「……依頼じゃなくてゆっくり来れたら良かったんだけどな」
志堂 龍実(
ja9408)はため息をついた。混浴の温泉に浸かりながら来るべき戦闘に向けて英気を養っている。きめ細やかな白い肌に端正な顔立ちはまるで女性のようだ。
リンド=エル・ベルンフォーヘン(
jb4728)が傍らで一緒につかの間のリラックスタイムを楽しんでいた。強靭な肉体が顕わになっている。男である龍実でさえも何故か胸の鼓動が高鳴っていた。イケナイと思いつつもリンドの体をつい凝視してしまう。
その時傍らの岩陰から何かの気配がした。振り向くと異様な姿をしたディアボロが長い触手を出して迫ってきていた。腹が大きく膨らんでいてまるでウシガエルのようだ。
「龍実殿、背中は任せた。こやつら……今までの敵とは段違いの覇気というか邪気を放っておるのだ……!」
リンドは慌てて湯から飛び跳ねた。大剣の切っ先を突きつける。リンドも龍実の背中越しに現れたもう一体の触手に対峙して双剣を構えた。
混浴でディアボロが現れていた時、女湯では竜胆 椛(
jb2854)とユングフラウ(
jb7830)と海城 恵神(
jb2536)がまったり湯の中でくつろいでいる所だった。
「アッー! 濡れる! 溺れる!」
恵神が壮大に湯の中にダイブして暴れている。服装は女騎士の鎧を着込んでいた。際どいところしか隠れておらずもはや鎧の役割を果たしていなかった。それにも拘らず重量はそれなりにあるため、もはや何のために着ているのかわからない。
それでも恵神は生卵を温泉卵にしようと楽しそうに騒いでいた。一方で、ユングフラウはもじもじと恥ずかしそうに湯に浸かっている。
何も隠さないで入るのは恥ずかしいけど仕方ない。これも囮になるためとタオルは脱衣場に置いてきて大事な部分は手で隠している。
ディアボロ達はそんな憐れな女性たちを襲う女湯に接近してきた。触手を伸ばしながら岩陰から突然雪崩れ込んでくる。
「きゃああああ――」
不意に恵神が盛大に触手に絡まれた。ヌメヌメとした触手の先端が恵神の体に纏わりついてくる。鞭を振るって攻撃しようとしたが、武器まで一緒に絡め取られる。触手の先端がついに恵神の体中を弄り始めた。
さらに別の個体の魔の手がユングフラウに忍び寄る。後ろから大量の触手に絡め取られたユングフラウは必死に首を振りながら叫ぶ。
「いやあああ、こ、こないでえええ―――っ!」
ユングフラウは手で抗おうとするが、触手によって両手を縛り付けてしまい身動きが取れなくなってしまう。
「こんなことを許すのはあの方だけのつもり、なんです……っ」
ユングフラウは必死に身体を動かすが、無駄な抵抗に終わってしまった。
その瞬間、ユングフラウは力を失って崩れた。
●
「こう隠れて素肌を晒す女の子を見てると悪い事してる気分になるよね」
菊開 すみれ(
ja6392)は岩陰から仲間の痴態をうっとり眺めていた。助けに行くことを完全に忘れて一人で悦に入っている。
「やだ……なんか私まで」
もじもじと太腿を擦りつけて自分まで変な気分になりかけていた時だ。気が付くと目の前にディアボロの魔の手が伸びてきていた。
すみれは油断をしていて気がつくのが遅れた。両手を後ろに回されてしまって水着の上を触手達が勢い良く這いずりまわる。
無数の触手が絡んで離れない。
身体全体を押しつぶすように圧迫してきて思わず声が出る。
「ちょ……やだっ、ダメだって! 水着破けちゃう!」
紐で結ぶ赤いビキニが触手のギザギザに襲われた。すみれは喚き散らして抵抗するが、ついにブラの紐が――湯気に隠れて見えなくなる。
「あああっ!! 触手が、でも、もうっ、ああっ――」
すみれは羞恥さに悶え、ついに絶叫した。
女湯で次々に悲鳴が上がってレイティア(
jb2693)とエイリアス・寛・ルー(
jb8476)が仲間を助けるためにディアボロ達に果敢に攻め込んだ。
漆黒の翼で舞い上がったレイティアは聖なる鎖を放つ。鎖に巻き取られた触手のディアボロは動きを止めた。その隙にスクールツインソードで触手をぶった切る。
ディアボロは緑色の液体をまき散らしてようやくすみれ達を開放した。だが、今度は別の触手が後ろからエイリアスにべたべたした液体をかけてくる。
エイリアスはお風呂に頭から突っ込むと液体を交わす。湯の中では液体は入って来られないらしく危機一髪で逃げることに成功した。
標的を変えたディアボロが今度はレイティアに触手を伸ばす。あと少しで回避できるというところで触手の魔の手に捕まってしまった。
「これ……あの時と同じで……」
レイティアは悶え苦しんだ。抵抗すればするほど触手はぬめぬめと身体を弄ってきた。
「きゃあああああっ」
レイティアもついに大声をあげる。
「温泉の平和を乱すものは誰であろうと容赦はしません!」
椛はヒリュウを召喚してユングフラウとレイティアを掴んでいる触手に襲いかからせた。激しい攻撃に晒されてついに触手は二人を手放す。
「よくもやってくれたわね……これでも食らいなさい!」
すみれは大事な所を手で隠しながら至近距離で弾丸をぶっ放した。
胃袋に命中して空いた穴から大量の緑色の液体を噴射する。その瞬間、捕まっていた恵神が放たれた。ディアボロはそのまま湯の中に大きな音を立てて崩れ落ちた。
●
「くっ、あの麻痺攻撃が厄介だ……迂闊に近づけないな」
龍実は苦戦していた。伸縮自在な大量の触手は切っても切っても次から次へと襲いかかってくる。流石に二人だけでこの数の触手を相手するのは限界だった。
「ああっ! やめろ、やめるんだ!!」
ついに龍実は触手に全身を絡めとられてしまった。ぬめぬめとした触手が耳元に近づいてきて龍実は手で払い除けようとする。
隣で背を合わせて戦っていたリンドが助けに入ろうとするが後ろから触手に捕まった。
リンドと龍実は仲良く一緒の触手に絡め取られてしまう。
「はあんっ!? ……龍実殿、もっとそっちに行ってくれっ」
リンドが密着している龍実を窘める。激しく抵抗すればするほどお互いに密着してしまって身体の自由が効かなくなる。
「いっ……ひっ、放せっ!」
目を開けるとそこにはネバネバした触手の魔の手が迫ってきていた。
「ほぉ……いい眺めじゃの」
助けにやってきたはずの恵神が男性陣の痴態を眺めて鼻の下を伸ばす。自分の目的を忘れてつい触手に弄ばれる様子をじっくりと観察していた。
リンドと龍実が必死に助けを求める視線を向けてようやく我に帰る。
「二人共お待たせしました。今助けます!」
際どい水着姿のエイリアス達女性陣がようやく混浴に姿を現す。エイリアスは複雑に絡んだ二人の間の触手を切り裂いた。さらに椛がヒリュウを突撃させてディアボロを吹き飛ばすことに成功する。
エイリアスは暗闇で覆って男性陣を一時的に匿った。その間にリンドには真白の褌を龍実にはスノウィコットンブラウスと水着を渡して着替えさせる。
その間にレイティアはその間にナイフを投げつけて触手の足を切り裂く。
すみれはロングレンジから弾丸で狙い撃つ。狙われたディアボロは胃袋に穴を開けられて温泉になぎ倒された。
体勢を立て直した最後のディアボロはなぜかリンドに押し寄せる。勢い良く迫ってくる敵を見て何故自分が狙われるのかわからず恐怖の表情を浮かべた。
「何故だ! まあいい、さっきの恨みをここで晴らす!」
リンドは敵の胃袋目がけてショットガンをぶっ放した。見事に命中してディアボロはうめき声を上げながら温泉の中に沈んでいく。
「うっ……ネバネバだのヌルヌルだの……水に比べれば屁でもない!」
ぜえぜえと激しく息を荒げながらリンドは強がった。
「破廉恥!」
そして助けにきた女性陣に向かって喝を入れる。男なのにめちゃめちゃ怒って女性陣を怯ませた。龍実が間に入るまでリンドは「破廉恥!」を連呼し続けた。
撃退士達はエイリアスの提案でそれぞれ温泉を満喫することになった。ようやく普通に楽しむことができそうで満足だ。早速湯船に肩まで浸かって疲れを取る。体の芯まで温まってきて気持ちよかった。
触手をすべて退治してようやく椛は一息つく。温泉にゆっくりと浸かりながら戦闘の汗を流す。やはり平和が何よりも一番だった。
岩場から眺める自然の景色は最高だ。レイティアも一緒に天然風呂を満喫する。普段では味わえない大きな湯船で思いっきり足を伸ばして寛いだ。ただ温泉の湯船には先ほどディアボロ達が残していった液体が浮かんでいた。
なるべくそちらには近づかないように注意する。恵神は先ほど密かに入れておいた温泉卵の様子を見に行った。幸いなことに戦闘でも潰れずに無事だった。
早速頬張ってみるが熱くて美味しい。
皆で温泉卵を食べながら楽しいひと時を過ごした。