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真っ赤な太陽。激しい光線。
そして――イケメン。暑い日差しの中でイケメン達と戯れることができれば、すぐに暑さなんて吹っ飛んでしまう! 今日もイケメンを求めてたくさんの人が来ていた。
だが、その渋い表情のイケメンはゴ・リ・ラ。
そうここは間違いなく、獣の匂いが充満する動物園だった……。
「イケメンねぇ……どんな顔してるのかな」
長いつややかな黒髪を掻き分けると凛々しい眉が少し寄っている。六道 鈴音(
ja4192)は腰に手を当ててお手並み拝見とばかりに敵を探っていた。
人間のどんなイケメン男でも彼女を落とすのは至難の業である。ましてやゴリラ如きに絶世の美貌の鈴音が陥落するはずは万が一もないのである。
「感心しない渋さの利用法だな……」
溜息を吐くようにジョン・ドゥ(
jb9083)が呟いた。見た目が真っ赤で目立っている。なぜか勘違いした家族連れの男の子や女の子が写真を撮ってくれとせがんでくる。
いや、俺は動物じゃないんだが……でも、あながち間違っていないところがちょっとつらい。複雑な心境を抱えていたが、それでもジョンはぎこちない笑顔で写真に応じる。
「実は私様は清楚な女の子だったのぜよ」
キラーンとドヤ顔で七七(
jc1530)が傍で子供たちにアピールするが、「きゃあああ」と反応は逆効果だった。みんな喚きながら逃げて走り去っていく。
ちょっとショックだった。しかし、彼女の御蔭で、あとで子供たちの避難がスムーズに行くことになろうとはこの時は誰も知らない。
「やれやれ、エテ公にどっちが上か教えてあげないとね」
いつもの仁王立ちスタイルでアサニエル(
jb5431)が園のど真ん中に立っていた。背が高く威厳のある様は風格が漂っている。際どいスリットの入ったピンクのドレスを着ていてド派手に目立っていた。鎖を何処かに隠して……不敵に笑みを浮かべる。
「イケメンだか何だか知らないけど、動物園の安全を確保するよ!」
可愛らしい帽子を被った雪室 チルル(
ja0220)が元気よく前に躍り出た。なぜか周りに自分と同じくらいの背の小学生たちがたくさんいる。絶対に間違われたくなかった。こう見えてもチルルは高校生なのである。
だから動物園が楽しいなんてことは――。
豪奢な衣装を身に付けたRobin redbreast(
jb2203)と水無瀬 雫(
jb9544)は逆に冷静に周りを見て警戒をしていた。子供たちや木々の影にディアボロが隠れているかもしれない。二人でまず手分けして先に敵がどこかにいないか辺りを隈なく物色し始める。
途中で、エキゾチックなRobinが珍しいのか小さな女の子が寄って来て、握手を求めてきた。任務中だったが、笑顔で応対すると女の子は手を振って去っていく。
「あっ……あそこにイケメンゴリラがいる!」
不意に子供たちの誰かが叫んだ。敵が現れたのかと警戒していたRobinと雫がその脚力を真っ先に生かして現場に向かった。
だが、そこにいたのはとても渋い顔をしたファーフナー(
jb7826)……。彼は周りに群がってきた人達のあまりの数に困惑する。撃退士達も間違えてしまう程の、あまりの激似に思わず苦情がでてしまう。
「ちょっと我慢できなくて、トイレに行っていっただけだ……」
持ち場を離れていた事をつい言い訳をするファーフナ。困惑して眉を顰めるその表情がまずます渋いと評判になりなぜか妙齢のマダム達が群がって来た。
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「きゃあああ――助けて!」
霊長類コーナーの方で若い女性の悲鳴が聞こえた。
動物が突然背後から襲ってきたということで辺りはパニックになっていた。「急いでその場から避難して!」と、鈴音が大声を出す。
子供たちの手を取って一緒に安全な場所へ移動させる。
ジョンと雫もすぐ傍にいた警備員や係の人に避難を手伝って貰うように促した。慌てた警備員がすぐに無線を使って応援を呼んでくれる。その間にRobinも逃げ遅れた先ほど会った女の子の姿を見つけて一緒に手を繋ぎながら走った。アサニエルは生命探知を使ってすぐに上空から敵の位置を発見した。
暴れている獣の正体はオラウータンだった。全身が毛むくじゃらでしきりに顔を指さしてイケメンをアピールするとてもうっとうしい奴だった。
「はーい! オラウータンさん、私様と良いことするぜよ?」
前に躍り出た七が胸を突き出して足を広げてセクシーポーズを決めつける。顔はものすごく怖いがポーズはセクスィー……。ラッキーなことに、あまりのギャップにディアボロもどうしていいか分からずにその場で困惑してしまう。七が決死の?囮役として奮闘する間に、周りにいた客を全て撃退士達が安全な場所へと移すことが出来た。
敵が怯んでいるその一瞬の隙をついてワイヤーを装備したジョンが烈火の速さで迫って後ろからオラウータンを攻撃する。雫は仲間の攻撃を援護するように前から狙い澄まして銃を撃った。
足元を狙い撃たれてその瞬間、膝が折れた。
不意を突かれたオラウータンは苦しみにもがきながらその場に崩れる。
それでも異臭のする糞のような爆弾を辺りに投げながら抵抗した。
「うわあ……鼻がもげそうなくらい、くせえ、この野郎!」
怒ったジョンはまるで自分こそが百獣の王だといわんばかりに激しく至近距離から略奪ノ籠手にして攻撃した。敵は絶叫して地面に倒れた。
「きゃああ、何をすんのよ!」
ほっと一息つく間もなく、チルルがイケメンザルに執拗に絡まれていた。
サルはよほどチルルが気にいったらしく何処からか盗んできた赤いランドセルを執拗にチルルの頭に被せようとしてくる。どうやらチルルのことを小学生と勘違いしているようだった。頭からランドセルを被せられて前が見えなくなって必死に助けを呼ぶ。
「チルルさんが危険!」
鈴音はすぐに客を非難すると引き返してきた。
チルルが襲われているのをみつけて手に召炎霊符を展開させると、背後から地獄の業火を撒き散らす。Robinも仲間を助けるとために前から華麗な炎の花を咲かせて猛烈に襲いかかった。
真っ直ぐに突っ込んだ大量の炎がサルを包み込んだ。
その隙にチルルはランドルを脱ぎ棄てて怒りの形相でサルを睨みつける。
「あたいはもう子供じゃないって言ってるでしょうがー!」
逃げようとした敵の真っ赤な尻に目がけて強烈な一撃を叩き込んだ。尻から弾け飛んだサルは近くの木に頭から激突してそのまま動かなくなった。
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「私が囮をできるとしたら、ココかなぁ――ってもうやってきた!」
何処からともなく現れたチンパンジーが荒い息を吐きながら、鈴音のすらりと伸びた足に纏わりついてきた。どうやらあまりに鈴音の脚が魅力的らしかった。
神域である絶対領域の太股に手を伸ばそうとしてきた。
「えーい、離せエテ公!」
慌てて顔面に向かってパンチを浴びせる。
グチャと何かが潰れた。自慢のイケメン顔が台無しである。
だが、チンパンジーはしつこかった。流石は肉食系である。絶対に鈴音の脚を離そうとしない。
こんなものにモテてもうれしくない!
あまりの気持ち悪さに必死になって足を振り払おうとするが、チンパンジーの目はすでにイッてしまっており、言うことを聞くようではなかった。
「躾がなってないね。そら、折檻の時間だよ」
アサニエルがスリットの入ったドレスから長い足を出して振りかぶった。
ヒールを履いた靴でチンパンジーの鼻を思いっきり蹴りあげる。
吹き飛ばされたチンパンジーは地面に無残に転がった。
だが、それで攻撃は終わらなかった。鎖をしならせたアサニエルが、これでもかというほどチンパンジーの体を締め上げて行く。
もがき苦しもチンパンジーは何処か恍惚の笑みを浮かべて――「あんたにはわたしの脚なんて百年早いわよ」と最後は怒った鈴音の怒涛の六道鬼雷撃によって無残に倒された。
最後に残ったのはあのイケメンゴリラ一匹だった。だが、ゴリラはなかなか現れなかった。隈なく園内を探していると不意にファーフナーが背中に悪寒を感じた。
振り返るとそこにいたのは興奮したゴリラ。
厚い胸板に厚い唇。そしてゴツゴツとした指。
ねちっこい視線をとくにファーフナーの唇に注ぎ込んでいるように見えた。
ウホッ、ウホッ(意訳:いいおとこ)
意味はわからなったが、ファーフナーはぞっとした。
そう、実はこのゴリラは、メスだったのである……。
「なんだ、このゴリラは……? まるでこれまでの強敵と同じオーラーだ」
物凄い視線を感じたファーフナはこれまで対戦してきた強敵に感じた凄みのあるオーラーをメスゴリラに感じていた。メスゴリラはどうやらファーフナーを我が物にすると決めていたようだった。執拗までにアピールしてくる。
そんなことは知らないファーフナーは、敵のあまりに予想外に素早い動きに戸惑う。あっという間に壁ドンをされて、太い木の脇に追い込まれてしまう。ゴリラの手が伸びてきて激しく鳩尾にストレートを食らった。
圧倒的なまでの速さにファーフナーはサンドバック状態になる。
どうやらゴリラは徹底的に動けなくさせて無抵抗のファーフナを後でじっくり美味しく料理するつもりだったのだった。
ファーフナーはアウルを鞭状にして反撃を試みた。
ゴリラは逃げることができずにその場で攻撃を食らって雁字搦めにされる。
だが、苦しいはずのゴリラはなぜかウットリとしていた。まるで一緒になれると喜んでいるかのようにも見える。初めてここでファーフナーは貞操の危機を感じた。
このままではメスゴリラにいろんな意味でやられてしまう!
不意にその時、背後から雫が援護射撃を撃ちこんできた。頭を撃たれて、ゴリラもこれには面喰ってしまう。大事な時に邪魔をされたと怒って後ろを向くが、今度は至近距離からジョンの左ストレートを浴びた。
「その程度で、力が自慢か?」
不敵に笑ったジョンになすすべもなく今度はゴリラがサンドバックになった。
足元を取られてよろめいたところを鈴音が見逃さなかった。
「残念。全然私の好みじゃなかったわね。燃え尽きなさい!」
地獄の業火がイケメンゴリラの顔を焼き焦がし、そのままなすすべもなく、ディアボロ達は力なく地面に倒れてついに戦闘が終わった。
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「人間様を舐めるからこうなるんだよ……まぁあたし人間じゃないけどね」
アサニエルは動かなくなったディアボロ達に向かって言い放つ。
流石にアサニエルの激しい調教には耐えられなかったようだ。
もっとも彼女の調教に最後まで付き合えるものこの世には存在しなかったが。
すぐに怪我をした者を癒した御蔭もあって、大事には誰も至っていなかった。Robinもほっと息を撫で下ろす。避難させた女の子たちが無事であるのを見て嬉しかった。どうか動物園を怖がらずまた遊びにきてほしいと願う。
無事に終わったのを見て雫もゆっくりと動物達を見て回りたいと思っていた。
「キリンと私様はどちらが大きいか勝負ぜよ!」となぜかすでにテンションが高くてはしゃぎ回っている七を連れて一緒に見に行くことになった。
ファーフナーはボロボロになった服を脱ぎ捨てて帰ろうしていた時だった。
不意に動物園の係の人がやって来て真剣な表情で問いかけられる。
「一日だけ……檻の中でゴリラになってくれませんか?」
あまりの衝撃な提案にファーフナは絶句してしまう。係員の人はいたって真面目だった。
このままではメインのイケメンゴリラがいなくて客たちも満足しない。
経営の危機に陥ってしまうことが考えられた。
そこで白羽の矢がたったのがファーフナー。
それから二時間以上押し問答が繰り広げられた。熱心な勧誘をとうとう断り切れずに、ファーフナーは脱兎如くその場を逃げ出した。
捕まったら檻に入れられてしまう!
それから数日、ファーフナーの家の電話には動物園からの勧誘のお知らせがしばらく続いたという……。