或瀬院 由真(
ja1687)、大狗 のとう(
ja3056)、桜木 真里(
ja5827)、点喰 縁(
ja7176)、南條 侑(
jb9620)が二階へと急いだ。
「さってぇ、探りを入れますかねぇ」
赤みの差す金色の光を纏った縁が、自身を動くソナーとして生命反応を探す。
「ひい、ふう、み……と」
ヘッドセットを介して、小声で仲間に敵と一般人の存在を教える。
近くに居たのとうに小さく「のとー」と呼びかけ、一番近くに居る敵を指差す。のとうは一度頷いて其方へ駆けだした。
光纏も相まって、流星のように駆け付けたのとうが挑発的に、大声を上げる。
「躾のなってねぇ悪い子はどこだおらー!」
その声に釣られた二匹のディアボロを、二つ一組の旋棍が一瞬で殴る。二匹のディアボロの反撃を許さぬ速さで、縁の黒色の和槍が刺突する。のとうに向かったディアボロの牙を旋棍の打撃が砕き、床へ叩き付ける。和槍が容赦なく首を落とした。生き残った一体は二人から距離を取るが、由真により退路は断たれていた。聖句が刻まれた刃が生み出す斬撃。その間に距離を詰めたのとうの旋棍により、とうとう息絶えた。
真里は、二階にあるトイレに敵と一般人が居ない事を確認した後、スタッフルームへ瞬間移動した。中には怯えている少女と、それを狙う猫型のディアボロ。強力な冷気と突風が、ディアボロを吹き飛ばす。敵が動けなくなっているのを確認し、少女の怪我がない事を確認する。大丈夫だよ、と微笑みかける真里を見て、幾らか落ち着いたようだ。目的を同じくした侑が駆け付け、扇子を投擲する。瑠璃色のアウルを纏ったそれは、綺麗にディアボロの尻尾を削いだ。魔導書を手にした真里が追撃する。雷撃がディアボロを襲う。怯んだディアボロに、間髪入れずに真里が攻撃する。炎の剣に貫かれたディアボロは、糸が切れたように伏した。
『2階、個室の安全確保出来たよ』
スタッフルームの出入口に陣取った真里が、皆に伝えた。
亀山 淳紅(
ja2261)、風羽 千尋(
ja8222)、華澄・エルシャン・ジョーカー(
jb6365)、イーファ(
jb8014)は一階にて救助、討伐に向かう。
「これ以上被害を出す訳には参りません……」
外まであと少し、というところで息絶えている人を見て、イーファが目を伏せる。その背中に、天使の翼が顕現した。高所から、敵と救助者を探す。
出入口付近で、千尋は両脚を怪我した男を治癒する。細胞の再生を促進され、立ち上がる事の叶った男を、華澄が外へと誘導した。
一階のスタッフルームに辿り着いたイーファは長大な和弓を構えた。開いていた扉から見えるディアボロに向かって、矢を放つ。身体を射抜かれたディアボロは一度大きく跳ねたが、イーファへと駆ける。再度放った矢は掠めて床を抉った。接近が叶ったディアボロは跳び上がり、牙はイーファの腹部を狙う。それをギリギリで躱しながら、距離を取る。再度接近しようと駆け出したディアボロを、ヴァニタスを探していた淳紅の放つ魔法が阻む。跳び上がったディアボロを、淳紅の周りにある球状のスピーカーから放たれる音波が仕留めた。イーファは再度スタッフルームの中を確認して、安全が確保された事を皆に伝える。淳紅は近くに居た一般人に中へ入るように言って、再びヴァニタスを探しに行った。
ディアボロを追っていたのとうの視界に、緩慢な動きで周囲を伺うヴァニタスの姿が入った。
「……またどこかで、って再会早過ぎじゃね?」
小声で呟いた。
ヴァニタスを探していた天険 突破(
jb0947)に、のとうからヴァニタス発見の知らせが入る。突破と淳紅は二階へ駆け、ヴァニタスの下へと向かう。ヴァニタスはディアボロと戦っているのとうへと歩み寄っていた。
「おっと、お前の相手は俺だよ」
ヴァニタスの歩みを、突破の刃が遮った。
「アンタみたいなのが猫好きとは思わなかったぜ、何匹飼ってるんだ? 」
「んー、確か十四匹連れてきたけど。何匹かは殺されちゃったよ」
その情報を仲間に伝えた後、突破は曲刀の切先をヴァニタスへ向ける。
「無事で済ませたきゃ今すぐ尻尾巻いて逃げ帰りな」
「……ひゅー」
床を蹴り接近したのは双方同時だった。赤い槍と曲刀が、ぶつかり合う。金属音が響く。数度同じように刃を交えた後、突破の体勢が僅かに崩れた。心臓を狙った、高速の突き。回避不能と思われた突破を狙う槍を、淳紅が放った雷が阻んだ。
「……やっぱりタダではやらせてくれないなぁ」
僅かに仰け反った後、体勢を整えた突破が刃を振り上げるのを見て、数回後ろへ跳ぶ。
「ええ、まぁ。貴方曰くなんせ‘えげつない’ですから」
肩を竦める淳紅に、楽しそうにヴァニタスが笑いかける。
「今回は何をしに?」
「前と違って、大した事のない仕事だよ。新作ディアボロの性能チェック。対撃退士情報は要らないらしいからさ、君らははっきりいって邪魔だ」
「──その、仕事を依頼した人は?」
「勿論悪魔だ──名前は教えてあげない。撃退士と遊ぶような性格じゃないからね」
それ以上の質問はいいだろう、とばかりに、ヴァニタスが口を開く。
「今回も君が遠くから遊んでくれるって感じかな?」
「ええ、音ゲーなら喜んでお相手しますよ。後は、そう──」
音波が、ヴァニタスを襲う。
「ヴァニタスの顔面を狙うガンゲーとかどうでしょう」
ヴァニタスの笑みが深まる。
筺体の傍らに隠れていた女だったが、ついにディアボロに見つかった。緩慢な歩みが獲物を狩る速度に変わり、女に飛び掛かる。女が受ける筈だった攻撃を、駆け付けた由真が肩代わりした。スタッフルーム前の守っていた真里が、ディアボロに雷撃を放つ。その間に由真は女に手を貸し立ち上がらせ、数メートル先のスタッフルームへ向かうように指示する。由真が目視出来る距離に、蹲っている少女が居た。仲間達にその存在を伝え、自分は注目を集めるオーラを纏い、駆ける。
「さぁ、こちらです。どんどん来なさい!」
由真に注目するディアボロは、少女から離れていく。由真へと接近し、牙を剥くディアボロの身を、侑の扇子が削った。手元に戻ってきた扇子を掴み、再度ディアボロへと投擲する。首の肉を裂かれたディアボロは床に這い蹲る。由真の剣が振り下ろされる。ディアボロはそれを躱そうとする。それが最期の動きだった。
ディアボロを倒した後、侑は突破と刃を交えるヴァニタスを見た。前回の図書館での戦闘、救助を一瞬思い出す。
(またお前か……)
ヴァニタスが一般人へ攻撃しないのを確認し、再度駆ける。
一階でも、殲滅と救助活動は続けられていた。出入口の近くに居た一般人は外へと誘導されており、後は内で隠れているか、襲われているかとなった。
千尋は物陰へ気を配りながら、少年をスタッフルームへと誘導していた。警戒は正しく、倒れた筺体の隙間からディアボロが跳び上がる。盾を顕現し、その突進を受けた。僅かに眉根を寄せながら、攻防一体の盾を振るう。
「口がでかくて目玉が1つとか可愛くねぇ……」
スタッフルームは目前だった為、足を止めた少年に気にせず中に入るよう伝える。スタッフルームへ入る少年と入れ替わるように、イーファが接近し、駆けようとするディアボロの脚を射抜いた。跳び上がったディアボロに、千尋の両刃の剣身が迫る。刃に切り裂かれ床に着地したディアボロを、紫電纏う矢が襲った。瀕死で千尋の脚へ噛み付こうとするが叶わず、再度イーファが放った矢に絶命した。
千尋はディアボロを倒した後、傍らの死体へと視線を落とす。死体の指に、ヒヒイロカネの付いた指輪を見つけ、目を閉じた。
「あんたのおかげで、被害大きくならずに済んだぜ……ありがと、な」
そっと呟いた。
突破とヴァニタスの戦闘は、御互いに殆ど攻撃が通らないまま続いていた。一般人を庇い、或いは誘導しながらの淳紅の攻撃は確りとダメージを与えていたが、ヴァニタスの動きを完全に封じ切るには至っていない。ヴァニタスの突きを後退して回避し、振るった曲刀を躱され、その勢いのまま蹴りが放たれたところで、ヴァニタスが階段に向かっている事に気付いた。高速の薙ぎを回避する為には、階段を数段分飛び降りるしかなかった。ヴァニタスの頬が吊り上がる。ヴァニタスは飛び降り、突破に迫る。防ぎ切れないだろう攻撃は、しかし寸前のところで淳紅の雷撃が阻んだ。体勢を立て直した突破の曲刀が、ヴァニタスの頬を掠る。反撃を狙うヴァニタスの足元に血色の図形楽譜が展開し、淳紅の歌唱が響く。
『Canta!‘Requiem’.』
覚えのある攻撃だったが回避する事は叶わず、無数の死霊の腕に束縛される。突破の剣戟を喰らいながら拘束から逃れ、淳紅を狙って光弾を放つ。淳紅は躱さず、激しい風の渦を起こす。
「……猛攻って感じだな」
ぼそりと呟き、淳紅と距離を取るように駆けながら突破の脇腹を狙う。
「……ぐ、あ」
初めてまともに受けた攻撃。耐えられないものではない。が、あと何発も喰らえる類のものではなかった。淳紅はヴァニタスを追いかけ、突破は再度曲刀を向けた。
縁は怪我を負った青年を治癒し、スタッフルームへと誘導していた。二人のものではない影が動く。青年へと噛み付こうとしたディアボロは、身を翻した縁の盾にぶつかった。その間に青年がスタッフルームへと向かったのを横目で確認する。侑が駆け付け、筺体が扇の投擲に邪魔な事を確認し、小太刀を顕現させる。刀身の周囲に、鋭い羽根のような刃が形成され、ディアボロを切り裂く。怯んだディアボロの首を落とそうと、縁が槍を振るう。それをなんとか躱したディアボロが、反撃に出る。
「ずいぶんとまぁ、可愛げのねぇ御猫だこって」
突進してきたディアボロの爪が僅かに掠る。それに臆する事なく、縁は槍を振るった。侑が追撃する。薄桃色の燐光が輝く。最期の力を振り絞って、といった体でディアボロが縁に牙を剥く。それと交差するように、縁が槍を薙ぐ。
縁の持つ槍は、曰く、「悪鬼を追い払う」。呆気なく、ディアボロは両断された。
二階に居た一般人は全員スタッフルームに誘導され、ディアボロもあと一体のみである事が判明した。その一体はのとうの足を噛み付こうと駆けた。のとうは右足にアウルの力を込め、神速で蹴りを放った。高く蹴り上げられたディアボロを旋棍にて再び床へ叩き付けようとしたが、ディアボロは外見通りの猫らしさで身を捩り、のとうへ噛み付こうと牙を剥く。その攻撃を喰らうのを覚悟したのとうだったが、駆け付けた由真の剣がディアボロの攻撃を妨げた。昇り竜の刻まれた金色の旋棍と、悪霊を斬る剣がディアボロを襲う。回避の得意なディアボロであったが、双方の攻撃を避け続ける事は不可能だった。由真の剣がディアボロを貫き、血払いのように剣を振るうと動かなくなったディアボロが床に叩き付けられた。二階の救助、討伐に当たっていた五人は、再度二階を確認して、一階へ向かう。
残り僅かとなったディアボロを殲滅せんと駆ける華澄の視界に、ヴァニタスと突破が戦っているのが視界に入った。周囲を警戒しつつ、口を開く。
「皆が楽しんで過ごす場所ばかり選んで事件を起こすのは何故?」
華澄が、ヴァニタスを睨む。当のヴァニタスは一瞥のみで、楽しそうに突破へと槍を振るっている。
「あなたには遊びでも人が死んでる以上遊びじゃない」
「でも、俺には遊びなんだろ?」
からかうような声。華澄は会話を続けようとしたが、ディアボロが視界の隅に入った。槍を握り直し、ディアボロへ向かう。
華澄がディアボロと対峙しているのを見つけたイーファは、魔を滅する聖弓を構え、炎のような矢を放つ。華澄の槍に気を取られていた事もあり、ディアボロの腹部に直撃した。それを好機と捉えた華澄が突きを放つ。ディアボロは身体を削られながらも華澄へ噛み付こうと、飛び掛かる。しかしその口が華澄の肉を食む前に、イーファの矢がディアボロの目前の床を抉った。跳び上がったディアボロへ向けて、槍を薙ぐ。虹色の光を帯びた槍が、ディアボロを両断した。
今までの探索の結果から、ディアボロは後一体のみという事が分かっている。その最後の一体を発見したのは二階から降りてきた侑だった。瑠璃色のアウルを纏う扇子を投擲する。ディアボロを傷つけ、手元に戻ってきたそれを再度投擲したが、今度は躱された。ディアボロの接近を許さぬようにと後ろへ跳ぶ。駆け付けた真里は、侑へと迫るディアボロを強力な冷気と突風で阻む。突風に吹き飛ばされたディアボロの顔面に、雷撃が襲い掛かる。それでも迫るディアボロに止めとばかりに、真里は炎の剣を放つ。何とか真里の攻撃を躱し切ったディアボロに、侑の扇子が襲い掛かる。美しい扇子に見惚れているように動けないディアボロの身を削り、侑の手元に返ってくる。こうして、ゲームセンターを襲ったディアボロが殲滅された。
ヴァニタスは攻撃よりも回避をメインに動いていた。淳紅はヴァニタスの顔面へと雷撃を放つが、ギリギリのところで回避された。ディアボロ殲滅と一般人救助が完了し、千尋は突破へと駆け寄った。アウルの光を送り込みながら、千尋がヴァニタスに話しかける。
「なぁ、前回も思ったけど、あんたつまんなそうだよな。何かやりたい事があって人間やめたんじゃねぇの? 」
「そうかな? ──そんな重い理由じゃないよ」
「なら未練もねぇだろ、 ここらでさくっと人生終わっといてもいいんじゃね? 」
「面白い事言うね。人生は結構昔に終わったよ」
治癒を受けた突破が再度、曲剣を振るう。ヴァニタスは既に牽制以外の理由で攻撃をしなくなっていた。突破はそれ以上追わずに、歩み出る真里に任せた。
「確かリチャードだったかな。また会ったね」
親し気に、真里が声を掛ける。ヴァニタスは緩やかな微笑を浮かべただけで、返事をしない。真里はそのまま歩み寄り、掌に溜めていた魔力を打ち込んだ。
「……モロに喰らったら死んだんじゃないかな」
ヴァニタスは、近距離での攻撃を主とする撃退士も近づいていなかった事に気付いていた。その上、既に逃走をメインに考えていたのだから、直撃を免れ得たのは当然だろう。それでもある程度のダメージはあったらしく、笑みに苦々しいものが加わった。
「良く分かったよ。適当なディアボロと俺じゃあ、君等はすぐに倒してしまう。──予想以上に楽しかったからさ、こっちも長続きできるように良いディアボロを貰ってくるよ」
「──何度でもあなたを阻むわ」
華澄が、凛とした声で宣言する。僅かに笑みを深くしたヴァニタスが言葉を返す。
「その時は、一人くらい殺させてくれ」
一切調子を変えないままの声。追う間もなく、ヴァニタスは消えていた。