作戦決行二日前の夜、市場からのサハギン掃討依頼に参加した撃退士達は依頼人である中西の家へと訪れていた。現状を把握するためである。同時に中西としても参加者達に渡すものがあった。依頼達成を示す旗の受け渡しである。
「狭いところですみません」
作戦会議は中西の自宅で行われた。
「サハギンに不用意に警戒されたくありませんので」
「構いませんよ」
出された紅茶を啜りながら龍崎海(
ja0565)は答える。
「依頼を達成するためなら努力を惜しみません」
「そう言ってもらえると助かります」
テーブルの上にはReira(
ja8757)が提供した菓子類と天音 みらい(
ja6376)が淹れた紅茶のポットが置かれている。それらを少し脇へと片付け、中西は地図を広げた。
「現場周辺の、見取り図、ですね」
宮田 紗里奈(
ja3561)が地図を一目で判断する。
「この辺りは、先月、私が、担当しました。よく、覚えています」
宮田が指差したのは排水溝だった。サハギンからの攻撃と視認を困難にするためである。
「問題のコンテナはどこに置いてありますの?」
広げられた周辺地図を見回し、亀山 淳紅(
ja2261)は疑問を口にした。
「この地図には載ってないみたいやけど」
「コンテナは地図で言うと東の端、いつものコンテナ置き場なんですが分かりますか?」
顔を見合わせる天音とファング・クラウド(
ja7828)、その傍らで九重 棗(
ja6680)はつまらなそうに答える。
「あそこね」
「分かるの?」
天音が尋ねると九重は短く答える。
「行けば分かる。目立つから」
「ならばよし」
九重の答えに満足したのか、ファングは一人拳に力を入れる。
「ちなみに入られる方は?」
「私と宮田さんです」
中西の質問に龍崎と宮田が手を上げる。
「コンテナの中はある程度掃除していますが、元々人が暮らすような場所ではありません。しばらく辛抱願います」
「分かり、ました」
「一つこちらからも提案があります。コンテナを市場の海側出入り口に置いてもらいたいのです。そうすればサハギンの退路を一つ断つ事が出来る」
「交渉してみましょう。ですがコンテナの大きさでは完全には塞ぎきれません。せいぜい半分程度です。それに出入り口前ではコンテナに入る時にサハギンに見つかる可能性が高いですよ」
中西の警告に龍崎、宮田が顔を見合わせる。
「コンテナを、移動させる、前に、入るしか、ないわね」
「いつ動かすべきだと思う?」
「夜間に動かしては怪しまれます。昼過ぎには動かすべきでしょう」
「昼過ぎですか」
神城 朔耶(
ja5843)が不安そうな視線を龍崎、宮田の二人に向ける。
「作戦決行は夜明け、前日昼から待機するとなると二十時間近くコンテナの中で息を潜める事になるんですか」
「依頼のためならやりましょう」
龍崎が即答する。
「それよりサハギンにはコンテナ移動の理由を何と説明なさっているのですか」
「冷凍マグロの譲渡と伝えています。サハギンに市場が押さえられている以上漁には出られません。先週にも一部譲渡していますので、その残りだと説明しています」
「成程」
「コンテナにはそれらしく見えるようにダンボールの箱を詰め込んでいます。身を隠すためにお使いください」
「ということは、冷凍用コンテナ、ですか」
「その方がサハギンも開けませんから。冷凍コンテナは開けると冷気が逃げる事を知っているのです」
「知能がある故に罠にはまるか」
「相手は天魔。扉を開けなくても、確認可能」
「阻霊符を使えば透過は防げるが怪しまれる。そのコンテナで問題ないだろう」
「天井四隅に採光と換気用の穴を開けています。それでも半日以上身を潜めるのは相応の忍耐力が要求されると思います」
「だがやるしかないだろう」
「もう一つ要望がある。別のコンテナを一つ市場の奥に置いてもらえないだろうか」
「陽動用ですか」
「そうです。ラジカセを準備しました。突入時間直後に鳴らせばいい陽動になります」
「半日、以上、時間を、おいて、分単位の、調整が、できるのかしら」
「難しいかもしれませんね」
Reiraが答える。
「コンテナの配置の方は交渉してみましょう」
「お願いします」
これで十分だろうか、中西にはやれる事はやったはずという自信と同時にまだやりたりない事があるのではないかという不安もあった。
「私からも質問いいですか」
手を上げたのは神城だった。
「梁に隠れて上からの援護射撃を考えています。しかし外から直接梁に登ることは出来なかったと記憶しています。梁まで上がるためにはどうしたらいいでしょう」
「梯子で登るしかないでしょう。位置はここです」
中西は地図を指差した。
「海側出入り口のそばか」
「防火用という名目で入り口そばにはつけていますが、登っている最中は無防備です。敵に背中をさらけ出す事になります」
「どんな階段?」
「非常用の梯子みたいなものです。壁に固定されています」
「ちっ…マジめんどくせぇ‥‥」
九重が愚痴を零す。彼も梁の上からの援護担当だった。
「安全に行くには陽動が必要やな」
亀山が佐藤 としお(
ja2489)の顔を確認する。その佐藤の後ろには学園から借りて来た梯子があった。
「作戦決行予定の五時に二階から奇襲をかけます。その時に梁の上へと行って下さい」
「もしそのまま移動できそうなら、その時はその時で連絡するさかい安心してな」
「割るのですか?」
佐藤と亀山の提案に中西は渋い表情を見せた。
「勿論弁償させてもらいますよ」
顔を引きつらせながら佐藤が答える。同意を求められた亀山も力強く頷いた。
「後は不確定要素の逃亡サハギンの数ですか」
シャルロット・I・グラジオラス(
ja8721)は部屋の隅で窓から空を見ていた。日が高くなっているため星が出ていないが、金星の姿は確認することができていた。
「そのあたりはサポートの二人に期待するしかないでしょう」
今回は直接市場奪還に関与する撃退士十名の他にマリク トース(
ja1003)、清良 奈緒(
ja7916)の二名がサポートとして参加を表明していた。
「本来の数が二十でしたね」
Reiraが確認すると龍崎が静かに頷いた。
「とはいえ総数を正確に数えた人が居るわけじゃない。二十前後ということだ」
「今は残っている数の方が重要ですね」
作戦会議は深夜まで及んだ。
翌日、早朝から撃退士達は活動を開始した。まず始めに動いたのが龍崎と宮田のコンテナ潜入班だった。
「思ったよりは広いか」
龍崎がコンテナを確認する。扉の開け方や材質、防音、換気用の穴を一つ一つ見て回った。
「匂いは、きついですね」
宮田は鼻を押さえた。
「鉄と、魚の、匂いがする」
「元々そういうものだからね、終わったらシャワーを貸してもらおう。ところで天気予報は覚えているか?」
「夜半頃に、小ぶりの、雨が、降ると、聞いています。日中は、晴れるのでは、ないでしょうか」
龍崎の頭を悩ませていたのは暑さだった。日中このコンテナは市場前で放置されることになる。この中の気温が何度になるのか想像できなかった。
「十二時にコンテナ移動だったね」
「はい」
中西によるとコンテナの市場入り口への移動は許可されたものの、中への配置はサハギンに警戒され不許可になったらしい。龍崎としてもそれ以上の要求をするわけにはいかなかった。
「その前にコンテナの中から通信機が使えるか確認したい。手伝ってほしい」
「了解、しました」
一旦頭に沸いた疑問を片隅へと押しやり、龍崎は当面の疑問を解消する事に着手する。そして通信機を手にしたのだった。
作戦結構当日、決行三十分前。参加者達の間では奇妙とも緊張感に包まれていた。空には昨日と異なり雨雲が立ちこめている。お陰で市場内で灯された照明の灯りは外からも確認できる程にはっきりと見えている。
「こちら二階班。サハギンの様子は無し」
魚市場の側面に借りて来た梯子を立てかけ、佐藤は二階の窓口から市場の中の様子を伺っていた。カーテンにブラインドと二重の障害が中を見せまいと立ち塞がっているが、発注した中西が意図的に隙間を空けている。そこから中の様子が確認できた。
「サハギンなし了解、何か音は聞こえますか」
佐藤からの通信を受けるのはファングだった。サハギンの最有力逃げ出し口となった山側の出入り口付近の排水路に陣取り、愛用武器である漆黒の大鎌を肩に置いている。その近くには天音、シャルロット、Reiraの三人も息を潜めて様子を伺っていた。
「音は特に無し。雨音のお陰かもしれないがこちらの作戦には気付かれていないようだ」
初夏ということもあり、佐藤はそれほど寒さを感じてはいなかった。それに中西によるとまもなく天気は回復するという予想がウオハラケーブルテレビの八木アナウンサーからもたらされている。
「天気は回復するのですか?」
「八木さんから連絡が入りました。夜半から晴れるそうです」
「八木さんですか」
佐藤はこれまでの依頼で何度か八木を見ている。直接言葉を交わしたことは無いが、信用できる相手というよりはトラブルメイカーという印象が強かった。
「局の気象予報士に見てもらったそうです。俺は直接会った事が無いから何とも言えませんが」
ファングは空を見上げる。心持ち小ぶりになったと言われれば弱くなったような気がしないでもなかった。
「それとマリク、清良両名からの報告です。逃亡したサハギンの目撃情報から総合すると八匹、時間帯から重複してると考えられるものを除くと五匹のようです」
「十匹強が残っているわけですね」
「町に人には念のため避難してもらったようです。幾つか電灯点いてる所もありますが、泥棒避けやサハギンに警戒されないためだそうです」
高い位置にいた佐藤が町の様子を確認する。確かに二、三件ではあるが電気の点いている家があった。
「また海面の変化もなさそうです」
「了解」
海に異変が起きるのではないかというのはマリクの心配は杞憂に終わった事になる。ゲートの噂もこれまでに二度囁かれたが発見されていない。
「これで心置きなく‥‥」
戦える、そう言おうとして佐藤が言葉を飲み込んだ。二階の部屋にサハギンが入ってきたからである。数は一、だが他のサハギンと比べやや大きめに見えた。
「大丈夫ですか」
突然会話が途切れた事に不審を感じたのかファングは慌てて聞き返す。
「サハギンが来た。数は一、やや大きめ」
「一ですか」
「これから増えるかもしれない」
佐藤は時計を確認する。時間はいつしか三分前にまで迫っていた。梯子下で支えてくれている亀山に目配せし、佐藤はアサルトライフルを手にする。それを見て亀山も魔法書を手にした。
「コンテナの方はどうですか」
「軽い熱中症のような症状を訴えていたが戦闘には支障がないらしい」
「分かりました」
佐藤はそれ以上聞かなかった。本人達ができるというなら、それ以上聞くのは筋違いとなる。それに二人ともこれまでこの魚頭で何度か依頼を共にしている仲間だった。
「十秒前からカウントダウン行きます」
ジャックが宣言する。
「了解」
佐藤は再び部屋の中を確認する。やはりサハギンが一匹部屋の中央に陣取っていた。何をするわけでもなく窓に背中を向けたまま椅子に座っている。
「五‥‥四‥‥三‥‥二」
ゼロの単語を聞くや否や佐藤はアサルトライフルのストックで窓を殴りつける。それが戦闘開始の合図だった。
「ガラス割れたな」
通信機から聞こえてくる破砕音と同時にコンテナ内に隠れていた龍崎と宮田がコンテナを乗り越えて市場内へと侵入。二人に続いて九重と神城が中へと入る。
「それでは予定通りに」
宮田が一階を見回す。確認できるサハギンの数は五、他に隠れている可能性も否定できない。
「阻霊符発動させました」
天音の声だった。
「了解しました」
梯子に手をかけつつ神城が答える。しかし梯子を登ろうとする撃退士達の姿を認め、サハギンが襲い掛かってくる。
「来るぞ」
龍崎は自身と宮田にアウルの鎧を使用、陰陽護符を構える。宮田もトンファーを装備し錬気を使用、迎撃の態勢を取った。
「右手にもサハギンが一匹潜伏しているぞ」
生命感知を使用し龍崎は周囲に潜むサハギンの数を確認する。
「了解」
早々に宮田は正面のサハギンにトンファーを仕掛ける。狙いは目、敵の視力を奪えば戦力は半減するはずだった。
しかしサハギンはこれを爪で受け止める。そして掴んだまま宮田を投げ捨てた。
「大丈夫か」
声をかける龍崎、だが宮田は空中で姿勢を整えて無事着地する。そこにもう一匹のサハギンが襲い掛かる。
「援護します」
梁へと登った神城が強弓で潜んでいたサハギンの足を狙う。狙い通りにサハギンは足を止める。安堵する神城だったが、すぐに顔が青ざめる。サハギンが地面に刺さった矢を引き抜き、神城へと投げ返してきたからである。
「ちっ」
矢を撃ち落すためにスナイパーライフルを構えた九重、しかし矢には当たらず市場の片隅で兆弾し残響を響かせる。
慌てて身を隠す神城、幸いにも矢は梁へと命中。そして地面へと落ちていく。
「来るぞ」
安堵した神城だったが、梁から顔を出すとサハギンは彼女目掛けて酸を吐いている。
「‥‥マジめんどくせぇ‥‥」
無駄ではないかと予感もありながらもスナイパーライフルで酸を狙う九重、今回は連続で二発を発射させる。内一発を酸へと命中させるが、酸は軌道を変える事無く弾丸を飲み込み溶かしていく。
「遠距離もあるのか」
陰陽護符で龍崎もサハギンを牽制する。
「接敵した方が、戦いやすい、気がします」
着地した宮田がアドバイスを送った。トンファーでサハギンの爪を牽制しつつ手数で応戦している。
「そうか」
龍崎もショートスピアに武器を変えた。
「援護をお願いする」
龍崎の声に合わせて九重がスナイパーライフルでサハギンを狙う。その弾はサハギンの首筋に当たり頭を吹き飛ばした。その様子を見たもう一方のサハギンは宮田に背を向けて海側の出入り口へと逃亡。
「コンテナの方に向かいましたね。阻霊符は」
「大丈夫だ。俺も宮田くんも発動させている」
コンテナを透過できなかったサハギンは続いてコンテナを飛び越えにかかる。だが負担のかかる足を神城の矢が射抜き、サハギンはバランスを崩して転倒する。
「山側の、出入り口に、向かいます」
目に見える危険性を排除し、宮田はもう一つの出入り口へと向かう。
「頼んだ」
龍崎としても山側出入り口は気がかりだった。天音、ファング、シャルロット、Reiraと四人で囲ってはいるが撃退士としての経験は多くは無い。だが自分もカバーにだけ回れるほどの余裕はなかった。
「次の客だ」
九重が唾を吐いた。
「地下からのようだな」
「数が少ないようですし防空壕に隠れていたのでしょう」
「透過能力があれば地下も地上も変わりは無い」
三人の前に現れたのは先程と比べてやや小さいサハギンだった。
「事前情報によると今市場にいるのは約十五でしたね」
「さっきの二体と目の前の三体、二階にいる一体で残り九体か」
「まだまだかよ。来るぜ」
龍崎は再びショートスピアを構えた。
同じ頃、二階では佐藤と亀山が苦戦を強いられていた。奇襲で襲った佐藤のアサルトライフルがサハギンの手首に命中、急所を外して深手を負わせる事には成功した。しかし半端な深手がサハギンの逆上を招いていた。
「右から来とるで」
敵は逃げようとはしなかった。それは二人にとってありがたいことだった。阻霊符により透過能力を封じられたサハギンは身体を何度か壁にぶつけている。だがサハギンは最も単調な攻撃手段である体当たりを仕掛けてきた。その直撃を佐藤は二度、距離をおいていた亀山も避けきれずに一度食らっている。亀山も魔法書で応じるが、怯む様子は無い。返って一層攻撃を熾烈化させている。
「右からですね」
佐藤はアサルトライフルの銃口を言われるがままに右に向ける。
「今度は当てるぞ」
黄金の龍を全身に宿らせる佐藤、精神的には痛みを感じないほどの昂揚を見せていた。だが反面では部屋に突入する時に割ったガラスの破片がコメカミと二の腕、太腿の三箇所に突き刺さっている。加えて今はサハギンの体当たりのせいで喉の奥で血痰が溜まっていた。
「お前たちの目的は何だ」
「楽しむ事だ」
佐藤の脅しに屈せずサハギンは体当たりを敢行、佐藤の弾丸がサハギンの右眼を潰す。だがサハギンは速度を落とす事無く佐藤を壁との間に挟みこんだ。
「自分の感情の高ぶりを感じないか? 自分は今最高に燃えている、この瞬間のために生きているっていう感動だ。人間も大して変わらないだろう。ここにいる連中を観察して学んだんだ」
サハギンが佐藤に耳打ちする。
「離れるんや」
亀山がエナジーアローで生み出した光の矢をサハギンにぶつける。
「変な事吹き込まれるやないで。そっちの世界に引き込まれるだけや。耳を貸すんやない。倒すだけや」
「そうだ、俺を倒せ。そうすれば安心できる。何よりも得がたい解放感だ。お前さん俺を倒せばヒーローだぜ」
「勿論そうさせてもらう」
零距離で佐藤はライフルの引き金を引いた。発射と着弾の衝撃が連続して佐藤の身体を襲い、脳を大きく揺さぶらせる。一瞬の眩暈、そして意識を取り戻した時にはサハギンは床で大の字になって倒れていた。
「グッジョブだ」
サハギンは親指を立てている。そこに亀山は再度陰陽護符による光の玉ををぶつける。
「ここは、漁師さんらの人生そのものや。お前らのいていい場所ちゃうわ!!」
大きく息を吐いた。朝の冷たい空気と真逆の腐臭が同時に肺へと巡って行く。やや遅れて階段を登ってくる音が聞こえてきた。そして宮田が姿を現す。
「敵は?」
「何とかなりました」
「そう」
一息入れ宮田はサハギンの死体を確認する。テープで固定させた通信機の位置を確認してまた踵を返した。
「多分、それが、親玉。残ってた、サハギン達、本格的に、逃げ出した」
「掃討戦に移るんやな」
亀山が問うと宮田は頷いてみせる。
「旗を、立てる、準備も、お願い」
「任せといて」
宮田は急ぎ二階を後にした。
朝日が昇る頃、山側の出入り口では防衛を担当していた天音、ファング、シャルロット、Reiraは四人とも土埃にまみれていた。
「その魂、極彩と散るがいいッ!!」
ファングが漆黒の大鎌で最後となったサハギンを薙ぎ倒す。
「とりあえずはこんなものかな」
Reiraは排水路へと落ちたサハギンの死骸を数える。
「五体ね」
「倒せるだけは倒したんじゃないかな」
「逃げられたのもいるけどね」
逃げられた原因は敵が早かった事もあるが、外に逃げられた時に十分な照明を準備していない事も要因だった。星の輝きをもっと有効的に使えればよかった、天音に傷口の消毒を受けながらReiraは一人今回の依頼を反省する。
「これだけの怪我で済んでよかったと思わないとね。ファングさんなんかは自分で排水路から転げ落ちて傷作りにいったんだから」
「傷は男の勲章だッ!!」
天音の言葉にファングは必死に反論する。
「そういうことにしておきましょう」
天音は微笑を浮かべて返答する。そして排水路で一人佇むシャルロットに声をかけた。
「蘭ちゃん、どうしたの?」
「<りあるぶーと〜あおーいそらはまぶしすぎーるよー>」
ここでの戦闘を終えたにもかかわらず、シャルロットはブラストクレイモアに聖火の銀の焔を纏わせている。どうやらサハギンをどうやって食べるか考えているらしい。
「先に防空壕行くよ? まだ数が合ってないみたいだし。それにそんなに食べたらおなか壊しちゃうよ?」
「<つちのーなかにもぐってみようー>」
悩んだ結果、シャルロットはサハギンの殲滅を優先することを選んだ。自身の目的である九重の様子も気になったからである。
「舞台の幕を引きに行こうかッ!」
ファングを先頭に四人も場所を移動する。防空壕爆破と屋上でのメッセージフラッグと大漁旗掲揚はその数分後だった。
魚市場奪還の一報は昼の内に住人の避難していた体育館に届けられた。涙をながすもの、ハイタッチするもの、抱き合うもの、方法は様々だがそれぞれの方法で喜びを報告しあう。
「今日は宴だ」
「腕を振るうぞ」
早速宴会の準備を始める漁師達だったが、撃退士達は参加を見合わせた。数名消耗が激しかった者がおり、自分の足で立てなかったからだ。
「連絡先を教えてくれた者もいる。娘の代わりになりたいんだそうだ。きっとまた会いに来てくれるだろう」
「それもそうだな」
話し合いの結果、宴会はささやかなもので済まされる事になった。いつかまた撃退士達が会いに来てくれた時に本格的な打ち上げをするためだった。