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マスター:螺子巻ゼンマイ
シナリオ形態:シリーズ
難易度:難しい
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/10/27


みんなの思い出



オープニング

 林縁家での戦いから暫く経った後。
 炎條忍は、一度林縁聡の見舞いに行った。
 彼は未だ目覚めない。医者の話によると、撃退士としては再起不能といっていい状態らしい。

 彼を襲ったのは水晶隠だ。炎條はそう聞いている。
 巻物を護る為に、そして隠の気持ちを変える為に、林縁は無謀と知りつつ彼に挑んだらしい。
『今度は一人くらい、僕の手で救いたいから』
 彼がそんな事を零していたと、迅雷が言っていた。
『水晶隠という人を、僕は許せません。……お世話になった人をこんな風に出来るなんて、おかしいですよ』
 病室の前で、疾風と話したことを思い出す。

『……炎條さん。彼をどうしたいのか、貴方は考えてるんですか?』



 林縁聡の作った偽書には、巻物に関する彼の考察が記されていた。

 巻物本体の情報は断片的にしかそこには無い。
 だが、それでも、この巻物の情報は今の炎條達には有難かった。

『かつて領主が私欲で行ったという戦に関して、資料は殆ど無い』
『だが「天災によって」多くの人死にが出たという記録はあり、また、悪魔やディアボロを思わす怪異の伝説もいくつか残っていた』
『巻物に書かれている事が本当なら、忍者達は何かを隠すために歴史の隠蔽を計った?』

 一冊目の偽書には、それらの事実とそれを裏付けるいくつかの資料。
 それが何か。隠す理由は何か。そこまでは分からない。
 けれど末尾に、『虚の遺したもの?』という走り書きがある。

『虚という忍者を含め、六人の忍者が巻物には登場する』
『ウツロ、ホムラ、クサビ、イツキ、イワオ、ユキメ。巌は土門巌の先祖?』
『虚が「魔忍」となった直後から、他の忍も超常の力に目覚めている。現在の天魔と撃退士の関係に近い』

 二冊目の偽書には、かつての時代の忍者についてとアウル、ヴァニタスなどの情報資料。
 アウルの覚醒は、しばしば天魔との接触がキッカケで発生する。今回の場合は『魔忍』との接触が理由か。
 巻物で使われる『魔忍』とは、ヴァニタスとしての力の意で良さそうだった。

『巻物は五つで一つの役割を持っている可能性が高い』
『しかしこの巻物自体に特別な力はなさそうだ』
『とすると、末尾の記号が何かの鍵である……?』

 三冊目の偽書には、炎條、金城の家にあったそれと似た謎の曲線が描かれていた。
 恐らく模写したものだろう。だがしかし、林縁の巻物一つでは結局正体は掴めなかったようだ。

「……」

 炎條忍は曲線を眺める。
 手に入れた二つの巻物を開くと、その曲線も合わせて。

「……重ならないな……?」

 もし、一つの紙にそれらを描いたとして。
 一本たりとも、曲線は重ならなそうだ。



(手に入れた巻物は二つ。手に入れた情報は三つ)

 水晶隠は、二つの巻物と一つの紙をじっと見つめていた。
(これだけあればある程度の目星は付くが……かと言って、残りを無視するわけにもいかないか……)
 残る一つ。土門家の巻物。
「どう、順調?」
 思索に耽る隠の元へ、一人の身なりの良い少年がやってきた。
 彼の主、クレイ・バーズナイトだ。
「……なんとも、だな。最低限の情報はあるが、このままだとクレイへの負担が気にかかる」
 隠が答えると、クレイはちょっとむっとする。
「見せて」
 そして隠を押しやると、巻物へと目を向けた。
「……」
 暫く睨めっこを続けて、クレイは大きく息を吐く。
「やっぱりニンジャの言葉は分かんないね。……ただ、この位定まってるなら、僕は大丈夫だよ?」
 残念そうに言ってから、彼は隠へ告げる。
「確かに僕は無能かもしれないけど、その為に隠が無理をするのは、嫌だな」
「……無能、か」
 クレイの言葉に、隠の表情は暗くなる。
「また何か、言われたのか?」
「別に……いつも通りだよ」
 クレイは薄く笑って誤魔化すが、肯定しているようなものだ。

 水晶隠の主であるこの少年は、家の当主である祖父から疎まれていた。
 生まれついての魔力の低さ、そしてそれ故の虚弱さ。かつて自らの力で地位を手に入れた祖父からすれば、彼のような者が家を継ぐことに耐えられないのだろう。

「……」
 そんな彼に、隠は何か言おうとして、止める。
 気にするなと言った所で、今の自分では何の説得力も無いだろう。
 凡人と嗤われて、悪魔の僕となって、それでも撃退士に勝ちきれないような、今の自分では。

 だったら、せめて。

「……次の巻物を取りに行く。場所は分かっている」
「また、戦うことになる……?」
「……どうかな。あの人と違って、巌は覚醒者ではないから」
 林縁聡との戦いのようには、ならないだろうけれど。
(きっと、忍は来るのだろうな)



「入れ」

 土門家へとやってきた撃退士達は、すぐに居間へと招かれた。
「失礼するぜ」
 一言告げ、襖を開ける。
「おぅ、よー来たな忍。大きくなったなぁ!」
 ガハハ、と笑うその中年男性は、現土門家当主『土門巌』。
「まぁそこに座れ! ちょうど先客とも話をしていた所だ!」
「先客……?」
 土門巌の目の前。座布団に正座する、一人の男。

「また会ったな」

 水晶隠だった。
「!!??」
 困惑し、思わずヒヒイロカネに手を掛ける炎條。だがその動きは、野太い「待て」という声に遮られた。
「人の屋敷でドンパチは困るぞ。落ち着いて、吸われ」
「But、隠は……」
「『う゛ぁにたす』なのだろう。それは聞いとる。巻物を奪いに来た、ということもな」
 やはり目的は巻物なのだ。炎條が目線を向けるが、隠は彼を一瞥すると土門へと顔を向ける。
「役者は揃った。世間話は止めにして、そろそろ話してもらおうか」
「隠、お前もなかなかせっかちだなぁ」
 ずず、と土門は茶を啜ると、ふぅと一息つく。
 それから、隠、炎條、撃退士達の順でそれぞれの顔を見渡し、言った。

「そんじゃあ、そろそろ、巻物の場所を教えようか」



 土門家の巻物は、家の監視している採掘場跡地にあるという。
 既に活動を停止したその場所の、最奥部。箱に入れて仕舞ってある、と。
「持っていきたければ好きに持って行け。別に止めん」
 新しくお茶を湯呑に注ぎつつ、彼は悠然と言い放つ。
「撃退士側が持って行こうと、隠が持って行こうと、まぁ関わる気はない。と、言うか、儂にはどうも何も出来そうにないからな」
 土門巌はアウルを持っていない。忍者としても既に現役を退きつつあるという。
「ただなぁ、守ってほしい条件があるんだよ」
「What?」
「一つは、『全員で一緒に行くこと』。もう一つは、『巻物を手に入れるまで戦わない事』」
「……わけが分からないな」
 炎條忍と水晶隠は、共に眉根を寄せた。
 土門巌の出したその条件の意味が、いまいち分からない。
「ま、そういうわけだ。入口までの地図は書いてやるから、勝手に行って来い。気をつけてな」
 こちらが納得していないにも関わらず、土門は勝手に話を進める。
 さらさらと同じ地図を二枚書いて、炎條と水晶にそれぞれ手渡した。

「……ま、色々思うところがあるだろうが、がんばれよ」
 炎條に渡す時には、そう呟いて。
「お前はな、その子の事もだが、もう少し広い視野を持っても良いと思うぞ」
 隠には、諭すような雰囲気でそう口にした。

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リプレイ本文

「洞窟……か。体の弱い奴も居る事だしな。できるだけ準備はしておくか」
 同行者の顔をちらりと見て、戸蔵 悠市(jb5251)は下準備に入った。
「土門の旦那。坑道の中って、携帯通じるの?」
 その同行者、ルドルフ・ストゥルルソン(ja0051)は土門巌へ問う。
 返ってきた答えは「無理だろうなぁ」だった。基地局の電波は、坑道内部まで届かない。
「じゃあ外部との通信手段ってどうしてたの?」
「無線機を使っとったそうだがな。生憎今は動くもんが無い」
 坑道内で通信する分には使えたそうだが、長い間手入れをしていないそうだ。
 土門家の監視対象とはいえ、中に入ることは滅多に無かったらしい。
「では、連絡手段はどうしましょう?」
 宮鷺カヅキ(ja1962)が問うと、「あんまり出て来んようだったら、ウチの若い忍びを突っ込むぞ」と土門は笑う。
 だから心配するな、と彼は言うが、あまり安心出来るものでもないだろう。
「内部図もあれば欲しいんだけど……」
「おぅ、地図な。……。……何処やったかなぁ……」
 土門の眼が泳ぐ。どうも、簡単には出て来なそうだ。
「……無ければ無いで良いだろ」
 隠は溜め息を一つ吐くと、その場を離れようとする。が、「待ってよ」とルドルフはそれを止めた。
「出来れば坑道入るまで、離れないで欲しいんだけど」
「俺が何かする、と?」
 隠に問い返され、ルドルフはにこにこ笑う。
 疑っている、という程でもない。……けれど、しかし、ヴァニタスなのだから。
「まァ、この近辺なら何かあってもすぐに駆けつけられるしね。好きにすると良いよ?」
「何もする気はないが……そんな言い方をされるとな」
 水晶隠は、苦笑した。



「巻物は逃げません。焦らず向かいましょう」
 そして撃退士とヴァニタスの一行は、坑道前にやってきた。
「今からあたしは阻霊符を使う。もし中で争って坑道が崩落すればそっちも巻き込まれるからね」
 入る直前、緋伝 瀬兎(ja0009)は阻霊符を指で挟み宣言する。
「好きにすると良い。元々、巻物を見つけるまでは戦うつもりもないしな」
 こくり、隠は頷く。嫌がる素振りも見せない。
「巻物見つけても戦闘は外に出てからにして欲しいんだけどな……埋まりたくないから」
 力があったとしても、撃退士は人間だ。
「岩に潰されたり窒息したら死んじゃうよ」
「それを言うなら、天魔との戦いはどうなる? ……撃退士だって、たくさん死んだだろ」
 隠はその言葉に、ぶっきらぼうに言い返す。
「死にたくないというなら、そもそも戦いの場に来なければいい」
「それは……」
 隠の言葉に、緋伝は言葉を詰まらせた。死ぬなら同じ事だと、彼は言いたいのだろう。
 そして彼にとって、ここは戦いの場なのだ。

「『お前達は他人に出来ない事が出来る。だが他人と同じ理由で死ぬ。あくまで人である事を忘れるな』……って、お父さんによく言われたよ」

 緋伝は父の言葉を思い返す。

「……あぁ。人間には、大事な言葉だ」

 隠は小さく、そう言って頷いた。



 撃退士達はそれぞれライトで坑道内を照らし、凸凹した道を慎重に進んだ。
 隠は影忍者と共に少し前に出て、同じようなスピードで歩いている。
 そんな彼らに一匹混ざるのは、ヒリュウ。ルドルフのものだ。
「何故今これを呼ぶ?」
「この通り病弱だからねぇ、狭苦しいとこで走りまわるわけにはいかないってワケ」
 笑い混じりに彼が言うと、隠は若干納得いかなそうな顔を見せるが、それ以上何も言わない。
 隠がまた前を向いたのを確認して、ルドルフはちらと戸蔵を見る。戸蔵はやれやれと言った風に小さく頷いた。

 それから暫く、炎條や隠は黙っていた。
 ざっざっざっと複数の足音だけが響く中、「ところで」と犬乃が隠の背中に問いかける。
「どうしてそんなにこの巻物が欲しいの? 何か目的が……」
「目的が無ければ、わざわざ集めたりはしない」
 今更なんだ、と隠は少し素っ気ない態度を取る。
「だって、固執の仕方がちょっと気になるんだもん」
「……。お前達、巻物の中身は読んだか?」
「うん。『魔忍者』って呼ばれてた人と、昔のニンジャの戦いが書かれてるよね」
 
「あれは俺や忍の先祖の話だ」

 淡々と、隠は語る。
 かつてアウルに覚醒した忍者は五人。その五人が、後に別々の流派に別れ、今の五家となったのだという。
「それは俺達も分かってることだぜ……?」
 炎條が言うと、ややあってから隠は「そうか」と短く返す。
「……。なら分かっているだろうが、敢えてもう一つ、断言しておく」

「魔忍者『虚』は、実在している」

(……ふぅん……?)
 会話を聞きながら、ジェラルド&ブラックパレード(ja9284)は片眉を上げる。
 炎條が口を開いた瞬間、隠の指先が小さく跳ねたのを、彼は見ていた。



「分かれ道、か」

 途中、隠が足を止めた。
 撃退士達も、道の先を見て同じように足を止める。

 坑道が、大小複数に枝分かれしている。それも一つや二つではない。
「……影を走らせるか?」
「その必要は無いんじゃない?☆」
 隠がディアボロの先行を提案するが、ジェラルドはさほど心配していない様子で壁に糸を括り付けている。
「それは……目印か」
「蜘蛛の巣の様に入り組んでいる洞窟は、危険だからねぇ♪」
 糸は、きらりと僅かに輝いていた。蛍光塗料を塗ってあるのだ。
「そりゃあ勿論、帰りの備えくらいするよ」
 方位磁石を確認していた緋伝も、顔を上げて言う。
「そうだな……」
 隠はちらと彼女の指先を見る。チョークの白い粉がこびりついていた。
「……で、必要ないって?」
「ほら、そろそろ分かる頃だし♪」
 ジェラルドが目線を移した先では、戸蔵が煙草に火を付け、その煙をじっと眺めていた。
「ニンポーナビゲートの術!」
 犬乃もまた、地面の傾斜や足跡等を丹念に観察し、正しい道がどれか推測している。
「ここの地面が一番硬いかな……」
 指先で地面を撫ぜる。ふわ、と煙草の煙が彼の頭上を通過した。
「風の動きもある。 恐らくこちらの道の方が長いのではないか?」
 戸蔵と犬乃、二人の結論が一致。
「OK! だったらその道を進むぜ!」
 ニッと笑い、炎條が頷いた。
「……確かに、必要なかったな」
 隠は手で傍らの影忍者に指示を送ると、まず一歩を踏み出した。
「あ、待って!」
 と、犬乃が慌てて彼を呼び止める。
「この道、ちょっと天井が朽ちてきてるから……気をつけて進んだ方が良いよ!」
「あぁ……そんな事か」
 見上げ、隠は納得したように呟いた。分かっていたらしい。
「……けど別に、言わなくても良かったんじゃないか? お前達にとっては――」
「だって、巻物手に入れるまではフェアプレイって言われたもん」
 満面の笑みを向けられて、隠は目を背ける。
「……そこまでしろとは、言われてないだろ」


「質問。もしそっちの目的が達成されたら、人間側に何か悪い事が起きる?」
 再び歩きながら、今度は緋伝が隠に問うた。
 巻物が凄いのは分かった。けれどそれで何をするつもりなのか。隠側の目的が、分からない。

「……起きる。他の悪魔のすることと、根本的にはそう変わりはない」

 隠は、はっきりと答えた。

「悪魔のすること……ねぇ」
 その言葉に、ルドルフは何処か溜め息交じりに呟く。
「巻物を探すのは、君の主人の命令? ……それとも、君自身の意思?」
 そしてルドルフは、ただ一つ気になっていた問いを彼にぶつける。
 魔忍だか何だか知らないが、悪魔が絡めばロクな結果にならない。だと、いうのに。
「……前にも似た事を聞かれたな」
 隠は苦笑して、「俺自身の意思だ」と答える。
「人間に悪いことが起きるのに?」
「人間としての俺は死んだよ」
 隠はぴしゃりと言い放つ。
「今の俺は……魔忍、なんだろうな」
 そして何処か自嘲気味に、そう呟いた。



 煙草の火が、消えた。
「……酸素が薄くなっているな」
「じゃあこれ、念の為に持っておこうか♪」
 戸蔵とジェラルドが、それぞれ小型の酸素缶を取り出し、配る。
「ま、常用するわけでなくても、少し呼吸していれば楽になるよ☆」
「無理はするなよ。……特にお前は」
 戸蔵はルドルフに缶を渡す。受け取りながら、ルドルフは薄く笑った。
「それから……」
 戸蔵は隠にも缶を手渡す。
「俺は敵だぞ?」
「巻物を手に入れるまでは争わない。なら協力してもいいだろう?」
 戸惑う彼に、戸蔵はさらりと言い放つ。

「お前は何を手に入れたい?」

 戸蔵はそれから、彼に問う。
「『忍に勝ちたくても勝てなかった』、そのもどかしさは理解できなくもない」
「何……?」
「撃退士とは言え私も凡人だ。今更若い者に混じっても体がついていかない事も多くてな」
 苦笑する。自分はもう若くないのだという事を、どうしても実感させられる。この年になって、若者の背中を追いかけるのは辛い。
「だが、お前の求めるものはそれとも違うような気がして、な」
 勝てなかった。だから勝ちたい。それだけが理由か?
「お前は勝利の果てに何を求める? ……何を、取り戻したいと思う?」
「……それは……」
 隠は、問いにすぐには答えなかった。
 ただそれだけの事実が、一つの答えでもあった。
「壊す事で戻る物など何もない。自らの望みを、見誤るなよ」



 皆の会話を聞き終えた後、宮鷺は隠の隣に並び、暫くの間無言で歩いた。
「お前も何か聞きたいのか?」
「……聡さん何か言っていましたか?」
「それか……」
 隠はちらと彼女の横顔を見てから、微かに頷く。
「俺に……こんな真似をして欲しくはない、と」
「……そう、ですか」
 他にも、きっと色々話をしたのだろう。話しながら、それでも、戦ったのだろう。
 隠は何も口にしていないが、後悔するような、葛藤するような、苦しげな何かを抱え込んでいるようだった。
「……隠さん、幼少期の将来の夢って何でした?」
「将来の、夢?」
 訊きたいことは、他に山程あった。けれど。
「……俺は……」
 隠は俯く。フラッシュライトを背に受け、彼の顔は暗く見えにくい。
 けれど宮鷺は――宮鷺だけは、彼の横顔をハッキリと見つめていた。

「俺は……人を、守ろうとしていた」

(――あぁ)
 隠の顔を見て、宮鷺は思う。訊きたい事は山程あった。けれど今は、この一言で事足りるだろう。

「……ずっとずっと辛かったね、隠」

 ぐっ。隠は拳に力を籠め、ギリと小さく歯切りした。
 それが怒りでなく悲しみの表れであることは、宮鷺には分かる。

「貴方は我々を羨ましいと仰った。……私はそんな貴方が羨ましくて仕方がない」



「――あれか」
 やがて一同は、坑道の最奥部へとたどり着いた。
 フラッシュライトに薄らと照らされたそこに、無骨な鉄の箱が一つ置かれている。
 隠が箱の蓋を開くと、中には古びた一本の巻物が入っていた。
「ちょっとタンマ、条件の事もあるし、その巻物が本物か確認させて」
 と、そこで緋伝が隠を呼び止める。
「そう、だが」
「大丈夫、そのまま持ち逃げなんてしないから」
 酸素足りないもん、と緋伝は苦笑する。
「気にかかるなら、お前が開くのでも構わんがな」
 ヒリュウを召喚しつつ、戸蔵は言う。「無論、こちらでも中身は確認する」
「……良いだろう」
 ふぅ、と浅く溜め息を吐き、隠は頷いた。
「少し歩きながらだ。息が持たないからな」

 隠、炎條、そして二体のヒリュウが巻物を覗き込む。
 中身はこれまで通りの忍語で、最後には謎の曲線が描かれている。
「本物、だな」
 その曲線をじっと眺めながら、隠は言う。
(やはりこれに何かあるのか……?)
 ヒリュウの眼を通し、戸蔵もそれを観察する。
「……OK」
 ちらと隣の隠を気にしつつ、炎條も言った。
「This is a real MAKIMONO。保証するぜ」

 これは間違いなく本物だと、二人の忍者が判定した。
 とすれば、問題は一つだ。ちらとルドルフが戸蔵に目配せする。

「内容は確認したし、どう?なんか闘う雰囲気でもないじゃない?☆」

 まず口火を切ったのはジェラルドだ。
 懐からコインを取り出し、「これで決めない?」と提案する。
「……悪いが、そのつもりは無い」
 しかし隠は、これに賛同しなかった。
「俺の為だけ、ならまだしも、これは主の望みでもあるしな」
「……『外に出てから』、も駄目?」
 緋伝の問いに、隠は再度頷く。

「なら遠慮はいらないね」

 瞬間、隠の傍にいたヒリュウの一体が、突如として隠の手に噛み付いた。
「ッ……!」
 思わず巻物を握る手を放す隠。ヒリュウはそれを尻尾で払い、そのままルドルフの元へと飛ばした。
 同時に、もう片方のヒリュウが鋭い咆哮を上げる。ビリ、と空気が震え、隠の視線が僅かに逸れる。
「ごめん一部嘘ついた。俺、足だけには自信あるんだわ」
 酸素缶を片手に、ルドルフは走り出す。
「……! 待てッ!」
 じわり。隠の手の中で影が収束し、一つの四方手裏剣となる。
 隠はそれをルドルフでなく、傍らのヒリュウへと投げつけた。
「――ッッ!」
 視界の向こう、ルドルフが肩を抑える。からん。酸素缶が地面に転がる音がした。
 けれど足音は途切れず、闇の中へ消える。
「くそっ……!」
 舌打ちし、彼を追おうとする隠であったが、
「絶対渡さないよ!」
 その正面にティアマットが出現し、彼の行く手を塞ぐ。
「影!」
「おっと、行かせるつもりはないよ☆」
 素早く影忍者に指令を出すが、一体の影の前にジェラルドが立ちふさがる。
 影忍者の墨のような体に、幾筋かの細糸が絡みつく。赤黒いオーラを身に纏うジェラルドがぐっと手を引くと、影忍者はがくりと力を失いしな垂れる。
「長居は危険です、まずは外に!」
 マーキングを撃ち込みつつ、宮鷺は後退する。
 ぱらぱらと天井から砂粒が零れ落ちる。
「うん、でも……!」
 彼女の言葉に頷きつつ、緋伝は影手裏剣・烈を隠、そして影忍者へ向け投げつける。
「この程度……!」
 隠は空蝉でこれを避ける。スキルの移動範囲が、広い。
(けど、使わせれば……!)
 目的はあくまで消耗。使わせれば、十分。
「隠ッ!」
 炎條が叫び、影手裏剣を投擲する。
「狙いが甘いッ!」
 隠はそれを軽く回避するが、そこへ分身した犬乃の一人が斬りかかった。
「少しずつ後退しましょう! ……ルドルフさんは……」
 宮鷺が言う。彼は最後に攻撃を喰らった。無事出れるとも限らない。なら、隠より速く合流する必要がある。
 再び、ヒリュウが唸り声を上げた。



「隠は……?」
「消えた。坑道の中に身を潜めているようだ」
 戦いの、暫く後。
 一行は途中倒れていたルドルフを回収し、坑道の外へ出た。
「分かれ道だらけだったからねぇ☆」
 影忍者を倒す事には成功したが、隠自身には逃げられてしまった。
 坑道内にいることはマーキングで分かっている。
 だが、唯でさえ坑道内部の戦いは危険だ。巻物を手に入れたのだし、今強いてこれ以上の危険を冒す必要は無いと……炎條は苦々し気に、そう語った。



「巻物の情報はこれで全てだね」

「なら時間は掛るけど、探そうか」


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 銀閃・ルドルフ・ストゥルルソン(ja0051)
重体: 銀閃・ルドルフ・ストゥルルソン(ja0051)
   <忍者ヴァニタスから逃げ切る為>という理由により『重体』となる
面白かった!:3人

鏡影・
緋伝 瀬兎(ja0009)

卒業 女 鬼道忍軍
銀閃・
ルドルフ・ストゥルルソン(ja0051)

大学部6年145組 男 鬼道忍軍
ヨーヨー美少女(♂)・
犬乃 さんぽ(ja1272)

大学部4年5組 男 鬼道忍軍
狙い逃さぬ雪客の眼・
宮鷺カヅキ(ja1962)

大学部9年19組 女 インフィルトレイター
ドS白狐・
ジェラルド&ブラックパレード(ja9284)

卒業 男 阿修羅
剣想を伝えし者・
戸蔵 悠市 (jb5251)

卒業 男 バハムートテイマー