●第三話
「前回のラブラ「オラァ!」へごちん!」
ラファル A ユーティライネン(
jb4620)が口を開くや否や、雪室 チルル(
ja0220)は跳び蹴りを入れた。書式それでいいんですか? いいんじゃね?
「いままでのあらすじデース☆」
マイケル=アンジェルズ(
jb2200)はカメラ前で必要以上に煌めいた。そして流れるヒップホップにありがちなリズム。
Ha,異世界now! 殺人now! 推理は混迷マジ大変! だけどオッケイ無問題! ここで決めるさ名台詞!
『謎は全て解けた』
誰だよ。
●
「ふっふっふ、見破られちゃ仕方ないにゃ」
何故か屋上。ざざーんと流れる荒波のSE。え、崖なんですかコレ?
メイド役のユリア・スズノミヤ(
ja9826)は血塗れのハイヒールを見せびらかしながら、屋上の淵に立っていた。あとなんかひな壇とか出来ていた。
「このような犯行に及んだ経緯をお聞かせください!」
フラッシュが焚かれる。カメラとマイクが取り囲む。ヒャッハー衣装の黒百合(
ja0422)が、いかにもな口調で問いかける。
「ちょっと待って、色々突っ込みたいんだけどナニユエ記者会見」
「何を言っているんだい。彼女を犯人に指名したのは紛れもなく君だろう?」
「流石異世界刑事。お見事です」
困惑しているエリを余所に、野点傘の下で優雅にお茶を嗜みながら、王様役の花見月 レギ(
ja9841)と大臣役のファーフナー(
jb7826)は頷いた。ぽよぽよ揺れる毛玉が愛らしい。
「あれ、おかしいな。過程が吹っ飛ばされている?」
「なんか推理してたっけ?」
「ヒィ! しょ、将軍の幽霊が……!」
何事もなかったかのようにお茶菓子をもぐもぐしているチルルに、現将軍である藤沖拓美(
jc1431)は怯えた。
まあ尺(字数制限)とか推理の立てようがないとか色々あるからね。
それはともかく。
ユリアはばっとスカートを翻して、高らかに宣言した。
「何を隠そう、私こそが金平糖星の王女――ユリア・コンペイトウにゃのだ!」
せーの、
『な、なんだってー!』
「金平糖を作るのってスゴク大変なんだよ! 五感を使いながら身体で覚えていく一子相伝の技で「三行で!」ぎゃあし!」
チルルの跳び蹴りが冴え渡る。派手なアクションにも関わらず、頭の電球は無事なのである。
「ぐぬぬ……と、とにかく私が大切に戸棚に隠しておいたスーパーDX金平糖を食べちゃったからにゃのだ! みゅ、こいつは許せんですよー!」
ビシィ、と将軍を指さすメイド。え? あたいそんなことしたっけ? と首を傾げるチルル。
「将軍……ああ、成仏めされよ! どーまんせーまん!」
そして一人だけ空気が違う拓美。
「……現将軍はメンタルに問題があるのかな?」
「幻覚が見える方はメンタルへデース☆」
「そこはスポンサーに就いてないかな……」
エリのツッコミに覇気が無い。補足しておくと、後に『ここはあまり私が声を張らない方が面白いかなと思って』とコメントしている。
「でも、罰は受けるにゅ。丁度良い感じの崖もあることだし、私はみんなの星になって金平糖星に帰るにゃん……!」
「ムゥ、この流れは……!」
マイケルの無駄に洗練された無駄にスタイリッシュで無駄なポージングが冴え渡る。
「知っているのか執事!」
黒百合がそれらしくネタを繋ぐ。
「これは我が国のレジェンドにある飛び降りコンテストを開催せよとの思し召しデース☆ 高所から飛び降りることで、奥義・必殺ハイヒール落としが習得できるとコジキにも書いてありマース☆」
「……そこカタカナにすると物乞いみたいだね」
「物乞いの増加は我が国でも重要な問題です」
のんびりお茶をする王様と大臣。
「あれ、そんな世知辛い……世知辛いかこの世界! むしろ世紀末かな!」
収拾が付かないとも言います。
ともあれ。
「そうにゃん! ハイヒール落としを習得しつつ、私は金平糖星へ帰って……」
ユリアは崖下を覗いた。そのまま飛び降りればシーンは完成である……というところで固まった。
「……え、何これ?」
「どうしたの?」
エリも崖下――という名の地上を見下ろす。するとそこには、
燃えさかる炎。それをギラギラと照り返す鉄の杭。そして無数の肩パッド入れたヒャッハーの群れ。『来い……来い……』と亡者のようなうめき声が響く。ただし素人なので演技が微妙。
「貴方の死に様は私が見届けてあげるわァ……さあ、潔く死に果てなさいな!」
「何してんのエキストラさーん!?」
そして世紀末モヒカンへと変身した黒百合が二人の後ろに立っていた!
「いいからさっさと落ちろやー!」
仕返しとばかりにチルルの蹴りがユリアを襲う。『どうでもいいけど世紀末でユリアってハマりすぎだよね』のテロップが何故かここで出る。ほんとどうでもいい。
「あーれー☆」
わざとらしい悲鳴を上げながら落ちていくユリア。
「ヒィーッ! 将軍の亡霊が犯人を引きずり込んでいるでござるゥーッ!」
そして一人だけ違う世界にいる拓美が、バンバンバンと威嚇射撃をぶちかます。
「……うーん、新将軍はどうしたのかな?」
「人事の見直しが必要かと」
そしてこれ見よがしに冷やしぜんざいのパッケージ(スポンサーの商品)を見せながら、のんびりお茶をする王様と大臣。
「あ」
すると、跳弾が拓美を上手い具合に弾き飛ばした。
「あーッ!」
そしてそのまま崖下へ真っ逆さま。
「オウ、これはいけまセーン!」
即座に無駄に(略)執事が翼を広げて飛び立つ。そして転落した将軍を、
なんだ男か。
「なんで犯人助けちゃって……いや、いいのか。いいんだよね?」
マイケルは拓美を華麗にスルーし、ユリアをスタイリッシュに拾い上げると屋上へと舞い戻ってきた。
「これにて一件落着デース☆」
新将軍・殉職。
●
「なあ、疑問に思ったことはないか?」
暗いナレーター席にスポットライトが当たる。ラファルは訥々と語りだした。
「刑事ドラマで、そもそも被害が未然に防がれる事はないのか?」
そもそも事件を未然に防ぐのが刑事の仕事ではないのか?
「俺は――」
ラファルの姿がぼやける。そしてその姿がどんどん変化していき――
●第四話
「あなただったのね。真犯人は」
エリは、いつになく真面目なトーンで切り出した。
「そうさ。全ては俺の掌の上さ」
ラファルは――外見は完全に、エリそのものだった。
「どうしてこんなことを」
「お前のせいだよ、異世界刑事」
ナレーターは――いや、真犯人は語る。
曰く、お前の無能が子々孫々に祟っている。お前の無能さだけが脈々と受け継がれ、すっかり落ちぶれてしまった。そして子孫は一計を案じた。
すなわち、マッチポンプ。
「俺が事件を起こし、お前が解決する――これを続ければお前は無能ではなくなる。そうすれば『一族は有能だった』という記録が残る。そのための俺――そう、未来のペンギン型ロボットさ」
真犯人の姿が、ペンギン型ロボットに変化する。その無骨な――無骨な? ペンギンだよ、可愛くね? な右手は、真っ赤に塗れていた。
「それにしたって、どうして異世界で」
「現実世界じゃもう通じないのさ。完璧な成果が続きすぎたからな、対策を取られたんだ。そこで異世界だ。未開拓な世界ならまだ通じる余地はある……ってのに、見破られた。この世界の刑事に。だから、俺は奴をハメなければいけなくなった」
「……それが、メイド?」
ペンギン型ロボットは、こくりと頷いた。
「そ、そんにゃ! 私は踊らされていただけだというの!?」
ユリアが突然画面に登場する。
いや、全員が登場した。
ここはナレーター席。第四の壁の向こう側。『登場人物』では知覚することも出来ないメタ視点。
そこに、全員は集められていた。
「そして将軍も「話が長い! 三行!」何度ももらうかッ!」
チルルとラファルの跳び蹴りが交差する。往年の名シーンだ。『拳』なのに跳び蹴りなんですけど? というツッコミは野暮なのだ。
「オウ、スペシャル映像デース? ちょうどいいデース☆」
キラキラ煌めく執事はやはり無駄なポーズを決めつつ、豪華なデコレーションケーキを取り出した。差されたキャンドルに火を点す。
キャンドル? いや、火を点したのは明らかに導火線で、
「ターマヤーデース☆」
ばしゅーん、と差されたロケット花火が生クリームを撒き散らしながら飛んでいく。それでもケーキの大半が無事なのはどういう技術なんだろうか。
「危ないーッ!」
『良い子は真似しないでください』のテロップ。悪い子も真似してはいけません。色んな意味でアウトだから。
「というか違うよ! まだ最終回終わってないよ!?」
「え、そうなの?」
完全に私服で現れた拓美は、慌てて衣装を取りに戻る。グッダグダとかそういうレベルではなかった。
「で、いつまで続けるの? この解決編っぽい何か」
「えー、こういうの監督が好きっつーからさー。俺も色々考えたんだぜ?」
「だからまだ最終回終わってないから!」
ぶー、とラファルは唇を尖らせる。監督は彼女の提案したトリックを大いに気に入った。いずれ真面目な叙述トリックドラマを作りたいと後にコメントしている。
「で、つまりどういうことだってばよ?」
チルルの疑問は全員の気持ちを代弁していた。
「……犯人はナレーターってこと」
「そっかー」
「……というより、普通に将軍が生きているのはいかがなものかな。一応殺されたはずなんだが」
レギのようやくのツッコミに、チルルは不敵に笑った。
「いつからあたいがやられたと錯覚していた……?」
カンペ出ました。一斉に言ってください。せーの、
『……なん、だと……』
「いや、これ一斉に言うタイプの台詞じゃないですよね?」
「ともかく、現将軍は横暴はしないし、前将軍は生きているし、まあいいかという大岡裁きは如何でしょうか、王様」
ファーフナーの提案に、レギは頬を掻く。
「……いや、大岡裁きというか、そも、彼の人は久遠ヶ……エターナルガハラー人? だから並大抵のことじゃ死なないというか」
「え、今更そんな設定を!?」
ちなみにレギは何も考えずに言ったらしい。それを謝るシーンはカットされた。
「まーまー、とりあえずケーキ食べよ?」
「そうデース☆ クランクアップお疲れ様会デース☆」
「だからまだカメラ回ってるからーッ!」
のほほんと弛緩した空気が流れる。ドラマの一部として舞台裏が平然と撮られる。そしてそれを遠慮無く放送する。
ここのスタッフ、本当に何も考えてないんじゃねえ?
●
仕切り直し。
「……恐ろしい事件だったわ……」
こほんと咳払いの後、エリは真面目な調子でそう言った。
「このゲートを潜れば、私は元の世界に帰れるのね……」
ゲート。門。どう見てもただの校舎の玄関とは言わないお約束。
「お世話になりました。こちらを」
大臣は恭しく一礼すると、エリに菓子折を渡した。
「ありがとう……ってなんだこれ」
「当国の名産です」
「いや、この光景ついさっきのじゃないの!?」
中身は『クレーターの真ん中に倒れ伏す将軍』があしらわれたケーキだった。なんでそんなもの作ったのか、予算の無駄遣いではないか、この企画は低予算ではなかったのか。
「後のことは任せたまえ」
「全然任せられませんけどね……」
安物の王冠を被って、ひたすらぐうたらしていた王様に言われてもなあ。
こうして異世界刑事エリは、何故か生きていた将軍、何故か犯人であるはずのメイド、その他大勢に見送られながら、不思議な世界『エターナルガハラー』を後にしたのであった。
●
エリが目を覚ますと、そこは路上だった。
「あれ……ここは……」
帰ってこられたんだ、あの混沌とした世界から。エリはほっと息を吐き、辺りを見回し、
「よう、お目覚めかい」
飽きるほど見た、世紀末ヒャッハーなエキストラに迎えられた。
黒百合である。
見れば、他のキャストもエキストラとして参加していた。肩パッド、バイク、モヒカンのカツラ。バッキバキの修羅の国である。
「え、ちょ、」
「ヒャッハー、俺達の支配した世界へようこそ! まだ旅は終わりじゃねーぞ! というわけで身ぐるみ剥げ! 売り飛ばせーッ!」
『ヒィーヤッハァーッ!』
「聞いてないんですけどーッ!」
川村えりには一切知らされていなかった展開。他の全員にはあらかじめ打ち合わせされていた展開。だってその方が面白いリアクションが見られるでしょ? 後にえりは『あの時の監督の顔ほど殴りたいものはありませんでした』と語っている。
こうして、異世界刑事エリの受難の旅はまだまだ続く。というよりこの終わり方はほぼ詰んでいる。
その後の彼女がどうなったのかは、ご想像にお任せしよう。
『めでたし、めでたし』
「めでたくねェーッ!」
おわり。
●
……というテロップが入った後、ようやく武者姿に着替えた拓美が現れた。
バイクの音は遠ざかる。カメラに写っているのは彼一人。『あれ?』という素のリアクション。
カンペが入った。
拓美はおもむろに腹に手を当てた。
「な、なんじゃこりゃあ!!!」
往年の刑事ドラマの名台詞。
それは関係者、視聴者の総意を代弁していたという。