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マスター:哀歌
シナリオ形態:イベント
難易度:非常に難しい
形態:
参加人数:50人
サポート:5人
リプレイ完成日時:2013/05/02


みんなの思い出



オープニング

●新たな年に降臨する脅威
 年明けの街。朝の冷たい空気。誰もが新しい年を迎えたその時、一人の天使が静かな街を見下ろしていた。彼自身も静かに街を眺めながら。
「……人の子は、随分と楽しげだな。新たな年を迎えた事がそんなに嬉しいか」
 見下ろす街中では家族連れや恋人同士など、楽しげに笑う人達が大勢居る。普通の人間ならばその光景を見て顔を綻ばせるのだろうが……この天使は違った。
 顔をしかめて、苛立たしげに眼下の人々を見据える。
「無駄な、あまりに無駄な感情の発露だ。その感情は、その力は本来我等天界のものだぞ……やはり管理せねばならんな。我等正しく管理し搾取しなければならない」
 そして天使は五体のサーバントを呼び出す。全てが人型の形を取っており、それぞれ特徴が違う。
 この天使が管理している特別なサーバントなのだろう。少なくとも放し飼いされているような存在ではない。
 そしてその背後に控える十五匹の狼型サーバント。強さは先の五匹程ではない様だが、その数は無視できない。
「まずは間引かなくては。その後シュトラッサーを派遣しゲートを作成する……さあ行け、我が僕達。眼下の人間共を駆逐しろ――」

●脅威を討つ為に
「新年早々すみませんが緊急の仕事です。街中に五体と十五匹のサーバントが姿を現し、一般市民を襲っています。既に戦闘不能になった撃退士も居て……かなりの強さのようです。現場に急行してください」
 権田藁米子は焦りを前面に出し、口早に撃退士達に事情を説明した。
 突如出現した五体と十五匹のサーバント。それはそれぞれ異なる能力を持つ強力な個体らしい。
「市民の避難は私も赴いて何とかします。皆さんは五体と十五匹、計二十のサーバントを何としても倒してください……正直、市民の避難と戦闘を同時にはこなせません。出来る限りの避難活動は行いますが、皆さんが敵を逃がした時点で犠牲者が出ると思ってください」
 既に米子も準備を整え終えてある。
 それだけ今回の相手は強力で油断のならない相手であるようだ。
「敵の詳しい能力は現場に向かいながら説明します――行きましょう。折角の新年を血で汚す訳にはいかないのですから」


リプレイ本文


 新春セール。新年のお慶びを。本年も百貨店を――

 カラリと晴れた正月の空。
 看板が宙を舞い、その下で人々が逃げ惑う。
 避難入り乱れ、交通網はストップ。横転するトラック、乗用車、下敷きになった一般人を救助する撃退士の姿。
 視界の開けた交差点、そこに倒すべき敵がいる――狼サーバントの群れ、咆哮。それを率いる5体の人型サーバント。

 何故。

 それを問うている時間はなかった。




 久遠ヶ原撃退士の一団が、緊急招集を受けて現場へ到着した。その数、50。
 ディメンションサークルによる目標地点からのズレを活用し、そのまま交差点を四方から固めるよう突入を始める。
「この案で、敵の離脱を阻止できるといいのですが」
 単純な数だけでいえば撃退士側に利がある。
 それでも拭いきれない不安を胸に、御堂・玲獅(ja0388)は戦場を見据えた。

「……う〜わ多いな。でもまぁ、新年そうそう負けるわけにもいかないよな」
 のんびりとした口調で、久瀬 悠人(jb0684)は現状を確認する。
 空から降ってわいたかように、侵入経路不明で暴れるサーバント達。
 奴らがこの先、どのように攻撃を広げてゆくのか見当を付けることは難しい。
 四方から囲むことには成功した。さあ、勝負はここからだ。
 個別に特殊能力を持つという人型たちは、一目でそれと解る外見をしていることがありがたい。
(そいじゃ、軽く行きますかね)
 道すがらの打ち合わせで大まかな作戦は立ててある。
 しかし敵の実態が未知数である以上は無理な突出は控えるべきだろう。
 中でも厄介な存在の、『万能型』―― 仲間たちがそれぞれの敵を倒し、合流するまでに攻撃の癖、動きの『型』を掴めれば。
 『罰の十字架』の名を背負う大剣を手に、悠人は混乱の極みへと身を投じた。
 

(新年早々ですか……。さすがに天魔に新年は関係ないようですね)
 七瀬 桜子(ja0400)は双剣を手に、避難する人々を庇うよう立ち回り、
「ここから先はいかせません! 人に害をなすならば私は誰とでも戦います!」
 飛びかかる狼へシールドを展開し、その牙を止める。
「助けを求める人達の為に――」
 桜子と共に、ファティナ・V・アイゼンブルク(ja0454)は魔術師の配下である狼の足止めを担う。
 他部隊に所属し同じ戦いに身を投じている義姉妹たちが気にかからないわけではない。が――
(信じていますよ)
 必ずや、笑顔で合流できることを。



●銀の盾たる騎士
「……連携を止めるのが鍵」
 橋場 アトリアーナ(ja1403)が真っ先に向かうのは、銀の騎士。
 剣と盾を構える、西欧の騎士のような出で立ち。仲間に結界を張り、防御力を高める能力を持つというから厄介だ。
「敵の連携の一角を切り崩す為にも、まずは回復役である騎士型を倒すこととしましょう」
 並走する楊 玲花(ja0249)は頷き一つ。
 主を護るよう立ち回るという狼だが、敵と認識するものが接近して大人しく周辺を徘徊しているわけではない。攻撃こそ防御となろう。
「その為にも――」
 牙を剥き迫りくる狼へ放つは、目隠の術。
「露払い位はさせてもらう……!」
 重体の身で駆けつけている中津 謳華(ja4212)が、後方からの援護を。
 本来の力を発揮できないこと。
 万が一の時は、足でまといになる前に引く事も覚悟しておかなくてはいけない。
 それでも。
 それでも、だ。
「中津荒神流は戦場の武…… 死に体とてそれは変わらぬ!」
 逃げるしか出来ない人々に、戦場を共にする仲間たちに、恥じるような動きはすまい。
(……ともすれば、機であるやもしれぬな)
 体術をメインとし、前線で戦うことの多い謳華にとって、視野を広くとり後方で武具を扱うこと。
 一撃を受ければ危うい状況だからこそ、神経をより研ぎ澄ませる必要性。
 充分に動けない悔しさも含め、己の糧となろう。
(せめて、支援位にはなるよう…… 次があれば、必ずや)
 アウルの矢を番える指先に力を込める。
 次に、この仲間たちと戦場を共にすることがあれば、必ずや。
 借りを返す。十全の力を出す。
 誓いを胸に、謳華は矢を放つ。
「おっと、みんなの邪魔はさせないよ?」
 跳躍で撃退士たちの輪を抜けようとする狼へ、ジェラルド&ブラックパレード(ja9284)が足技で止める。
「こういう所をきっちりと…… 大事だよねぇ♪」
 サーバント一体たりとも、避難中の一般人へと向かわせてはいけない。交差点という檻に閉じ込め、逃してはいけない。それが今回のミッション。
「ふむ…… まったく、休まる暇もないねぇ」
 ジェラルドは苦く笑い、そう簡単に力で捩じ伏せることのできない狼へ、闘気解放による底上げで仕留めにかかった。
「狼は任せた! こちらは騎士を穿つ!!」
 大炊御門 菫(ja0436)はクライシュ・アラフマン(ja0515)と共に先陣を切り騎士へと向かう。
「まずは、手下共と引き剥がすか」
 クライシュは低く呟き、剣を振りぬく。
 剣先から竜の姿をした光の波が生じ、こちらを敵と認識した騎士を吹き飛ばした。

(……駄目ね。やっぱり、人が多いのは、苦手)
 霧原 沙希(ja3448)が学園主導の大規模作戦以外で、こんな大きな戦闘任務に出撃するのは今回が初めてだ。
「……せめて、迷惑にだけはなりたくないわ」
 協調して動きを取れるか自信がない。
 かといって、無作為に作戦へ参加したわけじゃないのだ。
(……最初から、全力で)
 玲花やジェラルドが狼の足止めをする中、銀の騎士を目指し沙希は駆ける。
 制しきれない狼に襲われようが、進みを止めず突貫する。
「……ッアァアアアア!!!」
 その叫びは痛みか、あるいは高揚か――。不意に、無鉄砲に見える沙希の、その体を後ろから柔らかな光が包んだ。
「共に行きましょう。騎士の能力は、私が封印いたします」
 追いついた玲獅が、沙希へアウルの鎧を掛ける。
「……あ」
「行きましょう」
 ありがとう、の言葉が喉につかえてすぐに出てこない。
 気にしなくていい、言外に玲獅は伝え、そのままシールゾーンを発動する。
(守備力が高いということは、まず回避はしないのでしょう)
 当たれば、結界や回復といった一番厄介なスキル能力を封じることができる。
 玲獅のモーションへ盾を構える騎士。予測通りの『的』となる!
 沙希は勢いのまま騎士ヘ拳底を叩きこむ。クライシュ、菫の押しに加えての追撃で、騎士が指揮する狼、そしてフォロー対象の他の人型から引き離す。
「……私は、砕くだけ…………!!」
 獣の如き絶叫で、黒耀砕撃発動による切り刻まれるような痛みを振り払い。沙希は攻撃を繰り出す。
 防御を固めるというのなら、それでもいい。
 いずれ攻撃をしなければ、倒すことはできないのだから。
「……どんなに硬くてもボクには関係ない。只、打ち砕く」
 アトリアーナは戦槌を手に、紅い残光を散らして騎士へ飛びかかる。
「……当たれば、どうということはない」
 防御力を過信するだけの知能があれば、盾を繰り出してくるだろう。
 そこへ付け込んでの、徹し。自慢の防御もろとも叩き潰せ!

 ストライクショットで狼を突破した菊開 すみれ(ja6392)の銃口が、続けて騎士へ向けられる。
(一般の人たちを傷つけさせたりなんか、しない……!)
 普段の柔らかな雰囲気とは対照的に、武器を手にするすみれの意思は、決意を秘める眼差しは、力強いものとなる。
 沙希の攻撃を半身でかわし、騎士の剣が振り下ろされる。その、タイミングですみれは自らを押しこむ。
「明音ちゃん! 続けて攻撃お願い!!」
 視界が赤く染まる。沙希のものか、自身のものか――痛みに耐え、撃ち込んだ精密殺撃。
 すみれの声に、友人である宮本明音(ja5435)が応じた。光纏が、龍舌蘭の花弁のごとく光りを散らす。
「一気に行きます!」
 狙うは短期決着。畳みかけるように鳳仙花による火球を吐き出す。
「怪獣みたいって、言いっこナシですよっ」
「まだ言っていない」
 クスリと一瞬だけの笑みをすぐに引き締め、菫が先を引き受ける。
「菫、同時に一点を狙うぞ、構えろ!」
「任せろ、何時でも行ける!」
 クライシュに呼応し、菫は短槍を模したレーヴァテインを騎士に向ける。
 レーヴァテインを、アウルの靄が包み込む。

「吹き飛べ!! 貴様らが穢していい土地に非ず!」

 ―― 一 閃 。
 【鳴雷月】の爆音に、聖火を乗せたエネルギーブレードが走る。
 創世の槍と破滅の刃とが交差、白銀の騎士を押す。
「しぶといな」
 白面の下、クライシュが舌打ちをこぼす。
「何度でも立ち塞がればいいだけだ」
 倒しきれない騎士を相手に、菫は瞬き一つせずに剣を受け止めきる。
 そこへ、騎士の足元に、棒手裏剣が放たれる。――玲花だ。
「こちらの狼は撃破しました!」
 機動力を生かし側面へ回り込むと、騎士に対し影縛りの術を試みる。
 狼対応に回っていたメンバーたちも、周辺警戒を解かないまま合流してくる。
「堅そうだねぇ♪」
 これだけ火力に自信のあるメンバーで押しても、尚、立っているとは。
 ジェラルドは好戦的な表情を浮かべた。



●踊る光の魔術師
 雷鳴、そして波状の電撃が地を襲う。
「まったく、新年闇鍋会がいい所だったと言うのにねえ」
 お楽しみのところを駆り出しとなった鷺谷 明(ja0776)は、少々ご立腹といった様子で雷撃から身をかわす。
(もう一つの攻撃手段であるという光線は回避困難との情報だったけど、範囲技となると粗が出るか)
「まあ、戦闘は戦闘で愉しむからいいんだけどね」
 呼び出されたとて応じず闇鍋に耽る選択肢もあったのだ。
 選び取った以上、相応に愉しんで帰らなければ割に合わない。
「この交差点を鍋底とするのも悪くあるまい」
 長距離射程の攻撃があるからと怯んでいてはどうにもならないし面白くない。
 明は範囲魔法発動後の隙を縫って距離を縮める。
「来たれ紅蓮、フリームスルス」
 絶対零度を体現する古の霜の巨人へと明は変化して、凍てつく反撃を繰り出す。
「天界の眷族には堪えるだろう?」
 他方。
 神月 熾弦(ja0358)が星晶飛鳥を放つ。ガラスの羽を持つ鳥が魔術師を襲う。
「……ッ」
(魔術師型、と称するだけ、魔法耐性や回避能力に優れているということでしょうか……)
 立て続けの攻撃を回避され、熾弦は歯を食いしばる。
 しかし魔法に耐性があるのは熾弦とて同じこと。
 下がることはせず、前線の回復手として力を振るう。
 明と熾弦が挟み打ちをする、その合間からアウル弾が飛び込んだ。
「射撃屋の本領は撃つだけ、……スナイパーライフルじゃないが!」
 ロングレンジショットで射程を延ばし、ライフル風にカスタムしたオートマチックP37による長距離射撃。
 新田原 護(ja0410)だ。


 向坂 玲治(ja6214)が、クイと指で手招きをして狼へタウントをかける。
「新年早々ご苦労なこった。ほら、遊んでやるよ」
 天界の眷族の壁として、うってつけの能力だ。 
 直線攻撃の的となっても被害を最小限にとどめるよう視野を広く持ちながら、玲治はウォーハンマーを振り回す。
「よそ見してんじゃねぇよ!」
 真っ先に狼対応にあたっていた桜子を庇う様、さりげなく立ち回る。
「回復は、もう少しあとにとっておくといい」
 玲治も桜子も、魔法耐性は高い。
 魔術師戦が激化した時、そしてその後にも控える戦いを思えば、凌げる部分は凌いでおくべきだ。
 頷きを返し、防戦に回っていた桜子も攻撃へ転じる。
 双璧をなす二人の後ろからは柏木 優雨(ja2101)が援護の魔法を走らせる。
「蹴散らして……出来るだけ、早く、向こうに合流するの」



「早いところ、こちらは畳んでおきたいね」
 明は腕を獣のそれへと変化させ、魔術師の背後からアイアンクローを仕掛ける、が
「――くっ だから面倒なんだ」
 充分に引き離しをしたといえ、結局は交差点という閉鎖されたフィールド。
 騎士による『結界』が魔術師へ張られ、明の攻撃を拒絶する。
 騎士対応班の奮戦も遠巻きに確認できる。
 恐らく、これで敵の能力を防げている方になのだろう。でなければ、結界なんて連発されていたに違いない。
 明が再度踏み込む、魔術師のローブを裂く、あらわになった真白の腕が―― 光線を放った。その、先は。
「嘘だろ…… 勘弁しろよ!」
 光線の先を目で追った護が悲鳴を上げた。

 30mを走る光の矢。
 穿つのは―― 撃退士たちの合間を縫って、逃げてゆく人の背であった。

「…………!」
 ファティナが大きく目を見開く。
 避難誘導の撃退士が庇いに入り、最悪のケースは回避できたよう、だけれど…… アスファルトに散る鮮血は、間違いなく力無き人の子のものだ。
「万能、型……」
 この戦場において。
 眼前の撃退士ではなく、当初の目的であった『人間を狙う』行動を優先させる――そんな知能、指示を与える存在と言えば。
 自分たちは魔術師を相手取っているが、敵全体でいえばそればかりではない。
 物理的な行動を止めることはできても、天魔の間で交わされる指示を防ぐことはあまりにも難しい。
「これで…… 3匹め!」
 テレジア・ホルシュタイン(ja1526)が、場にいる最後の狼をアウルの矢で貫いた。
「二度目はさせません!」
 それは悲痛な叫びだ。
 魔術師を相手取る、全ての撃退士たちの叫びだ。
 油断をしていたわけではない。
 慢心があったわけでもない。
 一般市民を襲っている―― 敵の目的の、根本の根本。
 天使でもなく使徒でもなく意思持たぬサーバントの、追いつめられた際にとる判断は何か―― そこだ。
「無茶は覚悟の上、そのくらいしなければ倒せない敵もいますから……!」
 ファティナの胸に、苦い物が走る。
 繰り返してなるものか。繰り返してなるものか!!
 光線が来たとて回避しやすいよう、ジグザグに進みながら、ファティナは振るう杖の行く先を注視する。
 くるりと回転した杖が横薙ぎに動き、再びの電撃派。マジックシールドで凌ぎ、
「魔術使いの武器が魔法だけだなんて…… いつから錯覚していましたか?」
 ファティナが繰り出すのは黄金の柄の片手剣。
「私は……進みます。本当の意味で護り抜けるように。大切な人たちの信頼に足るように!!」
 返す刀で杖を狙う。防がれたところへ、駆けつけた優雨の斧槍が交差し、杖を破壊した。
 魔術師は口を動かすが、黒いローブの下、言葉とは成らない。



●見えざる射手
 身を隠すに困ることのない、高層ビル街。戦いの喧騒。
 その中を駆け抜けながら、高所より矢を放つという弓兵を探す。
「おい…… 私の新年食っちゃ寝計画が頓挫したじゃない……。 もうちょっと空気読め、おバカ!」
 心情を新年の空に向けて吐露するのは歪みなき魂のフレイヤ(ja0715)。
「高いところは得意な方に任せるわ。地上の浄化はたしょg 黄昏の魔女に任せなさい」
「噛んだか」
「噛んだねぇ」
「噛んでにゃい!」
「「噛んだ」」
 リョウ(ja0563)、雨宮 歩(ja3810)の静かな視線に反論しきれぬ魔女である。
 ともあれ。
(街の中心部にこれ程の敵が……。時間が経っていないという事は、上位者が近くにいるのか……?)
 リョウは注意深く視線を走らせる。
 街中の交差点で起きた惨劇。
 このフィールドを飛び出し、更なる襲撃を行なう可能性の高いのが弓兵だという。
 サーバント単独の判断ではあるまい。
 何処かしらで指揮する存在があると考えて然るべき――が、それを追うよりは撃破が早い、か。
「逃走に使いそうな場所へ分身を配置してくる。初手で矢が発射されたのはここか」
「建物間を移動するとして…… 抑えるのは、この辺りだろうねぇ」
 リョウ、歩、緋伝 璃狗(ja0014)らの鬼道忍軍がそれぞれの回り込む場所を確認し合う。
「歩ちゃん」
「……姉さん」
 リョウの考えを汲んだ上で弓兵の探索へ向かうべく単独行動を取ろうとした歩へ、雨宮 祈羅(ja7600)が呼びかける。
 アマミヤとアメミヤ。二人の『雨宮』に血縁関係はない、が……大切な縁で結ばれている。『姉さん』なんて呼び方も、親しみの表現。
「無茶しないで」
「心配させるけど、それでも、ボクは行くよ」
 この状況で、誰もが無茶をしないわけにはいかない。
 適材適所、自分の能力を生かせる場所であるのならなおのこと。
「歩ちゃんは、うちが絶対守るよ」
「うん、頼りにしてるさぁ」
「だから」
「早く見つけて、引きずり下ろすよ。それがボクのやるべき事だからねぇ」
「〜〜〜っ」
 遁甲の術で気配を消し、壁を走ることは祈羅にはできない。
 気を付けて、と送りだすしかできない。
「探偵を信じなさい」
 ぽふり。
 祈羅の髪をひと撫でし、赤髪の探偵は気配を消して一つのビルへと向かった。

 どの建物に潜んでいるか、何階から射撃しているかは特定できていないが、間隔をおいて降り注ぐ矢によってある程度の見当はつけている。
 歩とは別の角度から乗り込むのは璃狗。
(見つけてさえしまえば)
 弓では多方面の同時行動には対処できないはず。多勢に無勢、煮るなり焼くなりフルボッコできるだろう。
 地上では弓兵の指揮下にあるのだろう狼が暴れている。
「――ッ」
 そして、交差点では魔術師が波状に雷撃を放っていた。高いところからは全体がよく見える。
「……あぶな」
 よく、見える―― 撃退士たちの合間を縫って、魔術師の光線が一般人を狙う様子が。
 どうにもならない、ここに居たって見えたって、どうにもならない……璃狗が言葉を失う、その頭上で

 黒く光る矢が、向かいのビルへと走った。
 ガラスが割れる音。
 続けざまに撃ちこまれる矢、響く悲鳴―― まさか、逃げそびれた一般人が居たと!!?
 高い建物で、地上の異変に気づいて動けない……確かにそんな姿は想像できた。
 しかし、誰も予測はしていなかった。

「どこで入れ知恵されたのかしらね」
 怒りに声を震わせ、獅堂 遥(ja0190)はスナイパーライフルで位置特定した弓兵へと狙撃する。
 サーバント達の狙いは『人間』。
 そうである以上、優先行動は推して知るべしである。
「頼む、僕を邪魔だと思ってくれよ!」
 遥の攻撃を追うように、森田良助(ja9460)はマーキングを放つ。
「くそっ、これで当たらないとか嘘だろ!!」
 命中率には自信がある。
(落ちつけ、平常心平常心)
 諦めてなどいられない。
 最後の一撃―― 命中!
「っしゃ!!」
 すぐに、建物内へと弓兵の姿は消えていく。しかし行動は良助が把握している。
「右のビルに移るよ!!」
「……忍から逃げられるなんて思うなよ」
 璃狗は低く呟き、良助の指示を受けて全力移動で先回りをする。
 コンセントレートで射程を延ばした祈羅の矢が、狼の一体を穿つ。そこへ黒炎を身にまとった柊 夜鈴(ja1014)が素早く追撃。
「狼……あとの2体は近くで護衛か」
 夜鈴ははクールに前髪をかきあげながら、地上の状況確認をする。
「夜鈴! 弓兵が捕捉されました」
「ん、了解」
 恋人である柊 朔哉(ja2302)の呼び声に、素早く体を切り返す。
「……っと!?」
 夜鈴の黒炎が右目へ戻る、そのタイミングで。
 ビルの上より鋭い矢が打ち込まれた。
「!! 夜鈴!」
「だい、じょう……」
 スタン状態に掛り、後ろに倒れそうになる恋人を朔哉が抱きとめる。
「……平和を潰すなら、こちらとて黙っていませんよ!!」
「大丈夫、ホント大丈夫だ」
 闘気解放しましたか、と聞きたくなる朔哉の本気解放に、思わず夜鈴が手を伸ばした。
「すぐに追う。縮地なら一瞬だ」
「信じています。取り戻しましょう、必ず」
 きゅ、と夜鈴の手を握り、そして朔哉は位置特定されたビルへと駆け昇って行った。
「たーのもしぃ」
 惚れぼれするね、とその白き後ろ姿へ、夜鈴はひとり呟いた。

 襲いくる矢を緊急障壁で防ぎ、フレイヤは遥の元へ駆けよる。
「危なっかしいったら!」
「……あ」
 レジストポイズンを施され、そこでようやく遥は毒状態だったことに気づく。
 ビルの床はぶち抜いてでもいるのだろうか、階を移動しながら弓兵は遥へも反撃をしていた。
「弓兵に特攻しかけてるグループから状況は流れてきてる。私たちはこのまま地上で、他の敵の流出を警戒した方がいいみたい」
 フレイヤが手にするハンズフリーの携帯からは、リョウたちの声が耐えず流れてきていた。
(私は…… 自分の体はどうなったっていい、けど)
 気づかぬうちに負った傷が、今になって痛みを叫び出す。命を主張し始める。
「獅堂!!」
 次の戦いへと向かおうとしたところで、上空から名を呼ばれる。璃狗だ。
「無茶はするな」
 ……壁面を駆けている真っ最中の人に言われても。
 わずかな合間を縫って、自分を気にかけてくれたことは解る。
 それだけの価値が自分にあるのかは……解らない。それでも。
「お互いに!!」
 スナイパーライフルを掲げ、遥は璃狗へ応じた。


 狙っていたビルの側面、窓ガラスが割れる。
 良助がマーキングで把握していた、その上の階――狼が飛び出す。ガラスが降り注ぐ。
「!!」
 弓兵が出ようものなら即座に捕まえるつもりだった璃狗が護りに入る―― そこへ。
「聖母の花よ、祝福を」
 澄んだ、朔哉の声。ふわり、白百合の香りが周囲を包む。
 白百合の法衣による加護が施され、更に上空から召喚獣・スレイプニルが駆けてきた。その背には、久遠 冴弥(jb0754)の姿。
 良助からの連絡で、屋上へと回り込んでの召喚、飛行可能高度を穴埋めする作戦だ。
「暴れなさい。布都御魂」
 滾る血刃――冴弥のアウルを送りこまれ、布都御魂は狼に食らいつき、そのまま弓兵のいる階下のフロアへと突進する。
「捕えた!!」
 リョウが叫び、軽い身のこなしで冴弥に続く。
「矢よりも速い槍、受けてみろ」
 立て続けに黒雷槍を放つ。弓兵の側近として控えていた、最後の狼も巻き込んで。
 連続で3、当たったのはその中の一度――しかし、黒き雷により、弓兵は麻痺状態に陥る。
 流れる動きで、歩が影縛りで完全に動きを封じる。
「探偵からは誰も逃げられない、なんてねぇ」

「今日は、容赦などしないと決めたのです」
「……ここでくたばれ」

 朔哉のレイジングアタックと夜鈴の痛打がクロスして、弓兵を撃破した。
「敵は以上か?」
『こっちはオーライ!』
 リョウが状況を確認すると、フレイヤからも連絡が入る。
「次の局面へ、……ですか」
 冴弥は短い髪をかきあげ、吐息を一つ。
 まだまだ、各地で戦いは続いている。
 


●荒れ狂う闘士
 人型サーバント達の中でもひと際、目を引く巨躯――間違いようがない、あれが『闘士型』なのだろう。
 体長は3メートル程、それに見合った大振りの斧。
 遠距離攻撃の集団は持たないというが、それだけに近接戦を挑むのは無謀のようにも思える。
「……ヒトのシマで、誰に許可を得て狼藉を働いちるのかえ?」
 和服姿でしとやかに、物騒な大分弁を披露するのは御幸浜 霧(ja0751)。
「指の5本や10本、詰めてやってくださいませ、島津様」
「詰めるってレベルでもなければそういうハナシでもないな、そりゃ」
 非常に非常に怒っているのはよく伝わる。
 霧の言葉に苦笑いを返しながら島津・陸刀(ja0031)も戦闘態勢へ。
 近接戦が無謀? 無謀に挑んでこその男児だろ!!
「ッハ! 愉快な年明けだ」
 皮肉げに鼻を鳴らし、赤坂白秋(ja7030)は銃を手に。
「拝啓、侵略者諸君。明けましておめでとう―― といったところかね」
 冗談めかしながらも、白秋の瞳は冷えている。
「由真。道を拓くぜ」
「早いうちに闘士を捕えましょう」
 或瀬院 由真(ja1687)は頷きひとつ、前衛へと飛び出して進路を妨害する狼を散らす。
「愉快…… ああ、愉快だなぁ 俺の斧槍とアイツの斧、どっちが強いでしょう」
「……気持ちはわかる、けど、少しクールになった方がいい」
 戦闘狂の片鱗を覗かせるマキナ(ja7016)へ、ユウ(ja0591)が声を掛ける。
「わかってます。狼倒して肩慣らししてから、存ッ分にガチンコ勝負挑みますって」
「…………それなら、それで」
 止めるのも野暮。知ってた。
 白秋、由真がサイドラインを駆けあがる、その中間から鳳 覚羅(ja0562)が狼を相手とする、
(此処を行かせる訳にはいかない……。皆の為にもね……)
 パワータイプで機動力もある。知能は見るからに低そう。
 こんなサーバント、逃しでもしたら街は惨状だ。
(けど)
 頭が悪いことは、いいことだ。
 狼たちにまで、指揮が取れていないように思える。
 注意深く観察し、飛びかかる狼を弾き返すと、後方に控える周防 水樹(ja0073)がライフルで援護射撃をしてくれる。
 視界が晴れた瞬間に、大きく斧を旋回させる闘士の姿が露わとなる。
 撃退士たちの足元を狙ったド派手な範囲攻撃。
「おっと」
 跳躍一つで回避するも、風圧が凄い。直撃していたらと考えればぞっとする。
「うおおおい、マキナ!!」
 白秋の叫び声。
 直撃した者がいるらしい。
「かすり傷だ」
「血ィ、すげえけど」
「かすり傷だって言ってるだろ。ほら」
 すかさず、霧が軽癒の術を施し、ドンとマキナの背を押す。
「巻いていきましょう?」
「ボヤボヤしてると、遠距離魔法組に首を持って行かれるな」
 陸刀が拳を鳴らし、口の端を上げた。
「次は回避射撃、ちゃんとすっからよ」
「同時に攻撃範囲内に入らないこと、が第一ですね」
 広いとは聞いていたが、あの立ち位置で斧が届くとも思わなかった。それ故、白秋の援護もワンテンポ遅れた。
(二度はない)
 笑い話にするつもりも、無い。
 白秋は表情を引き締め、場の把握に集中した。

「……いくよ、射線開けて。――凍付け」
 
 スッ、ユウの冷たい声が前線を割り――
 氷葬華、氷の花々が一直線に闘士へ向けて駆け抜ける。
 白秋のダークショットで援護を受け、マキナは狼へ薙ぎ払いからの連続攻撃で確実に仕留めていく。
「ここから先には進ませない」
 弓による後方支援に徹していた黒井 明斗(jb0525)も、狼殲滅から前線を駆けあがる。
 振り下ろされる斧を、シールドで受け止める――その直後、由真がタウントを掛け完全な隙を作る。
「横からお邪魔しまァすってなァ」
 打ち合わせ通りの連携に、陸刀は闘気解放しサイドに回り込む。
「行くぞ!」
 マキナが斧槍で薙ぎ払いを仕掛け、
「づォオオらァアアッッ!!」
 陸刀がブレッドバンドによる拳撃でラッシュを極める。

 懐に入ってしまえば、あとは力と力の純粋な勝負だ。
 ――そこに。
「嘘だろ」
 マキナが思わず呟く。
 闘士の体が、淡い光に包まれる……外傷が消えてゆく。騎士による回復魔法だ!
「向こうは真っ先に撃破に向かってるから、そうそうないと思うが」
「結界なんて張られたらたまんねぇな」
 体力を取り戻し、暴れっぷりに拍車のかかる闘士の斧を回避しながら、白秋とマキナは言葉を交わす。
 敵のこの分厚さに加え、何度も回復されては流石に精神的にキツイ。
(射程に重ならないように……って、360度旋回してた気もしますが!)
 先刻の盛大な払い技を目にし、息を呑むも柴島 華桜璃(ja0797)もまた魔法の射程へと距離を縮める。
 攻撃をする暇を与えなければいい。
「……マジカルシュート!!」
 弓矢を射る姿勢で、華桜璃がエナジーアローを放つ。
 走りながら位置を変えて。
 少しずつでも、諦めないで削ってゆく。


 頭が悪いことは、いいことだ。
 己の痛みにさえ鈍感で、ひたすらに破壊衝動のまま動く。
「危ない!! 皆、下がれ!!」
 覚羅が叫ぶ。
 白秋はバックステップをしながら、今度こそマキナへ回避射撃を。
 深々と振り下ろされる斧が地面へ食い込み、粉砕されたアスファルトが飛散する。
「確かに……魔法攻撃ではないですけど……」
 盾で視界を確保しながら由真は呟く。
 まともに食らえば一刀両断されていたかもしれない一撃。
 地表を抉ったまま、斧は周囲を薙ぐ。
「……っ!!」
 予想外の早い動作に、由真は操盾術でなんとか凌ぐ。
 闘士は叫び、斧を振りかざし……駆ける。狙う先は、後方から絶え間なく魔法攻撃を放ち続けるユウだ。
「させるか!!」
 水樹が足元を狙い射撃するも、その表皮を傷つけるのみ。
「くっ」
 チャクラムでの追撃も焼け石に水と知り、神楽はグイと踏み込む。
「出し惜しみ、している場合じゃないね」
 切り札である神速の居合切りで、強引に動きを止めに掛る。
「これがあたしの新しい力よ! ……これならっ!!」
 追掛け、華桜璃が渾身の右ストレートでライトニングを打ち込んだ!!
「ふざけやがって」
 周囲の攻撃を気にも留めない闘士の、その脚に向けて白秋が精密殺撃を。
 陸刀が再度、拳撃を打ちこみ、
「――覚悟しいや」
 巨体の横腹へ、霧が惟定を突き立てた。

 ゴトリ

 闘士が地表へ倒れ込む。ついぞ、その手から武器たる斧が離れることはなかった。




 新年。
 慶ばしい日のはずだった。
 ビル街は半ば倒壊し、サーバントの咆哮、逃げ惑う人々の悲鳴、駆けつけた撃退士たちによる戦いの音、広がる血の匂い、巻き起こる風、雷、炎、それらによって混沌と化していた。
 闇鍋の底が見えるとしたら、こんな状態なのかもしれない。
 魔術師の放つ雷撃の波、そして隙間から放たれた光線は逃げ惑う人の背を打ち。
 ビルを利用し姿を消して矢を射続ける弓兵は、ビルから逃げ遅れていた人々を穿つ。
 銀の騎士が撃破され、回復能力・結界能力が消え去ったところで、暴れまわる闘士に意味はなく、荒々しく地表を砕く。
 守りきれない状況に撃退士たちは嘆き、しかし顔を上げる。迎えうつ。諦めない。投げださない。
 
 人間達にとって、日々を生きる中でも節目としている『新年』。
 活気あふれる街中を狙った天魔の意図は、この場に居る誰もが知ることはない。
 人の魂を、人の精神を糧とする天魔が、何故、無作為な殺戮をするのか――その意図など知りたくもない。
  
 何故。

 それを問う必要などなかった。
 無力な人々を、力ある撃退士が守り抜く。
 話は至ってシンプルだ。

 もしも、この状況を見下ろしているサーバントの主が傍に居るというのなら、高らかに笑い返してやろう。
 人の強さを、撃退士の強さを、知らしめてやろう。


「この空気の読めなさ。間違いないわ、このサーバントの天使は間違いなく、ぼっちだわ」


 せっかくなので、フレイヤのこの一言も、届いているといい。



●万能たる者
(……このメンバーで依頼に参加するのは初めてか)
 万能型、と称されるだけあって隙がない―― 繰り出される攻撃を防ぎながら、蘇芳 和馬(ja0168)は共闘する仲間の気配に高揚を押さえていた。
 古流武術研究会の会長であり、技を研究し合う同志の大澤 秀虎(ja0206)。
 戦術部の部長であり、背中を預け合う仲であるマキナ・ベルヴェルク(ja0067)。
「……新年から幸先いい、などと言ったら怒られるな」
「ふ」
 和馬の独り言が聞こえ、おもわずマキナも笑いをこぼす。
 頼もしく思っていることは彼女も同じであった。
「退屈な正月になると思っていたんだが、これは新年早々縁起がいい」
 和馬の独り言が聞こえていなかった秀虎に至っては、断言した。
 戦術部との共闘は秀虎も初めてで、何かしら期待するところもある。
「さっさと討伐して……正月に、戻りましょう」
「結も正月を楽しむのですか?」
「餅代位には、なってほしいところですね……」
 意外そうに言葉を返すマキナへ、機嶋 結(ja0725)は冗談とも本気ともつかぬ言葉で薄く笑った。
 こう見えて、冬休みを邪魔されて不機嫌な結だ。
「狼は請け負うとしよう。その間に頭を仕留めろ」
 他の人型サーバントを相手取っているグループらと合流したら一気に攻め立てることも作戦にはあったが、取り巻きの狼撃破だけならこの人数で苦ではないようだ。
 フィオナ・ボールドウィン(ja2611)は狼へタウントを発動し、マキナらへ先に進むよう促す。
「獣如きに後れを取るわけにもいくまい」
「私もいる」
 フィオナの補佐に、アレクシア・エンフィールド(ja3291)が進み出る。
「守備要員にはなろう」
 ユリウス・ヴィッテルスバッハ(ja4941)もまた、狼の引きつけへと対応を表明する。
「支援と援護は任せてください」
 狼・万能者、それぞれを相手取る仲間のサポートには神城 朔耶(ja5843)が。
 しばらく敵の様子を探るための戦いを展開していただけに、仲間同士でそれぞれの得意分野が解り始めていた。
(……この戦い、負ける訳にはいきません。一般の方達、それに私自身の為にも……)
 広い交差点、遠巻きに少なくはない被害が発生していることは目にしていた。
 せめて、これ以上は防ぎたい。防がなければ。
 強く強く祈る思いで、朔耶は弓を手にした。


 フィオナ、ユリウスが狼へタウントを掛ける。左右へ狼が分かれ、道となる。
「他愛ない」
 襲いかかる爪をパリィで捌き、無防備となる背を大剣で打ち付ける。
 息のあった動きで、アレクシアが魔剣投影による追撃、そのまま鋼糸で動きを止める。
「アレクシア、こちらは問題ない」
 ユリウスの援護を―― フィオナの言葉に、アレクシアが小さく頷きを返す。
「……正直、助かる」
 シールドを展開し防戦一方だったユリウスが、アレクシアと朔耶の加勢へ短く礼を告げた。
 いずれ、狼たちも程なく撃破して万能者対応へ合流できることだろう。


「……マキナ先輩、援護する」
 【黒夜天・偽神変生】を発動したマキナへ、和馬が並走する。狼の追撃が無いか背後に気を配りながら秀虎も続く。
 護衛の狼を突破した三者へ、万能者が魔法属性の衝撃派で間合いを取ろうとしてきた。
 それぞれに回避、そのまま下がる面々でもない。
「タイミングはそちらへ合わせる」
「では」
 二人の言葉を受け、マキナはグイと脚に力を込める。
 今度は地を走る魔法攻撃を回避し、距離を縮めてゆく。
 技の発動前、結がスッと前線へ躍り出た。シバルリーで防御を上げてからのタウント。
 マキナ達から、万能者の意識を逸らす算段だ。
「序曲からの――【神天崩落・諧謔】。行きます」
 対し、白銀の鎧を纏う万能者は、片手でランスを回転させる。
(『来る』と解っている攻撃ほど御しやすい物はありませんね)
 狼は、完全に対応班が足止めしていることを確認し、結は防壁陣発動のタイミングを図った。
「如何に万能と言えど、手が二本しかないのは不便だろうな」
 秀虎は重心を低く、敵の懐へ飛び込み、斬りかかる。
「……その隙、貰った」
 また他方からは、和馬の【秘剣・神威太刀】――天界の加護を受ける敵に対して、覿面の剣技。
「いかなる鎧であろうとも、崩壊と終焉を」
 黒き焔を立ち上げ、マキナが高火力を徹す――!

「さて、試させてもらおうか!」
 万能者の背面へ回り込んでいたのは虎綱・ガーフィールド(ja3547)。
 影手裏剣・烈で狼の群れを蹴散らし、間合いを詰めて忍刀で斬りかかる。
「ふむ、まぁこんなものかね」
 金属音、鎧が火花を上げて刀を弾く。
「うぉわっと」
 マキナ達の連携で攻撃のタイミングを逸したランスが、ワンテンポ遅れて振り下ろされ、虎綱の鼻先を掠めた。
「大丈夫ですか?」
「おかげさんで」
 駆けつけようとする朔耶を、虎綱は片手で制する。
 アウルの衣を付与してもらっているお陰で、どことなく心を広く構えていられただけ、素早い回避行動につながった。
「長期戦には、なりそうだの」
 敵の中でも、一番厄介とされているのだ――覚悟はできている。
「新年は、盛大に祝うと決まっているのですよ」
 その横を、水無月 葵(ja0968)の放つ封砲が駆け抜けた。
「そろそろ……倒される覚悟は出来ていますか?」
 すかさずの挑発。すぐさまドレスミストを自身に掛け、敵の出方を窺う。
 傍らでは、葵の妹・水無月沙羅(ja0670)が練気を発動し、攻撃の機を待った。
「料理以外にも、刃物を使うことはあります」
 闘気解放からの、鬼神一閃。
 大太刀を振るい、沙羅は万能者とすれ違う。
「この人員で無理そうなら、本隊の合流まで耐え凌ぐだけだね」
 温厚な声で、しかし悠人も戦闘モードだ。
 大技の直後に隙を見せる沙羅のフォローでもないが、召喚獣と共に一気呵成に攻撃を仕掛ける。
 振り下ろされる剣を自身の大剣で受け止め、召喚獣はランスへと食いつく。
(太刀筋―― 日本のじゃ、無いか)
 西洋風の鎧からして予測はできたことであるが。
(つまり)
 剣道の基本と言えば、まっすぐに振りかぶること。
 西洋風の剣と言えばフェンシング、あるいは中世だと『叩き斬る』に重きが置かれていたか。
(なるほど、近い)
 両手の動きを止められたのは一瞬、すぐに振り払われ距離を取るが、その間に悠人の頭の中には敵の物理攻撃における軌跡が刻まれる。
「それなら…… こっちだ。ランバート!」
 召喚獣へ指示を出し、再度の攻撃を。武器を振りかざす、その頂点の段階で止めに掛れば反発の力も弱いはず。長く、動きを止められる。
 魔法を使う暇を与えなければ、硬いだけの敵だ。力押しで何とかできるだろう。
「ふむ。では」
 悠人の動きから、流れるようにステップで距離を取り、虎綱が影縛りを掛ける。
(そうやすやすとは……いかんか)
 これだけ取り囲んでいれば、それでも回数限界まで試すことはできるし、それだけの価値はある。

「全てに対して耐性があるということは、どんな攻撃も有効ということですね」

 凛とした少女の声が通る。
 冴弥だ。
 布都御魂に騎乗し、万能者へと攻撃を仕掛ける。
「こちらも、魔術師撃破完了いたしました。加勢いたします」
 弓前に発生した魔法陣から矢を放つのは、テレジアだ。
「新年早々、喧嘩を売ってきたこと…… 後悔させましょう」
 玲獅が集結した仲間たちへ回復魔法を掛けながら。


「終焉の幕引きと……行きましょうか」
 ゆらり、マキナの体を光纏の黒き焔が包んだ。
「万能と奢り溺れるもよかろう。存分に沈めてやるぞ」
 狼を撃破したフィオナが、マキナに肩を並べた。

「……冬休みの貴重な一日」

 ぼそり。
 結の一言が、その場に居る撃退士の心を一つに纏めた。

 マキナ、和馬、秀虎が再び波状攻撃を仕掛け、フィオナとアレクシアもまた武器を構える。
 黒き焔、黄金の光が万能者を襲う!




 遠く、サイレンが鳴る。
 事態収束の報を受け、自治体から派遣されてきた役人たちだ。
「一件落着―― で、いいんでしょうか、菫さん」
「ん、まぁ……任務としては、な」
 明音の問いに、菫は片目を閉じる。どこか腑に落ちないのは、恐らく誰もが同じだろう。
 これだけの大規模な戦いが、なぜ―― しかし、誰もが答えを持ちえない。
「新年早々、でしたけど…… すみれちゃんとこうして連携できるのも あっ、混乱しないように、ちゃん付けとさん付けですからね!」
 すみれと菫。二人の友人を持つ明音が慌ててフォローすると、二人の『スミレ』がクスっと笑う。

「……元気、ない?」
「え? あぁ、えっと 大丈夫ですよ」
 義妹のアトリアーナが、心配そうにファティナの顔を覗きこむ。
「全てを護りきることは……できませんでしたから」
「……それは」
 思わず、璃狗が会話に入った。
 防ぎようがなかった。
 防げたかもしれなかった。
 同じ思いを、抱いている。
「帰ってお雑煮でも食べようよ☆」
 重くなった空気を、あっさり打破したのはジェラルドだ。
「あ、それでしたら」
 反応したのは、沙羅と葵の水無月姉妹。
「お時間がありましたら、この後……」
「腕を振るいますので、皆さんでお正月の宴会をいたしませんか?」
 学園の調理室を借りて。何しろ正月時期、用意していた食材もあったのだ。
「嬉しいけど…… この人数分?」
 ジェラルドが驚くのも無理ないが、『得意分野なんです』と姉妹は声を揃えた。
「負けないように…… 沢山召し上がって、頑張りましょう!」
 今日という日を悔やむなら。
 より印象付けてしまえばいい。
 悔しい思いと、楽しい思いを混ぜ込んで。
 一色だけだと、あまりにも悲しいから。
(……どうしよう)
 大人数の場所の苦手な沙希は、話の流れに言葉を挟めず、俯くばかり。
「どこか、痛みますか?」
「……あ、な、なんでも…………」
 玲獅が、ひょいと沙希の隣に並ぶ
(……そうだ)
 まだ、伝えていなかった。
 我を忘れるほどの戦闘の中で――忘れては、いけなかった一言。
 まっすぐに目を見返すことはできなくて、視線を逸らしながら。それでも、それが沙希の精一杯。
「……あ、ありがとう……守って、くれて」
 全てを言わずとも、気持ちは伝わる。
 玲獅は暖かな笑みを浮かべた。

「今回だけは言わせてもらおう。明けましておめでとう! 長い付き合いになりそうじゃの!」

 懐から扇子を広げ、虎綱が上機嫌に笑った。
「……仲間も悪くない」
 好物はどうの何が苦手だの、沙羅と葵を取り巻く一団を遠くに見ながら、秀虎が目を細め、マキナへと言葉を向けた。
「えぇ……。……今年もどうぞ、よろしくお願いします」
 二人のやり取りに、耐えきれなくなった和馬が噴き出した。



 混乱が冷め、荒れた街並みを背に学園へ帰還する撃退士たち。
 何故、このタイミングに、大がかりな戦闘が舞い込んだか…… その問いに答えるものは、この場にはいない。
 いつか解る時が来るのかもしれない。
 しかしそれはまた、別の話。

 今はただ、新たなる年を迎えることのできた喜びを素直に。


(代筆 : 佐嶋ちよみ)


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 約束を刻む者・リョウ(ja0563)
 意外と大きい・御幸浜 霧(ja0751)
重体: Drill Instructor・新田原 護(ja0410)
   <天魔の魔法攻撃の直撃を受けた>という理由により『重体』となる
面白かった!:11人

執念の褌王・
緋伝 璃狗(ja0014)

卒業 男 鬼道忍軍
獅子焔拳・
島津・陸刀(ja0031)

卒業 男 阿修羅
撃退士・
マキナ・ベルヴェルク(ja0067)

卒業 女 阿修羅
消えない十字架を抱きて・
周防 水樹(ja0073)

大学部4年82組 男 ディバインナイト
流水の太刀・
蘇芳 和馬(ja0168)

大学部3年213組 男 アカシックレコーダー:タイプB
双月に捧ぐ誓い・
獅堂 遥(ja0190)

大学部4年93組 女 阿修羅
剣鬼・
大澤 秀虎(ja0206)

大学部6年143組 男 阿修羅
『九魔侵攻』参加撃退士・
楊 玲花(ja0249)

大学部6年110組 女 鬼道忍軍
撃退士・
神月 熾弦(ja0358)

大学部4年134組 女 アストラルヴァンガード
サンドイッチ神・
御堂・玲獅(ja0388)

卒業 女 アストラルヴァンガード
魅惑のメイド・
七瀬 桜子(ja0400)

大学部5年140組 女 アストラルヴァンガード
Drill Instructor・
新田原 護(ja0410)

大学部4年7組 男 インフィルトレイター
創世の炎・
大炊御門 菫(ja0436)

卒業 女 ディバインナイト
Silver fairy・
ファティナ・V・アイゼンブルク(ja0454)

卒業 女 ダアト
アトラクトシールド・
クライシュ・アラフマン(ja0515)

大学部6年202組 男 ディバインナイト
遥かな高みを目指す者・
鳳 覚羅(ja0562)

大学部4年168組 男 ルインズブレイド
約束を刻む者・
リョウ(ja0563)

大学部8年175組 男 鬼道忍軍
ちょっと太陽倒してくる・
水枷ユウ(ja0591)

大学部5年4組 女 ダアト
料理は心〜学園最強料理人・
水無月沙羅(ja0670)

卒業 女 阿修羅
今生に笑福の幸紡ぎ・
フレイヤ(ja0715)

卒業 女 ダアト
秋霜烈日・
機嶋 結(ja0725)

高等部2年17組 女 ディバインナイト
意外と大きい・
御幸浜 霧(ja0751)

大学部4年263組 女 アストラルヴァンガード
紫水晶に魅入り魅入られし・
鷺谷 明(ja0776)

大学部5年116組 男 鬼道忍軍
グランドスラム達成者・
柴島 華桜璃(ja0797)

大学部2年162組 女 バハムートテイマー
傾国の美女・
水無月 葵(ja0968)

卒業 女 ルインズブレイド
幻の星と花に舞う・
柊 夜鈴(ja1014)

大学部5年270組 男 阿修羅
無傷のドラゴンスレイヤー・
橋場・R・アトリアーナ(ja1403)

大学部4年163組 女 阿修羅
絆繋ぐ慈愛・
テレジア・ホルシュタイン(ja1526)

大学部4年144組 女 ルインズブレイド
揺るがぬ護壁・
橘 由真(ja1687)

大学部7年148組 女 ディバインナイト
憐寂の雨・
柏木 優雨(ja2101)

大学部2年293組 女 ダアト
茨の野を歩む者・
柊 朔哉(ja2302)

大学部5年228組 女 アストラルヴァンガード
『天』盟約の王・
フィオナ・ボールドウィン(ja2611)

大学部6年1組 女 ディバインナイト
不正の器・
アレクシア・エンフィールド(ja3291)

大学部4年290組 女 バハムートテイマー
アネモネを映す瞳・
霧原 沙希(ja3448)

大学部3年57組 女 阿修羅
世紀末愚か者伝説・
虎綱・ガーフィールド(ja3547)

大学部4年193組 男 鬼道忍軍
撃退士・
雨宮 歩(ja3810)

卒業 男 鬼道忍軍
久遠の黒き火焔天・
中津 謳華(ja4212)

大学部5年135組 男 阿修羅
『封都』参加撃退士・
ユリウス・ヴィッテルスバッハ(ja4941)

大学部5年4組 男 ディバインナイト
乙女の味方・
宮本明音(ja5435)

大学部5年147組 女 ダアト
夜を見通す心の眼・
神城 朔耶(ja5843)

大学部2年72組 女 アストラルヴァンガード
崩れずの光翼・
向坂 玲治(ja6214)

卒業 男 ディバインナイト
リリカルヴァイオレット・
菊開 すみれ(ja6392)

大学部4年237組 女 インフィルトレイター
BlueFire・
マキナ(ja7016)

卒業 男 阿修羅
時代を動かす男・
赤坂白秋(ja7030)

大学部9年146組 男 インフィルトレイター
撃退士・
雨宮 祈羅(ja7600)

卒業 女 ダアト
ドS白狐・
ジェラルド&ブラックパレード(ja9284)

卒業 男 阿修羅
セーレの王子様・
森田良助(ja9460)

大学部4年2組 男 インフィルトレイター
鉄壁の守護者達・
黒井 明斗(jb0525)

高等部3年1組 男 アストラルヴァンガード
絆紡ぐ召喚騎士・
久瀬 悠人(jb0684)

卒業 男 バハムートテイマー
凍魔竜公の寵を受けし者・
久遠 冴弥(jb0754)

大学部3年15組 女 バハムートテイマー