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――皆さん、準備は整いましたでしょうか。
その強い"想い"は、必ずや、"世界"に届くでしょう。
思い返せば、本当に様々なことがありました。……ええ、それはもう本当にです。

様々なひとの想いがあって、私達は此処まで来ました。
その想いを。願いを。命を。踏みにじるようなことは決してできません。

……まいりましょう。
私達の"楽園"とはなんのか――今こそ、"世界"に示しましょう!

心の赴くままに

私達の思い?そんなの最初っから決まってるよ!

これは、人の選択、人間の物語だ。

どうか、どうか。どうか……届け、祈りよ。願いよ。想いよ。

『願う』世界は……

一個人の思惑によって世界のありようを変えるべきではないです。

ったく、最後の最後まで…とはいえ、きっちり決めますかねぇ…

神の自惚れを断ち、この世界を守る。きっとそれは正しい。ただ…

これだけは、僕の欲望だから譲れないんですよね




―― 世 界 ノ 答 エ ――


《――対立スル権限者ノ存在ヲ確認。
   実行:優位設定ノ為、確認プロセス、実行 》


 キミは。
 キミたちは。

 この果てに、どんな世界を、望む?







●始マリ、終ワリ

 私は今、まさに――全てを手に入れた王と成った

 この時の為、王の過ちを責め我が子の幽閉を促した。
 この時の為、エルダーを唆し我が君の傀儡を促した。
 この時の為、孤独な神を讃え我が王の成就を促した。

 そのなんと永きに渡る道程であったか。
 神が居るならば、この奇跡に感謝せねばなるまい。
 否。
 今、私こそが神なのだから、此れは必然。


 『神はいらない。なりもしない』


 数多の声が、神を否定する。
 その声は全て《神》の権限を所有している、幾億もの煌き。
 それは、意志の強き煌き。

 世界を壊し想像する意志を、退ける強き想い。

 『人天魔、皆が仲良く暮らす世界
  そこで見る夢は、きっとすごく素敵だと思った――でも知った。手を取り合うのに必要なのは、世界の形より心だった。
  だから、この世界のままで――私は、この世界のそんな未来を信じたいんだ』

 『やり直したい、取り戻したい…
  誰でも一つや二つ、僕とてある。だが、失ったから、譲れないから、「今」までやってきた…
  戦って、負けて、泣いて、勝って、笑って…その歩みの否定など、絶対に認めん』

 『完全なる世界ではない。負の感情は必ず生まれ連鎖もしていく。
  それでも多くの出会いをして自身も変わっていくこの愛しい世界を最後まで生き抜きたい。
  これは決して譲れない私の想い、私の願い』

 『私は父様に会ったことがない。
  会いたくないかと言えば嘘になる、長生きだってしたい。
  けれどそれよりも父様は何を想って母様と、人間と共に生きようと思ったのか。
  父様が共にしたいと想った人間の行く末を私は見届けたい』

 『俺は、今の世界が好きだ。だから、取り戻したい。
  失ったものもあるけど、得たものだってあるんだ。
  新しい世界でも得られるかもしれないけど、一度得たのなら、俺は手放したくない』

 『多くの依頼で大勢の人に会った。いっぱい間違えた。――多くの死を見た。
  けれど、それ以上の生きる輝きを見た。
  輝きに恥じぬように、声を張り上げ歌う。今までも、これからも!
 「システムに頼らんでも、新世界は作れるからな!』

 肯定したい想いがある。
 否定するよりも、共に。共に。

 『私達が生きるためのすべてを否定しない。
  自分が世界の全てを知っている筈がない。
  世界を見る角度も人それぞれだから、色んな想いがあっていいと全てを肯定したい』

 『神になろう、英雄になろうだなんて思っていない。いつかを求めて今まで貫き通してきた。
  多様性を認めない世界だなんて、今まで私達が戦ってきた相手と何が違う? そんな世界あってたまるか』

 『俺は天魔を憎んでいた。誰よりも強く、消えぬ傷と共に。
  けれど天魔も同じ生命、人と共存している者達もいる。傷は消えないけれど俺にはもう全ての天魔を殺すことは出来ない。
  だから人と天魔が争わぬ世界を望む』

 何者かが問う。
 楽園はあるか? 楽園に辿り着いたのか? と。

 『あたしが新しい世界に踏出したスタートライン。
  出会いも別れも全部あの学園から始まったよ。大好きな友達・仲間・大切な人。みんなと過ごしたあの世界があたしは好き。
  どんな素敵な世界よりあの世界が大好きだよ!』

 『楽しい事だけやなくてしんどい事もある。笑ったと同じ位怒ったり泣いたりしてきた。
  けど、幸せ言うんは。楽園言うんは。自分で作るもんなんちゃうの!
  俺は自分で作っていこう思てるあの楽園に、帰りたい場所に、帰る!!」

 『理想を掲げるのは悪くないがそれを他人に強要する権利はない。
  話せば分かる相手ばかりではないから争いが生じるのが現実。大切な人が居る世界が私の楽園』

 『現実を飲み込み、消化不良を起こそうが、そこで生きるだけ』

 『人生、楽しいことばかりじゃない。
  辛いことや苦いこともいっぱいあったけれど、それらの経験が自分を形成してきているわけだし。
  新しく作り直すってことは、過去を、自分を否定することになるよね』

 『良い事も悪い事も、想いを重ねた結果が今回の選択なのでしょう、けど私は、此処で安易な「理想郷」は求めない。
  だって私は――悲しみを伴いながら、既に幸せなんですから』

 『今の楽園が千年後も楽園であるとは限らない。
  だからこそヒトビトは悩み、足掻きながらも手探りで未来を歩き続ける。
  象徴は『愚者』……始まりにして終わりのtarot。可能性は――無限なのだから』

 『守りたかったのは大切な人や、ここに住む皆の笑顔。
  必要とされたかっただけの私に、愛する人と――守りたいものをくれた、「帰る場所」。
  守り続けたこの世界こそ欲しい。何も知らぬ私にとって、ここは楽園だったのだから』

 『失ってから気付きました。当たり前の毎日が、とても幸せだったと。
  あの頃に戻れたら……そう、願う事もあります。
  ですが、亡くした人達が焦がれた先に私は居るのです。――生きたかった、未来に。
  戻りません。
  失くさせません』

 どうしても、生きていれば辛いことがある。陰と陽のように、コインの裏表のように。
 それでも。そう、それでもと言えるのが大事なのだ。
 痛みも、苦みも、嘆きも、ある。――それでも。

 『その末に学園で出会った、学園に来た大事な人達を。導いたあの人を。
  彼等が穏やかに暮らす為なら神にでもなんでもなったる。…なかった事になんてせぇへん。
  絶対に彼等と出会った世界を取り戻したる!』


 一つ一つの小さな煌き。けれど、どれも譲れない深く毅い想い。
 かつての世界を取り戻そうと願う、想いは重なり、神界の強固なプロテクトを解除していく。


●世界ノ基ヲ
 世界を取り戻す。否、少し良くしたい。改善を求める。
 では、どんな世界を取り戻すのだろう?

 ――入力:『慈悲之柱』

 俺は昔、強者に双子の姉を奪われた。強者が弱者を蹂躙する、それが俺の知る世界の一端だ。
 けど、人の世界で強者が弱者を助ける事もあるのだと知った。俺にとっての人の世界は、確かに優しい楽園だったんだ。

 間違った事も皆で修正し、取り戻すことの出来る世界を。間違う事を恐れずに、誰もが何事にも挑める世界が欲しい。

 自分に何かあったら悲しむパートナーがいるから無茶はできない。
 いずれ自分と彼女の間に生まれてくるであろう子が、沢山の愛を受けられる、そんな世界であればいいと願う。

 楽園とは、弱者が死なず、強者は死なず、共に生きていける世界。
 だが、俺はそんな楽園など望みはしない。
 戦いの果に、俺は今ここに居る。多くの撃退士たちが護った世界がここなのだ。ならば、ここが唯一の世界だ。

 人を心から信じられない俺にとって、今までの世界は楽園とは言い難い。
 かといって、強く思う「楽園」があるわけでもなく。
 そんな俺にも望む事が許されるなら。今までより、ほんの少しだけ優しい世界を──

 全て、全てに救済と慈悲を。でなければ、私の存在に意味などなく。
 きっと、破綻してしまうだろうから。

 ――入力:『均衡之柱』

 強いものが正しいとはかぎらない、優しさが正しいとは限らない。
 どっちかに偏った結果歪になったのが天界であり魔界だろ?
 なら今までの俺達の世界が一番バランスがとれているんじゃないのかな

 この世界の、全ての命に共通の「楽園」の形など無いように思います。
 なればこそ、それを考えながら「少しずつ世界を自分達で変えていける」
 そういう可能性が残っている世界が、一番ではないでしょうか。

 ただ、ただ。友が居て、あの子が居て、あの人が居る。
 その世界がずっと、続けばいいな。

 神様云々とか皆で一緒とかマジで合わネーのでコッチ。エデンの園は、と。
 俺はそうだナ…世の中が楽シくて恋人とイチャイチャ出来れば楽園、かもナ。
 要するに、今の世界に特に不満はネーってコトだ。

 大事なモノは譲れません。でも、もう少し他者に優しい世界なら。
 異質な者を弾くのではなく、多様性を飲み込む世界なら……もう少し、三界の歩み寄りが進むのではないでしょうか?

 ――入力:『峻厳之柱』 
 
 世界は「力が強い」ものも「弱くて劣る」モノも鬼って表してるって意外と皆知りません。
 『峻厳之柱』『慈悲之柱』『均衡之柱』 全部必要。力、愛、過去。どれが欠けてもダメなんです。

 ――入力完了。
 プログラム破棄。自由入力モードヲ開始シマス。





 撃退士達の意志は、意識は繋がり拡大していく。
 変わらなくていい。
 けれど、全く変わらないのは変化がない事。
 それでは、いつかまた同じ未来を繰り返し悲しみを産むかもしれない。
 だからもう一歩。

 変わらないけど、変わっていけるように。

 そのシステムは、不要だと思った者たちもいた。
 ゆえに神界システムは制御は不完全のまま、システムの先にある大きな《流れ》を撃退士達は視ることになった。

 「強くは望まない。でも、もし奇跡があるなら――大事な人が蘇る世界も、良いよな」

 戻りたいと願ったものもいた。過去に。
 そこで気づくのだ。側に寄り添う煌きの懐かしい暖かい光があることに。

「煌きの数、ハッキングしてる撃退士の数に比べて多すぎないですか?」
「そう、ですね。コレは一体…!」

 ある人には親のように包み込む光が。
 ある悪魔には慕うような淡い光が。
 ある天使には励ますような輝く光が。

 そして茜達は力強い光を、何年も前に喪った大きな背中を視た。
 此処は神界のシステム……ではない。かつて神として君臨したもの達がエネルギー源として見出したもの。
 意志が大きな渦となって集う場所。
 時間も、種族も超えて、ヒトの意識の集合が、神に等しい力を生み出す。
「――――えぇ。意志は消えることはありません。受け継がれていくものですから」
 あなたの意思は、ずっと私達と共にあります、先輩……。


 ――何ヲ望ム?

「決まっています。帰りましょう、私達の世界へ ――久遠ヶ原学園へ」





 いつかの だれかの こえがする

 エリュシオンは みつかったか? と

 いつかの だれかが こたえる

 それは―― ここにある と





 2017年6月中旬。
 茨城県・久遠ヶ原学園。

「正式に、天界・冥魔界との同盟維持が決まりました。これも皆さんが、諦めず力を尽くし、世界を護り抜いたからこそ…」
 全校生徒及び、全校職員に事務方、一般人協力者等、久遠ヶ原の広大なグラウンドに関係者一同が集い、その広さに対して不釣り合いな一般的サイズの朝礼台の上で、生徒会長・神楽坂茜は言葉を続けている。
 その声は、感情を抑えようとして余りあるのか、今までになく時に震え、時に言葉を詰まらせる。
 それでも彼女は最後まで、目尻に溜めた雫を落とす事はしない。それがとても、彼女らしいなと誰かが想うのだ。
 梅雨らしくもなく、高く澄んだ蒼穹の空の下で。


 神界への反攻作戦。作戦名【楽園】から既に一週間が経過していた。
 たった一週間。
 それでも、世界は――大きく変化の兆しに跳動していた。

 全てが決した時、神界に居た者たちは光の中に包まれ眩しさから閉じた瞳を再び開いた時、当に此処に立っていた。
 久遠ヶ原学園のグラウンドに。
 さらには2層で思念具象機関を守っていた天魔達も、3層のエンハンブレも、学園に《帰還》したのだった。
 彼らが真っ先に目にしたのは、蒼い空の眩しさ。
 もう塗りつぶされた黒ではない。
 取り戻した空の色は、やけに綺麗で、眩しくて、胸を打つ色だったと多くの者が後に語る。

 それから、たっぷりと多くの者が泥のように眠りについた。
 家に帰る気力もないものが多く、そこら中の教室や部室でちょっとした宿泊行事のような様相で。
 そして誰からともなく起き出して、最初は小さな乾杯だった。
 けれどすぐに大きな騒ぎに広がっていく。
 いつの間にか校庭に炊き出しテントが完璧な手際で設置される。思えば大規模作戦でもよく設置されたものだ。
 納豆料理が披露されたり、大浴場も長蛇の列となった。
 どこからかケーブルを引っ張ってきて、音楽演奏が始まる。その様子がネットで中継される。
 陽が落ちて、キャンプファイヤーに火が点る。
 すると、誰かが用意した手持ち花火が配られ、無数の煌きとなって夜を照らしていく。
 大人たちは秘蔵の酒を此処ぞとばかりに持ち出して、少しだけ古い記憶と共に飲み干すのだ。

 宴は続き、漸く各組織が動き出し事後処理が始まったのは、明けた翌日からになったという。



 事後処理が進み、判ったことがいくつかある。

 まず、神界について。

 かの世界から《無意識》に帰還してしまったが、神界があれば神として世界を危機に陥らせる事が出来てしまう。
 壊すか、封じるか、出来ないなら管理が必要になると言う事から、天王アテナ、冥王代行ルシフェルの協力の元、もう一度調査の為神門を開門しようと試みられた。


 『今の世界は、そう悪くありませんわ。
  天使と悪魔だけでは解決出来なかった事を人間を交える事で成してくれます。
  だからこそシステムに永遠の活動停止を願います。私達は貴方を必要としてません』

 『天使も悪魔も人間もごちゃまぜで、皆で一緒に笑って、泣いて、ご飯食べて!
  システムになんか頼らなくても楽園はとっくに学園にあったんだよ、あたし達の楽園は!』


 しかし、神界に再び行くことは叶わなかった。門が出現しなかったのだ。
 正確な理由は不明だが、恐らく開門の権限を持つ《王》を見失った事で起きたエラーの一つだろうとの見解が出されている。
 そして再び開ける為には、あの場に居た資格を持つもの全員の同意が居るのではないかと。
 不安は残るものの、封印されたものとしつつ備えをどう後世に伝えていくかが課題になるだろうと、少し残念そうに研究者は語った。

 神界そのものの研究こそできなかったが、神界は研究者たちに大きな恵みをもたらしていた。
 人類は勿論の事ではあるが、むしろ天魔にこそその恩恵は最大に降り注ぐ。
 長年背負い続けた《エネルギー》問題に対する、技術革新による解決の緒である。


 『完全に変わった世界だと今の自分のまま変わった世界に適応・存在できるとは限らない。
  なので、今の世界のまま天魔のエネルギーの代替物資がそれぞれある世界に
  侵略はエネルギー確保が目的なわけだし』

 『争いがなく誰もが手を取り合える「可能性」のある世界を望む。
  完全に無ではなく、理不尽な環境で争いを強いられることが無いよう望み、そのために想いを交わすことでエネルギー…
  アウルを生める世界を望む。』


 神界のエネルギー。
 すなわち《思念エネルギー》は、天魔の活動に必要なエネルギーに代替えが可能である事が発見されたのだ。
 より正確に言えば、上位互換の性質となるとみられるのだ。
 これは、ラジエルの告げた言葉。
 《撃退士達の力》を、《思念エネルギー》を操っていたラジエルは《同質》だと言っていた事と、
 更には、多奏祭器・御統ノ煌星群の発動で得られた情報から、検証されたレポートから発見された。
 《想いの力》の可能性によって見出されたのだ。

 感情や魂に代わる、新たなエネルギー源が実現すれば、天魔達の生活も変わっていくだろう。
 技術革新と、実用化にはまだもう少し時間が必要になるようだが。


 三界同盟が改めて締結され、天魔側の内容にはゲートの結界開放と機能の停止を段階的に行うことが盛り込まれた。
 これは、エネルギー問題に解決の見通しが立った事による後押しも大きいと見られている。



 次に、天界、そして冥魔界について。

 天界は言うまでもなく、冥魔界も今回の一件で大きな被害を受けていた。
 特にベリンガムに攻め込まれた冥界に至っては王が崩御し、多くの諸侯も疲弊、或いは失われている。
 その為、双方これ以上戦争を長引かせて益は少なく、また反抗勢力を互いに抱えている実情もあったため、なし崩し的に結ばれていた天界、冥魔界間の休戦が改めて結ばれた。
 さらに、それぞれの異界内情勢を見ながら将来的には終戦を目指す事で合意が結ばれたのである。

 この事は地球においての、天界・冥魔界両軍の間を取り持った撃退士達の功績は小さくないだろう。
 どちらか一方でも、距離感が違う状態で交渉の席についていたなら、彼らはその手を取り合う事はできなかったかもしれないのだから。

  『望むは昨日よりも少し優しい、流された涙よりも、笑顔がある世界を。
   他種族とはもう手を取り合えた。なら後はもう少し、あと少し後押しがあれば――』

  『天使と悪魔の戦いが続く限り、どこかの世界で誰かが苦しむ。
   だけど、戦いがあったから生じたものだって確かにあった。なら、願う事は只一つ。
   天使と悪魔の和解、それが実現しうる世界のルールを作ること』


 冥魔界について、更に詳しく話すならば。
 元々天界とは違い、封建的な地方分権の態勢で文化形成をしている為、王の号令に対して必ずしも従わない事も多い。
 三国同盟、天界との休戦といった所で、なかなか従わない勢力が残るという事だ。
 地球に関連する辺りで言えば、広島のメフィスト・フェレスは合意と同時にその結界を解除したという。大公爵という立場の彼女が王の判断に従う様を見せることで、諸侯に対してのメッセージとしたのだろう。
 しかし、それとは反対に恭順を示さなかった冥魔もいる。
 北海道の洞爺湖。かつてのルシフェルの拠点であったそのゲートを移譲され、守っていたアラドメネクである。
 彼のように、すぐに王の命令に従ってゲートを開放するものはまだ多くない。
 時勢をみるのが処世術だとも言われる、冥魔達である。
 すぐに変わることは難しいのかもしれないが、少しずつ変化していくのだろう。

 王といえば、冥王代行という形を取っていたルシフェルは近いうちに正式に冥王の座に就くという。
 その席に、学園を祝賀会に誘いたいという話があるとかないとか。
 さらに数度目の結婚披露宴をやるとかやらないとか。
 まぁ、冥魔の話す「近いうち」が何年後の事を指すのかという所から確認をとらなければならないだろうが。 


 天界の方はというと。
 前天王ベリンガムによって、エルダー派と呼ばれていた武力による統率を仕切っていた多くの政治の中心に居たもの達が粛清され失われていた。
 その一方、政治的発言力が低下していた旧来派、つまりは穏健派と呼ばれるた者たちの多くは、その政治的な影響力の低さから、嵐を逃れる事が出来ていた。
 ベリンガム無き後、彼に付いていた王権派と呼ばれていた勢力も散り散りに。
 結果的に、異界内での政治的に動ける体系を維持出来た穏健派が主導を握ることが出来たらしい。
 新たに天王として即位したアテナの存在も大きい。
 ベリンガムに付いていた若い世代は、王権という大義が自分達に無い事を知ることになり、多くは投降し始めているという。
 また、戦い続きに疲れた天使たちにとって、かつてゼウスの執った穏健的路線は受け入れやすいものだったのだろう。

 王だけ、エルダーだけで話を決め、実情を見る目を衰えさせた事が、悲劇を防げなかったのだと、後に彼女は語る。
 声を聞く事、聞かせる事。姿を見る事、見せる事。
 コミュニケーションの大事さを、友人から教わった女王は、それを天界の地に芽吹かせる為に奮闘していくのだろう。

 そして、生まれに関係なく実力で評価される道の整備に向けても、程なく着手されるという。
 かつての兄王が変えたかった歪みを、正すために。


 ラジエル。
 長く凝り固まった妄執により、全てを狂わせた、王に成りたかった者。
 『神になろうとした者も含めて、無にはしたくない』
 彼にも許しを与える声があった。
 漸く眠りにつき、その意志は集う流れに合流できるのかもしれない。

 ベリンガム。
 神に至り、世界の改革を望む声を叶えようとした、孤独な王。
 彼は――まだ、生きていた。

 『…きっと、君もいる世界も、面白いと思う』
 『手を取り合って生きましょう。ベリンガム、貴方も一緒です』
 『狂わなかったべリンガム、のような可能性の存在として転生させてやりたい』
 『奇跡が起こせるなら…それを願いたいな。アテナさんとベリンガムさんが仲良く暮らせるといいな』
 『他を認める余裕と時間を彼に与えたい。一度まっさらな状態で楽園とは何かを考えさせる』
 『孤独な王も救いたい、だから、誰も争い殺しあわない世界を『創ル』』

 その魂の救いを求める声があった。願いがあった。
 強く強く。

 『出てこいべリンガム。お前もこんなシステムに振り回されんと俺らと新しい世界を創るぞ。
  俺たちは俺たちの手で新しい世界を創って生きていく』





 グラウンドに《帰還》した者たちの中心。そこで、彼は見つかった。
 自身の4対の翼を体に巻きつけ、まるでおくるみに包まれたような姿で眠る、赤子。

 その赤子は、天界で育てられる事になるという。アテナの弟として。
 今度こそ孤独とならないよう、共に歩む為に。
 もう少し大きくなったら、学園に留学させるのもいいですね、なんていう恐ろしい話題が飛び出したとかとなんとか。



 そうして、世界はまたゆっくりと進み出す。
 多くのものが願ったとおり、その世界はあまり今までと変わらないように見える。

 けれど、多くのものが願ったとおり小さく、確実に前に進むための種が蒔かれたのも感じるだろう。
 この種がいつ芽吹くのか、まだわからない。
 それはこれからの自分達次第なのだろう。

 未来は自分達で作ることを望んだのだから。

「今の世界は僕たちの力でもっと良くなります! 僕はそう信じています。」












●いつかのエリュシオン

 ――あれから数十年の時が流れた。

 旅行先ガイドには天界、冥魔界の文字が一度入ってみたい憧れの場所として登場する位には親しい関係が続いている。
 学園にも留学生という形で、天使や悪魔が学生生活を満喫しに来ているらしい。目当ての一つは《パンダ》だとかなんとか。
 かつて行われた《卒業試験》の伝説は、今もまだ語り継がれている。

 一般人にも変化が起きていた。
 【楽園】作戦の後から、アウルを発現させる一般人が急増し、今もなお増え続けているという。
 その多くは、そう大きな力を得る訳ではないのだが、生まれながらに持つ子供も多いことから将来的に、全ての人類はアウルを会得するのではないかと専門家は話す。
 また、別の専門家は元より一般人と呼ばれていた人達にも、《想いの力》は眠っていた。
 目に見える形で引き出せるトリガーを押せるかどうかだったのではないかという見解を示していた。


 それでも、学園は変わらずに。――否、変わりながら、変わらずにあり続けている。


「新入生の皆さん、入学おめでとうございます。
 私が学園長の、神楽坂茜です。ここがあなた方にとっての《楽園》となるよう、心から願っています」






(執筆:コトノハ凛)










【楽園】大規模作戦コンテンツ一覧






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