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マスター:ガンマ
シナリオ形態:シリーズ
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/08/04


みんなの思い出



オープニング

●饒舌なれど、されど

「我々はアウル覚醒者人権保護団体です!」

 現れたのは、そんな言葉を掲げる一団だった。
「覚醒者を見世物にする行為は覚醒者の人権を侵害しています! ただちに止めるべきです!」
 彼らの目には、力と熱意の篭った光、光。
「ちょっと、困ります」
 休憩中に小屋へ押し入ってきた一団に、奇術師が困惑しながら声をかける。しかし彼等は聞く耳持たずな様子らしい。


「……あちゃあ、また来たか」
 楽屋の隙間から『招かれざる客』で満ちた客席を見つつ、蛇女が苦い声を漏らした。
「あの人たちはアウル覚醒者人権保護団体。文字通り、覚醒者の人権や権利を訴えている団体です。あの人たち、しょっちゅうああやってうちにイチャモンつけてくるんですよ。覚醒者を見世物にするなんて人権侵害だ、って」
 善意の嫌な例。蛇女が溜息を吐く。
「私達は好きでここにいるんだ、誰も嫌な思いはしていない、っていつも訴えているんですけどね。あの通り、全然話を聞いてくれなくって」
 見世物小屋はよろしくない、の一点張り。いつも大体、団長がなんやかんやで追い返すらしいが。「それにしても」と蛇女は珍しく不快感を顔に出していた。
「祭りの真っ最中に来るだなんて、非常識にもほどがありますよ。公演中じゃなかっただけまだマシですけども」
 ウキグモのイメージダウンも図りたいのだろうか。蛇女は憤慨している。


 その間、保護団体とウキグモ団長が言い合いをしていた。内容は蛇女が「いつも」と言った通り。
「とにかく今は祭り中なんだ、他の人に迷惑だろう。お前さん達、ちゃんと許可貰ってここでその活動してるのか? 許可貰ってないなら違反行為じゃないのか、警察呼ぶぞ!」
 団長の言葉に保護団体のリーダーらしき女が歯噛みする。けれど今日ばかりは、彼等は引き下がらなかった。
「団長さん、あなた、悪魔なんでしょう」
 鬼の首を取ったように、彼女は言った。
「情報が入ってきたのよ。あなた、悪魔なんでしょう。悪魔が人間を見世物にして金稼ぎするだなんて、酷い行為ですね! 世間が黙っていませんよ!」
 そうだ、そうだ。悪魔め。天魔は人間の世界から出て行け。そんなに金が欲しいのか、意地汚い奴め。
「……お前、どこでそれを知った」
 団長が低い声で問う。
「逆にお聴きしますが、よくもまぁ今まで悪魔であることを隠していましたね。やましい気持ちがあるからでは? 間違った行為だとご自身で理解されているのでは?」
「質問に答えろ!」
「答えなければならない義務などありません。さぁ、今すぐ小屋を畳んでこの忌まわしい一座を解散なさって下さい!」
 出て行け。出て行け。出て行け!


「あいつらッ……! もう、黙ってられない」
 楽屋にて。蛇女は肩を震わせた。いつも団長は「奴らが来たら黙っていなさい」と一座の者に言うのだが、今夜ばかりは堪忍袋の緒が切れた。
「団長はいい人なんだ。こんな私でも……、ここにいて良いんだよって、居場所をくれた大切な人なんだ、私達の居場所なんだ……!」
 手の甲に筋が浮かぶほど拳を握り締める蛇女。撃退士へ振り返る。
「お願いします、あいつらを追い返すのを手伝って頂けませんか!! このままだときっと、次の公演時間にまで居座られてしまいます!」
「私からもお願いします、あのいけ好かない連中をケチョンケチョンにしてやって下さいよ! ……あ、言論的な意味で、です」
 深々と頭を下げる蛇女、楽屋に戻ってきた奇術師も同じく頭を下げる。
 撃退士達は顔を見合わせた。断る理由はない。「ご迷惑をおかけします」と蛇女が顔を上げる。
「でも……、奴ら、一体どうやって団長が悪魔だってこと知ったんでしょうか……?」
 団長が冥界から離反した悪魔であることは、ウキグモ一座の者には周知の事実ではあるが。それはウキグモ内だけの秘密にしており、保護団体の者に伝わる筈がない。
「まっ、まさか内通者が」
「そんな馬鹿な! 有り得ないですよ。私達の口の堅さは、あなただって知ってるでしょうに」
 奇術師の言葉に蛇女がかぶりを振った。それもそうかと奇術師が顎を摩る。
「……また『まさか』だけど、昨日のディアボロ。あれあいつらが呼んだとか」
「あいつらは人間ですよ? 一般人も覚醒者も混じってるけど、ただの人間。ディアボロを作ったり使役するなんて、出来る筈がないですよ」
 そう答えながら、蛇女も考えた。まさか『恒久の聖女』? それも有り得ない。劣等種と罵る一般人がいる組織に、彼等が手を貸すなんてありえない。
 兎角――ここで推察し続けても時間の無駄だ。
 蛇女が再度一同を見やる。
「まずは、奴らを追い払いに行きましょう!」


●???
「そうだ、もっと酷い目に遭えばいいんだ、あんなクソ野郎――」


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リプレイ本文

●乱痴気頓痴気01
「賑やかでござるな。何事でござる?」
 南条 政康(jc0482)は食べていたヤキソバの残りを召喚獣のチビマルに任せ、楽屋から客席へと現れた。
 見渡せば、そこには口々に「アウル覚醒者の人権保護」を口々に言う団体と、それと向き合うウキグモ団長。穏やかな雰囲気などそこにはなく、一触即発と言っても過言ではない状況だった。
(――この手の手合いは、天・魔・人の違いに関わらず何処にでも居るものよなあ)
 事情は既に聞かされた。小田切 翠蓮(jb2728)は心の中でそう思う。古今東西、いつの世も『我こそに正義あり』と信じて疑わぬ者ほど攻撃的になるもので。
(正義は暴走する、とはよく言いますが、正義ですらない事でも暴走は多々あるということですね)
 久遠 冴弥(jb0754)は溜息を押し殺す。さっと仲間に目を送れば、礼野 智美(ja3600)が頷いた。
「私達は他のお客様の対応を」
 そっと仲間に告げて、冴弥は智美と共に小屋の外へ。小屋の中の状況とは対照的に、楽しげで賑やかな祭囃子が聞こえていた。
「悪魔だからって排斥するのは困るんだけど。人権どうこう言う人って他人の事情知らずに持論ばかり言って人の話聞かないからなぁ……」
 智美が呟いた。全くです、冴弥も押し殺した分の溜息を一つ。


 そんな二人の背を見送って、さて。
「はいはい、ちょっとヨロシイかしら?」
 シュルヴィア・エルヴァスティ(jb1002)は団長の背をポンと圧しつつ、団体の者へと視線を向けた。
「初めまして。久遠ヶ原撃退士の者です。先日のディアボロ出現もあるので、念の為にと派遣されておりまして」
 提示するのは久遠ヶ原学園の学生証だ。
「そんな訳で丁度居合わせた次第で……。私共も、何かしら力になれると思いますが」
 うむうむ。シュルヴィアの言葉に頷いた政康が団体のリーダーへと向いた。
「話は粗方聞かせて貰ったのだが――これはちょうどよい機会。ぜひ某の話をお聞きいただきたい」
「なんでしょうか」
「某、久遠ヶ原守政康と申す。撃退士でござる。
 アウルに覚醒したといえば久遠ヶ原学園へ入学させられる昨今の風潮、いかがお考えか?ぜひともご意見をお聞かせ願いたい」
 それに対し彼らが答えたのは、粗方こんな感じだ。

 天魔と戦ってくれることは本当にありがたいけれど、どうも「覚醒者は撃退士になるべき」という風潮には違和感を感じる。覚醒者は兵器ではない、もっと人権を守られるべきだ。

 ふむふむ。政康は頷くと、
「っと、このような所ではアレでござるな。もっと落ち着ける場所へ移動いたしませぬか?いや、それほどお時間は取らせませぬゆえ」
「同感じゃ。詳細は別の場所でゆっくり聞かせては貰えんかのう?」
 先ずは彼らをここから退散させねば、次の公演に支障をきたす。そう思って、翠蓮は政康に同意する形で提案を。
「儂等、夕飯もまだでのう。腹ペコで立ち話は辛い。……分かるじゃろ?」
 肩を竦めてみせる翠蓮。「覚醒者の人権を主張するからには、儂等自身の主張もきちんと聞いてくれねば可笑しいしのう」と続けられた言葉に、蛇女が加勢した。
「昨夜の……あの神社。あそこならひとけもありませんし、ゆっくりお話できるかと」
 団体が顔を見合わせる。それならば、と彼等は移動に同意したようだ。


「お祭りの最中に無粋な客を呼び込んでしまい申し訳ありません。次の公演まで今暫くお待ち下さいませ」
 風評被害は避けねばならぬ。小屋の外、人権団体の者には聞こえぬよう、智美は周辺の祭客へそう伝える。
「公演を行っていない一座に居座って騒いでいる団体がいるようでして……ご迷惑をおかけして申し訳ないですが、然るべき対応を取るので安心して下さい」
 冴弥も智美と協力して客対応を。どんな事情であれ「ウキグモの騒ぎが祭りに悪影響を与えた」と思われる前に対処した方が良いだろう。あくまで中立の立場を表面上は崩さないまま、広めるのは「ウキグモが被害者である」という事実。一度広まった認識を上書きするのは難しい故に。
 ちらと見やるのは、小屋から出て行く団体の者とウキグモの者と撃退士。
 彼らの足取りは、昨夜の神社へと向かっていた――。


●乱痴気頓痴気02
 賑やかさは遠巻きに聞こえるのみ。
「さてと」
 狩野 峰雪(ja0345)は団体へと振り返った。
(各々の価値観が異なるのは当たり前。どちらが正しいのか、っていう勝ち負けじゃなく、対話して擦り合わせて、自分と違う価値観も認めて、お互いが納得できる落としどころを見つけ出せれば、みんなが幸せになれるけど)
 悲しいことに、何とか自分の価値観を飲ませようとしてしまうことが多い――穏やかな眼差しの奥、冷静な分析。彼らは「それ」だ。
(悪意がなく、正しいと思っているのが厄介なところだよね)
 思いつつ、峰雪は話しかける。
「先程のお話、ご尤もです。よろしければもう少しお伺いしてもよろしいですか」
 どうも感情的になっている彼らをクールダウンさせるためにも、先ずは全てを吐き出してもらう心算だ。尚且つ彼らに心を開いてもらうため、撃退士の立ち位置は表面上はウキグモの肩を持つのではなく、第三者の仲裁者として。

 彼らは語気熱く語り始めた。
 内容は、蛇女から受けた説明の通り。覚醒者とて人間だ、それを見世物にするなんておかしい。ましてやその団長が悪魔だなんて。見世物小屋は今すぐ解散すべきだ。

「なるほど、それはご立派な心掛けでござる」
 政康は彼らの話の一つ一つに頷いては共感の反応を。事を荒立てて一番不都合を被るのはウキグモだ。穏便に収めねばならぬな
『殿、ちょっとわざとらしいですぞ。もっと自然に』
「わかっておるわ。……いや失敬。コチラの話でござる」
 『右手の軍師』と小さくやり取りしつつ、彼は続きを促した。
「あの――」
 それに怪訝な様子を見せたのはウキグモの者達だ。てっきり味方だと思っていたのに、どうして人権団体に同意なんて。
 ウキグモの疑問に答えたのは、祭客対応を終えて駆けつけてきた冴弥だ。耳打ち、団体に怪しまれない程度に囁きかける。
「この場の撃退士全員ウキグモの味方ですし、その為に行動します。ですから、団員の方々には辛いと思いますが、少し辛抱願います」
 これも作戦なのだ。冴弥の言葉に、ウキグモの者達から不安げな様子が消えた。
「連中のやり方は、挑発です。話す気などなく、こちらが『話以外の手段』に出るのを待っている。それに乗るのは癪でしょう?」
 あちらの煽るやり方に乗る必要はありません。真っ直ぐな眼差し。撃退士を信頼するウキグモの者達が、しっかと頷きを返した。

 そして、団体が話を終えれば。
「なるほど」と智美が頷いた。先ずは学生証を見せて身分を明かし、口を開く。
「ここでは撃退士としての能力を使わない見世物もやっています。実際に、俺は能力を一切使わない剣舞を行いました。
 ……貴方達こそ、職業選択の自由を阻害していませんか? サーカスの団員に『危険がある仕事をやらせるのは人権侵害』と言っているのと一緒です」
 彼女の物言いは冷静で淡々としていた。だが決して殺気等の害意は見せない。手を出したり能力を使えばこちらが不利になると判断したのだ。
「もう一つ、人を楽しませるのに悪魔である事を言う意味がありますか?
 貴方がたも団体名は言ってはいますが、個々の職業や住所など公開していないじゃないですか。お祭りの時に当局の許可も取らずに公共の場で騒ぎ立て、疾しい事があると言っているようなものですよ」
 智美の親友の夫は悪魔だ。けれど彼女の保護者でもあった。子供会や地域の祭りで交流のあった人。であるからこそ智美は思うのだ。人に交じっている天魔も害が無ければ放ってあげて欲しい、と。
 しかし正面からの否定に対し、団体は良い顔をしなかった――が、これは智美の計画通りで。
 飴と鞭。否定の後に続く「物腰が柔らかな」仲間達の言葉を聞いて貰い易くする為に。
 ややあって政康が口を開いた。
「アウル覚醒者は失うモノも多いでござる。よく知られているのは、スポーツ競技者がオリンピックやプロへの夢を絶たれてしまう話。ある日突然、いままでの努力が水泡に帰す。その心中いかばかりであろうか。世間はもっと、アウル覚醒者の心のケアをするべきでござろう。そうは思いませぬかっ!?」
「そう、だからこそ私達は覚醒者の人権を守るために――」
「サーカスやプロレスも、見せ物だと思うんだけれど、どう違うのかな」
 団体の返答に対し言葉を発したのは峰雪だった。思考の先読みと、友好的雰囲気と。
「僕達には等しく職業選択の自由があるし、職業に貴賤はないと思うなあ……。職を失ったら、衣食住も儘ならなくなって、自殺や強盗……なんてこともあるかも?」
 それって人権侵害では? 暗にそう問うてくる峰雪の言葉に、反論はなく。ではと彼は言葉を続けた。
「ウキグモについては、プロの経営者と俳優の契約行為だと思うよ。これだけの人数を雇えるなんてやり手だよね。もし彼らに辞めてもらうなら、あなたが今後の保証をしてあげないとね」
「然り。生活の為には辞める訳にもいかんのが現実よ。……おんし等が他に良き転職先を斡旋してくれるなら考えんでも無いが」
 翠蓮が頷く。最初から『結論ありき』で理論武装している連中に論破は逆効果やもしれぬ。
「譲れるラインと、譲れないラインは?」
 であるからこそ、彼らの『押し付け』と『無責任』をそれとなく認識させねばならない。峰雪がじっと団体を見る。ああだこうだ、彼らは答えるが、いまいち一つの意見に纏まりきっていない様子――撃退士の言葉が『効いた』証だ。
 それでも非を認める様子がないのは、やはり、根底的に『ウキグモは悪』と強く思っているからか。
「……成程。見世物小屋に人権侵害の疑いがあると」
 では。やり取りを聞いていたシュルヴィアが口を開いた。
「貴女方は少し勘違いをして居られます。彼等は皆、演者……パフォーマーなのです。
 彼等は、ここを『職場』として働いているのです。一座『ウキグモ』は、歴とした興行団体であり、国から正式に興行許可も取得しています。ですよね? 団長?」
「ああ、勿論だとも! 私は悪魔だが、正式な手続きで許可を得たぞ」
 そう答えた団長に「ありがとうございます」と述べ、シュルヴィアは再び視線を団体へ。
「国は、天魔の亡命を例外的、条件付で受け入れる声明を出しています。団長が悪魔であっても、法的になんら問題はありません。そしてウキグモは公的な認可を受けた団体であり、これを解散させるには、相応の手続きが必要になります。
 ……不躾ながら。貴女方は、その手順をどの段階まで進めておりますか?」
 その言葉に、団体が言い淀む。メンバーはリーダーをおずおずと見、リーダーは無言のまま唇を噛み締めた。
 ふむ。シュルヴィアがゆっくりと頷いた。
「では、未だ白紙……と捉えて宜しいでしょうか? で、あるならば……そちらにとっては残念ながら、この場で結果を出すことは非常に困難であると言えます。
 加えて、間も無く公演時間です。これを妨害したとなると、逆に貴女方が威力業務妨害に中る恐れがあります」
 呼吸一つ。言い放つのは、声量は決して大きくない、けれど凛と場に響く声。

「……どうでしょう? 少し、『場所を変えて腰を据えて』話し合ってみませんか?」

 同じ言葉を団長に言われたのならば団体は言い返しただろう。
 だが、相手は久遠ヶ原の撃退士。悉く唱えられた異論は、敵対や反論でないのにも関わらずしっかとした冷静な説得力があり、そして『神経を逆撫でしない』正論だった。
 その上、法的措置の可能性をも見せられては……人権団体には反論の余地など、残ってはいなかった。

「ぐっ……。きょ、今日のところは失礼します」
 そのままそそくさと立ち去ろうとする。だが、それを撃退士は呼び止めた。まだ聞きたいことがある。
「団長が悪魔っちゅう話を誰に聞いたのかのう? もしや団長の家族とか……?」
「これだけの活動、続けるのも大変でござろう。スポンサーや協力者はおられるのかな?」
 翠蓮と政康が問うた。団体の者が振り返る。
「『もしも』の話ですが、ウキグモが真に反社会的なものなら我々久遠ヶ原学園は対応を考える必要があります」
 言葉を続けたのは冴弥だ。「情報源は元団員とかかな?」と首を傾げつつ、峰雪も彼らの返答を待っている。
「それは――、とある方ですよ」
 なんともハッキリしない答えである。
「とある方、とは?」
 そこに智美が踏み込んだ。「久遠ヶ原学園が調査をする必要があるかも」と先んじて出されては、団体が口を噤み続けることも出来ず。ようやっと、リーダーが口を開いた。
「それが……、如何せんご自身のことを語られなかった方で、我々も詳しくは存じ上げないのですが。『レーチェル』と名乗る女性の方です」
「レーチェル!?」
 それに強く反応したのは、他ならぬ団長だった。
「……団長の関係者で?」
 片眉を上げた翠蓮が問う。団長は片手をこめかみに添えて苦い表情をしている。
「彼女は悪魔だ。冥界での……その、まぁ、元彼女というか」
「――ああ、」
 翠蓮は肩を竦めかけた。団長にとって良くない情報を、団長の敵対勢力に流すなんて……おそらく、『レーチェル』は団長に恨みを持っていると思われる。そして、そのレーチェルは団長の元彼女。つまりは、こじらせた恋慕のいざこざが原因か。
 団長がガックリと肩を落とす。
「私は元々、人間界に興味があったんだ。人間達と関わりたいと思っていたんだ。だが彼女……レーチェルはそれに反対でね。『人間と私どっちが大切なのよ』と」
 それでも団長は人間界に強く惹かれていた。するとレーチェルは団長が冥界から離反せんとしていることを上に報告するぞと脅してきた。それを恐れた団長はすぐさま人間界へと亡命、紆余曲折を経て、今に至るのだという。
「……。私の予想だけども」
 シュルヴィアが団長を見やった。
「彼女、相当団長のことを恨んでると思うわ。『私のこと捨てただなんて』って」
「そうとしか考えられんね……」
 ああー。団長はいよいよ頭を抱えて項垂れる。
「なんともはや」
 政康は右手のタダムネと顔を見合わせた。

 だが直後に、彼方で悲鳴。
 一同が驚き見やった先には、腰を抜かした団体の者と――稲妻を纏った女が一人。

「なにやってんのさ、アンタ達……約束が違うじゃんか!」
 怒りを露に、手にした剣を今にも団体へと振り下ろしそうな彼女は、見るからに悪魔。
 彼女の名は、レーチェル。
「折角、明星をギッタギタにしてやろうと思ったのに――ディアボロもダメでアンタ達もダメで。この、役立たず共が!!」
 そして剣が振り下ろされた。

 鮮血。



『続』


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:6人

Mr.Goombah・
狩野 峰雪(ja0345)

大学部7年5組 男 インフィルトレイター
凛刃の戦巫女・
礼野 智美(ja3600)

大学部2年7組 女 阿修羅
凍魔竜公の寵を受けし者・
久遠 冴弥(jb0754)

大学部3年15組 女 バハムートテイマー
さよなら、またいつか・
シュルヴィア・エルヴァスティ(jb1002)

卒業 女 ナイトウォーカー
来し方抱き、行く末見つめ・
小田切 翠蓮(jb2728)

大学部6年4組 男 陰陽師
撃退士・
南条 政康(jc0482)

卒業 男 バハムートテイマー