「ほら見たまえ、助手君。だれもチェーンソーなど選んでおらん」
参加者名簿を見て、博士は笑った。
「予想以上に、久遠ヶ原の学生たちはバカだったようです……」
ハァと溜め息をつく助手。
だが、これが現実だ。名簿によれば、血圧計や体重計を選んだ者さえいる。
どうかしてるぞおまえら、と無言でツッコむ助手だが、そんな彼をよそにバトル開始!
「とりあえず、まったり行こうか。腹が減っては戦ができぬ……ってね」
開幕と同時に、高園寺神楽(
jb3385)はV炊飯器で米を炊きはじめた。
いきなり不可解な行為だが、すこし離れた教室では斉凛(
ja6571)がV珈琲メーカーをセットしている。この2人はV家電本体ではなく、ごはんとコーヒーで勝とうとしているのだ。ぶっちゃけ炊飯器でブン殴ったほうが早いのだが、それを言うなら素手で殴ったほうがもっと早いかもしれない。
かと思えば、下妻笹緒(
ja0544)は巨大な図体を自ら洗濯機に押し込んでるし、ナナシ(
jb3008)はコタツに潜りこんでいる。桜井明(
jb5937)に至っては、大型冷蔵庫に閉じこもって熱い紅茶を飲みながら漫画雑誌を読みはじめる始末。この3人は、籠城戦の構えだ。
しかし、まともなV家電を選んだ人はまだ良い。
伊藤辺木(
ja9371)などは「ヒャッハー! 家電だー! 今回は何を選んでもいいんだって!? ドリーム!」とか言って、電源車を選んでいた。
かるく『電源車』と言ったが、ようするに10tトラックである。どう考えても『家電』じゃないぞ、これ。
「いいや、第一回からこいつはいたんだ! だからコレは家電だ! 俺は詳しいんだ!」
強引な主張をしつつ、ハンドルをにぎる辺木。
これで屋内に乗りこもうというのだから、さすがだ。
どいつもこいつも、\自由ダム!/
そんな中、屋上では早くも激突が生じていた。
朝日奈優翔(
jb8404)vs月乃宮恋音(
jb1221)&袋井雅人(
jb1469)だ。
「1対2か……。分が悪いけど、そっちは体重計とマッサージ器? なら勝負になるかな?」
強気に言い放つ優翔の手には、Vエアコンがあった。鈍器としての性能は遙かに上だ。
「……これは、ただの体重計ではありませんよぉ……」
「これも、ただの電マではありません!」
体重計とマッサージ器をふりかざす、恋音と雅人。
冷静に見ると、だいぶ頭おかしい。
いや、冷静に見なくてもおかしい。
「ふふ……家電でバトロワって変わってるけど、たのしそうだね」
光纏すると、優翔は無表情のままエアコンで殴りかかった。
そこへ、恋音の体重計から重力弾が放たれる。
なんと、このV体重計は使用者の体重に応じた重力弾が撃てるのだ! すげえ機能だな!
しかし、優翔は冷静にエアコンでガード。
重量が激増したエアコンを捨てて、優翔はウジエルアックスで斬りかかる。危険行為? そんなもの気にしない。
「なにをしても、勝てば問題なし。でしょ?」
なにかのスイッチが入ったのか、にやりと口元をゆがめる優翔。
一瞬後。その背後から、電マが突き出された。
「あふァ……ッ!?」
高い声を上げて、優翔は倒れた。
しかし、雅人は彼の正面に立っている。
ならば一体……?
「フフフ……これを喰らったらどうなるか、わかったようね。恐ろしくて震えてるじゃない。おもにあたしの視界が」
ヴヴヴヴヴ……と振動音を響かせて、雅人と同じV家電を持っているのは、咲・ギネヴィア・マックスウェル(
jb2817)
「さては、電マ使いの一人ですね?」
雅人が問いかけた。
なんなんだ、電マ使いって。
「そう、これは電マ! 通称、電動マッサージ器! 超振動で敵を粉砕する高威力鈍器よ! シンプルイズベストよね。……ん? きみぃ、どんな使いかたを想像したのかね。言ってごらん、怒らないから」
「電マの使いかたなど、ひとつですよ! 懇切丁寧に説明しましょう!」
説明されるとアウトなので省略!
ここに早くも電マ決戦が……と思いきや、咲が目をつけたのは恋音の体重計だった。
「ともあれ、まずは……ミラーワールドに体重計はいらない! 破壊だあーーッ!」
体重なんて 気にしないわ♪
贅肉だって だって だって お気に入り
からあげ肉まん 大好き
ステーキ天ぷら 大好き
あたしは あたしは あたしはギネヴィア
昭和っぽいアニソンを口ずさみながら、電マで殴りかかる咲。
そこに恋音の重力弾が命中して、もとから重い咲は床を突き破って地表まで落ちていった。
【脱落:優翔、咲】
「これは良いものです!」
綿毛のような光を周囲にきらめかせて、八種萌(
ja8157)はV掃除機を操っていた。
わずかな電力とアウルの力で作動するため、電源いらず。軽くて最後まで吸引力が落ちない、すばらしい家電!
「これは究極の掃除機ですね!」
家事が大好きな萌は、依頼の目的も忘れて廃校舎の掃除をはじめてしまう。
彼女の通ったあとは、ぺんぺん草も生えない綺麗さだ。
しかし、そこに立ちはだかったのはグリーンアイス(
jb3053)
選んだ家電は、球場とかで売り子さんが背負ってるタイプのビールサーバーだ。
もっとも、おこちゃまに酒をぶっかけるとか蔵倫的にヤバいので、中身はノンアルコールビール。
なんと素晴らしい配慮! これぞ女子力! 蔵倫チャレンジャーの皆さんにも見習っていただきたい!
「ヒャッハー! きゃわいい女の子に黄金水ぶっかけだー! いいもん見せちゃうよー!?」
あふれる笑顔でビールサーバーのノズルをふりかざすグリーンアイス。
ちょ……女子力、女子力!
「さぁ、全身びしょぬれのスケスケになるがいいよ!」
黄金色の液体が、ブシュウウッと噴き出された。
これはナイス……じゃなくて、萌ピンチ!
しかし、萌は慌てず騒がず掃除機のスイッチON!
すると、ふりかけられた液体は全て空中で吸い取られてしまう。
「えええ……ッ!?」
動揺するグリーンアイス。
次の瞬間、掃除機が異音を発した。
逆運転モードに──つまり吸いこんだものを吐き出すモードに転換したのだ。
「はわぁぁぁ……っ!?」
無数のゴミと黄金水を全身に浴びせられ、グリーンアイスは濡れ濡れスケスケになって敗れた。
そこへ現れたのは、九鬼龍磨(
jb8028)
「それは掃除機……。どうやら同志のようだけれど、これはれっきとした依頼だ。真剣勝負を挑ませてもらう!」
シリアス顔で告げる龍磨は、ルパソみたいな名前のロボット掃除機を手にしていた。
「わかりました! お掃除勝負です!」と、萌。
掃除機のスイッチが入ったとたん、龍磨のロボ掃除機はあっというまに吸いこまれてしまう。なんせ両方とも掃除機なので、えらい吸引力だ。
「うふふ。お掃除対決は私の勝ちですね!」
萌が勝者の笑みを浮かべた、その瞬間。
ちゅどおおおおん!
V掃除機が爆発した。
ちょっと大きいものを吸いこみすぎて、限界が来たのだ。お約束のオチである。
さいわい龍磨は難を逃れたが、ロボ掃除機は粉々だ。これでは続行不能か?
「ふ……。こんなこともあろうかと、金属バットを持ってきた! 持ち込みNGじゃない! 魔具でもない! よってセーフ!」
この人も、だんだん無茶なことを言うようになってきたな。
ともあれ、龍磨は戦闘続行。ただの金属バットは、そこらのV家電より強いぜ!
【脱落:グリーンアイス、萌】
(見敵必殺……やられる前にやる……!)
固い意志を胸に、平田平太(
jb9232)は敵を探していた。
選んだ武器は、ゲェムキュゥブ!
いにしえより繰り返されてきたゲーム機論争に決着をつけるべく、今日ここでゲェムキュゥブ最強を証明するのだ!
でも残念ながら、ほかのゲーム機を選んだ人がいなかった! 畜生!
そこへ現れたのは、鳳静矢(
ja3856)と鳳蒼姫(
ja3762)
「1対2ですか……。しかし私は逃げません! ゲェムキュゥブ最強!」
「では、お相手しよう。だがその前に、ひとつ言っておく。ルインズ最強!」
静矢はV血圧計を取り出すと、バンデージみたいに左右の拳へ巻きつけた。デジタル表示画面でブン殴る作戦だ。
「バックアップするですよぅ☆」
蒼姫の得物はスタンガン。普通に強いぞ。
だが、平太は動じない。
「見ろ、この最強ハードを! 怯えろ! 竦め! V家電の性能を引き出せぬまま脱落していけ!」
紫色のゲェムキュゥブを振りかざして、突撃する平太。
応じるように、静矢が前に出た。
「私の小宇宙(アウル)が燃えている……!」
「最強ハードの一撃をくらえ! 質量×速度×持ちやすさ=破壊力ッ!」
「笑止! 質量×速度×握力×血圧=破壊力ッ!」
「「おおおおおおッッ!!」」
ゲーム機と血圧計を真っ向からぶつけあう二人。
と思った瞬間、蒼姫のスタンエッジが飛んできて平太を直撃した。
「グワーッ!」
「受けろ、鳳凰(ペガサス)流星拳!」
スタンした平太に、静矢の拳が秒間100発ぐらいの勢いで叩きこまれた。
グシャアアアアッ!
全身から血を噴いて、見開きページで吹っ飛ぶ平太。
無念! 最強ゲーム機も血圧計には勝てなかった!
「貴様の敗因はひとつ……。2対1だったことだ」
クールに言い放つ静矢は、いま聖闘士として目覚めようとしていた。
でも鳳凰はペガサスと違うよね。いやアドリブだけど。
【脱落:平太】
『粗大ごみが大量に発生したって話だから、処分しにきてやったぜー……って、え、ちがう?』
ゲーム開始前、ラファル A ユーティライネン(
jb4620)は何かを勘違いしてエントリーしていた。
が、すぐにいつものノリを理解して、選んだのはジュークボックス型のカラオケマシン。
たしかにカラオケだが、内蔵されているのはアナログレコード。曲目も、昭和丸出しのものばかりだ。
それを台車に乗せて引っ張りながら、殺人的音痴な歌を垂れ流して歩くラファル。
だが、彼女はふと気付いた。
どこかから、炊きたてごはんの匂いがすることに。
「突撃! となりの晩御飯だぜー!」
ドカーンと教室のドアを蹴り破って、突入するラファル。
するとそこには、炊飯器を手にした神楽が。
「よーし、そのメシをよこせ。ついでに、おまえの命もよこせ」
「わかったよ。降参する。女性の肌に、やけどなんてさせたくないからね」
あっさり降伏してしまう神楽。
彼は『炊きたての熱々ごはんを投げつける』という戦いかたをする予定だったが、女子相手にそんなことはできなかったのだ。……おお、この爆弾魔ラファルを女性として扱うなんて! ケタ外れの紳士力! 俺にはできない!
「おまちください。ならば、わたくしがお相手しますわ」
反対側のドアから、凜が姿を見せた。
どういうわけか、ガスマスクを装備している。
その手にあるのは、珈琲メーカーと珈琲カップ。大嫌いな珈琲をあえて選ぶことで、呪詛にまみれた有毒成分を……
「げふっ、ぐふっ……! す、すまない、凜。ちょっと離れてくれないか」
カップから漂う凄まじい刺激臭に、神楽は涙目で訴えた。
「これは失礼しましたわ。すぐに勝負をつけて差し上げます」
毒の沼地みたいにボコボコと沸き返る珈琲めいた何かを、凜がラファルめがけて投げつけ……ようとしたとき、一本の釘が飛んできて凜の袖を貫いた。
「あ……っ!?」
カップが落ちて、こぼれた珈琲が猛烈な悪臭を放つ。
「ふふふ、油断禁物だよ」
現れたのは、ネイルガン(釘打ち機)を手にしたアロ(
jb9811)
その後ろには、相棒のフリューゲル(
jb9816)が控えている。
「男ふたりか。ならば、俺が相手だ」
ほかほかごはんを手に、神楽が立ちはだかった。
おお、なんと勇ましい。見よ、この銀色に輝く魚沼産コシヒカリを。香りはどこまでも芳醇。食感は、しっとりもちもち。ごはんをおかずにごはんが食べられるほどの、これぞ人類史上最高の白米!
ドスッ!
神楽の眉間に五寸釘が突き刺さり、彼は炊きたてごはんを握りしめながら倒れた。
ごはんでネイルガンと戦うのは、少々無理があったようだ。
「ふふふ、次はきみの番だ」
アロが微笑みながら凜を見た。
「く……っ」
万事休す。珈琲カップを投げるより、ネイルガンを撃つほうが早いに決まってる。
だが、そのとき。
ボエーー!
ジャイア……ラファルの殺人ボイスが、大気を震わせた。
動揺したアロは見当外れの方向に釘を発射してしまい、凜も珈琲カップを落としてしまう。フリューゲルも耳を押さえるだけで、反撃の糸口がつかめない。
このまま恐怖のラファルリサイタルで全滅かと思われた、そのとき。
どこからか飛んできたファイアワークスが、ラファルを焼きつくした。
「アバーッ!?」
黒こげになって倒れたラファルの背後には、一台のコタツが!
そう、これはナナシの選んだV家電。一見すごく目立つようだが、さにあらず。メタルギャーの世界でどこに段ボールがあっても不自然でないように、久遠ヶ原ではどこにコタツがあってもおかしくないのだ! すごく自然! まさに完璧な擬態!
「敵はどこだ!?」
「わかりません。生命探知にも反応なしです」
アロとフリューゲルは顔を見合わせた。
単に命中判定で負けてるだけなのだが、相手がナナシじゃ仕方ない。
「まってくださいな。あのコタツは、なにか怪しいと思いませんこと?」
凜が問いかけた。
「僕には、ただのコタツにしか見えないが……」
と、アロ。
「私にも、単なるコタツとしか……」
フリューゲルが同意した。
まるでシュールコントだが、これは現実に起きていることだ。
「そうですか。どうやら、わたくしの思い過ごしのようですわね。……では、あらためて。神楽さんの仇を討たせていただきますわ!」
凜は両手に珈琲カップを持って、腕をクロスさせた。
が、そこへフリューゲルが話しかける。
「少々おまちを。見たところ、あなたは大変おつかれのようだ。丁度良いことに、ここにマッサージチェアがあります。ひとつ体験してみませんか?」
「遠慮しますわ。おおかた卑猥な結果にしかなりませんもの」
「まさか。そんなことはありません。見てください、このふかふか感。V兵器ならではの、強力なマッサージ効果。いちど座れば、虜になること請け合いですよ」
「まっぴらごめんですわ」
「いえいえ、ぜひ一度!」
「結構ですわ!」
「そこをなんとか!」
ドガシャアアアアアン!
よくわからない押し問答をしているところへ、電源車が猛スピードで突っ込んできた。
「待たせたな、みんな! 最強のV家電が、いま颯爽と登場!」
運転席から顔を出したのは、特攻野郎・辺木。
脳天から血がぴゅーぴゅー噴き出してるが、大丈夫か?
……あ、お察しのとおり、凜とアロとフリューゲルは、撥ね飛ばされてリタイアしてますんで。
「よし、一撃で3人しとめた! ふだん何の役にも立たない『運転』が、ようやく日の目を見たな! ハンドルをにぎった俺は、いつもの俺ではない! ドライバー魂全開で、かたっぱしからエレクトリカル校舎破壊轢殺パレードじゃー! ふははははははあばーーっ!」
高笑いしながら、辺木はナナシのファイアワークスを喰らって電源車ごと爆発した。
「ふっ……。そんな10tトラック程度の突撃力、こたつ布団で軽く吸収できるのよ」
冷たい笑みを浮かべると、ナナシは再びコタツに身を隠して亀のように廊下を歩いてゆくのだった。
【脱落:神楽、ラファル、アロ、フリューゲル、凜、辺木】
あちこちから爆音が聞こえてくる中、ガイスト(
jb9790)は階段の影に身をひそめていた。
彼が選んだのは、ライト付きシャベル。これまた強引な『家電』だが、近接戦闘において最強の武器とも称されるシャベルを選ぶとは、さすが元軍人。折りたたみ&可動式でピッケルにもなる、ガテン系の心強い味方だ。
それに加えて、階段の影から不意討ちを仕掛けるという慎重かつ狡猾な作戦。
くらえばタダでは済まないが、はたして犠牲となるのは誰か。
そこへ近付いてきたのは、ルル(
jb7910)
武器はライトサーベル(蛍光灯)だ。
なんと、奇跡の照明器具対決!
ガイストのは、照明器具っていうかシャベルが本体だけどな!
「あれは蛍光灯……。よかろう、勝負だ」
小声で呟くと、ガイストは『星の輝き』をライトで強化して、目くらましを仕掛けた。
不意討ち×目くらまし×近接戦闘最強武器=勝利確実!
だが、彼には誤算があった。
なんと、ルルは自らの蛍光灯対策としてサングラスをかけていたのだ。
これでは目くらましが効かない!
なに? 見りゃわかるだろって? たまたま……いやダイスがファンブルしたとかで気付かなかったんだよ!
ともかく、ふっかけてしまったものは仕方ない。
「ええい、行くぞ!」
段差を利用して跳躍し、ルルの頭上からシャベルを振り下ろすガイスト。
「は……っ!? 奇襲!?」
ルルが蛍光灯のスイッチを入れた、その瞬間。
ちいさな太陽でも発生したかのごとき、強烈な光が周囲を染め上げた。
「うおっ、まぶしっ!」
逆に目くらましをくらってしまうガイスト。
しかし戦場で鍛えた勘をもってすれば、目が見えなくても敵の居場所を──
ズバアアアッ!
「グワーッ!」
極度に発熱した蛍光灯が、ガイストを切り裂いた。
なんで割れないんだろ、この蛍光灯。
「ふぅ……肝を冷やしたぞ」
蛍光灯を構えたまま、ルルは階段を上っていった。
しかし、ここで次なる罠が!
なんと、この階段の一番上はルームランナーにすりかえられていたのだ!
しかも、V家電ではなく普通のルームランナー!
だって、魔具は手から離すとアウルが送られなくなって消えちゃうんだよ! 忘れがちだから覚えておいてね!(俺が)
ともあれ、これぞ『魔の13階段の正体はルームランナー作戦』!
こんなワケわからんこと考えつくのは、ラテン・ロロウス(
jb5646)に決まってる! すごいのは、予想外のNGプレイングにも関わらず通常のルームランナーに置き換えても全く支障がないという点だ!
「うわ……っ!?」
動く階段に足をとられて、転んでしまうルル。
「いまだ! ここが勝機! 人は正体不明の物に遭遇すると、とっさに動くことは多分できぬ! 受けてみよ、彗星のように輝く私エレガンツアタック!」
星の輝きを光らせながら、コメットとともにコメットのごとくルルの頭上からコメットするラテンこめっと。
でも蛍光灯の光が強すぎて、なにも見えてない!
ズバアアアッ!
「アバーッ!」
「うむぅ……よくわからん相手だった……」
階段を転げ落ちていくラテンを見下ろしながら、ルルは首をひねるばかりだった。
まぁ、その人は一発芸に命かけてるタイプの芸人なんで……。
【脱落:ガイスト、ラテン】
そんな騒ぎをまるっと無視して、陽波透次(
ja0280)は教室でロボットに話しかけていた。
名前はVアシモン。
透次がこれを選んだ理由は、ほかの参加者たちと全く異なっていた。なんと彼は、『友達になれるかもしれないと思ったから』という理由で、これを選択したのだ。ぼっちをこじらせすぎて、とうとう無機物に友情を求めてしまったのである。
だが、透次は本気だった。
隣同士に座り、肩を組み、青い空を眺め、グラウンドを見下ろし、視線を交わしあい……アシモンとの友情を深める。
このとき、透次は青春を感じていた。
そう、かけがえのない友が出来たと思っていたのだ──
そんな彼を、廊下から見つめる者たちがいた。
鳳夫妻である。
「あれを攻撃するのは、すこし気が引けますねぃ☆」
「いや、ここは戦場。しかも私たちは報酬まで受け取っているのだ。手は抜けない。……やるぞ、蒼姫」
「わかりました。では行きますよぅ☆」
あっさり納得すると、蒼姫は躊躇なくスタンエッジをぶっぱなした。
「トオジさん、アブナイ」
攻撃に気付いたアシモンが、透次を突き飛ばした。
と同時に、スタンエッジがアシモンの頭部に命中。黒い煙を噴いて、彼は倒れた。
「アシモン!? アシモーーーン!!」
動かなくなった『友達』をかかえて、絶叫する透次。
ここが戦場だということを忘れて油断していた彼のミスだ。
「よくも、僕の親友を……! 許さん……! 許さんぞぉぉぉッ!」
無惨にも引き裂かれた友情に、涙の咆哮を絞り上げる透次。
完全に我を失って狂戦士化した彼は、素手で蒼姫に殴りかかる。
「蒼姫は私が守る! 極限まで高まれ、私の小宇宙(アウル)よ!」
静矢が拳を突き上げて、オーラを爆発させた。
これは……平太のときと同じパターン!
ゲェムキュゥブを持ってない透次は、さらに分が悪い!
当然のように放たれる、蒼姫のスタンエッジ。
だが、ここで透次の空蝉が発動! さすがニンジャ!
さらに壁走りによる立体機動からの、影手裏剣烈!
「きゃあっ!」
「ぐああっ!」
蒼姫と静矢は、折りかさなるように倒れた。
「く……っ、大丈夫か、蒼姫」
「静矢さんこそ……」
その仲睦まじい姿が、透次をさらに激昂させる。
「うおおおっ! リア充死すべし! 必殺、ASIMONキーーック!」
怒りの蹴撃が叩きこまれようとした、そのとき。
突然投げ込まれた発煙手榴弾が、あたり一面を煙で覆いつくした。
龍磨のしわざだ。
「くそっ! どこだ! アシモンの仇!」
透次は闇雲に影手裏剣烈を乱射した。
その背後に、龍磨がそっと忍び寄る。
そして、金属バットで後頭部をフルスイング!
当然、空蝉発動!
「そこか! くらえ、ASIMONキーーック!」
「アバーッ!」
強烈な反撃を浴びて、龍磨は沈んだ。
空蝉使える相手に金属バットで殴りかかったのは、ちょっと失敗だったな。
だが無論、バーサーカー状態の透次は止まらない。
すべてを破壊しつくすまで、彼の怒りは収まらないだろう。
「うあああああっ! アシモン! アシモォォォンン!」
「応戦するぞ、蒼姫!」
「はいっ!」
立ちこめる白煙の中を、黒い手裏剣と紫色の光、それに蒼い稲妻が飛び交った。
最後には「行っくですよぅー☆」という声とともに盛大な花火が打ち上げられて──
乱戦の果てに煙が晴れたとき、立っているのは静矢だけだった。
【脱落:龍磨、透次、蒼姫】
残るは9人。
ほぼ無傷で優勝を狙うルルは、慎重に階段を上っていた。
そこに現れたのは、エロスの権化・雁久良霧依(
jb0827)
黒革張りのVマッサージチェアに座り、脚組みしてルルを見下ろす姿は、まるでラスボスのようだ。
「よく来たわね。でも、ここから先へはイかせないわ」
艶めかしく唇を舐めると、霧依はスイッチを入れた。
すると、チェアのあちこちからベルトが飛び出して、両手両脚を拘束。
同時にマッサージ機能が動きだして、全身の敏感部分を超絶技巧で以下略!
「あひいい! らめええ!」
などと嬌声を上げて身もだえしながら、霧依はタウントを発動した。
では、このV家電の機能を説明しよう。このマッサージチェアは、使用者の痴態でタウントの効果を爆発的に高め、効果範囲を校舎全体にまで拡大した上、使用回数を無制限にするのだ! ……って無茶を言うな!
ただし、気絶するまで強制的に連続使用させられる上に、移動も不可能というリスク付き。
(もしかして、この学園は変態ばかりなのか?)
ルルがそう考えるのも、無理なかった。
そんなことは気にもかけず、霧依は勝手に高まってゆく。
やがて限界に達すると、「おほおおお!」とか叫びながら、ぷっしゃあああ!
え、何の音かって!?
言えません!
以下略!
イカりゃく!
「……はっ、いまこそライトサーベルの本領発揮ぞ!」
ルルが蛍光灯の出力をMAXにすると、ほとばしる光がすべてを真っ白にした。
よし、これで霧依の姿は見えない!
「おねーさん、ごめんね……。ケーコートーって紫外線も出るのだ……これだけ強力だと、たぶん日焼けも……。気をつけて……うりゅ」
「……さて。校内はあらかた見てまわった。残るは屋上か」
伴侶を失い、多くのスキルを撃ち尽くした静矢だが、優勝への意欲は崩れてなかった。
が、屋上に出てみて電マ片手に待機している雅人を見たときは、さすがにちょっとだけ『帰ってもいいか……?』と思ったかもしれない。
「ようこそ、私たちのSMショーへ! 出演大歓迎ですよ!」
雅人の発言は、わりと意味不明だった。
「出演する気はない。さぁ武器を取れ。闘争の時間だ! 燃え上がれ、私の小宇宙(コスモ)よ!」
すっかり聖闘士の血に目覚めた静矢は、ノリノリでオーラを解放した。
「いいんですか? こちらには恋音がいます。2対1ですよ?」
「かまわん! 数の不利など、聖闘士の敗因には成り得ない! 行くぞ!」
「わかりました。受けて立ちましょう……この電マで!」
「では、私は……この体重計で戦いますねぇ……」
というわけで、血圧計と電マと体重計で殴りあうことになった。
いまさらだけど、シュールすぎる光景だな……。
「ちょい待ち。そんなおもろそうなバトル、俺も混ぜてぇな」
給水タンクの上から、ゼロ=シュバイツァー(
jb7501)が飛んできた。
彼が選んだのは、AEDだ。しかも魔改造をほどこして、強力な電撃を飛ばせるようにしてある。見かけによらず侮れない武器だ。……まぁそれを言うなら、恋音の体重計も相当ブッ壊れた能力なんだが。
「では、デュエル開始! 私のターン! 喰らえ、鳳凰の羽ばたき……! 紫鳳翔!」
静矢の手から封砲が突き抜けて、恋音と雅人を吹っ飛ばした。
「すかさず私のターン! 吹き飛べ、鳳凰(ペガサス)彗星拳!」
「ちょ、ま、俺のターンちゃうんかぁー!? この牛ィィィ!」
抗議もむなしく、ゼロは血圧計でブン殴られて背中からフェンスに激突した。
静矢WIN! 以上! 圧勝! 終了!
……と言いたいところだが、雅人の手には電マがあった。
これを使えば、快楽を与えつつ回復スキルを大幅に強化できるのだ!
「ふぉおおおお……ヘ、ヘヴンンッ!」
まずは自分に使ってセルフ回復し、賢者タイムに突入する雅人。
そして賢者モードで冷静に恋音を回復。
「ここですか? ここですね? ここをこうすると、回復が早くなりますね!?」
「あふあああ……っ、らめぇぇ、らめれすぅぅ……!」
お約束の展開が始まった。
そのあいだ静矢は何してたんだとか言ってはいけない。こまかいことは気にするな!
「もう俺は怒ったでぇー。おまえらみんな、ビリビリの刑や」
かろうじて生命力が残っていたゼロは、闇の翼で舞い上がった。
そして、大鎌で給水タンクをブチ破る。
屋上は、あっというまに水浸しだ。
「うぅぅ……全身ずぶ濡れですよぉ……」
赤面しながら濡れ透け姿を披露する恋音。
そこに、上空からの電撃が突き刺さった。
「はぅぅぅ……っ!」
漫画みたいなレントゲン撮影状態になって痙攣する恋音。
雅人も静矢も同じ目に遭ってるが、それはどうでもいいので省略。
問題は、闇の翼で上空から電撃を落としてくるゼロに対して、打つ手がないということだ。
『翼』の使用回数が切れるまで耐えるなどという選択をすれば、3人とも死ぬ。ああ、飛行スキル強ぇ。
「うぅ……こうなればぁ……V体重計の真価を見せるしか、ありませんん……!」
恋音は覚悟を決めた。
彼女には、いつも携行している最終兵器がある。
アウルの流れを操作して、おっぱいを超々々々巨大化する薬だ。
この薬と、V体重計の第二機能を併用すれば──
ズゴドドドドシャアアアアア……!!
質量保存の法則を完全に無視した超巨大おっぱいが、廃校舎と周囲数十メートルの空間を押しつぶして、瓦礫の山に変えた。
無論、ゼロも静矢も雅人も、それに恋音自身も、ついでにルルと霧依も巻きこまれている。
なんという大惨事。
【脱落:恋音、雅人、静矢、ゼロ、ルル、霧依】
「……どうやら戦場自体が消滅してしまったようだな。まったく愚かな話だ」
洗濯機のフタをバコッと開けて、笹緒が顔を出した。
周囲は、崩れたコンクリートの山、山、山。
動く者は、ひとりもいない。
「この様子では、さぞかし強力なV家電が使われたのだろうな。しかし天魔との戦いの多くは集団戦であり……今回のテストも、バトルロイヤル形式。なればこそ、求められるのは攻撃力だけでなく、いかに生き残るかということ。必要なのは、サバイバリティにほかならない」
キメ顔で持論を述べる笹緒。
たしかに彼は生き残った。ひたすら洗濯機の中に隠れるという形で。
頭の悪い者は、彼の行為を『逃避』だと責めるかもしれない。
だが、それは的外れな批判だ。笹緒は最初から最後まで、洗濯機の中で孤独な戦いを続けていたのだから。
そう、生き残ることこそが真の戦い!
「苦しい戦いだった……おもに呼吸的な意味で……さて、よっこらしょ」
笹緒は洗濯機から出ようとした。
が──
「で、出られない!?」
愕然とする笹緒。
そもそも最初から窮屈すぎたのだ。なんせ二槽式だからな。
「なぁに、どうってことはない。少々ダイエットすれば……」
そんな笹緒の前に現れたのは、一台のコタツだった。
「こたつ……!? もう7月になろうというのに……っ!?」
「おつかれさま、パンダさん」
ナナシの手からファイアワークスがぶちこまれて、笹緒は洗濯機ごと炎上した。
バトル終了!
優勝は、Vこたつ&ナナシ!
──それからしばらくして。
瓦礫の中から、這い出てくる者がいた。
大型冷蔵庫に隠れ続けていた、桜井明だ。
「なんだこれ、爆撃でも受けたみたいだ。滅茶苦茶だな……。とりあえず、僕はもう降参だよ。降参ー!」
疲れきった表情で、白いハンカチをひらひらさせる明。
だが、どこからも返事はない。
「おーい! だれかいないのかー? 家電の運転試験はどうなったんだ、おおおい! だれかーー!」
彼の呼びかけに応える者は、いなかった。
こうしてひっそりと冷蔵庫最強が証明されたのだが、それを知るのは明だけである。