.


マスター:八神太陽
シナリオ形態:シリーズ
難易度:普通
参加人数:5人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/10/14


みんなの思い出



オープニング

 西暦二千十五年九月、その日新人警官である根間は朝から浮かれている自覚があった。原因は財布に入っているバスケットボールの入場券である。生まれて始めて手にした入場券だった。高校時代に部活でやってはいたもののプロの試合を生で見たことはなかった。高校を卒業してからは大学へ行かずに警察官になったため、この春からボールにもほとんど触っていない。にも関わらず自分に観戦できる運が回ってきた事に根間は少なからず興奮を覚えていた。
 身支度を整え靴を履くと、スマホがメールの着信を告げる。確認したら今回チケットを手配してくれた名護歩美からの連絡だった。本文はなく件名に「今日は来られますか?」と書かれている。「今から出ます」と本文を添えて返信し、根間は家を出た。

 試合は白熱していた。序盤から双方点を取り合い、第三クォーター終了時で両チームとも八十点を超えている。百点ゲームになるのは間違いなかった。その中でも存在感を放っていたのが歩美の兄であり、三兄妹の長男である名護雄一だった。オフェンス、ディフェンス両方のリバウンドをことごとく拾っている。二メートル近い長身を誇りながらも、ボール奪取と同時に敵陣営へと走り込んでいる。高校と実業団のレベルの違いを目の当たりにして、根間は震えずにはいられなかった。何故あれほど早く走れるのか、どれほどのスタミナを保持しているのか、考え始めると興味が尽きない。二階の中央席から見ていた根間は、いつしか席の前にある手すりを掴んで声をだしていた。
「今の内に飲み物買ってくるよ。何か欲しいものある?」
 両隣に座る名護歩美、その兄で次男である重清に根間が尋ねる。二人も椅子に座らずに立ったまま声援を送っていた。額にはいつの間にか、うっすらと汗が浮かんでいる。
「水があれば」
「自分にはお茶を」
 二人も疲れを感じていたのか、今は息をつくために椅子に腰を下ろしている。
「水にお茶ね」
 最後に二人に確認して、根間は自販機のある玄関前まで移動した。

 興奮冷め切らぬまま根間は早足で階段を下りる。インターバルは二分、その間に飲み物を買って二階まで戻らなければならない。自然と足は速くなった。しかし階段を降りきったところで根間は足を止めた。玄関に見知った顔を見つけたからである。
「先輩、どうしたんですか」
 根間が見つけたのは先輩警官である鮫島だった。いつも通りの冬の制服に、脇にはクッキーの缶が抱えている。かなり痛んでおり、塗装が剥げている部分が遠目からでも分かった。
「ひょっとして先輩も試合を見に」
 予想外の人物の登場に根間は驚きを隠せなかった。制服姿であるため勤務時間だと分かってはいたが、勤務中だということまで頭が回らなかった。
「馬鹿を言うな。仕事に決まっているだろう」
「そうか、そうですよね」
「それより名護兄妹がいると聞いてきたんだ。長男は試合のはずだが、君がいるという事は妹もいるな」
 矢継ぎ早に尋ねてくる鮫島を前に、根間は頭を整理する。そしてようやく鮫島の質問を理解した。
「見張りはしています。特に異常はありません。今は重清さんも一緒です」
 名護兄妹には同名の三兄妹に入れ替わったのではないかという疑惑が持たれていた。しかし明確な証拠がないため今でも放置されている。先月歩美が入院した際に指紋、筆跡、DNAは入手しているが、比較対象である行方不明前の歩美の情報が出てきていない。鮫島はその入手のためにこの一月奔走していた。
「それなら都合がいい。行方不明前の三人の写真が手に入った。恐らく指紋も取れる。全員連行するぞ」
「今すぐ全員ですか」
 根間の頭に過ぎったのは間もなく始まる第四クォーターの事だった。あと十分で試合が終わる。熱戦の途中で壊すのは、かつてバスケットボールをやっていた者として忍びなかった。
「あと十分待てませんか。良い試合をしているんです」
 試合だけは成立させたい。根間は鮫島に伺いを立てる。だが鮫島は根間の提案を切って捨てた。
「試合後逃亡しない保障はどこにある」
「僕と先輩の二人掛りなら何とかなりませんか」
「相手は三人だぞ。それを一網打尽できるんだ。逃がしたら処罰の対象だぞ」
 処罰という単語が根間に自分が警察官である事を思い起こさせる。そして自分が浮かれていた事を改めて自覚した。
「分かりました」
 壁越しに大きな歓声が聞こえる。恐らく試合が再開された音なのだろうと根間は予想した。歩美と重清は心配しているのだろうか、それとも試合に夢中なのだろうか、不意にそんな思いが胸を過ぎる。
「どのタイミングで行きますか」
「二分後に突入する。反対側の入り口には援軍が既に待機中だ」
 歓声が大きくなる。根間の頭はもうどうやって三人捕らえるかに切り替わっていた。長男と妹は従ってくれるだろう、しかし次男は取り押さえるしかないかもしれない。多弁な長男と寡黙な妹には友好的な雰囲気を感じていた根間だが、次男に関しては近寄り難いものを感じていた。話していても核心に近付くと話題が変わっている事が何度かあった。庭に監視カメラを設置していた理由を尋ねた事があったが、性能テストという話からカメラの撮影時間の話へと擦りかえられた。
 そんな根間の目が窓の外に動くものを見つける。視線を向けるとそこには犬の姿があった。真っ先に思い起こしたのは先月妹が狙われた黒犬である。しかし今回は色が違う。体格は大きいながらも茶色交じりの白い犬だった。
「鮫島さん!」
 根間が鮫島の名を叫ぶ。しかしそれよりも早く犬が動いた。二匹が窓をすり抜けて侵入を果たす。そしてそのまま壁を抜けて試合場へと入っていった。
「入るぞ」
 鮫島は言うや否や試合場へと向かい扉を開ける。すると十匹近い犬が場内を走り回り選手や観客を襲っている。その中には名護雄一の姿もあった。
「三兄妹を見てきます」
 根間は階段へと足を向ける。だが鮫島がそれを止めた。
「事態が変わった。まずは全ての人を外に出す事に集中しろ」
「しかしそれでは逃げられる可能性も」
「死者を出したいのか。犠牲者の家族に別に追ってる事件があったと説明して回るのか。俺は絶対に付き合わんぞ」
 鬼の形相で鮫島が叱り飛ばす。そう言われながらも根間は本当に名護兄妹を無視していいのか、判断ができなかった。
 

前回のシナリオを見る


リプレイ本文

「タイミングは鮫島さん達にお任せします」
 扉の前で待機しながら藍那湊(jc0170)は鮫島と根間に言葉を掛けながら呼吸を整えた。隣では向坂 玲治(ja6214)、ラファル A ユーティライネン(jb4620)が建物の周囲を眺めている。閉められた扉の先からは怒号とも悲鳴とも取れる阿鼻叫喚の叫び声が聞こえてきていた。
「開けた瞬間に突撃ってことでいいんだよな」
 ラファルがスフェニスクスキャップを被りなおす。
「五人で二百人救助たぁ、なかなかヘビーな任務だな、おい」
 ラファルは建物を見上げた。佐藤 としお(ja2489)が屋上からラぺリングで突入できそうな場所を探している。しかし未だに見つからないのか、佐藤の動きには焦りが見られていた。そしてその横を緋打石(jb5225)が物質透過ですり抜けていく。
「まあ、俺達にかかればお茶の子さいさいだけれどよぉ」
「頼りにしてるぜ」
 テンション高めなラファルに向坂は煽てる。だが同時に向坂の言葉は自分に向けての言葉でもあった。五人で二百人を助ける。机上の計算を言えば、結果は難しい以外の結論は出ない。それだけ厄介な任務を自分達がやろうとしている事を向坂は自覚していた。だが不思議と不可能という気分ではない。
 何とかなるのではないか。根拠として人に説明できるようなものは無かったが、不思議と自信があった。そう思わせるだけの空気を向坂は感じていた。ラファルにも藍那にも顔に悲壮感はない。ただ藍那のアホ毛が風に吹かれているのか、微かに震えている。
 やがて佐藤がロープ伝いに地上まで降りてくる。
「入れませんね」
 不慣れな手つきで佐藤は命綱を取り外した。
「二階の窓も鉄格子が入っています。物質透過なしでは通り抜けられません」
 自分の案が失敗したためか佐藤は首を振っている。だが藍那は全く別の考えをしていた。
「しかしこれで犬が二階に行っても、窓から抜け出す事は無さそうですね」
「そういうことになるな」
 参加者達の計画では妹を体育館上部へと逃がす手筈になっている。誰が逃がすか明確な人選はされていないが、二階の安全性を保つ事は急務だった。しかし人手が足りない中で全ての場所に目を配るわけにはいかない。死角になる可能性の高い二階で、犬にとっても逃げ道が無いというのは決して悪い話ではない。藍那はそう考えていた。
「行くぞ」
 鮫島が話しかける。その言葉に四人はそれぞれ戦闘体制に移行した。

 四人が体育館へと入る頃、緋打石は一足早く中に潜入していた。犬の数は十、それぞれの位置を把握する。どの犬と対峙するのか、そして火遁・火蛇を最大限に利用できる配置はどこなのか、それを見つけるためである。だが全ての犬の居場所を確認し、緋打石は自分の読みが甘かった事を認識させられた。敵の方が動きが早かったからである。今回の救助目標の一つである妹には、まだ犬の攻撃範囲には届いていない。しかし十匹の犬は全て逃げ遅れている一般人に標的を定めて拡散、接近を果たしていたのである。火遁・火蛇の範囲では複数の対象を同時に巻き込む事は難しかった。
「これで勝ったと思うなよ、犬共?!」
 気合を入れなおし、緋打石は左手にいる犬を対象に定めた。四人が入ってくる右手の入口からは届きにくいと見えた一匹である。そして間合いを詰めると同時に飛燕翔扇を投げつける。狙いは首筋。犬の気を引くと同時に、犬の一般人に対する攻撃意思を挫くためである。
「犬どもどうしたぁ?!こっちを何とかしないと死ぬぞ?!」
 緋打石は大音声で叫んだ。彼女の手を離れた扇子は的確に犬の顎を破壊する。不意をつかれた犬は横からの衝撃に転倒。そしてその隙に緋打石は、ブーメランのように手元へと帰ってきた扇子を掴み取る。
「一匹たりとも逃がしてやらないからな?! 覚悟しろ?!」
 緋打石はそのまま標的を帰る事無く傷ついた犬に直進する。そして彼女に遅れる事数秒、建物右手から音が響く。直感的に緋打石はその音が四人に突入音だと悟った。だが彼女は音源を確認しない。目の前まで迫る犬が立ち上がり、緋打石を睨んでいたからである。目を離せばやられる。それだけの意思を彼女は犬から感じ取っていた。
 
 一方、突入を果たした四人はそれぞれ最速と思われる手段で人の波を掻き分けていた。これまで入口が閉じられていた事もあって、右手側に人垣は形成されていなかった。お陰で四人は第一歩目で十分な距離を稼ぐ。しかし次の瞬間には人垣の動きが変化した。誰が気付いたのか、右手に群がっていた群衆が一斉に出入り口目掛けて移動を開始したのである。
「飲み込まれるなよ」
 正面から迫る黒山に対し、ラファルは迂回する方法を選択した。 壁走りを使ってスペースのある天井を駆け抜けて行ったのである。藍那も遅れまいと磁場形成で一時的な速力を稼ぐ。しかし佐藤と向坂は逆流する人の流れを直撃を受けた。
「先に行け。俺達も急ぐ」
 人の波に流されそうになりながらも、向坂は自分の進む道を見定めていた。速力こそは落としながらも確実に体育館の中心へと向かっていく。そして佐藤は歩を進めながら、天井との合間にスレイプニルの召喚に成功した。召喚獣に群集の殿を守らせ、時間を稼ぐためである。専守防衛を任じられた馬竜は虚空に漂いながら身を丸める。その様子に何事かと立ち止まった一般人の姿もあったが、彼らも人の流れと共に出入り口へと流されていった。
「とりあえず抜けたな」
 怒涛の人垣の直撃を受けながらも、佐藤と向坂は運動スペース前でようやく人の流れを脱出する。だが彼らに心の休まる時間は無かった。既に目の前に犬が一匹迫っていたのである。
「スレイプニル、ここを頼む。その犬を通すな」
 佐藤は自分の召喚獣に犬の相手を命じた。そして佐藤自身はそのまま運動スペースへと入っていく。
「こんな時じゃなければ、動物同士の戦いも一興なんだがな」
 敵が迫っている事を間近に見て、向坂は追い込まれている事を実感する。だがそんな状況とは反対に、彼の口元は緩んでいた。

 群集を先頭で抜けたラファルがまず確認したのは妹の所在だった。事前情報では体育館の中央付近と聞いていたが、刻一刻と変化していく情勢の中で一定であるとは限らない。その変化を何より象徴していたのは無残に食い散らされた一般人の死体であった。
 長男の死は知らされていたラファルだが、目に見える死体の数は十を数える。明らかに数が合わなかった。既に何人か追加で犠牲者が出た事になる。自分達が入口で時間が掛かった事をラファルは認めていた。しかし彼はそれを踏まえた上でも動き出しの早い敵を相手に、喜びに近い感情を抑えきれずにいた。
「差し迫ってきたなぁ」
 壁走り効果を最大限に活かすためにも、ラファルは天井を走り抜ける。そして遂に妹の位置を確認した。場所はほぼ変わらない。体育館のほぼ中央で足を押さえながら蹲っている。問題はその傍二メートルの距離まで犬が接近していた事である。その脇には既に息絶えた一般人の躯が横たわっている。
 ラファルは自分と犬の位置関係を調整しつつ、天井から足を離した。天狼牙突を脇に構え、そのまま犬の胴体を狙う。串刺しする予定だった。だがこの大きすぎる動きは犬に察知される。落下点を予測した犬はすぐさま場所を移動。そして落下中のラファルに対して牙を剥けて来たのである。
「やるじゃねーか」
 ラファルは身を翻しながら、犬の攻撃を刀でいなした。そして犬の攻撃の反動を利用し、妹と犬との間に着地を果たしたのである。

 同じ頃、藍那は緋打石が館内にいる事を確認した上で阻霊符を使用していた。天魔である犬が透過能力を使って逃亡する事を避けるためである。その横を佐藤が通り抜ける。向かうは左側の出入口、緋打石が一人で孤軍奮闘している場所への援軍だった。犬はそれほど知能が高くは無いのか、手薄である左手へと流れたのは三匹しかいない。しかしそれでも緋打石一人では手が足りていなかった。
 他のものへと目もくれず、佐藤は運動スペースを横断する。だがこの行動が犬の動きに変化をもたらした。犬が一匹、佐藤を追いかけ始めたのである。これは佐藤にとっても予定外だった。援軍として向かうはずだったが、自分が敵を引きつけていては本末転倒となる。仕方なく佐藤は足を止める。そして犬の動きを封じるべく対峙した。

 場は硬直した。ラファルは目の前の犬に攻撃を仕掛けるも、相性が悪いのかことごとく回避される。犬の反撃を封じ、妹の無事を確保という意味では成功している。だがラファルが突入前に考えていたのは、華麗且つスタイリーッシュに追い散らすという自分の姿であるはずだった。犬一匹に悪戦苦闘するのはラファル自身にとってさえ予想外の出来事だった。
 緋打石は自分の攻撃力不足を悔やんでいた。敵を一撃で死に追い込めない。重傷を負わせるには十分な威力をもった彼女の一撃ではあったが、これが逆に不幸をもたらしていた。身の危険を感じた犬が逃亡に転じるためである。逃げ出した犬を追いかけなければならないという手間が必要になる。阻霊符のおかげで犬は壁から逃げ出す事はない。それは救いではあった。だが全力で逃亡を試みる犬を追いかけるためには、緋打石も全力で追う必要がある。
 逃げ惑う人々を藍那は一人一人宥めて、蒼の翼で二階へと逃がす。見える範囲での人の数は明らかに減っていた。時間稼ぎという意味では順調と言えるかもしれない。しかし残っている人の中には、死体となったものが増えていた。藍那の助けもあり一時的に姿を隠している人もいるが、怪我をしている人の数も少なくない。
「俺達が引き付けます、なるべく目立たないように潜んでいて」
 繰り返す自分の言葉に、藍那は自信は揺らぎ始めていた。

 犠牲者が増えていく。喜ばしくない状況を大きく動かすべく、向坂は運動スペース中央へと陣取った。そして仁王立ちし、全ての犬の標的となるべくタウントを使用。一般人を追い回していた犬の注目を一気に集める。これは危険な賭けだった。犬の攻撃力は不明。全ての攻撃を受ければ、どれだけの被害を受けるか分からない。だがこの状況を打破するために、向坂の意思は揺るがなかった。
「犬っころども! 俺がまとめて相手してやる。かかってこい」
 エペイストシールドを床に刺し、身を屈めて向坂は防御の構えをとった。そこに群れを成した犬の集団が前後左右構わず襲い掛かる。幸い犬の攻撃は軽かった。だが間断なく攻撃をしかけてくる犬に向坂も手を出せない。少しずつだが向坂の生命力は削られていった。
 一見したら苦戦。だがこの状況に緋打石は天啓を得た。彼女の持つスキル火遁・火蛇なら向坂を囲む犬を一掃出来るかもしれないというものである。識別すれば向坂も対象から外せるはずだった。
「私の炎を篤と味わえ」
 緋打石はアウルの力で呼び出した炎を犬に向けて放射する。対象は付近の犬全て。烈火の如く燃え上がる業火は一瞬にして犬を炭へと変貌させる。やがて消えた炎の跡に残ったのは、大量の犬の死体と緋打石に対して親指を立てる向坂の姿だった。
 その後は掃討戦だった。残った天魔は攻勢に転じた参加者によって屠られる。そして各自手当てへと移行した。しかし今回の一件で亡くなった人の数は二十二に昇る。顔に白い布を掛けられて人が担架で運ばれる度に参加者達は複雑な表情で見送っていた。

「一つ聞きたい」
 事後処理に終わりが見え始めた頃、鮫島がラファルに話しかけた。
「根間は君達に何か頼んだか」
「いいや」
 ラファルは即答した。
「俺達は自分達がやるべき事を最大限やっただけだぜ」
 ラファルは鮫島が妹に関して聞きたいのだろうと想像がついていた。偽歩美の救助は根間の独断であり、鮫島との考えとは異なる。それを踏まえた上でラファルは笑いながら否定する。その様子を向坂は少し離れた所から眺めていた。
「何か不満でもあるのかい」
 今度はラファルが逆に尋ねた。
「俺達も成長中の身だ。指摘があるなら聞くぜ」
 不穏な空気を感じたのか、他の参加者達も鮫島の周りに集まっている。そこで遂に鮫島は本音を口にした。
「何故歩美を助けた。彼女に構わなければ、もっと多くの人が助けられたはずだ」
「それはそうかも知れませんが」
 藍那は言葉を濁した。犠牲者の数は彼女の頭の中にも入っている。そして親族と思われる人が外へ運び出された遺体に縋る様子も目の当たりにしていた。言葉がでない。だが反面、自分達がやった行動が間違いだとも思っていなかった。
「ではどうすれば良かったと」
 佐藤が尋ねる。
「怪我人は見捨てる、犯罪者は見捨てる、それはヒーローにはあってはならない考えでしょう」
 佐藤は独自の主人公論を展開する。しかしこの言葉が鮫島の中にある何らかのスイッチを押した。
「夢物語を口にするな。実際に人が死んでいるんだ。お前達も見ているんだろう」
 一気に空気が冷えた。遠くで偽歩美と話をしている根間でさえ心配そうに参加者達を見ている。その中で一人、向坂は冷静に事実だけを見つめる。そして冥魔認識を活性化させた。前回三兄妹には使用したが、鮫島と根間には使っていない事を思い出したからである。
「あの女は恐らく天魔だ。犬に襲われた程度で命を失う事はない。後回しでよかったんだ」
 鮫島は弁舌を振るう。その傍らで向坂は小さく首を振った。鮫島の判定結果が冥魔と出たからである。
「盛り上がっているところ済まないが、一つ提案がある。逃げた次男の捜索に手伝いたい」
 向坂は鮫島に近付き、話題転換を試みた。
「それは自分も考えていたことじゃ」
 緋打石も向坂の提案に乗る。これには鮫島も反論しなかった。

 その後、個々に散開する参加者達の中で向坂は鮫島の後をつける。向かった先は一ヶ月前に向かった名護家の近くの山の中だった。
「犬狩りのあったとかいう山じゃないのか」
 迷う様子も無く進む鮫島に、向坂は警戒レベルを更に一つ上げる。山に入って十五分、鮫島はやがて一つの岩の前に腰を下ろした。
「忘れていてすまなかったな。だが約束の形見見つけてきてやったぞ」
 向坂が鮫島の背中越しに見たのは、一ヶ月前に見た黒犬の毛だった。



依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 崩れずの光翼・向坂 玲治(ja6214)
 新たなる風、巻き起こす翼・緋打石(jb5225)
重体: −
面白かった!:4人

ラーメン王・
佐藤 としお(ja2489)

卒業 男 インフィルトレイター
崩れずの光翼・
向坂 玲治(ja6214)

卒業 男 ディバインナイト
ペンギン帽子の・
ラファル A ユーティライネン(jb4620)

卒業 女 鬼道忍軍
新たなる風、巻き起こす翼・
緋打石(jb5225)

卒業 女 鬼道忍軍
蒼色の情熱・
大空 湊(jc0170)

大学部2年5組 男 アカシックレコーダー:タイプA