.


マスター:楊井明治
シナリオ形態:ショート
難易度:やや易
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2016/07/27


みんなの思い出



オープニング


「この依頼が終わったら俺、あいつに告白するんだ……」
 青年はそう言って微笑むと、光の空ける朝霧の中を駆けていった。


「僕の兄を助けて下さい!」
 斡旋所の側で、高等部の制服を着た生徒が通りすがる撃退士たちに片端から声をかけている。さわやかな昼下がりに似合わぬ逼迫した様子に、足を止める者も少なくはないが、皆その生徒の話をしばらく聞くと一様に肩を竦めて去っていった。
「ああ、どうしよう……」
 彼は途方に暮れた様子でうなだれる。
 その手には依頼の張り紙が握られており、そこには依頼内容と依頼主の名前「高等部三年・中山陽平」と書かれていた。
「中山さん、あとはこちらに任せて下さい。そのための斡旋所ですよ」
 斡旋所の職員が困ったような顔を向けながら、それでも労わりを交えて彼の肩を叩く。中山陽平は力なく自分の影に目を落とした。
「わかってます。でも、心配で」
 職員は苦笑いを浮かべる。その真意に気付かないまま、陽平はまた斡旋所に向かって歩いてくる人影を認めて駆け寄った。
「あの、依頼を探しに来たんですか? お願いします、助けて下さい!」
 懇願の眼差しで、依頼の張り紙を差し出す。
「兄が、『死亡フラグ』を立てまくりなんです!」


 多くの撃退士は陽平の言葉に、彼と視線を交えてはいけなかった、という常識的な後悔を持つが、それでも自由な校風に似合いの闊達な精神の持ち主たちが辛抱強く彼の話を最後まで聞いたのならば、それはこんな内容だった。

 陽平には同級生に、順平という双子の兄がいる。「死亡フラグ」を立てまくりの兄とやらは、その中山順平のことだった。順平は正義感が強く、無鉄砲で、反対に慎重な性格の陽平は、よくこの兄のヒーロー気質にハラハラさせられるのだという。
 そんな兄が依頼を受け、天魔討伐に向かったのは昨日の朝のことだった。久遠ヶ原の生徒である以上、依頼も討伐も日常の延長に存在している。にも関わらず、陽平は出かけていく順平に、いつになく嫌な予感を覚えていた。
 不安を告げると、兄は快活に笑った。
「大丈夫さ、今度の依頼は簡単そうなんだ」
 自信たっぷりに請け合うその姿は、戦地に赴くパイロットさながら、という印象を弟に与えた。
「でも……真由美だって、順平は無謀だって心配してたぜ」
 ――真由美というのは二人の幼馴染の名前だ、とここで陽平は言い添える。
「おいおい、俺が依頼から帰って来なかったことがあるか? しょうがないな」
 うつむく双子の弟を安心させようと思ったのだろう、兄は愛用の腕時計を陽平に渡した。
「これ預かっててくれよ」
「えっ、これ、順平が昔から大事にしてる時計じゃん」
「預けるだけだぞ? 帰ってくるまで、お前が大事につけてろよ」
 颯爽と寮を出る順平を、陽平は慌てて追いかける。まだ夜明けの余韻を残した早朝の空気は涼やかで、それがどこか物寂しかった。
「なあ、陽平」
「何?」
「真由美、綺麗になったよな」
 靴紐を結びながら、順平が言った。
「この依頼が終わったら俺、あいつに告白するんだ……」

「――これ、死亡フラグですよねっ!?」
 今にも泣き出しそうな顔で陽平が力説する。確かに、映画や何かに登場するパターンではあるが、陽平の想像力の逞しさは証明できても、順平のピンチは証明できない。
「この時点で僕が気付いて、引き止めていれば……!」
 嘆く陽平をなだめて、斡旋所の職員が先を促す。

 順平を含むその依頼のチームは、山中に出現してロッジの客を脅かしていたとかいうサーバントの討伐を無事に終え、そのまま順調であれば今日には帰り着くはずだった。
 ところが、突然の天候悪化で道が封鎖されてしまい、ロッジはオーナーや客たちと撃退士を取り残して陸の孤島と化した。撃退士だけなら安全を確保しながら移動することも容易いが、一般人には危険がある。
 天魔が出現したばかりであること、また山中といっても町は比較的近く戻ろうと思えば戻れることを理由に、チームはロッジに滞在することとなった。その連絡を陽平が順平から受けたのは、今朝のことだった。
『明日の朝には天気も回復するらしいから、一日の辛抱だよ』
 電話から聞こえるそんな兄の声に、陽平は心配げに返した。
「気を付けろよ、順平」
『おう。……そういや、昨日から一緒に来てた仲間が姿見せないんだよな。人とつるむの苦手って言ってたし、多分一人でどっかうろうろしてんだと思うけど』
「そうなんだ。まあ、そういう奴もいるもんな」
『この辺りには「神隠し伝説」とかあるらしくってさ。きっとあの祠に入ったんだ、なんてオーナーはびびってるよ。一度探しに行ってみるかな』
「えっ」
『その前に、近くの川が氾濫しそうだから、様子見て来るわ』
「えっ」
『げほげほっ……ごめん、ちょっと昨日から咳が出るんだよな。や、大丈夫だ。ロッジの客にたまたま医者がいてさ。ちょっと聞いたら「何、ただの風邪でしょう」って』
「えっ!?」
『じゃあ、この辺電波ないから道路まで出てきたんだけど、一旦戻るわ。また大降りになってきた。お前と話せて良かったよ』
「ちょっ、じゅんぺ……!」
 途切れた携帯電話を呆然と見ていると、幼馴染の真由美からメールが入っていた。曰く、順平の写真が入った写真立てが突然割れた。怖くなって電話したけれど、繋がらない。順平は無事よね? とのこと。陽平は青ざめて電話をかけ直したが、もう順平は電波の届かない場所へ行ってしまっていた。

 どうしよう。兄が、死亡フラグを立てまくっている。

 陽平は慌てて時計を見た。順平のところへ行きたいが、陽平も夕方には依頼で出発することになっている。
 彼は寮を飛び出すと、走っている最中に切れた靴紐にバランスを崩しながら、横切る黒猫を避け、沢山の鴉に見送られて斡旋所に辿り着いたのだった。


「……まあ、そういう事情らしいですね」
 斡旋所の職員が、溜息をついた。陽平が不憫ゆえの溜息ではなさそうだが、ともかくこの依頼を受けてもらいたいという思いでは彼とそう変わらないだろう。
「兄は雨脚が弱くなったら、川の様子を見に行くと言い出すと思います。仲間の撃退士が戻って来なければ探しに行くでしょう。またどんな死亡フラグを立てることか!」
 陽平は資料を差し出した。
「これ、兄がやりそうな死亡フラグのリストです。どうか、同行しても引き止めてもいいので、兄を死亡フラグから回避させて下さい! かといって代わりに誰かが怪我をするようなことにはなってほしくないので、どうが全員で無事に帰ってきてほしいんです!」
 フラグという言葉を陽平が発する度、周りの人々の眉間の皺が濃くなる。それにも気付かず、彼は熱心に、そして極めて真剣に頭を下げた。
 職員は困ったように周りを見回す。
「……これで中山さんの気が済むというなら……どなたか、お願いできませんか?」


リプレイ本文

 暗雲渦巻く空の下、中山順平は決意に満ちた表情を浮かべていた。
 自分は楽観的に構えていたが、宿泊客達は悪天候以上の不安を感じているようだ。
 幼馴染の写真を握り締める。
 もしも、彼らの不安が現実となるなら、自分は――。

「いやー、君が中山兄だねー」
 そこへ砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)の明るい声が響く。
 到着したのは陽平に同情し、もしくは面白がり、もしくは他に受ける人もなさそうだと集まってくれた撃退士達だった。


 ――麗しき兄弟愛、というものなのだろうか?
 数時間前、斡旋所の前で陽平に縋られたファーフナー(jb7826)は、笑いも怒りもなくただ眉をひそめた。
(用心深いことは悪いことではないが心配性に過ぎるな……)
 どちらかといえば弟の方を何とかした方がよいのではと思うが仕事を請けたからには遂行するまでだ。
 弟君のフラグの方がヤバくないかなと思いつつ鬼塚 刀夜(jc2355)などは
「実におもし……コホン、大変そうな依頼だね。全員無事に帰ろう!」
 とそれ自体フラグになりそうなことを呟いて陽平を怯えさせたが、これも作戦である。
 曰く「死亡フラグは立てすぎると生存フラグになる。古事記にもそう書いてある」。嘘だけど。
 それは樒 和紗(jb6970)も同じ考えで「学園から応援に来ました」と挨拶すると、順平に話しかけた。
「早く天気が回復するといいですね。明日は弟の誕生日なんです」
 優しく微笑む。
 要はフラグを台無しにすれば良いのですよね? というわけで、フラグを乱立させる計画だ。
 レティシア・シャンテヒルト(jb6767)が、先着の撃退士達に私達が来たので部屋で体を休めて下さいと言いながら、順平達に視線をやる。
「今までこれのお陰で何度も命拾いしたんです」
 と和紗が順平に指輪を見せていた。
「ああ、わかるよ。俺もお守りを……あれ?」
 いつなくしたんだろう、と言う順平の声もすかさず遮る。
「そういえばさっき聞こえたんですが、神隠し、ですか……もしかして……いえ、まさかね」
 思わせぶりに言うだけ言って、後はけろっとしている。
 それを聞いてしまった客は青ざめたが、竜胆がマインドケアで彼らを落ち着かせた。
(死亡フラグかー。幼馴染のはとこをそっと護るポジションである僕は、存在自体がそうですが何か)
 これはフラグ横取りしなければと熱意を燃やす。
 大雨だから必要かなと持ってきた着替えやタオルを出しながら、Robin redbreast(jb2203)も宿泊客を安心させるように、にこ、と微笑んだ。
「先にサーバント退治できてた撃退士と合わせると、十二人の撃退士がいることになるんだね。普通の依頼でも八人程度だから、たくさんいるね。安心して頼ってね」
 そう、彼らを安心させるのも依頼のうち。「こんなとこにいられるか!」と言い出してもいけないのだから。
 しかし。
「死亡ふらぐって何だろう……?」
 Robinは一人、かくーりと首を傾げた。


 本人は無自覚でも不吉な予感に至る真理の一端が何かある、とレティシアは陽平の不安を軽視することなくリストを見直した。
「彼、山に引かれているのかもしれませんね」
 根拠、乙女の勘。あと名前が中山だし。
 レティシアはちらりと順平を見た。
 見回りに行こうかなとオーナーと話している順平は少し顔色が悪い。
「風邪だと聞きましたので、よければこれを」
 念のため用意してきた非常食や充電器などの物資の中にはガーゼや包帯、それに解熱剤等の医療品がある。
 礼を言いつつ、でも……と言おうとする順平の横から、再び和紗が顔を出した。
「周囲を気遣う気持ちは分かります。俺も幼少時は体が弱くて……でも迷惑かけたくなくて」
 延々と過去を語る。
「ですので軽んじてはいけません。と言いますか、無理する方が迷惑です」
 正論をきっぱりと言い放った。
 でも本当に大したことないよと順平が笑うと、今度は逆側から竜胆が顔を出し「そだねー、大したことなさそう」と拍子抜けするくらいあっさりと頷いた。
「いや僕の方が何か具合悪い気するしさ、でも大したことないから」
 言い張る竜胆に順平はきょとんとし、弟ともどもあまり自分を客観的に見られないようだが、少なくとも死亡フラグ感は損なわれたように思われた。
 隙間風を塞いでいたファーフナーが声をかける。
「休んで体調を整えることも撃退士として必要なことだし、戦闘で疲れているだろうからこちらに任せて休んだ方がいい。ここで護衛するのも大切な仕事だ」
 それに、と小さく呟く。
「時々写真を眺めているようだが……自身を大切にできない者は他人を幸せにできない」
 かつてのファーフナーならその言葉を自身が言うのを皮肉と思っただろうか。今はただ順平に青い瞳を向け、やがて壁板に向き直る。


 ここで怖いのは疑心暗鬼、集団心理からフラグを立ててしまうことだ。恐慌に陥るのは避けなくてはならない。そのために、レティシアは不審者がいないかロッジを確認し、謎の停電が起こらないよう発電機を念入りに調べた。
 あとマスターキーや刃物の管理も厳重にするようオーナーに言いに行こう。閉じた山荘という舞台に、密かににまにまを押し隠し、レティシアはフロントへ急ぐ。
 すると謎の人影が視界の端を横切った。
 姿が見当たらない撃退士か? もしくは他の――……?
 否。それは、こっそり出て行こうとしている順平だった。
 休むよう言われ、薬を飲んで大人しくしていたはずだったが、弟の懸念通りどうしてもヒロイズムに溢れる行動をやめられないらしい。
 がしぃと素早くレティシアが止める。
「一人で外出しないで下さい」
「川の様子を見てくる。それに帰ってこない仲間が心配だし……」

 パサランを召還して子供達にもふもふさせていたRobinが、騒がしい声に振り返る。
 順平がレティシアとファーフナーに単独の外出を止められているところだった。
 まだ依頼期間中だし単独行動は厳禁だよ、とRobinも寄って行くと、でも誰かが行かないと……と順平が心配げに俯く。
「何でも一人でやろうとしたらだめだよ。他の撃退士の力も信じてね」
 順平は留まることには了承しなかったが、素直に謝罪し、和紗、竜胆、刀夜と共に様子を見に行くこととなった。和紗がフラッシュライトの明かりをつける。

 その時、雷が光り、ごろごろと不吉な音を立てた。
 まるで何かの惨劇を予感させるように――。


 ――ところが、その予感というものは、案外に脆いものである。

「何、心配はいらないさ。僕はこう見えて数々の戦場を駆け回ってきたからね。この程度の嵐どうということはないよ」
 刀夜が明るく笑い、様子見ご一行を先導する。
 川に着いたら着いたで、
「大丈夫、何かあっても僕、悪運強いから」
 と竜胆が行ってしまう。
 その間、順平はといえば和紗と揃いの合羽で(和紗がロッジで借りたものだ)、延々と橋の作りや畑の土作りから水の供給、作物に至るまでの和紗の解説を聞いていた。伊達に某農業アイドル系女子と言われていない。
「今、橋の方から不審な物音がした」
 と何かを聞いて駆け出そうとしても、はぐれるといけませんからと和紗が出立の時に順平と手錠で繋いでいるので身動きがとれない。
「不審な物音? あぁ、たぶん僕のお腹の音かもね」
 初めての依頼だから緊張してるのかな? と刀夜が誤魔化して話を変えれば、惨劇を予感などどこへやらだ。
「そんなことより一匹狼君を探しに行かないとね」
「ああ。でもちょっと見て来……」
 順平が譲らなければ和紗が「あっ」と躓いたふりで彼を押し倒し、物理的に阻止する。
「申し訳ありません、すぐ起きます、あっ」
 再び躓きながら和紗が竜胆に目で合図すると、竜胆は頷き
「僕が行く。皆は待ってて」
 とフラグを横取りする。基本、和紗は竜胆を生贄にしていく方針らしい。とはいえ竜胆はそれに異論はないようで、和紗に乗られている順平に「ドサクサに紛れて変なとこ触るなよ!?」と内心ではハンカチを噛み締め、しかしあくまでも爽やかに行く。
「戻ったらさ、和紗に話したいことがあるんだ……」
 え、ちゃんと帰ってくるってば。
 順平が竜胆に何か言おうとするが、どちらの死亡フラグにもするまいと刀夜がそれを遮るように竜胆すら追い越してダッシュした。
「心配しなくてもいいよ、僕はこう見えて」
 ところがそう言ったその瞬間、橋の袂の土手が崩れ、水音と共に刀夜が視界から消えた。
「刀夜!」
 順平の声が夜の中に響き渡る。
 崩れたのはまさに順平が向かおうとしていた位置。やはり彼は山に引かれているのか――。
 だが。
 慌てて駆け寄った彼らに見えたのは増水した川で全力水泳する刀夜の姿だった。
 フラグを立てて即回収。あるいは力技でへし折るが吉。
 これも古事記にあったろうか。


 ともあれ、ロッジでは仄暗い雰囲気が漂っていた。
 閉鎖された空間。何かあれば逃げ場はない。
 本来抗い難い死の運命に誰もが右往左往し、立ち向かう。順平も、客達も。そんな彼らの姿をレティシアは柔和な表情の下で「さぁ、私を楽しませて……」と見つめていた。
 が。
 そこでごほんと咳が聞こえ、この非常事態に無理しがちなオーナーの「ただの風邪ですから」という声に、レティシアは行方不明の撃退士が戻った時すぐ休めるよう寝床を用意していた手を止め、「咳止めありますよ」と小走りで駆けて行く。
 興味本位と見せかけて、お世話を焼いていることに気付いていないのか気付いた上でなのかは不明である。

 子供達はRobinの持参したぬいぐるみを抱えて眠り、先程までトランプで気を紛らわしていた大学生も自室に戻ったが、リビングに留まっている客も少なくはない。
 その片隅で、雨風の激しい窓の外をRobinは翡翠の瞳で見つめていた。
 何かあった時のために眠ることなく、連絡を待っている。眠れない宿泊客がいれば小さく微笑み、不安を吐露するのをうんうんと聞く。
「天魔が簡単に入れないようにしたし、ロッジには撃退士がたくさんいるから大丈夫だよ。橋も撃退士が確認して来るからね。撃退士は頑丈だから鉄砲水とかでも流されないで踏ん張れるし。それにここは高台だから外より安全だよ」
 でも神隠しが……等と更に言い募るのにも優しく返す。
「祠の方にも撃退士が調べに行ったから戻ってくるまで待っててね」
 やはり休まず天候を見張るファーフナーがフロントのそばから不安を除くような落ち着いた声を投げた。
「神隠しというのは迷信で、迷信は何らかの注意喚起だ」
 であれば、撃退士がまず確認を行った方が安全だし、サーバントの残党がいた場合も撃退士なら退治を行うことができる。だから任せておけば安心だと説明する。
「怪異、と言えば、はぐれ天魔の可能性もありますからね。撃退士が適任でしょう」
 今度は外に出た順平や仲間達が帰ってきた時のために薪ストーブで温かなスープを作りながら、レティシアもそれに賛同する。不安解消の一端だ。
 そもそも伝承の発生条件は、と民俗学的観点からオーナーの言う伝説に合理的な解釈を下して説明する。真相でなくても、納得出来る答えならばそれでいい。話しながらマインドケアをかけると、それが上手く働いたようで落ち着いた空気が戻る。
 雨風が聞こえないようファーフナーが耳栓を貸してやると、不安がってた若い女性客もRobinのそばで眠りに落ちた。
 他にも山中に閉じ込められているならば最低限の保存食等以外物資が不足しているだろうからと、彼が少しでもリラックス出来るように持ってきた煙草やコーヒーなどの嗜好品もやはり彼らを安心させたようだった。
 談笑さえ交えつつ、外に出た撃退士達を待つ。


 一方順平達は祠に辿り着いていた。
 ホラーゲームならばいよいよ佳境である。
 案の定、自分に任せてくれと言う順平に和紗が「貴方は任せて貰える程、己の能力や信頼されているという自信があるのですね?」と自信を挫きにかかったが、ヒロイズムの申し子は「必要だと思ったことに、全力を尽くすまでさ」などと言うので結局全員で行くことになった。
 竜胆が星の輝きを照明にし、手錠を外した和紗が夜目で先を歩く。
「誰かいますか……?」
 どうやら崩落があったらしい。洞窟の奥を見て、竜胆達にそれを知らせる。生物の気配を探るが判然としない。
 竜胆が生命探知で反応を探した。
「あ、誰かいるみたい」
 仲間かもしれないと息を呑む順平の横で刀夜が手を合わせる。
「一匹狼君、君の事は一生忘れないから安らかに眠って」
 面識ないけど。
「と、まぁ冗談は横に放り投げといて、どうにか助けないとね」
 撃退士がこの程度の崩落で死ぬわけがないが。
 竜胆が氣のオーラで崩れそうな石を逆側に倒し、再崩落しないよう注意しつつ全員でどけていく。この不安定さが神隠し伝説の原因だろうか。深刻にならないよう竜胆が美声で歌を披露しつつ撤去していくと、やがて思った通り岩や土砂に埋まった例の一匹狼君の頭が見えた。
「大丈夫か!?」
 順平が手を握ると、狼君は自虐的に笑った。
「お前か……ざまぁねえ、しくじったぜ」
 劇場的な雰囲気に水を差すように竜胆が大きなため息をついた。
「なんだぁ男子か。中山ちゃん、先に言ってよ」
 明らかにやる気をなくしました、と言わんばかりだ。和紗は和紗で狼君にお菓子を渡して「これでも食べて落ち着いて下さい」と言う。怪我もなく普通に空腹だった狼君は黙って受け取ったが、いかんせん納得のいかない顔をしていた。
 刀夜が崩落を確認する。応援に来られるようRobin達は待機してくれているはずだ。ここまで案内すれば撤去は早いだろう。
「念の為に僕は狼君を助けるまで祠で待機するよ。ここは僕に任せて、先に戻って!」
 だが順平が駄目だ、と言う。
「また崩落するかもしれない。ここは俺に任せてくれ!」
 竜胆は順平に「あ、じゃあ宜しく」とあっさり譲りかけたが、いや待て和紗に任せられるのは僕でしょ! とやっぱり僕がと言い出す。
 謎の「俺に任せろ」の奪い合い。
「もう、さっさと先に行ってってば……!」
 竜胆が呻く。

「お前ら、俺を助ける気あるのかよ!」

 そこで黙っていた狼君が思い切り立ち上がり、均衡を失った石が彼らに襲い掛かる。竜胆がとっさに和紗を引き寄せ、刀夜と狼君も逃げたが、「あ」という呟きと共に順平が軽い崩落に巻き込まれた。
 竜胆が半分埋まった順平の肩にぽんと手をやる。「傷は浅いぞ」とは言わない。むしろ無言で「ヤバい」と目で訴える。
「よし、これでフラグ回避だね」
 サムズアップ。


 怪我は無いが岩の間にはまった順平を助け出し、ようやく外に出るとすでに夜明けが来ていた。
「朝だ……」
 流石に順平はぐったりとしていたが、とうとう全ての死亡フラグは回避されたのだ――。

「あ、虹ですよ」
 和紗が指差す。

 清々しい青空の下、サウンドノベルのラストのようなスタッフロールが見える気がした。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 刹那を永遠に――・レティシア・シャンテヒルト(jb6767)
 ついに本気出した・砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)
重体: −
面白かった!:6人

籠の扉のその先へ・
Robin redbreast(jb2203)

大学部1年3組 女 ナイトウォーカー
刹那を永遠に――・
レティシア・シャンテヒルト(jb6767)

高等部1年14組 女 アストラルヴァンガード
光至ル瑞獣・
和紗・S・ルフトハイト(jb6970)

大学部3年4組 女 インフィルトレイター
ついに本気出した・
砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)

卒業 男 アストラルヴァンガード
されど、朝は来る・
ファーフナー(jb7826)

大学部5年5組 男 アカシックレコーダー:タイプA
戦場の紅鬼・
鬼塚 刀夜(jc2355)

卒業 女 阿修羅