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マスター:柏木雄馬
シナリオ形態:シリーズ
難易度:難しい
形態:
参加人数:12人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/02/15


みんなの思い出



オープニング

 その天使が現れてから1分としない内に、恩田麗華とその友人たちは敗北していた。
 いや、敗北と呼ぶにはあまりにも一方的な蹂躙だった。目の前で次々と倒れ行く仲間たち── 初めて目の当たりにした天使の猛威に、麗華は動くこともできなかった。出来たことと言えば、負傷した仲間を召喚獣で後送したことだけ。兄の敬一が「逃げろ!」と叫びながら符を手に天使に挑みかかり、大剣に斬られて倒れ伏し。思わずその身に覆い被さって庇ったところで、彼女らのささやかな抵抗は終った。
「……まず一つ確認しておく。君は『榊悠奈』ではないな?」
 頭上から声がした。敬一に止めを刺すべく振り下ろされた大剣の刃は、麗華に当たる寸前で止まっていた。
 恐る恐る顔を上げる。涙で滲んだ視界に映る、端正な顔をした天使の姿。綺麗、という感想が、場違いにも脳裏に浮かんだ。同時に、恐怖── 天使の表情は冷酷、というより、麗華に、いや、人と言う種に対して何の感情も抱いていない者のそれだった。
「確認? それって、どういう──」
 言いかけて、声が言葉になっていないことに気がついた。歯の根が合わない。身体が意志に従わない。恐怖で痺れた様に思考が全然回らない……
 そんな麗華の様子に天使は溜め息を吐くと、天使は無言で麗華の胸元に手を突っ込んだ。
「きゃああああっ!? ちょ、どこ触って……っ!」
 天使の手はすぐに引っ込んだ。その手には、胸ポケに入れていた麗華の生徒手帳があった。
「『久遠ヶ原学園高等部2年、恩田麗華』── なるほど、『生徒手帳』とは便利なものだ。以前はこれの所為でアルディエルを学園に送り込むことに失敗したが」
 何か苦笑めいたものを声に滲ませ、天使が呟く。
 麗華はその間に状況の把握に努めた。恐怖に麻痺していた思考は、一度大声を上げたことで再び回り始めていた。
(この天使は悠奈を知っている…… そうか、自分だけ攻撃を受けなかったのは、悠奈と年恰好が近かったからね。一応、確認を取るまでは攻撃を避けたかった…… ということは、この天使の狙いは悠奈。しかも、少なくとも即座に危害を加えることが目的ではない……)
「そう…… 貴方がファサエルなのね」
 麗華がそう断じてみせると、天使は少し驚いた表情をしてみせた。そして、すぐに納得した。
「榊悠奈がアルディエルから得た情報か。ということは、君は榊悠奈の関係者であるのだな」
 天使の言葉に、表情には出さなかったものの麗華は内心、舌を打った。──情報を一つ与えてしまった。……いや、この場合はそれでよかったかも。情報が増えれば相手は悩む。それが決断するに足るほど重要なものでない限り。
 天使ファサエルは麗華などいないかのように無造作に背を向けると、丘の上の展望台の端へと歩を進めた。
 その間に麗華は仲間たちの傷の具合を確認した。投射された大剣に貫かれた友人たちは、気絶こそしているものの体表に外傷はなかった。恐らくあの『投射された大剣』の方は魔法的な何かで、そういった類のダメージを与える性質のものなのだろう。問題は、刃で物理的に斬られた兄、敬一の方だった。恐らく威力は投射より斬撃の方が高いようだ。敬一も気絶する前に治癒膏を使ったようだが、未だに出血は止まっていない。
「小兄。小兄! しっかり! 今、なんとかするからね!」
「……麗華。無事で良かった。ごふっ……」
 血を詰まらせる敬一の口から血を吸い、吐き出しながら、敬一の荷を弄る。ようやく目当ての符──吸魂符を見つけ出し、無理やり敬一に握らせる。
「使って! 私の生命力を吸って!」
「……できないよ、そんな」
「攻撃一つ受けてないから少しくらい平気。って言うか、ここで死なれる方がよっぽど迷惑だから!」
 敬一は妹に攻撃の為の符を使うことを渋っていたが、「あー…… でも、これ、ほっとくとホントに死んじゃうなー」と覚悟を決めてそれを使った。
 貧血を酷くしたような脱力感── 麗華の身体から染み出した光が敬一の身体へ移り…… 再び意識を失った兄の呼吸が楽になったのを見て、麗華もホッと息を吐く……
 一方、展望台の端に辿り着いたファサエルは、丘の上から南の眼下を見下ろした。
 驚いたことに、共に連れて来た巨人──この世界に来る前に異世界で配下にしたシュトラッサー──は撃退士たちとの戦いに敗北したようで、千切れかけた両足と頭部から大量に出血しながら斜面の下に転がっていた。まだ息はあるようだが、自己回復能力で戦線に復帰するにはかなりの時間が必要だろう。
「まさかアレを倒すとは…… 先に戦った撃退署の撃退士たちは随分と弱かったものだが」
 『学園の撃退士』か、とファサエルは呟いた。見れば、丘の麓に散らばっていた撃退署員の数が少ない。学生たちが負傷者を救助の為に連れ去っていったのだろう。
「だからこそ、アルディエルを使って学園の情報を得ようとしたのだが…… しかし、まいった。『駒』が足りない。で、榊悠奈はその『学園の撃退士』の中か」
 ファサエルは悩んだ。本来であれば麗華たちを始末して悠奈たちを追うのだが、相手はあの巨人をも倒した学園の撃退士。最悪の場合、目的の悠奈を取り逃がす恐れもある。その可能性を考えれば、麗華たちはようやく捕らえた貴重な『学園の情報源』。ただ失うのも憚られる。
「とりあえずは、様子見か。学園の撃退士たちがどのような行動に出るか……」
 己の意を託せる手駒さえ揃っていれば、もう少し選択肢もあるのだが── 己の身一つしか動かせぬ自分の立場を思って、ファサエルは丘の上から見やりながら小さく一つ息を吐いた。


 同刻、丘の麓の林の奥──
 撃退署の負傷者を連れた学園の撃退士たちは、一旦、天使の目から逃れられる林の中まで後退していた。
 召喚獣によって丘の上から運ばれてきた負傷者の報告により、天使の出現と麗華たちの敗北という事実は把握できたが…… その後、彼女らがどうなったのかは分からなかった。
 生きているのか? 死んでいるのか? 天使は? その目的は? 戦闘が終った今もまだあの丘の上にいるのか?
「まさか、麗華ちゃんたちを残して帰るなんていわないよね、お兄ちゃん?!」
 妹・悠奈とその友人、沙希と加奈子の詰め寄りに、勇斗は「当たり前だ」とそう答えた。
 答えこそしたものの…… 勇斗は状況の不利を認識せざるを得なかった。見渡せば、横たわる撃退署の重傷者たち── 転移装置による跳躍は学園から戦場への一方通行。つまり、この場を離れるなら歩いて行かなければならない。更には、まだ息のある巨人の存在がある。天使が到達するまでに殺し切れるかどうか分からなかったので、放置してきたのだが、最悪、アレが再び動き出す可能性も考慮に入れねばならない。
(できるなら、悠奈たちだけでも離脱させたいところだが…… 本人たちは承知しないだろうしな)
 呻く勇斗。これまでの諸々のいきさつから、妹も一人前の撃退士として信頼すると決めた。信頼するとは、即ち、一人前の撃退士として扱うということだ。
「人手が足りない。悠奈たちにも働いてもらうぞ」
「勿論だよ!」
 勇斗の言葉に真剣な顔で頷き合う悠奈たち。もっとも、勇斗個人としては危ない場所に出すつもりはなかったのだが……
「とは言え、どうしたものか……」
 遠く丘を見やって呟く勇斗。なんにせよ、彼らには情報が少な過ぎた。

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リプレイ本文

「そうか…… 陽花さんに小梅ちゃん、敬一さんに麗華ちゃんまで……」
 榊兄妹が巨人を見つけたと聞いて、増援に駆けつけた日下部 司(jb5638)は、多くの負傷者が横たえられた林の中で、神棟星嵐(jb1397)から厳しい状況を聞かされ、言葉を失った。
 偵察班の内、帰還し得たのは葛城 縁(jb1826)ただ一人。気絶した彼女を運んで来た彩咲・陽花(jb1871)の馬竜(スレイプニル)は、無事に送り届けた直後に消えた。
「陽花さん……」
 意識を取り戻した時、事情を聞かされた縁は愕然とし、すぐに助けに行くと言い出した。
 それを止めたのは友人の月影 夕姫(jb1569)だった。ふらついた縁を正面からがっしと抱き止め、小声で縁を叱咤する。
「落ち着きなさい。悠奈ちゃんたちが見ている」
 陽花たちは絶対に助ける── そう告げる夕姫に、縁は大きく息を出し入れすると、感謝と謝罪の言葉を伝えた。
 以降、縁は取り乱した様子を見せてはいない。時折、その肩を震わせ、指先が白くなる程に銃を握り締めたりするけれど……
 そんな縁の様子にいたたまれなくなって、勇斗はその場を離れて林の端へと向かった。
 そこには、地に伏せ、木立の陰から双眼鏡で丘の様子を窺う永連 璃遠(ja2142)と、突撃銃を手にその護衛についた増援のファーフナー(jb7826)とがいた。
「どうです、様子は?」
「相変わらずです」
 璃遠の返事に、勇斗もまた双眼鏡で丘の様子を確認した。麓には瀕死の巨人と、戦死した撃退署員たちの遺体── 激戦の跡が残る斜面を越えると、丘の上から周囲を窺う天使が見える……
「……巨人が倒されたのに撤退するでもなく。森の方に来るでもなく…… 天使があの丘に留まり続けている、その理由……」
 小声で呟くようにしながら、ただ冷静にファーフナーが状況を推察する。
「そう考えると、丘の上の連中は生きている可能性が高いか……」
「ええ。少なくとも存命している…… と僕も思います。それ以外に、あの天使があそこに留まっている理由がないですから」
 皆の所に戻って璃遠がその推測を伝えると、縋る様な表情で悠奈が身を乗り出した。
「本当ですか……っ?!」
「絶対とは言えませんが……」
 言葉を濁す璃遠。情報が少なすぎるのだ。今が現状からある程度推測するしかない。
「確度の高い推測ではある。死体では利用価値がないからな」
「死……っ」
 絶句する悠奈たちをよそに、ファーフナーは皆に今後の展望を問うた。
 彼我の取れる選択肢は、実はそれほど多くはない。現場を離脱し状況を終了させるか、何らかのアクションを起こして事態を先へ進めるか…… 現状維持も選択肢の一つではある。現在の膠着状態の所以であるが。
「敵を生かしておく理由は幾つかある。……人質として利用するつもりなら、何か交換条件を突きつけて来るかもしれない」
 ファーフナーの推察に、璃遠もまた同意した。
「理想としてはあの巨人の身柄をこちらの手札にしたいところですが、天使にとってそれほど価値のあるカードかどうか……」
「いや…… 以前に遭遇した時のことを思い返してみると、あの巨人が高い知性を備えている可能性も十分ある」
 悠奈と徹汰が山中の洞窟に閉じ込められた時。そして、徹汰=アルディエルと共に撃退署を急襲して来た時…… あの巨人は時折、知能があるような戦いをしたことがある。魔法の使い方もそう。武術もそうだ。
 司のその話を聞いて、獅童 絃也 (ja0694)は先程の巨人の戦いを思い出していた。撃退士たちの猛攻の前に遂に倒れた巨人が見せた、あのどこか理性的な瞳を……
「高い知性を持つのなら、それはサーバントでなくシュトラッサー── 己の力を分け与えた存在なら、十分、交渉の手札にはなると思います」
「だったら……」
 と、それまでジッと座り込んでいた縁が顔を上げた。
「だったら、こちらから交渉を仕掛けてみよう。私が陽花さんのスマフォに連絡を入れてみる。天使も側にいるだろうから、そこで交渉の段取りをつければ……」
 だが、勇斗には懸念があった。
 まず、天使の目的が分からない。戦力も分からない。
 情報が少なすぎるのだ。敵は単騎か? 増援の有無は? 或いはこちらを殲滅しうる罠を用意して待ち構えているのではないか? 動く前にまず情報を収集するべきではないのか……?
「確かに悩み所です。ですが、時間も迫っています。……丘の上の人たちの安否も心配です。今は無事でも……」
「ここで考えてても……もとい、待っててもしようがない! こっちからアプローチしてみないと!」
 璃遠の言葉に続いて、それまで黙っていた雪室 チルル(ja0220)が勢い良く跳び起きた。元々、考え込むのは苦手な性質(タチ)だ。方針は決まってくれた方が分かりやすい。
「縁さんの情報から察するに、あの天使の能力はアルディエルと比べても更に上です。こちらの能力にしても、あの巨人を倒したことで警戒されているかもしれませんよ?」
 救急キットを片付けながら、ユウ(jb5639)が真剣な表情でチルルに訊ねる。
 それがどったの? とチルルは答えた。己より強い敵に会いに行く──それはチルルにとってわくわくの原因になりこそすれ、怯む理由にはならない。
「……だ、そうですよ?」
 返事を確認したユウは、常の微笑を浮かべて振り返った。
 その顔には決意がある。仲間の無事を確認しなければならない。そして、無事であるならば必ず救助しなければ。
「……分かりました。あの天使に対して捕虜交換の交渉を試みましょう」
 撃退士たちはすぐに作戦方針を確認し合い、手早くその準備に入った。
 ──まずはあの巨人の元へ行って身柄を押さえる。天使が丘から下りて来るようならば、そのまま交渉ないし戦闘。その間に迂回させておいた別働隊が丘の上の人質を救出し、全員でこの戦場を離脱する。
 下りて来なければ交渉を呼びかける。なんとか人質たちから天使を引き離し、救出する隙を作り出さなければならない。
「……上手く交渉の席に着かせられれば良いのですが」
 魔具魔装を点検しながら、雫(ja1894)が小声で呟いた。これまで無言だったのは、チルルと違い、単に無口だったから。ちなみに、雫の左右に絃也とファーフナーとが座ると、その一角には物凄く静かな空間が出来上がる。
「戦闘時間が長くなるほどこちらはジリ貧になります。最悪でも『折衷案』は飲ませなければなりませんね……」


 同刻。丘の上──
 意識を取り戻した陽花は暫し木漏れの空を見上げ…… どうやら自分はまだ生きているらしい、とその事実を確認した。
 気を失ったふりをしながら、己の状況を確認する。
 痛みはない。生命力こそ削られたものの、どうやら傷はなさそうだった。虜囚の身。巫女服の帯で後ろ手に拘束されている。白衣と緋袴が少しはだけかかっていたが…… まぁ、バイトのグラビアに比べたらそう大した問題でもない。
(はふ…… 殺されなかったのは運が良かったけど…… 捕まっちゃうなんてねぇ)
 とりあえず、己の身に深刻なダメージがないことを確認してホッと息を吐いた。
(縁は無事に逃がせたみたい。勇斗くんにも心配かけちゃうな。……心配してくれているよね? 心配してくれてるといいなぁ)

 そんな陽花の前方には、地面に座らされた麗華と白野 小梅(jb4012)がいた。共に虜囚の身であり、陽花と同様、己の魔装──バトルセーラーのスカーフで後ろ手に縛られている。
 その様な状態にも関わらず、小梅は麗華を背に庇うようにしながら、丘の端に立つ天使の背中に威嚇するような唸り声を発していた。曰く──
「このムッツリめぇ。生徒手帳にかこつけて麗華ちゃんの全身をまさぐる(注:妄想)なんて、ガチ許すまじ……!」
 と、丘の周囲を見回していた天使が唐突に振り返り。瞬間、チルルの視線は怯えた無力な子供に変わった。まさに早業。内心、凄いなぁ、と麗華が感心する。
「お、おじさん、ファサエルって言うの……? ボク、小梅ぇ。おじさん、徹汰ちゃんのお兄ちゃんなのー?」
 ガクガクと震えながら、怯えた声で訊ねる小梅。密着している麗華にはその震えが伝わった。ハッとする。この震えも果たして演技なのだろうか……?
「兄……? 正確には違うが、まぁ、そのようなものだ」
 愛想の欠片もない表情で答え、再び天使が丘の下へと視線を振る。
 沈黙…… どうやら天使にはそれ以上会話を継続する意志がないらしい。
「ねー、おじさん」
 小梅はめげなかった。
「殺さないんだったらさー、麗華ちゃんを解放してくんない? 交渉役として」
「なっ?!」
 その提案に驚いたのは、天使ではなく麗華だった。冗談でしょ、私だけなんて! と顎で小梅をガクガク揺さぶる。
 勿論、小梅の真意は異なる。小梅が企図したのは仲間の為に救出対象を減らすこと。そして、こちらの情報を届けることだ。
「それに、ほら、おじさん、一人だし。捕虜がいっぱいだと手が足りなくて大変でしょぉ?」
 小梅がそう言葉を向けると、天使は問題ない、と答えた。1人で4人を制圧するなど朝飯前だと言う事か。
「……それに、現時点でこちらは最低限の目的は達成している。このまま状況が終了しても構わない」
「目的……?」
「人類の最大戦力──久遠ヶ原学園の情報を収集する為、学生撃退士を捕獲する。アルディエルが執着している榊悠奈であればなお良いが、必須の条件というわけでもない」
 ……今度の沈黙は、天使ではなく、撃退士たちがもたらした。
 固唾を呑む。即ち、それは、今、この瞬間にでもこの天使の気が変われば、『自分たちが』ゲートに拉致される可能性もあるということ……!
 緊迫する空気の中──
「わひゃあっ!?」
 突然、その場の雰囲気にそぐわない陽気で呑気な音楽──大喜利ご長寿番組的というか、20時で全員集合的というか──が鳴り響き。発生源たる陽花は驚いて声を上げた。
「なにこの緊張感の欠片もない音楽はっ……って私のスマフォだよ!」
 思わずツッコミを入れてから、「あ……」と我に返る陽花。そう言えば気絶したふりをしてたんだった。麗華ちゃんたちはともかく天使はまったく驚いていないけど。
「なんだ、それは?」
「えーと、通信機的なアレというか…… 多分、私の仲間からの連絡だと思うんだけど、この状態じゃ出れないし、出るんなら拘束を解いてくれるとありがたいんだけど……?」
 天使の許可を得て電話に出る。着信音で分かっていたが、相手はやっぱり縁だった。
「もしもし、縁? うん、こっちはみんな無事。ってこともないか、捕まっているんだし…… え? 緊張感が足りない? って、ちょっと、泣かないでよ(汗」
 それから暫し他愛もない会話が続き…… 電話の向こうに促されて、陽花はスマホを天使に差し出した。
「仲間が交渉をしたいって。上の方に耳を当てて…… 下の方に喋れば声が向こうに届くから」


「悠奈ちゃんたちは引き続き、負傷者たちの護衛と応急手当をお願い」
 電話による交渉の始まる少し前── 出発準備を整えると、縁は悠奈たちにこの場に残るよう指示を出した。
「適材適所。分かっているよね?」
 縁は言ったが、流石に悠奈たちもそれが自分たちをこの場に残す為の方便だと気づいていた。あの天使を相手に人数を分ける余裕はないはず──そう反駁してみるものの、交渉に行くだけだから、と言われてしまえば何も言えない。
 納得はしていないが理解はした──そんな様子の悠奈たちに夕姫は頷くと、勇斗に小声で釘を刺した。
「悠奈ちゃんたち、あの様子だとこっちの状況次第では飛び出しかねないわ。何としても止めて」
「……僕も納得したわけじゃないんですが」
 その返事に夕姫はガッと肩を組んだ。頭をぶつけるようにしながら、さらに小声で勇斗に伝える。
「……最悪の場合、ここのみんなを連れて逃げて」
「っ?!」
「……そんな顔をしない。勿論、皆で一緒に帰るわよ? 麗華ちゃんを助けて、みんなを助けて、悠奈ちゃんとも無事に全員で一緒に学園に帰る。……必ずね」
 さて、それじゃ行くとしますか、と。チルルが大きく伸びをする。立ち尽くす勇斗から離れる夕姫。司と星嵐の2人は既にこの場を離れ、林の中を迂回しながら、丘の向こうへ移動を始めている。
「縁。陽花のことも心配だけど…… 縁も無茶はしないでね」
「分かってるよ。夕姫さんこそ」
 撃退士たちは互いに無言で頷き合うと、丘の麓に倒れた巨人の元へ向かった。
 天使は下りて来なかった。……その口元が動いている。誰かと会話をしているのか?
 巨人の状況を確認すると、チルルはいつでも止めを刺せるよう、巨人の喉元へ刺突大剣を突きつけた。
「……まるっきり『悪役』だよねぇー」
 なんか元気にチルルが零すと、同様に直剣をかざした璃遠もまた笑うしかないといった風情で苦笑を返した。
「それを言っちゃ元も子もないって言うか…… でも、言葉が通じるようなら、情報が得られるかどうか話してみたいけど…… この分じゃ無理でしょうね」
 この状況でもまだ一言も言葉を発しない巨人。絃也は無言で巨人の顔の正面に歩み寄ると、その腰と肘を落として拳をそっと巨人に向けた。
「言葉が通じるか疑問だが…… 俺の名は獅童絃也。貴様を討つ者だ」
 構え、気を練り上げながら、巨人に声を掛ける絃也。それを見たチルルと璃遠が無言でその様子を見守る。
 巨人は、先の戦いの折と同じ、理知的な瞳で絃也を見返していた。……改めて確信する。この目は、己の運命を受け入れた者の、諦観にも似たそれだ。
「名があるなら教えてくれんか。戦士、闘士として、己が討つべき者の名を知っておきたい」
 その言葉に反応したのか。それまで一度も反応を見せなかった巨人の喉が低く唸る。
 反応した…… こちらの言葉は認識している……? それでも言葉がないというのは…… もしかして、話すことができないのか……?
「もしもし? さっきまでそっちにいた赤毛の女だけど?」
 その間に、陽花に電話を掛けた縁が天使を呼び出し、交渉に入っていた。
 捕虜交換の交渉がしたい、と言うと、天使は交渉人を一人、派遣するよう指示してきた。
 それを、縁のスマホの耳元に顔を寄せて聞いていた雫は、手信号で×を作って見せた。一人で敵の本陣に乗り込むなんて…… 最悪、人質を増やすだけの結果になりかねない。
(一方的に有利な状況下での交渉は受け入れられない。互いに捕虜を得ている現状、立場は対等のはず……)
 雫はメモ帳にペンを走らせると、ここと丘の中間地点を交換場所に指定するよう伝えた。
 その条件を聞いた天使は、逆にこの場を── 巨人の側を交渉場所に指定してきた。それは即ち、巨人をすぐに助けられる場所に己の身を置くということ。だが、同時にそれはこれだけの数の撃退士の前にその身を晒すということであり──
(なんていう自信…… これだけの撃退士を前に、少なくとも負けないつもりだなんて)
 或いはそれも交渉の手の内か。暫し考えた後…… 雫はその条件を了承する。
「そちらは人質は連れて来るの?」
「勿論。我が剣の届く範囲に」
 縁は頷くと、凄みを隠してこう伝えた。
「それじゃあ、ご来訪を楽しみに待つんだよ。……大事な話は顔を合わせて、が基本って私は教わったから」

 電話が切れると、天使はスマホを陽花に返し、人質は2人だけ連れて行く、と告げた。
 連れて行くのは麗華と…… 麗華の側にいることを強行に主張した小梅とが選ばれた。
 移動の間際、視線で兄・敬一の事を頼む、と伝える麗華。陽花は頷いた。いや、むしろ、こちらの安全はこれで確保されたと言って良い。

「天使が来ます」
 人質を連れて丘を下りて来る天使に気づいて、ユウが皆に報告をする。
 人質の数は2人── その中に陽花の姿がない事に気づいて、賢しげなことを、と夕姫が軽く目を細める。
 ファーフナーは表面には出さず慎重に天使の表情を観察し…… こちらが巨人に得物を向けているのを見ても眉一つ動かさないのに気がついた。厄介な相手だ、と改めて認識する。この様な相手はシカゴ時代にもなかなか見かけられたものではない。
「互いの捕虜を交換し、もってこの場の停戦となす。以上、内容に相違ありませんか?」
 鷹揚に、だが、その実、まったく感情の篭らぬ表情で、天使がそれに合意する。
 だが、それで終わりではなかった。
「では、巨人の交換条件として、『白野小梅』を解放しよう」
 なに? と聞き返す撃退士たち。絃也とファーフナーは無言で溜め息を吐くと、さりげなく姿勢を動かし即戦の準備に入る。
「巨人との交換に、『白野小梅』を解放した。『恩田麗華』も解放するなら…… そうだな、こちらは『榊悠奈』を引き渡してもらおうか」
 榊悠奈の名を知る天使── なるほど、お前が『ファサエル』か、とファーフナーは相手のその言動からその正体を看破した。
 空気が変わる。互いに目配せする撃退士たち。やはりか、と璃遠は心中で呟いた。こうなったらどうにかしてこの天使を退かせるしかない。何としても捕まった皆を救出しないと……!
「あなたが悠奈ちゃんに拘るのはなぜ? アルディエルに言う事を聞かせる為? それとも、兄心?」
「榊悠奈を連れ帰ってどうするつもりだ? 天使にとって人間は家畜以下…… 弟に犬か猫でも与えるような感覚なのか?」
 夕姫が疑問をぶつけ、会話で天使の注意を引く。ファーフナーもそれに乗っかった。撃退士たちがジリジリとその位置を変えていく。
「人間の感情を狩る生き物の割りに、身近な者の感情には無頓着と見える…… しかし、アルディエルにとって、悠奈は家畜なんかじゃないぞ。その様なことも分からぬから、弟の反発を招くのだ」
 我ながら偉そうなことを言っているな、と思いながら、ファーフナーは己の言動に内心で苦笑した。感情? 誰よりも自分がそれを憎悪と焦燥に塗り潰されているというのに。
「弟に言う事を聞かせる為…… 確かにそうだ。アレには立ち直って貰わないと手が足りない。だが、それが必須でないのも事実。それを兄心と問われると自分の中でも不明瞭だが」
 感情に無頓着…… 確かにそうなのだろう。自分には、君たちが何を言っているのか、さっぱり分からないのだから。
「さて、そろそろ本題に戻りたいのだが。恩田麗華と交換に、榊悠奈をこちらに引き渡すか否か」
 撃退士たちは互いに目配せをした。答えは最初から決まっていた。問題はタイミングだけだった。
「……悠奈ちゃんなら、忙しくてここには来れないよ」
 縁の答えに、天使はふむと頷いた。
 そして、巨人にこう言った。
「守りを固めていろ。……私がこの連中を排除するまで」


 交渉が決裂した瞬間── 絃也は己の身に巡らせていた闘気を一気に解放させた。
 ドンッ、と震脚で踏み込みつつ、同時に振り上げた拳を巨人の眉間へと振り下ろし。叩きつけられた衝撃は巨人の頭蓋骨を『徹し』てその中の脳を揺らす。
 ほぼ時を同じくして、璃遠とチルルもまたその刃を巨人の急所へと突き入れた。直後に放たれる雄叫び── 鼓膜どころか身体すら振るわせるほどの音の暴力。至近にいた3人が思わずその耳を押さえる。
「殺には届かぬか──!」
 止めは刺せなかった。絃也はすぐに巨人から天使へと向き直る。その目に映るは、振り上げられた魔力の大剣── 巨人を助けるべく放たれた攻撃は……まず絃也に向けて放たれた。
 大剣の形をした見えざる魔力の塊にその身を貫かれ、不沈を根に張る男の足が、一瞬、大地から引き剥がされる。散開、と叫びながら、その背を巨人に乗せて向こう側へと転がる璃遠。一方、チルルは攻撃が来る来ないに関わらず、天使に向かって真正面から一直線に突っ込んでいる。
 ただの一撃で生命力をごっそり削られた絃也は、だが、その背を巨人に寄せながらも大地に足を踏ん張った。無茶苦茶になったアウルの流れの無事な部分に闘気を通し…… ただ一撃で死線に届く、その戦場へと再び戻る。
 天使は「交渉は決裂したか」と呟き、大剣を背後へ──麗華が立つ空間へと降り下ろした。
 だが、そこに麗華はいなかった。その切っ先の先には、小梅に引っ張られた麗華の姿。小梅の拘束はいつの間にか外れていた。驚く天使。マジックの種は、拘束していた魔装を一旦、ヒヒイロカネに戻し、再活性化しただけなのだが。
「んじゃ、まったねー!」
 麗華の手を握って天使から距離を取る小梅。置き土産として不意打ち気味に『異界の呼び手』──空間から現れた無数の腕で以って天使をその場に『束縛』する。
「貴重な時間を…… 感謝します」
 天使から遠く離れた場所に射点を取り、射撃姿勢を取ったユウが狙撃銃を発砲した。直撃し、天使の頭部を弾く銃弾── 行ける。自身の闇の力はあの天使にも痛打となり得る。再び発砲── 血を流した額を狙って再度放たれたアウルの銃弾は、だが、見えざる何かに曲げられたかのようにその弾道を『逸らされた』。外した? いや、何かの力に『受け』られたのか……?
 スコープの向こうで天使の視点がユウを捉えた。振り上げられる魔力の大剣── その投射を阻止しようと十字砲火で放たれた夕姫の銃弾も、だが、ユウのそれと同様に曲線軌道で逸らされる。
「だったら……!」
 夕姫は敢えて天使から照準を外すと、その手前、地面に向かってアウルの銃弾を浴びせかけた。ボッ、と着弾すると同時に舞い上がる土の破片。それが天使の前面、見えざる何かに引き寄せられる様に集まって押し潰される。
 それが何かと考える間もなく、夕姫は魔具を蒼海布槍に換装しながら天使へと突っ込んだ。阿吽の呼吸で発砲し、支援の銃撃を浴びせる縁。放たれた散弾の網もまた、その外縁部は外へと弾かれ、中央は土塊と同様に空中で見えざる何かに絡め取られる。
「気をつけて、夕姫さん。何かしてる!」
「ええ!」
 夕姫は答えると、布槍を本体ではなく、天使の視界を遮る様に振るった。展開される布の帳。それを突き破るように突き出された大剣を、夕姫がとっさに盾で防ぐ。
 そこへ敢えて雄叫びを上げながら一直線に突っ込むチルル。天使が反撃の手を止め振り返り、直後に圧し掛かってくる強大な重圧── その力に奥義を使用するタイミングを失ったチルルは、だが、足を踏ん張りながら攻撃を『封砲』に切り替えた。突き出した剣先から放たれる白光のエネルギー波と輝く細氷── その奔流の只中を突っ切って来る天使に「嘘ぉ!?」と驚愕しながら、それでもチルルは一歩も引かずその剣を打ち合わせる……

「やはり戦闘になりましたか……」
 響き渡る銃声と、打ち合わされる金属音── 負傷者の回復へと走りながら、雫は呟いた。
 まぁ、元々、互いに信用していない両者の交渉だ。こうなるのもむべなるかな、といったところか。
「けど、まぁ、最悪ではありません。……交渉で、こちらも十分に時間は稼がせてもらいましたから」

 同刻。丘の上へと続く斜面──
 戦場の反対側へと回り込んだ星嵐と司の2人は、撃退署員たちの死体が転がる殺戮の場を踏み越え、丘の斜面を登っていた。
 己が発する音と気配を断ち切り、丘上の様子を窺う星嵐。敵がいないことを確認すると、手信号で司を呼ぶ。それに応じ、周辺警戒を星嵐に任せて、低い姿勢で一気に丘を駆け登る司。辿り着くや星嵐と背中を合わせ、周囲に警戒の視線を振りながら司が星嵐の肩を叩き。今度は司に警戒を任せた星嵐が丘へと上がり、『忍法「霞声」』へと集中する……
「敬一さん、無事ですか、敬一さん」
 まず最初に呼びかけた敬一に反応はなかった。意識を失っている。重傷だが息はある。
 続けて声をかけられた陽花は、その瞬間、むくりと起き上がった。一瞬、びっくりした星嵐だったが…… それがその場に敵がいない合図と気づいて司と共に側へと駆け寄る。
 陽花ははだけた巫女装束を再活性化で整え直すと、よっと言って立ち上がった。さりげなく視線を逸らす司と星嵐。いや、魔装の下には普通の服も着てますですヨ?
「みんなは無事、助け出せた? なら、ここは逃げの一手だね。悔しいけど、今、戦っても被害は増えるばかりだから」
 一方、まったく照れも見せず、先導して丘を下る陽花。麓の戦闘は、苛烈という事場の端緒に差し掛かっているように見えた。

「みんな、遅滞戦闘を優先! 林まで徐々に退くよ!」
 敵の天使と打ち合いながら、チルルが皆に激励の声を飛ばす。己と打ち合える人間の存在に「これが学園の撃退士か」と驚愕と納得を同時にしつつ、その翼を広げて空へと舞い上がろうとした。
(空へと上がられたら、近接組は一方的に空から攻撃を投げ下ろされる──!)
 雫は一旦、回復を中断すると、『星の鎖』を敵へと放った。直後、天使を捉えるべく地面から伸び放つ無数の鎖── それを振り切り、空へと舞い上がろうとした天使は、だが、直後、ユウの放った弾丸に頭を抑えられ、鎖に地面へ引き摺り下ろされる。
 飛行能力を奪われた天使は地面に着くや否や地面を転がり、ユウをその射程に収めた。ハッと気づいたユウは闇の翼を広げて後方へと飛びずさり…… 直後、放たれた魔法の大剣にその身を貫かれ、地面に落ちる。
「ユウさん……っ!」
 更に距離を詰め、止めを刺そうと接近を続ける天使に、雫は横合いから突っ込んだ。アウルの残滓が粉雪の様に舞う中、軌跡を描いて薙ぐ蒼月の刃── 行き足を止められた天使の前に夕姫が回り込み、その盾ごと突っ込んでユウから敵を押し返す。
 地面に繋ぎとめられている間に、と、ファーフナーは天使の背後に回り込むと、長大なその黒き槍の石突を地に突き、その左手を敵の翼へかざした。瞬間、ファーフナーの脳裏にイメージされる目標の未来予測位置── その直感を信じて目を見開いたファーフナーの左腕から、黒き鞭状のアウルが湧き出し、何もない空間、そこへとスライドして来た敵の翼を連撃でもって打ち据える。
 一方、雫はその追撃には加わらず、直撃を受けたユウを回復すべくそちらへ走った。その魔法的なダメージはただの一撃でユウを気絶域にまで追い込んでいた。放っておけば重傷もあり得る。
 すぐに癒しの力を活性化し、回復活動に入る雫。それを見た天使は攻撃目標からそちらを外す。
 その視線を向けられた璃遠は、敵の大剣のリーチを見切り、ギリギリの所で閃破を抜刀。衝撃波の刃を放って天使を削りながら、敵の側面、背後へと円を描くように回り続けた。
(こいつはキツい……けどっ……!)
 息が上がる。だが、足は止められない。ただ一撃。ただ一撃を貰っただけで、自分もまた一発で気絶域まで持っていかれかねない……!

「加勢します。陽花さんは小梅ちゃんと麗華ちゃんを連れて、迂回しつつ勇斗たちに合流を」
 丘を下りつつ戦場の様子を確認した星嵐は、陽花にそう告げてその進路を変えた。
 突入して来る新手に気づいた天使は、その重量を増した大剣による一撃でチルルを弾き飛ばすと、新手へと向き直る。それを受け、星嵐は闇の十字架を敵へと落とした。そのまま横へと進路を跳び変え、双銃を撃ちまくる。
 圧し掛けられた十字架による『重圧』を、だが、天使はものともせずに距離を詰める。瞬間、その星嵐を中心に闇が湧き出し、周囲を黒の帳が覆う。
 天使は構わずそこへと飛び込み、刃を一閃させながら突き抜けた。
 その先に司がいた。振るわれた刃をかわさずに敢えて帷子で受け止めて…… 予想以上に重い一撃にその眉をひそめながら、だが、喰い込んだ敵の刃を押さえる。
「……貴方の動きには正直、ついていけそうにない…… この瞬間以外はね!」
 司のその叫びと同時に闇の中から浮かび上がる人影。それは口から呼気を吐き出しながらその腰と肘を落とし、その全身、身の内にアウルを駆け巡らせる。
 同時に、気絶していたはずのユウがその身をガバッと起こし、素早く伏射姿勢を取って照準する。己の抱える闇の力に甚大な被害を予測していたユウは、『死活』を用いて予め気絶を防いでいたのだ。
「ただでは沈まん…… この一撃、押し通す……!」
 絃也は右脚と右拳を振り上げると、それを同時に振り下ろし、天使の頭を叩き下ろした。同時に放たれるユウの銃弾。直撃を受けた天使の上半身が、カウンター気味に入って大きく仰け反る……


 次の瞬間。天使は己に纏わる全てのものを、見えざる何かの力によって『引き』倒した。
「ここまでやるとはな、学園の撃退士たちよ!」
 叫び、大剣を掲げながら、ユウへと歩み寄る天使。周囲から放たれた銃弾は、再び見えざる何かに逸らされた。大剣を手に、ユウの前に立ち塞がる雫。その雫に天使の大剣が振り下ろされ……
 甲高い金属音と共に、その剣戟は阻まれた。受け止めたのは、勇斗の盾だった。いつの間にか、悠奈たちも林を出て天使を取り囲みにかかっている。
「なんで、ゆ……っ!」
 思わず叫びかけた縁と夕姫が名前を呼びかけ、口を塞ぐ。
 璃遠はハッとし、天使に聞こえるように叫んだ。
「増援だ! 学園に増援を呼びに戻っていた学生たちが帰って来たぞ! 学園の精鋭たちがもうじきここにやって来る!」
 その言葉の内容に、流石の天使も眉をひそめた。
「欲張って全てを失う、か…… なるほど、良い教訓となった」
 撤退も脳裏に描き始めた天使ファサエルは…… だが、遠い空を見上げて小さく笑うと、巨人の前に立ち塞がり、地面に大剣を突き立てた。
 遅れて空を見上げた撃退士たちに浮かぶは、苛立ちか、或いは、絶望か。ただ一人、悠奈だけがその表情を輝かせる。
「ファサエル…… それに、榊悠奈…… なんなんだ、いったい、この状況は……?」
 その場にいる全ての視線の先で。到着したアルディエルが呟いた。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:13人

伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
厳山のごとく・
獅童 絃也 (ja0694)

大学部9年152組 男 阿修羅
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
戦ぐ風、穿破の旋・
永連 璃遠(ja2142)

卒業 男 阿修羅
戦いの中で戦いを……・
神棟星嵐(jb1397)

大学部6年70組 男 ナイトウォーカー
Heavy armored Gunship・
月影 夕姫(jb1569)

卒業 女 ディバインナイト
Green eye's Red dog G・
葛城 縁(jb1826)

卒業 女 インフィルトレイター
迷える青年に導きの手を・
彩咲・陽花(jb1871)

卒業 女 バハムートテイマー
Standingにゃんこますたー・
白野 小梅(jb4012)

小等部6年1組 女 ダアト
この命、仲間達のために・
日下部 司(jb5638)

大学部3年259組 男 ルインズブレイド
優しき強さを抱く・
ユウ(jb5639)

大学部5年7組 女 阿修羅
されど、朝は来る・
ファーフナー(jb7826)

大学部5年5組 男 アカシックレコーダー:タイプA