●緑地:正面班
「いたぜ、情報通りだ」
今回の標的は、五体のゴブリン。その全てを視認できたとミハイル・エッカート(
jb0544)は確認するように呟いた。
「ゴブゴブうるせー相手だけど、ゴブリンなんて雑魚焼却してやるぜー」
「では、作戦通りにやりましょう」
ミハイルの近くでは、ラファル A ユーティライネン(
jb4620)と雫(
ja1894)が戦意を高めていた。どちらもヤル気十分だ。
「大佐も準備できてます。では、いきますか?」
最後にRehni Nam(
ja5283)が召喚したヒリュウが上空を飛んでいるのを確認しつつ、開戦準備が整ったと告げた。
彼ら四人は、今作戦における“正面班”だ。彼らは、今回の討伐において戦力を二手にわけ、挟撃を仕掛ける算段となっている。
そして、最初に攻撃を仕掛けるのがこの四人。敵の注意を引き付けつつ殲滅するのが役割だ。
そんな自分達の仕事を始めるかと問われた撃退士達は、皆頷いた。これより、ファンタジーよろしくゴブリン討伐が始まるのだ。
「では、行きます!」
「おっしゃ! 初っ端から飛ばしていくぜ!」
まず、レフニーとラファルが動き出す。レフニーの召喚獣“大佐”がゴブリン達を強襲し、威嚇したのだ。
それにより、六体のゴブリン達は敵の存在を知った。そして、すぐさま攻撃に出ようと正面班の方へと走り出そうとしていた。
だが、その出鼻をラファルが挫く。奇襲の為に最初から持ちうる能力を開放した彼女は、両腕を機械式砲塔に変化させていきなり砲撃の連射を行ったのだ。
「ゴブッ!」
だが、それを黙って食らうほどゴブリン達も弱くはない。自分達へ向けられた攻撃を防ごうと、ゴブリンガードナーが前に出て全ての砲弾を盾で弾いたのだ。
それでもダメージを完全に防ぐことはできていないようだが、それも背後のヒーラーによって相殺されていた。
それを見たラファルは、攻撃しながら敵の次の手を考える。こうして撃っている最中に前に出るのは困難なのだから、ここは遠距離攻撃で来るのではないか、と。
「ゴブッ!」
その予測は当たったようで、ゴブリンアーチャーとゴブリンメイジが武器に手をかけた。どうやらあの二匹が遠距離攻撃担当のようだと判断していいようだ。
そのまま、アーチャーは矢を、メイジは火の玉をラファルへ目掛けて放とうとしているのだ。
「よう、ゴブリンども。お前らの王国は俺達が潰してやるぜ。せいぜい足掻いてみせるんだな!」
「下手に小細工を仕掛けるよりは、正面か叩いた方が効率的なはずですね」
だが、その攻撃の前にミハイルと雫が前に出た。一人ラファルの攻撃を受けとめるガードナーを、二人は正面から潰しにいったのだ。
これを許せばゴブリンたちはもっとも大切な盾を失う。これを許すわけには行かないと、後衛二匹は攻撃対象を変更したのだった。
「チッ! 流石にこれは必要経費か」
「でも、大したことはありませんね」
防衛側の攻撃を、完全に防ぐことはできない。ミハイルと雫は共に初撃を受けてしまうが、しかし代わりに欲しいものを得た。それは、敵の注意と隙である――
●背後班
「こちら戒だ、所定の位置に着いた」
正面班が戦闘に入ったのを確認し、戒 龍雲(
jb6175)が背後班のメンバーに連絡を入れた。
彼ら背後班の目的は、正面班に気をとられたゴブリン軍へ攻撃を与えること。隊列を崩す、見えない一撃だ。
「こちらも問題ない」
「俺もいけます」
連絡を受けた背後班のファーフナー(
jb7826)と龍崎海(
ja0565)が返答する。
背後班の役割は敵の隊列を崩すことであり、奇襲だ。それ故に、攻撃は同時に行われなければならないのである。
「では、いくぞ!」
まず、ゴブリン軍の背後から戒が飛び出した。彼はアウルの力で加速し、ゴブリン軍の役割としてガードナーから離れた位置で魔法を使っているメイジへと接近した。
「お仲間と仲良く踊っていろ!」
そして、掌打によってその体を突き飛ばし、ガードナーの方へ無理やり移動させたのだった。
「いきます!」
そして、背中に翼を展開した龍崎が手に槍を作り出し、ゴブリン達へ目掛けて投擲する。
それだけではない、正面班のメンバーたちも、撃破優先順位の高い盾役と魔法役が固まったこの瞬間を狙って一斉に範囲攻撃を打ち込むのだった。
「ゴブー!」
ガードナーは、自らに課せられた役割を果たそうと、その全ての攻撃を自分に引き寄せた。
だが、流石の王国の盾でもそれは無謀だ。集団範囲攻撃を自ら圧縮して受けるなど、自殺行為以外の何物でもないのだから。
「ゴゴブッ!」
だが、そこで巨体のゴブリンリーダーが動いた。ヒーラー一人では回復が追いつかないと見たのか、リーダーまでもがガードナーに回復の力を使い出したのだ。
その力を受け、ガードナーが邪悪に笑う。二匹がかりでの回復を受けられるのならば、この攻撃を凌げると察して。
「鬱陶しいな」
「ゴブッ!?」
だが、そんな中に背後班最後の一人、ファーフナーが突っ込んで行った。
事前の打ち合わせで攻撃に味方を巻き込まないよう注意するように決めていた為、味方の攻撃でやられるようなヘマをすることなく彼はヒーラーへと肉薄し、目にも留まらぬ力の一撃を浴びせるのだった。
「ゴブッ!」
ヒーラーが一時的にとは言え動きを止められたことで、ゴブリン達はいよいよをもって本能に身を任せる攻撃に打って出た。
撃退士達と同じく、ガードナーを守るのではなく攻撃によって敵の攻撃を打ち消す為に。
これより、戦いは混戦の体を見せ始めるのだった……。
●総力戦
「くくく、お前が王国の壁か。どれほど耐えられるのか見せてみろよ」
既に満身創痍のガードナーに、ミハイルは王国を侵略する魔王気分で手にした銃による攻撃を仕掛けた。このまま、ガードナーを落としてしまうつもりなのだ。
「ゴブ!」
それを防ごうと、ガードナーは盾を構える。だが――
「甘いですね」
雫がガードナーに急接近し、無防備に構えられた盾目掛けて大剣を振り上げる。ミハイルの弾丸を弾く為に構えた盾を、剣で吹き飛ばすつもりなのだ。
「ゴブ!?」
「隙あり、ですね」
「さーて、ぶっ飛ばすか!」
ガードナーは、雫によって盾を失った。その隙を狙い、青い薔薇の花弁舞う千枚通しをレフニーが投擲し、ガードナーを串刺しにする。
ラファルはビームライフルによる狙撃だ。なにやら格好いい効果音と共に放たれる雷の弾は、ガードナーの防具をすり抜けて本体を焼いた。
このダメ押しによって、今度こそガードナーは倒れたのだった。
「ゴブブー!」
だが、ゴブリン軍はそれを気にせずにリーダーの咆哮と共に前進してきた。正面から苛烈な攻撃を放ってくる人間に対して、どこまでも攻める覚悟を決めたらしい。
その中でも特攻隊長を務めるノーマルゴブリンは、真っ先に突っ込んできたのだった。
「次は厄介な後衛だな」
一方、撃退士チームの狙いは厄介な能力を持つヒーラーとメイジだ。
その二匹は隊列の後方に位置している為、接近していたミハイル、雫はノーマルを無視して前進。背面班はそのままメイジ、ヒーラーへの攻撃を開始するのだった。
「ゴブ!」
それを迎撃しようと、メイジは杖を頭上に構える。しかも、先ほどの火球ではなく、光る鎖のようなものが杖先から出ていたのだった。
その光る鎖は、迫る雫を捕らえる。どうやら、行動阻害の力をもった魔法らしい。
「鎖ですか。ですが、そんなに頑丈そうではないですね」
捕らわれた雫は、しかし動揺することなく力で鎖を破壊しようとする。それは決して無謀ではなく、元々強い能力ではない鎖は今にも砕けそうな、ミシミシと悲鳴を上げるのだった。
……本当に、どっちが魔王軍かわからない力技である。
「ゴブ!」
「さっきの奴が壁だとすれば、お前は王国の守り神ってとこか。だが残念だな、お前の出番はもう来ないぜ」
そんなことをしている間にも、ヒーラーが範囲攻撃の余波で傷ついた仲間達の回復を行おうとしていた。
だが、そこにアウルで作ったアサルトライフルを構えたミハイルが接近し、ぶん殴る。回復スキルを使わせない作戦である。
「援護します!」
更に、ミハイルのスキルをサポートしようと、龍崎はアウルをミハイルに向けて飛ばした。このコンビが動く限り、当面ヒーラーは使い物にならないだろう。
「ゴブバァ!」
だが、怒りに身を任せたリーダーはここで自ら攻撃に出た。メイジと同じ火球を作り出し、ミハイルの援護をしていた龍崎へ放ったのだ。
「うわっ!?」
本職ではない為か、ダメージはそこまで大きくない。だが、それでもダメージはダメージだ。
リーダーが多彩な能力を使えるのだと確信した撃退士達は、警戒を強める。だが、そこで一人距離をとったままのラファルが動くのだった。
「オラオラオラッ!」
「ゴブッ!?」
遠距離から、ラファルの弾丸がリーダーを打ち据える。流石リーダーなだけに一発で倒れることはないが、衝撃を与える事はできたようだ。
「こいつは俺が抑えるぜー」
ラファルの銃口は、ぴたりとリーダーへ向けられた。もし今後リーダーが不穏な動きを見せるのならば、その前にラファルの銃が火を吹くだろう。
「では、今の内にやるか」
もっとも厄介なリーダーを銃口が止め、ヒーラーも抑えられている。こうなれば、もうまともな防衛ができるのはノーマルくらいだ。
だが、そのノーマルは前もってレフニーの大佐で足止めしていた。もう後衛を守るものは何も無いのだ。
全ての布石を整えた後、戒、ファーフナーの二人は共に白兵戦用の武器を構え、メイジを一気に追い詰めるのだった。
「ゴ、ゴブッ」
「白兵戦は苦手なようだな」
「弱すぎる」
ファンタジーのお約束通り、魔法使いは接近戦に弱いようだ。メイジは魔法一つ使うこともなく、そのまま滅ぼされたのだった。
「こっちも片付くぜ。地面に這いつくばって王国が滅びる様を見るがいい!」
「ゴブフッ!」
ヒーラーのスキルを封じていたミハイルだが、どうやらヒーラーも予想以上に肉弾戦に弱かったらしい。ボコボコ叩く合間に龍崎と連携してチマチマ攻撃していただけで倒せてしまったのだ。
「ご、ゴブ!」
六体の内三体が倒れた。それを知って、アーチャーが恐れをなして逃げ出した。リーダーが凶悪な目でその背中を睨むが、自分に合わせて照準を微調整するラファルの銃を前に動けない。
そんな逃亡だったが――それは、ノーマルを足止めしていた大佐が素早く飛び、威圧することでとめられるのだった。
「ゴブッ!?」
「おいおい、敵前逃亡は軍法会議で死刑じゃないのか?」
葉巻を加えたヒリュウにビビッて足を止めたアーチャーは、一瞬でミハイル、龍崎、そして拘束を破った雫に囲まれた。
弓兵がこの距離で三人の敵に囲まれる。その先は、ミハイルが呆れ混じりに吐いたセリフそのままの結末となったのだった。
「ノーマルも大して強くないですね」
「ちょっとタフなだけだったな」
そのまま、なし崩し的にノーマルも倒れる。単純な理屈で、一人一人が担当する敵がいなくなるほどに攻撃密度を上げられるのだ。
ならば、何の能力もないノーマルなど、袋叩きにされるしかないのである。
「ゴブゥ……」
「残りは巨体の奴だけか」
「でも、何もしてこないな」
「リーダーの能力は厄介でしたが、取り巻き達を倒せば少々強いノーマル型に堕ちると言うことですか」
先ほどまでは火球を生み出したり回復スキルを使ったりといろいろやっていたリーダーだが、部下を全て失った為に全ての能力を消失してしまった。
それ故に、相変わらずリーダーが手を出せない距離から銃を構えるラファルを除いて自分を取り囲む五人の人間達に何もしなかった。
何をしようとも、その隙を突いて残りの人間達から集中攻撃を受けるのはわかりきっているのだから。
「じゃあ、俺がこのまま削ってやろーか?」
「そうだな。それで隙ができたら一斉にトドメを指す。それでいいのではないか?」
しかし、動かなくともリーダーは確実に倒される。ならばと、リーダーは最後の賭けにでたのだった。
「ゴブッ!」
「わっ!?」
ゴブリンリーダーは、特攻にでた。囲いの一角を崩すことで、逃亡しようとしているのだ。
「やらせるわけねーじゃねーの」
「ガフッ!?」
すかさずラファルはゴブリンリーダーにヘッドショットを決める。雷の弾丸は、更に体を電撃で蝕んだ。
「グゥアァァァァ!」
だが、ゴブリンリーダーは意地を見せた。ゴブリン軍最強の肉体を使って、無理やり手にした大剣を狙撃にあわせて攻撃しようと動き出していた戒に振り下ろしたのだ。
流石に完全無防備ではなかったにしろ、攻撃する瞬間と言うのは何よりの隙だ。戒は、ゴブリンリーダーの死力を込めた剣を避けきれずに、直撃ではないにしろ僅かに傷を負ったのだった。
「今だぜ!」
「一斉にやりましょう!」
そして、攻撃をし終わった直後もまた、大きな隙だ。
ゴブリンリーダーは、最後の意地を見せはしたものの、その後の集中連続攻撃によって息絶えるのだった……。
●戦後処理
「しかし、見事にゴミばかり集めたものですねぇ」
戦いが終わった後、撃退士達は緑地の管理職員の手伝いをしていた。ゴブリン達が拾ってきたガラクタとかゴミとかの整理をしているのだ。
しかも、この場に散らばっているのはゴブリン達を倒す為に放った範囲攻撃スキルによって飛び散りまくっているのだ。拾うだけでも一苦労である。
そんな作業をしている中でこぼれ出た職員のお兄さんの言葉。それには撃退士達も揃って首を縦に振るのだった。
「秘密基地ごっこって奴は、迷惑かけない範囲で遊ぶものだぜ」
「これ程のゴミを集めたゴブリン達を責めるべきか、街にゴミを捨てた人達を責めるべきか迷い所ですね」
この、戦いの余波でバラバラになって散乱したゴミを拾う作業には愚痴しか出てこない。だが、ゴミ拾いなんてそんなものだ。
綺麗で心洗われる緑地を綺麗にする。それは、とてもステキなことなんだと自分に言い聞かせる撃退士達であった。