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マスター:Barracuda
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2015/01/16


みんなの思い出



オープニング


 昼。

 新年を迎えた学園の新聞部部室内で、部長の宮沢勝太はPCのディスプレイを睨んでいた。
「うーむ。どうしたものか……」
 溜息をつきつつ、手で自分の肩をもむ勝太。
 そんな彼の背中が、ふと何者かの影で黒く染まり、影の主と思われる女が、そっと勝太に声をかけた。

「元気か、勝太」
 女の名前はマイ。故あって魔界を捨て、学園に降ったはぐれ悪魔である。
 勝太と同じ新聞部に所属する彼女は、部長である勝太に新年の挨拶に来ていたのだ。
「それにしても、新年早々、面倒な記事の依頼が舞い込んだものだ」
 しかし、勝太は返事どころか、ディスプレイから目を離す気配すら見せなかった。
(やれやれ、お忙しい事だ)
 そんな勝太を見て、マイは内心で溜息をつく。

 勝太は悪意でマイを無視している訳ではない。
 一度仕事に没頭すると、彼は周囲の声が耳に入らなくなるのだ。
 無論、マイもその事は知っている。
 しかし、新年の挨拶を無視されるというのは、決して気分の良いものではない。
 マイは自分の存在を知らせるように、勝太の背中を頭の角で軽くつついた。
「おい勝太」
「締切までの日数も、あまり余裕はないな……」
 しかし、勝太の目はディスプレイから全く離れる気配がない。
 それを見たマイは、自分の両肘を勝太の両肩に乗せて、ぐっと体重をかけた。
「勝太」
「仕方ない。斡旋所に依頼を出すしかなさそうだ」
 しかし、勝太の目はディスプレイから全く離れる気配がない。
 一瞬だけふてくされた表情を浮かべるマイ。しかし、すぐに悪戯っぽい笑みがそれに取って代わった。
「勝・太♪」
「とりあえず仕上げた分だけでもバックアップを取っておくか」
 しかし、勝太の目はディスプレイから全く離れる気配

バチン

「あ゛っ」
 何かの遮断音と同時に、部屋中の電気が落ちた。当然、ディスプレイも真っ黒だ。それを見た勝太の口から潰れた蛙のような悲鳴が漏れた。
「全く、どこの馬鹿だ。誰もいない部屋で、電気をつけっぱなしにするなど」
 そう言ってマイは、部室の入口の傍にあるブレーカーのスイッチを入れ直した。
「マ……マイ。お前、なんて事をしてくれたんだ」
 電源の回復したディスプレイを見つめた勝太が、わななきながら振り返った。
 だが、マイはそんな勝太の非難の言葉などどこ吹く風で、冷蔵庫をあさり始める。
「新年のために取っておいたイロカネ堂のホーニヒバウム、仕方ないから一人で食べるとしよう」
 マイはそう言って「イロカネ堂」とポップな字体でプリントされた箱を冷蔵庫から取り出すと、何食わぬ顔でそれを応接用のテーブルの上に置いた。
「おい、聞いているのかマイ」
「ナイフはどこだったかな」
 そう言って給湯室へと姿を消したマイの背中に向かって、震える声で勝田が言う。
「朝から作成していたデータがパアだぞ! 何てことをしてくれたんだ!」
「勝太め、一体どこで何をしているやら。新年早々、奴が初夢に出てきたから気になって来てやったというのにな。奴の事だ、どうせまた仕事でも引き受けて、一人で頭を抱えているに違いない……」
 給湯室から持ち出したナイフと食器をテーブルに置くと、マイは眉ひとつ動かさずにケーキを大皿によそった。
「記事の執筆で悩んでいるなら、斡旋所に依頼を出すような手に余る仕事を引き受けたのなら、まず私か茜にでも相談すればいいのに。奴の力になれる時、どんなに私が嬉しいか知りもせんのだ、あのバカは」
「う……」
 マイの言葉を聞いて、勝太のつり上がった眉が「ハ」の字にたれ下がった。
「ああショックだ。まさか正月から自棄食いをするとは思わなかった。勝太のバカめ。あんな奴など大嫌いだ」
 切り分けたケーキにフォークを突き刺し、口へと運ぼうとするマイを見て、勝太はうなだれて頭を下げた。
「……悪かった。マイ」
「ふん」
 マイは鼻を鳴らすと、向かいに座った勝太の前に、皿とフォークを置いた。
「バカめ。勝手に取って食え。バカめ。言いたい事はそれだけか。バカめ」
 胸の中の想いを持て余すような口調で、勝太をしきりに罵倒するマイ。
「それで? どんな厄介ごとを引き受けたのだ」
「実は……パンフレットの作成なんだ」
「パンフレットだと?」
「ああ。今年の新入生用に、学園案内の冊子を作って欲しいと頼まれてな。それの作成に追われていた」
「何故お前に? 頼んだのはどこの誰だ?」
 勝太はぽつりと答えた。
「学園長だ」


「……何だと?」
「だから、学園長だ」
「学園長と言うと、その。うちの学園の、一番偉い?」
「他に誰がいる」
 勝太は紅茶を一口で飲み干すと、話を続けた。
「『去年の文化祭は、本当にお疲れ様。君のような素晴らしい学生を持つ事ができて、私も鼻が高いよ。ところで宮沢君。物は相談なんだが、この学園のために、もう一肌脱いではくれないか?』……そう言って頼まれた」
 勝太は頭を抱えて、盛大な溜息をついた。
「パンフレットのタイトルは『Welcome to Kuongahara』でよろしく、だそうだ」
「うむ……それは断れないな。締め切りはいつなのだ?」
「半月後だ」
「ふむ。パンフレットで紹介する施設は幾つある?」
「目ぼしい場所は全て書いてくれと言われた」
「という事は」
 マイは両手を広げ、思い当たるものを指折り数えはじめた。
「部室と教室と購買と屋上、生徒会室に科学室に美術室に転移装置……それらを全部?」
「そうだ」
「それに加え、パンフレットの記事から写真からレイアウトから、全てをやれと?」
「そうだ」
「新学期に始まる学校の授業と、斡旋所の依頼をこなしながら?」
「そうだ」
「うむ。それは斡旋所に依頼を出すのもやむを得んな」
 マイはそう言って自分の食器を給湯室へと下げると、PCの置かれたデスクに腰かけた。
「斡旋所の依頼では、どの部分の執筆を依頼するのだ?」
「学園内の施設を頼もうと思っている。残りは俺がやる予定だ」
「分かった。では、私は手が回らない箇所のサポートに回ろう」
 PCの電源を立ち上げると、マイはバックアップのデータを確認した。
「なるほど。冊子に使う画像を編集していたわけか」
「ああ、そうだ。……良かった、データは無事だったか」
 ケーキを食べ終え、マイの背後からディスプレイを覗き込んだ勝太は、安堵の溜息をついた。
「そのようだな。ところで勝太」
「何だ?」
「この画像、使うレイヤーはこれだけか?」
「いや、まだ3枚ほど追加する」
「それと、この部分。エッジが少し不自然だ。ぼかしを入れるぞ」
「あ、ああ。そうだな」
「何だその顔は。私がPCのソフトを使うのが、そんなにおかしいか?」
「いや、おかしくはない。だが正直……少々驚いている」
 呆気に取られたような勝太の言葉に、マイは薄い笑みを浮かべる。
「私はこの世界で生きていくと決めたのだ。いつまでも剣ばかり磨いているわけにもいくまい」
 それを聞いた勝太の頬が緩んだ。
「マイ……お前は変わったな。随分変わったよ」
「そうかもな……特に、お前と知り合ってからはな」
 ふたりの間に沈黙が流れた。
 マイはそれに耐えかねるように椅子から立ち上がると、カバンと上着を取って勝太に差し出した。
「ほら。さっさと斡旋所に依頼を出してこい」
「ああ、そうするよ。……マイ」
「何だ?」
「ありがとう。今年もよろしくな」
 勝太はマイを抱きしめると、背中を軽く叩いた。
 マイも勝太を抱きしめた。
「ああ、よろしく。いい一年にしよう、勝太」


リプレイ本文


「よし。担当するエリアは把握した」
 依頼を受けて新聞部室に集まった8人の撃退士を前に、依頼主の宮沢勝太が言った。
「原稿が完成したら、俺かマイに渡してくれ。それでは、よろしく頼む」
「ふ……何も心配はいらない」
 ビジネススーツを着こなした英 知之(jb4153)が、不敵な笑みを浮かべて眼鏡を直した。
「エリート(自称)に任せるがいい!」
 勝太に向かってそう高らかに宣言すると、英ら8人の撃退士は、担当の場所へと向かった。


(学園長……業者さんに頼みましょうよ)
 雫(ja1894)は内心でため息をつきつつ、カメラを片手に写真を撮っていた。
 彼女が向かった先は部室――文字通り、大小様々な部室の集うエリアの総称である。
 彼女はまず、部活動の概要とアイテム交換について書くことにした。

「えーと……『此処では学園内の交友を広げる事の他に、情報や欲しい魔具や魔装の交換等も行われています』」
 ほとんどの新入生は、最初は購買で購入できる装備を持つのが普通だ。だが、ある程度実力がついてくれば、良い装備が欲しくなるのが人の性というもの。そんなとき助けになるのが、部室内で行われるアイテム交換だ。
『交換とは読んで名の如く、余った装備、不要になった装備を各自が持ち寄って、部員同士で交換することです。中には交換を専門に行っている部も複数存在しますので、装備の性能やレアリティに応じた部を利用すると良いでしょう』

 次に彼女が書いたのは、宿泊施設と寮の記事である。
『名目は部室として登録していますが、宿泊施設や寮なんかもあります。此処が活発になるのは、大規模作戦が発動される時と妙なイベントが起きた時です』
 おりしも今は、大規模作戦の最中である。周囲の界隈では、張り詰めた空気と共に大勢の撃退士があちこちで作戦を練っていた。
『入学したてで右も左も分からないような時、大規模で集団行動を取りたい時などは、この場所を活用してみましょう』
 ここまで書いて、雫は最後に一筆付け加えることにした。
『真偽が確かな情報ではありませんが、バレンタインデーやクリスマスの等の恋人達のイベントになると這い出て来る団体の本拠地も此処にあるなんて聞きます。恋人と素敵な学園生活を送りたい! と考えている人は、注意しましょう』
 その後、幾つかの寮からコメントを貰い、もう一度最後に参加者やクラブの写真を撮ると、雫は部室を後にした。


 一方その頃、教室では只野黒子(ja0049)が室内の写真を収めていた。
(単なる説明ではなく、新入生が読むのだという事を念頭に置いた記事を書かないといけませんね)
 黒子は要点をかいつまんだ、分かりやすい文章を書くようにした。

「『ここ教室では、依頼参加の他、過去の報告書から情報収集が可能。特に今に至る世界の流れの詳細、敵の特徴や特性も収集が可能』……と」
 天魔との戦いでは、情報の蓄積が大きくものをいう。強力な敵であれば尚更だ。戦闘のない依頼であっても、丁寧に情報を追っていけば、出発前に凡その解決策が導かれることが多い。
『依頼参加の際、相談は義務ではない。が、意思疎通による連携の有無は個人の力を引き上げる事ができる。余程の実力がない限りは5W1H程度の表明だけでもしておくのを推奨したい。出発前から依頼は既に始まっている』
 ひとりで出来ることには限界がある。だが、仲間と連携を図れれば、その力は何倍にもなる。達成目標が分散している依頼や、多数の天魔を相手取るような依頼では尚更だ。
「こんなところですかね」
 自分の記事で新入生達が少しでも成果をあげてくれるといい。そう願いつつ、黒子は教室の記事を書き終えた。


 彼岸桜・影弥(jb8295)が屋上に着くと、少し離れた場所でカメラを手にした影野 恭弥(ja0018)が撮影を行っていた。撮影位置とカメラのアングルから見るに、学園の全体像を収める写真を撮っているようだ。
 それを見た彼岸桜は俄かに緊張した。実は今回の仕事は、彼女の初依頼なのだ。
(ボクにもできるかな……?)
 メモ帳とペンを手に、彼岸桜は記事の構想を練り始めた。

『屋上は、皆が新しい技を教えてもらったり、己の技を鍛えたりすることができる場所。 他者とは違うオリジナルスキルを作ることもできる。任務をこなし、腕を磨くほど、扱えるスキルは増える。中には、手強い天魔を一撃で吹き飛ばす強力なものも少なくない……』
 簡潔な解説を書いたところで、ふと彼岸桜の頭にひとつの疑問が浮かんだ。
 さっそく彼女はそれを書き綴る。
『この学園は人数が多い、同じ時間に訓練する者も多いだろう。それなのに、屋上は壊れない。何故なのだろうか? ある者は、屋上にいる忍者が密かに直していると言い、またある者は、この校舎は絶対に壊れない特別な物質で出来ているのだと言う話だが……』
 折しも彼女の前方では、ちょうど一組の撃退士がスキルの練習をしている最中だった。
 見たところ、ふたりともかなりの遣い手のようだ。
(これはチャンスだ。手がかりを得られるかもしれない)
 練習中の撃退士達に視線を向ける彼岸桜。数秒の空白の後、ふいに上空に複数の巨大な魔方陣が現れた。それに応じるように宙に浮く門が出現し、開いた門の中から鱗の生えた巨大な竜の腕が姿を見せた。
(あれは……テラ・マギカと竜王召喚だ!)
 彼岸桜は身震いした。いずれもベテラン撃退士にしか扱えない、高威力の攻撃スキルだ。
 決定的瞬間を見逃すまいと、固唾を呑んで見守る彼岸桜。直後、衝撃と共に土埃が舞い、彼女の視界が遮られる。
 程なくして視界が晴れ、視線を戻すと……やはり、屋上は無傷だ。
(これは一体……どういう事なんだ)
 真相を暴けなかった無念さを噛みしめつつ、彼岸桜は文章を綴った。
「『威力の高い技を連発しても壊れない、この校舎は何でできているのか。学園関係者に是非聞いてみたいと思う』……こんなところかな?」
 そこまで言って、彼岸桜はふと、大事なことを思い出した。あれを書くのを忘れていた。
「『購買で引換券を入手すると、もっふもふの召喚獣を召喚できるようになるらしい』……と」
 こうして彼女は、文章を締めくくった。


 一方、その頃。

 英は、愛用のノートPCを手に、生徒会室を訪れていた。
 室内の空いた机に座り、電源を入れたPCのキーボードに指先を添える英。ふいに指先が消えたかと思うと、間をおいてタイピングの音が室内に響いた。
「ふ……3割、といったところか。だが何も問題はない!」
 英は大きく深呼吸をすると、流れるような早さで文章を作成し始めた。

『生徒会室で出来ることは、主に二つ』
『ひとつは、生徒図鑑とNPC図鑑の閲覧だ。「生徒図鑑」は読んで字の如く、登録した生徒のプロフィールが、そしてもう一方のNPC図鑑の「NPC」とは、「Names and Profiles of Celebrity」の略。即ち久遠ヶ原学園の教員や、有名な生徒のプロフィールが集まっている。たまにゲーム用語のNPC、「Non Player Character」と考えている者もいるようだ』……ふはは! 筆が進む、進むぞ!」
 この学園に関するデータは、完璧に頭に叩き込んである。学園の設立年月日から、在籍している生徒ひとりひとりの名前と番号まで、全部だ。たとえ100人の新入生から質問攻めにされようとも、その全てに答えきる自身が彼にはあった。

『もうひとつは、学園に入学した際に決めたジョブ(専攻)の変更申請だ。専攻を変えることで、新しい戦闘スタイルを模索してみたり、複数のジョブを兼ねる事を目指してみる生徒もいる……』
 残像が見えかねないスピードでキーボードを叩きながら、英はさらに説明を続ける。
『なお、生徒会のメンバーに会う事は難しい。彼らは学校中を駆け回っており、この部屋にいる事はあまりないのだ。いつも出迎えてくれる会長も、実は学園が技術を結集させた影武者ロボット……という説もあるらしい』

 僅か数十秒で記事を書き上げ誤字脱字のチェックを終えると、英は会心の笑みを浮かべた。
「……完成だ……! 今日もいい仕事をした。この僕にかかれば、この程度の仕事などa piece of cake同然だ!」
 受けた依頼は完璧にこなす。それがエリート(自称)たる英の流儀なのだ。


「ふむ……」
 科学室の中で、ファーフナー(jb7826)は若干途方にくれていた。
 彼のようなワーカホリックにとって、戦闘系の依頼が減る年末年始の学園内は極めて居心地が悪い。帰る場所もなく、没頭できるような仕事もなく、時間を持て余してしまうからだ。暇な時間を苦痛に感じた彼は、一時でもそこから逃れるためにこの依頼を受けた。だが、これまで書き物とは無縁の人生を送ってきた彼にとって、他人に向けた文章を書くのはなかなかに難しい作業だった。
 しかし、悩んでいても何も始まらない。とりあえず彼は、ペンを動かすことにした。

『ここ科学室では、購買で揃えた武装の強化を行える。強化には資金が要るため、易しい依頼等で資金を貯めることが必要となる。中では門木という教師が出迎えてくれるので、不明点があれば尋ねてみるとよいだろう』
 まずは簡潔に解説文を書いてみる。だが、これではいかにも味気ない。
 と、その時――
「うぎゃああああ!」
 不意に背後から聞こえる断末魔の悲鳴。振り返ると、そこにはくず鉄を前に崩れ落ちる生徒の姿があった。すかさずファーフナーはデジカメのシャッターを切り、眼前で起こったことをそのまま紙面に書いた。
『強化を行えば戦闘を有利に運ぶことができるが、強化回数を重ねていくと、必要資金も増え、失敗確率も高まる。大失敗すると、貴重な武装がくず鉄と化すこともある。どこまで強化を行うかは自己判断による』
 くず鉄を前に魂の抜けた表情を浮かべる生徒の背後には、額縁に収められた生徒達の肖像画が飾られていた。

――あれも記事にしてみるか。
 ファーフナーはペンを走らせた。
『大失敗100回を数えると、科学室に肖像画が飾られる。それを名誉なことと思うか、資金の無駄であると考えるかは、各自の価値観による』
 他に何かネタになりそうなものはないだろうか。そう思って辺りを見回すと、そこから少し離れた場所では、科学室の職員と利用者の生徒が何やら言い争っているのが見えた。
「改造申請却下? 何で!?」
「解説の項目、『相手は死ぬ』では受理できない、だそうです」
 生徒はがっくりと肩を落とすと、職員に手を差し出した。
「……もう一度申請します。用紙下さい」
「はい。お支払いは……」
「お金がないので、単位で」
 そんなふたりのやり取りを眺めながら、ファーフナーは記事の最後を締めくくった。
『武装は、強化だけでなく改造を行うことも可能である。自らの得物を、他人と差別化を行いたい場合などに使用するとよいだろう……ここ科学室では、何を置いても、資金が必要となるため、依頼に励む必要がある。キャンペーン期間も存在するため、情報収集・予測能力を養うとよい』

――こんなところか。丁度いい時間つぶしだったな。
 そう思いつつ、ファーフナーは科学室を後にした。


 美術室では、藤井 雪彦(jb4731)と駿河 紗雪(ja7147)のふたりが記事を書いていた。
「ボクと紗雪ちゃんが紹介するのは〜美術室でーっす☆」
 そう言って、雪彦はペンを片手にすらすらと記事を書いてゆく。
「『此処では、自分の絵を描いてもらえちゃったりするのです☆ 学生証も発行してくれるよ♪ 依頼で活躍した時にそのメンバーで記念写真を撮ったり〜また恋人達の思い出を紡いだりすることもできます☆』……っと」
 美術室の概要を開設する雪彦の記述の後ろに、紗雪がさらに文章を書き加える。
「『ここは学園生活の思い出を刻む重要な場所なのです。何かを形に残しておくのは素敵なこと……多くの思い出をみなさんが刻めると良いと思うのですよー♪』……ぇっと、こんな感じで……どう?」
「うん、文句なしだよ紗雪ちゃん! 満点だよ!」
「ぇへへ〜」
 紗雪ははにかんだ笑みを浮かべつつ、デジカメで記事用の写真を撮り始めた。

 それから十数分後。
 写真を撮り終えた紗雪が、雪彦を手招きした。
「雪君……一緒に写真とりませんか?」
「え? し、写真? ボクと一緒に?」
 思わず声が裏返る雪彦に向かって、紗雪がこくりと頷く。
「雪君、雪君もっちょっと近くきてください……」
「こ……このくらいかな?」
「ぃえ、もーっちょっと、顔も寄せてください。入りませんから」
 雪彦に密着し、カメラのフレームに二人が入るよう背伸びして腕を伸ばすと、紗雪はシャッターを切った。
「『こうやって、写真などのデータを参照として提出すると、より明確な一枚へと仕上げて貰える』……のですよね♪」
「うんうん。此処で生活を送っていくと色々な思い出が生まれていく……それを残す事ができるのがこの美術室の良いところなのさ〜」
 紗雪の言葉に頷きながら、記事を書き綴る雪彦。
「『依頼で活躍した時にそのメンバーで記念写真を撮ったり〜また恋人達の思い出を紡いだりすることもできます』、と☆ そうそう、ボクと紗雪ちゃんの初めての思い出もここで形にしてもらったんだ♪」

 雪彦の眼前に、紗雪に告白した夜のワンシーンが描き出された。
(あれは、世の中が聖夜の宴に酔いしれる時……煌めくイルミネーションの前でボクは気持ちを伝えたんだ!)
(『紗雪ちゃんの事が……ずっと好きだったんだ……』ってそう言った後に紗雪ちゃんの方を見たらうっとりとした眼差しの後にニッコリとボクに微笑んでくれた……)

「ボクと紗雪ちゃんの気持ちが通じ合った瞬間だったね☆ それをここ、美術室で写真にしてもらったんだーへへへ☆ ね、紗雪ちゃん?」
 雪彦の問いに、笑顔で応じる紗雪。彼女の眼前にも、雪彦と同じシーンが描き出された。
(あのイルミネーション、綺麗だったのですよ。ずっと見損ねていたので、凄く嬉しかったのです)
(あの時丁度、雪君が背にしていたツリー……オルゴールと一緒に点滅し始めて凄く綺麗でした。うっとりして見惚れちゃって……)
(そういえば雪君、あのときツリーを見ていませんでしたね。何をしていたんでしょうか?)

 内心で首をかしげながら、紗雪は雪彦に微笑んだ。
「また何か残せると良いですね、雪君」
 頷く雪彦。
「『此処で生活を送っていくと色々な思い出が生まれていく。それを残す事ができるのがこの美術室の良いところなのさ〜』……っと!」
 こうして記事を書き上げたふたりは、美術室を後にした。


 撃退士達の書いた原稿を受け取り、チェックを終えた勝太から依頼の結果が告げられた。
 結果は……問題なし。依頼成功である。
「ありがとう。どれも素晴らしい記事だった。おかげで良いパンフレットが出来そうだ」
 勝太からの感謝の言葉を受け、撃退士達は帰路へとついた。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:2人

God of Snipe・
影野 恭弥(ja0018)

卒業 男 インフィルトレイター
新世界への扉・
只野黒子(ja0049)

高等部1年1組 女 ルインズブレイド
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
君との消えない思い出を・
駿河 紗雪(ja7147)

卒業 女 アストラルヴァンガード
エリート(自称)・
英 知之(jb4153)

大学部7年268組 男 ダアト
君との消えない思い出を・
藤井 雪彦(jb4731)

卒業 男 陰陽師
されど、朝は来る・
ファーフナー(jb7826)

大学部5年5組 男 アカシックレコーダー:タイプA
The witness・
彼岸桜・影弥(jb8295)

大学部4年33組 女 アストラルヴァンガード