第一フェイズ――潜みし蛇が嗤う頃―― 
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桜の蕾が膨らみ始めたある日の久遠ヶ原学園。
数ある教室の中で、ひっそりと閉じられてきた空き教室で埃が舞った。
長い間使われてこなかった教室だ。舞うと言うからには、滞留する空気を乱す存在が現れたという事。
「あーもう、本格的にここを使うなら掃除が必要ね。まぁ、それは律紀に頼むとして」
教室の隅に追いやられていた机の一つをガタガタと引っ張りだしてきたのは、久遠ヶ原学園新聞同好会会長の中山寧々美(jz0020)だ。
明るい栗毛についた埃をぱたぱたと払い、どうにか並べた4つ分の机の上にファイルを幾つかのせた。
当然、机に積もった埃が舞い上がってしまう。
「机もどうにかしないと、インタビューに答えてもらうのも難しいかも」
彼女がわざわざこんなホコリまみれの教室にいるのには、理由が勿論あった。
遡ること数日前。
「中山先輩。ちょっとよろしいでしょうか?」
そう、凛とした学園の顔に告げられたのはいつものように、同好会が発行する新聞の配布許可を貰うべく生徒会室を訪れた時のことだ。
「ななな、なんでしょう? 会長、記事にナニカももも問題でも?」
書かれていた内容は、『四月の馬鹿騒ぎのすゝめ』を筆頭に『今月のおれんじじゅーす』や『探せ学園長?』といった記事だが生徒会長に睨まれるような内容ではないはずだ。今回は。
「いえ、そうじゃなくて。先輩の、力を貸して欲しいのです」
「力?」
やや眉を潜ませた黒髪の麗しい少女。しかし、力という意味においては彼女こそがこの学園における力の頂点に立つ人物の一人だ。
学園鎮護の刀、神楽坂茜(jz0005)が己に力を貸せという。
どうしよう、今月は既にお財布ぴんちのレッドラインで、律紀に頼る算段を立てる私じゃ金銭的な助けは出来ない。いやいや、生徒会長ともあろう方がお金に困ってる訳がないわよね。根拠はないけども。ということは、何かしら……そう、そうよね。人生の先輩に頼るといったら、乙女の相談よね。
「いいわっ、この寧々美が何でも聞いてあげる!」
「本当ですか、助かります。訳あって生徒会のメンバーを表立って動かすわけには行かないので」
近すぎるのは相談しにくいこともあるわよね。
「しかし、事が大事になってからでは遅すぎる案件です。その点中山先輩なら、自然に人からの情報も探りやすいはず」
なるほど。相手の友人関係から探りを入れたりって大事よね。
「で、相手は誰なのかしら?」
「悪魔に唆された、能力者。それも、恐らくは……」
「あの、乙女の相談は…」
「え?」
「え?」
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悲しい事件だったのだ。
回想に耽っていた寧々美は、気持ちを切り替えるように状況を思考にめぐらせた。
「ともかく、引き受けたからにはしっかりやらなくっちゃね」
能力者が人間を襲う。
そういった事件は今までも、少なからず学園の依頼に上がってきていた。
主に風紀委員が取り締まっているものなのだが、今回は風紀委員に任せる訳にはいかないという。
「学園の生徒への積極的な干渉…。だから、学校の生徒を守るべき生徒会が動かなきゃならない」
けれど、問題は繊細なものだ。
人間が人間を襲う。襲える。――天魔と変わらない脅威となりえてしまう。
『出来るだけ、水面下で準備を進めるべきでしょう。中山先輩ならば、そういう立ち回りが出来るはずです』
不安を払拭するため、間違いなく私達は人類の盾として誇るため、強い姿勢を示さなければならい。
なるべく、強いインパクトで根源を絶つ。
即ち――主力生徒を全て動員しての検挙作戦。
「その為にも、作戦を発動するだけの確証の持てる情報を集めて欲しい…か。よし、そうと決まれば取材よ!」
そうつぶやいた寧々美は、手早くメモに予定を書き込むと、勢い良く立ち上がる。
その衝動で埃が大きく立ってしまいくしゃみを連発。
「うぅ、その前にやっぱり掃除かな」
後に【双蝕】という名でファイリングされることになる事件はこうして明るみに出ることとなったのだ。
(執筆:コトノハ凛)
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斡旋所に寄せられる依頼の中に含まれる不穏な影。
生徒会長に頼まれた寧々美の調査により、関係性があると思われた依頼のファイルが集められた。
ディアボロと共に現れ人を虐げる能力者。失踪する学園生徒。熱に浮かされた思想。
その正体を探れ――。
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【双蝕】愛故に遭いアイ在り(相沢MS)
【双蝕】ド貪欲(ガンマMS)
【双蝕】狂血の破壊者(烏丸優MS)
【双蝕】楽園か、学園か(扇風気 周MS)
【双蝕】セフィロトの業火(あさくらMS)
【双蝕】幻魔の誤算(十三番MS)
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第二フェイズ――蛇と藪―― 
依頼と学園内の噂、それらを集めた新聞同好会会長の報告書を読んだ生徒会は、ある決定を下す。
――『恒久の聖女』と呼ばれるアウルを覚醒した犯罪者集団の一斉摘発。
その為、事前調査をするべく教師棄棄によって数人の生徒が集められた。
少数での、潜入調査。
蛇を知るためには、藪をつつかねばならない。
その代償は如何ほどだろうか……。
―――――――――――――――
【双蝕】蛇穴に入らずんば(ガンマMS)
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事前潜入調査の結果により、一斉摘発に踏み切ることは可能となった。
しかし、全ての事が上手く運んだ訳ではない。
不用意な行動の結果、脱出叶わない生徒が出たのだ。
大規模摘発の作戦開始時間が迫る中、
脱出困難となり敵地に囚われた生徒を救う為に、今一度潜入を試みる。
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【双蝕】手向けの華は百合の花(ガンマMS)
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第三フェイズ―人を嗤う悪魔の宴― 
大規模一斉摘発。
悪魔が背後にいることが明らかとなり、放逐する事は危険であると判断が下された。
しかし能力者が、能力者と戦わざるをえない作戦は、やはり大きな動揺を孕むのだった。
初戦。
学園の軍勢に対し、結社は『小楽園』と呼ばれる拠点を防衛するように自軍を広げた。
――人間の能力者と、ディアボロの混合軍を。
数で勝る学園側は、彼らを主力でいなしながら別働隊で拠点の制圧を図る。
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白味の強い春の空の下、遅咲きの白い花弁が強い風に曝されて舞い上がる。
美しい白磁の建造物の周囲に広がる庭園もまた、幻想のように美しい。
しかし、その中に広がるものを知れば、その美しさに狂気を重ねてしまうかも知れない。
――滋賀県は蓬莱山の山中にその『楽園』はあった。
「やっぱり、来る…」
キャンドルの灯りが、小柄な少女の姿を浮かび上がらせる。
修道女の装束をパンク風に改造したものを身に纏った彼女は、鬱屈した印象に違わぬ口調でポツリと告げた。
「おうおう、なんでも来いや。で、何が来るて?」
変わって豪放な印象の男が、少女に応える。
その姿は薄暗い屋内にあっても強い存在感を感じる大男だ。
けれど、彼らの居る『聖堂』において誰よりも存在感を放つのは艶やかな亜麻色。
「やはり、彼らは私達と敵対する道を選ぶのですね」
響く声は玲瓏と、それでいて包容力を感じさせ心に染み入ってくるかのよう。
「あそこは変わらない…愚かな事です」
少女と男――京臣 ゐのりと辺枝折 猛鉄――は盟主の声に、思い思いに頷く。
数日前、久遠ヶ原の生徒が『小楽園』に潜入してきた。
辺枝折の元に直接探りに来た間者の一人は捕らえて、洗脳用の独房にぶち込んであるが、今の所目を覚まさない。
敵陣の只中で首を狙うだけの実力者に違わぬ暴れぶりで、予想外の損害を『聖徒』に出してしまった。補充要員は新人も多くやや心もとない。
さらに、調べれば不自然な言動をしていた入信者が数名。
ゐのりの力で感じたものと照らし合わせれば、結論は一つ。
「ガハハハ、わしゃ戦えればそれでいいがな」
「ツェツィーリア様…」
不安そうなゐのりに、盟主――聖女・ツェツィーリア・アスカは優しく諭すように微笑む。
「大丈夫ですよ、ゐのり。望んでいなかったかもしれない。それでも、私達は選ばれた。その責任を果たす為に準備をしてきましたね」
そこへ、聖堂の外から賛同する声が響く。
「そうですとも、えぇえぇ。来ると判っているのですから、こちらも大変ラクをさせていただきましたよ、はい」
軽妙な調子であり、けれど油断の出来ない深さを帯びた声の主は、ゆらりと当然のように幹部二人の横を通り過ぎるとツェツィーリアの隣に並ぶ。
「外奪、如何でしたか」
「万事滞り無く、と言った所でしょうか。やはり、準備はしておくものですね。いえいえ、この場合は持つべきものは友でしょうかねぇ。友達と呼べるほど仲良くした覚えはありませんが」
芝居がかった仕草で、くつくつと嗤いながら色眼鏡を押し上げる彼こそが、『恒久の聖女』の後ろ盾。
悪魔・外奪。
「そうですか、ではそちらはよろしくお願いします」
「対等な統治者がいて外交交渉が出来るのは魅力的ですから。えぇ」
久遠ヶ原の制圧部隊が到着するのは翌日の事である。
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「さて、皆の衆。自体は大体把握しておるかの? まだっちゅー者は、誰かに聞いておくのぢゃ」
人手が足りない理由と、事件を多少なりとも最初から知っているという理由で駆りだされたアリス・ペンデルトン(jz0035)が、空き箱の上で資料を片手に説明を始めた。
「おぬしらの中には、思う所のあるものがおるかもしれん。ひょっとすると、過去に同じ事で悩んで辛い想いをしたものも。ぢゃが、だからといって横暴は許されるものではないぢゃろう」
アリスは見える一人ひとりの生徒の顔を見渡す。
そこには人も、天使も、悪魔も、そしてその二つの血を引くものも居る。
この多様性を受け止める事の出来る、この学園の成長をを嬉しく思った。
「人は時に、辛い気持ちを受け止めきれずに逃げたくなるものぢゃ。逃げる事は悪ではないと先生は思う」
先の潜入で、戦力こそあるものの今の鍛錬を積んだ生徒たちであれば恐れるるに足らないと確認できた。
けれど、安心できない底知れなさを感じるとアリスは思う。
「ぢゃからと言って、己の価値の為に他者を虐げて良い理由にはならんのぢゃ。何処まで逃げても超えるべきは己の中にしかないのぢゃからな」
いつになく、まともな内容のアリスの言葉に幾割かの生徒が姿勢を正したのを見て、お祭り好きの教師は苦笑した。
―だから、こういった役目は苦手なのぢゃ。
「あやつらは、このような事をすれば学園か撃退庁が動く事くらい予測しておる筈ぢゃ」
それに、とアリスは眉を寄せて渋い表情で続ける。
「事前調査部隊が持ち帰った貴重な情報により、あやつらのゲストと呼ばれる悪魔、外奪の上司が判明しておる。
悪魔サマエル。太珀によれば、少なくとも20km級のゲートを作る事は出来るぢゃろう実力者だそうぢゃ」
20km級といえば、大規模な討伐作戦で落とすような相手だ。つまり、今回のように。
「サマエルが糸を引いている以上、ただの犯罪者集団との戦闘で済むはずがない――っちゅーんが、太珀の忠告ぢゃ」
何故、実力ある悪魔が結社に手を貸しているのか不明な点も多いのだ。
気をつけて行って来いと口にしようとして、表情が改まった生徒を見たアリスは思いとどまった。
自分が言わなくても、生徒達は己で判断出来るだろう。
考え悩むことを成長の糧としてきたのだから、とそう思ったからだ。
だから、別の言葉を選んだ。
「帰ったら、祭りの準備を手伝ってもらうゾ☆ 新入生や、専攻を変えた者たちの歓迎会をせんといかんのぢゃからなっ」
(執筆 : コトノハ凛)
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大規模作戦第一巡リプレイ
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悪魔の策略により、奇襲による制圧は困難となった。
京都で見た結界を悪魔が張ったのだ。それも、多数の悪魔の援軍と共に。
外奪は自分たちを餌に学園の撃退士をおびき寄せ、その四方より著名な悪魔の援軍部隊を呼び寄せ包囲する。
悪魔の思惑はどうあれ、これを凌がなければ共倒れになるのは必至であった。
幸いな事に、招かれた悪魔達の士気は低い。
学園は全ての悪魔へ干渉し、包囲網を瓦解させるべく戦闘を開始したのだった。
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●
味方の援護を受けて『小楽園』に侵入した撃退士たちは、悪魔・外奪を前に本隊の危機を聞いた。
このまま何も手を打たなければ、例え検挙に成功したとしても包囲される。
「ならばっ」
援軍の到着より先に、敵の大本を討てばいいと外奪へ構えた銃口を解き放つ。
その時、悪魔は不可解な動きをした。
ひらりひらりと攻撃を回避していた悪魔が、その動きを止めて嗤ったのだ。
「いやはや、壮観でございますねぇ」
中空の悪魔へと向かった凶弾は、果たして外奪の喉元を撃ちぬく。
バチッ
直前、見えない壁に阻まれたように、アウルで構成された弾丸は目的を果たせずに弾かれ虚空へ溶ける。
これは……結界!?
●蓬莱山の北、白滝山との谷間
川のせせらぎが聞こえてくるような地を、大量の『ぬいぐるみ』が占拠していた。
「面白いことを考えるよねぇ、彼も」
黒髪に、春だというのにマフラーを巻いたコート姿という出で立ちの男――悪魔・シマイ・マナフ。
「ご協力下さいましてありがとうございま…すっ」
「いいよいいよ。術に集中していればいいよ」
薄い笑みのまま、けれど礼を告げる者に顔を向けもせずにヒラヒラとシマイは手を振った。
「外奪とは古い知り合いだからねぇ。協力は惜しまないよ」
そう、少なくとも自分の益となるウチは。
そう内心で呟くが、態度を疑う反応がない事に僅かに物足りなさを感じる。
(やっぱり、あいつの反応の方が面白いなぁ)
今回の事を話したら、どんな顔をするのか楽しみにすると決め、シマイは配下に指示を出したのだった。
●蓬莱山の東、琵琶湖湖岸
かつては人が暮らしていた廃墟の集落。
廃墟となったのは、だいぶ昔の話だ。近くに天魔が出た影響と、もともと人の多い場所でも無かった事もありコミュニティを維持出来なくなり、今に至る。
「気は進まないのよね」
召喚獣の背で、西の尾根へと視線を送りつぶやく。
青みを帯びた肌に、紅色の髪。常人ならば、人外だと解りながらも見惚れるような姿の女の名は、悪魔・リザベル。
彼女の配下、『騎士』と『豹獣』が西へ西へ進軍していく。
気は進まなくても、命令を受けては仕方がない。頭の足りない馬鹿な悪魔なら、それだけで投げ出すには十分かもしれないが、自分は違うとリザベルはそっと息をはく。
(この程度で止められるほど、人間は甘くない。特に、追い詰められら時ほど…。
ルシフェル様は、この状況を楽しんでおられるようだが深入りする必要もなさそう)
そう、方針を定めた所で予定位置に辿り着いたようだ。
「それじゃあ、適当にいきましょう。あぁ、そこの光ってる人間は、食べちゃダメよ」
●蓬莱山の南、権現山の麓
鬱蒼とした森の中に、彼女たちの姿はあった。
一見して黒と、白の相反する色合いを持ちながら同じ空気を発しながら進軍の時を待っている。
片や、黝い髪をボブにまとめ、片角と不機嫌そうに寄せた眉が印象的な悪魔――タリーウ。
片や、白く長い髪を流すに任せ、翅と憂いを帯び寄せた眉が印象的な悪魔――アクァ・マルナーフ。
彼女達の周囲には『戦車』と『砲兵』、そして『蜘蛛』が整然と並んでいる。
このような鬱蒼とした森の中では、戦車などは本来運用が難しい。
けれど、彼らは冥き軍勢の一員。障害を障害とする事なく、働くだろう。
「共同戦線ね、私一人でも構わないけれど……」
そっちはどうなのと、アクァが振れば、タリーウはちらりと目線のみで友軍を一瞥するが、ほどなく興味を失ったように視線を前方へ戻す。
「……はぁ……それが出来れば、そうしてるわ」
タリーウには、アクァには話していない事情があった。それは、後ろめたいという理由ではなくただ聞かれないから話さないだけではあるのだが。
視線の先には、淡い光を宿す人間。
(彼らしいわ…こういう、目眩がするほど面倒なやり方)
数すくない友人の一人を思い、最低限手を貸す義理がある状況に、何度目かのため息を付くのだった。
●蓬莱山の西、ヘク谷南方
蓬莱山は急峻な山ではない。とくに西側は木が少なく、見上げれば『小楽園』が見えるというような具合だ。
そのなだらかな斜面、蓬莱山の西の麓といっても差し支えないその位置に、他方同様にやはり悪魔がいた。
黒の軍服に身を包み、白金の髪を掻き上げ見えるのは涼やかな蒼の双眸。悪魔・レディ・ジャム。
高松にて、撃退士を破りゲートを得た悪魔がここに居た。
「用意はいいな」
配下として並ぶディアボロ『氷騎』は、他方に比べて多くはない、だが。
「いいけどさー、これで高松落とされちゃってたら目も当てられないね。アハ!」
「大丈夫です。その為にディルキスさん達には、残ってもらっていますし」
己の使役する大型の獣の上で笑う少女に、ずり落ちかけた軍帽を直す少女が窘めるように答える。
「あの、でも。多くの消耗を出すほどの義理もないので」
少女はつと、結界の核となった人間をみやり、軍師として上司に告げる。
「壊されたら、撤退します」
――悪魔セーレとクラウディア。
どちらも四国で報告が見られる悪魔であり、広島の悪魔の配下である。
「よし。これで他方に遅れを取ったらメフィスト様への侮辱に等しい。御前に相応しい報告を持ち帰るぞ」
●
「おやおや、驚かれる事もないでしょう。えぇ、皆様は似た術を知っているはずですよ」
ヒントをあげましょうと告げた悪魔が笑い、両手を広げる。
「すぐ近くでございましょう? 天のゲートがあったのは」
――同じでは芸がないので、多少わたくしなりの演出をさせていただきましたけどもね。はい。
人を核とした、四星五門現魔陣。そう言えるものが出現したのだ。
(執筆 : コトノハ凛)
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大規模作戦第二巡リプレイ
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幕間―饗宴者たち― 
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●幕間
滋賀県、琵琶湖を望む山岳の一つ蓬莱山。
仙人の住む伝説の山と同名のその山に、小楽園と呼ばれる場所があるのは皮肉なのか。それとも悪魔の悪い冗談なのか。
「結界は説かれちゃったみたいでございますねぇ」
ケラケラと笑う様は、まさに悪魔という生まれに相応しいものだろう。
その彼と並び憂いを帯びた表情の聖女然とした彼女も、その姿に相応しいのだろうか。
「そうですか、殺されましたか」
「悪魔と共に生きるのは学園だけの専売特許としたいのでしょう。いやはや、多数派はお強いですからねぇ」
聖女様と、聖徒がそこへやってくる。片腕は布で吊るされている事から、先刻の戦闘に参加していたのだろう。
「どうしましたか?」
「次の出撃には必ず、私も出して下さいっ。……まだ、小さかったのに。あいつらっ」
どうして、どうして。
学園に攻撃した訳ではない。洗脳? いいや、選択したのは自分たちだ。
『小楽園』に害意を持ってきたり、自分たちに攻撃をすれば、抵抗するのは当たり前だ。
泣き崩れる聖徒を優しく抱きとめる聖女。
「ごめんなさい。私にもっと強さがあれば。彼らに認めさせるだけの強さがあれば…」
「聖女様は悪く無いですっ、悪いのはあいつらだっ!」
いつの間にか、外奪の姿は消えていた。
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「いやはや、お陰で随分と面白い演出になりましたよ、我が友」
嗤いを噛み殺しつつ、結界術が得意な友人を思い出す。確認はしていないが、彼の事だ無事に逃げおおせただろう。
ならば、今度あった時には何かお礼をしないといけませんねぇとつぶやく。
あちらこちら声をかけた甲斐があった。メフィストフェレス卿につなぎをとれたのは大きい。
貴族系に属する自分が成り上がる上で、強者が後ろ盾や協力関係にあるというステータスは重要だ。
彼女以上の協力者はこの地に王しか居ない。
更には、王直属で動いているリザベルとも見知る事ができた。
「十分な時間は稼げましたから、そろそろ開きませんとねぇ。おや、いけないですね誰がどこで聞いているか分からないというのにひとりごとだなんて」
●
「悪魔は皆の頑張りにより、退けられたんぢゃ」
琵琶湖湖畔。
すでに日が山の影に入り、細い月が頼りなさ気に空に浮かんでいる。
最初にこの地に足を踏み入れた廃町まで後退した久遠ヶ原の本隊は、そこで野営をしていた。
「このまま夜戦は避け、明日の夜明けと共に再度突入することになるぢゃろう」
疲れた顔が、アリスの前に並んでいる。
(戦闘の疲れだけでは、ないのぢゃろうな…)
思う所は各々あるだろう、それでも今はゆっくり休んで欲しいと願った。
すぐに再び戦わねばならぬのだから――。
(執筆 : コトノハ凛)
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外奪に招かれた悪魔たち。
いずれも各地で暗躍する因縁浅からぬ者達であった。
長く姿を消していたもの、居城深くにあったもの、神出鬼没のもの。
いずれも、こちらから攻勢をかけられるチャンスの少ない悪魔たちだ。
この機会を無駄にはできない。
大軍を動かす事は難しくとも、動かせる戦力で対応出来るものを募るのだった。
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【双蝕】酷刻/救出か、討伐か(STANZAMS)
【双蝕】酷刻/白き神子の方程式(水綺ゆらMS)
【双蝕】逃走の為の闘争(烏丸優MS)
【双蝕】闘戯、誘う(九三壱八MS)
【双蝕】戦車漸減戦(押下 子葉MS)
【双蝕】児戯、再び(さとう綾子MS)
【双蝕】時戯、瞬く(久生夕貴MS)
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結界は砕かれた――犠牲のもとに。
結界を破り、各地の悪魔への対応をしている夜。
『恒久の聖女』との仕切り直しの為、皆が準備に備えている夜。
一通の手紙が届けられた。
差出人は――外奪。
『ルールを守れば、人質である一般人を開放する』
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【双蝕】白白黒白一体(相沢MS)
【双蝕】裏裏表裏一体(ガンマMS)
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最終フェイズ―『恒久の聖女』― 
激突を通して伝わってきたものを経て、撃退士達は大いに戸惑う。
能力者は、能力者でしか裁けない。
『恒久の聖女』達を討滅し、正義を示すのか。或いは、あくまで確保を優先し、救いを示すのか。
判断は現場の撃退士に委ねられた。
一方、小楽園の恒久の聖女たちも戸惑いの中にあった。
彼らの救いを求める声に、聖女は覚悟を決める。悪魔が嗤う事にも気づかずに。
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●???
「では、これを私が使えば私もゲートを開ける…ということでしょうか」
「そうですとも。まぁ、勿論誰にでも扱えるものではありませんよ。貴女だからこそ、なのかも」
「……それで、貴方はどんな得になるのですか?」
「おや、我が同志はヒョットして疑っちゃってます? いえいえ、それでこそ対等な交渉相手と言う事ですからその反応はとってもグッドなのですけれども」
「言葉を変えましょう。――代償はなんです?」
「ふ、はっはっはっはッ! いやぁ、最高ですね。えぇ、えぇ。気に入ってもらえると思いますよ?」
●『小楽園』――地下拝堂
「私達と『彼ら』、考えは違うでしょう。けれど、違えば悪なのでしょうか?」
憂いを帯びた美しい声が、拝堂に響く。
その拝堂には窓がなく、天井から吊るされたシャンデリアが仄暗く多くの人影を浮かび上がらせていた。
響く声はその壇上から。
『恒久の聖女』の盟主、ツェツィーリア・アスカはなおも続ける。
「悪だと断じられ、多くの聖徒たちが犠牲になりました。それでもなお、この楽園を護ろうと…自ら、結界の礎として身を捧げた方も居ます。私はその犠牲を忘れません」
ツェツィーリアの言葉に、抑えた嘆きの声と怨嗟、憤怒の声がざわめいた。
ダンッッ!!
ざわめきを圧倒する打音が響いた。
石壁に亀裂を走らせた拳をゆっくりと壁から引き剥がし、辺枝折 猛鉄は拝堂で身を固くさせていた聖徒を見回す。
「戦うしかあらへんやろ、そいつらの為にもよ」
誰かが拳を握った。
誰かが息を飲み込んだ。
けれど…、拭えないのは初戦の敗北の記憶。
抗いたい気持ちと、諦めてしまいそうな気持ちが聖徒たちの中で渦巻いていた。
それほどまでに、『彼ら』の戦力は大きかった。
――このまま殺されてしまうのか? どうしたらいいの?
暗い想いは、そのまま盟主へと募る。
「この道はとても困難なものです。けれど、人は強いのです。天魔と対等な位置に立てるほどに」
そんな思いを受け止めるように、聖女は声を出した。
その声は、挫けそうな心に染み入り希望を示す。
「人という種が、生存のために生み出した私達がここで折れては恒久に続く楽園への路は閉ざされてしまうでしょう」
選ばれたと言う事は、使命があるということだ。
上位のものは、下位のものから得る代償に果たすべき責任を負うということだ。
聖女として歩むと決めた時、定めた想いがある。
「聖女様…」
傍らに控える京臣 ゐのりが、気遣わしげに呼ぶのを、聖女は微笑みで応えた。いつものように。
「戦いましょう。私達の正義の為に…いえ、未来に道を残すために」
聖女様と慕い称える声を聞きながら、ツェツィーリアは願う。
彼らの想いに応えたいと。
●久遠ヶ原学園・本隊――琵琶湖湖畔
それは四方に張られた悪魔の結界の、核となっていた聖徒から告げられたものだ。
学園が保護したのは、北軍と西軍の青年と幼い少女。意識の回復が早かったのは北軍の聖徒だった。
彼は告げる。
このままでは聖女は、死んでしまう、と。
「どうか聖女様を、助けて…下さい」
自分たちが『核』となる時に外奪から聞かされた話では、聖女ツェツィーリアは結界が破られるまでの間に彼女自身の命をかけて『門』を作り、聖徒を導く道を作るのだという。
自分たちが命を捧げて『核』となる覚悟を決めたのは、そんな未来が来ぬようにという想いから。
しかし、結界は破られ未来を覆す筈の援軍はあっさりと引き返してしまった。
「敵である学園に頼むのは、……虫がいい話かもしれない」
――でも、自分を救ってくれた。手を伸ばしてくれたのが嘘じゃないならどうか。
彼のもたらした選択肢は、本隊を揺るがした。
それは、教員と撃退庁の撃退士で構成された会議の場も同じだった。
『門』その単語は、あまりに馴染みのあるものだ。即ち、ゲートを連想させる。
「聖女は人間だろ?」
「しかし……、彼らは、特に盟主は天魔と同じである事が救いだとか言っているんですよね? だとしたら、人間でもゲートを開けるように外奪がなにかをしたのかも」
聖徒を問い詰めようにも、それ以上の事情を外奪は聖徒に話していなかった。
摘発と言っている以上、生かすべきかもしれない。だが、殺さねばゲートが開かれる危険性があるという。
そもそも、その情報自体が外奪の罠かもしれない。
沈黙が、場を支配する。
「なら……現場の判断に委ねよう」
誰かがそう言った。途端に同調する声があがる。
だが、
「それは、生徒達に判断責任を押し付ける……と、言うことぢゃな?」
普段、生徒に見せることのない声音で魔女が言う。
密やかな怒気をにじませて。
「撃退士は、超法規的な立場だからどう転んでも問題はありますまい」
問題がない。そうかもしれない法的には。
けれど、過程で背負うものを無視した発言だ。
故に、怪人めいた教師もまた凄みを増した笑顔で告げる。
「オーケーオーケー、じゃあ俺たちの可愛い生徒達がどう選択しても、文句言うなよ」
●???
「アレでよかったんか?」
「えぇえぇ、お見事なタイミングでしたよ。これでお望み通りの戦場となるでしょうとも」
「そりゃー良かった。あとは好き勝手やってえぇんやろな?」
「そうそう。プレゼントがあるんですよ。とってもステキなっ」
「えぇ、えぇ。気に入ってもらえると思いますよ?」
(執筆 : コトノハ凛)
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大規模作戦第三巡リプレイ
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