●撃退士出撃!? 夏の大規模イベント開催中!
――八月某日 某イベント会場 屋外スペース――
「いいですね〜。あ、目線こっちでお願いしまーす」
この依頼に参加した一人である遊間 蓮(
ja5269)はオレンジのつなぎを着たザンバムの整備士のコスプレをしながら撮影者――カメコを担当していた。
インナーにTシャツを着て、上半身はつなぎを脱いだ格好は堂に入っており、その姿はまさに本物の整備士だ。
(天魔に会ったなんて災難だったよねぇ……でも子供を助けたみなさんはすごいと思いますよぉ♪ そんな優しい人達がせっかく作ったんだもん。綺麗に修復してコスプレを楽しまないとね!)
その思いを胸に蓮は楽しげに声をかけ、仲間たちを撮影していく。
蓮が最初に声をかけてカメラを向けたのは『ザンバムcrowd』に登場する大きな二つの陣営のうち、主人公サイドの軍の制服を着た影野 恭弥(
ja0018)だ。
軍上層部に認められた優秀な者しか着ることが許されない黒服という特別な制服で、胸元には所属する部隊のタグ、肩には階級章。
所属部隊はエースクラスの実力者のみで構成され、主人公も所属するチーム『Elysion』。
部隊タグでデザインは背中合わせの天使と悪魔が描かれている。
自ら修繕したこの衣装を着用して参加した恭弥はカメラに撮られることには無関心だが、 マナーのなってないカメコに対しては威圧して追い払ったり、人混みに紛れてスリや置き引き等の迷惑行為を行う不届き者に注意したりと、他の参加者を守る為の努力は怠らない。
不届き者に対する毅然とした態度や、冷静沈着で無口な雰囲気が『Elysion』の軍服やそれを着るエースパイロットのイメージに合っており、先程から女性ファンがひっきりなしに押し寄せていた。
次に蓮がファインダーに捉えたのは、『機械兵士ザンキラー』の着ぐるみで勝負している大城・博志(
ja0179)。
元は某少年漫画雑誌で連載されていたザンプラ漫画、『超戦士ザンバム野郎』に登場する機体。
あらゆる機体の長所を取り入れ制作されたSD機体という、設定説明通りの戦闘力を見せつけ当時の読者達の度肝を抜いた。
後にSDザンバム外伝に機械兵士ザンキラーとしてアレンジ輸入されたというメカである。
SDザンバム直撃世代であるゆえにこの着ぐるみを選択した博志は涙ぐましい努力でこの衣装を修繕したのだ。
SD体型の着ぐるみは稼動に難があるのでリアル体型にアレンジ。
騎士ザンバムシリーズのカードは復刻版が出ているので参考資料は問題なく、幸い着ぐるみ歴の長い人が作成手順をネット上にアップしていた為、 それらを参照に撃退士のスペックをフル活用した結果、なんと期間内に仕上げるという偉業を成し遂げたのだ。
博志と同じくロボットの着ぐるみで参加したファング・クラウド(
ja7828)にも蓮はカメラを向けた。
ファングが選んだのは、ザンバムシリーズでも、中々のコア作品「駆動兵士ザンバム外伝 THE INDIGO FATE」のインディゴフェイト初号機。
インディゴフェイトには弐、参号機があるが、この二機はザンバムヘッドと呼ばれる、ザンバム型の頭に対し、初号機はシグと呼ばれるザンバムの量産型の頭をしており、これがマニアには人気を博している
その機体を忠実に再現、マシンガンは発泡スチロールで、サーベルは蛍光灯で再現、更にインディゴフェイトにはあるシステムが搭載されており、発動時には普段ゴーグルで見えないカメラアイが赤く輝く演出があるが、それもLEDで再現した。
「システム、スタンバイ」
決め台詞とともにファングがLEDのギミックを発動するや否や、周囲に集まっていたメカファン(主に男性陣)から歓声が上がる。
ファングに続いて蓮は紅鬼 蓮華(
ja6298)にカメラを向ける。
「一度はこのイベント参加してみたかったのよね〜♪」
そう言い、かなりの乗り気で協力を決意した蓮華はまずメンバーを雑用係と裁縫係に分け、雑用係には直せそうな服と無理そうな服の仕分けと服の元デザインやそれに似てそうな物を携帯などで調べる仕事を。
裁縫係には時間がかかるのを除いて、みんなの希望に合う物から修復し、修復が無理そうな服で修復する服に流用できそうなら持ち主の許可を貰って使用という仕事を振った。
そして、蓮華自身も本番当日であるこの場に参加している。
蓮華が選択したキャラクターは『ザンバムLEAF』の歌姫であり、その為に髪も染めている。
アニメのワンシーンを演じるのは勿論、イベント中に問題や応援要請があればキャラを生かして注意や呼びかけも忘れない。
「平和のためにとその軍服を纏った誇りがまだその身にあるのなら、道をあけなさい!」
その一言で混雑や混乱が解決し、周囲の男性ファンから一斉に尊敬の眼差しが集まっている。
密かにお風呂場で練習していた声色と歌唱力を存分に生かして歌姫を演じるために踊り場等で歌う蓮華は、脚が長めのモデル体型であることも相まって人気も上々のようだ。
蓮華の写真を撮り終えた蓮が次に注目したのはアートルム(
ja7820)と蘇芳 更紗(
ja8374)だ。
「下調べの為に全作品を見て来ましたが……疲れました。でも、せっかくの機会です。楽しませていただきましょう」
そう語り、結構な乗り気で臨んだアートルム、そして更紗は本番前からかなり気合いが入っていた。
更紗は事前段階において、とりあえず衣装の確認を先にしておき、それから修繕度合いの確認を。
確認しながら修繕度合いの酷いものから簡単な衣装をより分けていき、裁縫が苦手で上手く出来そうに無い者がいればフォローまたは変わりに修繕を買って出た。
補修段階に入ると、補修用のアイロンで接着出来る当て布を用意。
裏から接着布、当て布、補修衣類と重ねてアイロンで接着。
表から破れ目を縫いつけ、生地の糸が解れないように、引っ張り過ぎないようまつり付け、更には裏から接着布が剥がれにくいようにまつり付けもした。
アイロン不可の生地には、当て布のみでまつり付け、また裾等に近い場所で軽微なら裾を詰めたり、レースや衣装の柄に合う布で水増しや解れ等を隠すようにまつりも付けたのだ。
そして、本番当日。
アートルムは本人の希望により緑・白・赤の3色に染め抜いた忍者装束を。
更紗に関しては、自身が男であると言いきる彼女のたっての希望でみるからに男らしいキャラの衣装――赤ハチマキにオープンフィンガーグローブという格闘ゲームのキャラのようなコスプレが割り当てられていた。
二人のコスプレは『駆動武道伝Dザンバム』。
多種多様な『ザンバム』で格闘技を行うという斬新さと少年漫画のような熱血王道ストーリーでで大人気を博した意欲作に大傑作だ。
アートルムの衣装は作中に登場するザンバムバトルという大会の『アートルム・フラーテル』という新・伊太利亜からの出場選手。
同国北部のゲルマン系で主人公モンドの兄のコピーにして忍術の使い手という設定。
ちなみに搭乗機は『ザンバムスペクルム』である。
わざと人混みに紛れて姿を消した後、アートルムは壁走りの能力を活かして天井に立ち、『Dザンバム』の主人公のコスプレをした更紗に声をかけた。
「っ!? お、お前……いきなりどっから出てきやがったッ!?」
驚きのあまり思わず声を上げる更紗。
それに対し、アートルムは一蹴する。
「そんなことはどうでも良いでしょう!」
原作を再現したそのやり取りに周囲のファン――暑い、もとい熱い男たちは大興奮だ。
アートルムは更に分身の術や壁走り・遁甲の術などの自らが持ち得るスキルと台詞で忍者らしさをアピールしていき、噴水などの水場に水上歩行で水上に立つことまでやってのける。
「甘い! 甘いですよ、モンド! ふふふふふ……私はここです。『風光霽月』――それが勝つための唯一の方法です」
参加前の言葉通りに楽しむアートルムはもちろん、更紗の方も頭はしぶしぶだが、体はノリノリで動いているようだった。
二人を撮影した後、蓮は澄野 美帆(
ja0556)にレンズを向ける。
「駆動兵士ザンバムのコスプレオフ会、超有名大規模イベントかぁ。くっ、今まで知らなかったなんて不覚っ! あ、いや、あの一大イベントの一部がこれなのかな?」
この依頼を耳にした際、声優志望のオタク系少女である美帆は思わずそう口にした。
「にゅふふ、自分で言うのもなんだけど声優志望のオタクの私向きの依頼だね!」
依頼を聞いた途端に思わずそう言うほどの意気込みで、美帆はコスプレに臨んでいた。
美帆が選んだ衣装は初代ザンバムの戦争を舞台にしたゲーム外伝シリーズの連邦軍女性オペレーター服。
俗に言うオペ子伍長である。
流石に美帆そっくりなキャラはいないが、髪を解いてストレートにし、眼鏡をコンタクトにすればそれなりに似てはいる。
コスプレ中の美帆はノリノリでオペ子を演じていた。
「出撃準備完了、発進どうぞ。隊長、どうか御無事で――敵の増援を確認、気を付けてください」
等々、声優志望の本領発揮で台詞を喋りまくる。
美帆が口を開く度、周囲の男性ファンたちが熱狂する。
気が付けば結構な数の男性ファンが集まっていた。
美帆は主題歌や挿入歌の熱唱も始め、それが更にファンを熱狂させる。
他方、美帆を凌駕する数の男性ファンを集めているのは権現堂 桜弥(
ja4461)だ。
蓮がカメラを向けた時には既に殺到したファンで黒山の人だかりができている。
プロのレイヤーにして自作コスプレイヤーである桜弥にとってコスプレ衣装製作修繕はお手の物だった。
そんな桜弥が選んだのはOVAである『駆動兵士ザンバム第五小隊』から、民間人パイロットである『サーラ・ハリス』のコスプレだ。
サーラは研究用試作ロボの試験パイロットで容姿端麗スタイル抜群の美女で、お嬢様だか気性は荒く恋愛が苦手。
ある日、テストパイロット中に交戦に巻き込まれ、そこから戦いに参加したという設定だ。
服装は露出多めのTシャツにタンクトップとホットパンツ。
青いカラコンを入れ、髪は地毛を緑カラーで染めるという気合いの入りっぷりだ。
ちなみに桜弥とは以前の依頼から親交のあるヲタク三人組も彼女とともに薄い灰色をした『第五小隊』の野戦服で参加している。
依頼を知った時、桜弥は言った。
「まったく、困った時には連絡しなさいって言ったのに。私に迷惑をかけたくないって気をつかってるのかしら。でももう大丈夫よ。私が助けてあげるわ」
その言葉に嘘はなく、桜弥はキャラなりきりって台詞も完璧に覚え、海外からの参加者の為に通訳もしていた。
至れり尽くせりの桜弥に、現在もヲタク三人組が自分に気兼ねしているのを察した桜弥は優しく声をかける。
「まったく……何時でも私を頼ってくれて良いのに。もぅ……私達は仲間じゃないのよ」
そう言葉をかけると、桜弥は三人組と周囲の参加者たちを元気づけるべく、サービスで『ザンバム』OPをアカペラで歌い出すが、それがもとで、彼女が動画サイトで有名な『サヤ』だということに周囲の参加者が気付き、場は騒然となる。
あわや大混乱となる寸前、新たに現れた凪澤 小紅(
ja0266)と新田原 護(
ja0410)、そして佐野 七海(
ja2637)の三人に周囲の注意が分散したおかげで、何とか大混乱は避けられた。
三人が演じるのは『ザンバムR2』に登場する敵国の高官と要人――いわゆる、『閣下』の敬称で呼ばれる人々だ。
小紅の衣装は七海の演じる姫を補佐する女性士官。
服装は黒い女性軍服だが、金の縁取り、小さなマントに肩章つき。
なぜかタイトスカートで、機能性よりデザインを優先した衣装である。
キャラクターはクールで、政治など関係なく姫自身に忠誠を誓っている設定だ。
劇中、姫を護るために戦う際、『動き辛いから』、とタイトスカートのサイドを破るシーンでファンが増えたという。
「私の忠誠心は姫様に対してのみ捧げられる。貴様の命令など聞くに値せぬ」
原作さながらの凛とした所作で七海を守るように前へと立ち、毅然と言い放つ小紅。
その格好良さに男性ファンは勿論、周囲の女性ファンからも歓声が上がる。
だが、縫製が甘かったのか、大きくポーズをとったことでスカートのサイドが破れ、ちょっとした騒ぎになる。
その騒ぎを収拾する為、護は自分に注意を引きつけるべく動いた。
「姫様、我らノイエシュテル、貴方のために命を捧げるのを喜びと思うております」
膝を付き、姫役の七海の手を取り、手の甲に口づけする護。
その動作で周囲の注目が彼へと一斉に集まる。
護の服装は姫の専属騎士団、重装甲親衛騎兵団『ノイエシュテル』団長の物。いわゆる軍服に肩などに金モールをつけた物だ。
イメージはドイツ軍将校で、左腰にサーベルを帯びている。
口づけを終えた後、護が一歩退いたことで、彼の陰に隠れていた七海が衆目の前に現れる。
そして、その瞬間、興奮で騒然としていた場は一瞬で完全なる静寂に包まれた。
七海の持っている盲目・ロリ・気弱・時折見せる子犬のような行動という、一部の紳士(?)の心臓のど真ん中を射抜く属性。
そして見た目や声。
何もかもが演ずるキャラ――障害を持ちつつも自国の方針に不満を持ち、改善しようと行動をしているが、逆にその行動を国のプロパガンダに利用されている『お飾りのお姫様』と瓜二つだったのだ。
まるで本物が二次元から出てくるという、奇跡のような出来事への驚きのあまり静寂を保っていた周囲のファンは、一転して激しく興奮し、盛大に騒ぎ出す。
軽く人見知りの七海は一転して騒然となった場を前にオドオドしており、先程から「えと」、「あの」、「……」を繰り返し呟いている。
だが、七海は勇気を出して、場を収めるべく声を出した。
「え〜と……『無礼者!』……これで良いんですか?」
その瞬間、騒然としていたファンたちは一斉にひざまずいた。
周囲だけではない、遠目に見ていた他のファンや桜弥とヲタク三人組までもひざまずいている。
予想外の異常事態に更にオドオドしてしまう七海。
ややあって口を開いたのは桜弥だ。
「せっかくだし、皆で記念写真を撮りましょう!」
その日、七海は伝説になった。
七海を中心とした記念写真はネットで大いに話題を呼んだ。
また、撃退士たちがコスプレをしたこの屋外スペースも『ザンバムR2』の姫が三次元に受肉した場所として同じく伝説となり、数年経った後でも見物に訪れるファンが後を絶たないまでになったという。