●旅の始まり
「魔王によって脅かされ続ける国、ゾーンターク王国。
王であるゾーンターク三世は、そんな状況を打破すべく奇策にでた。
勇者召喚。
戸惑いつつも、旅立つ勇者。
突然襲う悲劇。
折れる心。
裏切り。
己が無力に涙し。
圧倒的な戦力差に絶望する。
そして、全てが謎に包まれた、魔王。
それを乗り越え、勇者達が見たものとは。
これは、そうして呼ばれた50人の冒険者の物語である……」
そう呟くは、御暁 零斗(
ja0548)。
「……呼ばれた方は、いい迷惑だよなあ」
語り部の真似事をしつつも、彼は戦いに加わる気は毛頭無かった。
●熱闘! 炎の四天王ショルンシュタイン
炎渦巻く溶岩地帯。火山の中腹にぽっかりと空いた洞窟の奥深くに、それはいた。
「あの格好、ショリュンスタインに間違いないだろうね」
燃え盛る炎をそのまま人型にしたが如き姿を見据え、ネコノミロクン(
ja0229)はそう言った。
「俺の名はネコノミロクン。貴方の持つ聖剣を戴きにきた」
「……いい度胸だ」
名を間違えた事を挑発と捕えたのか、炎の魔人は外套の様に炎を広げ、迎え撃つ体勢で両腕を広げる。
「ボクの炎とお前の炎、どっちが熱いか勝負だっ!」
ビシっと指差しそう宣言するのは犬乃 さんぽ(
ja1272)。
「弱点を突いて戦うなんて勿体無い。勝負だよ!」
それに同調するように拳を構える桐原 雅(
ja1822)は、弱点を突く所かV兵器すら持たず、炎の塊を蹴り飛ばす気満々である。
「さっさと終わらせるか」
「…憤怒の炎を斬るというのも悪くは無い」
傍らで、クールに天風 静流(
ja0373)が斧槍を構え、水無月 神奈(
ja0914)が大太刀を抜き放つ。
「良かろう、掛かってくるがよい!」
5人の勇者を前に、炎の外套を翻し魔人は厳かに言い放つ。背後の溶岩からプロミネンスの様に炎が立ち上り、渦を巻いた。
「ヒャッハー!水だぁー!」
「ぎゃー!」
ばしゃあっ、と音を立てて水が浴びせかけられると、その勢いは唐突に立ち消えた。水をかけたのは、その両肩に樽を二つ抱えた若杉 英斗(
ja4230)だ。
「炎じゃから水に弱いとは…単純すぎるわ…それでよく四天王が務まるの…」
「かけられたくないのなら、それ相応の姿勢が必要だと思うのですが?」
「ぐああああ!」
心身ともに燃え上がった所に文字通り冷や水を浴びせられ、呆然とする炎の魔人に追い討ちをかけるかのように言葉攻めをしつつ水をどばどばとかける楠木 くるみ子(
ja3222)に宿る自称神、瀬織津姫と、紅鬼 蓮華(
ja6298)。
「ほれ、燃えてみろ、ほれ」
鳳 静矢(
ja3856)にいたっては、5本もミネラルウォーターを用意してその中身を惜しげもなく振りまく。
「ぎゃああああ!」
執拗に降り注がれる己が弱点に黒煙を撒き散らしつつも地面をのた打ち回るショルンシュタインの前に、カッと音を立ててヒールを履いた足が突き立った。
「選びなさい、炎の魔人」
なみなみと水を湛えた樽をミサイルランチャーか何かの様に肩に担ぎ、暮居 凪(
ja0503)は伊達眼鏡の奥から魔人を見下ろす。
「命を捨て死ぬか、誇りを捨て隷属するか」
「……このショルンシュタイン、腐っても四天王! 人間ごt」
「そう」
言い終えるのを待たず、凪はじょばばば、と水を思いっきり降り注がせる。
「ちょ、ま、ぐああああああ!」
断末魔の声を上げ、ぷすんと最後に煙を一筋吐き出してショルンシュタインは消滅した。後には、酷く錆び付いた剣が一本残るばかり。
「……ショルシュンタイン、貴方との戦いは忘れない」
それをそっと拾い上げ、彼の死を悼むかのように呟くネコノミロクン。ショルンシュタインだ、という抗議の声がどこか遠くから、聞こえたような気がした。
●悪逆非道! 風の四天王イェーガー
一方、風の四天王に挑んだ勇者達は意外にも苦戦を強いられていた。
「はははは、この私に空中戦を挑むとは、無理無駄無謀ォ!」
風の四天王、イェーガーは自在に宙を飛び回りつつ、ぶんと腕を一振りすると一陣の風を放った。小天使の翼で空中戦を挑んでいたカタリナ(
ja5119)と星杜 焔(
ja5378)は為す術なく吹き飛ばされてしまう。
「危ないっ!」
そこにすかさず飛び込み権現堂 幸桜(
ja3264)は恋人であるカタリナを抱きかかえた。地面に激突するのも勿論の事ながら、彼女のスカートの中が露出するのを完全に防ぐ。
「弾幕薄いよ、なにやってんの!」
久遠 栄(
ja2400)が叫ぶも、勇者達の放つ弾丸は悉く外れてしまう。何故なら、ここは異世界。その物理法則もまた、現実世界とは様相を異にしていた。即ち、弾丸の当たる確率は弾の数に反比例すると言う、フィクション世界では常識中の常識が適用されているのだ。当てるならば、一発。狙い済ました弾丸を放たねばならない。
「飛び道具ならばこの風の魔人、イェーガーに勝てるとでも思ったか、愚か者どもが!」
「……魔人って言うより、怪人じゃないですか」
その狙い済ました一撃を、ぽつりと鳥海 月花 (
ja1538)が漏らした。
「な……」
「炎の魔人は立ち上る炎。巌の如き土の四天王。全身液状の水の魔人……ですが、貴方は鳥怪人ですよね」
気にしていることを突かれ、イェーガーはぐっと言葉に詰まる。
「そういえば部下が何で居ないか、聞いて良いかな?」
それに便乗するわけではないが、麻生 遊夜(
ja1838)が素朴な疑問を口に出した。
「そ、それは……」
「四天王(笑)」
月花のトドメの一言に、イェーガーは器用に空中で膝を抱えて座り込んだ。
「そこまでいう事ないだろう……」
彼の心は完全に折れていた。
「蜂の巣だ」
「落ちろ落ちろ〜♪」
そこを、鴉乃宮 歌音(
ja0427)と佐藤 としお(
ja2489)が容赦なく翼を撃ち、地面に叩き落す。
「フォイアー!(撃てー!)」
「了解です!」
すかさずカタリナがドイツ語で号令をかけると、幸桜、石田 神楽(
ja4485)、リゼット・エトワール(
ja6638)、木ノ宮 幸穂(
ja4004)といった面々が一斉に射撃を始める。
神楽のリボルバーが火を吹き、幸桜がスクロールで魔法を叩き込み、リゼットのストライクショットと幸穂のショートボウから放たれた矢がイェーガーに突き刺さる。
「吶喊です!」
高虎 寧(
ja0416)が脚部に集中させたアウルを爆発させ、凄まじいスピードで槍を突き刺すのに合わせ、
「ほむらちゃん!」
カタリナと焔の踵落としが、風の魔人に叩き込まれた。
心身ともにずたぼろになったイェーガーの懐から、四角い石がぽろりと転げ落ちた。
「シュレイファー(研ぎ師)に改名ですね」
それを拾い上げながら呟くカタリナの言葉が、既に粉々であった魔人の心に完全にトドメを刺したのであった。
●卑劣なる罠! 闇の四天王オベルジーネン
「おじさん、こんにちは!」
開口一番、元気にそう挨拶する八角 日和(
ja4931)に、闇の四天王オベルジーネンは目を白黒させた。
「お、おじさんだと……!?」
「オベルジーネン様は錆びた剣ですらとても美しく蘇らせるとお聞きしましたわ」
そこに割って入るようにして、東城 夜刀彦(
ja6047)がしなを作り、
「魔王とか倒せるようなもん綺麗にできるやなんて…。凄いわぁ」
宇田川 千鶴(
ja1613)がミニスカートからすらりと伸びた美脚を見せびらかす様にして甘く囁く。
「よっ!日本一!」
その後ろで踊りながらアーレイ・バーグ(
ja0276)が適当に合いの手を入れ、
「話には聞いている。魔人の中の魔人だと。貴方みたいな人こそ上に立つべきだろうに」
生真面目に龍崎海(
ja0565)が彼を称えれば、
「ふん、当たり前の事を言いおって……ところで日本とは何だ?」
満更でもなさそうに、オベルジーネンはふんぞり返った。
「頼れるのはこの世界一の腕を持つあなただけなのですよー?ぜっ聖剣を研ぎ直してくださいなー!」
「おねがいなのですっ」
間延びした口調で櫟 諏訪(
ja1215)がネコノミロクンから受け取ってきた錆び付いた聖剣を取り出し、逸宮 焔寿(
ja2900)が上目遣いで懇願しながら、カタリナから受け取った聖なる砥石を渡す。
「ふぅむ……まあ、この我の腕を持ってすれば聖剣に力を取り戻すことなど容易いことではあるがな。だが我とて四天王を任された身。勇者たる貴様らに何の見返りも無く協力するという訳には……」
「どうです?上手くできたら、この綺麗な美女達を好きにすると言うのは?おや、あんな事嫌いじゃ無いでしょう?男として」
渋る彼に、神楽坂 紫苑(
ja0526)がこそりとそう耳打ちした。途端、闇の魔人の鼻の下はだらしなく伸び、彼は明らかに相好を崩した。
「ほう……好きに、ねえ。それは悪くないのう」
並び立つ女性陣をやに下がった表情で眺める彼の前に、夜刀彦は剣と砥石をさっと差し出す。
「この世で最も素晴らしい匠の技、見せていただきとうございます…」
「後報酬だと、お疲れになってしまうかも知れへんしなぁ……腰がたたへんくなって」
身体を摺り寄せるようにして言う千鶴にうんうんと頷き、オベルジーネンは聖剣を手に取る。
「良かろう、では我が闇の秘技をみておれ」
オベルジーネンは右手に剣を、左手に砥石を掲げもつと、気合一発、それを重ね合わせる。剣が閃光を放ち、バチバチと放電したかと思えば、数秒後そこには真の姿を取り戻した聖剣があった。
「きゃー!すっごーい♪」
ぱちぱちと拍手するアーレイ以外は、全員が同じ事を思いながら彼を無言で見つめる。
……いや、研げよ。と。
「ふ、これしき我にとっては朝飯前よ」
確かにそうだろうよ。なにやら釈然としない思いを抱いた表情で、勇者達は互いに顔を見合わせた。
「さて、ではどの美女を頂こうか」
そんな彼らの様子はどこ吹く風で、闇の魔人は好色さを隠しもしない顔で女性陣を順番に見ていく。
「ふうむ……いや、幾らなんでも大きすぎるな」
アーレイを……正確には彼女のその巨大な質量を伴った双丘を見つめ、ぽつりと呟き。
「男は問題外……」
呟きつつも紫苑、海、諏訪、そして日和が無視され
「流石に若すぎる」
焔寿をみてそう唸り、
「……うむ、よし、決めたぞ!」
千鶴と夜刀彦を交互に見比べて納得したように頷くと、彼は肩を抱き寄せた。
……夜刀彦の、肩を。
「では報酬は貰っていくぞ!」
「あらあ、流石ですわ。誠心誠意、ご奉仕させていただきますね」
しなを作って媚びる夜刀彦の腰に腕を回し、オベルジーネンは部屋の奥へと消えていく。
「お……男に負けてしもた……」
千鶴はがっくりと地面に手をつき、項垂れる。
「私なんて男扱いだったよ……」
その隣で、日和もがっくりと落ち込んだ。まだまだ色気より食い気とは言え、流石に男扱いは傷付く。
「ただいま戻りました♪」
そこへ、あっさりと夜刀彦が戻ってきた。
「おや、早かったな」
男とは言え流石に生贄にするのは忍びない、と頃合を見て救出に向かおうとしていた紫苑は肩透かしを食らった気分でそう尋ねる。
「ええ。お酒を飲んだら『何故か』寝てしまわれましたので」
にっこり笑顔で夜刀彦はそう答えた。
こいつ、一服盛りやがった……
再び、勇者達の心の声が重なり合う。
「或いはもう二度と起きれんようなっとるかも知れんな……」
ぽつりと呟く千鶴の後ろで、アーレイはたゆんぷるんぷるんむにんと身体を弾ませながら、ずっと楽しげに踊り続けているのであった。
●激戦! 土の四天王レーゲンヴルム
レーゲンヴルムの豪腕が、石造りの洞窟を揺るがし、壁をまるで紙細工の様に抉り飛ばす。素早い動きでそれをかわしながら、エルレーン・バルハザード(
ja0889)は攻撃の機会を伺っていた。
「何でここだけマトモに戦ってるのよ!」
かすっただけで吹き飛ばされそうな一撃を何とかいなしつつ、東雲 桃華(
ja0319)が叫び声をあげる。
「そう言われましても」
桃華と挟み込むようにしてレーゲンヴルムの背後に回りつつ、雫(
ja1894)はフランベルジェを振るい、
「殲滅……殲滅……さっさと殲滅……」
これ以上ないほど機嫌の悪い表情で呟きながら風鳥 暦(
ja1672)が双剣を操り、
「早く家に帰りたいよ…」
栗原 ひなこ(
ja3001)が愚痴りながらもケーンから魔法を射出し、
「なかなかタフね〜」
雀原 麦子(
ja1553)がライトセイバーを叩き込みながらぼやき、
「はいそこアウトー!」
すかさず、桃華がツッコミをいれた。
「おかしいでしょう? どこから出したのそのライトセイバー」
「かいしんのいちげき!かいしんのいちげき!」
「そういわれても、私の世界には普通にあるものだし」
言いながらも麦子はビールを取り出すと、プシッと音を立ててプルタブを開きごくごくと飲み下す。
「戦闘中に呑まないで」
「かいしんのいちげき!かいしんのいちげき!」
「そっちも口で言えばいいってものじゃないから!」
「はぅ?」
ひたすらにかいしんのいちげき、と繰り返しながらファルシオンを振るうエルレーンに、桃華はツッコミをいれる。
「…でも効いてる」
暦の言葉に目をやれば、いつの間にかエルレーンの目隠によってレーゲンヴルムの目はアウルの霧で覆い隠されていた。
「今です!」
ここぞ好機とばかりに獅堂 遥(
ja0190)が号令をかける。
「連携技、≪百花繚乱≫!」
その言葉に導かれるように桃華と雫が左右から刃を振るい、足を切りつける。文字通り岩で出来たその太い両脚は生半可な攻撃では傷付かず、勇者の膂力を持ってしても切り落とす事は不可能。だがしかし、視界を封じられた上に両脚を押さえつけられた所に暦が放った『飛燕』は、その身体を転倒させるのに十分な力を持っていた。
「前哨戦で負ける訳には、ね」
呟きその手に太陽の如き炎を翳すはソフィア・ヴァレッティ(
ja1133)。
その隣で三神 美佳(
ja1395)が緊張した面持ちで、同じように若干小ぶりな炎の塊をその手に掲げ持つ。
「Fiamma Solare!」
「フレイムシュート!」
二種類の炎は大量の熱を孕むものの、その速度はさほど速くなく、回避は容易。……だが、元より動きが鈍く、更に転倒しているレーゲンヴルムがそれをかわす事が出来るはずもなく、土の魔人は業火に包まれた。
「グオオオオオオ!」
「参ります」
咆哮を上げる魔人の懐に、まるで手品の様に遥は潜り込む。そのまま、流れるような動作で刀を横に一閃。そのあまりの衝撃に、土の魔人の巨体がごうと転がり、一瞬遅れその斬撃を追うかの様に桜華の如き光纏の残照が辺りに舞い散る。
儚げなそれが消え去るよりも早く、転げる魔人を待ち受け麦子がライトセイバーを振るう。赤く輝く光の刃は、赤く焼けた岩の身体をまるでバターに熱したバターを入れるが如く切り裂く。
「うふふぅ、五臓を焼かれ、六腑を焦がされる快楽は如何だったかしらねぇぇ!」
そして、死角からぬっと現れた漆黒の影。黒百合(
ja0422)が、笑みを浮かべながらその傷口にハルバードを突き立てた。
「もっと味わいなさぁい……『喰らえ』」
ぼそりと呟けば、その斧槍の先端から赤と黒の炎が噴出し、まるで亡者の腕の様に宙を掻き毟りながらレーゲンヴルムの体内に潜り込む。土の魔人とは言え、その身体の全てが岩で出来ているわけではない。臓腑を内側から焼き焦がされる苦しみに、レーゲンヴルムは悲鳴を上げることさえ出来ずにその生を手放した。
「エグすぎる……」
呟きつつも、ライトセイバー以外殆ど突っ込みどころがない事に安堵し……同時に、桃華は一抹の寂しさを感じたのだった。
●戦闘は火力!水の四天王ナーゼンシュライム
「よく来たな勇者ども。この俺こそが、水の四」
『みんな準備はいい?いっくよ〜!!』
御手洗 紘人(
ja2549)こと魔法少女プリティ・チェリーが号令を取り、ダアト達は一斉に魔法を放った。
ファティナ・V・アイゼンブルク(
ja0454)が雷撃を放ち、亀山 淳紅(
ja2261)が魔法書から魔弾を撃ち、珠真 緑(
ja2428)が青白く輝く雷球を迸らせたかと思えば氷雨 静(
ja4221)が一撃を加え、エミーリア・ヴァルツァー(
ja6869)が薄紫色の光の矢を飛ばす。
圧倒的。
そんな言葉では足りぬほどの攻撃が乱れ飛び、そのことごとくがまるで吸い込まれるかのように粘液状の魔人に突き刺さっていく。
「楯……要りませんでしたでしょうか」
「せやな……」
その光景を、御堂・玲獅(
ja0388)と紫ノ宮 莉音(
ja6473)は楯を構えながらぼんやりと眺めた。
「…そろそろ死んだかしら」
数分間、惜しみなく魔法を叩き込んだところで一旦手を止め、静は様子を見る。
「き……貴様、ら、よくも……」
流石は四天王というべきか。驚いた事に、ナーゼンシュライムはまだ息があるようだった。そして反撃を開始すべく、その身体から無数の触手を生やし
『まだだね☆ じゃあみんな、合体魔法:Donner Pfeil(雷の矢)だ☆』
標的が適度に大きくなったところで、6人のダアトが揃って魔法を放った。
チェリーとファティナの放つ一条の閃光が絡み合い、まるで縄の如くより合わさると、緑、静、淳紅の放つ雷球がその周囲を緑、青、紅に輝きながらくるくると回転する。最後にエミーリアの放った矢がそれを捉えると、あたかも稲妻の龍が如く閃き、ナーゼンシュライムをその牙で噛み砕いた。のみならず、背後の壁を打砕き、大黒柱を破壊して、水の魔人が居を構えていた神殿もろともに木っ端微塵に破壊しつくす。
「み、皆様、お逃げください!」
あまりの破壊力に呆然とする勇者一行の手を引き、玲獅は慌てて神殿から脱出する。その隣で、莉音は水の魔人が残した遺物と思しきガラス瓶に入った秘薬を拾い上げる。
「お前さんに恨みはないけど・・・すまんっ!」
ゴゴゴゴゴゴ……と轟音を立てて崩れ去っていく神殿に向かって淳紅は両手を合わせ、そう詫びた。
●謎に包まれしもの!魔王モーンターク
雷雲渦巻く魔王城。
そこから崖を挟んだ、ゾーンターク王国王城の正門前に、再び50人の勇者達が集結していた。
「彦、ご無事でして?」
「お義姉様こそ…」
「姉さん…?生き別れた双子の姉さんじゃないか!」
そんなやり取りを交えつつ、勇者達はひとまず互いの無事を祝う。
しかし、集まったのは50人だけではなかった。魔王と勇者を一目見ようと集まった野次馬達に、それを当て込んで店を開き始めた商魂逞しい商人達、そしてそれらが戦いの邪魔にならないように規制を敷く王国の兵士達で、城の前はちょっとしたお祭り騒ぎになっていた。
そんな中で
「薬草〜薬草はいらんかね〜」
「はぅはぅ…売ってほしいの」
「あいよ、1000メケメケだよ」
「足りないの!?」
エルレーンがお祭り価格に驚愕したり、
「伝説の武器ー伝説の武器ロングヒノキの棒だよー」
「買った!」
「はいよー。500メケメケだよー」
さんぽがボッタクリ価格でタダの木の棒を売りつけられたりしつつも、勇者達はその成果を持ち寄り算段をしていた。
「聖剣と、石と、秘薬は揃ったけれど……」
「え〜と石と秘薬と合わせて魔杖を作るんだっけ?」
各班を代表して千鶴、ひなこ、莉音がそれぞれ顔を突き合わせ、手に入れたものを見比べる。
「石と秘薬で杖……ってどうしたらいいんやろ」
「……秘薬ぶっ掛けたらいいんやないかな」
首をひねる莉音に、千鶴はどこか面倒臭そうに言った。
「いや、だって、杖って」
「どばー!」
戸惑う莉音をよそに、ひなこは秘薬を手に取ると躊躇なく石にかけた。すると、石が光り輝き、するすると伸びて虹色に輝く一本の杖となった。その様子を見ていた勇者や野次馬達から感嘆の声が上がるが、闇の四天王を相手にした者達の目は冷ややかだった。
「……ねえねえ、もしかしてさー」
「言わないで下さい」
日和が言いかけた所を、夜刀彦が遮る。
「別に四天王さんじゃなくてもアイテム揃ってたら聖剣治せたりしたかも知れないですねー?」
「だから言わないで下さい!」
にも拘らずニコニコしながら言う諏訪に、夜刀彦はがっくりと項垂れた。男ながらに振袖姿で誘惑してまで頑張ったのに、それが徒労だったとは思いたくない。かくなる上はこの不満を魔王にぶつけるしかない、とばかりに出来上がった魔杖レーゲンボーゲンを振ると、崖の上にあっという間に橋が架かった。
頑丈そうな、鉄製のトラス橋である。
「虹の橋とか架かりなさいよ、ファンタジーなんだから……!」
桃華の突っ込みも空しく、勇者達はぞろぞろとその手に凶器を携え橋を渡る。
「皆、こういう時こそ品位が問われるぞ〜。日本人ならちゃんと並べ〜」
雑然とする勇者達一行を海が規律良く纏め、50人の勇者達が二列縦隊で魔王の城へと入っていく。一人一人が一騎当千、すなわち5万の兵に匹敵する軍勢である。魔王城に蔓延る有象無象の魔物達など相手になるはずもなく、片っ端から斬り捨て、撃ち倒し、焼き払い、殴り倒していくその様はあたかも無人の荒野を進むが如し。
と、進む勇者達の行方を、突然立ち上る炎が遮った。
かと思えば、右手に風が吹き荒び、左手に水が溢れ出し、そして背後から岩の塊が突き出す。
「そこまでだ、勇者共……」
「この声は…ショリュンスタイン!」
「ショルンシュタインだ!」
相変わらず名前を間違えるネコノミロクンに、思わず炎の魔人は怒鳴りつつ姿を現した。残りの四天王3人の冷たい視線が、ショルンシュタインに突き刺さる。と言うか、やっぱり闇の人は自称だったんだ……という雰囲気が蔓延していた。
「ともかく、ここから先は我ら四天王が通さん。さあ、受けてみよ! 我ら四天王の真の恐ろしさ!」
数分後。
そこには崩れ去っていく四天王の姿があった。
「もう二度と50人の勇者に喧嘩売ったりしないよ……」
そんな言葉を残し、消えてゆく魔人達。復活したからと言って別に強くなっているわけでもなければ弱点が変わったわけでもなく、こちらの戦力は闇の方に行った人数分増えているのだから当然と言えば当然の帰結であった。ついでに言えば、土とまだともかくとして、水が弱点の炎の魔人と火が弱点の水の魔人の相性は最悪で、割とお互いに潰し合っていた上に風の魔人は未だにかなり落ち込んでいた。どう考えても火だけを4人揃えた方が強い。
ともあれ、中ボス戦を作業的にこなした勇者達は巨大な扉を開き、ついに魔王と対峙する時が来た。
真っ暗な大広間。その奥に巨大な玉座があり、巨大な魔人が座っているのがうっすらと見えた。
「良くぞきた、勇者達よ……」
威厳に満ち溢れた声で、魔王は勇者達を出迎える。
「世界の半分をちょ〜だい♪」
魔王が言葉を続けるのを遮り、真っ先にそう言ったのは麦子だった。
「はい!はい!YES!YES!」
「……まだ世界は我のものではない。故にその申し出に答える事は出来ぬ」
酒が入りハイテンションで要求する麦子に、魔王は些か戸惑いながらも意外と律儀にそう答えた。
「だが、我が部下となり、ゾーンターク王国を滅ぼすならばそれも良かろう」
「……一つ、教えてください」
ずいと一歩踏み出し、そう問うのは雫とネコノミロクン。
「ゾーンターク王国と何故敵対しているのですか?」
その言葉に魔王はしばし考える様子を見せ、やがておもむろに口を開いた。
「良かろう。ならば教えてやろう。我ら魔族と、人間の戦いの歴史を……あれは今から36万…いや、1万4000年前だったか」
「そう言うのはいいです」
話し始める魔王に、二刀による衝撃波が叩き込まれた。
「……貴方を倒せば眠れる!」
血走った目(寝不足)でそう叫ぶのは、寝ようとしたところで召喚されてしまった為機嫌が振り切れてしまっている暦だった。
彼女の攻撃をきっかけとして、早く戦いたくてうずうずしていた面々が一斉に攻撃を始めた。
10メートルの距離を助走無しで跳躍し、神奈が一太刀入れたかと思えば妖艶な笑みを浮かべつつ夜刀彦が地を這うかのような低さで稲妻の様に接敵し、魔王の身体に苦無を叩き込む。
『アハハハ!チェリーを楽しませてね?』
笑いながらチェリーが銃を乱射すれば、
「大人しくぼこぼこにされてくださいね♪」
にっこり笑いつつメイド服姿で蓮華が大鎌を振るい、
「早くお眠りなさい! 異世界の魔王! 私は早く本の続きが読みたいのよ!」
静が叫びながらも無表情で魔法を叩き込み、
「これは弱い者虐めではないのか?」
若干戸惑いそう呟きつつも、瀬織津姫はしっかりと薙刀の一撃を加えている。
「え? 気のせいでしょ?」
それをあっさり否定しつつ緑が魔法書から雷球を放ち、
「っていうか、傍から見たらこれ親父狩りとかそんなんに見えるんやないやろうか……」
ぼやきつつも淳紅が同じく雷球を放つ。
「みんなの敵、モーンターク!あなたがいるせいで、にちようびは午後からゆううつなんだからねっ!」
良くわからない台詞と共にエルレーンが斬りかかれば、
「残念ですね、私の休日は…月曜日なのですッ!」
それに呼応するかのようにカタリナが叫び、
「僕も月曜が休みです!」
幸桜もまたそれに応じる。ちなみに、バイト先の定休日の話である。
「この世に悪する魔王よっ!正義の矢を受けてみよっ……ちょっ、人が多すぎて矢を放てないっ」
一方、栄はまごまごし、
「世界平和のために頑張って下さい〜」
アーレイは相変わらず踊っていた。
ともあれ、攻撃してしまった以上魔王もそれに応戦せざるを得ない。そうなればもはや乱戦、総力戦である。決め台詞と共につくはずだった広間の中の燭台は暦が速攻で切りかかったせいでつかぬまま、残りの勇者達も巨大すぎて顔もよく見えない魔王に対して一斉に襲い掛かる。
ファティナが踊るようなステップで攻撃を回避しつつ反撃し、寧が一気呵成に【迅雷】で吶喊し、莉音が勇者達の攻撃を縫うかのように薙刀を振るい、日和が他人に攻撃を当ててしまわないよう気を払いつつ攻撃し、静流が冷静に攻撃を見極めては斧槍を叩き込み、黒百合がちょっと描写できない部分を猟奇的に抉り、千鶴が後ろから苦無でチクチクチクチクと魔王の脚に穴をあけていく。
前衛の背後からは、遊夜が射程ギリギリから銃弾を飛ばし、ソフィアが千鶴の更に後ろから魔弾を撃ちまくり、リゼットと神楽が的確な援護射撃で魔王の行動を阻害し、月花が魔王の脚を打ち抜いて動きを止めたと思えば、エミーリアと美佳が揃って魔法を投げ飛ばす。
ちなみに、
「いつだって明けない夜明けは無い、モンターク、その闇ボクが切り払う!」
そう宣言してひのきの棒で殴るさんぽと
「あ、魔杖ってどんななんだろ…ちょっと使ってみようかなぁ? 魔王覚悟!なんちゃって」
魔杖レーゲンボーゲンでひなこが魔王を攻撃するが、両方とも武器としてはただの棒切れに等しいためダメージは限りなく0に近かった。
一方魔王もただ黙って殴られるだけの木偶の坊ではない。その口から炎を吹き、腕で勇者をなぎ払い、魔力の弾を放って攻撃する。その動きは巨体に似合わず非常に早く、一呼吸で三度の攻撃を可能にする。所謂『一ターンに三回攻撃』という奴である。ただし残念ながら、三回攻撃できても相手の手数の方が少しばかり……具体的には16.6倍ほど多かった為、かなり焼け石に水であった。与えた傷も、玲獅や海、瀬織津姫、幸桜、ひなこと言った面々が回復する為すぐに水泡に帰す。
「かくなる上は、我が真の姿で相手するしかあるまい……!」
魔王の身体が震え、その身体がぐにゃりと歪む。
「あ、変態」
幸穂がぽつりと呟き、同時に
「俺だってあと1回変身を残してる!」
と、英斗がやおら服を脱ぎ捨て上半身裸になり、
「勇者ムキムキン参上!」
そう叫んだ。立派な変態(動物の正常な生育過程において、ごく短い期間に著しく形態を変えることを表す)である。ただし言うほどムキムキではなかった。
「まさか小さくて可愛い兎ちゃんとかにはなれませんよねぇ?」
「何にでも変身できるのですか?…嘘はダメです。幾ら魔王とはいえ、豆に変身するなんで無理ですよねっ」
としおと焔寿が魔王を挑発するかのように囃し立てる。魔王の身体の震えが、僅かに戸惑うように不規則に揺れた。魔王の身体が闇よりなお黒い漆黒の光に輝き、辺りを包み込む。
大地が揺らぎ、大気が振るえ、轟音が鳴り響く。
そして闇が消え去った後、そこに現れたのは。
こんがりと焼け焦げた巨大な豆(ウサミミ付き)と、何故かムッキムキになった英斗であった。
「変態だー!!」
繰り返すが、変態とは動物の正常な生育過程において、ごく短い期間に著しく形態を変えることを表す。
「って言うか、魔王、死んでる……」
変身中に鳴り響いた轟音は、変身中にも拘らず空気を読まず魔王をボコボコにした勇者達の攻撃音であった。具体的に言うと静矢、歌音、凪、諏訪辺りが戦犯である。
「変身中に攻撃はやってみたかったんですよねー?」
諏訪は悪びれた様子も無く、そう言った。
結局、魔王はどんな姿をしていたのか。何故王国と敵対していたのか。本来はどんな姿に変身しようとしていたのか。そもそも聖剣は効いていたのか。何もかもが謎のまま、魔王は潰えた。
「……君が欲したものって一体何だったのかな」
そう呟きながら、焔がそっと手作りのおむすびを魔王の前に供える。
巨大な豆の前におむすびを供えるその姿は、大層シュールであった。
●そして伝説は始まった
魔王が倒れた事により、勇者達はもはや己を縛る枷がなくなった事を感じた。そう願いさえすれば、一瞬にして元の世界に戻ることが出来る。それが、誰に言われるとも無く理解できた。
多くの者はすぐに元の世界へと帰った。元の世界での流浪の旅に戻った遥。長居は無用とその場で帰還した静流。魔王との戦闘が終わった瞬間、とてもいい笑顔で「おやすみなさいです!」と倒れこみながら帰っていった暦などが好例である。
が、皆がそうしたわけではない。
「貰った500メケメケでこっちのラーメン食べてこうっと」
としおはこちらの世界でラーメンを探す遥かな旅へと旅立ち。
「皆さんお疲れ様でしたよー!」
折角だから、と諏訪は土産を求めて観光に出かけ。
「いいね……やっぱりこうでなくっちゃ!」
雅は口の端の血を指で拭い、ニッと笑みを見せた。50対1を善しとせず、魔王との戦いに加わらなかった彼女が相手をするは、魔王の背後にいた大魔王、そしてそれを倒した先に更に隠れていた超魔王である。
「行くよっ! 貫く魔弾『タスラム』!」
そんな大筋とは関係のない激闘を繰り広げている者もあり。
しかし、もっとも多い選択肢は……
「敵は王城にあり…!」
旗を掲げて声を張り上げる凪。それに続くはファティナ、美佳、遊夜、雫、緑、静矢、幸穂、神楽、夜刀彦、エミーリアと言った面々。ちょっとした仕返しから本気で殺意を抱くものまで種々様々ではあるものの、その胸に抱く思いは一つ。『ゾーンターク国王、ただじゃおかねえ』である。総勢11名、その戦力は明らかに対四天王より多い。
「報酬を頂きに来たわ。とりあえず王国の全財産位でいいから頂戴」
王を前に、緑は傲岸不遜にそう言い放つ。
「そうはいかないわ」
しかしそこに、立ちはだかる者が一人。
「この世界の『道』は、私が管理する……道とは流通、流通とは経済、経済を制する者は世界を制す。その為にはこの国の協力が必要不可欠なの。そして、私がビール流通で経済を牛耳るのよ!」
ビールを片手に持った麦子であった。
「……あれ? 酔いすぎたかな。人が何かたくさんに見えるわ」
「邪魔するなら容赦せんぞ」
聖剣に紫のオーラを纏わせ、静矢は低い声でそう呟く。
麦子は無言ですたすたと彼に近付くと、横に並んでくるりと王を振り向き、
「人を無料でこき使う邪悪な王め、成敗してくれる!」
ライトセイバーを振りかざしてそう言った。
「……良かろう。かかってくるがいい」
不敵な笑みを見せる王に、容赦なく雷撃や銃撃、膨れて針が立っているハリセンボン等が投げ放たれる。ちなみにハリセンボンを投げたのは幸穂である。
「きかんわぁ!」
しかし王様はそれを全て筋肉で弾き飛ばした。ビリビリとガウンを破き、王の身体が見る見るうちに肥大化していく。
「いつから錯覚していた……? 魔の王より、人の王が弱いなどと……!」
変態……もとい、変身を終えた王は身の丈3メートルほどの偉丈夫となり、鋼の肉体を持って勇者達に相対する。
「さあかかってこい、勇者共。そして絶望を抱き、我が腕の中で息絶えるが良い……!」
完全に魔王としか思えない台詞を吐き構える王に対し、勇者達は互いに顔を見合わせ頷くと、各々武器を抜き放ち挑みかかる。
「倒し方解ってそんなに強いんなら、お前が行ってこいやぁぁ!」
至極もっともなツッコミをする静矢を筆頭にして、勇者となった撃退士達の、最後の激戦が始まった。
●このシナリオはAPであり、実在の人物、団体、出来事等とは一切の関係がありません
「……夢か……」
ベッドの上で上半身を起こし、零斗は呟いた。面倒ではあったが、端から見ていればなかなか楽しい夢であった。とは言え、あんな夢を見てしまうとは最近ちょっと疲れているのかもしれない、と零斗は思った。
「それじゃぁ魔王よりも厄介な朝飯を倒しに行くか」
学食に向かった彼が、ムキムキで服がパッツパツになっている英斗を目撃し、お茶を噴出すのはそれから15分後の事である。