.


マスター:漆原カイナ
シナリオ形態:シリーズ
難易度:難しい
形態:
参加人数:8人
サポート:5人
リプレイ完成日時:2013/10/30


みんなの思い出



オープニング


 
 ――ディゴルド撃退より一時間後――
 
「おかえりなさいよぉ。ディゴルド。で、早速成果のほどを聞かせて頂戴」
 廃屋となったとある屋敷。
 玄関でディゴルドを出迎えたのは彼の主人にあたる存在。
 前髪をヘアピンで頭頂部に留めた少女――英理加だ。
 
 それに対し、ディゴルドは恭しく一礼する。
「上々ですよ、我が主。いわば『下味』にあたる恐怖はしっかりと植えつけてあります。後は味が熟成されるように、その恐怖が最大限となるのを待てばよろしいかと」
 そう切り出し、詳細を報告していくディゴルド。
 報告する彼の口調は淀みない。
 やはり報告し易い内容だからだろうか。
 
 報告を聞く英理加も上機嫌だ。
 ご機嫌な様子で何度む頷く英理加。
 
 だが、しばらくしてディゴルドはどこか難しい顔になる。
 配下の変化を敏感に察した英理加は、すかさず問いかけた。
「どうかしたのかしらぁ? 何かあるなら言ってくれて良いのよぉ」
 
 どうみても年端もいかぬ少女の外見と声。
 それとは裏腹に円熟した女性の艶やかさを感じさせる口調。
 英理加の不可思議な喋り方は相変わらずだ。
 それでも、いつも以上に柔らかさや余裕が感じられるのは、やはり機嫌が良いからだろう。
 
 一方、ディゴルドはしばし躊躇った後、意を決したように口を開く。
「怖れながら。主より賜りましたこの剣――」
 一拍の間を置き、腰に帯びている蛇腹剣を外すディゴルド。
 そのまま彼は、まるで献上するような動作で蛇腹剣を主へと見せる。

「――撃退士どもが思いの外しぶとく。誠に遺憾ながら、刃と線に痛みが……」
 先程とは打って変わって言い淀むディゴルド。
 たとえ相手が主人とはいえ、彼にしては珍しい。
 今の彼の様子は、いつも自信たっぷりに他者を見下すような態度とは違い、些かの焦りや怖れすら垣間見えている。

 英理加は彼が言わんとしていることを薄々察したのか、先回りするように言う。
「修復、してほしいんでしょぉ?」
 その問いかけにディゴルドは躊躇いがちに、そしてゆっくりと頷く。
 
「いいわぁ。ちょっと待ってなさいよぉ」
 当の英理加は、ディゴルドの心配とは裏腹に機嫌を損ねた様子はない。
 相変わらずの上機嫌のまま、彼の手から蛇腹剣を受け取る英理加。
 彼女はそのまま奥の部屋へと続くドアに手をかける。
 
「……」
 緊張の面持ちのまま、直立不動の姿勢を取るディゴルド。
 そんな彼に向け、英理加はふと振り返った。
「そうそう。アンタの言う通り、恐怖が最大になるまで――『熟成』を待たないといけないものぉ。それまでアンタは休んでていいわぁ。ゆっくりしてなさぁい」
 ドアノブに手をかけたまま、気軽な調子で言う英理加。
 対するディゴルドは、ただただ深々と一礼するのみだった。
 

 
 ――同日 数時間後――
 
「……」
 亜由香の入院している病院。
 その廊下に立ち、陽太は集中治療室をじっと見つめていた。
 ガラス張りの壁越しに見える室内には、先程新たに運び込まれた患者が四人並んでいる。
 彼等は陽太を守るべくディゴルドと戦い、そして深手を負った者達だ。
 戦った撃退士は八人。
 全員が重傷を負い、この四人に至っては重体にまで陥った。
 しかも、うち三名は意識不明という状況だ。
 
 常人よりも遥かに回復力の高い撃退士。
 ゆえに、一日か二日もすれば三人が意識を取り戻す可能性も多いにある。
 残る五人に関しても、いかに重傷とはいえ彼等は撃退士。
 それほど時間をかけずに彼等の傷も快復するだろう。
 彼等を診た医者の見解はそうだ。
 だがその医者は、100パーセントそうだとは言い切れないとも付け加えた。
 その一言が陽太を不安にさせる。
 
 陽太とて、撃退士達の復活を信じていないわけではない。
 撃退士は絶対に立ち上がる。
 それが撃退士。
 自分にとっての最高のヒーロー。
 陽太は誰よりもそう信じているのだ。
 
 しかしながら、そう信じているからこその恐怖もある。
 
 もし、このまま三人が目を覚まさなかったら。
 あるいは、残る五人の傷も治らないうちにあの敵が再び襲ってきたら。
 そして、自分にとってのヒーロー……撃退士が完全に負けてしまったら。
 
 その時は自分もあの天魔によって魂を奪われることになる。
 最大まで恐怖し、絶望する中で天魔によって殺される――。
 
 まさにその瞬間を想像した陽太。
 彼は不意に自分の手足から力が抜けていくのを感じた。
 自分の意思とは裏腹に、立っていることができない陽太。
 そのまま彼は廊下にへたり込んでしまう。
 次いで口が震えだし、歯がカタカタとなって音を立てる。
 歯の鳴る音が静かな廊下に響き渡る中、しばらくへたり込む陽太。
 
 ややあって落ち着きを取り戻した陽太は、必死の思いで立ち上がる。
 そして彼は、再び集中治療室を見つめ始めたのだった。
 

 
 ――二日後――
 
「さぁて、そろそろよねぇ」
 英理加は恍惚の表情でそう呟いた。
 目はとろんとしており、身体は小刻みに震えている。
 どうやら今の彼女は相当に『ゾクゾクしている』らしい。
 
 英理加は自分の斜め後ろへと向き直る。
「ディゴルド、準備はできてるわよねぇ?」
 視線の先には、直立不動の姿勢で控えるディゴルドの姿。
 彼はいつものように恭しく一礼する。
 
「もちろんでございます。我が主」
 その返事で更に機嫌を良くしたのか、英理加は妖艶な笑みを浮かべる。
「ふふ。良いじゃないのぉ。アンタから頼まれたコレ、直しておいたわぁ」
 艶やかな笑みを浮かべたまま英理加は蛇腹剣を右手で掲げてみせる。

「感謝致します。我が主」
 ディゴルドはその場にひざまずくと、やはり恭しく蛇腹剣を受け取る。
 しっかりと受け取った後、しばしその姿勢を維持するディゴルド。
 やがてゆっくりと立ち上がったディゴルドは、躊躇いがちに英理加を見つめる。
 
「何かあるのかしらぁ? 遠慮しないで言ってくれていいのよぉ」
 するとディゴルドは逡巡した後、意を決したように口を開いた。
 
「今回の手筈ですが、提案したいことが……」
 その申し出に対して英理加は僅かに意外そうな顔をしたものの、表情をすぐに艶やかな笑みに戻す。
「いいわよぉ。言ってみなさいよぉ」
 再び一礼し、ディゴルドは語り始めた。
 
「標的ですが、かの少年だけではなく――過日の戦いで傷を負わせた撃退士達も含めてはいかがでしょう?」
 一度頷いた英理加に目線で先を促されたディゴルドは、そのまま二の句を継いだ。
「一人一人完全に息の根を止めていけば、かの少年が味わう恐怖は更に増大します。今の所、かの少年は『撃退士達が一度倒されたものの、まだ死んではない』という事実に希望を見出している可能性があります。ならばそれを逆利用し、より効率的に魂を『味付け』できるのではないかと」
 
 緊張してはいるものの、淀みなく語るディゴルド。
 聞き終えた英理加は更に機嫌を良くした様子で手を叩いた。
「ディゴルド! やっぱりアンタは最高だわぁ! よぉくわかってるじゃないのぉ!」
 そしてディゴルドは、以前と同じく満足そうに一礼するのだった。
 
 最後にもう一度だけ恭しく一礼すると、ディゴルドは屋敷の玄関を開ける。
 そのまま彼は、屋敷の外へと一歩を踏み出した。
 
 再び動く敵。
 これから始まるのは、一人の少年の魂を守る為の戦い。
 果たして撃退士たちは少年の魂を守ることができるのか――。

前回のシナリオを見る


リプレイ本文

●ディゴルド撃退より二日後 10:17 足立区 某病院

「……」
 雫石 恭弥(jb4929)は痛ましげに黙り込むことしかできなかった。

 阿岳 恭司(ja6451)と御空 誓(jb6197)の病室。
 見舞いに訪れた恭弥と日下部 司(jb5638)は、傷だらけの姿で寝かされている恭司と誓を見つめる。
 当面の危機は脱し、一般病棟に移されたものの。
 恭司と誓は未だ意識不明だ。
 
「結局、俺には何も守れないのかな」
 司はかろうじて呟くも、その顔も声も精彩を欠いている。
 
 ベッドサイドに座る與那城 麻耶(ja0250)は二人の来室に気付いて手を止めた。
 針と糸、布をサイドテーブルに置く麻耶。
 麻耶が置いたのは、前回の戦いで破けた恭司のマスクだ。
 その隣には陽太も座っている。
 
「二人とも、来てくれたんだ」
 
 麻耶は折りたたんであったパイプ椅子を出してくれる。
 司がそれを受け取る横で、恭弥は堪らなくなって声を漏らした。
「本当なら……俺はここにお見舞いに来る資格なんてないんです……」
「恭弥君……」
「あんな大事な所で俺が臆病風に吹かれてなければ……アイツを倒せなかったとしても、せめて先輩や誓がこんなことにはならなかったかもしれないのに……」
 
 陽太もぽつりとこぼす。
「誰かのせいだっていうなら……間違いなく俺のせいです……俺が天魔に目を付けられたばっかりに……」
 
 そんな二人の肩に手を置くと、麻耶はもう一度微笑んでみせた。
「大丈夫、チャンコマンは絶対復活するから!」
 だが、続く言葉は声にならない。
(……だよね? せんぱい?)
 
 麻耶から恭司、誓と順繰りに視線をめぐらせる恭弥。
「俺……もし二人の意識が戻ってたら聞いてみようと思ったんです。「誓は……死ぬのが怖くないのか?」、 「阿岳先輩…『ヒーロー』ってなんだと思いますか?」――って」
「あの、さ……きっと、せんぱいなら、「待っている人が一人でもいるなら、いつだろうと何度だろうと立ち上がれる――それが『ヒーロー』たい」って言うと思う、かな」
 恭司を見つめながら、ぽつりぽつりと言う麻耶。

 麻耶が言い終えると、今度は司が恭弥に声をかけた。
「……気持ちを切り替えるんです、俺達はまだ誰も死んでいない。今自分に出来ることに全力で取り組むしかないんだ。陽太君や亜由香ちゃんの為に」
 
「日下部……」
 自分に向き直る恭弥に向け、司は更に深く頷く。
「聞いてください。あの戦いからずっと、引っ掛かっていたことがあって――」
 作戦を語る司。
 それが一段落すると、陽太が立ち上がった。
「……俺、これからやらないといけないことがあるんです。俺は俺にできることを、って……誓さんが教えてくれたから」
 陽太に司と恭弥が柔らかく微笑みかける。
「わかった。ならその間、俺達が守る」
「おう。ただその前に、ちょっと寄る所があるんだけど……いいか?」

●同日 10:50 病棟内
 
「恭弥くん、来てくれたんだー!」
 恭弥の来室に気付き、高瀬 里桜(ja0394)は声を上げた。
 一足先に一般病棟に移れたものの、やはり彼女もまだ傷だらけだ。
 
 明るく振舞おうとする里桜。
 だから恭弥もあえて笑顔を作る。
「里桜先輩……」
 
 里桜はやおら身体を起こそうとする。
「里桜先輩!?」
 慌てて駆け寄り、里桜を支える恭弥。
「何やってるんですか! まだ脚の骨もくっついてないのに!」
「何って、ドーナッツを買いに。怪我より甘味不足の方が危険なのだ!」

 里桜は更に明るくおどけてみせる。
「えーっと、私甘い物が食べたいなー!  ショートケーキとか、シュークリームとか! 怪我なんて甘味たべれば一瞬で治っちゃうしー!」
 苦笑したまま、恭弥は里桜の前に紙袋と紙箱を掲げた。
「まったく……そう言うと思って、買ってきてありますよ。先輩が好きそうなの、片っ端から」
 
 里桜の表情がぱあっと明るくなる。
「さっすがー! 恭弥くん、デキる後輩だね!」
 やああって、恭弥は真剣な顔で問いかけた。
「里桜先輩、諦めたいって思ったことは無いんですか?」
「――あるよ。でもね、諦めた方が後でもっと怖いし痛いし、きっとつらい……結局いつもそう思って、諦めるのをやめちゃうんだ。損な性格なのか得な性格かのかはわからないけどね」
 そして、里桜の話が終わると恭弥は立ち上がった。
「もう行っちゃうの?」
「はい。もう用は済んだので。最後に里桜先輩に今のことを聞いて、ちゃんとごめんなさいとありがとうを言っておきたかったから――里桜先輩、カッコ悪い所見せてごめんなさい。それと、目を覚まさせてくれてありがとうございました」
 深々と頭を下げると、恭弥は病室を出る。

 病室の外で待っていた司と目が合うなり、恭弥は問いかけられる。
「いいんですか?」
「ああ。いいんだ」
 恭弥の目は既に、決意を固めた者の目だった。
 
●同時刻 病棟内
 
「相変わらず無茶ばかりしているようだな。まあでも、ひとまず命が助かって良かった」
 見舞いに訪れた鳳 静矢(ja3856)はベッド上の皇 夜空(ja7624)に向けて言った。
「うむ……」
 静矢は彼から横方向――ベッドサイドに立っている如月佳耶(jz0057)に目線を移す。
「あまり彼女に心配をかけるな」
「う、うむ……」
「さて、私は敵の襲撃に備えて外で張っているとしよう。できることなら、ただ見舞いだけに来たかったが。これも致し方あるまい」
 夜空と佳耶を気遣ってか、静矢は病室を出る。
 
 静矢の気遣いで二人きりになったものの。
 照れているのか、しばし無言で過ごす二人。
 先に口を開いたのは佳耶だった。

「夜空さんの命が助かって良かった……本当にそう思うっスよ!」
 次いで佳耶は一枚の写真を取り出す。
 一昨日、夜空が陽太に見せたのと同じものだ。
「これは写真のモデルってことでっスけど……いつかは、その……本当になればいいなぁ……とか……思って、たり……?」
 恥ずかしくなったのか、ごまかす為に佳耶はいそいそと片付けを始める。
「さっき言ったことの為にも、これ以上の無茶はしないでくださいっスよ」
「わかった。もうこれ以上、無茶はしない」

 だが、言ったそばから、夜空は起き上がろうとする。
「夜空さんっ!」
「む……煙草を買いに行くだけだ。一日半以上禁煙していたせいで――」
「あたしが買ってきますっス! 確か、自販機が一階に」
「いや……イタリアの煙草でな。輸入物だから、そこらの自販機には入っていない。あるとすれば煙草屋だ」
「なら商店街にあったっスね! 買ってきますっスから、夜空さんはちゃんと寝ててくださいっスよ!」
 銘柄をメモし、病室を出る佳耶。
 しばらくして夜空は起き上がった。
 
「できればこんなことはしたくなかったが。誰かではないが、これも致し方あるまい――か」
 そこに静矢が入ってくる。
「良い子じゃないか。本当にいいのか?」
「佳耶なら、わかってくれている――さ」
 確信に満ちた所作で病室のロッカーを開ける夜空。
 
 中に入っていたのは、綺麗に洗濯された僧衣と夜空愛用のヒヒイロカネ。
 そして、一枚の写真と手紙だった。
 
『さっき言ったこと忘れないように持って行ってくださいっス。でも、データじゃなくて印刷したのをもらった写真なので、何枚も印刷ってワケにもいかないっス。だから、ちゃんと返してくださいっスよ』
 
 写真と手紙を大事そうに懐へとしまう夜空。
 彼に静矢が問う。
「行くか」
「――ああ」

●???
 
 昏睡状態で誓は夢を見ていた。
 彼の置かれた状況は、かつてサーバントに襲われた時と場所。
 だが、その瞬間に差し掛かってもサーバントは現れない。
 自分も幼馴染も無事であり、そもそも天魔も撃退士もいない。
 今、彼がいるのはそんな世界だ。
 
 幾度となく取り戻したいと思った。
 同時に、もう戻らないものだとも思った。
 ――『いつも通りの日常』。
 ここには、誓が取り戻したかったものが確かにある。
 
●同日 11:30 駐車場
 
「そういや、陽太の用事って何なんだ?」
「きっと、探し物か何かでしょうか……? あんなに必死で探しているということは、相当に大切なもののようですけど」
 病院の駐車場で恭弥と司は言葉を交わす。
 
 陽太はというと、下を向いて駐車場を歩き回ったかと思えば、停まっている車の後ろ下を覗き込んでいる。
 かと思えば、今度は植え込みをかき分けたりと忙しい。
 すると、二人の会話を耳にしたのか、陽太が答えた。
 
「見つけないといけないんです……誓さんの、大切なものだから」
 恭弥と司は顔を見合わせると、同時に頷く。
「よし、なら俺達も手伝うぜ」
「何を探してるのか教えてくれないか?」
「恭弥さん、司さん……」
 彼が表情を僅かに明るくした時だった。
「――随分と不用心な方だ。たった二人だけの護衛。それもハリボテと臆病者とはこれはまた笑いを誘う人選ですね」
 
 余裕綽々で相手を見下したような口調。
 それで三人には声の主がすぐにわかった。
 
「「ディゴルド!」」
 恭弥と司の怒声が重なる。
 二人は陽太を庇うように素早く彼の前へと飛び出した。
 
 ディゴルドは相変わらずの余裕だ。
 敢えて見せつけるように蛇腹剣を抜き放つと、切っ先を陽太へと突きつける。
 
「ハリボテに臆病者……既に『折った』相手をいたぶった所で面白味にかけますが。邪魔するというのなら、今頃寝ているあの四人のように立てなくして差し上げ――」
 手首を軽くスナップさせ、ディゴルドが蛇腹剣を振るおうとした瞬間。
 彼の言葉に、若い男の声が割り込む。
 
「聞かせてもらいたいものだな。誰が寝ていて、誰が立てないのかを」
 声の主は怪我をおして立つ夜空だ。
 隣には静矢もいる。
 
 声の主を確認し、ディゴルドは些かの驚きを見せた。
「ほう――! どうやら貴方も私と同じく化け物のようだ」
「人間の証はただ一つ。己の「意思」だ。他者を虐げ続けなければ生きていけんような哀れな化物と。貴様のようなか弱い物と一緒にするな。俺は『人間』だ――魂の、心の! 意思の生き物だッ!」
「面白い。なら、人間らしく恐怖を感じながら、せいぜい良い声で泣いてください」
「世界は全て電気仕掛け 。貴様が言う恐怖という感情もまた、電気仕掛けにしか過ぎん。言葉は混沌の様な物。ぐちゃぐちゃにされた世界が、混沌が『俺』を形作った。俺は俺としての形に戻り、世界は世界としての形に戻る。俺は、俺だ」
 魔具をディゴルドに向け、夜空はそう宣言する。

 それに対する返答に代えるように、蛇腹剣が振るわれるまさにその瞬間。
 横合いから叩き込まれた飛び蹴りがそれを阻害した。
 咄嗟に腕でガードするディゴルド。
 一方、飛び蹴りを放った乱入者――麻耶は難なく着地すると、ディゴルドを睨みつける。
 
(ごめんなさい、せんぱい。今回の私はレスラーではなく、撃退士として臨みますね……)
 ただ胸中だけに呟く麻耶。
「おまえの様なクズ、撃退士としてきっちり葬ってあげるよ」
「いいですねぇ。ならば、今回もセメントマッチといきましょうか」
「ディゴルド、敢えてこの言葉を使わせてもらうよ……たっぴらかす!」
「生憎、方言には詳しくないもので。まあいいでしょう。前回、あれだけ醜態を晒した方ばかりで何ができるか見ものですよ」
 
 見下した態度を崩さないディゴルドを断ずるように、静矢の声が響く。
「私を忘れてもらっては困るな。にしても、病院を襲うとは良い趣味をしている」
「ええ。良い趣味だと自負しております。なにせ、いたぶり甲斐が違う」
 
 静矢は愛刀の朧を抜き放った。
 彼は間髪入れず必殺技の紫鳳翔を放ちにかかる――が、それよりもディゴルドの刃がコンマ数秒の差で速い。
 
 咄嗟に身体を傾けて回避する静矢。
 しかし、蛇腹剣はまるで自らの意思を持つように方向転換し、回避したはずの静矢を斬り裂く。
「ぐっ……」
 蛇腹剣は静矢を斬った反動を勢いに変えて次なる標的へと襲いかかる。
 次なる標的は彼の後方――陽太だ。
「させるか……!」
 相手の狙いを察した静矢は身を挺して陽太を庇った。
 おかげで陽太は無事だが、静矢は深手を負う。
 
 一方、蛇腹剣は静矢に直撃した勢いに乗ってまた次なる標的――司へと飛んだ。 
 司はアウルを込めた盾を構えて蛇腹剣の防御を試みる。
「ッ!」
 前回の経験があるからだろう。
 なんとか司は一撃目の防御に成功する。
 しかし、静矢の時と同じく、反動を利用した二撃目が防御を掻い潜り司を斬り伏せる。
 
 蛇腹剣は更に勢いを増し、夜空、麻耶、そして恭弥をも斬り伏せていく――。
「その牙は少々厄介だな……!」
 力を振り絞って立ち上がると、再度、紫鳳翔を放つ静矢。
「貴方には申しておりませんでしたね――私の剣は攻防一体であると」
 振り抜いた朧より放たれる、大きな鳥の形をした紫色のアウルの塊。
 すると蛇腹剣はすぐに軌道を修正、アウルの塊を斬り払った。

 今度は司達が動いた。
 司の弓と麻耶のアウルの刃が、ディゴルドへと飛んだ。
 それらも難なく切り払うディゴルド。
 だが、その隙を狙うようにして大剣を構えた夜空と恭弥が斬りかかる。
 遠近同時の波状攻撃。
 危なげなくそれらも斬り払って防ぐと、ディゴルドは一気に攻勢へと転じた。
 攻撃の度に刀身が跳ねるのを利用して勢いと威力を高めながら、彼は次々に撃退士達を斬り伏せた。
 
 圧倒的な実力差による一方的な暴力。
 あたかも前回を再現するかのような戦況の中、撃退士達は文字通り斬り伏せられて立ち上がれずにいた。
 
「……」
 度重なるダメージで動けないながらも、麻耶は必死に顔を上げようとする。
「そうそう。殺す前に聞かせてもらいましょう。『たっぴらかす』とは一体どのような意味で?」
 問いかける口調こそ穏やかだが、伸びた刀身は容赦なく麻耶に叩き付けられる――。
 
「『たっぴらかす』とは、叩きのめすという意味だ――こんな風にな!」
 刀身が麻耶に炸裂する寸前、何者かの拳がそれを殴り飛ばす。
 凄まじい剛力で殴ったのと、不意を突く形だったのが功を奏したのだろう。
 跳ねかえった刀身はディゴルドの頬に炸裂し、彼の顔に一筋の傷を刻む。
 
「せん……ぱい……」
 刀身を殴り飛ばしたのは、縫い合わせたツギハギの鍋マスクを着用したチャンコマン。
 もとい恭司だった。
 それだけではない。
 驚愕するディゴルドにアウルの槍が投じられる。
 ディゴルドはすぐさまガードにかかるも、驚愕で狼狽していた所への攻撃だったせいでガードしきれない。
 不意打ちとはいえ、二度の攻撃で叩きのめされディゴルドの身体が大きく傾く。
 
「こんにちはディゴルド。わざわざヒーローにやられに来てくれたの?」
 余裕っぽく振る舞う声。
 見れば、恭司の隣に里桜もいる。
 
「ヒーローが一度負けた相手と再戦すると、もれなく格好良く勝利と言うお約束を知らなかったようだな! ボーナスマッチはこれからだ!」
 


「やってくれますね……!」
 怒りもあらわにディゴルドは更に激しく攻撃を再開する。
 めった打ちにされながらも恭司と里桜はかろうじて耐えているが、いつ倒れてもおかしくはない状況だ。

 そんな状況を見ながら、恭弥は必死に声を絞り出した。
「司……さっき言ってた作戦だけど……」
「まさか……その身体で? 無茶です……! そもそも確証だって……」
「信じるさ。俺と違ってお前もヒーローだ。だから信じられる」
 何かを察した司。
 彼は黙って恭弥の言葉を待つ。
「俺の命、預けたぜ。もし作戦が上手くいったら、後は頼む――」
 それだけ言うと、恭弥は大剣を杖にして立ち上がった。
 遂に倒れる恭司と里桜。
 二人と入れ替わるようにして、恭弥はディゴルドの前に立った。
 
「誰かと思えば臆病者ですか。一度『折った』というのにしぶといのは始末が悪い。今度こそ確実に『折って』差し上げますよ」
「……やってみろよ」
 ディゴルドの返事は鞭状態にした蛇腹剣での一撃だ。
 
 痛烈な一撃を叩き込まれる恭弥。
 だが、彼は倒れない。
 大剣を杖にして立ち続ける。
 対するディゴルドも恭弥を更に打ち据える。
 
「惨めですね!」
 打ち据えながら恭弥を罵倒するディゴルド。
「ああ……そうだよ。大きな口を叩いときながらあっさりうろたえて、女の子が命懸けで無茶してる横で震えてる……。俺はしょうもないダメ男だ。けど、お前のナマクラ剣も大概だな。こんなダメ男一人、未だに殺せてない。しょうもなさで言えば良い勝負だ」
「我が主から賜ったものを侮辱しますか……いいでしょう。たっぷりいたぶって差し上げますよッ!」
 恭弥は更に激しくめった打ちにされるも、大剣にしがみつくようにして頑なに立ち続けた。
「死にたがっているように思えて存外に粘りますね。でもなぜ?」
「俺は……ここまで死別を経験したことはなかったし、そういう話も遠い世界の話としか感じられなかった。でも、皆と話してみて皆はとても死に近いところにいて、それでも前を向いて戦っているんだって実感した」
 恭弥の返答を聞きながらも、ディゴルドは攻撃の手を緩めない。
「俺は…皆を失いたくない。そのためなら戦える。どれだけ痛くても怖くても俺はもう逃げない。俺は……お前と戦ってみせる!」
「訂正しましょう。貴方はまだ『折って』いなかったようだ。ですから、今ここで『折って』差し上げます――」
 とどめの一撃――伸ばした刀身による刺突が放たれる。
 銃弾のような速度で迫るそれは、恭弥の腹を貫いた。
 とどめを刺した余韻に浸るディゴルド。
 だが、その表情からはすぐに驚愕で余裕が消える。
「!?」
 なんと恭弥は貫通した刀身を素手で掴んでいたのだ。
「離しなさい……!」
「絶対に離さない! 皆をやらせる訳にはいかないんだ!」
 ならばと刀身を引き戻そうとするディゴルド。
 しかし彼はそれを躊躇する。

「ディゴルド、お前の負けだ」
 この瞬間を待っていたとばかりに、司はある事実を突きつけた。
「ずっと引っ掛かっていた。自他共に認める嗜虐心の塊であるお前が、なぜか早期決着に拘っていたことに。『三十回以上は持ちこたえた者はいない』なんてのもよくよく考えればおかしい。相手をいたぶるのが目的のお前なら、そもそも『たった三十回で殺してしまう武器』は使わないはずだろう?」
 言葉に詰まるディゴルドに向けて司は叩きつけるように言う。
「それはお前の武器が致命的な欠陥を抱えているからだ。きっと複雑な形状のせいで強度に難があるんだろう。お前の武器は『三十回で確実に殺せる武器』ではなくて、『確実に耐えられるのは三十回しかない武器』――恭弥さんの言う通りのナマクラ剣だ!」

「それが、どうしたというのです……?」
「お前はとっくに三十回以上、俺達を打ちのめした。その上、何発もの攻撃をその剣で斬り払っている。もう、その剣はガタガタなんだろう? お前の予定ではとっくに全員倒せているんだろうな。けど、お前は見誤っていたんだ。俺達の……人間の強さとしぶとさを!」
 目に見えて狼狽するディゴルドに司は言った。
「どうした? その剣でとっとと俺達を黙らせればいいだろう? けど、どこまで持つかな? 完全に息の根を止めない限り、俺達は守るべきものの為に何度だって立ち上がる」
 どうやら事実なのか、ディゴルドは刀身を引き戻そうとしない。
 司は確信に満ちた声で恭弥へと合図する。
「恭弥さん! 今ならやれるッ!」
 蛇腹剣を掴んだまま、恭弥は銃を取り出し、銃口を零距離で蛇腹剣に突きつける。
「……やらせない! お前には絶対に皆を奪わせない!」
 残る全てのアウルをつぎ込んでも、瀕死の恭弥に生成できる弾丸は一発のみ。
 それでも。
 壊せると信じ、恭弥は引き金を引いた。
 
 銃声の後、甲高い破砕音が響き渡る。
 蛇腹剣は根元を残して折れ、刃のパーツは方々に散らばった。
 
「馬鹿な……こんなことがッ!」
 驚愕と怒りに震えるディゴルドに司は断言する。
「馬鹿なことなんかじゃない――お前のナマクラ剣を俺達撃退士の……人間の魂が叩き折ったんだ! そんなもので、俺達の魂は折れやしない!」
 一方、恭弥はディゴルドに向けてもう一度不敵に笑う。
 そして、彼はやり遂げた者の顔でその場に倒れた。
 
 このチャンスに撃退士達は一気に動いた。
 最後の力を振り絞り、攻撃を繰り出す。

 まず動いたのは恭司だ。
 彼が鍋マスクを脱ぐと、その下から現れたのは狼のマスクだった。
 陽太に見せようと思い懐に潜ませていた覆面。
 そう。
 かつて戦った相手――ウルフマスクの覆面だ。
 
「俺達のプロレス……教えてやろうぜ! ウルフ!」
 一気に距離を詰める恭司。
 ディゴルドは迎撃の姿勢に入るも、根元しか残っていない蛇腹剣では恭司の阻止など到底できない。
 ウエスタンラリアット、V1アームロック、垂直落下式ブレーンバスター。
 ――ウルフマスクの得意技の乱舞を繰り出す恭司。
「貴様……プロレスに筋書きはいらないと……言っていたな……だがな! 私達プロレスラーが幾度となく夢を与えてきた肉体のぶつかり合い……血沸き肉踊る技の数々は……決して筋書きではない! だから私は絶対に負けない……私を本物のヒーローと言ってくれた陽太君のために……私に未来を託してくれた……このマスクの持ち主のために……これからも皆に……夢を与えるために! たとえ何度倒されても……踏みつけられても……私は絶対に! ネバーギブアップだ!」
「認めん……そんなプロレス……認めん」
 技をくらったダメージから立ち上がるディゴルド。
 彼が憎々しげに刃を振り上げた瞬間。
 麻耶の吹いた毒霧がディゴルドの視界を奪う。
「おまえ如きがプロレス語るな……反吐が出る」
 その隙に恭司は鍋マスクをかぶり直す。
「いくぞ!」
「せんぱい!」
 麻耶と合図を交わす恭司。
 彼は体当たりでディゴルドを天高く打ち上げる。
 更には空中で相手を掴み、そのままローラーのように激しく縦回転しながら強烈なパワーボムを繰り出した。
 落下地点では恭司の合図を受けた麻耶が待っている。
「これが私達の……」
 全身全霊のアウルを込めたアッパーカットを振り抜き、麻耶は上方向に炎を放つ。
「……フィニッシュムーブ――」
 炎が炸裂する寸前、恭司はディゴルドを叩きつけるように放り投げつつ、紙一重で離脱。
「「――比翼連理式チャンコ・インパクト」」
 恭司の新必殺技を基にした見事なツープラトン。
 爆炎に叩き込まれた上に地面へと叩きつけられ、ディゴルドは大ダメージだ。
 
「みんないくよ!」
 続いては里桜の攻撃だ。
 アウルの鎖でディゴルドを締め上げ、その動きを封じる。
「この紫電の太刀とどちらが上か……勝負!」
「我は神の代理人。神罰の地上代行者。我が使命は我が神と俺達に逆らう愚者共をその肉の最後の一片までも絶滅する事。Amen(そうあれかし)」
 朧に純白の光を宿し、ディゴルドを斬りつける静矢。
 魔装を変形させた獣の顎を思わせる四本のクローを突き立てる夜空。
 攻撃を叩き込み、間髪入れず二人が飛び退いた直後。
 司の弓がディゴルドを貫く。
「これでとどめ!」
 そしてディゴルドを直撃するアウルの彗星群。
 里桜の放った必殺技だ。
 たちこめる土埃が晴れた後、そこにあったのは倒れているディゴルドの姿だった。
「やった……」 
 それを見ると同時、里桜は力尽きて倒れる。
 仲間達も同様だ。
 最後の力を振り絞った一撃を放ち、皆が倒れている。
 この戦いは相討ちという形に終わった。
 
   























 ――そう思われた時。
 ディゴルドがゆっくりと立ち上がった。

 転がっていた蛇腹剣を拾い、陽太へと近付くディゴルド。
 ボロボロではあるが、ディゴルドは着実に陽太との距離を詰める。
 更には陽太を壁際に追い詰めると、ディゴルドは刃を振り上げた。
「絶望……してもらいますよ」
 しかし、陽太の瞳からは希望は消えていない。
「なぜ、絶望しないのです……いいでしょう、ならば身体に教え込むまで……!」
 
 その様子を見ていた里桜。
 なんとか立ち上がろうとするも、満身創痍の身体は動かない。
(何やってるの……陽太君は今も約束を守ってる。今来ないで……いつ来るの……誓くん)

 立ち上がろうとする里桜の前で、陽太に刃が振り下ろされた――。
 

 日常の壊れていない世界を誓は謳歌していた。
 だが、何かが足りない。
 この世界の人々は皆、誓に問う。
 なぜ浮かない顔をするのかと。
 
 やがて誓は思い出した。
 自分には約束が、待っている人がいることを。
 そう答える誓に、人々は再び問う。 
 この世界を捨ててまで行くべきなのかと。

「こんな俺でも、ヒーローだから。それに、男同士の約束を果たしに行かねぇとな」
 もう迷いのない顔で、誓が再び答えた瞬間。
 世界は、光に包まれた。
 

 陽太に刃が振り下ろされる瞬間。
 病棟の窓から飛び出してきた誰かが間へと割り込み、ディゴルドの両腕を掴んで陽太を守る。
 
 その『誰か』を見て、里桜は微笑する。
「ようやく……最後のヒーローのお出ましだね……」
「誓さん――」
 陽太の瞳にあった希望もより一層確かなものになる。
 
 彼の前には今、他でもない御空誓が立っていた。
「これはまた。一番の死に損ないが最後に来ましたか」
「ヒーローが簡単にへたるかよ。久遠ヶ原の撃退士をなめんな」
 嘲るディゴルドに誓は言い返す。
「そっちこそ武器が酷い有様じゃないか――折れた剣でも覚悟があれば貫ける……なぁディゴルド、これで同じ状態だよな?  人は想いで強くなる。誰かを護りたいと思えば壁を越えられるんだ。お前にその覚悟はあるか? その想いはあるか!」
「吠えますね! 剣も鎧もない貴方は何もできない! 丸腰の貴方など、もはやヒーローでも何もない!」
 言いながら腕に力を込め、誓を押しきろうとするディゴルド。
 前回の戦いでダメージを受けた際、ヒヒイロカネと武器を取り落とし、そのまま担ぎ込まれた誓。
 ゆえに誓のヒヒイロカネと武器は行方不明だ。
 
「違うぜ! アウルとかV兵器が使えることじゃない。自分が怖くて痛くて辛くても、誰かがそれを味わうことの方が、よっぽど怖くて痛くて辛い――」
 対する誓も押し返し、両者の力比べが拮抗する。
「――その想いがあることこそがヒーローなんだ!」 
 僅かに誓が勝った瞬間、誓は叫びとともに渾身の頭突きを叩き込んだ。
 頭突きを受け、ディゴルドの身体が大きく揺らぐ。

 満身創痍のディゴルドと病み上がりの誓。
 互いに立っているのが不思議なくらいだ。
 
 それでも二人は戦いを止めない。
 刃だけでは足らず、拳も繰り出すディゴルド。
 素手であるのも構わず、立ち向かう誓。
 二人は互いに決定打を入れられないまま殴り合う。
 
 状況は互角。
 否。
 武器がある分、ディゴルドに有利だ。
 
 激闘の末、遂に誓の意識が途切れかける。
(悪ぃ……また、無事に帰れそうにねーや)

 その隙を逃さず、ディゴルドが刃を振り上げる。
「死ねェェェッッ!」
 
 絶体絶命の誓。
 それでも陽太は勇気を振り絞り、目を逸らさず見届ける。
 その時だ。
 目を見開いたからだろうか。
 陽太は植え込みの中に光る碧色の輝きに気付く。
 
 ――諦めない。
 そう約束したから。

 陽太は全力で走り出した。
 時を同じくして、ディゴルドの刃が遂に振り下ろされる。

「誓さんっ! どんな強敵が相手だろうと諦めない。それが男と男の――」
 刃が誓を斬る直前、陽太は両手に掴んだ碧色の輝きを渾身の力で誓に向けて放り投げた。
 
 碧色の輝き。
 それは誓の名前と似た銘を持つ直刀――碧空。
 
 碧空。
 それは誓の魂。
 
(ああ……そうだった。俺が諦めちゃだめだよな……!)
 陽太の声で我に返った誓。
 すかさず誓は投じられた碧空の柄を掴み取る。
「――ああ、約束だっ!」
 手にした碧空を空色のアウルが覆う。
 ディゴルドの斬撃よりも一瞬早く、誓は碧空を振り抜いた。
 胴体に直撃した碧空はそのままディゴルドを一刀両断する。
「馬鹿……なァァァッッ!」
 
 驚愕の叫びとともにディゴルドの体内から、頭上に広がる青空と同じ色のアウルが溢れ出す。
 そして、その身体は爆散。
 肉片も全て灰となり、ディゴルドは完全に消滅した。
 
●四ヶ月後 足立区 某中学校
 
 ディゴルドとの戦いから四カ月。
 陽太を守った面々は、彼の中学校を訪れていた。
 今日は文化祭だ。
 
 陽太と亜由香のクラス出し物はメイド喫茶のようだ。
 校門前で出迎えてくれた陽太は執事服、亜由香はメイド服だ。
 亜由香も無事退院し、今はすっかり元気だ。
 そして、彼女の手は陽太としっかり繋がれている。
 
 二人を微笑ましげに見つめ、里桜は言う。
「陽太くん……あの時は私達を信じてくれてありがとう。君が信じてくれたから、私達はヒーローとして戦えたんだよ」
 陽太は恐縮した様子だ。
「そんな……ありがとうだなんて。俺の為に……特に里桜さんや誓さんは酷い目に遭って……」
 すると誓は苦笑する。
「ったく、湿気た顔してんなぁ。別に俺には良いけどさ、亜由香にはそんな表情見せんなよ?」
「え?」
「亜由香にとってのヒーローは陽太だろ? どんな時も好きな女のヒーローで居る、それが男ってもんだ」
 誓の一言で陽太と亜由香の顔がかあっと赤くなる。
 でもそのおかげで、陽太の顔に明るさが戻る。
「それも男と男の約束ですか?」
「おう。っていうより……」
 そこで誓は何かに気付いた。
「陽太も亜由香のヒーローだし。それに、あの時、陽太は確かに俺を助けてくれた――だからお前もヒーローだ。つーわけで、これは――」
 その一言に陽太は弾けるような笑顔になる。
 誓も同じく弾けるような笑顔を返す。
 手首を絡め、拳と拳を触れ合わせる二人。
 そして二人は声を重ねて言った。
「「――ヒーローとヒーローの約束だ」」


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: チャンコマン・阿岳 恭司(ja6451)
 災恐パティシエ・雫石 恭弥(jb4929)
 新世界への扉・御空 誓(jb6197)
重体: −
面白かった!:6人

バカとゲームと・
與那城 麻耶(ja0250)

大学部3年2組 女 鬼道忍軍
『三界』討伐紫・
高瀬 里桜(ja0394)

大学部4年1組 女 アストラルヴァンガード
撃退士・
鳳 静矢(ja3856)

卒業 男 ルインズブレイド
チャンコマン・
阿岳 恭司(ja6451)

卒業 男 阿修羅
神との対話者・
皇 夜空(ja7624)

大学部9年5組 男 ルインズブレイド
災恐パティシエ・
雫石 恭弥(jb4929)

大学部4年129組 男 ディバインナイト
この命、仲間達のために・
日下部 司(jb5638)

大学部3年259組 男 ルインズブレイド
新世界への扉・
御空 誓(jb6197)

大学部4年294組 男 ルインズブレイド