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マスター:真人
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/10/14


みんなの思い出



オープニング

●数日前〜遅れてきた希望
 白刃が閃き、眩い光の雨が降り注ぐ。
 状態異常能力を持たないサーバントなら、それなりに経験を積んだ久遠ヶ原撃退士の敵ではない。
 ただ、問題はその数だった。
 連れ去られた子供達を奪回するため突入した廃病院で、4人の撃退士達はサーバントの群れに行く手を阻まれていた。
 範囲攻撃で一掃を試みるも、思うように捗らない。一進一退を繰り返し、ついに壁を突破した時には。
「……こんな事って」
「くそったれ!」
 撃退士の口から、悔恨と怨嗟の声が漏れる。
 暗い手術室、子供達の姿はどこにもなく……ぽつんと転がる白いミニカーは、微かな温もりが残されていた。


●今日〜一縷の希望を繋ぐのは
 身元を偽って人間社会に潜む主・ナハラに代わり、普段はゲートの中でコアを守っている上総だが、月に一度は定期報告を兼ねて会う事になっていた。
 もっとも最近は近隣で起きた大きな事件のため、ずっと延期状態になっていたが。
「……カズサ」
「はい」
「……あまり俺から離れてはいけない」
 好天に恵まれた休日の遊園地はニンゲンで溢れかえっている。久々のお出かけで燥いだ上総が何処かに行ってしまわないよう、お目付け役であるアルカイドは充分に注意を払う。
 こくんと頷いて、差し出された手をぎゅっと握る。その姿は、まるで歳の離れた兄妹のように見えた。
「兄様。あれは何ですか?」
 待ち合わせ場所の正面にある屋台。好奇心旺盛な上総は、早速ニンゲン達が美味しそうに頬張っているモノに興味を持つ。
「……ポップコーン?」
「上総も食べてみたいです」
 アルカイドは自分の財布の中身を思い出す。副収入があったばかりなので、幸い懐は充分温かかった。
 ――癖になるから、無暗におねだりを聞いてはいけない。
 ナハラはそう言っていたが、土産という名目なら、特に問題はないだろう。
 アルカイドは静かに首肯すると、上総と共に順番待ちの最後尾に付いた。

 穏やかな日常の風景が断ち切られたのは、上総が優しそうなお姉さんから3ガロン缶を受け取った時だった。
 どこかで響いた悲鳴。空の上を、無数の影が交差する。
「こいつら、一昨日駅前に出たって奴じゃないか?」
「サーバントか? 早く撃退士を呼べっ」
 1体のカラス型サーバントが母親に手を引かれた子供に襲いかかった。母親の腕を鋭い爪で切り裂き、泣き叫ぶ子供の身体を易々と空中へと持ち上げる。
 そんな光景が、至る所で繰り広げられていた。
「兄様ーっ!」
 アルカイドは咄嗟に上総を抱き上げると、多くの人がそうしているように、身を隠せる建物に向かった。
「うわっ」
 避難誘導をする係員の前に白い毛並みのヒヒが現れた。ヒヒが係員を鷲掴みにすると、力任せに地面へと叩きつけた。
 鮮血が飛び散り、周囲は一瞬で恐怖に包まれる。
 ヒヒが次に狙いを定めたのは、逃げ惑う人々の中でひとりだけ微動だにしないアルカイド――
「……」
 鋭い爪を軽々と避けたアルカイドは、流れるような仕草で拳を叩き込んだ。
『ギャッ』
 無手とは言えヴァニタスの一撃は重く、ヒヒは悲鳴にも似た鳴き声を上げた。
「あんた、撃退士か?」
「……いえ」
 そうしている間にも、数体のヒヒが、明確な敵意を持ってアルカイドに襲いかかる。
 アルカイドは反射的に剣を実体化させ、黒き雷で群がるヒヒを焼き払った。
「……俺は」
「助けが来たぞ。これでもう安心だ」
 絶望の淵に立たされた人々は一転、歓喜の渦へ。
「……撃退士では」
「陸空が、うちの子があの鳥に攫われたんです。お願いします。助けてください!!」
 頬を爪で抉られた母親が、必死の形相で縋りつく。
「……ありま…………」
 弁明が人々に届くことはなく、アルカイドは困り果てて天を仰いだ。
「まったく、お前は何を遊んでいるんだ」
 不意に後方から掛けられた声。
 新たに登場したサングラス姿の青年――ナハラが、急降下で強襲するカラスを切り裂いた。
「子供は撃退士が助けに行くだろう。あんたは早くここから離れろ」
 我に返った母親は、傍にいた見知らぬ男性に支えられながら、現場を後にした。
 一般人が消えた広場に黒雷が走り、羽虫のような火花がヒヒを包み込む。1分とかからず、周囲に蔓延っていたサーバントは地に堕ちた。
「……申し訳ありません」
「気にするな。それより、本当に撃退士が来る前にずらかるぞ」
 いつまでもここに留まって居ては、またサーバントの標的になりかねない。早々に退散するため、ナハラは素早く周辺に視線を走らせた。
「おい、上総はどこだ」
「……? ここに居りますが」
「どこに?」
 アルカイドは怪訝な表情で自身の腕の中へ視線を向ける。

 (бωб)

 そこに居たのは、愛らしい笑顔を浮かべる上総――ではなく、ポップコーン屋に飾られていたマスコット人形。
「…………あ」
「あ、じゃないだろ」
 アルカイドは慌てて周囲を探すが、上総の姿はどこにもない。その代わり、先ほど買い与えたポップコーンが、点々と奥の方へと続いていた。
 深く溜息を吐いて、ナハラは精神を集中する。普段から上総に託している通信用のディアボロを介し、彼女の状況を探った。
「どうやら人間と間違われて攫われたらしいな。今はまだ、ヴァニタスとは気付かれてはいない」
 助けに行くべきか?
 でも、相手の戦力も判らずに少数で突貫するのは脳筋の仕事だ。
 妙なタイミングで撃退士と鉢合わせし、痛くもない腹を探られるのも面倒。
「ここは奴らを利用した方が無難か」
 例え成り行きでも、自分達は一般人を助けている。その『借り』を返してもらうのは当然の権利だ。
 仮に正体がバレても、子供達の前で上総を斬り捨てるほど、撃退士は愚かでないだろう。
 近づいてくるパトカーのサイレンを聞きながら、ナハラはそう言って口元に笑みを浮かべた。



リプレイ本文

●笑顔なき夢の園
 遊園地のどこかで甲高いケモノの声が谺する。
 本来あるべき人々の笑顔を封じ込めて。
 ファーフナー(jb7826)が視線を向ければ、池のある辺りで無数の鳥が乱舞しているのが見えた。
「居合わせたという撃退士が戦っているのは……あそこか」
 子供達が集められたというトリックハウスから、それほど離れていない。救出に時間が掛かれば、あれらは敵の援軍となる可能性が高いだろう。
「状況は一刻を争いますわね。急ぎましょう」
 子供が攫われるのを見たという通報は十数件寄せられている。
 その一方、実際に自分の子や弟妹が攫われたという被害報告は6件のみ。
 目撃情報は重複しているものが殆どだろう。
 やむを得ない事情で、我が子の危機を訴える事のできない親もいるかもしれない。
 強い意志を含んだ長谷川アレクサンドラみずほ(jb4139)の呟きに、隣に立つエカテリーナ・コドロワ(jc0366)が静かに同調した。
「わざわざ子供を狙って、ですか……」
 血痕が散らばる石畳に縫いぐるみがひとつ、落ちていた。
 この子の友達は無事に逃れられたのだろうか? 十三月 風架(jb4108)は縫いぐるみの汚れを払うと、これ以上踏みにじられないよう、ベンチに座らせた。


●突入
 トリックハウスを訪れた撃退士達は、まず施設のスタッフルームへと向かった。
 調整のため落とされていた電源を入れ、照明や管理システムを立ち上げる。
「どう?」
「……やはり、な」
 楽しげに口角を上げるアスハ・A・R(ja8432)。背中越しに覗き込んだメフィス・ロットハール(ja7041)を振り返り、目の前に並ぶモニターを指先で叩いた。
 モニターに映し出される監視カメラ映像の殆ど、砂嵐の状態になっている。
 おそらく意図的に破壊されたのだろう。サーバント如きに回せる知恵ではない。学園が憂慮した通り、指揮官がいる事は確定したも同然だ。
「何処にも子供は映っていないな。だとすれば、破壊されている範囲にいるということか?」
 だが、カメラ映像から場所を絞り込もうにも、それを知っているスタッフは今この場所にはいない。
 オペレーターに繋ぎを求めようとするファーフナーを、ジェラルド&ブラックパレード(ja9284)が制した。
「あまりサポートを頼りすぎるのもね☆」
 仲間達が監禁場所の特定を急ぐ中、ジェラルドは所属不明の男達と接触を果たしていた。
 あれだけのサーバントを相手にしていても、余裕を見せる手練れ。
 だが、阻霊符の解除と共に救出した子供達の保護を依頼した時、サングラスの青年は侮蔑を孕んだ口調で答えた。
 ――それも含めてお前達の仕事だろう。久遠ヶ原の撃退士……と。
 こちらをそう呼ぶという事は、フリーランスか、撃退庁に身を置いている者か。
 自分達でできないのか? と問われ、できませんと答えられるはずもなく。
 そして何よりも、事件を引き起こした天魔が、伝言ゲームの追加情報を待つ猶予を与えてくれるとも、思えなかった。

「2階辺りに反応が固まっていたよ」
 身を寄せ合うように7つ。その周囲を、複数の反応がせわしなく動き回っている。
 生命探知を行使したアサニエル(jb5431)の報告により、撃退士達は目指すべきポイントを特定した。
「敵の殲滅より要救助者の救出を優先ね」
 メフィスが行動指針を確認するように仲間達を見渡した。
 いかにサーバントの足止めを避け、一刻も早く子供達の元へ辿りつくか――それが任務の肝。
「最初に言った通り、あたしと十三月は透過して侵入するさね」
 そしてすぐに阻霊符を展開し、子供達の搬送と逃走を阻止。残る6人も三班に分かれ別経路から進攻。
 アサニエルと風架は屋根から。
 メフィスとアスハは、入口近くのスタッフ通路。
 ジェラルドとファーフナーはリタイア者用出口から。
 みずほとエカテリーナは通常の通路を走り、それぞれ監禁場所を目指すのだ。

「二度あったからって三度もあるとは思わないことだね」
 いつまでも遅れを取る訳にはいかない。今度こそ追い抜き、阻むために。
「準備は良いかい?」
「はい。先導……お願いします」
 阻霊符を解き、アサニエルと風架はトリックハウスの屋根に潜る。
 途中、激しく威嚇してきたカラスを無視し、更に下階へと……。

「ここを隠れ家に選ぶとは、奴らも悪知恵が回るものだ。ならばこちらも頭脳戦で勝負だ」
 マジシャン風の人形が鎮座するゲートに立ち、エカテリーナが目を細める。
 今はまだ、敵の姿は見えない。それでも、産毛を逆立てるような殺気は建物全体に満ちている。
「手早く参りますわよ!」
 みずほの纏うアウルが蝶の羽を模す。それは同時にエカリテーナの背にも現れて……。
「エカテリーナさん、着いて来て下さいませ!」
 掛け声を放ち、走り出した。

「こちら側は警戒が薄い、な」
 スタッフ通路を進むアスハ。それなりの迎撃を予想していただけに、拍子抜けとも言える状態だった。
 罠か、それとも?
 警戒しつつも前方に目を向ければ、相方であるメフィスの背中が随分先に見えた。
「速い、ぞ」」
 ただでさえ開きがある移動力である。その上メフィスは全力をかけていた。
「嫌な予感がするのよ。急がないとっ」
 それは特攻娘としての直感か。
 置いてきぼりの状況にアスハが小さく舌を打ち、走り出したその時に。
 オープン状態になった通信機から、激しいノイズが響いた。


●希望が満ちるまで
 両腕に纏うは死神の赤い風。
 全力を賭けた神速の一撃が、でっぷりと太ったジャイアントトードを子供達から遠ざける。
 続いて周囲を包みこんだ紅蓮の炎が、サーバントのみを焼き払い――幾重にも重なる子供達の悲鳴の後、2体のカラスが物言わぬ骸となって床に崩れ落ちた。
「やれやれ、だね」
 子供達を背に庇い、アサニエルは息を吐いた。
 風架は即座に身構え追撃に備える。周囲にはまだ複数のサーバントが殺意を漲らせ、舌なめずりをしていた。

 ――建物の天井と床を透過した先に、7人の子供達はいた。泣き声を潜め、互いに身を寄せ合って。
 間に合ったと安堵したのもつかの間の事。赤ん坊を抱いていた年長の少女に指摘され、2人はそこがサーバントの『巣』である事を理解した。
 撃退士の出現にサーバントはひどく興奮し……2人は体勢を整える間もなく、否応なしにそれらを相手にする事になったのだ。――

 子供を守りながら戦う……それは決して容易い事ではない。
 己が身体を盾として、牙や爪を通さぬよう、攻撃の全てをその身で受け止める。
 波のように押しては引くサーバントの攻撃。カオスレートが地味に響く。膝を付きかけた風架を、アサニエルはライトヒールで支え続けた。

 子供達の姿を確認したという事実は、即座に仲間達へと伝えられていた。
 同時に、現場の危機的状況も。
「すぐに参りますわ」
「それまでは子供達を頼む」
 通信機越しにエールを送り、みずほとエカテリーナは先を急ぐ。
 だが、迷路状になった通路は分岐や障害物も多く、似たような景色は方向感覚を麻痺させる。
『足元を見ろ。何か落ちてはいないか?』
 現在地すら見失いかけていた折、通信機から流れてきたのは、別行動を取っているファーフナーの声だった。
 怪訝に思いながらも視線を落としたエカテリーナは、床の上に転がる小さな物体に気がついた。
「……これは」
「ポップコーンですわね」
 改めて周囲を探ると、それは点々と一方向へと続いていた。

 通信機越しに、ファーフナーは予想が当たったと心の中でほくそ笑む。
「入口の辺りにも落ちていた。この施設はしばらく使われていない。とすれば、ごく最近持ちこまれた物。……攫われた子供だろう」
「ちなみに、ここのポップコーン屋さんは、一昨日開店したばかりだよ☆」
 淡々と事実を告げるファーフナーの声に、ジェラルドの軽い声が重なった。
『助言、感謝する』
「どういたしまして☆」
 通信の間も2人は走り続ける。
 階段を駆け上がり突き当りの角を曲がれば、そこはもうリタイア者用の出口だ。
 ジェラルドは耳を澄まして通路側の様子を探る。
 確かに聞こえる耳障りな鳴き声。2人は頷き合って躍り出ると、即座に背中を合わせ、待ち兼ねていたように襲い掛かるカラスを迎え撃った。


●活路
 風架とアサニエルは子供達を守り続けていた。
 続く孤軍奮闘。己の手番が来るまでの僅かな間が、とても長く感じられる。
「ヤーッ」
 ヒヒの突進に即時対応したアサニエルの頭上を抜け、カラスが後方の子供達に狙いを定めた。
 ジャイアントトードを押し止めている風架は動けない。
 万事休す。
 誰もが惨劇を予測したその時、何処からともなく飛来した黒き炎鳥がカラスを飲み込んだ。
「お待たせ!」
 霊符を放ったメフィスが得意げに微笑んだ。
 アサニエルの腕に食らいついたヒヒも、一歩遅れて駆け付けたアスハの蒼焔に穿たれた。
「間に合ったようですわね」
「確保☆」
 みずほやジェラルド達も続々と駆け付ける。
「おいで! 私が相手をしてあげるよ」
 メフィスが敵意を刺激する微笑を口元に湛え、昏い紫のアウルを全身に纏う。
 挑発を受け、本能のままにメフィスへ群がるサーバント。
「今よっ」
 ともすれば諸共に切り裂きかねない状況で、アスハの繰るワイヤーは確実にサーバントだけを絡め取る。
 それは互いを信じ、信じられているからこそできる、ギリギリの連携だった。

 瞬く間にサーバントを無力化した撃退士達。
 怖いモノが消えた事で、子供達もようやく緊張から解き放たれた。塞いでいた目や耳を開放すれば、これまで必死に堪えていたものが一気に溢れだした。
「よしよし、もう大丈夫だよ♪ でも、お家に帰るまでが遠足からね☆」
 気持ちが落ち着くまで待ってやりたいところだが、悠長な事をしている余裕はない。
 アサニエル2度目の生命探知は、建物内に残る未確認の生命反応が、全てこちらへと向かっている事を報せていた。
「お前達は自分で走れるな?」
 全員を抱えて走る事も可能だが、それでは万が一の時、戦いに巻き込んでしまう危険性がある。
 撃退士達は足の遅い幼子を腕に抱き、剣と盾に分かれて隊列を組んだ。
「……カズサ?」
 ふと。アスハは子供達の中に見覚えのある少女がいる事に気が付いた。
 何故ヴァニタスがこんな場所に? そう訝しんだ時、同時にある男の姿が蘇った。
 かつて相見えた事のある、複眼の悪魔が。
「なるほど。では撃退士というのはナハラか」
 アスハの口元に自嘲じみたものが浮かぶ。彼には少なからず『借り』があった。
 ならば、丁重に扱おうではないか。
「お願いします」
 差し伸べた手に、上総は当然のように自分が抱いていた赤ん坊を授けた。
「あらら、振られちゃったみたいね☆」
 ジェラルドの冷やかしをすっぱりと無視。赤ん坊をメフィスに託し、アスハは走り出した。

 脱出時の道順は完璧に頭に叩き込んだ。そのつもりだった。
 しかし、丁字路を曲がり、真っ直ぐリタイア口へ続くはずの路は、いつのまにか壁で塞がれていた。
 一方通行の仕掛けが働いたのだろうか?
「ならば、撃ち抜くのみですわ」
 勢いをつけて叩き込んだ黄金の右ストレートは、ポヨョンという感触と共に跳ね返される。
「なんですの!?」
 息を呑むみずほを、壁の上部に描かれた目玉模様がぎろりと睨む。
 伸びてきた舌に絡め取られる腕。強い力で引き寄せられるも、力強く踏み留まった。
「……ジャイアントトード!」
 用意されていた運搬型は、1体だけではなかったらしい。
 透過を封じる結界の下、狭い通路にみっちりと詰まって。それでも前進しようとするジャイアントトードによって、周囲の壁が軋んでひび割れていく。
「もうヤダぁ!」
 粉々に砕けた天井が降り注ぐ中、それまでずっと俯いていた男の子が癇癪を引き起こしたように悲鳴を上げた。伝染するようにパニックが広がり、一部の子供が脇道へと駆け出した。
「ダメ、そっちは……」
 守りが乱れた所を見透かしたように現れたサーバントの群れ。風架は素早く前方に回り込み、背に爪を受けながらも子供達を抱き止める。
 サーバントの動きは先刻までと明らかに違っていた。
 本能に任せての暴虐は鳴りを潜め、メフィスの挑発に惑わされる事もない。明確な意図を持ち、子供達だけに狙いを定めて。
 じわりと滲む指揮官級の気配。
 どこかで監視しているのだろうか? この状態で交戦する事だけは、どうしても避けたい。
「邪魔はさせん、そこをどけ! さもなくば地獄に落ちろ!」
 活路を開くため、エカテリーナは冷徹な宣言と共にアウル炸裂閃光を撃ち放つ。
 Damnation Blow、氷の夜想曲、Hit That――無理やりこじ開けた隙間から、撃退士達は一気に前進する。
 目の前は行き止まり。しかし、そこが外壁に面している事を、皆は知っていた。
「下がっていろ」
 撃ち放たれるアスハのPDW。蜂の巣状になった壁にファーフナーが魔槍を叩きつけ、大穴を穿つ。
 差し込んでくる陽の光に子供達は眩しそうに眼を細めて……。
「行きます」
「しっかり捕まっていてね☆」
 それぞれの腕に子供達を抱き、撃退士達はトラップハウスを脱出した。


●余韻
 園内で暴れていたサーバントは、撃退士達の脱出から間もなく、何処かへと逃げて行った。
 災厄が去った遊園地に、子供達の泣き声が谺する。
 それは恐怖から解放され、温かい両親の腕に抱かれた、安堵の泣き声。勝利の凱歌だ。
「おじちゃま、ありあと」
 感謝の言葉が胸に詰まり、ただただ頭を下げる親。
 その親に抱かれ、一番泣き虫だった男の子が得意げにVサインを作る。
 人見知りをしていた女の子は、舌っ足らずの言葉で笑顔を見せた。
 次々と引き取られていく子供達。
「兄様、上総は頑張りました!」
 紛れ込んでいたヴァニタスの少女も、最後まで己の正体を隠したまま、主である悪魔の元へ。
 無言で上総を迎えるナハラ。すれ違い際に交わされた視線が、馴れ合いは無用だと告げていた。

「やれやれ。最初はどうなる事かと思ったよ」
 全ての子供達が親元へ帰るのを見届けた後、アサニエルはようやく息を吐いた。
 サーバントの爪が後ろへ届かぬよう、攻撃を全て受け止め続けた撃退士達は、誰もがボロボロの状態だ。
 それも子供達が無傷である事を思えば、名誉の負傷と言えるだろう。
「任務完了だね☆」
「だが、これで終幕という訳ではないだろう」
 やり遂げた感満々のジェラルドとは対象的に、アスハの視線は険しく。
 結局指揮官の存在は謎のまま。
 子供だけを攫うという行為に含まれた真の目的も。
 直に訪れるだろ対決の時に備え、少しでも情報を得ておきたかったのだが……。
「何度も逃げられると思うのは大間違いよ」
「次が最後ですわ」
「それまで首を洗って待っておくが良い」

 撃退士達は静寂に包まれたトリックハウスを仰ぎ見て、踵を返す。
 そして未来を見据え、歩きだした。



依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:3人

押すなよ?絶対押すなよ?・
メフィス・ロットハール(ja7041)

大学部7年107組 女 ルインズブレイド
蒼を継ぐ魔術師・
アスハ・A・R(ja8432)

卒業 男 ダアト
ドS白狐・
ジェラルド&ブラックパレード(ja9284)

卒業 男 阿修羅
黒き風の剣士・
十三月 風架(jb4108)

大学部4年41組 男 阿修羅
勇気を示す背中・
長谷川アレクサンドラみずほ(jb4139)

大学部4年7組 女 阿修羅
天に抗する輝き・
アサニエル(jb5431)

大学部5年307組 女 アストラルヴァンガード
されど、朝は来る・
ファーフナー(jb7826)

大学部5年5組 男 アカシックレコーダー:タイプA
負けた方が、害虫だ・
エカテリーナ・コドロワ(jc0366)

大学部6年7組 女 インフィルトレイター