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マスター:小田由章
シナリオ形態:イベント
難易度:難しい
参加人数:25人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/05/01


みんなの思い出



オープニング

●冥魔が残した物
 山梨県のとある田舎町に潜み、コレクターと仮名を付けられた冥魔。
 彼の討伐に際し、撃退士たちは二つの物を手にした。
 一つは水晶剣、魂を呼び集め、いずこかに持ち去る魔剣。
『どうじゃ、なんぞデータは採れたかね』
「さっぱりよ。どうもプロテクトが掛けられていて、登録された冥魔以外は機能を発揮できないみたいね。持ってるだけで力吸われてるから、壊れて無いのは判るけど」
 移送を手配した撃退署員も、プロテクトがあるらしいと聞いてはいた。
 だが、学園の研究所ならば、なんらかの手掛りくらいは判ると思っていたのだが…。
『ふうむ。他者に預ける事もできるし、エネルギー供給の為に多少の能力低下が判ったくらいでは、焼け石に水か』
「今の所は、低下率に相性差があるくらいかな?まだ機能の封印が解けてないから、他の機能の推測が正しいのか、単に個人の能力なのか、まるで判んないけど」
 この件は、使い手のエネルギー供給を受けて機能し始めるらしい。
 上位冥魔の能力が低下するとなれば朗報な気もするが、ゲート作成と違って、手放せば低下もなくなる。
 戦闘力の強化や、広範囲を無い払う技などが機能の一部であるのか、単に個人技なのかも不明…。

 話を聞く限り、こちらの方面は頭打ちの様だ。時間を掛けて、探ってもらうしかない。
 となれば、二つ目の話題に移行するのが妥当だろう。
『デメリットの方が多いなら使ってはおらんか。まあ、個体認証があるなら量産向きではないとプラスに見ておくわい。んで、もう一つの方は?』
「そっちは済んでるわよ。新しいサンプルも古いサンプルも、ほぼ同じ人物達の物。そして、その場で作成できる代物じゃないわ」
 コレクターが持っていたのは、もう一種類存在した。
 それは人間から採取したサンプルで、魂か何かを研究する為の物だという。
 実際にどこまで把握可能なのかは判らないが、読心の術や探査系の術と組み合わせて、詳細を調べていたようだ。
 そして重要なのは、そのサンプルが新旧同じ物であるという事実であった。
『と言う事は、浚われた人たちの内、一部はサンプルとして生きおる可能性があるのじゃな?』
「ゲートでの変異例もあるから、五体満足とは保証しかねるけどね。経過を見たり、再確認の為にも、生きている可能性は高いでしょうね」
 実際の話、話を持ちかけた撃退署の職員は、その場所を突き止めては居た。
 だが、冥魔の防備がどこまで厚いのか不明であり、重要な拠点ではないことからも攻めるべきか悩んでいたのだ。
 しかし、救助可能であるならば、話はまったく別物になる。

●工場に満ちる、魂と悪意の天秤
「冥魔の小拠点が見つかったのじゃが、協力を求めたい。少々危険を伴うが、浚われた人が生きておるようなのじゃよ」
「それは確かに、助けてあげたいですよね。場所はどんな感じなんですか?」
 山梨県の撃退署に所属する職員が、依頼を持って来た。
 内容的には山間に潜むディアボロの討伐だ。
 問題なのは、救出側であるこちらは遠慮なく攻撃出来ない点にある。
「場所は地価の易い山間の村落にある廃工場で、元はコンクリート製品を製造しておったようじゃな」
「ああ。道を作る時に埋めるアレですね。確かにあんなのを作る工場だと、広いでしょうねェ」
 コンクリートを製造する為の材料…、砂の貯蔵庫、セメントのタンク。それらを混ぜて他の製品を作り出す場所。
 更にそれを暖めた後、長期間にわたって保存する場所があった。

 ショッピングモールと同じくらいの平屋と思えば簡単そうだが、製品を山積みにして保存している分だけ、視覚を遮る物が多い。
 殲滅するだけならそれでも難しくは無いが、捕まった人を救助するなら神経を使う作業に成るだろう。
「周辺の住民は、既に避難しているか、さもなければ捕食の被害におうておる。…じゃからこそ、人の出入りが少なく、たむろする場所足り得たのだろうがの」
「なら話は簡単だ。ディアボロに逃げられて、村の被害が広まる心配は無い。心配するのが村か、それとも救助する相手かの差だと思えばいいさ」
 村は意図的に造られた無人状態なので、そちらを捲きこんだり、することはない。
 残る心配は…。
「そう話が上手く行けば良いんだけどな…。どこに捕まってるか次第だろう。人々はどこに捕まってるんですか?」
「おそらくは工場内の、製品を暖めておく小部屋じゃろうな。個別に別れており、締めきることが出来るので閉じ込めておける」
 地図を取り出すと、広い敷地の真ん中に、スーパーマーケットくらいの建物がある。
 そこの半分が幾つかの部屋に個別切りされていた。

 望遠で移された写真には、シャッターが降ろされたままになっており、手前に怪しげな紋様が描かれている。
 その紋様が何らかの魔法陣であるならば、どんな魔法であるかは別にして、本命の可能性は高いだろう。
「全体としては、見張りを倒した後で、一斉に突入。救出班と、殲滅班に分かれるってとこかな?」
 入口は人が使う表門と、材料搬入口と製品出荷場を兼ねた裏口の二つ。
 どちらにも動物に偽装したディアボロが居り、見張りと門番を兼ねている様であった。
「基本方針はそんなもんでしょ。あとはメンバー次第で良いんじゃない?」
 突入すれば当然、潜んでいる敵も向かってくるだろう。
 表門は工場に近いが見晴らしが良く、裏口は周囲が製品置き場になっている分だけ視界を邪魔する物が多い。
 どちらを選ぶのか、あるいは両方であったり飛行や透過で別口を使うのか。
 その辺りはメンバーの個性に寄るので、話はここで切り上げることになった。


リプレイ本文

●廃工場強襲戦
 山梨県のとある山村、そこに広大な工場がポツンと存在していた。
 かつて、バブル期やハコモノ時代には繁盛していたであろうコンクリート工場も、いまでは廃工場である。
「ほんっとー、広いな。これが全部ゴミの塊に化けるのか」
「道路が大規模に落盤を起せば別だけどね」
 向坂 玲治(ja6214)の呆れた声に狩野 峰雪(ja0345)は自嘲気味に苦笑した。
 かつて高価な商品だったセメントの塊も、こうなってはお仕舞いだ。
 商社に勤め続けていれば自分もこうなったか、それとも、売り切る為に奔走しただろうか?
「だけどそれも、これでお仕舞いだ。拐われた人を助けて、研究結果か本拠地のヒントがあればありがたいね」
「その辺りはぜひとも欲しいトコだけどな。…時間か。行くぜ」
 峰雪が時計を見ながら話を打ち切ったので、玲治は仲間の方に振り向いた。
「せいぜい引き付けるとするか。こっちが繰ろうすればするほど、裏口が楽になる」
 そこには月詠 神削(ja5265)たち、そこには今回のメンバーの約半数が控えていた。

 表口から陽動襲撃を掛けるメンバーが揃い踏み、敷地内へ強襲を心待ちにしている。
 だが敵を倒す為にあらず、その目的とは…。
「あくまで救出がメインだ。欲かいて殲滅しようなんざ夢にも思うなよ」
「おうさ。その辺は心配スンナ。ただ…、おとーさんの威厳を見せんといかんのでな」
 玲治の確認に麻生 遊夜(ja1838)が不敵な笑みを浮かべた。
 脳裏に描いた武装をその手に、二丁拳銃を現出させる。
「さて、派手に暴れようか!遠慮は不要だぜ」
「陽動だー、暴れるぞー!」
「「うんうん!」」
 遊夜が音頭を取って先行すると、来崎 麻夜(jb0905)たちも走りだした。
 呼吸のあった彼女達は、即席のチームとはひと味もふた味も違う動きで、正門前に躍り出る。
 まずは見張りを倒し、次は門番、そして駆けつけてくる敵だ。
「さぁ、黒くなろう?ボクより黒く、真っ黒に」
 麻夜は散歩に出た子犬のように飛び出すと、クスクスと笑いながらアウルを滲み出す。
 身体の内からほと走る力を握り締めて、見張りとして控える獣型を黒の領域に叩きこんだ。
 塗り込められ、絶命して行く獣を踏みしめて絶好の位置を確保!
「ふふっ、邪魔はさせないよ!」
「ここは、通さない」
 麻夜が占拠した立地を確保すべく、ヒビキ・ユーヤ(jb9420)がブーンブーン。
 鉄球を振りまわしながら周辺の雑魚を薙ぎ払い始める。
「此処は貰った、渡さない。ビィ、こっちこっち」
「……キャンプできそうっ…みんなで、お泊り…したいな」
「ははっ。それも良いな。だが、その前に給料分の仕事をしねーとな…お出ましだぞ」
 ヒビキの後を追いかけて麻生 白夜(jc1134)がダッシュ。
 見晴らしの良い正門からは、自分達だけの王国が広がっている…。ここなら他に誰も居ないねと本音を漏らす白夜に、遊夜は軽く頷いた。
「あ、おっきなワンコが来た。これは流石にボクたちだけじゃ難しいかな?ざーんねーん」
「協力しよう。…やっとここまで来たか。時間少し経っているのが怖いけど…助けれる人がいるなら助けたい…」
 何が出るかな♪と麻夜が楽しそうに出迎えたのは、二つの頭を持つパワフルそうな門番だ。
 同じ獣型とはいえ、サイズも速度も違う。自分達だけで遊べないのを残念そうにする彼女へ、神速の剣豪・礼野 智美(ja3600)たちが協力を申し出る。
「捕まった人を助ける!でも、まずはその前に!」
「門番であり、この辺りのリーダー犬でしょうか?全力で行きますわよ!トップから叩きましょう!」
 剣を翻す智美に、長谷川アレクサンドラみずほ(jb4139)は拳を固めて歩みを重ねた。
 並び立って前衛を受け持ち、軽快なステップで踏み込んで行く。
 この双頭獣を倒さぬ内は、工場へ進むことなど出来ないのだから!
「白熱してる所に悪いが、団体さんのお着きだぞ」
「なら私がやっておくわ。…火葬してあげる。六道赤龍覇!」
 そして双頭獣だけが敵ではない、神削の指摘通り小鬼や通常サイズの獣が殺到。
 彼が放つアウルの吐息に引き続き、闇の戦慄(自称)・六道 鈴音(ja4192)が火柱を焚き上げた。
 それは炎の渦を作りだして、周囲を薙ぎ払って行く…。

●バックドア
 正面口に強襲を始めた表班の動きは、離れた位置へも剣激や銃声として響き渡る。
 その音を意外な近さで聞いている者が居た。
「(始まったな。…そろそろこっちも頃合いだが)」
 ジョン・ドゥ(jb9083)は物影に隠れるどころか、全体を隠して工場傍まで辿りついていた。
 地面から顔を出し、態勢を固定した後で阻霊符へ意識を切り替える。
 コレを起動させ物質透過を打ち切るのは、周囲を確認してからだ。
「(もう始めちまっていいぞ。俺はもう少し数が減ってから、中に顔を覗かせてみる)」
『表が動いたか。では俺達も行くとしようか――幕引きに』
 見つかり難い場所を見つけて移動したジョンは、意識を符に集中させて地上に躍り出る。
 彼の言葉にリョウ(ja0563)が無線越しに応え、周囲に何かの言葉を掛けていた。
 細かくは聞き取れないが、裏口班が行動し始めたのだろう。
「(さあて、連中が到着するまで、アレの考察でもしとくかな…)」
 レポート提出には面倒だが、単に考えるだけならジョンも嫌いでは無い。
 いや、むしろテストには向かないような考えを巡らせるのは好きな方であった。

 十以上に個別区切りされた部屋、その正面に描かれた魔法陣を見つめて、思いを巡らせ始める。
 それはトーナメント表のように連なる、無数の天秤のように見えた。
『(聞こえるか?小さな天秤を連ねたような魔法陣が複数あって、魂吸収と何かを並行して行ってる。明らかに別系統だから、みた瞬間に壊すんじゃねえぞ)』
「(了解しました。ということは、魂吸収の数値は探知機にも応用してますね。もう片方に何を利用しているかも判りませんし、注意して解除します)」
 ジョンの小声を御堂・玲獅(ja0388)が受け取り思案し始めた。
 魔術システムの複雑さやフェイクの可能性を考えればキリがないが、そもそも、ここは隠蔽されている事が前提の場所だ。
 それほど面妖な物は無いだろう。問題なのは『何に』使っているかだ。
「天秤を連ねた。…モールド飾りみたいな物かしら。集合形式でないなら、何かの確かに平行型なのでしょうけど」
「ふむ、救出先に魔法陣かぁ…。罠もありそうだし興味は尽きないけど、後ちょっとだし、コイツを片つけてからかな」
 首を傾げる玲獅の事番、ジェラルド&ブラックパレード(ja9284)は指先を動かしながら対応する。
 引き金を引き続けて近くの小屋から飛び出した小鬼達を葬り、裏口の門番である双頭の獣に挑む仲間の援護を行っていた。
 この個体も表口同様に、特殊能力こそないが割と強力な相手である。
「それじゃあ、オーケストラの開演といこう☆音を控える必要もなくなったし、こじ開けるのに手控える必要も無いからね♪」
「判ってますよ。それに『アレ』を運び込むのに邪魔だから、とっとと居なくなって貰いましょう」
 ジェラルドが唄うように全力攻撃を促すと、佐藤 としお(ja2489)は抱えられる以上の銃器を取りだした。
 無数の銃はそれぞれが独立して行動を始め、一斉に砲火を開いた!
「何が魔法陣だ。魂を天秤に掛ける事自体間違ってんだよ……!!」
 としおの怒りを体現するかのように、猛射が獣型の頭を一つ吹き飛ばした。
 門番と言う事もあり、生命力に旺盛な個体だが、流石に火力を集中されてはどうにもならない。
 無数の銃を操る彼だけではなく、他の仲間も攻撃を次々に叩きこんでいるのだ。
「邪魔者は?必要なら何人かで抑える必要があるが」
「援護なし!このままで問題ありません。大半は表口に向かったようです」
 リョウの後方確認に答えつつ、水葉さくら(ja9860)が双頭獣へ獣自身の名前を持つ銃で弾丸を叩きこむ。
 やはり、表口で先に行動を起こした事もあり、駆け付ける援軍が少ないのも影響しているのだろう。
『こちら佐藤。門番をクリアーしました。工場内に突入しますが、おっつけ『アレ』の搬入をお願いします』
『了解!』
 門番を攻略した段階で、としおが後方のトラックへ連絡を入れる。
「アレって何ですか?」
「ああ。ストレッチャーていいって、病院で急患に使ってる人間大のカートのことをそう言うんだ」
「すぐに覚醒するとは限らないからね♪さて、それはそれとして。ここから先は荷物が山盛り…どうしたものかな」
 さくらの質問に、としおとジェラルドが交互に答える。
 積み上げられた道路側溝の山は、それぞれが跳び箱や棒高跳びに匹敵する高さだ。
 少しずつ進むのは簡単だが、ここで時間を掛けたのでは何の為に表口組が囮になったのか判らない。

●工場を目指して
 この地の主将たるコレクターは、もう居ない。
 だが、不在時に襲撃された場合の指示が無いとも限らない。此処から先は時間との勝負だろう。
「それでは、上から把握いたしますの。そちらでも斥候を出していただければ、双方からバッチリ把握できますの」
「なら、そこは引き受けましょう。僕達で先行すれば、探知系の節約もできます。その上で判り難い場所に使用してくれればいい」
 材料庫の壁を歩き始めた紅 鬼姫(ja0444)が立体案を提案すると、神谷春樹(jb7335)が斥候を引き受けて前に出る。
 多角的な偵察をしつつ進めば、少しくらい見え難くとも、どちらかが察知できるだろう。
「なら近づく奴らは私達の出番と言う訳だな。多少強引だが駆け抜けよう」
「そんな危険な目には合わせませんけどね。でも、せっかく陽動班が頑張ってくれてるんです。急ぐことには賛成します」
 川内 日菜子(jb7813)が拳を打ちつけて意思を示すと、それより先に春樹は走り始めた。
 ここで前に出てもらえば心強いが、主戦力達を傷つけさせては何の得にもならない。
『相談は終わりですの?それでは管制を開始いたしますの、早速ですけど足元に小鬼が数体ほど』
「確認した。暫くの間、斥候より先行して処分する」
 通信に切り替えた鬼姫からの報告で、日菜子は拳を握り締めた。
 このレベルの敵に技など要らぬ、多少の危険が伴おうとも、必要な時に全力振るう為に今は温存しておく。
「人が人たり得るモノを玩んだ貴様らを絶対に許さない。例え…何も知らぬ手下であろうとも!」
 パン!と日菜子の拳が同時に繰り出される槍を弾く。
 最も深い一本を打ち落とし、首筋を狙う見え見えの一撃を頭を振ってかわす。
 掠るだけの浅い一撃は放置して、返す刀で顔面に一撃叩きこんだ。
『フォークリフトの影に…うーん、あの位置は良く見えませんの』
「こういう時こそ出番ですのでお任せください。…やはり二匹ほど隠れて居ますね。どうしますか?車ごと…」
 鬼姫の位置から見えない玲獅が探知系を利用して、隠れている数を測った。

 いっそのこと、燃えない様に注意だけし破壊を考えた処で、割って入る声がする。
「いや。サンプルにされた人間を移送する手は多い方が良い。壊されるのは困るな…何人かで回り込んで、確実に仕留めるとしよう」
 彼女の声を遮ってファーフナー(jb7826)は近くの仲間を手招きした。
「私達でやるわ。サンプル…実験動物みたいに、絶対許さない。行くわよ透次」
「そうだね姉さん…必ず、助けよう。例えどんな危険が待っていても」
 陽波 飛鳥(ja3599)に連れられて、陽波 透次(ja0280)は軽快に進み出た。
 無造作とも思える行動に対して、隠れ潜んだ小鬼が小剣で……。
「おっと。この書物はね、こういう時に使う為の物なんだ。サヨナラ」
 透次は周囲にカードを現出させると、それを刃に換えて迎撃する。
 神足を越える神足によって、奇襲を掛けたはずの小鬼よりも先に斬り割いたのだ。
 狭くて振るい難い物置きの間を滑るように、刃が敵を始末する。
「トドメを…。っと行ったよ。後はお願い」
「はーいっと。狭い所で不利ならそりゃ逃げ出すわよね。…でもまあ、私達が逃がすはずは無いけどさ」
 透次の所から逃げて来た小鬼を、飛鳥は鞘についたままの刀で殴打する。
 そしてもう一匹が遅れて逃げ出して来ると、鍔を僅かに切って濃密なアウルを結集させた。
 アウルで出来た刃が、さながら居合いであるかのように小鬼を絶命させる。
「思わぬ所で時間を食っちゃったわね。このまま工場まで突っ切るわよ」
「材料庫の他に型枠蔵とかの残敵も相当してるし、あとは表組と工場内で合流って感じかな」
 飛鳥が時計を見ながら時間を測ると、割と時間が立っている。
 透次が見渡した所、裏口組は手分けして怪しい場所を無力化しながら、工場へと進んでいた。
 これならば後ろから狙われる事も無いだろう。
 残る目的…。目指すは工場、表組と合流しつつ囚われた人々を救助する為である。

●ルートの確保
 そして裏口班は、突入前に表のメンバーに通信を送った。
『こちら裏口班の水葉です。先に辿りつきましたので、先行しますね』
「(やっぱり向こうの方が少しだけ早いか。まっ仕方ないかもね)」
 さくらからの通信を受け、アルベルト・レベッカ・ベッカー(jb9518)は銃を構えて苦笑した。
 大ぶりなライフルを抱きしめるようにして狙撃を繰り返しているが、何度引き金を引いたか判らないほどだ。
 それほど強い相手ではないが、間断なく敵がやって来るため、表口の方が工場に近いにも関わらず出遅れている。
「だってさ。どうする?向こうに任せちゃっても良い気がするけど?」
「そうもいかんだろう。まだまだ強い奴は居るだろうし…。人質にされたり、処分されては何のために救出にきたか判らん」
 アルベルトのあざとい流し目に、鐘田将太郎(ja0114)はどう反応したものか悩んだ。
 咳払いしてみなかった事にしつつ、新手に向かって飛び出すと、大声を張り上げる。
「救出は裏口担当の仲間に任せるぜ。こっちでも助けに行きたい連中は、早く行け!」
「すいません。お任せします!」
 将太郎が祭りでも始めるかのように敵中に飛び込むと、惹きつけながら工場より離れて行く。
 そんな彼にすまなさそうな顔を向けつつ、廣幡 庚(jb7208)たちは意を決して進み始めた。
「やっぱりそう来るか。私達の役目は陽動と足止めだもんね。…ルートをこじ開けるから、暫く射界に飛びこまないよーに」
「…せめてもの援護を。改良されてない限り小鬼や獣達はこれで動きを制限できます。残る方も共に進む方も、お気をつけて!」
 それを見ていたアルベルトも、仲間達を支援すべく工場に続く道の敵を始末し始めた。
 庚はその道を確実なものにすべく、手に天の輝きを降ろして照らし始める。

 ディアボロ達はその輝きを見ると、顔を背けて注意力が散漫になっていく。
 海が割れるようにとはいかないが、ハッキリとした道がそこにあった。
「おとーさん。…空いた、よ。あとは、なか?」
「入口から内部まで、手当たり次第にぶん殴れ。裏口方面の敵も引き寄せれれば最上かねぇ」
「わーい。景気がいいねいいねェ」
 後ろで見ていた白夜の声で、遊夜は家族のみんなに号令を掛ける。
 大黒柱の声を受け、麻夜たちは走り出した。
「あとどれくらいいるのかなー?」
「ふふっ、こうしちゃえば何と出会っても同じじゃないかな?うふふ…さぁ、遊ぼう?」
 麻夜が小鬼達を闇の中に平らげながら進むと、ヒビキは後ろから迫って来る獣の首をバチコーン!
「ん、他の人もいる、大丈夫。安心して遊んで、いい」
「邪魔…私の糧になって?」
 ヒビキに守られながら、白夜は再び演奏を開始した。
 言葉を操るのは苦手だが、こっちは大丈夫。
 うん、といい感じに朽ちて行くディアボロを見ながら、頑張って笑顔をしてみた。ちゃんと笑えた、かな?

 こうして戦況は二つの入り口から、完全に工場周辺に移行した。
 後少しすれば、戦いは工場内に絞られるだろう。
「うーん。家族っていーな」
「そういうのは後にしろ。ここを保たせるぞ。連中が出てくるまで、撤退路を維持するぜ」
 アルベルトの羨ましそうな声を遮って、将太郎が殿軍を引き受けて仁王立ちになる。
 結構な数を倒した事もあり、撃退士にとって脱出は簡単だ。
 だがしかし、助け出した一般人にとってはそうもいかぬ。奇襲されて喰いつかれれば危険どころではないだろう。
「できるだけ戦闘員を全て引き付ける…だな。倒すだけならともかく、一匹も通さないのは難しいが…やり遂げよう」
「面倒くせえが、誰かがやらなきゃな」
 智美は流れる汗をそのままに工場へと向かう獣に切りつけ、玲治は振り向きもせずに影から顔を出した小鬼を砕く。
 敵影は既に少なく、思わず自分も工場へと走りたくなるが、それではこの場所を守れない。
「(今回の山梨の事件、本当に後味悪いもんなぁ…)」
 智美は他県よりもはるかに多い、山梨での捕食事件を振り返った。
 帰る時は皆で、助け出した人々と共にある為に、個々に立つ。
 助けられる人は、可能な限り助けるために、今はただ踏み留まった。

●合流、共に敵を討て!
 そして工場に向かった一同に、開け放された扉が見える。そして先ほどから轟音が聞こえ始めていた。
「全員、無事に助ける!私達も無事に帰るんだ!」
「勿論ですよ。終わったら、傷だらけの人たちを回復しないといけませんね」
 鈴音が扉をくぐる前に風の結界をまとって気炎を上げ、庚は手にある光を消さぬように注意しながら工場を覗きこんだ。
 どうやら裏口組が飛び込んで、工場内に潜む小鬼たちに一撃叩きこんだ所の用だ。
 今ならば援護しあって、有利に戦いを進めることができるだろう。
「…第一目標、クリア。ここで踊ってるから、一曲お願い」
「うん。判った…。近づけさせない、でね」
 ヒビキが扉に陣取って最終ラインを築くと、白夜は口籠りながら心配の言葉を隠した。
 上手く言えないけれど、外から中にディアボロが来ないなら、それは良い知らせだろう。
「大物残ってる?間にあったかなぁ」
「そのようですね。我々は大物退治の援軍に向かいます。救出は任せますの」
 麻夜が嬉しそうに飛び込むのとは対照的に、みずほは右に左にステップ踏んで近づいて行く。
 見れば裏口組もまだ辿りつけて居ないようだ。
 思ったより数が残っている事に加えて、敵の魔法攻撃も厄介なのだろう。
 魔法の援護というのは、味方側に有れば心強く、敵に有れば厄介なモノだ。
「お待たせしました!」
「待ちかねたぞ!さあ、共に闘うとしようか!」
 みずほと日菜子は拳を打ちつけ合ってご挨拶。
 それが終わると近くの敵にワンツーを叩きこんで行く。それが左右同時に放たれて、倒す速度がやや異なる程度であった。

 裏口組だけであれば時間が掛ったのだろうが、表口組が合流したことで一気に加速したのである。
「さあ、お前達の天敵がやって来たぞ。撃退士が…じゃない、明日への希望が此処にやってきた!」
「くっ。先に言われた……。いや、私はそこまで言うつもりは…」
「満更でもない顔で否定しても無理だと思うよ姉さん…。というか全部聞こえてるし」
 吠える日菜子に飛鳥がつられそうになったが、その隣で透次が肩をすくめた。
「そういうことは言わなくていいの。んじゃ、遠慮が要らなくなった所で、ガンガン攻めるとしましょっか」
「…最初から遠慮しているつもりはありませんの。単に戦力の集中度合いと、加速度の問題ですの。ランチェ……」
 飛鳥は鬼姫の正論を置き去りにして、当たるを幸いに暴れまくった。
「今よ、ぶちかましなさい!」
「はいはい。今から行きますよ!」
 飛鳥が敵を求めて裏口側や個室側に右往左往するのを、透次は追いかけながら敵を始末して行く。
 脳裏に最悪の事態を幻視しながら、その悪いイメージを振り払うように冷たい瞳を浮かべてアウルで作った円陣を広げ、周囲を薙ぎ払い始めた。
「なんとも派手な事だ。…無理に個室をこじ開けなくても良い、こちらの制圧も、後少しだ!」
「悪目立ちですのね。では、こちらも便乗しますの」
 リョウと鬼姫は、暴れ回る陽波姉弟に習うことにした。
 槍を振りまわし、あるいは両手に剣を構え、踊るように工場の中を荒れ狂う。
 数体で迫る小鬼を協力して蹴散らし、工場の中に開けたスペースを作り上げて行くのだ。

●マジカルブレイク
 実際の話、勝敗の行方は既に決している。
 此処から先に流す血は、確実に人々を救出する為の血だ。
「爆破、ガス、封じ込め…ボクならそういう罠を仕掛けるからねぇ☆此処に来て油断するのは止めよう♪」
「そうですわね。ここで死なせてしまっては、何の為の闘いか判りません。魔法陣の判別はつきましたか?」
「確信は持てないけど…」
 ジェラルドに背を守ってもらいながら、玲獅は先に到着していたジョンに尋ねる。
 彼はクレーンを吊り下げたキャットウオークの上より、周囲を観察していたのだ。
「見た感じ、力の何割かが戻って来てるんだよな。もしかして、徐々に吸い上げるのと同時に、回復もやってるんじゃないか?」
 回復力を高める魔法陣を動かしているのかも?とジョンは推論を出した。
 魂の流れ自体が、警報機であり、トラップに成っているということ。爆弾トラップで言う、赤か青かの選択に近いシンプルさだ。
 シンプルなだけに解除は難しく、間違えた方を破壊した場合は大変な事に成る。
 ただし、それは玲獅のような癒し手が居ない場合の話だ。
「捉えた人を長持ちさせると同時に、迂闊に壊すと、急速な衰弱をさせる言う事ですね?では探知と魂の保護を併用してみましょう」
「そういうことなら、コイツの出番だな。何箇所か空けてみて、場所が特定できればリフトでこじ開けれる」
 玲獅は生命探知で人が居る場所を壁越しに特定し、その場所に魂の定着を試みようと提案。
 それに対応してファーフナーは、先ほど確保したフォークリフトを指差して外から壁を破壊しようと案に補足する。
 部屋の構造自体は、ブロック塀をセメントで封をしただけだ。簡単に崩せそうであった。
「あー物理的に解除できるならそれにこしたことはないかも。…だけど、魔法で試した後で、こじ開けても大丈夫と判ってからにしてください」
「無論だ。だが、可能であるならば手早く済ませるに越したことは無い。あそこで死にかけている鬼が何かしても困るからな」
 としおの懸念ももっともだと思いつつ、いざとなればファーフナーは躊躇なく行動する事に決めた。
 ここの代理指揮官である大角の鬼は、現在進行形で退治されつつあるのだ。
 前衛である小鬼も底をつき、遠距離攻撃のみならず白兵戦を挑まれているようだった。逃げるなり、起死回生のために罠があるなら起動させてもおかしくはあるまい。
「概ね配置は掴めました。最初の数部屋は魂保護、次は陣の機能そのものをまとめて止めます。余り使用できないのですが…」
「その数回の内にパターンを見切りましょうか。さて、足腰の無事な人は、移送に協力してください」
 玲獅がチョークで位置を示すと、スキルを起動しシャッターを解放する。
 その間に春樹たちは小部屋に突入し、頬を叩いて覚醒させ、無理な物はロープで身体に括りつけて移動させる。
「動けない人の数が多いですね。本格的な戦闘と同時にしなくて良かった」
「心配スンナよ。ラーメン奢ってくれるなら、幾らでもやってやるぜ?助け出せたんだ、そのくらいの苦労は買って出るさ」
 春樹が屈みこんで一人を連れ歩くと、としおはガッツポーズで請け負った。
 同じように何人かの仲間達が部屋に飛び込んで、次々に人々を助け出し、あるいはリフトの上に載せていく。

 その間にも大角鬼は追い詰められ、いつしか崩れ落ちて居た。
 いや、強化されているとはいえ、良く保ったというべきだろう。
「これで…KOですわ!」
「終わりだな!…救出が終わるまで、現状を確保するぞ」
 みずほと神削が最後のトドメを担う。
 強化された鬼を殴り倒した後、残った護衛の小鬼をまとめて粉砕して行く。
 これまでの戦いで何度か巻き込んで居る事もあり、意外なほどアッサリと残りも片ついた。

 元々がさして強くない小鬼が相手とあり、気が付かずに一般人へ奇襲される方が怖い。
「暫く警戒していますので、救助や捜索に専念してください」
「そうしてもらえるとありがたいね。僕は資料でも漁るとして…しかし『コレクター』の情報収集能力は本当に優れていたんだね。こういった廃工場を見つけ出したり…」
 さくらの申し出にありがたく頷いて、峰雪は魔法陣で作った天秤模様の頂点まで移動した。
 先ほどまで鬼が守っていた所だが、そこには魂が収集されているのだろう。何かを測るモノがあるのだが、流石にこれでは良く判らない。
 破壊すると間にあう分の魂は本人の元へ戻れば良いが…。と思いつつ、情報収集役の冥魔に心を馳せた。
「まだ何かあるのか?」
「いやね、こういう場所が他にもあったり、周囲を喰らって物理的に作り出したりを考えると、ゲートの特定が面倒だなと思ってね」
 神削の問いに峰雪は頭をかきながら説明する。
 冥魔は強さばかり強調されているが、山梨の敵は奔放さと狡猾さが同居している。
 幾つあるのか知らないが、山間にこんな施設を確保したりしていれば、ゲート以外にも拠点足りうるのだ。
 ましてゲートは力量次第で内部構造を好きにいじれるとあって、頭の痛い問題である。
「今は無事に助けれたことを喜べばいいと思うよ?捜索は次のステップじゃないかな」
「まあ、それを探して突き止めるのも仕事の内だからな。俺達でなんとかできるなら、やり遂げれば良い」
「それしかないよね。こうやって邪魔するだけでも随分と違うし、一歩ずつ片つけて行くとしますか」
 鈴音や神削の言葉を聞きながら、峰雪はもう一度捜索をして、後は適当に切り上げた。
 救出組も作業が終わり、ストレッチャーやリフトが最後の往復をしているのが見えたのだ。
 そのうち、こっちにも撤収指示の連絡が来るだろう。
「ついでだ、載ってくか?」
「それよりも、煙の方に興味があるね。今は一服したい気分だな」
 人々を運び終えたファーフナーが声を掛けると、将太郎は笑って警戒態勢を維持すると答えた。
 箱ごと投げて寄こされる煙草を取り出し火を付けて、明日に向かって棚引く紫煙を吐き出したのである。
 冥魔の拠点の一つ、廃工場はここに陥落した。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: いつか道標に・鐘田将太郎(ja0114)
 サンドイッチ神・御堂・玲獅(ja0388)
 暗殺の姫・紅 鬼姫(ja0444)
 ラーメン王・佐藤 としお(ja2489)
 崩れずの光翼・向坂 玲治(ja6214)
 ドS白狐・ジェラルド&ブラックパレード(ja9284)
 揺れぬ覚悟・神谷春樹(jb7335)
 されど、朝は来る・ファーフナー(jb7826)
 大切な思い出を紡ぐ・ジョン・ドゥ(jb9083)
重体: −
面白かった!:21人

いつか道標に・
鐘田将太郎(ja0114)

大学部6年4組 男 阿修羅
未来へ・
陽波 透次(ja0280)

卒業 男 鬼道忍軍
Mr.Goombah・
狩野 峰雪(ja0345)

大学部7年5組 男 インフィルトレイター
サンドイッチ神・
御堂・玲獅(ja0388)

卒業 女 アストラルヴァンガード
暗殺の姫・
紅 鬼姫(ja0444)

大学部4年3組 女 鬼道忍軍
約束を刻む者・
リョウ(ja0563)

大学部8年175組 男 鬼道忍軍
夜闇の眷属・
麻生 遊夜(ja1838)

大学部6年5組 男 インフィルトレイター
ラーメン王・
佐藤 としお(ja2489)

卒業 男 インフィルトレイター
金焔刀士・
陽波 飛鳥(ja3599)

卒業 女 阿修羅
凛刃の戦巫女・
礼野 智美(ja3600)

大学部2年7組 女 阿修羅
闇の戦慄(自称)・
六道 鈴音(ja4192)

大学部5年7組 女 ダアト
釣りキチ・
月詠 神削(ja5265)

大学部4年55組 男 ルインズブレイド
崩れずの光翼・
向坂 玲治(ja6214)

卒業 男 ディバインナイト
ドS白狐・
ジェラルド&ブラックパレード(ja9284)

卒業 男 阿修羅
エレメントマスター・
水葉さくら(ja9860)

大学部2年297組 女 ディバインナイト
夜闇の眷属・
来崎 麻夜(jb0905)

大学部2年42組 女 ナイトウォーカー
勇気を示す背中・
長谷川アレクサンドラみずほ(jb4139)

大学部4年7組 女 阿修羅
星天に舞う陰陽の翼・
廣幡 庚(jb7208)

卒業 女 アストラルヴァンガード
揺れぬ覚悟・
神谷春樹(jb7335)

大学部3年1組 男 インフィルトレイター
烈火の拳を振るう・
川内 日菜子(jb7813)

大学部2年2組 女 阿修羅
されど、朝は来る・
ファーフナー(jb7826)

大学部5年5組 男 アカシックレコーダー:タイプA
大切な思い出を紡ぐ・
ジョン・ドゥ(jb9083)

卒業 男 陰陽師
夜闇の眷属・
ヒビキ・ユーヤ(jb9420)

高等部1年30組 女 阿修羅
風を呼びし狙撃手・
アルベルト・レベッカ・ベッカー(jb9518)

大学部6年7組 男 インフィルトレイター
魂の救い手・
麻生 白夜(jc1134)

小等部5年5組 女 アーティスト