
●大社詣で
縁結びの総元締め、出雲大社のパワーをめいっぱいいただくため、島根を訪れた久遠ヶ原学園の生徒達は朝一番のお参りをすることに。
「んー、大社独特の気が満ちてくるカンジがするなー」
正面鳥居を一番乗りに潜り抜けた紫園路 一輝(ja3602)が、背伸びをして荘厳な雰囲気を全身に感じる。
「待ちに待ったオリエンテーリング旅行ね♪ 家業の参考にもなるし、一度はちゃんと見て回りましょう」
とある神社で神楽等を納める宮司の家系出身ということもあり、真宮寺 神楽(ja0036)は大社詣でを楽しみにしていた。
「……恥ずかしいんだが……」
「……たまには……妹の希望を叶えるのが……兄の役目です……」
水無月 湧輝(ja0489)は、義妹の水無月 蒼依(ja3389)に腕を取られたが、手水舎での清めの際には外してもらった。
「……禊の作法ですから……仕方ないですね……」
左手と右手を洗い、口をすすぎ、柄杓を立てて洗い清めてから元の位置に戻す蒼依だったが、それらが終わると再び手を取り歩き出す。
「縁結びかぁ〜。バレンタインにチョコ渡す人もいないし、ちょうどいいかもね」
ミニスカ、フリフリな美少女ゲーム風巫女のコスプレで大社内を歩く風雪 和奏(ja0866)は、観光客達の注目の的に。
丁寧に賽銭箱に入れ、参拝を済ませた和奏と入れ違いに詣でたのは子供の頃に歌っていた妙な『だいこくさま』の替え歌が鼻歌で出た礎 定俊(ja1684)。神様とは頼るものでなく、見守っているものだと教えられてきたので特に願い事をせず、自分を含む家族のこれまでの平穏に感謝を捧げて参拝を済ませた。
「勝負に賽銭が必要だ、寄越せ」
はぁ? と首を傾げながらも卯月 瑞花(ja0623)との神楽殿での注連縄賽銭差し勝負用の小銭を坂月 ゆら(ja0081)にせびられた如月 敦志(ja0941)は渋々手渡す。
神楽殿にある長さ13メートル、太さ8メートル、重さ5トンの日本最大の注連縄の先にコインを投げ、差し挟むことができたらご利益があると二人に説明した蘢宮 風凛(ja3315)は、コイン投げ勝負を提案した。
「勝ったほうにご褒美考えたげるわね♪」
そう言うが、実際には考えるだけなので無い。
「ま、勝負にならないと思うけどね。お嬢様ー! 見ていてくださいね! ていていっと♪」
投擲を得意とする瑞花は同じ箇所に連続で賽銭を当てて埋める作戦に。風凛に良いところを見せようと張り切るゆらだったが、思うように差し込めず、手持ちの小銭を使い果たしてしまったので、ムキになり刺さるまで敦志に小銭を要求し続けた。
「早く小銭を寄越せ!」
呆れながらも小銭を手渡す敦志、勝負に勝ち喜ぶ瑞花、何度目かの挑戦でようやく小銭を差し挟むと「見ろ! 刺さったぞ! どうだ!?」と得意気になるゆらを見て、風凛は楽しい旅行になりそうだと微笑んだ。
勝負の後は、四人仲良く拝殿で参拝。
「今年こそ、真面目に龍宮家復興資金が貯まりますように」
「今年もパティオ 「ドラグーン」が平和で一年間過ごせ……って、何だ? 坂月」
「さっきの勝負で賽銭が無くなった。寄越せ」
はいはい、とゆらの分の賽銭を丁寧に賽銭箱に入れ、ため息をつき再度願い事をする敦志だった。
「……兄さんは……しっかりお祈りしてください……。縁結び……必要です……」
「縁結びねぇ……別に興味はないんだがねぇ」
参拝の作法に従い願い事をする水無月兄妹だが、縁結びに関しては思い入れが違うようだ。
九十九(ja1149)はアーティア・ベルモンド(ja3553)との安全と自身の健康祈願、アーティアは九十九が今後も無事であるように、望月 忍(ja3942)と一輝は、旅行に参加した皆の無事を祈る。
シャティアラ・ヴォランドリィ(ja3594)と高峰 彩香(ja5000)もきちんと参拝を。
「私、誠士郎さんとの仲がずっと続くようにお祈りしようと思うんだっ。島根は恋愛押しみたいだし、縁起物に触れたいな」
アルバムにするんだ、と使い捨てカメラで各々楽しむ生徒や景色を撮影しながら青戸誠士郎(ja0994)に声をかけるルーネ(ja3012)。
(出雲大社は縁結びのご利益があるとか……。他にも縁結び関係のものが多いし、ルーネとの仲がより深まるようなことをしよう)
参拝後、誠士郎は縁結糸と家内安全のお守り、ルーネは縁結糸とぼけ封じを購入。
「ぼけ封じ、回りのボケにも効くといいな。誠士郎さん、どうして恋愛成就のお守り買わなかったの?」
「いや、既に叶っているから……」
ルーネ同様、大社内を撮影していた星月素光(ja0788)は、いわしせんべい片手に、この後どこに行こうかと迷っている時に巌瀬 紘司(ja0207)を見かけると一直線にダッシュし、嬉しそうに仔犬みたいに尻尾を振りながら彼の前に。
「こー先輩発見! 私と一緒に旅行を楽しみませんか?」
「あ、ああ……構わないぞ」
他に適当な者がいるだろうと思うが、紘司は無下にできず、結局世話を焼くことに。
●電車に揺られて
出雲大社参拝の後は、一畑電車で各自好きなところへ。
「面白いカラーリングですね。日本というよりは、西洋の雰囲気を感じます」
「外観、思ったよりもヨーロッパの電車みたいな感じだね〜。日本の風景にこういうのも意外といいかもっ」
3000系車両に乗り込んだエリス・K・マクミラン(ja0016)とフューリ=ツヴァイル=ヴァラハ(ja0380)は、車窓からの宍道湖風景を楽しんだり、スイッチバックで驚いたりとのんびりとしたローカル線旅行を楽しむ。
「たまにはこうやって旅行もいいものだよね〜」
「フューリさん、車内ではお静かに」
その前の座席では、入学して初めての旅行に胸を躍らせる紅葉 公(ja2931)が、まだ会ったことがない生徒達と話が出来たら嬉しいなと思いつつ車窓を楽しんでいる。
誠士郎とルーネ、彩香はレンタサイクル車両に自転車を置くと座席に着き、ゆったりと田園風景を眺めていた。
「まったく、出雲大社に来たのなら、何故出雲大社前駅解散にしないのなのっ! 大社前って駅名で、洋風建築な建物を見せるのにもミスマッチで面白いのになのっ!!」
一畑電車北松江線にある川跡駅から大社線行きの電車に乗り換え、出雲大社前駅に向かう車内で椎野 つばさ(ja0567)が愚痴る。
「まったく、この姉は……」
根っからの鉄道マニアなつばさに引き摺られるように連れて来られた椎野 こまち(ja1611)は、自身も鉄道好きなので文句は言わないものの、こってりマニアな世界に漬され少しイラついていたところを解散場所に関しての愚痴を聞かされたのでうんざり気味だった。
カーブを描く屋根、ステンドグラスが特徴のセセッション風とも教会風ともされる前衛的な洋風建築な出雲大社前駅舎と旧JR大社駅舎を見学し、帰りは一畑電車を乗り潰し旅行を堪能することに。
少し文句を言おうかとこまちが思っていた時、つばさがこう言い出した。
「……一畑口駅のスイッチバックの後……英国庭園に行くなのっ」
妹のびっくりした顔をしているのが恥ずかしくなったのか、顔を逸らしたつばさは、内心、学園まで追ってきたこまちに感謝した。
(もう……この姉は、私の弱みを判ってるんだから……)
それまでは鉄道マニア世界にどっぷりだが、最後まで付き合うことにしたこまちだった。
「おねえちゃん、庭園では一緒にお茶飲んでもらうからねっ!」
●テーマパーク
全天候型テーマパークのショーはペリカンの餌付け、バードショー、フクロウの飛行ショーがあるが、ここを訪れたほとんどの生徒のお目当てはペンギンのお散歩だ。
期間限定の天使の羽がついたハート型ネームプレートをぶら下げたバレンタイン衣装でペタペタ歩くペンギン達。
「とても可愛いです……」
目をキラキラ輝かせてペンギン達を見るアーティア。九十九が何やら特別な事をする様子に気づき、きょとんとして彼を見る。
「こー先輩の好きな動物って何ですか?」
お散歩の様子をデジカメで撮影しながら紘司に聞く素光だったが、その本人はいなかった。
「星月の分の鳥の餌買ってきた。ふれあいゾーンに行って、一緒に餌をあげよう」
「ありがとうございます!」
餌を受け取り、ふれあいゾーンに駆けていく素光を見送る紘司は本当に楽しそうだと微笑んだ。
密かに動物好きな彼は、人懐っこいオオハシ、エボシドリに餌を与えたり、腕や頭に乗せたりと楽しんでいた。
「もう一度聞きますね。こー先輩の好きな動物って何ですか?」
「好きな動物? そうだな……鳥かな」
振り返ってそう答える紘司を「シャッターチャンス!」とパシャリ。タイミング良く頭に載っていたオオハシも振り返っていたので、素光は面白いものが撮れたと満足する。
「きゃあ、可愛いの〜! 鳥さん、ご飯あげるね〜♪」
小鳥と庭の同好会部長ということもあり、忍は餌を啄ばみ、腕に止まり一休みする鳥を見たり、触れたりして楽しんだ。
「次は温室のお花を見に行きましょう〜♪」
見たいところがいっぱいあるので、どこに行こうか悩んでしまう。
「お嬢様、ペンギンがお好きなんですね」
可愛いペンギン達をスマホで写メを撮る風凛は、瑞花に突っ込まれ「な、何よっ! いいじゃない可愛いんだから!」と顔を真っ赤にして照れる。
ゆらは何やら落ち着かない様子だが、その理由は後ほど。
ペンギンの膝乗せ体験まで時間があるので、どこかで時間を潰すことに。
「敦志君……ちょっとだけ手伝ってくれないかなぁ? あのね……」
耳打ちで相談された内容に、面白そうだと敦志は手伝うことに。
売店でソフトクリームを買うと、食べながらゆらにチラつかせてふれあいゾーンに引き寄せる。
「ほれ、ペンギンも良いけどこのソフトクリーム美味いぞー」
「寄越せ」
食べかけのソフトクリームは奪われたが、誘導には成功。
「今のうちっ!」
鳥の餌をゆらの頭にどばっと投げつけた瑞花だったが、敦志にもかかった……と反省。
「って、ちょっと! 何で俺までかかっ……痛っ! おい、鳥! 頭つつくな!!」
巻き添えにされた可哀想な敦志君でした。
「楽しそうですね」
展示されている花と触れ合い、フクロウ売店で土産を色々見て回った御堂・玲獅(ja0388)は、鳥と触れ合っている時に偶然目にした敦志達の様子を見て微笑む。
お散歩が終わり、お待ちかねのペンギン膝乗せ体験の時間に。
紘司はペンギンを膝に乗せ、頭や背中を撫でて感触をしっかり堪能。素光は紘司と一緒にペンギンを膝に乗せた写真を通りすがりの観光客に撮ってもらった。
その側では、この時を待ち侘びていたゆらがペンギンを抱きしめたまでは良かったが、そのまま離そうとしなかった。
「嫌だ! ペンジローは私と一緒に帰るんだ!」
「あんたね、自分の世話もできない癖に駄々こねてんじゃないわよ」
ゆらの行動に呆れながらも、風凛は瑞花と敦志に協力してもらい、やっとの思いで拉致されそうになったペンギンを引き離した。
「はい、これ。ティアにプレゼントなのさぁね」
ペンギンを膝に乗せ、触れることができて大満足のアーティアに九十九は用意したペンギンのぬいぐるみ等のグッズをプレゼント。
「あ、ありがとうございます……」
驚いた様子のアーティアを見て、サプライズ成功と喜んだ。
出雲大社だけでなく、テーマパーク内にも縁結びスポットがある。
花園にあるゼラニウムのアーチに囲まれた『幸せの椅子』と呼ばれるベンチに腰掛け、互いの変わらぬ愛を誓え合ったカップルは必ず幸せになれると知った誠士郎は、観光客に頼んでルーネと寄り添って座り記念撮影を。頑張って手を繋ごうとする彼の気持ちが伝わったのか、ルーネはそっと手を繋いだ。
ゼラニウムの花言葉は『愛情、決心』。二人の愛が、花言葉通りになりますように。
●英国庭園
「……何も無い駅ですね。本当にこんなところに庭園が?」
「うっわー……何もないね〜。すごい駅だね〜。ホームしかないっ」
駅舎は無く、構内の配線は一線スルー方式の無人駅なので、着いて降りた風景に驚くエリスとフューリ。
何もない駅だが、2007年に近くの庭園美術館が閉園し改名を余儀なくされるまでは日本一長い駅名であった。
「いやぁ、こういうのを堂々と着れる場所ってなかなかないんだよね〜」
英国貴族のご令嬢を思わせるコルセットドレス姿の和奏を見て、外国に来た気分になった彩香、初めて訪れるところでは良く迷子になる公はパンフレット片手に見学することに。
「外国にはまだあんまり行ってないから、この庭園にも興味あったんだよね。他の国の文化を見たり、楽しんだりできるのも良いよね」
じっくり見るにはこれが一番、と庭園ツアーに参加することに。
寂びれた駅にがっかりしたエリスとフューリだったが、庭園の花を一つ一つ鑑賞しては見事だと感心。
「これが日本の英国庭園か〜。やっぱりエースターライヒとは違うね〜」
「少し甘く見ていましたね。イギリスにも負けない素晴らしい庭園ですね」
玲獅は、予め予約しておいたフラワーアレンジメント教室へ。
季節に合わせた花を用意してもらい、専属ガーデナーの説明を聞きながら、習わされた華道の技術で花を生ける。
「生け花とは少し勝手が違いますが、何とかなるでしょう」
鋏で花を切り揃えると椿を真に添え、脇を連翅の花がついた枝で固め、それを後ろから支えるようにそっと松を添える。
筋が良いですねとガーデナーに褒められたので、良い体験になったと嬉しくなった。
「難しいですね〜」
少し離れた席にいる公は、初めてのフラワーアレンジメントに苦心しながらも作品を完成させた。その後、彩香と庭園ツアーに参加。庭園の魅力を堪能し、サービスのジュースを飲んで喉を潤した。
ある程度散策したシャティアラは、3時になったら迷惑にならない場所でティーセット等を広げて優雅なティータイムを。
「あなた方もいかがですか?」
回廊内のオリジナルカフェで水にこだわる挽きたてコーヒーを飲みに行こうとしたつばさとこまち、庭園を見終えた公に声をかけティータイムにご招待。
「いいんですか? では、お言葉に甘えてご馳走になりますね〜」
折角のお招きだし、と公と椎野姉妹も加わり、英国庭園でのティータイムが始まった。
●自由行動
皆と別れてバスで日御碕灯台に向かった定俊は、猟師として山で育ったので海の物が珍しく、東洋一の灯台として親しまれている灯台を堪能した後、経島に集まるウミネコを見てカモメとの違いに思いを馳せる。
折角海に来たことだし、土産物屋を冷やかしに。
「フグ提灯発見です」
個人的三大ネタ土産に認定しているハリセンボンのフグ提灯を発見したことで、定俊のテンションが上がった。
「どれにしましょうかね」
幾つか手に取っては慎重に吟味し、5センチ程の大きさのものを購入。
腹が減ったきたので、一畑電車に乗る前に出雲蕎麦を食べることに。
出雲流神楽の源流である佐陀神能の発祥地で、出雲国三大社の内の一つ『佐陀大社』として称えられた佐太神社に到着した神楽は、三殿並立の大社造りをじっくり拝見してから参拝を。
彼女がここを訪れたのは、七座神事の『剣舞』『御座』『散供』『勧請』『清目』『手草』『八乙女』の七座からなる神降ろし、神遊びの舞について神主に教えを請うためである。
「神楽を舞う者として、是非一手ご指南をお願いしたく!」
頭を下げて頼み込む神楽の話を聞いた神主は、舞に関しては佐陀神能保存会で教わるのが良いと説得。詳細日時が決まり次第、神楽に連絡すると約束した神主は、熱心な彼女に根負けし、七座神事の歴史と祝詞について説明してくれた。
神楽が実際に七座神事に触れることができるのは、そう遠くない話かもしれない。
誠士郎とルーネは松江市内の体験工房でシルバーペンダント作り。仕上げにと、裏に各々の文字を刻み込む。
出来上がったものを互いに手渡し、裏に刻まれている文字を見る。
誠士郎が受け取ったものには『With all my heart』、ルーネが受け取ったものには『ルーネとずっと一緒にいられますように』と刻まれていた。
「時間が余っているな。市内をサイクリングしようか」
「うん!」
地図を見て、どこに行こうかと計画を立てる。
時間が余っていたので、彩香は体験学習型水族館に立ち寄って河川水槽、宍道湖畔の景観を再現したジオラマ水槽を見学、タッチプール等を巡り生き物に触れ、その後、レンタサイクルでゆっくり松江市内の景色を楽しんだ。
蒼依は湧輝の腕を話さないよう取り、アクセサリー店等を見て回る。
「……今日は……宿までこのままですからね……」
普段無口な義妹がニッコリ笑う、別行動した負い目もあるのか、仕方ない……と付き合う湧輝だった。
●温泉でゆっくり
出雲大社、英国庭園ではコスプレをしていた和奏だったが、温泉宿では普通に浴衣を着ている。現場で用意されている物を無下にしてまでしない、その場に一番相応しい格好だからコスプレをする意味がない、というのは本人談。
「この漫画みたいなベタなデザイン……! あたしの感性をびんびん刺激するわ……!」
温泉印入りの水色の浴衣を手にした瑞花は、これが気に入ったようだ。
「安っぽいけど、これこそ温泉宿って感じよね」
青線模様の浴衣に藍色の茶羽織に着替えた風凛は、風呂に入るには少し時間が早いと瑞花を誘って宿内を見て回ることに。
その十数分後。
「おい、瑞花が見当たらんのだ。代わりに髪を洗ってくれ」
一人で髪を洗えない藍色地に黄色の花柄浴衣姿のゆらが、敦志に洗ってもらおうと風呂に誘う。
「え!? ちょ……さすがにそれは……」
異性に無頓着ということもあり、ゆらは何故、紺色の作務衣姿の敦志が顔を赤くして動揺しているのかが理解できていない。
「こいつを風呂に連れて行ってくれ!」
女子部屋にゆらを引き渡しそうとしたところ、丁度良いタイミングで瑞花と風凛が戻ってきたのでホッとした。
「ゆら、早く自分で髪洗えるようになりなさい」
そう言いながらも、畳敷きの大浴場で丁寧にゆらの髪を洗う風凛。
その頃、瑞花はメイド服に着替え、風呂上りの風凛に牛乳を渡すべく待機していたのだが、
「皆のためにメイド服に着替えて牛乳持って待機してたのに……可哀想なモノを見る目、やめません……?」
牛乳を受け取った二人、特に手が震えているる風凛の視線が痛かった。
「珈琲牛乳じゃない……瑞花ェ……」
これがご不満だったようで……。
「いい気持ち〜」
岩露天風呂で裸体を隠さず自然体に振舞う和奏だったが、一緒に入っている生徒と自分を見比べ少し落ち込む。
「おねえちゃん……今日はありがとう……」
青基調浴衣姿のつばさ、緑基調の浴衣姿のこまちは、姉妹仲良く客室の蹴鞠露天風呂から見える宍道湖の風景を見ながら寛ぐ。
シャティアは、恥ずかしいと他人と被らない時間帯に露天風呂に。
「深夜に入るのなら、月見紅茶も良いかもしれませんわね……」
宍道湖に映る月を見ながら、いつかやってみようと思う。
中華服以外は殆ど着たことがないこともあり九十九は作務衣を着ることに抵抗があったが、アーティアに「着てください」と言われたので大人しく着替えた。
「九十九さん、作務衣、着崩れていますよ。直してあげますからじっとしていてくださいね」
黒地に桔梗柄の浴衣姿のルーネは、幸せを呼ぶ切手を買いに行く途中で大浴場に向かう誠士郎とぶつかった。
「慌ててどうしたんだ?」
「ここに売っている切手を買いに。良かったら、一緒に行かない?」
出来る限り一緒に過ごしたいと思っていたので、誘いに応じることに。
「……参ったねぃ……此処は何処なんだろうねぃ」
特技『迷子』が発動してしまったため、アーティアの心配通り、部屋に戻れず宿内をうろうろする羽目になった九十九が二人とすれ違った。
各々が風呂や温泉宿内を堪能し終えると、待ちに待った夕食の時間が。
「これが宍道湖七珍ですか〜」
桜と撫子模様の浴衣姿の忍が目を輝かせて見ている宍道湖七珍は、松江を代表する郷土料理だ。それぞれ旬の時期が違うので、全部が一度に揃うことはほとんどない。
奉書紙に包んで蒸し焼きにされたスズキ、酢味噌で食べるシラウオ、身を細く捌き、塩茹でした腹子と和えたコイ、アマサギ(ワカサギ)の照り焼き、シジミのお吸い物がテーブルに並ぶ。
「美味しい!」
シジミのお吸い物を一口啜った赤い浴衣姿の彩香、着慣れない作務衣姿の一輝の素直な感想。
「美味しいですけど、眠いです〜」
すべて味わおうと頑張ったが、睡魔に勝てず食事中に眠ってしまった忍。
食事の後、蒼依は見晴らしの良い静かな場所にいる湧輝を見つけた。
「……こちらでしたか……捜しましたよ……」
捜し回って身体が冷えた彼女を気遣い、熱いお茶を持ってくると湧輝は一旦その場を離れた。
「……ありがとうございます……」
茶を啜っている蒼依を見て、以前から聞きたかったことを尋ねる。
「俺と一緒に学園まで来たが……良かったのか?」
「……兄さんと離れるよりマシですから……。答えになっていませんか……?」
「いや……。そうか……あとは彼氏でも連れて来い」
その後、二人は寄り添って茶を飲み干す。
楽しい一日は、そろそろ終わりに近づいてきた。
「今日は楽しいひとときをありがとうございました」
食事を済ませ、温泉に浸かって旅の疲れを癒した玲獅は旅行を企画した学園長に感謝してから就寝。身体が温まったので、夜更かしすることなくぐっすり眠れた。
島根旅行を満喫した生徒達は、それぞれの思い出の夢を見ながら眠っているのだろうか。