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マスター:柏木雄馬
シナリオ形態:シリーズ
難易度:難しい
形態:
参加人数:12人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2016/02/21


みんなの思い出



オープニング

 最初に異変に気づいたのは、館の外で包囲態勢を敷いた混合部隊の撃退士だった。
 闇の中、手信号のみのやり取りにて音もなく屋敷を囲む笹原小隊二個分隊と撃退署・清水班── その後方で地に膝をつき、周辺警戒に専任していた署員の一人が、ふと頭上の月が揺らいだ気がして、暗天の夜を見上げる。
(……気のせい、か……?)
 月にも、空にも、まるで変わったところは感じられず、小首を傾げる撃退署員。その背後、何も無いはずの闇の中から一本の、半透明の触手がぬるりと垂れ下がり…… 署員の首に絡み付こうと『鎌首』をもたげたその瞬間──
「撃てぇ!」
 と、一斉射撃の銃声が、雷鳴の如く轟いた。空中に放擲されたファサエルに対する集中攻撃が行われたのだ。
 ビクリと身を震わせる署員と触手。その時には、署員の頭上に巨大な『クラゲ』がその姿を現し初めていた。その触手に『オーク』兵を提げた空中輸送用のクラゲ型ディアボロの群れ── 透明化したまま館内に突入する手筈であったそれらは、突然の一斉射撃に不意を打たれ、思わず透明化が解けていた。
 刹那の間、互いに『目を合わせた』まま硬直する署員とクラゲ(とオークたち)── だが、旧体制下の学園で受けた地獄の様な訓練は、署員の身体に今、すべき事を反応させた。
 咄嗟にその場を飛び退きつつ…… 今しがたまでいた地面に振り下ろされた触手に対して銃撃を浴びせながら、「敵襲!」と叫んで味方に事態の急を告げる。
 天使に痛撃を与えて喝采の声を上げていた撃退士たちが、慌てて背後を振り返った。
 上空には、無数のオーク兵を触手に提げて浮遊する多数のクラゲ型の姿── 顔を蒼くした撃退士たちが銃口を振り上げ、その場で無秩序に乱射を始める。
「落ち着きなさい! 分隊、各個に上空の敵へ銃撃を加えつつ隊形転換……!」
「撃退署員、前進! 俺たちで前衛を張る。盾の壁を築け!」
 すぐに態勢を整えに掛かる藤堂と清水。クラゲ型はその対応に半数の兵をその場に降ろすと、残る半数は館の方へと突進し、学生たちと天使が戦う中庭上空へと殺到した。
「ディアボロ……! いったい、何が起こっているというの……!」
 主を不意打ちした撃退士たちを排除すべく、配下のサーバントを引き連れて館外に出て来たシュトラッサー・徳寺明美は、その状況を察すると慌てて中庭に取って返した。
 彼女が戻る僅かな間に、中庭の状況は一変していた。
 触手を伝って降下してくる無数の醜いオークたち。ゲートの中から出てくる黒髪長髪のにやけ悪魔── いきなり湧いて出た『第三の敵』に、血塗れで倒れたファサエルを──それまで刃を交えていた敵を守る為に、学生撃退士たちが円陣を組んでこれに対抗する……
「全騎、縦列隊形で突撃。常に動き続けて敵の包囲をかく乱して!」
 明美は配下の骸骨狼騎兵にそう命じると、自身は騎乗した『白狼』と共に、『巨人』へ──もう一人のシュトラッサーの所へ向かった。
「何をぼーっとしているの!? 協力して『敵』を倒すわよ!」
「……そうだな」
「っ!?」
 返事があったことに、明美は驚愕して巨人を振り仰いだ。その巨体に似合わず優秀な『魔術師』である彼の『声』は── 天使に服従して以降、主によって封じられていたはずだったからだ。
「一つ、確認しておこう、小さき者よ。……お前の言う『敵』とは、いったい誰の事を指す?」
 悪寒に、明美の全身から一斉に汗が噴き出した。
 シュトラッサー化の際、主は配下の人格に洗脳も強制も施さなかった。シュトラッサーは主人からのエネルギー供給なしに生きていく事はできず、人の心の分からぬファサエルはそれで十分と考えていた節があり。……そのお陰で自分も主の利益に反する様な事でも好き勝手に動くことができたわけだが……
(……待て。あの悪魔はなぜゲートの中から姿を現した? この館は巨人が守っていたはずなのに……!)
 いや、逆に。あの悪魔がこの館の中こまで入り込んでいるというのに、なぜあの巨人は無事でいる? 門番役の鎧型サーバントは影も形も残っていないのに……!
「あんた、まさか……!」
「……そうか。残念だ」
 次の瞬間── 明美は乗っていた白狼諸共、振り抜かれた巨人の足によって、思いっきり壁へと蹴り出された。思いっきり地面をバウンドした後、館の壁へと激突。そのまま動かなくなる明美。同じく、白狼の背に乗せられていた安原青葉もまた、巨人の蹴りの余波を受け、気を失ったまま地面を転がり、壁際まで滑って止まる。
「青葉……っ!」
「先生、指示を……!」
 捕虜となっていた同僚兼教え子が受身も取れずに吹っ飛ばされるのを見て、学生たちを引率する教師・松岡は慌ててそちらへ駆け寄ろうとしたが、生徒たちを前に勝手もできず、迷っている間にオーク兵たちにその行く手を塞がれる。
「この時を待っていた……! 長として、一族の仇を取る時を……! 虜とされ使役され続ける日々に終止符を打つこの時を!」
 我らが恨みを思い知れ、と。巨人は血塗れで倒れたファサエルに指を差した。そして、怒りに燃えた瞳で睨み据えると、瀕死の仇にとどめを刺すべく、進撃を開始する。
「そんな…… 馬鹿な……」
 その行動に最もショックを受けていたのはアルディエルだった。堕天する前、共にファサエルの下で長い時間を過ごした巨人が、まさかその様な怒りと憎しみをその身に内包していたなんて…… 共に戦場を戦い抜き、背中を預け合ったあの信頼は仮初のものだったのか? 兄の愚痴を零す自分を優しく見ていたあの瞳も嘘だったというのか……?
「しっかりしろ、アルディエル! ここで『兄』を殺させていいのか!? 何の為にお前はここまで来た?!」
 義兄(予定)たる榊勇斗の叱咤に、アルはハッと我に返った。
 勇斗の友人・恩田敬一が懐から符と治癒膏を取り出し、迫る巨人へ向け正面から走り出す。
「『ドーマンセーマン』で20秒は足止めしてみせる。その間に、勇斗、皆と巨人を……!」
「わかった!」
 巨人へ向け走っていく友人の背に返事をし、自分たちも行くぞ、と勇斗はアルを振り返り…… ギョッとした。
 アルの瞳に光はなく。にもかかわらず、その表情にはこれまでに見た事も無い怒りと憎しみの表情が浮かんでいた。そして、その右手には短刀が…… その刃をアルは『兄』たる天使へ振り被り……!
「何を……しているっ、このバカたれはぁっ!」
 瞬間、その『攻撃』を受け止めた勇斗が、短刀を持つアルの手首を捻り上げ、地面へと押し倒した。そして、ゲート入り口前で佇んだまま、混沌と化した戦場をにやにや眺める悪魔に向かって声を張る。
「貴様…… アルディエルに何をした!」
「別に? 僕はただ、彼の心の奥底に眠っていた感情を、ちょいとつついてみただけだよ?」
 そう言って心底楽しそうに、にっこりと笑いかける悪魔の男──
 もう聞こえていないかな? と、男はそうコケティッシュに笑った。
 返事はない。アルを押さえ込んだ勇斗の瞳からは光が既に失せていた。
「本当、楽しいよねぇ〜。人の心を覗き込むのは♪」
 激戦の喧騒が響く中。悪魔はゲートの端に腰掛けると、楽しそうにゆらゆらとその脚を宙に揺らした。

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リプレイ本文

 天使・ファサエルが造成した常春の中庭は、悪魔勢力の軍靴に蹂躙されようとしていた。
 次々とクラゲから降下してくる多数のオーク兵を煽り見ながら、雪室 チルル(ja0220)が光信機を持つ手にギリ、と力を込める。受信機の向こう側──館の外に展開した笹原小隊と清水班もまた激しい戦闘の渦中にあり。不意をつかれた不利にクラゲの近接航空支援もあり、多数のオーク兵を相手に押し込まれているという。
 厳しい状況は中庭もまた同様。こちらのクラゲはなぜか戦闘に消極的だが、降下したオークだけでもその戦力は圧倒的だった。明美と骸骨狼騎兵たちが参戦で少しは楽になったと思ったものの、その明美は味方である筈の巨人の攻撃により早々にリタイアしてしまう。
 そして、アルと勇斗── 何らかの精神攻撃を受け、ファサエルに切り掛かろうとしたアルを手早く取り押さえた勇斗を見て彩咲・陽花(jb1871)が「勇斗くんもだいぶ成長したね」と感心したのも束の間。今度はその勇斗がアルを掴む腕にギリギリと力を込め始め、慌てて「勇斗くぅ〜んっ!???」とその身にしがみつく。
 そこへ「一族の恨みを思い知れ!」と突進して来る巨人。チルルは「ああっ、もう次から次へと……!」と叫びつつ、その突撃を足止めするべく正面から迎撃に向かい。魔槍を手にその後に続きながら、ファーフナー(jb7826)は迫る巨人へ冷静な視線を向けた。
(アルディエルたちは自我を奪われた様に見えたが…… 果たしてあの巨人も操られているのだろうか)
 それとも、とそこで言葉を濁すファーフナー。もし、巨人の言う事が事実なら、あの巨人がファサエルに抱く恨みは当然の事にも思えるが……
「……状況が混沌としてきましたね」
「いやはや、やることが一杯だね。……引っ掻き回してくれちゃって、あの悪魔」
 混沌の坩堝と化した周囲の状況を見回し、溜め息を一つ吐く雫(ja1894)と永連 紫遠(ja2143)。桜井・L・瑞穂(ja0027)は腰に手を当て、悪魔に対して声を荒げる。
「いったい何者ですの!? わたくし達の舞台に土足で踏み入った挙句、悪趣味な真似をしてくださいますのは!?」
「僕? 僕は……」
「名乗らなくてもよろしくてよ! 人の心を弄ぶ下種の名に興味はありませんの!」
「えぇー……」
 子供の様に大仰におどけて見せる悪魔。それを白野 小梅(jb4012)と黒井 明斗(jb0525)はクスリともせず見返した。
「せっかくアルちゃんがおじさんとお話できていたのにぃ」
「……兄弟喧嘩にしゃしゃり出てくるとは、無粋もいいところだ」
 普段と異なる無表情さで、頭の上に上げていた随身の面に指を掛け。仲間が聞いたこともない冷徹な声音で「タダで済むと思うな」とギンッと悪魔を睨みながら、面を引き下ろす小梅。明斗もまた本気で腹を立てていた。あの悪魔にとっては単なる天魔間の争いに過ぎない事は分かっているが…… それでも、その横槍の入れ方が気に食わない。
「奇遇ですね。私も、あの悪魔は気に入りません」
 悪魔を見据える小梅と明斗に感じるものがあったのか、雫もまた彼等の表情が語る内心に同意した。
「心情的にはすぐにでも叩き切ってやりたいところですが──」
 言いながら、突撃して来たオークの刃をかわして焔の大剣を振り下ろし。上空から水流の刃を撃ち下ろしてくるクラゲに対しても振り上げるように『星の鎖』を投擲。絡め取ったそれをそのまま逆一本の要領で地面へ引き摺り下ろし、迫るオークたちの眼前に落として即席の障害物とする。
 紫遠もまたオークの突進を鉄塊剣でガァンと受け弾くと、その勢いのままぶん回した大剣をオークに対して振り払った。慌てて後ろに避け下がるそのオークには見向きもせず、そのまま、背後の地面に落ちたクラゲの本体を真横に切り裂き、数本の触手ごと斬り飛ばす。
「……ですが、今は他に優先すべき事が多々残っていると感じます」
 焔の如き赤光を軌跡に曳き、正眼に剣を構え直してオークの新手と対峙しながら、雫が振り返らずに言う。
 明斗は頷いた。クルリと回した槍の石突でオークの鎧を衝き弾くと、その場を雫と紫遠らに任せて松岡の所へ移動する。
「松岡先生。自分が青葉先生と徳寺明美の救出に向かいます。生徒を5名ほど貸してください」
 しかし、と反駁しようとする松岡に、明斗は若干被せ気味に「志願する者は!?」と周囲の学生たちに問うた。勇斗を取り押さえながら「私も行くよ!」と挙手する陽花を初め、すぐに5名以上が名乗りを上げる。
「……徳寺明美を救出できれば、骸骨たちの指揮を任せられます。青葉先生に関しては、助けるのに理由が必要ですか?」
 真摯な明斗らの表情を見やって、松岡はついに折れた。逞しくなったものだ、と、感慨と共に本音を洩らす。
「よし、行って来い。……青葉を助けてやってくれ」
「はいっ!」
 力強く頷き、明斗は志願した後輩たちに「ついてこい!」と合図を出しつつ明美の方へと駆け出した。
「フェンリル! 私たちも一緒に救助に行くよ。青葉センセと明美さん、二人とも助けないと!」
 召喚した狼竜と共に気合を入れた陽花は、だが、自分が組み敷いた勇斗とアルに気づいて、どうしようかと首を傾げた。
「とりあえず態勢を立て直さないと」
「心得てますわ」
 そんな彼等を守る様に大剣を構える紫遠の背後で、瑞穂がフワリと膝をつき。そのまま勇斗とアルの2人に『クリアランス』を使用する。
「ありゃ。無理やり覚醒させちゃったか。でも、そのやり方じゃあ『克服』したことにはならないかなぁ」
 悪魔の呟きに顔を見合わせる勇斗とアル。意識は取り戻したものの、2人の顔は蒼いまま、噴き出す汗も止まらない。
「しっかりなさい。悪魔の悪趣味に付き合う義理はなくてよ」
 瑞穂にパンと背中を叩かれ、ようやく2人は我に返った。「大丈夫だよね……?」と心配しながら、陽花は狼竜と走って明斗たちに合流する。
「精神的な攻撃とか、また随分とイヤラシイね。人には触れられたくないものがあるっていうのに」
「ホント、悪魔らしい嫌なやり方よね」
 オーク相手の迎撃戦の合間、紫遠と月影 夕姫(jb1569)の2人はジト目で悪魔の方を見た。イヤラシイ認定された悪魔は「えぇー」と不満の声を上げたが、2人の中で確定した評価はもう覆らない。
「や、こうして見ている分には確かに眼福だけれども」
 いっそ開き直るエロ悪魔。うん、『イヤラシイ』というのはそういった意味ではきっとない。
 が、その時にはもう夕姫は悪魔に関心を払わなかった。彼女の興味は既に戦局へと移っている。
「松岡先生は護りの指揮を。遠距離攻撃持ちは複数で1体に攻撃を集中。確実に敵を撃破しつつ、救出班の合流を待つ。いい?」
 了解する後輩たちに夕姫は一つ頷いて。雄叫びを上げつつ迫り来る、止まらぬ巨人を振り返った。
「さて、残りの皆は全力で、あの巨人を止めるわよ」


「状況が一気に変わったにゃね…… 今まで拳を交えていた相手を、今度は守るように戦う事になるなんてにゃー」
 迫る巨人へ走りつつ、その巨体を見上げながら── 『猫耳魔法少女』猫野・宮子(ja0024)は近づくにつれその大きさを実感し、こめかみに一筋の汗を垂らした。
 アレを『止める』にゃ……? と心中に呟き、その笑みを引きつらせる。馬鹿でかい質量の塊── えーと、そう、『まるでダンプだ』。
 一瞬、弱気になった宮子の視界に、まったく臆する事なく「あたいが相手だー!」と真正面から突っ込んでいくチルルの姿。宮子はプルプル頭を振ると、改めて己に気合を入れる。
「守ると決めたからには、魔法少女は絶対、守ってやるのにゃ!」
 きゃる〜ん! と拳を突き上げて。宮子は、謎の液体『無限毒想』を腰に手を当てグイと呷ると、より一層キレッキレな動きで登場ポーズを披露した。
「猫耳魔法少女、まじかる♪みゃーこ! 絢爛華麗、風光明媚(←間違い)に参上にゃ!」
 見得を切ると同時にきら〜んと弾ける『ニンジャヒーロー』の特殊効果。その『注目』効果により瞬間、巨人の目が宮子に向く。
 だが、次の瞬間には、巨人は撃退士たちには目もくれず、真正面から迫るチルルすら飛び越えてファサエルに迫らんとした。
「あたいを一跨ぎにしたぁ〜!?」
 突破(?)され、慌てて取って返すチルルに、にゃ〜! と顔を真っ赤にしながら半泣きで後を追う宮子。まさに参上ではなく惨状である(え
 そんな2人を後から淡々と追いながら、ファーフナーは、骸骨だろうがオークだろうが構わず粉砕していく巨人を見やって驚き、呆れた。
(凄まじい怒りだ…… あれが『ふり』なら、とんでもない役者だな)
 そこへ遅れて到着して来た恩田敬一が巨人の前に立ち塞がり、「20秒はもたせる!」と叫んで、宙に五芒星と九字紋を描いた。敬一が張った結界にその前進を阻まれた巨人は、即座に術者の排除に動いた。呪文の詠唱と共に宙に浮かび上る魔方陣──そこから長大な氷の槍が幾本も敬一に向かって撃ち放たれ、敬一に命中せんとしたその瞬間。後ろから流れて来た無数のアウルの糸が敬一を覆う様に編み上がり、光の鎧となって受け止めた。後続する川澄文歌(jb7507)が『アウルの鎧』で敬一への攻撃を防いだのだ。
「大丈夫ですかっ、恩田さん!?」
「文歌ちゃん!」(←馴れ馴れしい)
 助かった、と喜色を浮かべる敬一のすぐ後ろで、良かったですと答える文歌。アイドル衣装風の魔装はこれまでと同様だが、今はその上に地味目のコートとサングラス── どうやらオフモードらしい。きっと宮子の『ニンジャヒーロー』に『注目』を奪われた影響に違いない(違
「私が支援しますっ。足止めは任せましたよ!」
「文歌ちゃん……」(←以下略)
 またファンが一人増えた(え 文歌は(敬一の後ろで)巨人の前に立ちはだかると、ピッと指差しながら叫んだ。
「この先には行かせませんっ! ……主に恩田さんの『ドーマンセーマン』が!」
「ええっ!?」
 ピキッと青筋を浮かべる巨人。前進が出来ない巨人はその長い手足で敬一をげしげしと殴り始めた。そして、そのまま物理的に押し退けながら、1歩ずつ前進していく。
「あの巨体とパワーで魔法使いとか…… 相変わらずとんでもないわよね」
 遅れて戦場へと到達した夕姫が、『小天使の翼』で宙に浮遊しながら呆れた様に呟いた。チルルや宮子もその場に追いつき、再び巨人の周囲へ展開する。
 巨人は魔力を下へと落とし、周囲の地面を泥地へ変えた。巨人にとってはただの水溜り── だが、人間にとっては踝まで泥に埋まる厄介なものに。
「喋れるようになって、魔法のバリエーションも増えたわね。これまでよりも手強い。けど……」
「とりあえず、魔法で後方のファサエルたちを遠距離攻撃されると厄介だ。こちらに注意を向けさせる必要があるな。……まずは奴に俺たちが『放置しておけない』存在だと知らしめる」
 頷き、滑る様に宙を移動する夕姫。ファーフナーはフゥー、と息を吐くと、ジャブジャブと泥を歩いて巨人の前へと進み出ながら、己の身から湧き出す様にアウルの闇を現出させた。敬一の結界が切れ、再び走り出さんとしていた巨人は、不意に己を包み込んだ『闇』に戸惑い、たたらを踏む。
 その闇は、しかし、巨人の視覚のみに影響を与えるもの── アウルの闇の中、まったくその影響を感じさせない足取りで泥を蹴散らし進んだチルルが、巨人の足の脛へ向け思いっきり刺突大剣を突き入れる。
 巨人はグアッと叫びを上げると、その足をぶぅんと振って周囲を薙ぎ払おうとした。サッと地に伏せてやり過ごし──こんな時ばかりは自分の背の低さに感謝したくなる。勿論、気のせいだが──、泥塗れになりながら反対側の足へと突っ込んで行くチルル。宮子もまた泥地を駆けて巨人の足へと取り付くと、一見、柔らかそうな肉球グローブでガシガシと打撃を与える。
 巨人は魔力の水で『闇』を『洗い流そうと』したが、地上を滑る様に回り込んだ夕姫によって立て続けに顔面にアウルの銃弾を浴びせられて詠唱の中断を余儀なくされた。巨人は詠唱の必要のない水弾の連射で夕姫を追い立てたが、認識障害下の照準ではただ無闇に水柱を上げるばかりだ。
「やっぱり……」
 夕姫は呟いた。自分たちに対する攻撃も雑。防御面も疎かだ。焦りと苛立ち── 巨人はあくまで一族の仇しか、ファサエルしか見えていない。
 ただ、やはり巨人の自己回復能力は厄介だった。多少、防御が疎かでも、勝手に傷は治っていく。
「なら……!」
 文歌はコートとサングラスを脇に投げ捨てると、いつものステージ衣装風魔装姿に戻った。恐らく宮子の注目効果が切れたのだろう(だから違ry
(巨人さんの治癒能力、それに魔法は厄介です…… でも、それを封じてしまえば……っ!)
 文歌はガシガシ蹴られている敬一の傍らを前進しながらアウルで宙に2色のスプレー缶を生成すると、それを両手で掴み取ってしゃかしゃか上下に振った後、眼前の巨人に向かって噴きかけた。そして、そのまま宙に絵を描くようにスプレーし始め、舞台装置の如く広がり始めた七色の『幻霧』が巨人の半身を包み込む。
「今ですっ! これで少しの間、魔法は封じられたはずですっ!」
 文歌の言葉に、宮子はパッと巨人から離れると、その肉球グローブで巨人の右足を指差した。
「皆、脚に攻撃を集中するにゃ! 動きを止められれば、多少は時間稼ぎになるにゃ!」
 同じ箇所に攻撃を集中し、回復力より大きなダメージを! 言いつつ、宮子は攻撃箇所をマーキングするかの様に、目標へ肉球グローブを構える。
「猫ロケットパンチにゃー!」
 照準する様に突き出した右腕に左手を添え、アウルの猫拳(肉球つき)を撃ち放つ。それは狙い過たず巨人の脛に命中し、ガンッ! と何だかとっても柔らかくない音と共に激突。強かに打ちつけた。
「確かに、立てなくすれば上半身も狙っていけるな」
 呟き、ファーフナーは左手で槍を小脇に引き戻すと、もう一方の右手に『コレダー』の紫雷を纏わせた。そのまま、アウルの闇を払った巨人に肉薄してそれを脛へと押し付ける。バチンッ! という強烈な音と共にその身を硬直させる巨人── そこへ突っ込んだチルルもまた同じ箇所へと大剣を突き入れた。反撃の蹴りを氷の盾でがしんと受け反らし。細氷舞う中、流れる血も拭わぬまま、続けて一撃を脛へと繰り出す。
(考えるのは、仲間に任せた──!)
 その代わり、仲間が立てた作戦は、即座に、確実にそれを実現する。自分に出来るのは戦う事だけ── 考えてる暇があったら、目の前の敵に思考と感覚を、己の全能力を集中させる……!
 立て続けの痛撃に雄叫びを上げる巨人。夕姫は小天使の翼をバンッと広げて反動に備えながら、その両腕を巨人の脚へと向けた。その照準は、撃退士たちが攻撃を集中させた──の反撃に蹴り出された右脚ではなく、地面に立つ軸足の左脚──
 ドンッ! と夕姫の手の平から『フォース』の光の波動が放たれ、巨人の左足首を直撃した。ズルリと足を滑らされ、巨人の巨体が切られた大木の如くゆっくりと地面へ倒れゆく。
「あの質量を吹っ飛ばすことはできなくても、足を掬うくらいならできるでしょ」
 ガード姿勢を取る巨人にガンガンと銃撃を浴びせながら、夕姫は事も無げにうそぶいた。

 一方、防衛班──
 倒れたファサエルを中心に円陣を組んだ学生たちに、オークの集団が襲い掛かっていた。
 敵は「巻き込まれてはかなわん」とばかりに巨人の周囲から離れており、その分、防衛班に掛かる負担は大きい。落ちたクラゲの死骸を乗り越え、進軍してくるオークたち。銃火で応じる間もなく、雫や紫遠たちが近接戦闘にて迎撃する。
「さて、後は……」
 そんな中、瑞穂は一人、落ち着き払った態度で倒れた天使の側まで歩き、その側に立ち聳えると足元の天使を睥睨した。そして、アウルで生成した鞭を振り上げ、思いっきり天使へ降り下ろす。
「ちょ、瑞穂さん!? いったい何を……っ?!」
 一切の情け容赦なく天使を打ち据える瑞穂。慌てて止めようとした勇斗とアルは、だが、打たれた側からファサエルの傷が治っていくのを見て、瑞穂に組み付いたまま絶句した。『女帝恩寵』──見た目はアレだが、まさかの回復スキルである。
「単なる八つ当たりですわ! ……そのまま暫く寝ていなさいな」
 鞭をポイと放りながら、悪魔に聞かせる様に言う瑞穂。後半は声をひそめて、天使にのみ聞こえる様に。
「先の恋人への非礼は謝るよ。ああでも言わないと隙を見せてくれなさそうだったからさ」
 大剣で2体のオークを押しとどめながら、ファサエルの所まで押し込まれて来た紫遠が余裕の口調でファサエルに言った。
「とりあえず、キミ、どうやらあの悪魔に狙われてるみたいだし、今は瑞穂さんの言う通り、寝たふりでもしていてよ。その間、悪魔の相手は僕たちがする。悪い話じゃないでしょう、っと!」
 言いつつ、再びオークを前へと押し返す紫遠。それをファサエルは憮然として聞いていた。……たとえどうにかしたくても、深手を負った天使は動けなかった。弟分たるアルを前に、情けない事ではあるが……
「ところでお二方」
 そのアルと勇斗に瑞穂が呼びかけた。
「いつまでそうやって私の身体に組み付いているおつもりですの?」

 同じ頃。明美や青葉の救出に向かった救出班もその行動を開始していた。
 最初の救出対象は、最も近くに倒れている徳寺明美。最も遠くに飛ばされた青葉は意識がないが、低木の陰に落ちたのか、オークたちにはまだ気づかれていない。
「行け……!」
 キラーモードの小梅がバサァッ! と魔女の箒を振り払い、アウルの猫たちを──まるで黒豹の如き猛禽の面持ちになった劇画猫たちを突っ込ませ、救出班行く手のオークたちにキシャー! と咆哮と共に襲い掛からせる(注:猫です)
 狼竜と共に救出班の先頭に立った陽花もまた傍らの狼竜にオーク排除の指示を出す。
「邪魔をしないでくれるかな……っ! フェンリル! 一気に薙ぎ払っちゃって!」
 咆哮で応じた狼竜が、口の前で帯電したアウルの電撃を吼え声と共に前方へと投射する。瞬間、進路上のオークたちを迸った雷撃が飲み込み── 陽花と入れ替わるように前へ出た明斗がそのオークたちを学生たちと共に蹂躙する。
「『審判の鎖』よ!」
 明斗が聖なる鎖を放って縛り上げた敵を、後輩たちがすれ違い様に切り捨てる。その一撃はやはり軽かった。無理もない。連戦の疲労は見えざる重石となって撃退士たちの身体に重く圧し掛かっている。
(それにしては、皆、頑張っているんだよ……!)
 後輩たちをフォローしつつ、笑顔で頷く陽花。眼前のオークたちはまさか自分たちが打って出るなんて思っても見なかったのだろう。不意を打たれて狼狽し、こちらの突進を防げないでいる。
「兵長」
 淡々とした悪魔の呟き。次の瞬間、オーク兵たちは一斉にその場から退き、救出班の進路を空けた。そして、驚く撃退士たちが明美の元に辿り着いた瞬間、こちらの退路を塞いで包囲の輪を閉じる。
(でも、今は……!)
 狼竜や後輩たちと並んで円陣を組む陽花。明斗はそのまま倒れた明美の元に滑り込み、その状態を見て息を呑んだ。
(死なせませんよ、今、この時は……!)
 明斗は明美の上に指を組むと、祈る様な姿勢でその手に光を生み出した。ゆっくりと開く手の中に発芽するアウルの萌芽── そこから降り落ちた癒しの光が明美の身体に降り注ぎ、見る間にその傷を癒していく……
「あなたたち……」
「意識を取り戻しましたか…… 大丈夫。敵の敵は、今のところ味方ですよ」
 動けますか? との明斗の問いに、明美は気だるそうに頷いた。
「おばさん。もし大丈夫そうなら、私たちを手伝ってくれないかな? 昨日の敵は今日の友、とは言わないけど、今だけでも、ね?」
「骸骨狼騎兵の指揮を取ってください。このままではオークに殲滅されます」
 陽花と明斗の言葉に明美は戦場を見回した。撃退士たちの言う通り、彼女のサーバントたちは単調になった動きを読まれて各個に撃破されつつあった。
「……わかったわ。とりあえず、どう動かせばいい……?」
 答え掛けた明斗を後輩の一人が悲鳴交じりに呼んだ。
 彼女の指差す先を見る。
 倒れた白狼を取り囲んだオークたちが、一斉にその刃を振り下ろす光景がそこにあった。


「ねぇ、そこのキミ!」
「……?」
「そこのキミだよ! そこで気配を消して隠れているキミ!」
 ゲートの端に腰掛けた悪魔が自身に呼びかけているのに気づいて、ラファル A ユーティライネン(jb4620)はきょとんとした顔で自身を指差した。
 悪魔たちの奇襲以降、俺俺式光学迷彩を展開して『潜行』し、気配を隠したまま悪魔の不意の動きを警戒していたのだが…… 気づかれているなら意味はないか、と『光学迷彩』を解除する。
「チッ。よく気づきやがったな。ちょっかいをかけてくるようなら、俺式サイキックパワーで握り潰…… もとい、足止めしてやるつもりだったのに」
「僕にはね、人の心が見えるんだよ。嘘だけど」
「嘘なのかよ」
「ねぇ、キミ、悪魔がキライでしょ? 特定の悪魔、というより種族全体を結構な勢いで憎んでいるよね? なんで?」
 ラファルは悪魔をジッと睨んだ。
「……仕方ねーだろ。自分を『殺した』悪魔の名前すら知らねーんだから」
 そう。だから、種族全体をミナゴロシにして、根絶やしにして、裏ごししてペースト状になるまですり潰して天日干しにした後、ドブ川に撒いてヘドロに練り込んでやってもなお気がすまない。
「あっはっは」
「……おかしいか?」
「いや、おかしくないよ。君の怒りは正当なものだ」
 その物言いに舌打ちするラファル。こんな悪魔こそ、彼女が心を折ってやりたい相手だった。身体が本調子でさえあったら、今頃ちょちょいのチョイなのに。
「そんなことよりさっきのアレだ。……洗脳か何かか? アルや巨人のおかしくなり具合から推測すると範囲攻撃ではなさそうだが」
「さあ? 今、ゲートの中にいる撃退士たちに、後で聞いてみればいいんじゃない?」
 探りを入れるラファルに、悪魔はそう言って笑った。
「ただ、僕は洗脳なんて『上書き』はしないよ? ……彼らの行動は全て彼らの内面から溢れ出たもの。彼らが心の奥底に仕舞いこんでるものだから」

 銃を持つ後輩たちと共に── 紫遠はオーク支援の為に直上方面から降下して来たクラゲに向かってリボルバーを連射した。
 飛び交う水刃とアウルの銃弾── 雫が自動拳銃から放った銃弾はその軌跡を鋭角的に変えながら、それを受けようとしたクラゲの触腕をすり抜けて本体へと着弾する。
 それに止めを刺すべく、『光の翼』を展開して小梅が空へと舞い上がる。跨いだ箒から猫型アウルを乱射しながらクラゲへ肉薄。箒の後席にアウルの巨大な劇画調猫魔人──描き込まれた線の量と太さが常の3倍(当社比)──を呼び出し、オラオラと何発もの『ニャンコ・ザ・ズームパンチ』をクラゲの軸線に沿って叩き込む。
 落下傘の如くゆるりと大地に落ちるクラゲと、その下を潜り抜け迫るオークの群れ── 斬りつけられた後輩を後ろに庇って紫遠がオークに剣ごとぶつかり。雫は常の冷静さをかなぐり捨てたかの様な雄叫びを上げながら、その実、最も効果的なタイミングで己のアウルを周囲へ爆発的に解放する……

 一方、明美の救出に向かった救出班も、敵中に孤立した状態の中、明斗の『死の兵士』と『癒しの風』によってどうにか円陣を維持していた。
「みんな、頑張って! もうすぐ騎兵隊が来るからね!」
 そう後輩を励ます陽花の巫女服も、自身が流した血と返り血で何箇所も赤黒く染まっている。
 そして、逆手に持った半月刀を何度も白狼に突き下ろし…… 殺戮を終えたオークたちも返り血に塗れた顔に笑みを浮かべながら包囲へ加わらんと振り返り。ひっ、と悲鳴を上げる後輩の手を陽花が力づける様に握る。
「……ほら、来たよ」
 音もなく。そのオークたちの背後より迫る狼の群れ──気づいたオークが振り返った時、最初の鋭鋒がその喉元に突き立てられた。逃げ惑うオークたちに襲い掛かる骸骨狼騎兵の群れ── その勢いはまるで、白狼を殺された明美の怒りが乗り移ったかの様だ。
 さらに、クラゲを落とし終えた小梅が上空から援護に加わり、『ニャンコ・ザ・ヘルファイヤー』──再び背後に生み出した巨大猫魔人(先程のものとは別魔人。劇画)が吐き出す炎のブレスでもって、青葉と救出班の間に存在するオークたちをアウルの炎に巻いていく。
「いまのうちに!」
 眼下の明斗と陽花たちに叫び──その小梅の身体を落ちて来た影が覆った。
 頭上を仰ぎ見る小梅の視界に、それまで上空に浮遊・待機していた残りのクラゲが、まるで鯨の如く低空域へ──戦場へダイブしてくる姿が映った。2本の触腕から水流の刃を撒き散らしつつ、その触手の全てで小梅を捕まえに掛かる。両足と光の翼を宙に突っ張り、急転回する小梅。追う触手の間を必死にすり抜けながら、大急ぎで『クラゲの海』と化した空から安全空域へと逃れ出る……

 撃退士たちの果敢な足止めにも関わらず。巨人は遂に防衛班の最終防衛線に達しようとしていた。
 巨人の蹴り──というか、駆け出す足の一歩を大剣で受け止めたチルルと、そのチルルに『乾坤網』を投げた文歌を転がし、巨人がオークと撃退士たちの戦いの場に乱入する。
 舌を打つ夕姫。巨人の足を二度止めた彼女の『フォース』も既になく。代わりに、松岡が雷の如き蹴りで巨人の軸足を払い、たたらを踏ませて前進を止める。
「執念、か……」
 グルリと回した槍の柄で巨人の脛を強かに打ちつつ…… ファーフナーは感心したようにそう呟いた。
 シュトラッサーは主人のエネルギー供給なしには生存することができない。ファサエルを殺してしまえば、巨人に待つのは死の末路だけだ。
(一族を殺された無念はそれ程までに大きなものなのか──?)
 全てを失い、或いは捨て去りながら生きてきたファーフナーには、想像もつかない事だった。が、それだけ思える存在があるというのは、正直、少し羨ましくも思える。
「本気を出してください。全力で攻撃しても中々死なないのは、以前の戦いで立証されていますから」
 自分を含む周囲の味方を『癒しの風』で回復しながら、雫が消耗したスキルを巨人戦に適したものへと換装する。
 その前に、と瑞穂が言った。先のアルと勇斗と同じく、あの巨人も悪魔の精神干渉の影響下にあるのであれば。まずはそれの解呪を試みる手もある。
「前に出ますわ。護衛と進路の開拓を」
「了解」
 鉄塊を手に瑞穂の前に出る紫遠。無茶は、と止めるアルに、にっこりと笑い掛ける。
「仮に巨人があの悪魔に何かを吹き込まれたんだとしたら、アルくんは正気に戻って欲しいんでしょ?」
 なら、やるだけやってみるのが良い。……後悔したくないのなら、恐らく今が最後の機会だ。
 前進する瑞穂。撃退士たちは彼女が巨人を『クリアランス』の射程に収めるまで全力でその場に釘付けにする。
「その誇り。あのような輩に好きなようにさせて良いものではなくてよ」
「いい加減、目を醒ましなさい。一族の長が好き勝手に感情を操られてるんじゃないわよ」
 瑞穂が掛けるクリアランスの輝き── 夕姫もまた巨人にそう呼びかける。
 その光に幾分、落ち着いた表情を取り戻した巨人は…… 優しげな瞳で撃退士たちを見返した。
「……この恨みは、悪魔に植えつけられたものではない。我とあの天使が存在している限り、決して消えぬ心の澱なのだ」
 邪魔をしないでくれ、と再び前進を開始する巨人。雫は小さく溜め息を吐くと、その想いを受け入れた。巨人に攻撃を集中するよう、仲間たちに伝達する雫。倒すには巨人が自己回復をする間も与えず、一気にダメージを蓄積させる──
「こうなったらやるしかないにゃね…… 魔法少女、戦闘モードで行くにゃ!」
「死して一族の元へ行く── それがお前の望みなら、せめて俺たちの手で叶えてやる」
 雫に続く宮子とファーフナー。夕姫もまたその掌にアウルの光を輝かせ、目標を沈黙させるぐらいの勢いで戦いの渦中に身を投じていく。
「なぜですかっ!? 長として一族の仇を取ろうとする強い気持ちは解りますっ! でも、それって悪魔に魂を売ってまでしなくちゃならないことなんですっ?!」
 戦う巨人の背にマイクで呼びかける文歌の声は震えていた。半泣きで訴える彼女の腕をチルルが掴んで止めた。
「戦わなければ、ファサエルと防衛班に被害が出るわ」
 それだけを言って走り出すチルル。……巨人は強い。これまで温存しておいた──使う機会がなければ良いと思っていたその全てを駆使し、高火力で巨人の防御と自己回復を押し切る必要がある。
(考えるのは、仲間に任せた──)
 思い、チルルは頭を振った。
 そんなチルルたちを、悪魔が面白そうに見つめている。


 巨人は死んだ。
 救うことはできなかった。
 彼は決して諦めず、戦闘不能から自己回復する度に前進を再開したからだ。ファサエルを救うには、巨人の命を奪うしかなかった。
 撃退士たちの奮戦に、悪魔は笑顔で賞賛の拍手を送った。外野を決め込んだ悪魔勢力の、戦力は温存されている。
「あんた、何様よ! 人の家に上がりこんで、好き勝手やって名乗りもなし?!」
「だって、さっきそっちが名乗るなって……」
「じゃ、帰れ! こっちは取り込み中だ。邪魔すんな!」
「えぇー……」
 その悪魔に全身全霊を込めた罵声を浴びせる小梅。悪魔はこほんと咳払いをすると、ゲートの端から身を起こした。
「ともかく、君らは巨人の攻撃を凌ぎ切っちゃったわけだ。……これじゃあ僕自身が動くほかないよねぇ?」


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:7人

無念の褌大名・
猫野・宮子(ja0024)

大学部2年5組 女 鬼道忍軍
ラッキースケベの現人神・
桜井・L・瑞穂(ja0027)

卒業 女 アストラルヴァンガード
伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
飛燕騎士・
永連 紫遠(ja2143)

卒業 女 ディバインナイト
鉄壁の守護者達・
黒井 明斗(jb0525)

高等部3年1組 男 アストラルヴァンガード
Heavy armored Gunship・
月影 夕姫(jb1569)

卒業 女 ディバインナイト
迷える青年に導きの手を・
彩咲・陽花(jb1871)

卒業 女 バハムートテイマー
Standingにゃんこますたー・
白野 小梅(jb4012)

小等部6年1組 女 ダアト
ペンギン帽子の・
ラファル A ユーティライネン(jb4620)

卒業 女 鬼道忍軍
外交官ママドル・
水無瀬 文歌(jb7507)

卒業 女 陰陽師
されど、朝は来る・
ファーフナー(jb7826)

大学部5年5組 男 アカシックレコーダー:タイプA