.


マスター:舞傘 真紅染
シナリオ形態:イベント
難易度:やや易
参加人数:50人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2012/09/20


みんなの思い出



オープニング

●健人という少年
 鎌海 健人(jz0081)は常に着ぐるみを身につけている。なぜなら丹精込めて作った着ぐるみは、彼を守る鎧だからだ。
(怖い怖い怖い。誰も『ボク』を見ないで)
 健人は怖くてたまらない。誰かの目が怖くて、身動き一つ取れなくなる。
 しかし。

 着ぐるみを着れば、健人は人の前に立つことができる。
 着ぐるみを着れば、健人は人と話をすることができる。

 だから作ったすべての着ぐるみに感謝してもしきれないし、それらは彼の宝だ。命の次に大事と言っても過言ではないだろう。
 とはいえ、現実問題として着ぐるみを置くスペースはもうどこにもなく、部屋から溢れそうになっている。当たり前だ。今まで処分することなく作り続ける一方だったのだから。
 健人は悩んでいた。
 捨てなければならない。それは分かっている。分かっているが、実行するには二の足を踏んでしまう。

 そんな悩みを抱えていたある日のこと、健人はテレビを眺めていた。
 テレビに映っているのは可愛らしい動物の着ぐるみたち。どうやら三匹の子豚を演じているようだ。
(……そうだ!)
 健人は思った。捨てなければならないのなら、せめて最後に見せ場を作ってやろう! と。
 思いついたが早速、と健人は依頼斡旋所へと向かっていった。

===   ===
着ぐるみ演劇の手伝い募集!
・募集人員:演者(着ぐるみ着用)、裏方(大道具、小道具、宣伝)
詳細は鎌海 健人(中等部2年0組)まで
===   ===


リプレイ本文

●君がやらねば誰がやる!
【みなさん、集まっていただいてありがとうございます】
【今回はよろしくお願いします】
 鎌海 健人(jz0081)が礼を述べた後いそいそと裏方へ回ろうとしていたが、カタリナ(ja5119)がそんな彼に声をかけた。
「ケント、ちょっといいですか?」
【は、はい】
 真剣な表情を見て、健人がどうしたのだろうと首をかしげる。
「今回の演劇ですがあなたが主役をしませんか?」
【え、ええっ?】【で、でも演技とか、その】
 遠慮しようとする彼に、カタリナは言った。
「すべての着ぐるみたちと触れあえるのが主人公ですよ、他に誰がやるんです」
【でもボっボク、喋られませんし、演技とか、下手ですし】
「安心してください、台詞は看板で大丈夫ですし、極力負担も減らします。ですから」
 最後は優しく語りかけてきたカタリナに、健人は不安そうに眼を揺らしながらもこくんと頷き、主役は健人がやることになったのだった。

●裏方って親方と似てるよね?
「そこ、その位置ではセットがズレる! あとそこ、打ち付けが甘い!」
 厳しい口調で裏方の指揮にあたっているのは成宮 雫雲(ja8474)だった。軍人であった頃を思いだしているのか、顔つきも口調も普段とは違う。厳しい口調でも誰も文句を言わないのは、彼女が指示をするだけでなく自ら動いて作業をしているからだろう。特に人の目が届きにくいところを率先してやっていた。
(健人はうちの部活でも楽しそうに着ぐるみをきていた……だからこそ! ここは自惚れと思われても嫌われても、しっかりやりたい!)
 根底にある、そんな想いをみなが感じ取ったのも大きいだろう。
「学園に着てから二度目の舞台、ですね」
 書割を作りにかかろうとしていた和菓子(ja1142)が
「舞台は一度しかない人生を彩る……良いものです」
 と呟き、雫雲の指摘を受けた個所を確認して顔をしかめた。たしかに打ちつけが甘く、ぐらぐらしている。かなり危険だ。
「すみません。釘と金づちをとっていただけますか?」
「はーい、どうぞ」
「ありがとうございます」
 木ノ宮 幸穂(ja4004)が手渡した道具でその個所を補強する。雫雲が確認してうんと頷いた。OKが出た。
「演者さんに倒れたら大変だもんねー」
 幸穂もそれを見上げて頷く。最後の見せ場として用意した舞台でけが人が出れば、見せ場どころの話ではない。
「着ぐるみショーなら、背景がリアルよりおとぎ話のような背景の方が良くないか?」
 背景をどうするか話し合っていた礼野 智美(ja3600)がそう言うと、御守 陸(ja6074)が腕を組む。
「そうですねぇ。他の人にも確認とりましょうか」
「桃太郎をアレンジした話なので……それに相応しい背景やセットは……おとぎ話の方が……いいかも、しれません」
 近くにいた冬樹 巽(ja8798)が少々怯えつつ、同意する。他に反対意見もなかったので、おとぎ話風につくっていくことにした。
「他に作るものってなんだろ?」
「健人さんの看板と書き割りと台に……ああ、鬼たちの武器ですかね」
「武器か。武器と言ってもいろいろあるが」
「トマトが欲しいそうですよ」
「トマトっ?」
「そこっ手が止まってる!」
「は〜い」
 わいのわいのと楽しく作業していると、健人が何やら大きな箱を運んでくる。中から出てくるのは多数の着ぐるみだ。久慈羅 菜都(ja8631)がその量をみて驚く。
「えっと……こんなにたくさんの着ぐるみ、初めて見ました」
「僕も……初めて、です。あ……あの僕……くろろん、です。覚えて……ますか?」
【くろろんさん!】【お久しぶりです】
【今回はよろしくお願いします】
 巽は依然、着ぐるみ姿で健人と会っていたため、あらためて挨拶をする。ぺこりぺこりと頭を下げ合う様子を見て、
「あの、鎌海さんは、着ぐるみがなくても、誰とでもお話できる気がします……もし、勇気が足りないなら、集まってくれた仲間や、見に来てくれたお客さんたちから、少しずつ分けてもらうといいと思います……
えっと、あたしも、応援してます」
 菜都がそう優しく声をかけた。健人はしばしそれに無言であったが
「健人にーちゃん、いろんな着ぐるみ作ってたんだな〜! それに着ぐるみ演劇、面白そうじゃん!
俺、頑張って応援するぜっ! 」
 元気よく花菱 彪臥(ja4610)が会話に入ってきたことで、健人は着ぐるみの向こうで微笑んだ。
【はい。ありがとうございます】
「あ、菜都ねーちゃんは大道具やんのかっ? 俺は宣伝してくるっ! いっぱい観に来てもらえるように頑張ってくるぜっ!」
「えっと、うん……頑張って(花菱さんの髪の毛、猫みたいで可愛い)」
 にひっと明るい笑顔で去っていった彪臥を見送った後、健人は菜都を振り返って
【ありがとうございます。ボクも、がんばろうと思います】
 そう言った。

「父子家庭でしたので、縫い物は私の担当でしたから得意なんですよ。裁縫ならお任せください」
【すみません。ボク、演技の方行かなくちゃいけなくて】
【後はお願いします】
「うん。がんばって、ください」
 練習に向かった健人を見送ったのは、着ぐるみの手直しをしていた水屋 優多(ja7279)と猫谷 海生(ja9149)のもとへ、巽がやってくる。
「あの……健人君の代わりに……僕も、手伝い……ます」
「ありがとうございます。では、こちらをお願いしてもよいですか? 少し先がほつれてしまっているのと、サイズが……」
 巽へやってほしいことを述べる。巽は手先が器用なのか、話を聞いただけでするすると針を動かしていく。それに健人に協力したい、劇を成功させたいとも強く思っており、その目は真剣。だが同時に、裏方の作業を楽しんでもいた。
「すみま、せん。赤い、糸とって、もらえますか?」
「……はい……どうぞ」
 海生はイチゴミルクを横に置き、時折飲みながら作業している。
 そして優多は知り合いの音羽千速(ja9066)と智美の姿が見える位置で着ぐるみの手直しをしていたが、その千速がこちらへ来て着ぐるみの入った箱を物色しはじめた。
「雉、いないよね……あ、ヒヨコの着ぐるみ。雉の雛代わりでこれやる!」
「分かりました。少し直しますので」
「お願いしまぁす!」
 わくわくとしている千速に笑顔になりながら作業していると、智美が近寄って来る。
「最後に見せ場を、というのは良いな。千速、ぴよ着ぐるみもらうのか?」
「うん! 持ち帰っていいっていってたし」
「……置き場に困ったら部室か私の家の物置を使え。後輩のちび達も着たがるだろうしな」
 智美はそう言って笑い、近くにあった着ぐるみの1つを手に取る。
「ふむ……これも背景に使えるかもな。演者以外でも出番があった方がいいだろうし」
「それは素敵ですね」
 持ち主に許可をとりにいくと、【ぜひ!】と喜ばれたので背景にも使うことになった。

●写真撮影は緊張します
「……お疲れ様」
【は、はい! き、緊張しました】
 若杉 英斗(ja4230)はほぅっと息を吐きだした健人を見て、苦笑した。今何をしていたかというとビラに載せる写真の撮影だ。
「でもやっぱり健人君にお願いするのが一番だと思って」
 着ぐるみの扱い方を見ていれば、健人がそれを大事にしていたのはすぐに察せられた。すべてに思い入れがあるのだろう。
 だからこそ健人の写真でビラを作りたかったのだ。
「撮影終わられましたか?」
【な、なんとか】
 疲労困憊の様子にくすくすと笑うのはヴィーヴィル V アイゼンブルク(ja1097)。英斗が撮った写真を見せる。
「中々いい写真が撮れましたね」
「ええ。この写真を使ってやろうかと思うんですが」
「素敵だと思います。後他にもイラストでやるのもいいかもしれませんね」
 2人がデザインについて真剣に話し合っている横で、陸が健人へジュースを差し出した。
「お疲れ様です。どうぞ」
【ありがとうございます】
「あ、10分後に稽古始めるから来てくれってカタリナさんが言ってましたよ」
【わかりました】
 陸は言伝を伝えてから、今度は周辺の掃除を始めた。なんだかその様子が楽しそうだったので健人が不思議そうにしていると陸が視線に気づいた。
「実はこーゆーの、初めてで。なんだか楽しいですねっ」
【ボ、ボクも楽しいです】
「ねっ」
 2人で少し楽しげに笑いあう。
「じゃあ俺はコピーしてきます」
「お願いします。他にもいくつか作っておきます」
 ヴィーヴィルと英斗の話し合いもちょうど終わったようだ。英斗はPCで作成したストーリーと写真付きのものを、ヴィーヴィルは健人をメインにしつつも色とりどりの野菜や料理、効能などをつけ、『これを機に野菜を美味しく食べれるようになれば』という大人向けの一文も付け加えていた。
 多種多様なビラは、見ているだけでも楽しくなって来る。
 健人の休憩が終わりそうだったので、3人にぺこりと頭を下げてから練習へと戻っていった。

●音楽って大事
「表舞台には立てないけど、劇を演出する役目……、務めさせて頂くわ」
「ええ、せっかくの機会ですし、すばらしい舞台にしたいですよね。
 どこまで出来るか分かりませんけれど、全力を尽くさせて貰います」
 音響担当の黒椿 楓(ja8601)に楊 玲花(ja0249)、演出のカタリナが集まって話合いをしていた。
 玲花がいくつか使えそうな音源を持ってきていたのでそれを全員で聞き、意見を出し合う。
「これは登場シーンで使えそうですね」
「そうね。それに、これなら……、龍笛を乗せてもおかしく、ないわ」
「またあとで練習ですよね? その時にご一緒させてもらってもいいですか? やはり雰囲気は見てつかみたいので」
「ええ、かまいません。今ある音源だけでも流してもらえると、皆もつかみやすいかもしれませんね」
 今決められることを簡単に決めて、練習にもそのまま顔出しする。ここで話し合うだけでは分からないものを掴むために。
 カタリナはカタリナで演技指導のようなものをしていくが、自主性を重んじたゆるいもので、ただ全体としてのまとまりは持たせる。
「……ここの効果音は、既存のではあわないですね。作っておきます。あとは」
「だいたい分かったわ。うちも……、今度からここで、練習する」
 こちらもこちらで、順調のようだ。

「キグルミは声吸収するからな。マイクとスピーカーは必須だぜ……っと、これでよし」
 小道具を作っていた虎落 九朗(jb0008)が、そう言って着ぐるみにマイクをつけていく。
「こういうのは任せろ! なんたって元美術部、元演劇部だったからな!」
【そうなんですか。すごいですねぇ】
「まあな! 大道具・小道具の作成も任せろ! すっげぇの作」
「マイクつけ終わったら作業に戻る!」
「はい! あ、模造刀ってこんな感じでいいですか?」
 雫雲の声に先ほどまで作っていた桃太郎の刀を見せる。着ぐるみが持つので、大きめに作られている。
【わっ刀です!】
「健人、少し持って見て」
 桃太郎の着ぐるみを着た健人に刀を持たせ、2人は少し離れた位置からそれを見る。太さはちょうどいいが、
「もう少し長い方がいいな」
「ですね。ああ、健人。ありがとな」
 現場と会わせながら小道具や大道具も作られていく。作るだけじゃなく、セットするのも裏方の役目。そういった練習も行われた。

●こま〜しゃる
【劇やるよ、見に着てね】
 そうわちゃわちゃと看板を振ってビラを配っている電柱がいた。まさか健人が宣伝も?
(健人くんの為に一生懸命頑張ってやるんだな! 何度か一緒になった縁なんだよ! 電信柱でスニーキングミッションなんだな! ってそれは違うか。ま、普通にビラ配りだよ)
 中の人はルーナ(ja7989)だ。健人になりきっている。間違えて犬にマーキングされたりとかは大丈夫だろうと思っている。
『わたしに任せなさい!』
 そう健人に言ってビラ配りをしているルーナだが、ビラがある程度なくなると、場所を変えて座りこんだ。
「ちょっとぐらいは休憩しないとね」
 決してサボっても大丈夫そうだからサボろうと思ったわけではないのだ。うむ。

「すみません。今度劇をやることになって」
 ビラを抱えた英斗は、幼稚園を訪れていた。掲示板に貼ってもらえないかとお願いしに来たのだ。
「あら『ももたろうのやさいたいじ』? 楽しそうね。ええ、いいわよ」
「ありがとうございます!」
 そこにビラを何枚か置いてもらえることになり、数が少なくなったので補充に戻る。
「あとは学園内の掲示板にも」
「あ、英斗にーちゃんだ! にーちゃんここで配るのか?」
 元気よく手を振って表れたのは彪臥。
「いや、掲示板に貼らせてもらおうと思って、許可をもらいに」
「そっか! 小等部で配ろうと思ってたけど、そういうのもみんなに見てもらえるもんな! 俺も小等部の先生に聞いてみる!」
「がんばって」
「にーちゃんもな!」
 当日も楽しみなんだと言って去っていった彪臥の後ろ姿を、英斗は微笑んで見送った。
「さ、俺も頑張るか」

「素敵なイベントにするために、お手伝いできれば!」
 意気込むレグルス・グラウシード(ja8064)。人通りの多い食堂でくばってみたが、中々うまくいかない。皆素通りなのだ。
『えっへへー、ふゆみねぇ、こーゆうの得意なんだよ☆』
 びらは恋人の新崎 ふゆみ(ja8965)が描いてくれた可愛らしい野菜のイラストつき。なぜ受け取ってもらえないのかと少し悩む。
「どうしよう」
 その頃、ふゆみは小等部の校舎前にいた。来てくれそうな年代が多いと判断したのだ。
「はいっ劇やるから見に来てねぇ!」
「わぁっ可愛い」
「ありがとう」
「えっと、『ももたろうのやさいたいじ』? 面白そう!」
「お姉ちゃん、ボクにもちょうだい」
 ふゆみの狙いは当たったらしく、次から次へとビラが減っていく。そして手ぶらになったふゆみはレグルスの元へと戻り
「だーりん! ふゆみ、お手伝いするよー」
「わ、ありがとう、ふゆみちゃん!」
 レグルスのビラ配りを手伝う。場所を変えて配り始めると、徐々にビラが減っていく。
「たくさんの人が来てくれたらいいね!」
「うん!」
 末長くお幸せに……あ、そういう話じゃなかった。
 2人は「お客さんたくさん来てくれるかな」とわくわくした顔を見合わせて、笑いあった。

 ビラの束を手に、オロオロとしながら一生けん命ビラ配りをしようとしているのはフェイ・ティオル(ja9080)。隣には眼帯をつけた月音テトラ(ja9331)の姿もある。髪を後ろでまとめ、男の装いをしたテトラもビラを配っているが……いや、配ろうと手は動いているが、あまり配る気は本人にないらしい。一応配るフリをしているといった感じが見受けられる。
「かったるいですの……」
 テトラの気分はその一言に凝縮されているのだろう。
 そんな姉とは反対に、フェイは勇気を出してビラを配っていく。
「演劇のお知らせなんですけど……どうですか?」
 時には男が鼻の下を伸ばして話しかけてくることもあった。フェイはどうしてよいか分からずにオロオロ。
「ねぇそんなことより、これから暇?」
「ぁぅ……あの、ナンパは……あう……えと」
「あ、照れてる? 可愛いねぇ」
 明らかに困っているオーラをだすフェイとそんな態度を勘違いした男を眺めていたテトラは、男の背後でぼそりと呟く。
「もぐぞ、この野郎」
 もぐって何を?
 そんな疑問に思った子は、決してお母さんたちに聞いちゃ駄目だぞ。ぐぐっても駄目だぞ。天の人との約束だ。
 とりあえずナンパの手から妹は守りつつ、しかしながらやはりビラ配りはフリだけで、時折欲しいという人以外には配る気がゼロなテトラだった。

「ふむ……着ぐるみか。まあ、良かろう。モノにもそれぞれの役割があるのだから」
 そんな言葉と共にジャック・オー・ランタンの着ぐるみをかぶった神谷・C・ウォーレン(ja6775)は、マントを風に揺らしていた。腰にはランタンもつけている。
「…………」
 基本は無言のままビラを配り、子供には飴やクッキーなどを手渡す。ただ配るだけでは芸がないかと無数の腕を呼びだして、その腕でもビラやお菓子を配る。
「あら、手品? よくできてるわねぇ」
「カボチャさん、すごおい!」
 意外と好評だった。
 そもそも子供が嫌いなわけでもないので、時折抱きついて来る子供たちをあやしながら与えられたノルマのビラを配り終わる。
 だが余ったお菓子を見て考えこむウォーレン。
「……(チョコレートバーの方が良かったか)」

 ビラ配りに立候補していた1人、羽空 ユウ(jb0015)はビラを抱えたまま、健人の前に立った。
「鎌海さん、にメッセージを、貰いたい」
【メッセージ、ですか?】
「ビラ配り、する、から、着ぐるみに、対する、愛を。
 無価値、でも、意味がある……貴方にしか、知らない良さ、がある、と思う」
 ユウがじっと健人を見る。
【ボクにしか知らない……】
 健人はしばし考え込んだ後、顔を上げた。
【着ぐるみがあったおかげで、ボクはボクを保てるんです】
「……そう」
【って、意味分からないですよね。すみません】
 ユウは首を振る。その言葉は、他者からすれば理解できないかもしれない。それでもいいとユウは思っていた。
「あと、手先、器用なら。ぬいぐるみ、も作れば――喜ぶ、と思う」
 最後にそう言ってから、ユウは本の着ぐるみを着て、子供たちへとビラを配った。
「……本は、私と、外界を隔離、する」
 終わった後は着ぐるみをぬいぐるみにして持ち帰りたいと健人に告げ、健人は喜んで着ぐるみからぬいぐるみを作って手渡した。

 学園の一部で歓声が起きていた。
 中心地にいるのはカボチャ鬼の着ぐるみを着たエイルズレトラ マステリオ(ja2224)と狐の着ぐるみを身に付けたフェルルッチョ・ヴォルペ(ja9326)だ。
 フェルルッチョがボールでジャグリングをして観客を集め、エイルズレトラが愛想よく集まった客にビラを配っていく。
「今度劇やるので見に来てくださいね」
 ボールが1つ2つ3つ4つと増えていくたびにでフェルルッチョを見上げている男の子の口が開き、目が輝く。
 そんな様子に嬉しく思いつつ、宣伝はきっちりこなす。
「今度劇をやるんだヨ。楽しい楽しい演劇だから、ぜひ来てネ!」
 ビラはあっという間になくなった。

 鴉乃宮 歌音(ja0427)は、誰もいない場所で、誰にも見られることなくその着ぐるみを身にまとった。
 着ぐるみは桃太郎……の格好をしたずんぐりしたカラス。
 誰もが着替える瞬間を見ていないので、
「あんな着ぐるみあったっけ?」
「中の人誰?」
 と周囲にささやかれつつ、ビラを受け取って配りに行く。狙うは子供連れ。
「しゃしんとってしゃしん〜」
「すみません、いいですか?」
 子供が写真をねだれば、ジェスチャーでOKを出して記念撮影。模造刀を手にポーズを決める。しかし納刀が上手くいかないふりをしたり。さらにはきび団子も手渡したりと、ゆるキャラを演じきる。
 時折乱暴な子供に叩かれたりもするが、耐える。頭を取られそうになったらイヤイヤと首を振る。
(中の人などいない!)
 耐え続けて配り終わり戻るとシルヴァ・ヴィルタネン(ja0252)が近寄ってきて、塩飴とペットボトルを渡された。
「は〜い。お疲れ様。水分と塩分の補給忘れないようにね」
 そう言うシルヴァもビラ配りから帰って来たばかりらしく汗をかいていた。無言で礼を言う歌音。だって中の人などいないのだから!
 シルヴァは水を飲みつつ、今度は演者たちの方へと向かった。そろそろ水分補給の時間だ。
「けが人病人が出ないようにしないとね」
 彼女の健康管理のおかげか。倒れるものや大きな怪我人――軽い怪我はあったが――もなく、無事に全員で本番を迎えられたのだった。

●本番までに時間は経過してますよ!
「あっちでナウなヤングに馬鹿ウケな着ぐるみ演劇が始まるみたいだよっ!」
 ナウもヤングも古いです。
 というツッコミの聞こえないその場所で、さりげなくそんなことを携帯で話しているふりをしているのは御子柴 天花(ja7025)だった。
「着ぐるみ演劇?」
「なにそれ?」
 周囲で声が上がっているのにまた聞こえないふりしながら、天花は内心ふふりと笑う。そのまま会場の方へと歩いていく。
 後ろをついて来る足音を感じつつ、そのまま観客席へ。天花はこのままサクラになるつもりらしい。桜じゃないよ? というのはさておき。
 掛け声や拍手は率先して行い、観客席から劇を盛り上げようとしていた。

 控室では演者たちが談笑しつつ時間を待っていた。
 あまり緊張している人たちがいない中、健人は背筋正しく椅子に腰かけていた。桃太郎の着ぐるみを着て。
「健人! いよいよだな」
 龍 金時(ja8913)が話しかけると、大げさなほどにびくりと動く。前日から
『あいつぁ肝がちっせぇからなぁ』
 と心配していたのだが、心配が的中したようだ。
「なあにっ金さんがいるから何も問題ねぇよ!」
 だははと笑い、バシバシと遠慮なく背を叩かれて健人が前に倒れ込んだ。着ぐるみごしでも痛い。
【は、はい。ありがとうございます】
 少しは緊張が解けただろうか。
「鬼役……舞台……がんば……らなきゃ……」
 ブロッコリーの着ぐるみを前にして、浪風 威鈴(ja8371)も気合を入れていた。
「ブロッコリー……」
 本物の野菜は硬いが、着ぐるみなのでふわふわとしているそれをじっと見つめ、もふもふとしばし楽しんだ。

「――野菜鬼たちが暴れ出し、みんな困っていました」
 本の着ぐるみを身につけて物語を語るのは雨宮 祈羅(ja7600)。かっちりと語るというよりは、簡単に状況を説明して先を促すように。
 その言葉を受けて現れるのは野菜の形をした鬼たちだ。
 セロリ鬼の一色 万里(ja0052)は、壁走りのスキルを使って観客席をぐるっと回っていく。撃退士ならではのアクションに、子供だけでなく大人も感嘆の声を上げた。
 野菜鬼は、基本的に子供たちが嫌いとする野菜たちで、実のところ万里もセロリが苦手だったりする。
(匂いが苦手で食べにくいというか。でも子供たちも来るから、頑張るよ。
 ボクも食べられるようにならないと、子供たちに姿を見せられないよね)
 最終的に食べなきゃいけないので、頑張ろうと気合いを入れる万里だった。
(白ネギ鬼、演じ切ってみせます……!)
 意気込んで白ネギの着ぐるみで登場するのはリゼット・エトワール(ja6638)だ。胸にはご丁寧に「しろねぎ」という名札もつけている。
「うぅ、ネギ臭いって言わないで下さい〜っ目にしみるって言わないでください」
 わぁーんとリゼット演じる白ネギ鬼がなくと、目にしみるエキスが周囲に散布。村人たちが逃げていく。
(この子達の大舞台……絶対に大成功させちゃる!)
 想いを受けて舞台を蹴り、観客や村人に悪さをしていくのは阿岳 恭司(ja6451)演じるピーマン鬼。
 3人はある程度暴れた後、舞台からはけていった。

「ももたろうはみんなを助けるため、鬼が島へ野菜鬼を退治しに行くことを決意しました」

 ここで桃太郎役の健人が登場。腰にきび団子の入った袋と刀をさげ、お伴の兎――大谷 知夏(ja0041)を連れていざ出発。
 すると、お腹をすかせたマルチーズがももたろうに話しかけてきます。
「ももたろうさん、野菜をお一つ下さいなー」
【今野菜はないのです】
 ぱっと白い看板を出した健人。そこに九朗が提案したプロジェクターで文字を入れる。しかしそれだけでは子供たちには伝わりにくい。
「野菜鬼が鬼が島で暴れてて野菜が手に入らないんっす! 今から退治しにいくっすよ」
 知夏ウサとしては退治というよりも食欲メインだが、そんなセリフをいれることで声が出ない健人をフォローする。
「そこに行けば野菜を食べられるんですか!? わ、私も行きます!」
 マルチーズが仲間になった。きび団子で空腹をごまかす。
 マルチーズとの話を聞いていた野菜が大好きな茶色いロップイヤー兎――雪成 藤花(ja0292)と、茶兎と仲の良い食いしん坊の猫――星杜 焔(ja5378)も仲間に加わった。
「きび団子ありがとうございます〜美味しいですね、猫さん」
「うん、すっごく美味しいね」
 草食と肉食を越えた絆が両者の間にはあった。
 さらに進んでいく桃太郎一行。立派な木にしがみついてユーカリの葉をぱくぱく食べているコアラがいた。下妻ユーカリ(ja0593)だ。……ユーカリがユーカリを……いや、なんでもない。
【コアラさん、よかったら一緒に行きませんか?】
「きび団子あるっすよー」
 のんびりなコアラ。しかしきび団子をとっていくのは素早い。美味しかったのでコアラもついてくることに。
 桃太郎と愉快な仲間たち。ドンドン増える。しかし台のおかげであまりかぶらない。

 のどかな背景をみんなでずんずん歩いていく。音楽もどこかのんびりしている。龍笛を奏でている椿が、ふっとかすかに口元を緩めた。
(神社の務めで行ってきた雅楽を……、誰かの為に奏でる……。新鮮ね)
 誰かのための演奏の心地は、椿の心を温かくした。

 ヒヨコ着ぐるみを雉の雛に改造した千速も合流し、健人のセリフを復唱する。
【一緒に行きましょう】
「一緒に行こう!」
 子狼の着ぐるみを着た清良 奈緒(ja7916)は、野菜鬼を退治しに行くと聞いて乗り気だ。
「ボクも桃太郎お兄さんたちについてくよ!」
 そうして桃太郎たちは、鬼が島にたどり着く。一端暗転、裏方総出でセットの変更。しかし暗くなってしまった観客席で、ぐずり始めた子も出始める。
「どうしたの? 大丈夫だヨ。怖くないヨ」
 フェルルッチョがそんな子供たちの元へと向かい、なだめる。
 そしてシルヴァはセットの変更中に、演者たちに水分補給を促す。
「まだ大丈夫、なんて言ってたらだめよ。ちゃんととってね」
 かと思えば用意した救護室で、気分の悪くなった観客やスタッフたちを診ていく。
 カタリナは全体を見ながら、インカムで音響の玲花、椿と連絡を取り合う。雫雲から準備できたと連絡が入れば、照明に指示して幕を開ける。

「トマト食えええ!」
 鬼が島にたどり着いた桃太郎へ、リアルなトマトの着ぐるみを着た丁嵐 桜(ja6549)が偽のトマトを投げつける。着ぐるみの真ん中に『鬼』の一字があるので、彼女も野菜鬼だ。
【痛いのです】
 いきなりの猛攻にひるむ桃太郎。そこへさらにセロリ鬼、ピーマン鬼、白ネギ鬼、ブロッコリー鬼も登場する。
「どうせ食べてくれないなら、暴れてやるんだよ」
「ビタミンCたっぷりのオレを食べたらカゼにならない強いからだになれるのに……!
 なんでなんで…みんなオレをたべてくれないんだよぉっ!」
「ネギは独特の辛味成分がありますが、体にいいんですよ。信じてください〜っ」
「ブロッコリー……美味しい……のに」
 不満を爆発させる野菜たち。
「俺でダシをとりやがれ!」
 叫びながら出てきたしいたけ鬼、森田直也(jb0002)。着ぐるみを纏う前に「しいたけは野菜じゃなくて菌類だろ……」とぼやいていたが、気にせず登場。その隣に立つのはニンジン鬼の神凪 宗(ja0435)。
「にんじんを食べられなければ、おし、おき」
 と、ここで音楽が変わる。シリアスな、何かが出てきそうな曲調だ。
 野菜たちがざわつく。
「こ、この音楽は……ボスたちだ!」
 カッとスポットライトが照らすのは2つの影。金時のゴーヤボスと更科 深澪(jb0074)の茄子ボスだ。
「俺様を食わねぇ者共はぁ、あどこのどいつでぇい!?」
「…………」
 金時はなぜか歌舞伎口調で(しかも音もそれらしい)、深澪はひたすら偉そうにふんぞり返っている。背後で音を鳴らす龍笛と玲花の作った電子音が、なんだか2人のボスらしさをさらに強調する。
「ふてぇやからはぁ、やっちまいやがれぇ」
「ゴーヤボスの、命により、ここから先は、通さない」
「うむ。よし椎茸」
「はい、なんですか、茄子ボス」
「……笑かしてこい!」
「無茶ぶりっ?」

「野菜鬼たちは桃太郎達へと襲いかかってきました。桃太郎達も必死に抵抗します」

「青臭くてうまいぞおおお!!」
「わぁっボクお野菜、駄目なんです」
 トマト攻撃に子狼がなすすべなくやられてしまう。しかし兎が投げられたトマトを大ジャンプしてキャッチ。おおっと上がる歓声。
 そう。着ぐるみの中はみな撃退士。アクションはお手の物。
「にんじん剣 にんじん一刀両断」
 桃太郎に迫るニンジン鬼の必殺技。のんびりしていたコアラが突如動いて、ニンジン剣を受け止めた。
 口で!
 もしゃもしゃ食べる。
「こ、これはすごい! 生なのにこの甘み! そしてこの歯ごたえ! 大地の宝石箱ね」
 美味しさを語るコアラ。ニンジン鬼は、
「如何なる時も、前のめり、に」
 と、倒れ込む。前のめりに。
「わらかす……ええいっこれでもくらえ! 必殺技、胞子の舞!」
 無茶ぶりされたしいたけ鬼は、マルチーズにビームっぽいものを放つ。と、マルチーズの頭にしいたけが生える。……それだけの術だが、匂いをかいだマルチーズがその生えたしいたけを持ってきた鍋へと投入する。
 兎やコアラがトマトやニンジンも鍋に入れる。そして3人で呪文をかける。
「「「おいしくな〜れ」」」

【も、もう大人しくするのです!】
 桃太郎がボスたちに降伏を求めるが、2人はそんな桃太郎へ襲いかかる。
「……もふから生まれたもふ太郎! ここに見参もふ」
 もふ太郎着ぐるみの八塚 小萩(ja0676)が、桃太郎のピンチに駆け付ける。演出のためのスモークマシンまで仕込んでいる。短い脚で蹴りをいれ(明らかに届いていないがツッコミいれてはいけない)、間髪入れずに袈裟懸けにゴーヤを切りつける。
「調理すれば苦味もなんとかぁなる、てぇことで、お、俺も、あ食べてぇ〜おくんなせぇ〜」
 倒れ方まで歌舞伎チックだった。もふ太郎がポーズを決める。
「もふらは野菜大好きもふ! 皆も食べるもふ! あ、もふランドと舵天照もよろしくもふー!」
 野菜のことを言いつつ、しっかり宣伝するのも忘れない。
 そしてまた、桃太郎も茄子ボスへと飛びかかり
【これでおし
「これでおしまいだ!」
 桃太郎のセリフを奪うように現れた忍者……いや顔は犬なので忍犬? の着ぐるみを着た秋月 玄太郎(ja3789)。分身の術を正面向きに使って茄子ボスへ攻撃する。攻撃は土塊の忍術書の視覚効果を上手く利用。茄子ボスはそれに当たったように見せかけて後ろへ大きく飛んだ。

「みなさんはどうしてこんなことを?」
 茶兎は暴れるピーマン鬼にそう聞いた。するとピーマン鬼は言った。誰も食べてくれないからだ、と。
 それを聞いた猫と茶兎は、ピーマン鬼になるほどと頷き、
「好き嫌いはだめだよね」
「はい、猫さんとピーマンさんの言うとおりです」
 茶兎と猫は戦うみんなに言う。
「食わず嫌いはダメなのです。きちんと食べて、心身ともに健やかに」
「野菜も生きているのだよ。皆は他の生き物の命を戴いて生きているのだよ」
 中でも食わず嫌いがあると言う桃太郎と子狼。さらには村人たちにも諭し、食わず嫌いのあったみんなが反省。怒っていた野菜鬼たちと仲直りの握手。
 仲直りしたところで、みんなで美味しく野菜を食べよう。
「あたしを喰う? ほう? 焼くか? 煮るか? ……味噌汁ならばアク抜きを忘れるな! 茗荷の千切り忘れんな! 体にいいんだぜ! だが、食べ過ぎには注意しろ! 体温を下げるからな!」
 注意事項を述べるのは茄子ボス。でもやっぱりなんだか偉そうだ。
「辛味が気になるなら焼いて食べると甘みが出て美味しいですし、細かく刻んだネギで作ったネギ塩ダレもオススメですよっ」
 白ネギも、精一杯に美味しさをアピールする。観客席でお腹をさすった人が何人か。
「水に漬かってアクをよく抜こうね〜塩でよく身体を揉んでね〜」
 猫は野菜へ逆に注文をつけるように調理して、子供たちに興味を持たせていた。
「う。ブロッコリー」
「ブロッコリー……苦手?」
 ブロッコリー鬼がこてんと首をかしげる。野菜が苦手な子狼が頑張ってブロッコリー(着ぐるみの方)にかじりつくと、おおっと歓声があがる。中の人的には遊んでいるノリだ。
「セロリんの食べ方? まず筋を取るでしょ。
 それから、まよねーずをかけて、なまでぱくりだって!」
 実はセロリが苦手なセロリ鬼の中の人。若干青ざめつつ、棒読みの説明。しかし同じく顔ざめている子供を発見。気合いを入れなおす。
「おいしーよ、きみもたべてみる? うん、ぼくといっしょにたべよう♪」
 セロリがセロリを食べるというのはちょっとシュールな気もするが、逆に子供には受けたらしく苦手な子たちもパクリと食べた。
「好き嫌いは子供だけじゃねぇ! 大人もだぜ? 一緒に食わず嫌い直そうぜ!」
 最後は村人を観客に見立てて舞台上へと上げ、みんなで楽しく野菜を食べて盛り上がる。音楽も明るく楽しいものだ。

「――こうして桃太郎や村の人々は野菜鬼と仲直りし、楽しく健康に暮らしたのでした。おしまい」
 本が閉じられ、幕が降りた。


「っはー、みんなお疲れ様」
「お疲れ様ー」
 本の着ぐるみを脱いで笑った祈羅に幸穂も笑いかけ、思わず祈羅は「可愛い」と抱きついた。そんな祈羅に威鈴がタオルとお茶を手渡す。
「お疲れ……様」
「ありがとう。威鈴ちゃんもお疲れさま。楽しかったね」
「うん……劇……楽しかった……」
「ボクも楽しかったです!」
「良かったねぇ。奈緒ちゃん」

「えっ? 本当にもらってもいいっすか?」
【はい。ボクもその方が嬉しいです】
「知夏の、着ぐるみコレクションに加えて大事にするっすよ♪」
「ありがとう、健人のお兄さん! だって、かわいいんだもん! 大事にするね!」
「私もせっかくだし、もらって帰るね」
「妾も持ってかえるのぢゃ」
「私もです! すごくいい思い出になりました」

「お疲れさんよ。健人も中々良かったじゃねえか」
【お疲れ様です】【ありがとうございます】
【龍さんはさすがだったのです】
「いや〜健人を目立たせてやりてぇとは思ってたんだが、ついつい目立ちたい気質がでちまう。舞台役者の性だな」

 それぞれがホッと一息ついていたが、最後の仕事が残っている。野菜をたっぷり使った料理をふるまうのだ。
 味噌汁に野菜炒め、サラダ、煮物。などなど、多種多様な料理が並ぶ。
「セロリもおいしーよ、きみもたべてみる? うん、ぼくといっしょにたべよう♪」
 万里が同じくセロリ嫌いの子供たちとマヨネーズ片手に克服に挑む。
「いただきますは魔法の言葉なんです」
 藤花は首をかしげた子供に大事なことを伝える。着ぐるみは身につけたままだ。
「命をもらうから言う言葉なんですよ」
「野菜も生きているのだよ」
「……うん! わかった」
 続いて焔が声をかけ、野菜がおいしく食べられるレシピを配った。

 着ぐるみ演劇はこうして大盛況に終わったのだった。

●まるで夢のような
 楽しい時間はいつまでも続かない。舞台を片付けたら、お別れだ。

「みんな使い込まれてる……ずっと健人ちゃんの事守っとったんじゃね。キミたちホント……立派なヒーローだよ」
 恭司がそう言って健人の肩を叩いた。視線の先にあるのは、今回使用した着ぐるみたち。最後に見せ場を、とは思っても、やはり最後は寂しい。
 あらかじめ頼んでいた業者(量が量なので)が着ぐるみの入った箱をトラックに詰め込み、去っていく。健人はじっとトラックをみていた。何を思っていたのかは、彼にしか分からない。
 やがてみなを振り返った健人は、着ぐるみに開いた穴の向こうでたしかに微笑んでいた。
【みなさん、本当にありがとうございました】



依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 癒しのウサたん・大谷 知夏(ja0041)
 散らぬ華を抱く・一色 万里(ja0052)
 保健室のお姉さん・シルヴァ・ヴィルタネン(ja0252)
 思い繋ぎし紫光の藤姫・星杜 藤花(ja0292)
 ドクタークロウ・鴉乃宮 歌音(ja0427)
 モテ男にも恋をさせたい!・和菓子(ja1142)
 揺るがぬ護壁・橘 由真(ja1687)
 凛刃の戦巫女・礼野 智美(ja3600)
 ブレイブハート・若杉 英斗(ja4230)
 聖槍を使いし者・カタリナ(ja5119)
 思い繋ぎし翠光の焔・星杜 焔(ja5378)
 チャンコマン・阿岳 恭司(ja6451)
 序二段・丁嵐 桜(ja6549)
 冷徹の銃魔士・神谷・C・ウォーレン(ja6775)
 光の刃・御子柴 天花(ja7025)
 QON∞星紡ぐ魔術師・フェルルッチョ・ヴォルペ(ja9326)
 撃退士・虎落 九朗(jb0008)
重体: −
面白かった!:15人

癒しのウサたん・
大谷 知夏(ja0041)

大学部1年68組 女 アストラルヴァンガード
散らぬ華を抱く・
一色 万里(ja0052)

大学部1年151組 女 鬼道忍軍
『九魔侵攻』参加撃退士・
楊 玲花(ja0249)

大学部6年110組 女 鬼道忍軍
保健室のお姉さん・
シルヴァ・ヴィルタネン(ja0252)

卒業 女 インフィルトレイター
思い繋ぎし紫光の藤姫・
星杜 藤花(ja0292)

卒業 女 アストラルヴァンガード
ドクタークロウ・
鴉乃宮 歌音(ja0427)

卒業 男 インフィルトレイター
凍気を砕きし嚮後の先駆者・
神凪 宗(ja0435)

大学部8年49組 男 鬼道忍軍
cordierite・
田村 ケイ(ja0582)

大学部6年320組 女 インフィルトレイター
みんなのアイドル・
下妻ユーカリ(ja0593)

卒業 女 鬼道忍軍
●●大好き・
八塚 小萩(ja0676)

小等部2年2組 女 鬼道忍軍
撃退士・
ヴィーヴィル V アイゼンブルク(ja1097)

大学部1年158組 女 ダアト
モテ男にも恋をさせたい!・
和菓子(ja1142)

大学部1年196組 男 ディバインナイト
揺るがぬ護壁・
橘 由真(ja1687)

大学部7年148組 女 ディバインナイト
奇術士・
エイルズレトラ マステリオ(ja2224)

卒業 男 鬼道忍軍
凛刃の戦巫女・
礼野 智美(ja3600)

大学部2年7組 女 阿修羅
撃退士・
秋月 玄太郎(ja3789)

大学部5年184組 男 鬼道忍軍
撃退士・
木ノ宮 幸穂(ja4004)

大学部4年45組 女 インフィルトレイター
ブレイブハート・
若杉 英斗(ja4230)

大学部4年4組 男 ディバインナイト
いつでも元気印!・
花菱 彪臥(ja4610)

高等部3年12組 男 ディバインナイト
聖槍を使いし者・
カタリナ(ja5119)

大学部7年95組 女 ディバインナイト
思い繋ぎし翠光の焔・
星杜 焔(ja5378)

卒業 男 ディバインナイト
冷徹に撃ち抜く・
御守 陸(ja6074)

大学部1年132組 男 インフィルトレイター
チャンコマン・
阿岳 恭司(ja6451)

卒業 男 阿修羅
序二段・
丁嵐 桜(ja6549)

大学部1年7組 女 阿修羅
恋する二人の冬物語・
リゼット・エトワール(ja6638)

大学部3年3組 女 インフィルトレイター
冷徹の銃魔士・
神谷・C・ウォーレン(ja6775)

大学部7年7組 男 ダアト
光の刃・
御子柴 天花(ja7025)

大学部3年220組 女 阿修羅
希望の守り人・
水屋 優多(ja7279)

大学部2年5組 男 ダアト
撃退士・
雨宮 祈羅(ja7600)

卒業 女 ダアト
碧い海の・
清良 奈緒(ja7916)

中等部2年1組 女 アストラルヴァンガード
ただ1人の傍観者・
ルーナ(ja7989)

大学部7年264組 女 ルインズブレイド
『山』守りに徹せし・
レグルス・グラウシード(ja8064)

大学部2年131組 男 アストラルヴァンガード
白銀のそよ風・
浪風 威鈴(ja8371)

卒業 女 ナイトウォーカー
縁の下で支えてくれる人・
成宮 雫雲(ja8474)

大学部7年20組 女 鬼道忍軍
日出国の巫女・
黒椿 楓(ja8601)

大学部6年113組 女 インフィルトレイター
君のために・
久慈羅 菜都(ja8631)

大学部2年48組 女 ルインズブレイド
死を語る者・
冬樹 巽(ja8798)

大学部8年170組 男 アストラルヴァンガード
光を喰らう者・
ヨナ(ja8847)

大学部8年66組 男 ルインズブレイド
久遠ヶ原男性水着コン入賞・
龍 金時(ja8913)

大学部9年42組 男 阿修羅
ひょっとこ仮面参上☆ミ・
新崎 ふゆみ(ja8965)

大学部2年141組 女 阿修羅
リコのトモダチ・
音羽 千速(ja9066)

高等部1年18組 男 鬼道忍軍
撃退士のすべきこと・
神 蒼(ja9080)

大学部3年126組 女 阿修羅
撃退士・
猫谷 海生(ja9149)

大学部4年68組 女 ダアト
QON∞星紡ぐ魔術師・
フェルルッチョ・ヴォルペ(ja9326)

大学部7年163組 男 阿修羅
ラピッドラビット・
月音テトラ(ja9331)

大学部6年176組 女 ルインズブレイド
夏宵の姫は薔薇を抱く・
逆城 鈴音(ja9725)

中等部3年3組 女 アストラルヴァンガード
命の掬い手・
森田直也(jb0002)

大学部8年1組 男 阿修羅
撃退士・
虎落 九朗(jb0008)

卒業 男 アストラルヴァンガード
運命の詠み手・
羽空 ユウ(jb0015)

大学部4年167組 女 ダアト
友の屍を越えて・
更科 深澪(jb0074)

大学部7年286組 女 阿修羅