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マスター:楊井明治
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/02/24


みんなの思い出



オープニング

●二月某日、とあるデートスポットにて
 あちらこちらでハートがモチーフの飾りが、恋人達の日の訪れを知らせている。
 女子はイベントコーナーに列をなし、男子は何となくそわそわする、そんな時期。
 学園付近のイルミネーションの綺麗な公園を、制服のカップルが手を繋いで歩いていた。放課後デートだろう。あるいは、依頼後デートか。
 男子は斜に構えた風の少し長めの茶髪で背の高い「イケメン」、女子はウェーブした豊かな髪にリボンをつけた小動物系の「ゆるふわ」だ。
 先程からはにかんでモジモジしているゆるふわちゃんを、イケメン君は悪戯っぽい顔をして人気のないところへ連れて行く。そして不意に木に押し付け、腕と木の間に閉じ込めてしまった。
「ちょ、ちょっと近いです……」
 頬を赤らめて上目遣いに見るゆるふわちゃんに、イケメン君はイジワルな声で囁いた。
「え? キスしてほしかったんじゃないの?」
「ち、違います!」
 クスクス笑うイケメン君の声に真っ赤になりながら、ゆるふわちゃんは鞄から可愛らしい包みを取り出した。イケメン君はその中身を察しながらも、えー何? とやはりイジワルく彼女に言わせようとする。彼の少しばかりSっぽいところには振り回されっぱなしだとゆるふわちゃんは頬を膨らませながらも答える。
「チョコです……バレンタインの」
「マジで?」
「頑張って作ったけど、おいしくなかったらごめんなさい」
 イケメン君はさっそく包みを開け、一粒つまんだ。
「料理系はうまくなきゃ困るぜ? だってお前はそのうち俺の……」
「え? 今何て?」
 思わせぶりに言葉を切ってイケメン君はチョコレートを口に放り込む。

 その瞬間、公園の中にとんでもない轟音が響いた。

 ゆるふわちゃんは目の前で爆発が起きたかのような音と煙に驚いて座り込む。いや、目の前で起きたかのような、ではない。目の前で起きたのだ。爆発したのは、チョコレートを食べたイケメン君だ。
「えええっ!? そんな、どうして、ちゃんとお店で買った奴を包み直したのに!」
 パニックになって秘密を大暴露しつつ煙に耐える。普通の爆発と違うのか煙はすぐに薄れてきた。愛しの彼は無事だろうか?
 薄まりゆく煙の中に人影が見えた。
「ゆるふわちゃん……今言ったの、マジで……?」
「あっ、ちっ、違うんです、イケメン君、今のね……ぶはっ!」
「え?」
 煙が消えてはっきりと見えた彼の姿に、ゆるふわちゃんはゆるふわちゃんらしからぬ吹き出し方をした。
「あはははははは! いやもう何それ、ひぃーぁはははは!」
 引き笑いまでしている。
「ちょ、えっ、何笑ってんだよ!?」
「コントじゃないんだから、あははははは!」
「はァ!?」
 戸惑う彼だが、その姿はコントさながらに自慢の茶髪がちりちりのパーマとなり、言うなればテレビに登場するコテコテの「大阪のオバハン」のようである。前歯が欠けているようにも見えるが、幸い爆発の灰がついただけであろう。

 普段のカッコつけを全て無に帰したイケメン君を見て、ゆるふわちゃんは自分の購入したチョコが原因であるにも関わらず、一頻り笑い転げたという――。

●依頼斡旋所の依頼
「ええとですね、簡単に言うと、とあるチョコを食べた所謂『リア充』が次々に爆発しています」
 斡旋所の真面目そうな職員が、深刻な顔で依頼の概要を話した。
 いかにも役人風の彼でさえ、二月のイベントにどことなくそわそわしているのか小洒落たループタイなどつけているが、緊急の依頼に今はそれどころではないようだ。
「報告によりますと、そのチョコを一口食べただけで人一人の髪の毛が爆発パーマになる程の衝撃があるのだとか。特殊なものらしく、周りには被害はほとんどありません」
 とはいえ危険なものなので、現在有志により収集作業が行われている。ところが、それがあまり成果をあげていないということである。
「そのチョコはあえてパッケージなしで売られていて、買った人が手作り風に包装してプレゼント出来るようにしてあったそうです。手作りを偽装しているので、女子は人目をはばかって届けに来ないし、貰った男子は手作りを疑えずに届けに来られない……ということも考えられます。どちらにしろ、事情と共に呼びかけをしていますが、すでに爆発したチョコレートの残りを届けに来る人がほとんどです」
 職員は回収されたチョコレートを出して見せた。
 一口サイズのハート型チョコだ。甘くて魅惑的な香りだが、よくよく匂いを嗅ぐとかすかに焦げ臭い。壊せば爆発し、溶かしても爆発する、とのことである。もし一気に食べたりしたらどうなることか。――ただし、食べた瞬間、放水を浴びせれば爆発は小規模で済む、という情報もある。
「皆さんにはこのチョコレートを収集して、爆発を食い止めて頂きたいのです。購入者が届けに来てくれるような呼びかけを考えて集めてもらっても、直接回収に行ってもらっても何でも結構です」
 一応、収集に役立ちそうな細かい情報はまとめてありますので……と職員は資料を配る。
「収集作業をしていて、もし販売者を見つけた場合は、キツーいお灸を据えてあげて下さい。学園内のあちこちで販売していたことから、学園の生徒である可能性が高いです」
 このまま爆発が続けば、バレンタインデーが台無しになることは間違いない。すでに被害者が出ている以上、事態は急を要する。
 それと……と、出発する撃退士たちに、職員が付け加えた。

「くれぐれも、皆さん自身がチョコレートを食べたりしませんように。どんなに可愛い子に渡されてお願いされても食べてはいけません。真実を伝えて下さい。女性の皆さんも友チョコや逆チョコなる言葉の流行っている現在です。どうかお気を付けて――」

●一方その頃……
 建物の影から影へ移るようにして移動する怪しい影が一つ。
「ク、ククク……バレンタインデーなんぞに浮かれている馬鹿どもめが! 今頃間抜けを晒していることだろうなァ!」
 長い前髪で顔を隠した病的な雰囲気の青白い男が、一人ぶつぶつと呟いている。黒いロングコートに黒い帽子と、全身黒尽くめの格好だが、引いているのは不似合いにもハートがふんだんに散りばめられたカートだ。そのカートに、例のハート型チョコが載っている。
「この日に託けてイチャつくんだろ? 面倒面倒って言いながら女子力アピールすんだろ? モテないって自虐しながら、本当はもしかして貰えるんじゃないかって期待を捨て切れないんだろ?」
 偏見に満ち満ちた独り言を垂れ流し、くまで縁取られた目を剥く。
「だがしかし、今年のバレンタインデーはこれで中止だ。さらば、恋人達の日! ざまァ見ろ!!」
 近くを歩いていたハト達が大声にビビッて一斉に飛び去っていった。
「さァてと。爆発チョコはだいぶ売ってしまったしこれからどうするか……そうだ、女に縁のなさそうな部活の部室前にでもラッピングして置いておくか? 私からの優しーィ贈り物だぞお?」

 男の影はまた別の物陰に消えていった。


リプレイ本文

●行動、開始
「毎年恒例の嫉妬団の仕業でしょうか? しては、名乗りを上げないのは不自然な気もしますが……」
 雫(ja1894)は首を傾げた。爆発するチョコ。嫌がらせでしかないそれを、一刻も早く収集しなくてはならない。白銀の髪をなびかせ、雫がまず向かった先は職員室だった。
 先生達に協力を仰ぐ。取り急ぎ安全なチョコと交換できる券を発行して貰って、チョコと交換ということにすれば、きっと女子生徒達も大事な日を台無しにされずに済むだろう。多忙な先生もいたが、幸い数名で手の空いている時に対応してくれるということだった。
「費用は犯人に全額負担して貰います」
 涼やかな声で告げ、全校放送を流しに雫は急いだ。
 この放送の言葉で、手作りと嘘をついた女子が少しでも返しに来られればいいのだが。

「全身黒尽くめでハート柄の販売カートを引いた人物が売ったチョコは危険で、味見をした人が被害を受けました。材料として使用しても危険なので、職員室にて回収しています」

 その放送を聞きながら、全身黒尽くめで髪を帽子に隠し販売カートを引いた人物が、俯きがちに恋人たちが集うデートスポットへと向かう。すると、放送を聞いた一人の生徒がその姿を見つけ、憤怒の形相で駆け寄っていった。だが、間近で見たその人物が紫の瞳を瞬かせるのを見て、あれっとなる。
 疑問符を浮かべる生徒に、タイトルコール(jc1034)はしぃと長い指を唇に当てて笑った。
「尻拭いのお手伝いをしてるのよ」
 引いているカートは用務室の台車をハートの折り紙などで飾ったものだ。爆発物運搬中、という貼紙をつけている。
 目的地につくと丁寧に呼びかける。
「私からチョコレートの“材料”を買った方は申し出て下さい。口に含むと爆発する薬品の混入が確認されました。現在回収作業中です。既に渡してしまった方は至急相手の方へ連絡を取り、食べないよう注意し、現品を持って来るよう促して下さい」
 ざわめく周囲に深々と頭を下げる。
「この度は異物混入を許し、皆様を危険に晒してしまったこと深くお詫びいたします。被害者を減らすため、この事実を電話やメール、SNSなどの各種媒体で拡散していただければと思います」

 同じ頃、神ヶ島 鈴歌(jb9935)も利用者の多い公園にいた。
「リア充爆発するチョコレート……食べたら危険なのですよぉ〜。皆さんに被害が加わる前に回収するのですぅ〜」
 幸せな笑顔を壊すなんて絶対に許さない。おっとりした口調だが、真摯に依頼に取り組んでいる。電光掲示板や放送で回収を促し、例のチョコの写真も載せた。
「今日は女の子にとっても男の子にとっても大切な日なのですぅ〜!」
 これで双方かなり判別しやすくなっただろう。
 パステルカラーの大きなカートに入れてもらうように呼びかける。身に覚えがあってもまだ戸惑う周りの人々を、鈴歌はしょぼんと捨てられた子犬のように見上げた。
「リア充が爆発するチョコなのですぅ〜……お姉さんとお兄さんの気持ちを爆発で邪魔させたくないのですよぉ〜! だから……譲ってくださいなぁ〜?」
 こんな顔をされて無視出来るだろうか。
 胸をきゅっと掴まれた気持ちで、一人がそろそろとチョコを入れに来る。鈴歌はすぐ出来る可愛いラッピングと美味しいチョコの作り方を手早く説明し、実演したそれを渡しながらとびきりの笑顔で微笑んだ。

「チョコレートの主成分のカカオバターには5種類の結晶があるんだけど、市販のチョコは5型に揃えられているんだよね。ただ溶かして固めるだけだと、結晶がバラバラになって、光沢の無いボソボソしたチョコになるんだよ」
 いつの間にかチョコ談義に混ざっていたヴァルヌス・ノーチェ(jc0590)の話を、談話室の女生徒達は熱心に聞いていた。
「そこでテンパリングという技術を使って結晶を5型に揃えるわけだけど、実は簡単な方法があってね。固まる時、ある程度の大きさの結晶があると、それを核に全体の結晶型が揃う性質があるから、チョコを3分の1ほど溶かさず取っておいて、固まり始めた時に入れるだけで結晶型を揃えることができるんだ」
 感嘆の声を漏らしながら、メモなどとる。半ズボンの美少年に言われれば、「何よ女子力アピールして!」となる女子はいるまい。
 試してみてねと言いつつ、ヴァルヌスは依頼の資料を出した。
「ところで、今危ないチョコが流行ってるみたいだから気をつけて」
 販売者の詳細を教え、注意喚起と目撃したら連絡をくれるように伝える。
「もし手作りチョコの事で困ったことがあったら、遠慮なく言ってね。ボクが教えてあげるから」
 にっこりと微笑み、ヴァルヌスは手を振って去っていく。
「……今年は一から作ってみようかなー」
 残された女子達がポツリと呟く。こうして地道に「手作り」に対する関心を自分に集めることで販売を妨害し、かつ情報収集をするためにヴァルヌスはまた別の女子たちのところへ向かった。

 一方、只野黒子(ja0049)は、とある男子運動部に向かっていた。
 ここまで被害にあった人への入手時の状況など聞き込みを続け、怪しげな人物と販売時の包装について調べた。共通項を探るためだ。
「放水、かぁ……スキルや同様の効果の出る魔具使うわけにも行きませんし」
 その途中、販売時に犯人が使用していたのと似たラッピングの袋がある部室のドアにかけられているのを見たという話を聞いたのだ。犯人の捜索と共に、被害拡大の抑制もしなくてはならない。黒子は市販のチョコを再梱包しておいたものを持ち、部室を訪ねた。
 だが、時すでに遅く、中ではモテないメンズ達が、生まれて初めてのチョコ(母親からのものは除く)に咽び泣いているところだった。黒子は依頼遂行のため、彼らに事情を説明する。さぞショックを受けたと思われるが――。
「代わりといってはなんですが……」
 黒子が照れた様子で、用意したチョコを彼らに渡す。無論、差出人不明のチョコより、目の前の女の子に渡された方が嬉しいに決まっている。部室はこの時、最高潮の熱狂に包まれた。
 ――依頼遂行にストイックな少女は、穏便な解決にほっと胸を撫で下ろす。

 この件は様々な形で情報が広がりつつあった。

 だが、事実に気付いても、誰にも知られずに処分する方法がないか模索する生徒がまだ多いことも事実。そんな中、冬場は誰も訪れない学園の北側にあるプールでひっそりと収集が行われていた。他人と顔を合わせることのないよう、仕切りや衝立が置かれ、ポストを通して返却するようにした。
 下らん……、と思いながらも、真面目にその場所を作ったのはファーフナー(jb7826)だった。髪をかき上げ、それでも彼は何かが密やかに追い立てて来ているかのように依頼をこなす。犯人の目撃情報もノートに記して貰うことで、誰とも会わずに済む。
 彼女からの贈り物を誰にも知られずに処分したい男子生徒や、情報が出回る中でチョコを届けに行けない女子生徒が互いに出くわさないよう気配を探りながら次々に訪れる。
 彼が少し遅れてこの場所を設置したのは、他にやることがあったからだ。校内や町内で本命用チョコレートを作るのに練習で作って余らせたチョコを譲ってもらうべく有志を募った。つまり、爆発チョコを返却したために贈るチョコがなくなった生徒への配慮である。
 持って行きやすいようにしたそれを残し、ファーフナーはノートを手に犯人を捜すべくプールを後にした。

●バレンタインは続く……
「お二人の愛はきっと幸せな日々を送れる魔法なのですよぉ〜♪」
 鈴歌はチョコを届けに来たカップルににっこりと笑った。だいぶ集まってきたようだ。ぁ、そういえば、と聞き込みも欠かさない。
「チョコを販売していた方って……どういう方ですぅ〜?」
 販売員が犯人と見て尋ねる。
「黒い前髪で顔を隠してた、ですかぁ〜」
 そこから少し離れた通りで、雫もまた犯人の手がかりを探していた。だが時は恋愛シーズン。一人で立っている彼女に声をかける者がある。学園の制服を着た少年が、チョコを片手に立っていた。
「こ、これ受け取って!」
「あの、気持ちは嬉しいのですが、私は他に好きな人がいるので受け取るのはお断りさせて下さい」
 そう……と意気消沈する少年に事情を話し、犯人について聞いてみる。少し気まずげに笑いながら答えた少年に、雫は頷く。
「青白い顔……ですね」
 そしてまた、ファーフナーも恋愛シーズンの熱気に巻き込まれていた。
 チョコ受け取って下さい、もし良かったらこれ……、実は俺アンタのこと、などと来るのを、
「知らん」
 の一言で切って捨てて(いや実際には声にさえ出していないかもしれないが)、先を急ぐ。
 大量のチョコに爆発物を仕込んだなら、犯人は科学室や家庭科室を利用しているかもしれない。あるいは、カートを用務員室で借りた可能性も考えられる。ファーフナーは目撃情報のある付近の部屋や道具の借用申請書を閲覧し、犯人が鍵やカートを返却に来るやもと、しばらくの間先程の目撃情報が記されたノートを開きながら待った。
「痩せぎすの長身か」
 そんな目撃情報に従った格好のタイトルコールは、絶望した購入者に絡まれて、結果的に最も犯人の情報を得た。尤も、犯人には独特の暗さがあるらしく、近付くとすぐに別人とわかるらしい。謝る購入者に今からでも間に合うお手軽レシピをこっそり添え、綺麗に剥いだ包装類を返した。
「大事なのはキモチよ。こんなラッピングしちゃうくらい大スキなんでしょ? ちょっと不恰好でもそこを愛してくれる彼は一生ものね♪」
 姉さん……! と感動する女子達に話を聞くと、一人が販売者の名前は知らないが授業で一緒になったことのある人だと教えてくれた。人となりを聞き出し、奇襲などに備える。
「人嫌い……ねえ?」
 こうして集まってきた情報は、黒子の下に送られた。黒子は共通項を洗い、まとめ直して全員に連絡する。こうして情報を共有することが被害拡大を食い止めることに繋がるはずだ。
 そこでヴァルヌスから報告が入った。連絡先を教えておいた女子達から、情報が送られてきたらしい。
 ――公園で、それらしき人物を見た、と。

●発見、それから
 まずそこへ真っ先に辿り着いたのは黒子だった。だが、一人で襲撃はせず、露見しないよう電話は避けて、冷静に各員を招集するメールを送る。犯人の男は隠れて移動しているつもりでいるらしく、黒子の尾行には気付いていない。そのまま、静かに位置を捕捉してメールを続け、仲間の合流を待つ。
 そこへファーフナーから黒子に連絡があった。それらしき人物から鍵の返却があったという連絡を受け、借用申請書と照らし合わせたところ、どうやら犯人の名が判明したようだ。
「大学部の生徒で浦見ヒガミというらしい」
 それを位置情報と共に仲間に送信した黒子は、ふとヒガミの行き先に気付いた。
 ――タイトルコールの元に向かっている。
「見つけたぞ、偽者め……!」
 物陰から仄暗い声が囁く。薄く笑うヒガミはインフィルトレイターで、遠距離からの襲撃を得意としていた。柔らかいが当たればかなり痛いゴム弾で、タイトルコールに狙いをつける。
 だが、元より犯人を誘き出す囮のつもりでも構えていたタイトルコールは、ヒガミの攻撃をあっさりかわした。軽い悲鳴とざわつく周囲を余所に、つかつかと近付く。
「ほらっサボってないで行くわよ!」
 真の事情を知らない者に仲間割れと見せかけ、力ずくでヒガミを連行する。それで捕縛出来なくとも、まずは人を巻き込まない場所に連れ出す必要がある。案の定、ヒガミは舌打ちと共にタイトルコールの手を振り払い、逃走を図る。
 だが、そこには黒子が待ち構えていた。
 容赦なくスタンつきの攻撃を放ち、取っ組み合いで押さえつける。ヒガミは身長の割りに貧弱なようで、短い悲鳴を上げて倒れた。しかし、なおも往生際悪く暴れ、女々しくも引っ掻くでも噛むでもして逃げようとするので、仕方なく黒子は――。
 ゴッ!
 ガッツリ殴った。因みにこれに殺意はない。
 地面に伏せたヒガミの前にヴァルヌスが現れ、シザーアンカーで拘束する。ヒガミはそこではっと気付いた。――いつの間にか、囲まれている。
「ボクは人の負の部分も受容しているから、妬み嫉みは良いのですが……。しかし、チョコレートを冒涜したことは許せません」
 銀髪碧眼の美少年はニコリと微笑んだ。

●お仕置きです。
「良かったですね。これで貴方もリア充の仲間入りですよ」
「〜ッ!」
 雫が拘束されたヒガミにチョコを食べさせる。あーんしてもらって、声にならない狂喜の叫びを上げているのか。いや、悲鳴だ。
 ヴァルヌスに程よくボコされてチョコへの冒涜を償わされたヒガミは、畳み掛けるように自らの発明物で爆発させられていた。その量は徐々に増えていく。ぐったりしていると雫にヒールで回復され、果て無き自業自得へと陥った。
「多くの乙女の気持ちを弄んだ罪、これぐらいで済むとは思ってないでしょ?」
「ご、ごめんなさい、もうしませんからあ」
 ――……なんて思うか、こいつら絶対に復讐してやる! と内心喚いていると、それを見透かしたように、雫はクールな視線を落とし、ヒガミの前からどいた。すると、その向こうから鈴歌が収集した大量の爆発チョコをカートで運んでくる。
 無論、その大量の爆発チョコをヒガミの口に詰め込むために。
「せっかく幸せを掴もうと今日の為に頑張ってきた子たちがいるのですぅ〜……その子たちの想いを伝える邪魔をさせないのですぅ〜!」
 距離を置き、鈴歌がぷんぷんと怒る。
 歯を閉じれば重体クラスの爆発になるが、しかし詰め込まれすぎてチョコを吐き出すことも出来ない進退窮まる状況だ。どうやって打開しようと青白い顔をもっと青白くし、流石に涙の出てきたヒガミにすっと影が覆いかぶさった。
「乙女心を弄ぶのは許せないけれどきっと寂しかったのよね? いいわ、特別にオトコでもオンナでもあるあたしが食べさせてあ・げ・る♪」
 タイトルコールがにっこり笑って、駄目押しの一粒を口に押し込む。お仕置きではない。全くの善意というか、慰めである。
 もうこんなことしちゃ駄目よ、と雫達と共にその場を離れた瞬間、今回の騒動最大の爆発が起きた。

 爆発パーマとかいうレベルでない衝撃に黒こげでプスプスと煙を上げる犯人を、ファーフナーと黒子が見下ろす。黒子の予定ではこの後関係当局に一任することになるが、その前にとファーフナーがヒガミの首根っこを掴む。
「販売の金銭は没収して安全なチョコとの交換費用だったか。あとは、爆発の被害者に直接詫びの品を渡しに行かせるか」
 そのままずるずると引きずっていく。

「バレンタインも、少女も少年もオッサンも、男でも女でもあってもなくても、皆……大ッ嫌いだァ〜!!」

 見送る黒子の耳にヒガミの上ずった悲鳴が聞こえたとか聞こえないとか。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 新世界への扉・只野黒子(ja0049)
 されど、朝は来る・ファーフナー(jb7826)
重体: −
面白かった!:5人

新世界への扉・
只野黒子(ja0049)

高等部1年1組 女 ルインズブレイド
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
されど、朝は来る・
ファーフナー(jb7826)

大学部5年5組 男 アカシックレコーダー:タイプA
翠眼に銀の髪、揺らして・
神ヶ島 鈴歌(jb9935)

高等部2年26組 女 阿修羅
彩り豊かな世界を共に・
ヴァルヌス・ノーチェ(jc0590)

大学部7年318組 男 アカシックレコーダー:タイプA
みんなのお姉さん・
タイトルコール(jc1034)

卒業 男 アストラルヴァンガード