.


マスター:黒兎そよ
シナリオ形態:シリーズ
難易度:非常に難しい
参加人数:8人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2013/08/10


みんなの思い出



オープニング

●蟻地獄
 亀裂の入った結界。
 もはや、隠された領域ではなくなった群れ成す魔の園……群馬県。
 アバドンの眠る今、全ての采配は自分のものだ。

 トゥラハウスは誰も居なくなった奈落の園で目を伏せた。
 静寂の包む闇の中に、足音が聞こえる。
 いきり立って飛び出していったドクサか、それとも他の悪魔だろうか。
 近づく魔の気配は、あまり馴染みの無いものだ。
 目を開けたトゥラハウスに、闇の中から炎の刃が襲う。
 トゥラハウスは、咄嗟に宙へとその身を躍らせた。
(敵だと? この場所を把握されるには早すぎる……)
 トゥラハウスの顔から一瞬、笑みが消える。
 闇の中から現われたのは、炎を纏った刀使いの男だった。

「アバドンはどこだ?」
 刀を持った男――カゲロウは、トゥラハウスに刃を向ける。彼は死してなお復讐のために反旗を翻すヴァニタスだ。
「ほぅ、お前が、報告にあった裏切り者か」
 先ほどとは打って変わり、トゥラハウスは余裕の笑みを浮かべる。幾度か報告に上がっていた、半球やディアボロを狩って回っているヴァニタス。それが今、目の前に居る男。
 ヴァニタスは仮初めの命を悪魔から与えられた者だ。本来ならば、主に逆らって永らえることは出来ないはずである。しかし、この壊れたヴァニタスは、今も動いている。
 誰かの手駒だろうか?
 この場所に難なく侵入できている事からも、可能性はある……。しかし……。

「アバドンさまの居場所? そう簡単に教えるはずがないだろう」
「ならば、力ずくで聞かせてもらう」
 カゲロウは再び炎の刃を閃かせる。トゥラハウスはそれを寸でのところでかわす。
「ふむ、壊れたヴァニタスにしてはやるな……。お前、アバドンさまにご執心のようだが、何か因縁でも?」
 トゥラハウスは悪魔に反逆すると言う、致命的なバグを抱えたヴァニタスに、少しだけ興味が沸いた。
「……我が故郷と……そして俺自身の仇だ」
 カゲロウの背から炎が噴出し、翼が形成される。そして、翼をはためかせ宙へと舞い上がった。加速し、そのままトゥラハウスの喉元へと突っ込み、刃を閃かせる。

(なるほど、復讐のために”仮初めの命”の火を燃やしていると……)
 トゥラハウスはカゲロウの刃から遠のくように、さらに上へ。そして、頭上に手を掲げる。
「中々だな。しかし……ヴァニタス風情が勝てると思ったか?」
 トゥラハウスが振り下ろした腕は、カゲロウの炎もろとも、その身を切り裂いた。
 哀れ、反逆の徒は地に伏したのだ。

「……ぐっ…………」
「おや? あの一撃を受けてまだ息があるか……。ならば、本来のヴァニタスの役割を果たしてから死ぬが良い」
 トゥラハウスは、邪悪な笑みを浮かべると、カゲロウに歩み寄った。
 そして、その手からカゲロウに魔力を送ると同時に、その精神を”上書き”した。
 復讐の鬼は、哀れにも利用される人形へと作り変えられる。
 カゲロウの意識は、まるで砂に嵌って沈む蟻のように、ノイズだらけの”精神”に沈んだ。


●極楽蜻蛉
「炎を操る……刀使いのヴァニタスですか?」
 報告を受けた志方 優沙(jz0125)は、すぐさまある人物を思い浮かべた。
 群馬周辺での戦いで、幾度と無く遭遇したカゲロウと名乗る男を――。
「そうだ、群馬内部へと突入した部隊がそのヴァニタスによって壊滅した」
「!?」
 報告してきたのは、先行している群馬突入チームの一人からだった。彼が送ってきた映像データには、ディアボロを引き連れたカゲロウの姿が映し出されていた。

 炎ででできた薄い四枚羽根で飛ぶ男――カゲロウ。
 そして、それに付き従うかのように赤い羽蟻ディアボロが群れを成していた。
 それはあたかも、極楽へと蟻たちを連れて行く使者のようだ。
 無慈悲にカゲロウはその手の刀を振るった。
 その斬撃と炎で膝を折った撃退士に、無数の蟻たちが群がってゆく。
 形勢は完全に悪魔勢力が押していた。
 群れ成す魔に、人間は撤退を余儀なくされたのだ。

「……おかしいですね」
 志方は思わず呟いた。
 彼女が知るカゲロウは、確かにヴァニタスではあったが、ディアボロを引き連れる事は無かった。むしろ、近づくディアボロは倒して回るような輩の筈だ。
「おかしいだと? 現に我々はあのヴァニタスから攻撃を受けて撤退を余儀なくされたのだ……。ちっ、ようやく。群馬の核心へと至れると思ったのに……」
 報告の主は、苦痛と苛立ち、そして、ままならぬ焦燥感に舌打ちした。
「……報告ありがとうございます。速やかに撤退を……。こちらは後続部隊編成を急ぎます。以上」
 志方は通信を切ると、眉間に皺を寄せる。
「あの方たちは、どんな顔をするでしょうか……」
 志方の脳裏を過ぎったのは、かのヴァニタスと幾度と無く戦った撃退士たち。
 時に敵対し、時に共闘した因縁深い少年、少女たちの姿だった。


前回のシナリオを見る


リプレイ本文



●その心の炎に従い

「……本当に、蟻を率いているのですね」
 メレク(jb2528)は翼を広げて天に舞うと、蟻たちの動きを見て呟いた。彼女自身もかのヴァニタス・カゲロウの行動に疑問を感じる一人であったが、いざ目の当たりにしてしまうと認めなければならない。
 彼もまた、人に仇なす魔の一員なのだと……。
 遠く、紅く染まる空にカゲロウが飛んでいる。
 日中だと言うのに、赤蟻の群れで空が紅いのだ。
「こうなっては致し方ありません……」
 メレクの隣を飛ぶ番場論子(jb2861)が目を伏せる。彼女自身も些か解せぬという事なのだろう、言葉にはやや躊躇いがあるようだ。
 地上の仲間達の心境も複雑だろう……。と、メレクは眼下の光景へと視線を移した。

「Holy shit!」
 天に舞うカゲロウの姿に、央崎 枢(ja1472)は悪態をつかずにはいられない。
 はじめは敵としか思って居なかった。しかし、何度も刃を重ね、時に共闘する事で、相手が人の心を”残している”と知りそれを惜しむようになった。
 故に、今のカゲロウに違和感を感じ、苛立ちを隠せない。
「……央崎君。集中しなさい。そんな揺らいだ気持ちで彼を止められるのかい?」
 ヒズミ・クロフォード(ja1473)が珍しく厳しい口調で嗜める。
「……分かってる。そんな事、俺が……」
 央崎は言葉を飲み込み、その葛藤と戦う。その姿を見て、ヒズミは柔らかく微笑む。
 この少年はぶっきらぼうな所はあるが、仲間にもそして敵であっても、その者を認め、戦うことが出来る強さを持っていると……。
 ヒズミは帽子を押さえ自らの表情を隠す。
(あの男が、復讐を諦めるとは思えなかったのですが……やはり、これはおかしい?)
 ヒズミは、カゲロウがヴァニタスであるにも関わらず、悪魔に対して復讐心を抱いている事を感じていた。それは同じく復讐を誓った者が感じるシンパシーであり、同時に反面教師としての葛藤でもあった。
「その……報告書などを見た所、変わったヴァニタスであるとは思います。ですが、私にもまだよく分からないんです……皆さんがそこまで心配するような相手なのでしょうか?」
 知楽 琉命(jb5410)が疑問を口にした。彼女にとっては因縁の無い相手だ、書面上の記録しか接点が無い。
 しかし、仲間達の話を聞くと、ヴァニタスという括りで、括れないような気もするのだ。
「心配? そんな事はしていませんわ」
 長谷川アレクサンドラみずほ(jb4139)はウォーミングアップとばかりに、拳をリズム良く突き出す。
「ただ、あの方を止めるだけ……それは心配だとか、同情とかではありませんわ。そう、あの方の人としての心と約束をしたのです」
 呼吸を整え、長谷川は自らの意志を言葉にする。それは貫き通す決意だ。

「オラも前に一度さあっただけだけど……なんだぁ、カゲロウさー泣いてるようにも見えるんだべ?」
 御供 瞳(jb6018)は感じたままを言った。
「オラぁ、長谷川さんとはぁ、違って約束さしてネェけんど、止めてやりたいってぇ思うんだべ」
 感情からの言葉に、理由など要らない。
 それぞれに思う所はあれど、それが一つでなければならないわけではないのだ。
 誰もが、自分の思う何かのために戦う。

 ―― 自分の心に火を灯せ!

「ごちゃごちゃ何言ってんだ。敵はヴァニタスだろ? ディアボロを率いるのは普通の事じゃねぇか」
 臨戦態勢を整えたデニス・トールマン(jb2314)が、声を上げる。
 蟻たちが動きを見せ始めたのだ。戦場では、優雅に物思いに耽っている暇など無い。

 空ではメレクと番場が蟻たちと衝突を開始した。
 そして、遠く紅の空には刃を抜くカゲロウの姿があった。


●未来へと繋ぐ道筋を

「捌ききれない……数が多すぎますっ」
 敵に囲まれる前に、番場は羽蟻たちから距離をとった。蟻たちは遠距離からの魔法攻撃でも苦労する事無く落すことができる。

 脆いのだ。

 しかし、群れと言う絶対的な数の力の前では、その脆ささえも弱点足り得ない。
 番場が距離をとると、蟻たちはそれを追うように飛行する。
「……もう少し……」
 蟻の群れの中に孤立してしまえば、いくら撃退士や天魔でもひとたまりも無い。番場は相手に捕まらないように飛ぶ。
「うおりゃぁぁぁあっ!」
 大声とともに御供は大剣を振り回して、番場が引き連れてきた蟻の群れへと突撃した。
 御供の一見、無策にも思える特攻だが、それに合わせて後方から銃弾と魔力攻撃が飛ぶ。
 ヒズミと番場だ。
 振り回した剣が扇風機のように回って、敵を巻き込んでいく。
 その攻撃が取りこぼした蟻を天空から番場の魔法が引き裂き、地上からのヒズミの銃弾が打ち抜く。
 羽や体を分断された蟻は大地に落ち、燃え上がって灰となった。
「あ、あっじぃ……燃えるかと思ったべ」
 御供は思わず汗をぬぐった。
 羽蟻たちの体は非常に高温で、ただ近くで戦うだけでも生身には負担が掛かるのだ。

「……思った以上に、彼の元に辿り着くのは難しいのですね」
 メレクは蟻たちの群れを撃ち落としながら呟いた。番場らのように群れを一箇所にまとめて討ち滅ぼすのは、数を減らすという観点からは、理にかなっている。しかし、前に進む方法ではない。
「央崎さん、私が道を開きます。続いてください!」
 メレクは地上の仲間に告げると、その翼をはためかせた。
「――っ!?」
 央崎の制止の言葉はメレクには届かない。
 彼女もまた、心に秘めていた。
 人と天魔が手をとる未来。
 その可能性を信じているのだ。
 そう、天使である自分と、自分が敬愛する人間が手を取ることができたのだ。
 ヴァニタスとだって、心が通じることがあるはずだと。
 故に、今のカゲロウの姿には違和感を抱いていた。
 メレクは蟻の群れに向かって、全身の魔力を込めた一撃を放つ。
 黒い光の衝撃波は、蟻たちを屠って、群れに穴を開けた。
 それは暗い闇夜に挿す灯台の光り。
 
 カゲロウへの道標。

 メレクは蟻の群れにできた穴を突き進む央崎たちの姿を見て、そして彼らを頭上から守るため蟻の群れへと向き直る。
 同じように、番場やヒズミたちも支援に回った。

 だが、まだ彼らは気づいていない。

 蟻たちの数が最初から減っていない事に……。いや、寧ろ数が増えているという事に……。


●地獄か極楽か

 蟻の群れに空いた穴を突き進み、真っ先にカゲロウへと辿り着いたのは央崎だった。
 央崎は空中にいるカゲロウに向かって刃を振るう。高速で振るわれた両の刃から衝撃波が生まれる。
 カゲロウも自らの手の刀を高速で振るう。
 空中で、衝撃波が炎とぶつかり弾けた。
「カゲロウさんっ! あなたは人のはずです。どうか聞いてください!」
 長谷川がカゲロウに訴えかける。
 一度は言葉を交わし、そして共に戦ったのだ。
 自分の言葉が届くと信じて、彼女は語りかける。
「あなたは何に突き動かされているのですか? 目標があったはずです。信念があったはずです」
 長谷川の言葉に、カゲロウは一瞬戸惑った。
「俺の……信念……」
「そうです。信念です。それにそぐわないのならば、このような無益なことは止めて、刃を下ろしてください!」
 長谷川は自らの言葉が届いたと、喜び続ける。
「俺……コロス……アクマ……テンシ……俺達を忘れた……ニンゲン……も……ダァァァアア!」
 再び刀を振るい、揺らめき見えざる炎の刃が長谷川たちを襲う。
「チッ! お嬢ちゃん。どうも駄目みたいだぜ」
 炎から長谷川を守ったのはデニスだった。
「なるほどな…様子がおかしいってのは、こういう事か……あいつ、何かに洗脳されてるんじゃねぇか?」
「っ、洗脳!?」
 デニスの言葉に長谷川は驚きと、ともに何か安堵を感じた。
「そのようですね。今なら分かります。皆さんがなぜあのヴァニタスに心を傾けていたのか」
 知楽がデニスの傷を癒しつつ、長谷川に笑いかけた。
「洗脳だと……、そんな風になったアンタを倒したかったわけじゃねぇ!」
 央崎が叫んだ。
「……ならば、本当のあの方へ言葉が届くまで訴え続けます」
 長谷川は意を決し、拳を握った。

 一方、蟻の群れを抑えていた御供が弱気な声を上げた。
「キリがねぇんだべさ〜!」
 先ほどから倒しても、倒しても、蟻たちの数が減らないのだ。
「これは……」
 流石に不信に思った番場も、言葉を詰らせる。
『志方です……重要なデータを……お伝えいたします」
 通信端末から、オペレータの志方 優沙(jz0125)の声がノイズ交じりに聞こえてきた。その内容は、彼らに戦慄を走らせる内容だった。
「……なるほど、ほぼ無限に増殖するのですか……」
『はい、前回、金庫に居た女王と同じように自らの兵士を分裂によって生み出せる個体が、その場にも潜んでいるようなのです……』
 志方の声に、番場は腕を組む。
「つまり、女王を倒さないとこのイタチゴッコに我々が負けるという事ですね」
 ヒズミは飄々と言うが、その目は笑っていなかった。

「私が見つけます」
 通信を聞いた知楽が他の撃退士たちに声をかけた。
 彼女は精神を統一し、周囲の生命反応を探る。女王が分裂をする瞬間、その時、一箇所に極端に生命反応が集まっているはずなのだ。
 隠れた女王を探す。
「――っ、見つけました!」
 知楽が女王蟻の姿を捉えた。
「邪魔もんは吹き飛ぶべ!」
 その指示に従って、御供は女王蟻の周囲の蟻たちを吹き飛ばす。
 女王は、孤立すると再び分身を作ろうと身を蠢かす。しかし、それでは遅いのだ。
 天空からメラクが女王の頭上に舞い降り、雷を落とした。
 蟻の女王は、その光に撃たれ沈黙した。


●幻の炎は消えて

「カゲロウさんっ!」
 長谷川が拳をストレートに突き出した。カゲロウはそれを寸でのところでかわす。
 かわした先に、央崎の刃が閃く。
 カゲロウはそれを刀と、背の炎の羽を使っていなす。
「チッ」
 央崎はバランスを崩しながらも、蹴りを入れる。
 カゲロウはそれを受け、衝撃を殺すように横に飛んだ。
 そして、着地と同時に刃を収め。居合いの構えを取った。

「させるかよっ!」
「させませんわっ!」

 カゲロウが居合いの間合いに離れると、央崎は一瞬で間合いを詰めて剣を振るう。同じように、央崎が間に合わないタイミングは長谷川がカゲロウの懐へと飛び込む。

 数合の後、カゲロウの背からは炎の羽が失われ、小さな羽根一枚となった。
「今度こそ、いくぜっ!」
 央崎が飛び込む。しかし、その大振りの刃はカゲロウには届かなかった。
 カゲロウはそれを待っていたかというばかりに、跳躍したのだ。そして、魔力を練り上げ炎の羽を4枚にまで回復させた。
 カゲロウの口元から血が流れ出た。そう、この力には無理があるのだ。命の炎を燃やすと言う制約が。
 血を吐くカゲロウを見て、長谷川が目を伏せる。
「そんな無茶をして……、すぐに止めて見せますわ!」
 決意と共に長谷川が飛び込んだ。
 カゲロウはその背の羽の炎を長谷川に向けて飛ばす。炎は円弧を描き、長谷川の周りを囲もうとした。
「長谷川っ」
 咄嗟に、央崎が長谷川を突き飛ばした。
 炎の円は閉じると、そのまま中に居た央崎とカゲロウの二人を閉じる牢獄となった。

「央崎くん!」
 ヒズミが炎の檻を壊そうと銃弾を浴びせ、番場が魔法を撃ちこむ。それでも檻は未だ健在だ。
 中では、背の炎を刀に込めてゆっくりとカゲロウが上段の構えを取る。
「……いいぜ、来いよ!」
 唾を飲み、央崎が両手の刃を強く握り締める。あの一撃を受ければ一たまりもないだろう。それでも、央崎は構えた。
「カゲロウさんっ! 殺戮衝動に身を任せ、目の前の敵を破壊しては駄目っ!」
 長谷川の叫びは懇願にも近かった。
「……駄目だ。壊れないっ」
 ヒズミの声にも焦りが混じる。

「……この、わからずや!」
 長谷川は叫ぶと同時に、炎の檻に拳を打ち込んだ。
 驚異的な速度で放たれたそれは、黄金の輝きを見せ。インパクトと同時に檻を破砕した。
「あとは、任せましたよ」
 長谷川の声と共に爆発が彼女を飲み込んだ。

 カゲロウは檻が破られたのを察知すると、全身全霊をかけて刀を振り下ろした。
 その刃は央崎の命を焼き尽くすだろう。

 だが、

「やっと……捕まえたぜ!」
 央崎を斬るはずの刃は、デニスの身体に埋まりその軌道を止めた。長谷川が檻を破壊しなければ間に合わなかっただろう。
 デニスは、刀が刺さったままの身体で、拳を振り上げカゲロウに叩き付けた。
 完全に意表を突かれたカゲロウは、刀を放して吹き飛んだ。
 カゲロウが起き上がると、ゆっくりとデニスは地に臥した。
「アンタにはいずれ勝ちたい。そう思ってた。だから、仲間たちの作ってくれたチャンス、決めてやるぜ!」
 央崎の刃はカゲロウを切り裂いた。
 そして、ゆっくりと、カゲロウは仰向けに倒れたのだった。


●揺らぐ世界

「……ここは……」
 カゲロウが目を覚ました時、何故か人間たちがディアボロから自分を守っていた。
「目が、覚めましたか」
 癒しの力を使っていたのは知楽である。
 カゲロウは無言で頷く。
「良かった、どうやら正気に戻ったのですね。あなたには人間の心を持ったままで居て欲しい」
 負傷し立ち上がる事は出来ないが、横たわった長谷川が微笑む。
 カゲロウはその笑顔に目を伏せる。
「……お前達は本当に、お人好しだ……」
 彼の脳裏に映ったのは、群馬の故郷と家族、友人達の姿だった。
 誰も彼もが平和に、暮らしていたのだ。
「俺は、復讐を諦めては居ない。その復讐の相手には、天魔だけでなく、故郷の事を忘れた人間たちも入っている。

 だから、今、ここで、

 ―― 俺を殺せ」

「嫌だね。またいつか闘おうぜ。真正面で刃を向け合うか、背を預けて別のを共に討つか、どっちでもいい」
 最後の蟻を切り伏せ、央崎が歩いて来た。
「今度は、本当の一対一で戦えるくらい、俺は強くなってやる」
 央崎が手を差し出した。
 その言葉に、カゲロウは再び。

「お人好しだ……」

 と呟き。手を伸ばす。
 互いに差し出した手が、重なる……事は無かった。
 カゲロウの手は空を切り、そして倒れた。
 その胸には槍が突き通ったかのごとき風穴。

 誰もが言葉を失った。

 そこに天から言葉が降ってきた。
「所詮、出来損ないのヴァニタスか……まぁ、それなりの余興にはなったか」
 悪魔、トゥラハウスは自ら止めを刺したヴァニタスを一瞥すると、直ぐに興味を失った。
 彼にとっては、本当に取るに足らない存在だったのだ。

「テメェ!」
 央崎が怒りを露に剣を振るった。その衝撃波をトゥラハウスはなんなくかわし、腕を組み撃退士たちを見下した。
「そうだ、人間ども! 折角、群馬の結界を開けてやったのだ。せいぜい、ぶざまにあがくがいい!」

 それだけ言い残し、悪魔は去っていった。
 撃退士たちはついに遭遇したのだ。

 群馬を統べる悪魔に……そして、かの悪魔は今なお、悪意の策謀を練り続けている――。



依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: 紫電を纏いし者・デニス・トールマン(jb2314)
   <味方を庇って敵の全力攻撃を受けた>という理由により『重体』となる
 勇気を示す背中・長谷川アレクサンドラみずほ(jb4139)
   <味方を助けるため炎の檻に突貫した>という理由により『重体』となる
面白かった!:8人

無尽光の徒・
央崎 枢(ja1472)

大学部4年44組 男 阿修羅
撃滅のガンスリンガー・
ヒズミ・クロフォード(ja1473)

大学部4年117組 男 インフィルトレイター
紫電を纏いし者・
デニス・トールマン(jb2314)

大学部8年262組 男 ディバインナイト
無尽闘志・
メレク(jb2528)

卒業 女 ルインズブレイド
炎熱の舞人・
番場論子(jb2861)

中等部1年3組 女 ダアト
勇気を示す背中・
長谷川アレクサンドラみずほ(jb4139)

大学部4年7組 女 阿修羅
智謀の勇・
知楽 琉命(jb5410)

卒業 女 アストラルヴァンガード
モーレツ大旋風・
御供 瞳(jb6018)

高等部3年25組 女 アカシックレコーダー:タイプA