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マスター:柏木雄馬
シナリオ形態:シリーズ
難易度:難しい
形態:
参加人数:10人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2016/01/18


みんなの思い出



オープニング

 鶴岡ゲート侵攻作戦、その初日の日が暮れた。
 天使ファサエルが僕の一人、シュトラッサーの奥寺明美は、その日、南方より侵攻予定であった撃退署の主力を奇襲。激戦の末にどうにか退ける事に成功し、生き残った配下の『骸骨銃騎兵』たちと共に月下の山林を疾走していた。
「くっふ…… ふ…… あは、あははははは……!」
 明美の哄笑が闇に響く。
 彼女の心にあったのは勝利の高揚などではなく…… 「遂にやってやった……!」という、やけっぱちにも似た興奮だった。
「やった、やったぞ、いけ好かないすまし顔の天使め! 取るに足らない存在と思っていた人間に…… 『元人間』に足元をすくわれた気分はどうだ!」
 そう、彼女は主たる天使ファサエルを『裏切って』いた。
 敵の侵攻作戦の準備を察知しながら敢えて報告を『忘却』し、麾下の全戦力を敵の『囮』にぶつける事で、東方より迫る敵の『第二の矢』の侵攻を許した。
 全ては結界に囚われた人々を救う為── ファサエルが最後に精神エネルギーを全てゲートに吸い尽くす前に、人々を結界から逃がす為。撃退士たちに救出させる為に、東より迫る敵の情報を敢えて主に教えなかった。
 明美は笑った。これまでの鬱憤を晴らすかの様に。
 感情の無い骸骨たちは反応を示さない。
 いつの間にか、明美のそれは泣き笑いになっていた。
「……結局は、一人、か」
 明美は呟いた。
 主を失ったシュトラッサーの末路は一つ。主から力の供給を受けられなければ、シュトラッサーは生きられない。……だが、それはいい。やるべきことは全てやった。思い残すことも無い。
 だが、シュトラッサーになった時には結界内の人々から裏切り者と呼ばれ、天使の手駒として戦いに出れば外の人々からも人類の敵と罵られた。挙句、今日は主たる天使をも裏切って…… 結果、明美には何も残っていない。

 ふと、狼たちの脚が止まった。
 訝しげに顔を上げた明美の視界に、月夜より降りて来る主の姿が入った。
 明美は目を見開いた。
 ご苦労、と、冷厳な声と表情とで天使は明美に告げた。
 なぜ、ここに……? 明美の全身から汗が噴き出した。ゲートコアの防備についていたはずではなかったのか……?
「どうした? 戦果を報告せよ」
「……は。南方より侵攻準備中であった撃退署主力は退けました。部隊としての戦闘力は喪失したはずです。……もっとも、それはこちらも同様ですが」
「こちらも東方より侵攻する敵の別働隊を発見し、迎撃に出た。そこには結界内の人間たちも大勢集まっていた。あれは…… お前の策であろう?」
 主の言葉に、明美は顔面を蒼白にした。
 裏をかいたつもりだったが…… 主の腰の軽さを読み違えたか? いったい何人が犠牲になった? 何人が生きて結界より脱出できた? 自分が人外に身をやつしてまでしてきた事は全て…… 全て無駄であったのか……!
「見事な策だ。敵の別働隊は完全に足が止まっていた。撃退士たちは同胞を見捨てられぬと踏んだお前の読み勝ちだ」
「……え?」
「だからこそ、洗脳も強制もせずにお前を部下にした甲斐がある。こちらの戦力を一切使わず敵の新手を無力化するとは…… その発想は私にはないものだ」
 一瞬、主が何を言っているのか、明美は理解する事ができなかった。きょとんとした顔で主を見返し…… 内容が脳に染み入った後、なぜ、と問い返した。
 なぜ、避難民たちを殺さなかったのか? 彼等を生かしておくべき価値も理由も、その時には既に喪失していたはずなのに……
「なぜ、って…… 最初にお前と約束したはずだ。彼らの精神エネルギーは徳寺明美指揮下で失ったサーバントの生産・補充時のみ使用する、と」
「……だから人々を殺さなかった、と?」
「他にわざわざ殺すべき理由があるのか?」
 明美は笑った。先程までよりずっと気分良く。
 シュトラッサーは天使と生命を共有している── ただそれだけで配下を洗脳も強制もせず、裏切られるとは露にも思わない。この人の心の分からぬ天使は、或いは誰よりも愚直なのかもしれない。
 何もかも失って、最後にこの主が残った。ならばこの主の部下として、共に死ぬのも悪くない。
「さて。では、これからどうするの、我が主?」
「ここのゲートは放棄する。が、その前にやらねばならぬ事がある」
 そう言って、ファサエルは明美に結界東方で捕らえてきたという女性を受け渡した。戦場で見た顔だった。確か、久遠ヶ原学園の女教師──
「その人間を人質に、アルディエルにここに来るよう告げてきた。我等が倒さねばならぬ敵がいる」


「我々が迎撃すべき目標は、この鶴岡ゲートの主、ファサエルだ」
 鶴岡ゲート、ファサエルの『常春の居館』、中央部。ゲート出入り口前── 鶴岡侵攻作戦『第三の矢』として加茂より上陸した学生撃退士たちは、二手に分かれて陣取っていた。
 一つはゲートへの突入班。もう一つは、突入班がゲートコアを破壊するまで、ゲート入り口を死守する迎撃班だ。
 この迎撃班に属する大学部1年・榊勇斗は、強敵との戦闘を前に改めて最終確認を行っていた。──全てはこの戦いで決まる。突入班としてゲートに侵入する妹・悠奈たちの為にも、何としても天使をこの場に釘付けにする必要があった。
「ファサエルの得物は近接戦用の大剣と投射用の魔力の大剣。そして、重力制御能力だ。重力界を展開してこちらの動きを阻害してくる他、力場の盾として使ってこちらの攻撃を逸らしたりもする。非常に強力な『盾』ではあるが、万能というわけでもない。その性能と効果範囲は反比例する事がこれまでの戦闘で確認されていて、つまり、強力な一撃を防ぐには範囲を狭める必要があり、多方向からの攻撃を防ぐには効果を抑えて範囲を広げる必要がある」
 つまり、重い一撃を囮にして複数攻撃を叩き込むか。或いは、多数からの攻撃を囮に重い一撃を叩き込むか、で纏まったダメージが期待できる。……これはこれまでの戦いで、勇斗や他の戦友たちが勝ち取った『戦果』であった。
 勇斗の言葉にアルディエルも頷いた。ファサエルは知らぬ事だが、弟分たる少年天使はこの第三の矢に参加し、既にゲート入り口まで辿り着いていた。
「あいつは元々、空対空に特化した悪魔狩りのスペシャリスト。継戦能力に優れてはいるけど、本来、地上戦は得意な方じゃない。自分を重力の網に捉えることも出来ないし、そこにも活路があると思う」
 更に言えば、とアルは続けた。自分たちは最悪、負けなければそれでいい。自分たちが戦っている間、突入班がゲートコアを攻撃する。コアと主は霊的に繋がっている為、ファサエルにも一定のダメージが継続的に与えられるはずだ。
「倒し切る必要はない。弱らせる事さえ出来れば…… 僕が奴にこの世界から退去するよう説得する」
 アルの話を聞いて、当然、驚く者もいた。
「本作戦の目的は鶴岡ゲートの解放だ。必ずしもファサエルを倒す必要はない。これが僕たち兄妹と…… 『弟』の本来の目的だ。『引率』教師たる松岡先生の内諾も得ている」
 勇斗が横から助け舟を出し…… その言葉の内容に、アルは驚き、『義兄』を振り返った。
「和むのは後にしろ、愚弟。お客さんのご到着だ」
 見上げる勇斗の視線の先。月下の夜を背景に── アルが乗り越えなければならぬ、もう一人の兄貴分がそこにいた。


リプレイ本文

 花咲き乱れ、小鳥の歌う常春の中庭に── 天使ファサエルはその翼をゆるりと羽ばたかせ、いっそ優雅とも言える風情で撃退士たちの前に舞い下りた。
「……来たわね。このまま何事もなく、なんて事は流石に思ってなかったけど……」
「久々の再会ね! 今度はあたい達が勝たせてもらうわ!」
 降下を止めてこちらを睥睨するファサエルをキッと睨み返し、その一挙一動を注視しながら月影 夕姫(jb1569)。雪室 チルル(ja0220)はこの時を待っていたとばかりに刺突大剣の切っ先を天使へ向ける。
 一方、地上の入り口から入って来た徳寺明美とサーバントたちに警戒の視線を向けた松岡は、虜囚となった青葉を見つけてその顔面を蒼白にする。
「……見損なったぞ、ファサエル。いったいその人をどうするつもりだ!」
「人間どもにお前を急ぎここに呼ばせる為に浚った。が、既に来ていたのなら用はなかったな」
 『弟』の憤激に淡々と答える『兄』── ファーフナー(jb7826)は、少し意外そうな顔で上空の天使を見返した。
「ファサエルという男…… 存外に執念深いな。人質をとってまで、アルディエルに固執するとは……」
 オイルライターで煙草に火をつけ、紫煙と共に呟くファーフナー。『効率』を考えるのなら、堕天した弟分など放っておいてもよさそうなものだが……
(あの天使が人質まで取るなんて…… それだけアルくんを急いで呼ぼうとした? ファサエルがアルくんと一緒にやりたいこととなると…… やっぱりアルくんの『お姉さん』関係だよね?)
 永連 紫遠(ja2143)の推理を肯定するかのように、天使が『弟』に言葉を続ける。
「マリーアデルを殺した悪魔が結界内に侵入している。手を貸せ。堕天したとは言え、お前も彼女の仇を取る為だけに戦い続けてきたはずだ」
「……え?」
 『兄』の言葉に、アルは大きく動揺した。『姉』の仇が近くにいる……? それを知覚した瞬間、何もかも放り出してそちらを果たしたい衝動に駆られる。
 揺れる心は、だが、こちらを見つめる勇斗と目が合った瞬間に落ち着いた。
 ……そうだ。作戦は既に始まっている。そして、ゲートの中には悠奈が…… 最愛の人がいる。
 アルは大きく息を吐くと、憑き物が落ちた表情で『兄貴分』を見返した。
「なんと言われようと、ここを通すわけにはいかない。……リーア姉の仇は僕たちで取る。ここのゲートを解放しろ」
 ……失望したぞ、と呟いた天使が大剣の柄に手を伸ばす。
 話し合いは決裂した。撃退士たちもまたヒヒイロカネをその手に掴んだ。
「……やはり話は通じんか。弟分たるアルディエルによって敗北を味わえば、少しは話を聞く余地もできるだろうか……?」
「ったく。兄だか何だか知らねーが、とにかくやっちまえば良いんだろ?」
 吸いかけの煙草を踏み消すファーフナーの横で、ラファル A ユーティライネン(jb4620)が面倒臭そうに肩を回した。ラファルにとっての仇敵は『あくまで悪魔』であり、天使との戦いなど精々手段の一つで特に拘泥するものではない。
「ダメですよ。勝つことと殺す事はイコールではありませんからね。殺す事なく勝つことができればそれでいいんです」
 そのラファルに、黒井 明斗(jb0525)が委員長然とした調子で注意を促す。今回の作戦で最も重要な事は、コアを破壊してこの鶴岡一帯を開放する事だ。たとえ天使を殺せなくとも…… いや、むしろこちらが圧倒されたとしても、結果的に勝利を得られるならばそれがもっとも合理的だ。
「それじゃあダメだよ! ちゃんとアルちゃんがオジサン(ファサエル)に勝たないと!」
 明斗の意見への反駁は、意外にも白野 小梅(jb4012)から出た。
「ええっ!? それだと『兄』と『弟』でガチで殴り合うことになっちゃいますよ!?」
「でも、ちゃんとアルちゃんが戦って勝たないと、オジサンは話を聞いてもくれない」
 その場合、ファサエルとアルディエルは敵味方のまま決別する事になる。そうしたら…… オジサンはこの広い世界で本当に一人ぼっちになってしまう。
「地球も天界も関係ない。オジサンには絆が必要なの! 一つの絆が色々と広がって、何かを変える切っ掛けになるかもしれないから…… だから、オジサンとアルちゃんは、世界が分かれても兄弟でいなきゃいけないの!」
 目に涙を浮かべる小梅の言葉に、最も心を動かされたのは当のアルディエルだった。
「元々、負けるつもりはなかったけど…… でも、うん…… ありがとう」
 ヨーヨー型の魔具をその手に活性化させながら、小梅に礼を述べるアル。そうして『兄』に向き直りながら…… 皆に「力を貸してください」と頭を下げる。
「……まぁ、いいけどな。他人の思惑に介入するほど、おせっかい焼きでもねーし」
 ふん、と鼻を鳴らしつつ。ラファルはアルにそう告げた。
「ただ、まあ、なんだ。俺ら(人類)の縄張りで好き勝手やってくれた分、あいつには相応の落とし前を払わせなけりゃ気がすまねーしな」


 決戦が始まる。
 空中のファサエルはその右手で物理大剣を引き抜くと、もう一方の左手で投擲用の魔力大剣を自身の周囲に展開し始めた。
 一方、学生撃退士たちはそのファサエルを取り囲むよう、大きく左右に展開する。
「おーっほっほっほ! そう簡単にこの場を譲るわけにはいかなくてよ! 友人から託されたこの戦場(いくさば)、断固死守させて頂きますわ!」
「最初っから全力全開にゃ! 正義の魔法少女、マジカル♪みゃーこ! その名に懸けて、この場は絶対守ってやるのにゃ!」
 右翼側には、薔薇の意匠と白いフリルをあしらった蒼色の鎧をその身に纏い、その豊かな胸を反らしながら高笑いをする桜井・L・瑞穂(ja0027)と、猫耳尻尾肉球グローブを装備した『猫耳魔法少女』猫野・宮子(ja0024)の二人。天使の後背方向へは、紫遠と川澄文歌(jb7507)の二人が回り込む。
「がんばります! ゲート内部に侵入した人たちを護る為に、ファサエルさんを足止めします!」
 川澄文歌(jb7507)はそう気合を入れると、ギュッと握ったヒヒイロカネをパッと頭上へ放り投げ…… マイク型の魔具となったそれを空中で掴み取った。同時にその身に活性化する黒地に金糸をあしらったナポレオンジャケット風のアイドル魔装。踊るような仕草で前奏のステップを踏む文歌を追い抜き、前衛の紫遠が巨大な龍殺しの大剣、その切っ先を地面に引き摺る様に火花を散らしながら、敢えて天使の耳目を引き付けるように疾走する。
 一方、左翼側には小梅とファーフナー。背後にゲート入り口を控えた正面にはチルルと明斗、そして、夕姫と勇斗とアルの二班が分厚く展開した。天使が強行突破を図るなら、たとえ空中からでもただでは済まさぬ布陣である。
「本当にサーバントは参戦させなくていいの?」
「連中は精鋭だ。戦力減退した今の狼騎兵どもでは話にならん」
 中庭の隅に控えた明美に答えるファサエル。その姿を見上げながら、夕姫も共に戦う勇斗とアルに声を掛ける。
「いい? 私たちの役割は、アイツの『重力』の『盾』を広げて味方の強攻撃を徹すことよ。逆に相手が強撃を防ぐようなら、その隙に私たちが手数を叩き込む」
 緊張気味に頷くアルと勇斗。そのまま前に出ようとする二人の背を夕姫は改めて呼び止めた。
「……言葉ではあの天使の心に届かなかった。ならば、想いを乗せたコレであいつに伝えてあげなさい」
 そう言ってギュッと握った拳を見せる夕姫。アルと勇斗は顔を見合わせ…… 「はい!」と夕姫に笑顔を返す。
「皆の回復は僕と桜井さんに任せてください。たとえ意識を失うような傷でも『神の兵士』で立ち直らせてみせますから!」
 最後に明斗が冗談交じりに笑顔で周囲の皆を励ますと、瑞穂が「そのことなんですけれど……」と光信機越しに声を潜め…… 己の腹案を小声で皆に披露した。
「……なるほど。確かに有効な手段に思えます。少し卑怯な気もしますが……」
「問題ない」
「騙される奴が阿呆なだけだ」
 『少し卑怯』な作戦に積極的に賛同するファーフナーとラファル。明斗が苦笑と共にもう一つの懸念を口にする。
「ただ、その場合、どうしても、残った人たちの負担が大きくなってしまいますが……」
「それは僕が引き受けます」
 勇斗がきっぱりと答えた。それが、ディバインナイトとしての──僕ら兄妹の戦いに皆を巻き込んだ者としての、せめてもの役割だろう。──誰一人死なせず、生きて帰る。勿論、アルディエルも一緒に。
「お義兄さん……」
「悠奈の為だ。あと、兄さん言うな」
 こっちの『兄』と『弟』もまた大変な。瑞穂は微笑を浮かべながら、それでもしっかりと釘を刺す。
「言いだしっぺの私が言うのも何ですけれど…… 威勢が良いのは結構ですが、無茶と無謀は履き違いないように、でしてよ?」
「はい。ちゃんと無謀でなく無茶をします。ので、回復はよろしくお任せします」

「オジサン! もう降伏して青葉ちゃんを返して! そしてアルちゃんと話をして!」
 戦いが始まる最後の最後に、小梅は改めて必死の思いで訴えた。
 返事はない。無言で黒き魔槍を活性化させるファーフナー。この期に及んで天使が小梅の言葉を聞くとも思えない── その事は小梅自身、理解している。
 展開した魔法大剣を一斉に投射せんと左腕を振り上げる青年天使。と、そのファサエルと同じ空中に、アウルの『フライトフレーム』を起動したラファルが一気に躍り出た。逆に天使を睥睨しながら、その背に展開したアウルの四連装砲をジャコンと向ける。
「ばかめ。俺がこいつを地上でしか撃たないと思ったか……!」
 嘯くラファルにファサエルが向き直り、高速戦闘に入ろうとした直後。地上から放たれた『星の鎖』がじゃらりと天使の足首に巻きついた。
「空中を飛び回られても五月蝿いのでな。……まずは地上に引き摺り下ろさせてもらう」
 石突を地に衝いたまま呟くファーフナー。その傍らで星の鎖が天使を地上へ引き落とすべく勢い良く巻き取り始め。同時に空中でもラファルが「ファイア!」と四連装砲を撃ち放ち、炸裂したアウルの爆風が天使の光の翼を霧散させる。
 地に落ち、受身を取って身を起こしたファサエルへ真っ先に突っ込んで行くチルル。白銀の槍を手に後続した明斗がすかさず支援の『サジタリーアロー』を天使に向かって投射して。文歌も『コメット』の振り付けと共にアウルの彗星群を後背から降り落とす。
「これで少しは動きが鈍るはず……っ!」
 炸裂する『星の槌』の群れが膝立ちの天使を『重圧』し…… その攻撃が終わるタイミングで砂煙の中に突入したチルルが接敵した。突き出される刺突剣。受けから反撃に転じる大剣。もう幾度目になる剣戟か── 両者の間に再び火花と細氷が舞う。
「堅実で手堅い…… らしくないな、細氷の童女よ。焔の如き前進こそが貴様の持ち味であったはず」
「童…… まぁいいわ。言ったでしょ? 『今度こそあたい達が勝たせてもらう』って!」
 その言葉に応えるように── 天使の全周を取り囲んだ撃退士たちが一斉に距離を詰めた。
 左翼より天使に迫るファーフナー。後方からは大剣を担ぎ上げた紫遠が突っ込み、上空ではラファルがアウルのベクターノズルを捻らせつつ、ご機嫌な叫びと共に逆落としに降下する。
 右翼はロザリオを振ってアウルの薔薇の花弁を宙に舞わせる瑞穂の支援の下、体内で爆発的にアウルを燃焼させた宮子が獣の様に低い姿勢で突撃を開始。左右へのステップをフェイントに交えながら一気に肉薄する。
「たとえ相手が天使だろうと悪魔だろうと、魔法少女は負けるわけにはいかないのにゃよ!」
 靴底を地面に滑らせながら天使の傍らに潜り込んだ宮子の肉球パンチ── 一撃離脱で素早く後ろに下がる宮子を、だが、天使は捉えていた。指差し、投射されんとする魔力の大剣。寸前、ファーフナーと紫遠がその得物を振り被り。撓り落ちる長柄の魔槍と龍殺しの鉄塊がファサエルに攻撃の中断と回避を強制する。
「ファサエルさん、そろそろ大人しくしてくださいっ!」
 文歌もまた両手で握ったマイクに叫び…… その声を魔具が魔力に変えて、衝撃波として天使に叩きつけた。小梅も大声を上げながら箒を振り上げ突撃し……これまでになかった動きでファサエルの意表を突く。
 全周よりの攻撃に、天使は舌を打って周囲へ重圧陣を展開した。動きの鈍化を強いられる撃退士たち。ファサエルは一歩位置を横へとずらして宮子から距離を取ると、質量付与した大剣でもってファーフナーを槍ごと弾き飛ばし。そのまま流れるような動きで紫遠と剣を打ち合わせる。
 その瞬間を──天使が薄く広く重力陣を展開した瞬間をチルルは見逃さなかった。それを察した明斗が敵を牽制するように白銀の槍を手早く突き入れ、瞬間、相手の意表をついてチルルが『全力跳躍』で夜空に舞い。これ見よがしに突き出した右手の刺突剣を囮に、左手に研ぎ澄まされたアウルの氷刃を精製する。
 奥義『ルーラ・オブ・アイスストーム』── 何者をも貫くチルル必殺の氷剣だ。その力は天魔の天敵たる力を纏い、防御も何もかも超越して対象を打ち貫く。
 その必殺の剣を── だが、ファサエルは大剣で『受け』ていた。天使はこれまでの戦いからチルルに一目置いていたのだ。受け切れなかった刃が天使の鎧を貫き、肩口を背中まで抜けたものの…… その一撃は『必殺』までは届かない。
 ちぃ、と舌を打ったチルルを重力塊が地面へ叩き落とす。氷剣が宙に霧散し、撃退士たちの企みは潰えたかに見えた。だが……
「まだです!」
 明斗の叫び。チルルに重力塊が集中する隙をついて、一転、今度は全周から一斉に攻撃が仕掛けられた。
 横合いから突っ込み、攻撃もせずに天使の眼前を駆け抜ける小梅と猫たち。その行動に意表を突かれたところにファーフナーが紫焔纏わせた魔槍を目にも留まらぬ速さで突き入れ。そこへ直上から降り落ちて来たラファルがアウルのナノマシンを集積した刀状の力で斬りつける。
「やったか!」
「いや……」
 立て続けに叩き込まれたマイナスレートの貫通攻撃── だが、それらを受けてなおファサエルは健在だった。
 痛撃に顔を歪ませながら、一旦、後ろに跳躍し…… 全員を視界に捉えられるよう、重力盾の展開方向を前面に絞れるよう、一定の距離を取る。
「こちらの意図は看破されたぞ。……相変わらずあの素早さは厄介だな」
「構いません。最悪、時間さえ稼げればこっちの勝ちです」
 ファーフナーの言葉に、皆を、自身を励ます様に言う明斗。だが、その表情には若干の焦りも浮かぶ。
 天使には未だ戦闘以外のダメージは見られない。突入班はまだコアに辿り着けていないのか……?


 敵の大剣が届かぬ距離を厳密に保ちつつ── 明斗はチルルの攻撃にタイミングを合わせ、白銀の槍を突き出した。
 微妙に嫌なタイミングで突き入れられるその穂先をかわし、直後のチルルの攻撃を天使がどうにか受け止める。その間に明斗は回復の光を飛ばして前衛のチルルの怪我を癒した。天使が距離を詰めようとしたら無理せず退き、牽制しながら距離を取る。明斗本人も焦れる様な戦い方ではあるが…… 回復役として、同時攻撃のタイミングを指示する者として。そして、『切り札』の一翼の担い手として── 決して気絶するような無理はできない。
 ファサエルも回復役である明人と瑞穂が継戦の要と見切ってはいたものの、全周を包囲されていては攻撃の集中もままならなかった。無理に押し込もうとすれば、当然、そこには隙が生まれる。
(見えた……!)
 大剣によって弾き飛ばされた宮子に背を見せ、ファーフナーや紫遠と打ち合う天使── 待っていたタイミングが来たと察した宮子は、それまで近接武器として使っていた肉球グローブを、天使の背中へ照準するようにグッと両腕を伸ばして突き出した。
「猫ロケットパンチ、マジカル韋駄天アタック発射にゃー♪」
 宮子の叫びと同時にその両拳から放たれる肉球状のアウルの拳。周囲の空気を渦巻かせ、切り裂きながら放たれたその一撃は、天使の鎧を貫いてその背中を強かに打ち据える。
「にゅふふ、引っかかったにゃね。このナックルは離れていても攻撃できるのにゃ。ただの可愛い猫パンチではないのにゃよ!」
 得意げにはしゃぐ宮子であったが…… 次の瞬間、天使に睨み据えられてその顔を蒼くした。複数の魔法大剣を投射され、あっという間に体力を削られ、気絶する。
 壁役を失った瑞穂は「まったく、あの子は……」と首を振りつつ、だが、優雅さを保って動じない。
 回復役を討つ機会を得てすかさずファサエルは瑞穂へ突っ込み、寸前、勇斗が立ち塞がり。そこへさらにアルがヨーヨー型魔具を振るって踊りかかるも、堕天した今、アルにかつての様なファサエルと互角に打ち合えるだけの力はない。
「アルちゃん!」
 押され始めたアルに気づいて、小梅が初めて本気の攻撃を天使に放った。親指大のアウルの氷を無数の猫型に精製し、アルに打ちかからんとしていた天使へ向けて蝗の如く纏わりつかせる。
 その隙に、文歌はアルたちの側まで距離を詰め…… アルをアウルの鎧で守護しつつ、天使を中心に『ファイアワークス』を放ち、炸裂する色とりどりの炎でその目を眩ませた。その火花を隠れ蓑に距離を詰めるファーフナー。クルリと回した槍を地面に突き立て、その両手を天使の腕に当て。ハッと気づいた天使に間髪入れず雷撃を放ち、その動きを鈍らせる。
「……しっかりしろ、小僧。この戦い、お前だけは気絶するわけにはいかんのだろう?」
「そうですよ! 愛する人の為、ゲートの入り口を守るのでしょう? あなたの愛の歌、私に聞かせてくださいよ!」
 仲間に助けられ、一旦、回復を受けるべく下がったアルをファーフナーと文歌が激励(?)する。
 はい! と勢い良く返事をして再び前に出るアル。そんな弟分の姿にファサエルは失望を隠さない。
「……そこまで力を落としたか。やはりお前の判断は間違っていた」
 それはどうかしら? という返事は、アルディエルのものではなかった。声と同時に身を伏せるアル。瞬間、その背後から夕姫が大型ライフルを撃ち放つ。
 ぬ、とうろたえつつ銃弾を受け弾いたファサエルに、身を起こしたアルが両手のヨーヨーで連撃した。それはかつてのアルの戦形── 堕天して失った手数は、夕姫がそれを補完する。
「足りない部分は互いに補い合う…… それが私たちの戦い方よ!」
 突き出した右手から五連の光弾を立て続けに放つ夕姫。その弾幕から逃れたファサエルが、瞬間、戦闘以外のダメージに襲われ、驚愕の表情を浮かべる。
「これは…… ゲートコアのダメージか……!」
 天使の言葉に、ようやくですか、と安堵の表情を浮かべる明斗。
 逆に天使の表情は険しさを増した。──この場の敵は後回しだ。まずはゲート内の敵を駆逐しなければ……!

 防御重視の戦い方から、突破を目的とした機動戦へと戦術を転換したファサエルが激しい攻撃を仕掛ける中── 戦場の後方で、松岡は明美たちと対峙していた。
 ギリ……! と奥歯を噛み締めて、今すぐにでも青葉を助け出したい衝動を押さえ込む。その殺気に反応してか、青葉を背負った白狼型が松岡を睨んで喉を鳴らす……
 と、その松岡の耳元で、光信機のイヤホンがカチカチと鳴った。光信機をON/OFFする音── それは松岡ら『第三の矢』の面々に『増援』が来たことを知らせる符丁だった。東からは笹原小隊、南からは撃退署・清水班── いずれも、人手が足りぬ中、急ぎ学生たちを支援する為、夜の闇をついて侵入してきた者たちだ。
(来たか、藤堂……!)
 松岡は同様に増援に気づいた瑞穂と視線を合わせて頷き合うと、引率教師として生徒にその指揮を委ねた。
 瑞穂はさりげなく手元を隠しながら、光信機のON/OFFで援軍に攻撃準備と待機の指示を出す。
「さて……」
 後はタイミングを計るだけ。問題があるとすれば。
 あの天使を相手に果たしてその時間を稼ぐ事が出来るか、であるが……

「ゲートの主と言っても哀れなもんだな! 自ら戦う理由も知らず、他人の想いも理解できず…… 道具でいるのがそんなに楽しいかい!?」
「…………」
 再び上空── 宙を飛び交う魔法大剣を機動性で回避しながら、地上のファーフナーと挟撃する形で再び四連装砲を放つラファル。爆炎が天使を再び地上へ押し戻し…… だが、同時に展開した天使の重力塊がラファルを空中に縫い付ける。
「げ」
 動きが鈍ったところを続け様に放たれる魔法大剣── その数本に貫かれたラファルは「ムキになってやがるじゃねぇかぁー!」と叫びながら地面へと墜落していく。
「……相変わらず油断できない相手だね。気を抜いたらこっちがやられる」
 呟く紫遠。さて、どうするか、と思案したところで、先のラファルの言葉が浮かんだ。やってみようか、と心に決める。少しでも時間が稼げるならば……!
「……まったく、噂通り、人の気持ちの分からないヒトだね。そんなキミを好きになったお姉さんの気も知れないや!」
「なに……?」
 わざとらしく呼びかけた紫遠の言葉に、予想通りファサエルと……アルディエルが反応した。
 ジト目で睨んでくる少年天使にウィンク一つで意を含め。こほんと咳払いの後、ファサエルに向き直る。
「いったいどこを好きになったんだろうね、リーアさんは。まるで聖母の様な(あ、天使だっけ)ヒトだよね! ……でも、そんな彼女をあなたは守れなかった。……仇を取る? それってただの代償行為──恋人を守れなかった自分への、言い訳なんじゃないのかい?」
 返答はなかった。変わりに、魔力で編み上げた大剣による苛烈な豪雨が浴びせられた。立て続けに地面に突き立つ剣山── 地に倒れながら紫苑は思う。
(ムキになってこっちを攻撃してくるとか…… やっぱりまだ恋人の事を想っているってことなんだろうね)
 ……本当に人の心の分からないヒトだ。恐らくは自分の心さえ。それは多分、ファサエルが信奉する論理と異なるモノだから。いい加減、心ってのは理屈じゃないと気づいても良さそうなのに……
 倒れ伏す紫苑── だが、その間に撃退士たちは態勢を立て直す。
「軽くするならまだしも…… 重くする能力なんて淑女の敵ですわ。そんな力は失ってしまいなさいな!」
 紫遠が天使の気を惹く間。瑞穂は静かに距離を詰め、『シールゾーン』で天使の特殊能力を封じる事を試みた。
 最初の封印は抵抗された。構わない。封印の使用回数は『アウルディバイド』による回復含めて計4回。1回でも通れば好機となる。
 二回目も…… 失敗。む、ファサエルが瑞穂の意図に気づいた。放たれた視線を、瑞穂は真っ向から胸を張って受け止めた。──来るなら来ればいい。こちらを煩わしく思ってくれるなら、それはそれで味方の好機となるのだから……!
 耳元で、カチカチと音が鳴る。
 ──それは、藤堂たちが配置を完了したという報せ。
 回復役として天使の猛攻を受け、槍を杖代わりにするほど疲労していた明斗がその表情を輝かせ。眼鏡を指で押し上げながらパッと皆へ合図を出す。
「白野さん!」
「うん!」
 小梅は元気良く頷くと、箒を手に再び天使へ突撃していった。
 油断──と呼べる程のものではないが、天使は小梅に対する攻撃の優先順位を下げていた。それまでまともに攻撃してくることがなかったから── いや、どんなに言い繕っても、それはやはり『油断』だろう。ファサエルの懐に飛び込んだ小梅は『北風の吐息』──強力な冷気の奔流で天使を味方の攻撃ポイントへと押しやった。──地上ではなく、敢えての空中へ。
「!?」
「撃てぇ!」
 館を包囲した藤堂たちから、空中に放擲された天使に一斉射撃が浴びせられた。咄嗟に展開した重力の盾でも防ぎきれない。あまりにも銃手の数が多すぎる。
 銃弾による乱打を防御態勢で凌ぐファサエルを、今度は文歌が『星の鎖』で地上へと引き戻した。空へと振り上げる手に応じ、文歌周辺の地面から、まるで舞台装置の様に幾筋もの鎖が空へと飛び出し── ずたぼろになった挙句、その鎖に絡み取られて地面に落ちたファサエルに再びチルルが突っ込んだ。
 その場で攻撃を放たず、更に一歩踏み込むチルル。『動きを鈍らせた』、『引き摺り倒した』、『大剣で弾き飛ばした』、『一歩退き距離を取った』── 思い返せば、天使はこれまで頑なに撃退士たちの接近を嫌っていた。至近距離での肉弾戦に苦手意識があるのかもしれない。そして、『自分まで巻き込んでは重力陣は使えない』。
 肌が触れ合う程の至近へ肉薄したチルルに、天使が一番分厚い重力盾を展開する。構わずチルルは刺突大剣を両腕ごと突き出して── 光と共に放たれたのは、だが、奥義ではなく『氷砲』だった。
「……フェイク!?」
 初めて聞く天使の動揺に笑みを浮かべるチルル。彼女は最初の攻撃で奥義を使い果たしていた。そうとは知らず、ファサエルは全力の重力盾を展開してしまった。──即ち、今、残りの八方に、天使を守る『盾』はない。
「今です!」
 この時を待っていた──! すかさず明斗が指示を飛ばし、味方と挟撃態勢を確立するべく素早く反対側に位置を取る。
 同時に、瑞穂が周囲に花吹雪舞うアウルの花畑を展開し、『気絶した』者たちを花弁と回復の光で包み込んだ。
 飛び起きる宮子、ラファル、紫遠の三人── これが先に瑞穂が皆に語った策だった。気絶する程のダメージを受けた者たちを──実際には『神の兵士』によって意識を保った者たちに『死んだフリ』をさせ、伏兵として利用する。……恐らく、常のであれば看破し得たであろうファサエルは、だが、ラファルと紫遠の挑発によって冷静さを欠き、気づけない。
「もっていけ。最後の一本だ」
「ボクも合わせるにゃよ! マジカル♪月虹アタックにゃー!」
 再び槍に紫焔を纏わせたファーフナーの一突きに、虹色に光り輝く宮子の肉球砲がタイミングを合わせて異なる方向から放たれる。続けてラファルの魔刃が、緑光纏いし紫遠の大剣が次々と天使の守りを貫き──
「アルくん、あなたが勝負を決めなさい!」
「……はい!」
 決着をつけるべく『兄』に突っ込むアル。夕姫が槍状に固めた布槍で天使のこめかみを裂き、直後、布を解いて視界を遮る様に振り。その支援の下、アルが両手のヨーヨーを振るい、変幻自在な二つの軌道がファサエルの四肢を打つ。そのアルへの反撃は、勇斗が代わりに引き受けた。その盾を天使が跳ね上げ、腹を薙ごうとしたところを、夕姫の『防壁陣』ので支援を受けて、勇斗が辛うじて双剣を交差し、受け逸らす。
「決着だ!」
 アルが両手のヨーヨーを振り、ファサエルの、大剣を持つ右手とこめかみとを強打した。

 その一撃に倒れ伏し、仰臥する『兄』を見下ろし── アルディエルは仲間に戦いを止めるよう手をかざした。


「これがアルくんが学園で得た『力』よ。……一人では決して得る事のできない力。あなたが弱さと言ったものよ」
「だから言ったでしょ。あたい『達』が勝たせてもらう、って」
 起き上がることもできず、荒い息を吐く天使を見下ろし、夕姫とチルルがファサエルにそう告げた。……もっとも、天使の傍らに膝をつき、ゼイゼイと息を吐きながらではあるが。
「心はね、揺るがない事が強いんじゃない。相手を想えること。屈しない事が強いのよ」
「……本当はあなたの心にもそれがあった。でも、それに気づけなかった。……一人きりで何もかも背負い込もうとしても、それで抱え切れるものなんてたかが知れている」
 夕姫と紫遠の言葉を、天使は黙って聞いていた。これまでなら弱者の戯言として聞き流していた類の話── だが、こうして打ち倒されてしまえば、おそらくはそれも正しさの一つではあるのだろう。
「……最初に一目会った時から、俺はお前が気に食わなかった」
 そう告げるアルの言葉に、ファサエルは自分もだ、と微笑で答えた。
「それでも、お前はリーア姉が死んだ後も僕を見捨てなかった。今回も人質を取ってまで、共に仇を取ろうとした。……なぜだ?」
「…………。リーアに今際の際に頼まれたからだ。『アルディエルの事をお願いね』と……」
 ──あの人を…… ファサエルの事をよろしくね。不器用な人だから──
 『姉』が最後に残した言葉を思い出し、アルは目を見開いた。『姉』は最後の最後まで、死ぬ間際まで、自分たちの事を案じ続けて……
 と、それまで重傷でありながらも意識を保っていたファサエルが、いきなり「グッ!?」と胸を押さえて身体を折り曲げた。突然の事に撃退士たちが色めき立つ。
「これは…… ゲートコアのダメージ!?」
「馬鹿な!」
 鼓動を打つように打撃は続き、天使は悶絶しながらカハッと多量の血を吐いた。
「これは…… 強力なマイナスレートの……!」
 察した天使がコア障壁を解除し…… 同時に、コアを破壊されたゲート入り口が脈動する。
 それを待っていたかのように、空挺用のクラゲ型ディアボロが天使の館の全周から中庭へ侵入を開始した。その触手をロープ代わりに、多数のオーク兵が降下して来る。
「あの時のディアボロ!?」
「やっぱりな。何かを仕掛けるなら絶好の機会だもんなあ!」
 消耗し切った身体に鞭打ち、応戦態勢を取る夕姫やラファルたち。迎撃の指示を出す明斗の横で、小梅はアルたちの話し合いを邪魔されたことに本気で怒りながら、ギュッと拳を握って前に出て……
「まぁまぁ、そう殺気立たずに」
 ふと後ろからそんな呑気な声がして。撃退士たちはそちらを振り返った。
 ゲートの中から出て来たその黒尽くめの男は…… 注目された事にはにかみながらこう言った。
「どうも、悪魔です。天界と人類の敵とかやってます」


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:6人

無念の褌大名・
猫野・宮子(ja0024)

大学部2年5組 女 鬼道忍軍
ラッキースケベの現人神・
桜井・L・瑞穂(ja0027)

卒業 女 アストラルヴァンガード
伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
飛燕騎士・
永連 紫遠(ja2143)

卒業 女 ディバインナイト
鉄壁の守護者達・
黒井 明斗(jb0525)

高等部3年1組 男 アストラルヴァンガード
Heavy armored Gunship・
月影 夕姫(jb1569)

卒業 女 ディバインナイト
Standingにゃんこますたー・
白野 小梅(jb4012)

小等部6年1組 女 ダアト
ペンギン帽子の・
ラファル A ユーティライネン(jb4620)

卒業 女 鬼道忍軍
外交官ママドル・
水無瀬 文歌(jb7507)

卒業 女 陰陽師
されど、朝は来る・
ファーフナー(jb7826)

大学部5年5組 男 アカシックレコーダー:タイプA