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マスター:楊井明治
シナリオ形態:ショート
難易度:やや易
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/09/19


みんなの思い出



オープニング


 ふわふわの毛玉。
 真っ白でふわふわな毛玉がぴょんぴょん跳ねている。
 あちらからこちらへさっと横切るもっふりした影。
 ポストの後ろ、生垣の中、屋根の上……。

 ふわふわ、ぴょんぴょん、ぽふぽふ、もふもふ。


「そうなのよねえ、折角作ってももう食べる人がいないの。うちも主人と私だけだから」
 受話器を肩と耳に挟んだ主婦が、ご近所さんと電話をしている。
 その手元で混ぜるのは上新粉と砂糖――目下、お月見団子を製作中だった。
 縁側にはすでにすすきと、団子を乗せるための三方と呼ばれる台が置いてある。
 だが、主婦はどこか寂しそうに、力の衰えてきた腕で生地を捏ねた。
「うちの子たちが小さい頃には、まだ結構お月見泥棒が出たんだけど。いつ頃からかしらねえ、いなくなっちゃって。もう若いご夫婦もいないものねえ」

 お月見泥棒――それは、お月見の日に、お供え物を子供たちがとっていく、という行事だ。
 子供は月の使者と言われ、この日にハロウィンのように家々を回り、お月見団子や一緒に供えられたお菓子を盗んでいくことが許されていた。
 かつて農村だったこの町にはお月見の風習が色濃く残っており、町の人たちは縁側や玄関先など、子供が盗んで行きやすい場所にお供え物を置き、お月見泥棒が出た時には見て見ぬふりをするというのが慣例だった。

 しかし、それももう一昔前の話となりつつある。
 一度は発展し、そして若者の流出から寂れたこの町には、小さな子供が随分と減ってしまった。今お月見団子を作っている主婦も、子供たちが上京してからは夫と二人暮らし。十五夜に因んで団子は十五個だというが、二人きりで十五個は少し辛い。
「今年で最後かもしれないわね」
 そうねえ、と電話の向こうで同調する声を聞きながら、主婦は丸めた生地を鍋で茹でる。
 電話の相手もやはりそんな事情のようで、『うちは作らないことにしたわ。市内に孫がいるけど、お団子があるからおいでって言っても今の子には魅力的じゃないのよね』と苦笑した。
 それからしばらく、他愛ない世間話をしているうちにお月見団子は完成した。
 庭ではしっとりと虫が鳴いている。
 その声に秋の物寂しさを煽られながら、主婦は冷ました団子を三方の上に乗せる。
 最初は九個、それから四個、その上に二個……。
 声をひそめて近所の子供たちがこっそりと縁側に忍び込む様を思い出す。子供だからもちろん忍びきれないのだが、それがとても微笑ましかった。団子だけでは寂しいからと、大体の家庭ではお菓子も置いておいたので、主婦の子供もハロウィンのように入れ物を持って嬉しそうに出かけていったものだった。
 ふう、とため息をつき、しかし気を取り直して立ち上がる。
「さてと、そろそろ後片付けしなきゃ。主人が帰ってくるから」
 縁側に背を向け、台所に引き返す。
「洗い物するから切るわね」
 そう言って電話を切ろうとしたその時だった。

「……?」

 背後で何か聞こえた気がして、主婦は動きを止めた。
 懐かしい縁側に忍び寄る気配。小さな物音。
「も、もしもし? 待って、まだ切らないで……」
 主婦は小声で相手を引き止めた。
「何かね……今、来てるかもしれないわ。その、お月見泥棒よ……! え? ううん、駄目よ。知らないふりしなくちゃ……」
 縁側でこそこそとする気配は小さく、明らかに大人がちょっかいを出している風ではない。犬のような爪音も聞こえない。
 懐かしい興奮に胸を熱くして、主婦は気配が過ぎ去るのを待った。
「行ったみたい……ちょっと、見てみるわね」

 振り返ったそこには空っぽの三方だけが残され、すすきだけが僅かな余韻を残して揺れていた――。


 その頃の表通り。
 真っ白でふわふわの毛玉がぴょんぴょん跳ねてゆく。
 口元に何か丸いものをくわえて、あちらからこちらへ横切るもっふりした影。
 人気のない商店街を真っ白な毛玉が闊歩する。

 ふわふわ、ぴょんぴょん、ぽふぽふ、もちもち。


 依頼斡旋所の職員はその依頼の資料に添えられた写真を見ながら、ほう……とため息をついた。
 そこに映っているのは片手で抱えるくらいのサイズのふわっふわの生き物だ。
 大福に耳が生えたような形で、例えるならもふもふの雪兎だろうか。

「ふわふわのうさぎみたいなディアボロが出たそうです。町の人の大部分はそのことを知りません。たまたま近くに来ていた撃退士が発見したそうで、一匹捕獲したようですが……処理に困っているようです。何せふわふわで……じゃなくて、攻撃されたと思うと凶暴になるとのことで……攻撃しないとなると撫でるくらいしかすることが……いえ、じゃなくて、倒すのが難しいようです。悪魔は一体何を考えてこんなディアボロを……」

 毛玉のようなそれらが、町中でぴょんぴょん我が物顔に跳ね回っているらしい。
 今夜この地域では家でお月見をするのが慣わしらしく、外に人が出ていないため、騒ぎにはなっていないようだ。
 そのためか、撃退士がディアボロを発見した時には丸い団子をくわえていたということだが、はたして。

「因みにその撃退士によると、羽毛のような触り心地だそうです……ええと、その、十分気をつけて行ってらっしゃい」


「今年はお月見団子作るのやめようと思ってたけど、それならうちでも作ろうかしら!」
 主婦の電話相手だったご近所の初老の女性は、お月見泥棒が出たという話を聞いて楽しそうに答えた。近頃では地域のイベントも随分消極的になってしまったが、今年は珍しく頑張っているのかもしれない。それなら地域住民として協力しなければ、というわけである。
「他の人にも教えるわね!」

 空では月が黄金色に輝いていた。


リプレイ本文


「もふもふが見れると聞いてやってきた、よ。捕まえたら飼えないかな」
 花見月 レギ(ja9841)の青いピアスが冴えた月明かりを反射する。
 辺りはもうすっかり夜だった。彼がなついているファーフナー(jb7826)に同行して来たが、ファーフナーの方はレギの言葉に不可解げに首を傾けていた。だが、同じ色の青い瞳は、どこか見守るように細めている。
 鳴海 鏡花(jb2683)も神妙に頷く。
「ウサギをもふる、もとい集めるでござる」
 一瞬ほわんとした表情を、しかしすぐ引き締めた。
「幼馴染が似たような依頼参加した事あるんですよね。確か……」
 と呟きながら、最年少の礼野 明日夢(jb5590)がてきぱき準備した町の地図を配り、回収袋も使う人はと渡していく。
「町全体となると、広範囲になるな」
 ファーフナーが地図を見ながら言うと、レギも頷く。
「危険性は低いけど人手は必要だ、ね。担当区を分けた方が効率がいいんじゃないかな」
 Robin redbreast(jb2203)が指で地図を辿る。
「そうだね。大まかに担当区域を決めておこっか。連絡をとれるようにしておいて、早く終わった人は、まだの人のところを手伝うとか」
「では、まずは皆でどこを担当するか話し合おうではないか。人数は少ないが、どうにかなるでござろう」
 鏡花は自ら住宅地を申し出る。片名惣一郎(jc1744)は逆に町の端部に立候補した。それを聞きながら、明日夢が地図を6つの地域に分ける。
 状況を連絡し合うため、また万一の危険時に備え、撃退士たちは連絡先を交換した。
「見張りを立てて、檻を用意して集めましょうか?」
 明日夢が首を捻ると、Robinが思いついたように顔を上げた。
「ひとけのない広場みたいな場所を決めておいて、そこに集めるといいかな? ディアボロは、攻撃しなければ跳ねてるだけみたいだし」
「住民から遠ざけられる安全な場所が良いな」
 ファーフナーが答える。
 そこで彼らは高い塀のドッグランに兎たちを集めることにして、それぞれの担当区に散らばって行った。


「普通に考えたら、お月見中にお団子取られたら町の人が気付かないっておかしいですよね? お団子取っても怒らない理由があるのかなぁ……」
 仲間と分かれる前、明日夢はそんなことをぽつりと呟いていた。
 真面目な性格の明日夢だ。まずはそれを調べると、お月見泥棒の風習があることがすぐにわかった。
「……おせったい?」
 思い出したのは養家地方の「御接待」だった。お遍路の御接待が変化したもので、四月に子供たちが近隣の家を回ってお菓子を貰う行事。確かにお月見泥棒と似ている。
 明日夢は早速仲間にわかったことを連絡した。
「それから多分、お団子くわえてる兎が多いって事は、お団子に群がる習性あると思うんですよ。だったら、お家のお団子貰って行ったら兎向こうから寄ってくるんじゃないでしょうか?」
 そう付け加え、電話を切る。

「ふーん、じゃあ、町の人はディアボロがお団子を持っていくのを喜んでいるんだね。せっかく作ったお団子だから、ぜんぶ食べられるといいね」
 電話を受けたRobinはコクリと頷いた。
 駒鳥のように電柱の上に立ち、翡翠の瞳が夜の町を見渡している。
 そんな彼女が綿兎を見つけるまで、そう時間はかからなかった。視界の中、白い毛玉が跳ねていくのが見える。玄関先に飾られたお月見団子にそっと近付き、団子をくわえ――そして。
 ひょい。
 逃げようとしたところを、後ろからRobinに抱きかかえられた。
 まず一匹目、と、Robinは兎を抱っこし、ドッグランへと向かう。

 担当区の近いファーフナーとレギは連れ立って向かっていたため、一緒に電話を受ける。
「団子に群がる兎型ディアボロか。日本の伝承に沿って作ったのだろうか。攻撃しなければ無害らしいが……天魔は時折、理解不能なものを作る」
 白銀の髪をかきあげてファーフナーが呟く。
「しかし住民たちは子供の仕業と思って歓迎しているし、実際に月の使者みたいなものかもしれないな。一晩限りの、最後の夢なのかもしれないが……」
 時代の変化には、個人の力など及ばず、逆らえない。
 いや、喋りすぎたか、と、横目でレギを見ると、背負い籠を背負い直しているところだった。ファーフナーの何だそれはという視線に気付くと、大真面目な顔で答えた。
「視界が悪いと……息苦しいかな、と」
 ファーフナーは多少困惑したが、
「まあ、楽しんで団子を作ったようだし、それをぶち壊しにしないようにしつつ、混乱阻止といったところか。見た目は兎のようとはいえ、一般人にとって危険には変わらないからな」
 そんなことを言いながら、籠を支えてやるのだった。

 その頃……。
 ピンポーン。
 チャイムにはーいと声を返して、主婦が足早に玄関へ出てくる。戸を開けると、そこにはおっとりとした雰囲気の黒髪の青年が立っていた。
「夜分申し訳ありません。大学の伝統文化研究会の者ですが……この地域でお月見の風習が復活しているという噂がありまして。もし良ければ、取材させて頂けないでしょうか」
 そう説明して、黒髪の青年――惣一郎はSNSのページを見せた。そこには惣一郎が用意しておいた研究会の活動記録が書かれている。信用を得るため、すでに許可の出た家で撮影した写真も載せている。
 惣一郎は家の点在する作業の効率が悪そうな地域で、団子を作っていない敵出現の可能性の低い家をチェックしていた。
 更に、作っていた家では
「立派なお月見飾りですね。良ければここに写真をアップして貰えると有り難いです。情感がわかるように周りの風景を入れて頂けると嬉しいのですが……」
 と付け加える。
 万一、兎が写っている可能性もあるかもしれない。逐一ページをチェックしながら、惣一郎は次の家に急いだ。

 夜が深まり、月はますます輝いていくようだった。
「お月見泥棒を楽しんでいる主婦やご近所さんに、ディアボロの存在を知られるわけにはいかんのう。夢を壊さぬよう、事を大きくせぬよう動かねば」
 ネイビーブルーの長髪を揺らし、鏡花が足早に歩く。
「ふわふわなウサギ……もふりたいでござるなあ……」
 ぽわ〜んと本音を漏らしつつ移動する鏡花の手にはすでに団子が握られている。そしてまた、庭にお月見飾りがある家を発見すると、明鏡止水で入り込み、団子を取った。これこそが、住宅の多い地域を選んだ理由だった。
「ここなら団子が多かろうて」
 というわけである。
 理由は二つ。一つはもちろん、お月見泥棒が来た、と思わせるため。
 そしてもう一つは、罠を仕掛けるため。
 大量の団子をピンポン玉で更に嵩増しし、潜んで綿兎を待つ――。
 もふもふ、ぴょんぴょん。
 予測通り一匹また一匹と、綿兎たちが集まってくる。その姿はまるで大福、いや綿毛。鏡花はふわふわに逸る気持ちを抑えながら、もっと兎が集まってくるのを待った。
 そして。
「今でござる!」
 呪縛陣を発動する!
 だが、綿兎にダメージを与えること。それは即ち。
「キシャー!」
 綿兎たちは赤い目を吊り上げ、歯を尖らせて鏡花を迎え撃つ!
 果たして鏡花の運命は、如何に。

 一方、ファーフナーも鏡花と同じように、団子で綿兎を誘き寄せようとしていた。
 まずは翼を広げ、飛行する姿を窓から見られないよう気をつけて探索する。上空からまだ兎が来ていない家を見つければ、そっとケセランで回収を繰り返した。ケセランは綿兎とはまた違う白い毛並みを風になびかせ、従順に団子を集める。
 対応の終わった家にはマッピングをし、ファーフナーは効率的に仕事をこなした。
 レギの背負い籠ではないが、近くの店からカートを借りて、そこに兎を集めようと考えた。
 まずは誘き寄せようと、団子をカートに載せ、設置するに相応しい場所を探す。
 すると。
 ぴょんぴょん。
 一匹の綿兎が現れ、後をついてきた。
「……」
 ファーフナーは冷静に、綿兎をカートに乗せる。間抜けな奴がいたが、ともかく設置場所を探さなくては。
 ぴょん。
「……」
 また一匹、後をついてくる。まるでハーメルンの笛吹き状態だ。
 やがて設置場所を探すまでもなく、勝手に誘き寄せられた兎でカートはいっぱいになった。

 そんなファーフナーの状況は露知らず、レギも担当区につくと、陽光の翼で上空から状況を窺っていた。双眼鏡で各家庭のお月見飾りを調べていく。
 すでに団子がとられた家もあったが、残っている家もあるようだった。兎を誘き寄せるために回収しようとすると、ちょうどそこへ一匹の綿兎が跳ねていく。
 そこで、レギはわたげと名付けた彼のケセランを綿兎の元へ送ってみることにした。
「丸いし、白いし」
 狙い通り基本的に団子以外に興味を示さない綿兎が、ケセランには興味を示した。が、むしろその姿から自分より大きい仲間だと勘違いしたのかもしれない。大きいと偉いと思っているのか、ケセランに団子を譲ろうとしてくる。
 レギは綿兎を捕まえ、団子と共に背負い籠に入れてやった。
 その後も、団子とケセランにつられてやってきた綿兎を背負い籠に入れていく。
 しばらくそれを繰り返していると、レギに惣一郎から連絡があった。それまでもSNSに寄せられた情報を仲間たちに送っていたが、今回はたった今投稿された写真に綿兎が写り込んでいたらしい。
 その場所がレギの担当区にかかっていたので、急いで連絡してきたというわけだ。
「わかった。すぐに向かうよ」
 その言葉に安心して、惣一郎はお願いします、と電話を切った。
 何せ今、ちょうど綿兎と対峙しているところなのだ。電柱の影で跳ねているもふもふ玉に、取材で貰った団子をちらつかせ、誘き寄せる。
 そして捕まえると、ゴミ袋の中に入れた。綿兎は窮屈そうだったが、しかし団子を諦めて逃げることが出来ないらしい。ゴミ袋の中でうごうごしている。

 夜の中を、兎は駆けていく。町のあちらこちらへ……。

 いや、兎ではない。駆けていくのは、うさみみカチューシャの明日夢だ。
「ボクが今回参加者の中では一番子供だから……」
 一般家庭に綿兎を近付けさせないためにも、一番積極的に団子を回収しなくては、と懸命に対応している。御接待は小学生だったら大丈夫だったよね、と、袋に団子を入れていく。うさみみは幼馴染に押し付けられたものだが、今回は感謝だ。この姿を見せておけば、綿兎を見かけたとしても子供だと思ってもらえるかもしれない。
 団子を盗みに綿兎が敷地内に入っている可能性も考慮し、余計に頑張って家々を回っていると、お菓子を供えている家があった。明日夢は少し考えて、それも回収することにした。お月見泥棒が出たなら、それもなくなっているべきだと考えたからだ。
 また移動しながら袋にクッキーや飴玉を入れようとしていると、小さな手からお菓子が零れ落ちる。慌てて転がっていったそれを追うと、綿兎が向こうからやってきた。
「……あれ? 真ん丸クッキーや飴玉にも寄ってくるって事は……丸い食べ物だったらなんでも良いの?」
 飴玉をくわえる綿兎を、明日夢は抱き上げた。

「子供は月の使者……あたしは子供? 大人? どっちだろう」
 Robinもお月見泥棒が出た、ということにするために、団子を泥棒していた。綿兎の捕獲はどうやら大方終わったようだった。本格的に静まり返った町の中を、綿兎の食べそびれた団子を大人や犬の仕業と思われないよう綺麗に回収していく。もし綿兎が残っていたとしても、これだけ集めておけば勝手に寄ってきそうだ。
 静かに縁側を後にしようとした時、人の気配を感じてRobinは急いで隠れた。
 初老の男性が縁側を通りがかり、Robinの姿が一瞬でも見えたのかどうか、慌てて背中を向けて去っていく。
「お月見泥棒が出たかぁ。こりゃ来年もいい年になるなあ」
 わざと出したような声が聞こえた。


 Robinがドッグランに戻ると、綿兎の放牧場のようになっていた。
 その真ん中で誰かが幸せそうに綿兎をもふもふしている。
 ――鏡花だった。
 ダメージを与え、一度は綿兎を凶暴化させた鏡花だったが、束縛の効果で移動することの出来ない綿兎を臆することなくもふりまくり、ついには大人しくさせることに成功したようだった。
「ふわふわでござるな〜♪」
 集められた綿兎を抱きしめ頬ずりし、もふもふさを堪能している。その白い毛は撫でられるほどぽふぽふの綿毛になっていくようだった。兎たちは特に嫌がりもせず、鏡花の膝の上でも飛び跳ねている。
 そこへ、惣一郎がゴミ袋に綿兎をみっちりさせて帰ってきた。
「かわいそうでござる……」
 と鏡花はジト目で見るが、相手は天魔なので何も言えない。ただ解放された綿兎たちをまたこれでもかと撫でる。
 惣一郎はきょとんとしてそれを眺めた。

 一先ず綿兎の捕獲は終わり、仲間も帰ってきたので、Robinと明日夢で回収した団子やお菓子を並べると、立派なお月見風景となった。
「皆で美味しく頂きましょう」
 明日夢がクッキーをつまむ。
「食べ物は大事にしなきゃ、ね」
 と、レギも団子を食べながら、綿兎を優しく撫でて笑った。
 ファーフナーはそんなレギの姿に僅かに顔を綻ばせる。といっても実際のところ、彼自身は
(この毛皮は防寒具に使えるな)
 などと考えているが、それは言わない。
 甘いものは苦手だが、余った団子を口にし、空を見上げた。
「柔らかいなー」
 Robinも綿兎をもふもふしながら、月を見る。
 月は眩しく夜を照らし、少し寒くなってきた風が秋を彼らに告げている。
 そしてお月見の夜は更けた。


 やがて朝が近付く頃には、団子も菓子も随分と減っていた。
「このディアボロはどうしたらいいんだろうね?」
 町に置いておくわけにもいかない。悔いがないようもふらねば……! と、鏡花が綿兎を抱きしめる腕にも力が入る。
「学園に持ち帰った方がいいのかな?」
 と、Robinが首を傾げた時、朝日が差し込む。
 その時だった。
「あ……」
 次々に綿兎たちは空に浮かび上がり、そのまま光になって透けていった。気配そのものが消えるのを、撃退士たちは感じる。
 敵だが少し寂しいような物悲しいような思いで、Robinはそれを見守った。
「結局、彼らは『何』なんだろう、ね。自己があるなら……それは……生物なんじゃないだろうか」
 ――惜寂は絶えない、な。しんみりと呟くレギに、ファーフナーは少し慌てる。
 だが、レギはすぐに顔を上げて笑った。
「惣一郎の集めた写真を借りて、お月見泥棒の知名度上昇を図れないかな、と思うんだけど」
 整理してリポートに纏め、学園の伝手や知人ネット経由のローカル範囲でも、と。
 時代が変わり、消え行く行事もまた現実と思いながらも、ファーフナーは「手伝おう」と答えた。
「『相談するときには過去を、享受する時には現在を、何かするときには、それが何であれ未来を思え』」
 呟くレギの横顔を、今まさに姿を現した太陽が照らす――。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 偽りの祈りを暴いて・花見月 レギ(ja9841)
 籠の扉のその先へ・Robin redbreast(jb2203)
重体: −
面白かった!:20人

偽りの祈りを暴いて・
花見月 レギ(ja9841)

大学部8年103組 男 ルインズブレイド
籠の扉のその先へ・
Robin redbreast(jb2203)

大学部1年3組 女 ナイトウォーカー
モフモフ王国建国予定・
鳴海 鏡花(jb2683)

大学部8年310組 女 陰陽師
リコのトモダチ・
礼野 明日夢(jb5590)

小等部6年3組 男 インフィルトレイター
されど、朝は来る・
ファーフナー(jb7826)

大学部5年5組 男 アカシックレコーダー:タイプA
ソーシャルネットウォーク・
片名惣一郎(jc1744)

大学部4年188組 男 ダアト