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マスター:柏木雄馬
シナリオ形態:シリーズ
難易度:難しい
形態:
参加人数:12人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/03/14


みんなの思い出



オープニング

 物心のついた時から、その天使の少年には家族がなかった。
 戦災孤児であるらしいが、詳しいことは分からない。
 厳然たる階級社会である天界において、寄る辺のない彼に与えられたものは少なかった。
 命を繋ぐ栄養を。識別の為の名称を。最小限の教育と戦う術を。そして、一兵卒としての役割を──

 ある日、その少年天使が属する隊は、悪魔の軍勢を誘引する為の捨て駒とされ、壊滅した。
 味方が死に絶え、敵と言う名の具現化した死が眼前に近づいて来る中で、少年はふと己の生について考えた。
 死ぬ理由については上官に教えられた。だが、その為だけに生きて…… いや、生かされてきたというのなら、なぜ神は自分に心や自我などと言うものを与えたもうたのか。ただ、戦って死ぬだけならば、こんなもの、怖くて邪魔なだけなのに……!
 答えはなかった。代わりに助けがあった。
 その天使はたった一人で、全滅する事が前提の捨て駒を救いに来た。配下のサーバントにディアボロを押さえさせ、その間に敵指揮官たる悪魔を戦闘不能に追い込んだ。
 その天使──女天使は、逃げる敵には目もくれず、立ち尽くした少年を己の腕に抱き締めた。
「よかった…… まだ生きていてくれて」
 我が事の様に泣く女天使に、少年は訳も分からぬまま…… 生まれて初めて、号泣した。

「今日から私が君のお姉さんだ」
 マリーアデルと名乗った女天使がそう笑いかけてくれた瞬間。少年には『家族』が出来た。
 記号ではない、己が己であることを示す『アルディエル』という名も彼女に貰った。
 リーア、と彼女を呼べるささやかな特権を、少年はことのほか嬉しく思った。それは彼女が被保護者だけに与えた家族である証であった。
「どうしてリーアは敵に止めを刺さないの?」
 共に戦場を渡り歩きながら…… ある日、少年は『姉』に訊ねた。戦場において、彼女は常に敵を殺さず、手柄を他の天使に譲っていた。ついた二つ名が『不殺の破壊者』── それは賞賛ばかりでなく、戦場に立つ不覚悟を揶揄する呼び名でもあった。
「私のわがまま。悪魔とは言え、命あるものをこの手で殺すのは、ね」
 偽善であることは分かっているのだけれど、と姉は力なく笑った。結局、その様な境地に至った理由は最後まで教えてくれなかったが。
「でも、危ないよ……?」
 少年は言った。いや、だからこそ姉は完膚なきまでに敵を叩き潰すのだろうけど。
「そうね…… なら、私の背中はルディに守ってもらおうかな?」
 それは姉が少年を初めて一人の戦士として認めてくれた瞬間だった──少年はそう解釈している。
「分かった。守るよ。リーアのことは僕が!」

 その時の無邪気な返事を、彼は生涯、悔やみ続けた。
 姉は死んだ。戦死だった。命を取らなかった悪魔に、背中から致命傷を受けたのだ。
 その時、少年は斥候に出ていて姉の側にはいなかった。姉は待機中のはずだった。彼女がなぜ一人で戦場に出たのか、それは誰にも分からなかった。
「なにがリーアの背中は俺が守る、だ!」
 重体となった姉が味方の陣地まで運ばれて来て── 少年が発したその罵声は、己に対するものであると同時に、目の前の青年天使に対するものでもあった。
 姉には恋人がいた。端正な、だが、冷然とした面持ちで自分を見るその青年天使の事が、少年は初めて会った時から嫌いだった。それはまさしく、少年がこれまで見てきた『正しく天使然とした』天使の姿だったからだ。
 少年は嫌いだった。家族である自分が見た事のないような笑顔を姉から向けられるその男が嫌いだった。君の背中は私が守る、とぬけぬけと言う男が嫌いだった。……それでも姉が幸せならば、と、素直に祝福できない自分が嫌いだった。
 青年は一切の反駁をしなかった。感情のない顔で少年を見返し、事務的な口調でただ告げた。
「ルディ。リーアがお前を呼んでいる」
「うるさい! お前が俺をその名で呼ぶな!」
 言い捨てて、少年はすぐに姉の元へと走り出した。既に医務官の姿はなかった。最早、手の施しようがないということを、その事実は告げていた。
「リーア! リーア姉! リーア姉…… ……姉さん……」
 少年は姉の手を取った。そして、その冷たさに驚いた。少年を救った温もりは、彼女から急速に失われつつあった。
 姉は最期の力を振り絞り…… だが、それを感じさせない優しさで、その手を弟の頬に触れさせた。止め処なく流れる弟の涙が、その指を伝って落ちた。
 姉は笑った。弟に、苦しみの一切を感じさせずに。

 故国で姉の葬儀を済ませ…… 以来、少年は青年天使──ファサエルと行動を共にすることとなった。少年の保護者という立場を姉からファサエルが継いだ為だ。
 だが、少年は彼をただの一度も『兄』と認めることはなかった。
 彼らが往くのは常に戦場だった。悪魔と戦っている時だけは、共に姉の仇を討つ、という共通の目的を持つことができた。だが……
「人間界に行く。人間界に行ってゲートを開く」
 唐突に、何の相談もなく。ファサエルはそう言って方針を転換した。
 少年は反発した。姉の敵討ちをないがしろにされたように思えた。

 そうして訪れた人間界で、天使の少年は人間の少女──悠奈に出会った。
 或いは、少年は、この年端も行かない少女の中に、彼が失った母性を見出していたのかもしれない。自分にとっては唯一無二の存在。だが、相手には優しい兄と友人たちがおり、自分は必ずしも必要とされた存在というわけでもない──

 以来、少年は宙ぶらりんになってしまった。
 姉の仇たる悪魔を滅ぼす──そう決意を新たにしてみたものの、ファサエルはこの地に根を張ったまま。人間を知った今となっては、彼らを犠牲に力を得るなどとても出来そうにない……
「……数少ない手駒にいつまでも腑抜けていられては困るのだがな」
 いつまでも動かぬ少年にそう言い残し、ファサエルがゲート外に飛んで行くのを見ても…… 少年は動かなかった。
 ふと疑問を感じたのは、暫し後。ゲート展開以降、ファサエルが外に出るのはかなり珍しい事だったから……
 少年は温室を出ると、開きっぱなしになっていたファサエルの部屋へと入った。デスクの上には複数のモニター。そこには、撃退署員を蹴散らすファサエルの姿と、そちらへ向かう悠奈たち撃退士の姿──
「……悠奈!」
 瞬間、少年は外へと飛び出した。気だるさは全て消えていた。
 この映像を見て、ファサエルは外に出たのか……? ……まさか、悠奈を狙うつもりか!?
 最高速で現場へ向かう。
 戦場へ辿り着いてまず目に入ったのは、重傷を負って倒れた巨人の姿だった。……己の『監視』につけられていた『兄』のシュトラッサー。既に滅びたとある世界の巨人の王── 魔術師の命たる声を兄に封じられている為、言葉をかわしたことはなかったが、常に側に寄り添ってくれていた。
 その存在が、敗退して倒れていた。それは即ち、学園の撃退士たちが彼を倒し得る程の力をつけてきたということであり──
 眼下に、その撃退士たちに囲まれ始めたファサエルの姿を見出す。それもまた、少年が想像だにしなかった光景だった。
「なんなんだ、いったい、この状況は……?」
 天使と、学生たちを見下ろしながら、少年は呟いた。

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リプレイ本文

 なぜこのタイミングでやって来るのか──!
 混沌の色増す戦場に現れた新手の少年天使を見やって── 撃退士たちは皆、心中で異口同音にそんなツッコミを入れた。
 どうも面倒なことになった、と舌打つ獅童 絃也 (ja0694)。この時点ではまだこの少年天使が徹汰=アルディエルであるとは分からない。
 ファーフナー(jb7826)の認識もこの時点ではまだ「敵が増えた」のみだった。天使クラス2体を相手にこの状況── 限りなく低くなった勝算の中、残された選択肢を精査し、次の一手を模索し続ける。
「まさか、あの子まで現れるなんて……」
 愕然とするは彩咲・陽花(jb1871)。──や、いつか現れるとは思っていたけど、それがまさか今、この時だとは! 一難去ってまた一難。というか、状況が混沌としすぎではないでしょーか?!
「……なんか妙なタイミングで登場してきたわね」
「タイミングが良すぎる…… これは嵌められたかもしれませんね」
 刺突大剣をファサエルに向けたまま、雪室 チルル(ja0220)は構えを解かず。雫(ja1894)は淡々と呟きながら、冷淡な瞳を青年天使の方へと流す。
 そんな撃退士たちの中で唯一、喜色を浮かべた榊悠奈は、声をかけるべく前に出ようとして。それを月影 夕姫(jb1569)がさりげなく背に庇う態で押し留めた。背に隠した手信号で動かぬよう伝える夕姫。なぜ、と戸惑いの表情を浮かべる悠奈に、ユウ(jb5639)がそっと『意思疎通』で語りかける。
(悠奈さん。ユウです。聞こえますか……?)
 一瞬、目を丸くしながらも、ごく小さく頷いて見せる悠奈。
 ユウは増援がないか周囲へ警戒の視線を飛ばし…… あらぬ方を向きつつ『言葉』を続けた。──ファサエルが、アルディエルや私たちの反応を見て、誰が悠奈かを確認しようとしている可能性がある。今は自分が悠奈であることを示すような反応は控えるように、と──
(そんな……! ようやく会えたのに……!)
 焦る悠奈の左手を、陰で葛城 縁(jb1826)がギュッと握った。縁は、怒りに満ちた表情でファサエルをまっすぐ睨みながら、噛み締めた歯の隙間からずっと唸り声を洩らし続けてている。
 そんな親友の姿に感極まる陽花。──縁、すごく怒ってる。それだけ心配掛けちゃったんだね。ごめんね。後で美味しいお菓子を作ってあげるから。もう二度と際どいグラビア写真を皆に配布するようなことも……って、まぁ、うん、それは後で考えるとして、まずはこの状況をなんとかしないと()
(……悠奈さん。今は落ち着いて。……チャンスは必ず訪れます。悠奈さんならきっと……いえ、悠奈さんにしかその機会は感じられないはず。その時は、貴女の想いを思いっきり彼にぶつけてあげてください)
 視線も表情も交わさぬ思念の伝播── ユウの『説得』に悠奈は大きく息を出し入れした。
 ユウの想いは届いていた。──本当はすぐにでも飛び出していきたい。思いの丈を伝えたい。……だが、自分のわがままに付き合ってくれた仲間たちの為、その心を押し殺す。……再会の時をこれまでずっと待っていた。あと少しくらい、どうということがあろうか……
「悠奈ちゃんにアルディエル…… 偶然かもしれないけど、役者は揃ったってところでしょうか」
 緊迫した空気の中、勇斗の傍らに立って呟く日下部 司(jb5638)。
「偶然…… それとも、必然、でしょうか」
 ユウもまたそう独り言ちた。

「なるほど、あの少年が『噂の彼』ですか……」
 背後の悠奈たちの様子に事情を察し── 永連 璃遠(ja2142)は小声でそう告げた。
 「あれが……」と呟くファーフナー。絃也は大きく息を吐いて全身から力を抜きつつ、だが、いつでも迅速に動ける様に身体をしなやかに保ちながら、事の成り行きに注視する。
「はたして、あの新手の天使が我々の福音となるのかどうか…… どちらにせよ、今は厄介この上ないが」
「とりあえず、一先ずこちらから攻撃を仕掛けるのは止めですね。……もっとも、あちらはまだやる気のようだけど」
 呟く璃遠の視線の先で、ファサエルは地面に突き立てた大剣を引き抜いた。そして、撃退士たちの向こうに浮かんだ少年天使に呼びかけた。
「よくぞ来た、アルディエル。手を貸せ。この場から彼らを蹴散らし、捕虜を1名、確保するのだ」
 叫ぶ天使の鉄面皮が若干、綻んだように見えたのはファーフナーの気のせいか。大剣を手に迫るファサエルに応じるように、チルルがちゃきっと剣を構え……
 だが、アルディエルは動く事もなく…… そんな『弟』の様子にファサエルも怪訝に足を止めた。
「……どうした、アルディエル。なぜ動かん? 再び戦う覚悟を固めて来たのではないのか?」
 お前は何をしにここへ来たのか── 声に微かな苛立ちと呆れを含ませ、『弟』に尋ねるファサエル。その隙にチルルは突っ込まなかった。……うずうずとはしたけれど。その手には引っかかりませんよ、と雫がポツリと零す。
「ですが、私も知りたいです。貴方がここに来た理由と経緯を」
「それは……」
 応じる徹汰の歯切れは悪い。
 悠奈の危機を直感し、慌ててこの場に飛んで来た。だが、実際に駆けつけてみれば予想外の光景が広がっていた。
 打ち倒された巨人。ファサエルと互角に戦う撃退士たち── おまけに、久しぶりに再会した悠奈はこちらに声も掛けて来ない。
 これは縮図だ、と徹汰は思った。今の自分を取り巻くものの全て、あらゆる現状が詰まった縮図── ……出来すぎだ。ひしひしと感じる。自分は今、何か重要な決断を迫られようとしている──
 まずいですね、と神棟星嵐(jb1397)は呟いた。少年は追い詰められているように見えた。
「仕方がないのぉ。ボク、徹汰ちゃんと話してくるね」
 行ってきま〜す♪ と幼い翼を広げ、空中に『立ち尽くした』徹汰の元までぱたぱたと飛んでいく白野 小梅(jb4012)。何しに来たの? 戦いたいの? それとも誰かに会いに来たの……?
「そ、そうだよ、アル……徹汰くん! 君はどうしてここに来たのかな?! 『悠奈ちゃんはこの場にいないのに』!」
 地上から飛んだ陽花の声。その内容に徹汰は面食らった。ファサエルに見えぬ角度から、意味ありげにぱちぱちと片目を瞑って見せる陽花。だが、困惑する少年天使にそのメッセージは届かない()
 戸惑い、悠奈を探す徹汰の視線を、小梅がパタパタとブロックする。「見ちゃ、めぇ! 徹汰ちゃんのお兄さんが狙ってるからぁ!」と、ぷんぷんと腰に手を当て怒る小梅。
 少年は傍と気がついた。
 もしかして、悠奈が声をかけてこないのも……?
 顔に喜色を浮かべる少年。とにかくまずホッとした。同時に、悠奈の危機が去ったわけではないことも理解する。
「ぼ……俺は榊悠奈を守る為にここに来た」
 表情を引き締め、ファサエルを睨みつける徹汰。その言葉を聞いた瞬間、小梅の表情がパァッと輝いた。
「戦わないならぁ、ボクたち、怪我してる人たちを連れて帰りたいのぉ。見逃してくんない?」
 え? と驚く悠奈に囁くユウ。機会を待つ──それは今、この場に限った事ではない。
 だが、ファサエルの目的はあくまで情報源として学園の撃退士を連れ帰る事であり── そして、彼にはそれを成すだけの余力が十分あった。
「いいのか、アルディエル? そこの連中は先程、戦闘能力を喪失した巨人を『処刑』しようとしたぞ?」
 涼しい顔で先程の一件を口実に持ち出すファサエル。そのやり様に、絃也が珍しく吐き捨てるように反論の声を上げた。
「温い事を……! 討てる時に討つ──そんなものは戦闘の鉄則だ。そんな事は重々承知のはず…… それとも挑発のつもりか?」
「……アルディエル。貴方が状況ここに至るまでの経緯を知ってるか分かりませんが……」
 一方、雫は静かにアルディエルに向き直り、淡々とした口調で事情を話した。
 既に戦闘は始まっていたこと。巨人を倒したこと。斥候が天使に囚われたこと。捕虜を交換する為に交渉が行われたこと──
「交渉は成立したかのように見えたけど、そこであの天使に悠奈ちゃんの身柄を要求されたのよ。仲間を助ける代わりに別の仲間を差し出せなんて、そんな条件、呑めるわけないじゃない」
「それに、悠奈が来れないと告げた途端、攻撃を仕掛けてきたのはあっちだからね! ……自分に都合の悪い部分は語らない──それは卑怯者のすることだよ!」
 夕姫と縁の糾弾に、だが、ファサエルは応えなかった。怒りに呼応しもしない。こんな所も『弟』くんに嫌われる理由なんだろうな、とチルルは思い、話を続ける。
「決裂後、巨人に止めを刺そうとしたことは認めるわ。でも、そこに至る前提として、こちらに多数の死傷者が出ていたことは忘れないでおくよーに」
「……大勢が傷つき、亡くなった。放置すれば僕たちも危険に晒されていたかもしれない。……殺し、殺される戦場で、敵の命にまで気を使うこと……難しいです。だって、僕には護りたいものがあるんだから」
 とても哀しいことですが…… と璃遠は寂しげにそう告げた。だが、それでも、どうしても。こちらにだって譲れないものはあるのだ。
「全ては一連の戦闘の中での事。少なくともファサエルが言う様な『処刑』ではないと断言できますが……」
 雫の纏めに、ファサエルもまた反論する。
 まず、榊悠奈の身柄を求めたこちらの要求を拒否したのは撃退士たちだということ。そして、事前の折衝において、決裂後の戦闘再開に関する条件の提示はなかった、と。
「交渉中の停戦という約定は守った。一方的にこちらが不義を働いたということはない。……重要なのは、だ、アルディエル。戦闘能力を喪失した巨人に人間たちが攻撃を仕掛けたのは事実であり、それはマリーアデルが最も嫌っていた類の行為であるという事だ」
「……随分と貴方に都合の良いように話を持っていくのですね」
 半ば呆れ、半ば感心したように雫が言った。事実だ、と返す青年天使。自分は言葉を弄しない。弄するのは悪魔のやり方だ。
「言い方を変えましょうか。『随分と貴方に都合が良いように事態が動きましたね』、と」
 雫の言葉にファサエルが振り返る。この交渉中、かの天使が人間の目を見て話すのはこれが始めてのことだった。
「人質交換時に悠奈さんの身柄を求めた。でも、この交渉自体、上手くいったら儲けもの。決裂しても良いと思っていたのでは? 貴方の目的は……巨人が回復するまでの時間稼ぎでしょうから」
 その巨人を放置していたのは、もし巨人が討滅されたとしても、アルディエルの憎悪を人間に向けられるから。実際には討滅されなかったが、アルディエルの接近を察知した途端、武器を捨て、巨人を守る素振りをして見せた。
「全ては彼を──アルディエルを意のままにコントロールする為。悠奈さんや、巨人の命を利用しようとした。……違いますか?」
 雫のその分析を聞いて、アルディエルは驚愕に目を見開いた。
「ふむ…… 正誤半々といったところか」
 ファサエルはあっけなくそれを認めた。
「とは言え、最初からそう指向していたわけではない。状況に応じて選択を繰り返す内に結果としてそうなった」
 悠奈の存在を確認して自らこの場に赴いた。『弟』が気づき易いよう自室の扉は開け放ったまま、わざわざ『温室』から見える様に上空を飛行したりもした。
 だが、実際にアルディエルが来るかは分からなかったし、捕虜を得ることも想定してはいなかった。
 倒れた巨人を放置したのはこちらの手が足りなかったから。山頂に陣取ったのは視界の確保と、捕虜を手元に置いておく必要があった為。その時点で時間の経過はファサエルの不利ではなかった。時間がたてば巨人は勝手に回復するからだ。
「巨人は貴重な手駒。故になるべく守ろうとした。……が、失われたら失われたで、それをアルディエルの発奮材料にするつもりであったことも事実だ。剣を捨てたと言うのは……『君らにはそう見えただけ』のこと」
 改めてファサエルが言う。あくまで彼の第一義的な目的は久遠ヶ原学園の捕虜を取ること。それ以外の諸々はついで、枝葉にすぎない。
「それは…… おかしい、と、思う」
 話を聞いて、勇斗が言った。──自ら戦場に出て来たのだろう? モニターに映った悠奈を見て? ならばその行動は明らかに悠奈を動機としているはず。
「……なぜ、悠奈ちゃんを狙うんです?」
 星嵐が問いかける。良い考えだ、と璃遠は思った。ファサエルがその問いに答えることが出来なかったら、アルディエルには『兄』に対する決定的な疑問が生まれる。
「……悠奈ちゃんを引き渡すように、交渉の時に言いましたね? もし、アルディエルの為ということであれば、あの様な手段でなくもっと平和的な交渉も出来たはずです。学園の情報を収集する? 何の為にです? 利用できると考えた? 悪魔との戦いに備えて、学生を…… 悠奈ちゃんや自分たちを手駒にでもするつもりだったのですか?」
「……利用する? 誰が、何を?」
 語りかけながら次々と湧いてくる疑問を叩きつけていく星嵐に。黙って話を聞いていた天使は、だが、心底わからないといった風に眉をひそめた。
 悠奈を通じて人間というものを理解し始めたアルディエルと、人間を資源としか考えられぬファサエルら一般的な天使たちとの価値観の断絶がそこにあった。
 少年天使は激昂した。
「やっぱり悠奈を狙ってたのか!」
 答えはない。つい先程、ファサエルは自らの口で撃退士たちに「分からない」と答えている。
 アルディエルはそれを応と捉えた。恐らく、悠奈のことでなければ、ここまで感情を乱されることはなかったろうけれど。
「まだ人間を下に見ているのか?! 彼等を見たろう?! この僅かな期間にここまで戦える力を手に入れた。いずれ人は天魔だってこの世界から駆逐できるようになる!」
 だからこそ、徹汰は一度、悠奈のことを諦めた。彼女の幸せは、彼女の家族と友人たちの元にあると信じられたから。自分の元に連れ帰るのは『保護』ではなく、ただ自分たちの戦いに彼女を巻き込むだけだと知ったから。
「だというのに、また巻き込むつもりか! 人を手駒にする? いつもそうやって無駄なく、他者を利用することばかり…… どうせリーア姉のことだってそうやって使い潰したんだろう!」
「ルディ」
 静かな声── その瞬間、それまで吠えていた少年がたじろいだように口をつぐんだ。嘆息しつつ天を仰ぐ青年天使。その表情は撃退士たちからは窺えない。
「……もういい。動かぬというならそれでいい。黙ってそこで見ているがいい。……だが、忘れるな、アルディエル。いったい自分が何の為に、何を望んでこれまで戦ってきたのかを」


「行って、悠奈ちゃん! ここは私たちが!」
 大型ライフルと散弾銃を構えた夕姫と縁の指示で、悠奈たち4人は一斉に徹汰の方へと走り出した。
 陽花と小梅、ファーフナーが護衛と『万が一』に備えて共に続き。残った撃退士たちが正面のファサエルへと向き直る。
「アルディエルに対する説得にファサエルが介入しないよう、我々が連携してここで阻止します」
 その手に双銃を活性化させつつ、周囲に檄を飛ばす星嵐。最悪の場合、天使2体を相手取るケースもあるが、その可能性だけは頭の隅に入れておくよう忠告する。
「そうなったらさっさと逃げ出すしかないわね」
 その状況を想像してみたチルルが笑うしかないと言った調子で笑う。
「その時は私が殿に立つわ。……吸収形のスキルで粘ってやるんだから」
「大丈夫ですよ。アルディエルに関しては悠奈ちゃんたちに任せましょう。……結局、最後はアルディエル自身が決めること。自分が本当に守りたいものが何なのか──自分の想いに正直になってくれれば、きっと」
 その顔に微笑すら浮かべて、璃遠が星嵐たちに笑いかける。
 それを複雑な思いで聞いていた勇斗に気づいて、司がニヤリと笑いつつ勇斗の肩に腕を回す。
「しかし、いよいよ悠奈ちゃんも『告白』かあ…… 成長が嬉しいような、悲しいような、複雑な気分だなぁ。なあ、勇斗?」
 勇斗は兄としてあからさまに嫌そうな顔をした。戦闘前に嫌なことを言ってくれるなよ、とむくれる勇斗の姿に、周囲にいた学生たちが生暖かく微笑する。
「そうですね…… ええ、アルディエルの悠奈ちゃんに対する想いを信じましょう」
「そうです、そうです。……とは言え、ファサエル1体の足止めだけでも、物凄くキっツいですけど!」
 それぞれの表情で明るくからからと空に笑って…… 星嵐と璃遠の二人は勇斗と視線を交わし合うと、それを合図にするかの様に直進する司やチルルたちから離れ、パッと天使の左右に散った。光の翼を広げる天使に向けて、走りながら双銃を撃ち捲る星嵐。璃遠もまた靴底を地面に滑らせながら閃破を抜刀。刹那に柄を鞘へと戻しつつ星嵐とは反対側へと回り込んでいく。
「おっと。和んでいられる状況でもないな…… 行くぞ、勇斗! 悠奈ちゃんたちの為に、彼氏を説得する時間を稼ぐ!」
「彼氏」
 叫ぶ司の目の前で、ファサエルは翼を羽ばたかせ、空へ舞う。瞬間、雫が放った『星の鎖』は、だが、天使の足まで届かない。
 ファサエルは大剣を構えながら、空中を一直線に悠奈目掛けて突進を始めた。……そう。ファサエルは知っていたのだ。麗華は思い出す。かの天使は麗華に対してのみ攻撃を仕掛けなかった。そうして「まず最初に確認しておきたい」と訊ねたのだ。「君は榊悠奈か?」ではなく、「君は榊悠奈ではないな?」と──
 それを見た司が勇斗に「先に行く!」と『全力跳躍』で宙を駆ける。
 悠奈たちの所へ飛び込んだファサエルは、悠奈を庇うべく前に出た沙希と麗華をただ一刀にて切り捨てた。盾を構えて振り返る悠奈。魔法を放つ加奈子に構わず悠奈へと突っ込むファサエル。と、突如、悠奈の背後に現れる小梅のアウルの巨大にゃんこ。オラオラと無数のパンチを放つにゃんこのリーチを見切って一歩、天使が後ろへ下がり。その間に横合いから跳び込んで来た司が大剣を天使の見えざる盾に叩きつけ。同様に慌てて駆けつけて来た星嵐が、倒れた沙希を抱き起こしつつ、生み出した闇が周囲を包む……
「おじさんはぁ、どうして戦っているのぉ?」
 見えざる闇の向こうに向けて、小梅がファサエルに呼びかける。その間に悠奈が癒しの風で気絶した2人の傷を癒しに掛かる。
「決まっている。悪魔どもを根絶やしにする為だ。堕天せし天使の少女よ。そのようなことも忘れてしまったか?」
 闇の中から飛び出したファサエルは、その進路をユウへと変えた。慌てず、構えた狙撃銃の引き金を引き絞るユウ。放たれるアウルの銃弾。構わず突き出される天使の大剣。ユウの心臓目掛けて真っ直ぐに突き出されたその一撃は、駆けつけて来た勇斗の盾が受け弾いた。更に横合いから天使に向かって、白光の刃を軌跡に曳きつつ打ちかかっていく雫。そこへ奥義を放つべく突進して来たチルルは、だが、再び見えざる何かにその身を押さえつけられ、接近を阻まれる。
「またなのっ!? やめてよ、背が縮む!」
 とか叫びながらの気合の封砲。しゃかっとそれをかわした天使が魔法の大剣を投げつけながら、空中をフワリと移動して一旦、撃退士たちから距離を取る。
「ありがとうございます。前回に引き続き、また助けられてしまいました」
 ユウはホッと息を吐くと、眼前の雫と勇斗の背中に改めて礼を言った。その声を久しぶりに聞いた気がするのは、学園生であるとは言え悪魔である自分が口を挟んで話が拗れるのを防ぐ為、天使たちとの会話中、ずっと黙っていた為だった。
「申し訳ありませんが、今回もお世話になります。……実力行使に出たファサエルの、足を止めねばなりませんから」

「ファサエルの使っているあの能力…… 恐らく重力操作の類よね? 広範囲に広げることで『重圧』の様な行動阻害系。狭い範囲に圧縮することで防御系の効果、ってところかしら」
「斥力に似たような効果の類も見受けられたな。視界内でのみ効果を発揮するものか、それとも死角は存在せぬのか……」
 まずは確認してみるか、と絃也は無造作に天使へ足を踏み出した。ぐぬぬ……と重圧下で切り結び続けるチルル。背が縮むのは嫌だから(←嘘)、と離れた場所から衝撃波の刃を追い撃つ璃遠と戦いながら、近づいて来た新手に天使がふと顔を向ける。
「あの巨人の言葉を封じたのはお前さんの仕事か、天使? だとしたら随分と小心くさいが……」
 敢えて言葉をかけて天使の注意を曳く絃也。近づくにつれ、その身にも見えざる重みが掛かった。まるで風の中、いや、水の中にでもいるかの様にその動きが重くなる。
「『挑発のつもりか』? 小心ではなく細心と言ってほしいところだな。実際に戦った君たちなら分かるはずだが」
 魔法抜きであの戦闘力。その上、自由に魔法を使われたらいったいどれだけ厄介か。ちなみに、巨人の舌が破壊されたのは戦争中。マリーアデルが詠唱中に巨人の顎をカチ上げたことによる。……いや、『不殺の破壊者』の名は伊達じゃなかった。ファサエルが彼女に惚れたのもその時であったとか。
「他者を愛することもできる人が…… どうして悠奈ちゃんたちをっ、家族を無理やり引き裂こうとするの!」
 そこへ散弾を放ちながら叫ぶ縁。そちらに天使の注意が向いた瞬間、絃也は天使の背後に回り込んだ。結論から言えば、視界外であろうと範囲から逃れるまで効果は続いた。夕姫の予想通り、効果と距離や範囲が反比例するタイプか。他にも何かしらの法則性がありそうだが……
「殺された撃退署の人たちにだって、家族や恋人、友人がいた。私だって、陽花さんのことがどれだけ心配だったことか!」
 縁の銃撃が続く。天使は包囲から逃れるべく、宙に浮いた状態で縁を見下ろす。
「私たちはルディに堕天してほしい。けど、それは彼自身の意思でして欲しい! でも、貴方は強引に奪おうとする。どうして…… どうしてそんな平然と他人の世界を壊せるのかな?!」
 同じだよ、と呟く声が聞こえた気がして、縁は引き金を引く指を止めた。
「……え?」
「自分の意志だろうと、強制された運命だろうと…… 奪われた者からすれば、結局のところは同じこと。……なぜと君は尋ねたが、私にはやはりよくわからない。だが、先ほど彼(璃遠)が言っていたように…… きっと、私にも譲れない何かがどこかにあるのだろう……」

 銃声が響く。縁ではなく、夕姫の。立て続けに放たれた弾丸は枯れた芝ごと大地を抉り。舞い上がった土砂が重力の盾によって宙空へと引き寄せられる……
「今よ! あそこにある『盾』の反対側から攻撃を!」
 夕姫の言葉に応じて背後へ回る絃也と璃遠。思わず振り返ったファサエルを星嵐から溢れた闇が天使ごと押し隠す。
 直前、雫が地から放った鎖が天使の足首へと絡みつき。包囲の為、敢えて真正面から突っ込んだチルルと司が己が得物を叩きつける。
 勇斗の魔具は『盾』だった。その体当たりにバランスを崩す天使。彼は見た。彼の者が持つ盾の横から突き出された銃口を。銃手でありながら勇斗と雫の背後に隠れ、ここまで肉薄してきたユウの一手を──
「──ッ!」
 至近距離からの発砲。とっさに展開した重力の盾でもその軌道を逸らしきれない。
 闇の中から飛び出す刃。殺到してくる撃退士たち。
 ファサエルが彼らに手をかざした。
 それは極めて小さな魔力の発動── だが、その僅かな重力で、撃退士たちは三半規管を狂わされた。軒並み横へと姿勢を崩し、倒れ込む撃退士たち。天使は敢えて闇に沈んだ。彼を地に繋ぐ鎖がカチャリと鳴る……


 激戦の音をその背に負いながら── 悠奈はようやく徹汰の元へと辿り着いた。
 気絶した2人を背に負う馬竜。その召喚主たる陽花と、そして、小梅とファーフナーが周囲へ警戒の視線を飛ばす。
 長かった── 最後に別れたのはもういつの事であったろうか。互いに視線を絡ませる悠奈と徹汰。だが、まだ心にわだかまる何かがあるのか、徹汰は下へは下りてこない……
「……さて、ようやくこうして会えたところを悪いんだけど…… できればまた日を改めて話をしない?」
 いつまでも会話を始めぬ二人に気を使い、えへん、と咳払いをした陽花が呼びかける。その内容に、ええっ!? と声を上げる悠奈。それをまぁまぁと宥めながら、陽花が頭上の徹汰に提案を続ける。
「君とはまだ話したいこともあるし、また改めて場を設けたいの。ファサエルがいない所で、君とだけ。……ほら、悠奈ちゃんも言いたい事があるみたいだし。なんて言うか、こういうのは雰囲気とかも大事じゃない?」
 だから、この場は一旦、退いてくれない? と両手を合わせる陽花に向かって…… だが、徹汰は予想外の答えを返してきた。
「堕天の話だったら……その話はもう、終わった話だ」
 悠奈から視線を外して言う徹汰。またまた驚いた悠奈が意気込んで訴えかける。
「終わってない…… まだ終わってなんかいないよ! 始まってすらいない。だって、私はまだ何も納得なんてしていないもん!」
 叫ぶ悠奈の背後の方から、激しい砲声と打突音が鳴り響いてきた。振り返った皆の視線の先で、追い詰められかけたファサエルの姿──
 徹汰は思わずそちらへ飛び出しかけていた。嫌ってはいても同族だ。それに、と『姉』の死に際の事を思い出す。
 ──姉は笑った。弟に、その苦しみの一切を感じさせずに。そして、こう告げたのだ。「あの人のことをお願いね。とても…… とても不器用な人だから」──
「徹汰くん!」
 己の全てを振り絞るような悠奈の声に、徹汰はビクリと行き足を止めた。
 悠奈には分かっていた。この機会を逃したら、恐らく、きっと、もう二度と徹汰に会える事はない──
「徹汰くん! 私が以前、君とは戦いたくないっていったのは覚えてる?」
「……ああ」
「ずっと一緒にいたいって言ったのは? お兄ちゃんが家族として迎え入れてもいい、って言ってくれたのは?」
「……ああ」
「……私ね、あれから何度も何度も考えた。何がいけなかったのだろう、何が足りなかったんだろう、って。みんなが教えてくれた。徹汰君に故郷を捨てさせる覚悟を強いるなら、私も私の本気を伝えなければダメだって。だから…… これから、私の本気を伝えるね」
 決意の瞳で見上げる悠奈。ただならぬ雰囲気に徹汰も息を呑む。
 沙希と麗華も見たかったろうなー、とぼんやり考える加奈子の前で、悠奈は暫し逡巡し…… 息を呑む小梅や陽花の前で、やがて悠奈が意を決す。
「徹汰くん…… あのね、私と…… 結婚を前提におつきあいしてください!」
「なにぃっ!?」
 遠く離れた戦場で、背後に突っ込みを入れる勇斗。歓声、というかどよめきが悠奈たちを中心に湧き起こる。
「こら、悠奈。徹汰を家族に、ってお兄ちゃん、そう言う意味で言ったんじゃ……」
 天使を放って悠奈の元まで飛んで来た勇斗の異議は、だが、同様にして駆けつけて来た皆の声に掻き消された。
「女の子にここまで言わせて(マジで)、あなたはどうしたいの?」
「アルディエル。君やファサエルの様子から察するに、君はファサエルの指示ではなく、自分の意思でここに来た様に見える。その理由を考えるなら、導き出せる答えは一つだけのはず」
 勇斗の背を押し潰した夕姫の背に、司が乗っかり言葉をかける。思わず抱き合う陽花と縁。チルルが、璃遠がさらに司の上に乗り。目を覚ました沙希に星嵐が微笑みかける。
 徹汰は無言で己の両手を見下ろした。少しずつではあるが、天界の力が抜け落ちていくのが感じられた。
 ……まいった、と呟く。頭が覚悟を固める前に、心と身体が堕天を決意してしまったようだ……

 そんなどんちゃん騒ぎを離れた所から見やりながら、絃也とファーフナーはやれやれと嘆息した。
「ふむ…… 人と天使の恋仲か。互いに酔狂な事ではあるが、それが共生の導となれば僥倖ではあるか」
「……児戯だよ。まるでままごとだ」
 ファーフナーは頭を振った。
 アルディエルの『姉』が愛した男──見かけ通りの冷血漢というわけではあるまい。血の繋がらぬ、懐かぬ弟分を見捨てずにいることからも根は悪い男ではないはずだ。
 ただ、圧倒的に想像力が欠如し、相手の心が読めず、行動が裏目に出るタイプなのだろう。しっかり説明さえすれば、存外、話の通じる相手であるようにも思える。
「アルディエルが彼を嫌っていたのも、子供じみた劣等感からだろう。お子様の人生相談などバカらしいし、過度に他人に介入する主義でもないが…… クソッ、これも仕事の内か」
 ファーフナーは吐き捨てるように言うと、撃退士たちに囲まれた徹汰の方へと歩いていった。ご苦労なことだ、と見送る絃也。いつの間にか来ていた雫が小首を傾げる。
「オジサンにね、徹汰ちゃんのお兄さんなの、って聞いたらぁ、『そのようなもの』って言ってたんだよぉ♪」
「え?」
「ボク、いつかオジサンとも仲良くできる日が来て欲しいと思うのぉ! だって、徹汰ちゃんのお兄さんだもん!」
 喜ぶ小梅の頭にそっと大きな手を置いて。ファーフナーが徹汰の前に現れた。
「さて、小僧。ご機嫌でハッピーなところを悪いが、今後の事を考えるとお前がしておかなければならない事がある」
 潮が退くように静まる学生たち。伏射姿勢で狙撃銃を構えたユウが「闇が晴れます」と皆に告げる。
 ──傷ついた天使が姿を現す。──いつか仲良し。でも、今はダメっぽいかなぁ、と。小梅が笑いを引きつらせる。
「小僧。お前はまず奴と話をつける必要がある。……いつまでも目の前の大きな壁から逃げていてもしかたあるまい。乗り越えなければ、先には進めん」


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:10人

伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
厳山のごとく・
獅童 絃也 (ja0694)

大学部9年152組 男 阿修羅
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
戦ぐ風、穿破の旋・
永連 璃遠(ja2142)

卒業 男 阿修羅
戦いの中で戦いを……・
神棟星嵐(jb1397)

大学部6年70組 男 ナイトウォーカー
Heavy armored Gunship・
月影 夕姫(jb1569)

卒業 女 ディバインナイト
Green eye's Red dog G・
葛城 縁(jb1826)

卒業 女 インフィルトレイター
迷える青年に導きの手を・
彩咲・陽花(jb1871)

卒業 女 バハムートテイマー
Standingにゃんこますたー・
白野 小梅(jb4012)

小等部6年1組 女 ダアト
この命、仲間達のために・
日下部 司(jb5638)

大学部3年259組 男 ルインズブレイド
優しき強さを抱く・
ユウ(jb5639)

大学部5年7組 女 阿修羅
されど、朝は来る・
ファーフナー(jb7826)

大学部5年5組 男 アカシックレコーダー:タイプA