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マスター:守崎 志野
シナリオ形態:シリーズ
難易度:難しい
参加人数:4人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/05/29


みんなの思い出



オープニング


 あの人はもういないと目の前に立った『ひと』は告げた。その背中にはコウモリの羽に似た黒い羽。悪魔だと一目でわかる。多分、お母さんはこの悪魔に殺されたんだろう。でも、あたしは怖いとも憎いとも思えなかった。
 弱いのは悪。無能なのは悪。存在する資格なんてない。お母さんはいつもあたしにそう言った。なのに、何で自分がこんな弱くて馬鹿な子供を育てなくてはいけないんだろうと。弱いあたしが邪険にされるのは当然。何故ならあたしは弱いから。悪いのは弱いあたし。
 だから、殺されたとしたらお母さんが弱かっただけのこと。弱かったお母さんが悪くて強かったこの悪魔が正しい。そしてもっと弱いあたしはもっと悪で、だから殺されて当然。
 でも、その悪魔はあたしを殺さなかった。あたしはもう自由だから好きなところに行けば良いと言って背を向けたその悪魔に、あたしは言った。
 待って、と。
 あたしの魂をあげるから、その代わりにー


「子供らに逃げられた、だと?」
 町の一角にある、大きさこそさほどでは無いが風格を感じさせる日本家屋の奥でこの町の地主であり、古くからの名士でもある老人が空を睨む。
「全く、役立たずが」
「申し訳ありません。ですが」
 吐き捨てるような老人の言葉に、傍に控えた二十代半ばと見える男は動じる素振りも見せなかった。
「元々無理があることは承知の上でしょう?学生撃退士も馬鹿ではない。天魔の影をちらつかせたとしてもまず事実を見極めようとするだろうと申し上げた筈ですよ?」
 かつてこの町を出て行き、身を持ち崩した親達の所為で町に身を寄せて虐めに遭っていた子供達を天魔の手先に仕立て上げ、撃退士に殺させた後で事実を隠蔽する見返りとして言うことを聞かせる……この計画を持ちかけられた数人は当然ながら反対した。だが。
 最近の学生撃退士は自分達の力に溺れ、一般人を邪魔にする態度すら見せている。天魔らしい餌を撒いておけば嬉々として食いついて来ると言って押し切ったのは老人だ。
「今更ですが、余計な小細工などせずに最初から事実を打ち明けた上で対処を依頼すれば良かったのですよ」
「黙れ!それが出来ん事は承知していようが!」
 忌々しそうに怒鳴り散らす老人を男は冷ややかに一瞥した。
「終わり、だな。そうやって、あんた達老害がやらかして来たことの責任を押しつけられるのはもううんざりだよ」
 侮蔑を隠そうともしないぞんざいな口調の言葉を投げつけると、もう用はないとばかりに背を向けて出ていく。
「だ……」
 誰にそんな口を、と言おうと開かれた老人の口から言葉が発せられることはなかった。代わりに喉から突き出たのは、さっきまで誰もいなかった老人の背後から立てられた刃だった。


 どこかでサイレンの音がする。パトカーか救急車が走り回っているのだろう
か。その音を遠くに聞きながら、撃退士達は彼上恭悟と名乗った男と対峙していた。
「聞いたことのある名前ね?」
 今風の艶やかな雰囲気を纏う娘が首を傾げた。
「そういえば以前の報告書にありましたねぇ」
 追跡は諦めたが、警戒するようにヒリュウを召喚したままの少年が相手の反応を窺うように呟く。
「この町と学園が関わる切っ掛けになった人、でしょうか?」
「この町を知る人間だと言ったな?」
 一同の中でも年嵩の、いかにも老練な雰囲気の男が単刀直入に切り出した。
「ならば、今度の事も知っているという訳か?」
 軽く肩を竦めて答えない恭悟に男はたたみ掛けるように問う。
「子供五人と一緒にいた男というのもお前か?」
「五人?男?」
 恭悟の顔に困惑と疑問の色が浮かぶ。
「どういうことだ?逃がしたのは子供四人だけなんだが」
 その言葉を打ち消すように、サイレンの音が近づいてきた。


「あーあ、やっぱり面倒な事に」
「どうした、坂本ちゃん?」
 杏里は無言で届いたメールを指した。
「依頼人の一人が死んだ?!」
 依頼者の一人である前町長・高屋孝造が何者かに殺害されたとそのメールは伝えてきていた。
「あんまりいい噂は聞かない人でしたね。地元の有力者だから大きな声で言う人はいなかったけど」
 今までいくつかあった開発話が潰れたのは、孝造が横槍を入れたからだという話もあった。ただ、今回の話には表向き中立だが、その実結構乗り気だったらしい。
「幽霊の一件も、実は高屋が噛んでるんじゃないかって疑う人もいたみたいですね」
「そんなに酷い奴だったのか?」
「いい印象が無いのは確かです。自分を封建時代のお殿様と勘違いしているような感じでした」
 ふと、昔の事を思い出す。今思えば、母は孝造を中心とした町の人間を怖れていたような気もする。杏里が非の打ち所無い優等生でいる事にこだわったのも、案外そこら辺に原因があったのかもしれないと、今なら思う。
「さっさと出ていけばいい……って訳にもいかないのが現実だよね」
 そんな高屋一派に親達が睨まれた為に八つ当たりのような仕打ちを受けていた子供達が、何らかの事情を知っているのではないかと見た警察だったが既に四人が逃亡、一人が行方不明。
 しかも四人を逃亡させた彼上恭悟が撃退士で、且つ二十数年前にこの町で酷い仕打ちを受けた孤児の一人だった事で話が更に面倒になっているらしい。
「で、人が入ってくるはずのない位置から刺されている状況から天魔絡みも考えられるってことで追加の依頼が入ってます」
 悪いが、孝造を悼む気にはあまりなれない。杏里は淡々と依頼を追加した。

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リプレイ本文


 撃退士から話があると十二帖ほどの客間に集められた五人程の家人は一様に表情を強張らせていた。怖ろしげに俯く者、落ち着き無く視線を彷徨わせる者……いずれも普通の状態とは思えない。
(だが、これを以てやましいことがあると決めつけるのは早計だろうな)
 身近で殺人などがあれば普通は落ち着きを無くすし怖れもする。天魔、或いは撃退士への恐怖や畏怖も考えられる。
 そう考えながら、地領院 徒歩(ja0689)は家人達の前で丁寧に頭を下げた。
「自分達がここを調べることになりました。よろしくお願いします」
 因みに彼はここに来るまでに普段の怪しい白衣姿では無く、清潔な印象のシャツに替えズボン、片眼の赤いカラコンも外して新米の刑事だと言っても通りそうな外見を取り繕っている。立ち居振る舞いや話し方も尊大な面は影を潜め、真面目な印象を受けるものだ。
 その様子に家人達は驚いたように徒歩に注目する。
(ふむ、やはり見た目を年配受けするようにしておいて正解だったようだな)
 年配受けというだけでは無い。元々学校という一種の閉鎖社会にいると世間一般と感覚が乖離しやすい。ましてや久遠ヶ原はアウル覚醒者ばかりという特殊社会であり、学園生の中でさえ、入学前と入学後のギャップから一時的に不調をきたす者も居るくらいだ。そして、慣れると学園生は選民意識から自分のプライドやスタイルに固執し、一般人に押しつけがちになる。。
 力で押してくる敵と戦うだけならそれでも何ら問題は無い。だが、知性ある上級天魔が敵として出現し、『戦い』が単純なものばかりでは無くなりつつある。
 自らも心の奥にギャップを抱き、その鎧として自分のスタイルを打ち出す徒歩ではあったが。
(外見など、いくらでも作ろう)
 大切なのは自分が何を目的にそうするかということであり、その為に自分と立場や考えの違う者に合わせる必要があるというならためらうことは無い。
「確認しますが、皆さんは高屋家の遠縁に当たり、最低でも十年以上この屋敷に住み込みで働いている……と、いうことで間違いありませんか?」
 間違いないと言う者、黙って頷く者。殊の外よそ者を嫌った孝造は、使用人全てを自分と縁続きで長年見知った者に限っていたという。
「その皆さんから見て、何か気になる事はありませんでしたか?必ずしも最近のもので無くてもいいのですが」
 今度はすぐに返事は帰ってこない。だが、徒歩は焦らなかった。考える間も必要になる質問であるし、彼のもう一つの目的もある。
(さて、俺の心理を見抜き深淵を覗く魔眼に見せて貰おう。皆の本来の姿を)


 客間から最も離れたその部屋は、土壁に囲まれまるで土牢のような印象を受けた。外から見た時には部屋の存在に気付けないように出来ている。
「いかにもな感じですね」
 電灯の光に照らし出された部屋を見回して雫(ja1894)は首を振った。この部屋で一体何を話していたのだろうか。
「故人の事を考えるとちょっとやる気が……」
 雫の脳裏に幽霊事件について聞きに行った時の病院での反応と聞いた限りの孝造の評判、そして断片的にだが過去に起こった事件の情報が回る。
「出来れば逃がした子供達や消えた目撃者の事についても情報を集めてから調べたかったのですが」
 とはいえ現場保存には限度がある。それに、時間がかかれば警察の風向きが変わらないとも限らないし、そうなると色々厄介だ。
「まずは現場検証といきますか」
 とりあえず一番確かな『情報』は目の前の現場だ。畳や壁にチョークで記された遺体や血痕の位置が妙に生々しい。そんな壁や畳を叩いたり押してみたりで感触や音を確かめつつ、仕掛けが無いか確認する。
「特に仕掛けは無いですね……」
 実は隠し扉が……ということも無く、血痕が不自然に無い位置なども見当たらない。
「成る程……これは透過能力を持った天魔ででも無ければ無理でしょうね。でも、何故」
 状況だけを見れば天魔の仕業と見るのが妥当だろう。だが。
「天魔にしては、やることが妙に地味ですね」
 天魔が人間を襲う目的は感情や魂を搾り取る事だ。その為に人間の集まる場所を大掛かりに襲撃する。時には地味に見える事件もあるが、それでもこんな人間の仕業と区別が付きにくい方法で一人だけを殺して何か得があるのだろうか?それに、歪曲した槍のようなもので喉を突くという方法も天魔らしくない。
「遺体はちゃんとあったのですから、魂を抜いてディアボロを作るという訳でも無し」
 動機から犯人像を絞り込むのは難しそうだが、透過能力は任意の物体をすり抜ける能力であって姿そのものを消せる訳では無い。壁をすり抜けた後は実体である。
「防犯ビデオとかあったら見せて貰いましょうか」


「アポ無しで済まないが、話が途中だったのでな。邪魔するぞ」
 無粋そのものの取調室に入ると、まるでコーヒーショップで見かけた相手に声を掛けるような調子でファーフナー(jb7826)は恭悟の前に座った。
 思ったよりすんなりと人払いが出来たのはそれだけ天魔が関わっているという疑いが濃いのか、別に理由があるのか。
「さて、何から話そうか……」
 口を開かない恭悟に対し、ファーフナーは自分から話し始めた。だが、いきなり聞きたい事を詰問したりしない。それより前にやらなければならない事がある。
 それは、話をする中で此方が約束した事は守る存在であるという信を得る事だ。それ無くしてはどんな説得も駆け引きも、甘言や脅迫すらも機能しない。
己の存在を誰かが作ったものに委ねて重ねて来た偽りの生という経験の中で得た、それは揺るぎない事実。ただ、永遠に続く訳では無いというだけで。
「俺は以前、依頼でシーカーと名乗る使徒に会った事がある」
 恭悟の表情が動いたのを見ない振りで、ファーフナーは淡々と続ける。主張を押しつけるのでは無く、ただ過去の事実を。
「その依頼では地位も力も持つ大人達が子供達を虐げ、人間を狩る立場の使徒が子供達を救おうとしていた」
 人が人を虐げる事など珍しくも無い。特に力や立場の無い子供は真っ先に矛盾や理不尽のしわ寄せを食らう。ファーフナー自身がそうだったし、断片的な情報だが恭悟も同様だ。
「今回の件は、それと似て非なる感じを受ける。そして、何か根深い連鎖もな」
 子供達はそれに巻き込まれ、だからこそ恭悟は逃がしたのでは無いか?かつての自分と同じにさせない為に。
「この連鎖を絶たない限り、同じ事は何度でも起こる。そして、その度に犠牲になるのは何も知らされず、身を守る術も持たない者だ」
 だからこそ、知っている事実を話しては貰えまいか。その言葉を言外に漂わせ、ファーフナーは煙草を取り出した。
「どうだ?」
「貰おう」
 恭悟が短く、初めて口を開く。小さな火が場違いに暖かな色を浮かべて消え、紫煙が沈黙を揺らす。
「昔……」
 煙と共に、溜息のような声が漏れた。
「俺がシーカーをお姉さんと呼んだ頃の事だ……」


「皆さんを疑ってる訳では無くて、今回の事には天魔が関わっている疑いが……あ、大丈夫ですよ。その為に久遠ヶ原から撃退士を派遣して貰ってるんですから」
 役場で開発反対の住民達を宥める警官が同意を求めるように稲葉 奈津(jb5860)を振り返った。住民達は場にそぐわない華やかな姿の奈津に些か不審の目を向けるものの、顔なじみの警官が間に入っているせいかあからさまな猜疑や反感の色は見せない。
「その通りよ。だけど、疑いをはっきりさせる為にはこの町をよく知っている人の話が聞きたいの」
 自信たっぷりに頷いて見せながら、奈津は内心で少し苦笑していた。
(対立絡みで疑われてるとか、疑いを晴らす為に話せなんて言ったらもろに反感買ってたかも)
 人はこうだろうという決めつけを知らず押しつけてしまうのは天才肌にありがちな失敗だ。奈津も当初、疑われていると揺さぶれば知っている事を話すだろうと踏んで、この前話を聞いた警官に反対派の住民を集めて貰おうとしたのだが。
『集めるのはいいけどね。脅すような言い方は拙いよ?』
 その言葉に反論しようとした時、何故か相変わらずだねと言いたげな杏里の顔が見えた気がした。そういえば、あの時も揺さぶりを掛けるつもりがあっさりとかわされたのだ。
 よく考えてみれば、自分はきっとこうだと言えるほど反対派の人間を知っている訳では無い。テンプレートを押しつけても、その通りに動く義理は無い。
「開発計画に天魔が関わってるかどうかはわからないわ。ただ、長内さんという人は天魔被害者との間に何かと噂があるし、この町とも関わりがある人よね?」
 奈津は一度だけ長内に会ったことがある。その時の印象はお世辞にも良いとは言えなかったが。あの時はまさか、こんな形で関わってくるとは思わなかった。
「もしかして、亡くなった高屋さんと長内さんには繋がりがあったりするのかしら?」
 住民の間に、声にならないざわめきが走る。だが、皆自分から口火を切れずにいる。
「お願い、教えて!これ以上この町から被害は出したくないの!」
 頭を下げる奈津に、ややあって一人の老女が口を開いた。


 屋敷を出た雫は徒歩と合流した。
「どうでしたか?」
「屋敷にいるのは全員が人間だ。人外が潜んでいる気配も無かったぞ」
「そうですか……」
 心なしか雫は肩を落とした。潜んでいないということは外に出た筈だが、屋敷の周囲にある防犯録画に残っていたのは出入りする家人以外には猫やら鳥やらくらいしか映っていなかった。
「それと高屋早苗だが、最近まで孝造も含めて存在を知らなかったらしい」
「どういうことですか?」
「佐保はここを嫌っていて、覚醒と同時に町を出て没交渉だったらしい。早苗の父親とも正式な結婚はしていなかったそうだ」
 ただ、最近になって『古くからの知り合い』が佐保の死亡と早苗の存在を知らせてきたという。
「こっちは成果無しです。辛うじて天魔の犯行とわかったくらいで」
「気を落とすな。それがわかっただけでも人々の心持ちは違う……」
 徒歩の言葉が賑やかな鳥の鳴き声に乱れる。見れば、誰かが餌付けしているのか台の上で雀が愛らしい姿で一心に餌を啄んでいる。
「あ、可愛い……」
 思わず雫が近づくと、無情にも雀たちは怯えたように一斉に飛び立った。雀ばかりか、その向こうの木にふてぶてしく止まっていた鴉までが逃げる。
「……いいんです。どうせ私に懐いてくれる動物なんていないんです」
「そう落ち込むな。ほら、それでもまだ一羽……」
 一羽だけ残っていた鴉。一見普通の鴉のようだが、何処か違和感がある。妙に嘴が長くないか。
「あれです。あの嘴なら、凶器と一致するかもしれません」
 その言葉が聞こえたように鴉は飛び立った。咄嗟に活性化させた星の鎖でたたき落とそうとして思いとどまる。
 動物型の天魔は大概ディアボロかサーバントで、透過能力を持ってはいるがそれを利用するだけの知恵は無い。あの鴉が天魔だとしたら、透過を使うように命じた存在がいる筈だ。
「追いましょう!」
 幸い途中に障害物はなく、何とか見失わずに追っていくとやがて鴉は下に向かった。その嘴が向く方向には一人の少女が佇んでいる。
「させません」
 少女が襲われると思った二人が踏み込もうとした時、鴉は力なく少女の足下に落ちた。
「大丈夫か!?」
 徒歩の呼びかけに、少女……高屋早苗の答えはない。
 その足下に落ちていたのは、白く弱々しい鳥の雛だった。


完全ではないが、輪は繋がった。

三十年前の殺戮事件。
現在であれば、犯人とされた主婦・堀田詠子は不運にも冥魔に襲われてディアボロ化し、詠子を死に至らしめた長女・舞歌はアウルに覚醒したと誰もが納得しただろう。だが、その頃はまだ天魔など夢物語の存在だった。
 真相は明らかにされないまま誰かが化け物になるかもと言う不安が増大し、一方では詠子が事件前に孝造と車に乗っていたと言うことが無責任な憶測と共に流れ、町は一時こう言われたのだ。
 化け物を作る町、と。
 これに対して町の人間は抗する術も無く、ただ世間の関心が去るのを待つしか無かった。が、それに対して否を唱えた者がいた。詠子の次女・詩歌だ。
 本当の事が知りたい、母や姉の名誉を回復したい。当たり前とも言えるその思いと行動は町の人間にとっては害悪でしかなかった。
 ……そして、集落から更に奥に行った崖で、詩歌の所持品や衣服の切れ端、大量の血痕が見つかった。遺体は見つからなかったが、到底生きてはいないだろうと思われ、事故、もしくは自殺として処理された。
 舞歌・詩歌の父、和明は憔悴しきって町を去り、数年後再び現れた。人が変わったように下劣で残忍な男になって。
 彼は孤児達を道具に使い、町を脅した。これは復讐だ、と。
 だが、和明と彼の復讐に関わった者は不意に姿を消し、その行為は終わる。
 歪な、偽りの形ではあったが町には平和が戻った。人々は過去と外に目と耳を塞ぎ、口を噤むことで平和を守り、すべてが時の彼方へ消えていくかに思われた時、彼らは知ったのだ。
 かつて堀田一家を支援していた者、理想ばかりの青二才だった長内と泉堂が今や地位と財という力を手にしていることを。
 そして何より、かつて彼らが死に追いやった非力な小娘が今や天の使徒であることを。


「酷い話ね」
 奈津が見下ろす先には小さな石が置かれたささやかな墓。それは鴉型のディアボロだった雛の墓だ。元々素体が弱すぎたのか、孝造を殺した事で偽りの命も尽きたのか。
 幽霊事件は、元々孝造が仕組んだ事だった。
 天魔の力を得た詩歌……シ−カーの復讐を怖れ、それでもすべてを公にして正式に依頼することも出来ない。
「シーカーは多分、復讐なんて今更、なのにね」
 どこにもいない復讐者の影に怯え、その果ては。
「子供達は生け贄だった訳ですか」
 無表情な雫も憮然としている。孝造は撃退士に子供達を殺させ、それをタネに脅しを掛けて秘密裏にシーカーを始末させるつもりだったと樫木は言った。
 けれど、そんなに上手く事が運ぶ訳もない。
 撃退士が慎重に動いたこと、恭悟という形で外からの介入があったこと。そして。
 早苗が弱いとは言え、ディアボロを手にしていたこと。
「全く、まだここは理想郷ではないとは言え業腹なことだ」
 この子は弱かったから仕方がないの。
 あの時徒歩の前で早苗はそう言って、それでも雛を拾い上げて立ち尽くしていた。弱い者には悲しむことさえ許されないというように。
「今度の事で、結局町は開発賛成に傾きそうだな」
 ファーフナーは若者達とは別のところを見ていた。
 孝造という存在が消え、重しが取れると同時に拠り所を失った人々は新たに縋るものを求める。
 それが悪夢の終わりになるのか、それとも始まりになるのか。
 今は、わからない。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: されど、朝は来る・ファーフナー(jb7826)
重体: −
面白かった!:4人

遥かな高みを目指す者・
地領院 徒歩(ja0689)

大学部4年7組 男 アストラルヴァンガード
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
力の在処、心の在処・
稲葉 奈津(jb5860)

卒業 女 ルインズブレイド
されど、朝は来る・
ファーフナー(jb7826)

大学部5年5組 男 アカシックレコーダー:タイプA