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マスター:ガンマ
シナリオ形態:ショート
難易度:易しい
参加人数:6人
サポート:4人
リプレイ完成日時:2014/07/13


みんなの思い出



オープニング

●しあわせはんたー
 いつもの変わらぬ久遠ヶ原学園。天気は快晴、七月の眩い暑さが燦然と降り注ぐ。
 その日、シロツメクサが生い茂る校内の中庭にクリスティーナ・カーティス(jz0032)が蹲っていた。気分でも悪いのだろうか――?否、違う、よくよく見てみれば、何かを一心不乱に探しているようだ。
「うむむ……」
 険しい表情。瞬きすらもしないほどに凝視の捜索、文字通り草の根を掻き分けて。
 一体全体どうしたのだろう?そう思っていると、こちらの気配に気付いたらしい彼女が振り返っては立ち上がる。
「四葉のクローバーが見付からんのだッ!」
 くわっ。
「四つの葉を持つシロツメクサ……通称『四葉のクローバー』は幸せを齎す奇跡の存在なのであろう。私は生涯において四葉のクローバーというものを見た事がない。故に、一度見てみたいのだ。絵や写真ではなく、本物の四葉のクローバーを」
 いつもは棄棄にデタラメな情報を吹き込まれトンデモビックリ論を展開する彼女であるが、珍しくマトモな知識である。
「しかも……聞いたところによれば、五つ葉や六つ葉なるものも存在するらしいではないか。凄まじい……不思議だ……実に……!」
 感無量といった様子である。そんなクリスティーナの羽にテントウムシが留まっている。
「皆、宜しければ私の四葉のクローバー探しを手伝ってはくれまいか? 探さずとも、見つけ方のコツを教えてくれるだけでも良い。私は見てみたいのだ……幸せの象徴とやらを」
 是非とも頼む、とシロツメクサの中で拳を握り締めるクリスティーナ。羽の天辺まで上ったテントウムシが空に飛んだ。


リプレイ本文

●10万分の1の祝福
 四つ葉のクローバー。
 いつからか、いつのまに、何故だか誰もが知っている、幸運のシンボル。
 中には、五つ葉や六つ葉やそれ以上あるとか……。
 兎角、その幸運の象徴を一緒に探してくれ、というのが、クリスティーナ・カーティス(jz0032)からの頼みであった。

 四葉のクローバーか……

 口調こそ様々だけれど、幾人もの似たような声が重なった。
「あー、さがしましたよ。小学生のときとか、『幸せの四葉のクローバー』とか言ってね。みつけたら幸せになれるって話で、友達と一緒にさがしたりしましたね」
 懐かしい、と若杉 英斗(ja4230)は昔の思い出に思いを馳せる。
「それで幸せになったかというと……いまのところ効果は……どうなんだろ……」
 考え込む英斗。同様に、シュルヴィア・エルヴァスティ(jb1002)も過去の記憶を掘り起こし。
「四葉のクローバー……ね。また懐かしいものを。まぁでも、いいんじゃないかしら? 付き合うわ。子供の頃に一度見たきりだし、もう一度見てみたいし」
 それはそれは偽りの無い本音だ。日傘の影の中、シュルヴィアは思い返す。子供の頃に見つけたソレは、押し花にして栞にしていたっけ。流石にもう、色褪せてしまったけれど。未だちゃんとあるのかしら?何処かの本の何処かの頁に、今も尚四つの葉を広げているのかしら。
「ふむ……四葉ならばこの長き生の内に幾度も見ておる。……が、五葉やそれ以上ともなれば、数える程しか見かけた記憶がないのぅ」
 二千以上の時を生きたと自称する白蛇(jb0889)が言う。「さてはて、此度の捜索で上手く見当たれば良い物じゃが」とクリスティーナへ微笑みを浮かべた。
「ボクも興味あるけど、見つけたら譲ってあげる。……でも、五つ葉はボクがもらうかんね!」
 と、クリスティーナの前で胸を張ったのは桐ケ作真亜子(jb7709)である。承知した、と天使は頷いた。
「そもそも見つけただけで幸せになれるのかい? 人界は本当にファンタスティックだね!」
 そこへひょこっと顔を出したのは不破 怠惰(jb2507)、瞳をキラキラさせてクリスティーナへ視線を移す。
「カーティス君ひっさしぶりー」
「うむ、久しいな不破。今日はよろしく頼む」
「まぁこれだけいれば見つかるさ。気楽にがんばろー! おー!」

 という訳で、撃退士の幸せ探しが幕を開ける。
 なんでも、水辺や日陰、人や動物が良く通る場所で良く見つかるとか。

(いつからからだろう、他人のために何かしようって思えるようになったのは……)
 胸に想いを一雫、小埜原鈴音(jb6898)は体育館裏にただ一人。いつでも日が当たらないそこは、こんな季節のこんな晴れた日でもヒンヤリ土の温度がする。
 鈴音はシロツメクサの中にしゃがみこんでいた。体があまり丈夫でない少女には、直射日光の当たる暑い場所よりここが良い。それにここなら人は来ない。ひとけがないのは心地いい。人見知りのきらいもあるし、一人の時間を邪魔されたくない。
(たまには一人でこういう作業も悪くないな)
 遠巻きに聞こえる学園の喧騒、いつもの音が別世界のそれのようだ――排水路付近にしゃがみこんでシロツメクサと距離を寄せれば、白い花の甘い香りがふんわりと少女を包む。微かな、けれど確かな香りに鈴音は思わず手を止めてシロツメクサの花を見つめた。
(綺麗……)
 花屋には並ばない花。道端の、ともすれば雑草扱いされる花。ちっぽけな花。そこにひらひら、白い蝶が飛んできた。蜜を吸っている。鈴音はそれをじっと見ている。夏の香りを乗せた風が吹いた。草が花が、少女の長い黒髪が、揺れる。蝶が飛んだ。風に乗って、白い雲と一緒に風すがら。
 いけない――四葉探しの途中だった。
(いつもお世話になってる葉葉先生の分も探そうかな)


 校庭。夏真っ盛りの日差しの中、隅の方に生えていたシロツメクサ。そこにて四葉を探しながら、日射病対策に被った帽子をちょいと上げ、英斗はクリスティーナにご挨拶。
「こんにちは、クリスティーナさん」
「うむ、若杉。此度は協力感謝する」
「いえいえ。自分の経験からいうと、四葉のクローバーをみつけるのはそれほど大変じゃないと思いますよ。久遠ヶ原にも、さがせばどこかにあると思うけど……さすがに五つ葉は、自分もみたことないですけどね」
「しかし久遠ヶ原は広大だ……何処から探したものか」
「べつに……どこでもいいと思いますよ、シロツメクサがあるトコロならどこでも。肝心なのは、まぁ、根気かな」
「根気」そう繰り返したクリスティーナに英斗は「そう、根気」と笑みを返す。
「ひとつひとつ、葉が何枚かみていくのをずっと続けられるかがポイントですね。……念のために言っておきますけど、剣や攻撃スキルはいりませんからね?」
「成程」
 頷いたクリスティーナ。そんな彼女に対して「それにしても」と二人分の声が重なった。英斗と、木の下でぐったり休憩しながら近くのシロツメクサへ捜索の目をやっているシュルヴィアだ。
「それにしても……天使ってのは、熱中症とかと無縁なの? この国の夏は地獄ね。30度って何よ。死ぬの?」
 日傘の下で酷くゲンナリしているシュルヴィアは、夏でも20度を超えない国の出身。日差しはもちろん暑いのは苦手だ。新陳代謝が低い故に汗はかいてないが、大絶賛夏バテ中。
「俺も天使が熱中症になるのか気になってたんですよね」と英斗が言う。
「いまの季節、そろそろ日差しも強くなってきたし……」
「そうよ、なにこの殺人日光は」
「ふ、心頭冷却すれば火もまた憂し、柿が鳴るなり法隆寺」
「……つっこまないわよ?」
 つっこむ気力も無いシュルヴィアである。クリスティーナがじっと見ている。探さないのか、という視線。
「探すわ……探すわよ? でも……わたくし的には、もう、あれよ。図書室の図鑑で済ましたい気分よ」
 戦う(?)前から負けている系。そんな様子に、英斗はコーラを取り出して。
「はい、クリスさんもシュルヴィアさんも、よかったらコーラどうぞ」
 暑い時にはシャキッと炭酸が一番だ。「ありがとう」と、クリスティーナはそれを一気飲み、シュルヴィアは持参のカボチャの種を摘みながらチマチマと飲んでゆく。
 英斗も喉を潤しながら、シロツメクサを端からひとつひとつ丁寧に確認していく。
「おしゃべりでもしながらさがせばすぐですよ」
「そうね……一瞬でも気を紛らわしたいわ」
 という訳でシュルヴィアは熱心に四つ葉を探すクリスティーナに話しかける。
「ねーぇ、クリス? ちょっと質問なのだけどいいかしら?」
「うむ?」
「……DO-age<世紀創始>って……ナニ?」
「ああ。この宇宙が生まれたという大爆発(ビッグバン)を模した神聖な儀式だそうだ」
「へ、へぇ……そ、そうなの……」
 つっこむ気力が以下略。四つ葉の効率的な探した方など雑学であったと思うのだが、それすら思い出すのが疎い暑さだ。脳が沸騰するんじゃないか。陰の中でシュルヴィアは地道に四つ葉を探してゆく。
 最中に一陣の風が吹いた。ふと一同が仰げば、風に乗ってモンシロチョウがひとひらと。


 地道に探す者の一方で、白蛇が選んだのは『人海戦術』。
「任せておくが良い。わし一人で三人分の働きをしてみせようぞ――さあ、来たれ我が司らよ!」
 彼女が呼べば、飛翔・縮地の権能をを司る分体と、千里眼の権能を司る分体が多重召喚された。
「良いか、司よ。お主らを呼んだのは他でもない。四葉、叶うならば五枚以上の葉を持った白詰草の捜索の為じゃ。行け、そして我が期待に応えてみせよ!」
 白鱗金瞳のスレイプニルとヒリュウがコクリと頷き、それぞれ空を翔けてゆく。
「さて」
 更に召喚獣と感覚を共有しその集中力を飛躍的に高めつつ、「かーてぃす殿」と白蛇はクリスティーナへ向いた。
「そう言えばじゃが、見つけたとして、どうするのじゃ? 見れば満足なのか、自身で育てるのか、それとも……誰かに贈るのか」
「五つ葉は桐ケ作に譲る心算だが、それ以外はまだ決めていない」
「ふむ。しかし幸せの象徴を見てみたい、というのは分かったが……何ゆえ見てみたいのかを聞いても良いかの? 何か悩み事があるなら、力になろうぞ」
「うむ、別段悩みなどは無いのだ。……私の幸福は、皆が幸福であることだから」
 だから、と少し照れを隠しつ天使は言うた。皆の幸福を願ってのいじらしい願い。白蛇はくつりと微笑み「そうか」を頷いた。
「ならばわしが四つ葉以外の幸せの伝承を教えようぞ」
 付いてくるのじゃ、と白蛇は踵を返して緩やかに歩き出す。
「四つ葉以外にも幸せの象徴はごまんとある。白猫が目の前を横切る、天気雨に遭遇する、虹……特に二重のものなど幸運じゃ。それから」
 中庭の道中、指をさす。ヤドリギがあった。
「ヤドリギは神聖な不思議な力を持つものと言われておる。触れてみよ」
 分かった、と何処か嬉しげに翼を広げてヤドリギに触れに行くクリスティーナ。白蛇も近くでそれを見守りつつ、
「そう言えば先ほど、おぬしがわしに頼み事をした時。テントウムシが体についておったが、それも幸運の象徴ぞ?」
「なんと!」
「それに――ほれ、ここを見よ」
 着地したクリスティーナに、ついで白蛇は近くの植木にあった蜘蛛の巣を指した。
「CC、とおぬしのいにしゃるがあるだろう。これは極めて幸運である証じゃ」
 成程、と頷く天使。他にも何かないか、と見渡したその時。
「おっとカーティス君、そこはもう探したよ?」
 ふわり、と翼を畳んで怠惰がクリスティーナの傍らに着地した。彼女の手には地図がある。シロツメクサの群生地や、探した場所に印がつけられている。面倒臭いのやだからこそ効率的にやりたいよね、と怠惰。
「休憩も大事だよ。てな訳で、お昼にしない?」
 反対側の手に、持っていたのはお弁当箱。
 という訳で、木陰のシロツメクサの絨毯の上、お弁当を広げてランチタイム。
「やれやれ、幸せ探しも楽じゃないね」
 アウルによって作り出した氷結晶をクリスティーナの傍らにそっと置きつつ、怠惰は木漏れ日の中でごろんと寝転んだ。
 おにぎりを飲み込んだクリスティーナは氷で額を冷やしつつ、隣の怠惰に目をやった。感謝する、と言う。お弁当の事と協力の事だ。怠惰は微笑む。
「友達が見たいって言っているんだ。はぐれ悪魔だって手伝ってあげたいと思うのが筋だよ。そうそう、四つ葉は見つかったかい?」
「未だだな……」
「まぁ、幸せなんてそう簡単に見つかるわけないか、これも修行かな―― あ」
「どうした?」
「これ」
 それは怠惰の顔のすぐ横。四つの葉っぱの、クローバー。
「あ!」
「凄いね、まさかこうもアッサリ。……ねぇ、どうしようか?」
 クローバーを覗き込む天使に、怠惰が訊ねる。
「ここに残しておいたら、別の誰かも幸せになるかもしれないねえ」
「ふむ……」
「幸せってなんだろうね。朝目が覚めてからの華麗なる二度寝なんてとっても幸せだけど、そういう類の幸せなのかな」
「幸せとは、か。むぅ、難しいな」
「そうだねぇ……ふわぁ。難しい事を考えると眠たくなるよ……」
 言葉の終わりには、もう怠惰はお昼寝の世界へ。
 クリスティーナは彼女の寝顔と四つ葉をじっと見比べた。
 このままにしておこう。友の寝顔も、『誰かの幸せ』も。


「最近何かする前にこれしないと、調子が出ないんだよね」
 真亜子はロボットダンスで準備運動を。カクカクと軽快に、じっくり体も解せば――さて。体育座りで彼女のダンスを見ていたクリスティーナ(拍手中)へ。
「今日のボクは星座占いで大吉で、そばにいる人にも幸運が起こるらしいから一緒に探そう」
 伸ばした手を天使が取れば、半ば強引に手を引いて真亜子は颯爽と歩き出す。
「四つ葉はね、水辺や生き物のよく通る場所にあることが多いらしいよ」
「噴水の近くなど良いだろうか? 先ほど不破に地図を貸して貰ってな」
 怠惰が印をつけた地図を二人で覗き込む。噴水はすぐ近くだ。行こう行こう、駆け足気味でそこへ向かえば、
「じゃじゃん」
 真亜子は両手に虫眼鏡を構えた。
「この為にダッシュで買ってきたんだから……はい、一個あげる」
「ほう! これで効率がぐっとあがるな、感謝する」
「ふふん。でも、虫眼鏡で太陽を見ちゃだめなんだって」
「ふむ……」
「……」
「……」
「……してはいけないと言われるとしたくなるんだよね、ボク」
 良い子の皆は真似してはいけませんなので、そんな衝動をこらえながらも虫眼鏡を相棒にシロツメクサの最中へと。
「うーん……」
 念入りに、針の穴も見逃さぬほどの気合。途中でダンゴムシ発見……ああいやいやダンゴムシを観察している場合ではない。
「うーーん……」
 ほとんど地面とひっつきそうな距離、視界の全部が緑色。
 と、その時。
「あっ、これ」
「どうした桐ケ作」
「えと――ここ! ここらへんに絶対四つ葉がある気がするよ!」
 実は四つ葉を発見したのだけれど、見つけた人に幸運が訪れる気がするのでクリスティーナが第一発見者になるように誘導を。かくして天使が「見つけたぞ!」とそれを摘んだ。
 のだが。
「! 桐ケ作、これ」
 摘んだそれをクリスティーナが手渡してくる。
「うん? ……あ!」
 真亜子は目を丸くした。

 よく見れば、それは五つ葉!

「ひゃわぁ〜〜〜っ!!」
 狂喜乱舞吃驚仰天、感情が炸裂した真亜子はそのまま勢い余って噴水にボチャーン。
 でも、五つ葉はしっかり持って離さなかったそうな。


●リザルト
 これにて捜索終了。
 白蛇の召喚獣がたくさん四つ葉と五つ葉を摘んで戻ってきた。なんでも、偶然にも密集して四つ葉以上ばかりが生えている所を見つけたとか。
「でかした」と白蛇が分体を褒める傍らでは、「ボクらも五つ葉見つけたもんね」と真亜子が誇らしげに超幸運の証を空に掲げた。
 鈴音は見つからなかったらしいが、代わりにその手にはシロツメクサの花冠。休憩がてらに作ったとか。
 英斗はシュルヴィアに目配せする。日傘の彼女のその手には、四つ葉が一つ。あれだけ探してたった一つとはね、と肩を竦めた。
「……で、どうだった? 今日一日の感想は」
 シュルヴィアはクリスティーナに問う。
「あぁ、楽しかった。四つ葉も五つ葉も見つかったしな。良い経験になった」
「そうだね。皆でこうしてわいわい探せたのは、なんだかとっても楽しかったね」
 天使の言葉に怠惰も頷く。「そう」とシュルヴィアは笑みを浮かべた。嬉しそうならば、己も嬉しい、と。
 そして白蛇の召喚獣より四つ葉を一つ、貰い受ける。これは自分用、押し花にしよう。もう一つの四つ葉――見つけたものは、先生に贈ろうか。
 さて、では解散――の直前に。
「あっ」
 英斗がクリスティーナの足元に目をやり。
「ほら、クリスティーナさん。ココ、ココみてください」
 指をさしたそこには、小さな四つ葉がちょこんと一つ――夕方の光に、揺れていた。



『了』


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:4人

ブレイブハート・
若杉 英斗(ja4230)

大学部4年4組 男 ディバインナイト
慈し見守る白き母・
白蛇(jb0889)

大学部7年6組 女 バハムートテイマー
さよなら、またいつか・
シュルヴィア・エルヴァスティ(jb1002)

卒業 女 ナイトウォーカー
撃退士・
不破 怠惰(jb2507)

大学部3年2組 女 鬼道忍軍
悲しい魂を抱きしめて・
小埜原鈴音(jb6898)

大学部5年291組 女 ディバインナイト
暴将怖れじ・
桐ケ作真亜子(jb7709)

高等部1年28組 女 ディバインナイト