子との婚約」話が出てきて恋愛要素かと思えば、因習が故。

糖度ゼロ!むしろエルザが男前すぎる!
チートなし、残虐非道領主な女主人公・エリザの成り上がり物語。
他者を嵌めたり、嵌められたり策略尽くし。国家ぐるみの思惑に彼女は一体どうするのか。
読者もエリザとともに「どうしてこうなった」と思わされること間違いなしです。


タイトル
僕は骨が好きだ。大好きだ。
作者
まいまい
あらすじ
★身も蓋もない骨のあらすじ★
 僕は骨が好きだ。  世界が変わってもそれだけは変わらない。対象が魔物(主にスケルトン)になっただけである。たとえ何が起ころうとも、僕は骨のことだけを考える。  そう、僕は何よりも骨が好きなのだ。  この世界に来て、僕は一つの魔法を覚えた。それは骨に命を吹き込む魔法。  最初はフライドチキンの骨に、そして、魔物や人間(獣人)の骨に魔法をかけた。様々な骨に囲まれた骨のハーレムを築きつつあった。  ――ある時、魔王が魔物の軍団を引き連れて人間の国と戦いを始めた。たくさんの命が成す術もなく、ただただ散っていった。  長引く不毛な戦いに、人々は平和をもたらす勇者の出現を望んだ――  魔王を打ち倒す勇者こそ現れなかったが、この戦いに終止符を打つ救世主は現れた。それは僕だ。  ――これは、その日、魔族と人間の戦いに乱入し勝利を奪い取ったと共に、楽園(骨)を手に入れた者の――その世界の表舞台に現れた日から、たくさんの命(骨)を救うまでのご都合主義的超展開な話である。
スタッフコメント

 ファンタジー世界でアンデットモンスターの定番としてしられているものはいくつかありますが、中でも雑魚として有名なのがゾンビと骸骨ですね。
 しかし、こう疑問を覚えたことはありませんか?
 なぜ彼らは魔人(魔族)ではなく魔物扱いなのだろう、と。なぜ彼らはそのほとんどが意志無きモンスターなのだろう、と。

 この話ではそんな骸骨にスポットが当てられ、骸骨が中心に世界が回っています。
 なぜなら、主人公ツトムが大の骨好きだから。
 平成のジャック・ザ・リッパー、ならぬ骨抜きリッパ―と呼ばれていたツトムが異世界に落ち、ネクロマンサーとしての能力を高めた後、魔王軍と人類軍に喧嘩を売って骨人のための最強国家を作っちゃう話です。

 前半はツトムと骨人の愛の日々、後半はネクロマンサーが骨人を「消耗品扱い」することへの反旗が主となりつつも全体を覆うのは変質的で変態的な骨への愛。
 最初から最後まで、文から構成から展開から、骨への偏愛を感じ取れる。
 故に、とても可笑しく、面白い。

 重厚な描写よりもテンポよくライトな文章が重視されており、なにより題材の奇抜さ一本勝負!な癖ある作品です。
 一度ハマってしまったら抜け出せない、まいまいさんのワールドが凄まじい作品です。


タイトル
沼地のドロテア
作者
八鼓火
あらすじ
父親が沼の浄化事業に失敗して多額の借金を背負った魔法機械工のドロテア、近隣住民に恨まれ、ストレス性の月経不順と吹き出物に悩み、ヘドロの悪臭でただでさえ心が折れそうだってのに、ゴミの不法投棄のせいで浄化施設が故障した! 手伝いを雇うが、みな気味悪がって逃げてしまう。現れた救世主は怖過ぎる狼の獣人だった……借金取りの超絶美形変態悪魔に怯えつつ、今日も沼地に向かうドロテアの話。
スタッフコメント

シーン・ストーリーの構成や世界観。どれも高い完成度で描かれていますが、なんといってもキャラクターが魅力的です。
 メイン人物は生真面目で責任感はあるけれど自分に自信がない、嫌われ者のドロテア。狼獣人という恐ろしげな容姿をしていながらも不器用な優しさを持つウルバーノ。超絶美形な悪魔エンリケ。
 沼の正常化に当たるドロテアとウルバーノ。二人だけではこの作品はほのぼのの恋愛ストーリーになっていたでしょう。しかし、そこにエンリケが混じることでこの作品は切なく、複雑な心情の絡み合った話となっています。一たす一たす一ではなく、一かける三となる物語、これが相乗効果という奴ですね。
 因果律の正常化、対価と代償。世の理。エンリケの行動、その一つ一つに含まれる「裏」。エンリケという存在がこの作品全体を覆っていて、終盤に明かされた彼の真実に再度最初から読み直してしまいました。

 沼地という舞台の設定も発想性がありますが、悪魔の因習に絡めて仮死の呪いを「白雪姫」と呼ぶネーミングも思わず唸ってしまう。加えて、悪魔と魔物の違い、その歴史や異界への説明もきちんと分かりやすく描かれていて、そしてその差異にこそ壮大にして重大な伏線があるというのが素晴らしい構成ですね。
 最後には泣いてしまうこと間違いなし、甘さと切なさのギュッと詰まった作品です。


タイトル
Medicine⇔Alchemist Offline〜薬剤師の私が異世界で錬金術師になりました〜
作者
木原ゆう
あらすじ
薬学部を卒業した久慈原早苗(くじはらさなえ)は国家試験を受け、念願の国家資格である薬剤師免許を手に入れた。「さて、どこに就職しようかなー。病院? 薬局? MRなんかも面白そう!」そんな人生薔薇色計画の矢先、早苗は薬学生らの間で話題のMMORPG『Alchemist Online』と出会う。そして友人ら数名とこのゲームにログインした直後、パソコンの画面から眩い閃光が早苗らを襲い彼らは気絶してしまう。目を覚まし、辺りの様子から『Alchemist Online』の世界に入り込んでしまった事に気付く早苗。しかし何かがおかしい。一緒に飛ばされて来たはずの友人が誰もいない? そして早苗は気付く。自分だけが『オフラインの世界』に飛ばされてしまっている事を。「ちょ、え? テンプレどうなってんの? なんで私だけハブられてんの? せっかく異世界に飛ばされて来たのに、皆との緊張感高まるログアウト不能のデスゲームは何処に行ったの? どうしてこうなった?」これは一人だけ通信環境から断絶された世界に飛ばされた薬学少女が、錬金術を駆使しイケメンNPC達とウハウハしながらのんびり元の世界に戻る方法を探す物語である……と思われ。
スタッフコメント

予想外の展開、期待以上の物語。要素盛りだくさんのタグ欲張り。それこそが木原さんの作品の特徴でしょう。書籍化したゾルディや3週目世界の(エロ)印象が強い木原さんですが、これは逆にエロが全く入っていないという、毛色の違った作品ですね。

VRMMOにログインするはずが、早苗だけオフラインにインしてしまった。
それを端緒として、オフライン世界での魔王を倒す冒険が始まるわけですが、第二部からは一転してオンライン――VR世界でのデスゲームに話しの舞台が移ります。

一部オフライン世界での、魔王を倒す冒険。
友人たちと共にログインしたはずが、オフラインに繋がってしまった早苗。元の世界、オンラインに接続し直すには魔王を倒す必要がある。
早苗を邪魔するかのごとく現れる、イリーガルな「プレイヤー」の存在。魔王消滅まで繰り返されるコンティニュー。
そして選択――「オンライン(元世界)」か「オフライン(現在)」か。

錬金術師として店を開き、街人たちと触れあう瞬間。大切な仲間との出会い。戦いの日々に、冒険。加えて、一章での初オフラインと、五章から始まるセカンドコンティニューの世界。
この二つを読むだけでも心切なくなりますね。自分だけが「前」を覚えている、その痛切。そして、最後の選択で戻るか否か。
これだけで一つの物語として完成していますが、二部へと話が繋がることで面白さが深まっています。

二部、オフラインからオンラインへ繋がった早苗が見たのは、「デスゲーム」。
ゲームがリアルになる、その弊害によって現れた「HP」と「死」の不一致を逆手に取るよう、暴虐を尽すプレイヤー。国と国との戦争世界。
早苗がオフラインに行ってしまったことで「変わってしまった」友人たちの姿。
友人たちを止めるべく動く早苗の前に現れたのは、世界をデスゲームにしてしまった張本人にして裏切りの友人――。

第二部のエンディングがお見事。第三部への期待を煽るような書き方で続きが気になります。
ページ数も多いため、登場人物や物語中の事件も多いのですがきっちりと書かれています。壮大な設定にどんでん返し、予想外。「そこでこう来るのか」というような展開が多く、目が離せません。
長くなるような描写は省き、分かりやすさ・読みやすさを重視した文章なので一気に読めます。

タイトル
楠先輩の不思議な園芸部
作者
ひょうたんふくろう
あらすじ
部活が盛んな園島西高校に入学した八島 華苗。マンガのような高校生活を送ろうと意気込んでいたが、必ず部活動に入らなくてはならないという校則をしらず、何部に入るべきか一人悩みこんでいた。やがて、ふとしたことから校舎裏と思しき畑に迷い込んでしまった華苗はそこで一人の園芸部員──楠先輩と出会う。エサに釣られて園芸部に入ることになった華苗だったが、その園芸部は普通じゃなかった。異常成長する作物、卵を何個も生む鶏、あり得ない咲き方をするアサガオ、限られた人しか入れない畑etc…。 そんな不思議な園芸部を舞台に楠先輩と華苗、そして学校の愉快な仲間たちの織りなすほのぼの学園青春部活園芸物語……かもしれない。
スタッフコメント

キャラクター、一人一人がとても作りこまれていてとても魅力的です。
特に、主人公の華苗は食欲がちょっと旺盛なだけで平凡な少女、のように描かれていますが園芸部やそのほか部活の不思議さをスル―しています。これはかなりの図太さ、いえスルースキルです。
話数が続くにつれ、自身も「まごころ」を扱うことができるようになり、どんどんと楠先輩と同じく鉄人になりつつありますね。
しかし、それを自覚していない。
「絶対に自分の凄さを認めようとしない」部長たちの性質はこうして受け継がれていくのか、というのが華苗やその同級生たちの様子で良く伝わってきて、とても奥深いです。

描写も細かで、園芸部で育てられている植物たちの様が眼に浮かぶようです。
些細な日常話として描かれているそれら一頁一頁が、高校時代の大切な、忘れられない思い出となっているというのがとよく伝わってきます。
ストーリーの起伏として楠先輩周辺の恋愛事情が描かれていた最初の部分から、華苗周辺へと恋愛要素が移行するのがとても鮮やかですね。単なるキャラテイストから、こちらは甘酸っぱさが入ってくるので、同じ恋愛部分でも違って楽しんで読めます。

タイトル
魔王の娘のハローワーク
作者
サカナ 霧
あらすじ
魔王軍が討伐されて早3年。 ここは職を失ったモンスターたちのハローワークです。 働いているのは魔王の一人娘と、元魔王軍の参謀。 訪れるのは元同僚や難ありのモンスター、たまに宿敵の元勇者などさまざまです。 今日も魔界のハローワークはにぎやかに手探りでお仕事を斡旋します。
スタッフコメント

ハローワークという題材が面白いですね。
  魔王が倒されたのはたった3年前で、立ち直るには時間が短すぎる。けれども、働かなければ生きていけないのはモンスターも同じで、だから「求職所(ハローワーク)」を魔王の娘が率先し、経営する。

 そんな複雑で現実的な背景がありながら、話として描かれるのは参謀と姫様のドタバタコメディ風オフィスな日常。
  モンスターたちの意外な転職理由や、悩みが描かれていたり、近隣の住モンスターが訪れたり。
  一方で、魔王を倒した宿敵・元勇者が人間界で芸能プロ立ち上げて求人に来たり、魔法使いが人気投票1位ながら息抜きにメンテナンス業者のバイトで扉の修理に来たり。魔王の娘がいるハローワークに個性豊かな面々がやってくる。
 基本的に一話完結でコメディなので読みやすく、またキャラも活き活きとして楽しい物語です。物語始まり当初から現在までの姫様の成長っぷりも面白いです。

 魔王は本当に倒されたのか、勇者の消えゆく記憶、幻惑の術者の正体。――ちょっとずつ出し惜しみされているシリアスパートを期待しつつ、日常コメディも読みたい。続きがどんどん読みたくなります。

タイトル
僕は妃と話ができない【連載版】
作者
宮路広子
あらすじ
大国の意図で政略結婚し夫婦となった、西域の小さなオアシス国家トルキアの王(十六歳〜)と妃(四ヶ月〜)の、話ができないほのぼの日常話。もしくは王の妃育て奮闘記。偶に幕間。一、二話で完結する話をまとめた、短編連作集です。短編読み切りの『僕は妃と話ができない』、『僕は妃と話ができない2〜夜の二人〜』は入っておりません。本編完結済。現在は終幕後を投稿中です。
スタッフコメント

青年王と赤ちゃんの婚姻生活!
貴族において年の差婚というのは多々描かれていますが、ここまで極端なものはなかったように思います。
実際に大人になってからの16歳差というのはそこまで珍しくないのかもしれませんが、国王が赤ちゃん妃をあやす、育成姿をメインとして書かれている作品というのはまさしく、盲点です。

王の背負う背景には色々と細かく設定があるものの、あくまでも妃の育成・成長が主軸となって展開されているのでほのぼのとした雰囲気があり、気軽に読めました。
物語の起承転結となる事件というのは通常シリアスになりがちですが、この作品ではヒロインが赤ちゃんと言うこともあって難しくなり過ぎず、生き生きとしたキャラクターたちもいて、明るく楽しい作品です。
ヒロインが幼いため、恋愛要素は薄いのですがほのぼのとした日々が心温まります。

タイトル
異世界転生したら皇帝ペンギンだった
作者
夏野ゆき
あらすじ
「生まれ変わったら鳥になってやるぞコンチクショー!」そう叫んで死んだ“私”は、異世界転生をすることになる――皇帝ペンギンとして。 空を飛びたくて鳥になることを願った元・人間が、空を飛べない皇帝ペンギンとして異世界で逞しく生きる話。皇帝ペンギンとなったらやることはただひとつ。“皇帝”らしく大陸全土を支配下においてやろうじゃないか!
スタッフコメント

可愛らしいフォルムの皇帝ペンギン様が、チートもなく天下を取る。
人外転生ものは複数読んできましたが、こんな作品は読んだことがありませんでした。

鳥好きが高じて、皇帝ペンギンへと異世界転生した彼女は、特殊なスキルがあるわけでもなく、ただ鍛えた己が肉体のみで”皇帝”として、異世界攻略に挑みます。
唸るフリッパーにより、叩きのめされていく異世界の動物及び魔物たち。
フリッパーの魔の魅力が、彼らをドM化させていく。

…ペンギンを前に、頬を赤らめ体をくねらせる魔物たち。
その様子を考えただけで思わず笑ってしまいます。

至って真面目、でもちょっとズレた彼女の視点から送られるストーリーは主に食欲と戦いの、バイオレンスな日常話です。
成り上がり系なのに、ほのぼのとした感があって、それでいて血沸き肉躍る爽快なバトルも含まれる。
越境者の魔王化を阻止せねば東国組織がある一方で、勇者が野菜屋を営みながら最強であったりと、ヘンテコ具合。

ギャグとシリアスが上手いバランスで配置されていて、これからどう話が進むのか予期できません。そしてそれ故に、期待が膨らむ作品です。



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