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マスター:凸一
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/05/04


みんなの思い出



オープニング


 都会の夜の街のネオンライトが今宵も輝いていた。
 野性味を帯びた長身の男が華麗に跳躍する。
 敵の包囲網を華麗に突破して跳びこみながら連射する。
 銀色に輝くマグナムで狙い打つ。
傍らで相棒のスキンヘッドの軍服の大男がロケットランチャーで豪快に辺りを弾き飛ばす。
 彼らを援護する金髪碧眼のミニスカ美女刑事がマシンガンを乱射する。
 長い髪を風に靡かせて縦横無尽に都会の喧騒の中で男たちは戦う。
「すげえ、カッコいいい、まさにザ・キング・オブ・スタイリッシュ!!」
 東正太郎は敵のあまりのスタイリッシュさに惚れ惚れとして立ち尽くした。
 容姿端麗の凄腕のイケメンマグナムに、軍服の大男、さらに金髪碧眼ミニスカ刑事の姿をした敵が カッコよくて戦闘中にも拘わらず見惚れていた。
 正太郎は技量が未熟な新米の撃退士だった。
 子供たちに憧れられるような撃退士を目指すためにスタイリッシュを目指す。
 彼は素っ裸に葉っぱ三枚のビキニを着ていた。
 いろんな意味できわどく、下の一枚は百歩譲ってオーケーだとしても、胸に付けている葉っぱ二枚に関してはもはや何のためにあるのか理解できない。
 目撃した仲間の誰もがヘンタイだと思ったが、正太郎は真剣だった。
「服装は動きやすくて機能的なものが一番だ。この格好ならどんな激しい運動であろうとも服装が邪魔になって動けないことはない。まさに究極の戦闘機能美だ」
 正太郎はこの間まで金髪リーゼントに足元はローラースケートだった。だが、先日の依頼で先輩撃退士に諭されて動きにくいものはやめるように忠告された。
 悩みぬいた末にたどり着いたのがこのスタイルだったのである。
 服装が完璧になったと思った正太郎は、今度は強さを求める番だと感じていた。
 ディアボロが現れたという情報を聞いて正太郎はたった一人で向かって行ったのである。
 一人でディアボロを倒す俺ってすげえスタイリッシュ!
 だが、現実は甘くなかった。
 当然の結果として正太郎は完膚無きまでに倒されて武器の剣を奪われる。
 金髪碧眼美女のディアボロに縄で縛られて捕えられてしまう。
 それでも正太郎は目を輝かせていた。
「撃退士でもここまでカッコいい人はいない……。ああ、僕もこんな風に強くてスタイリッシュになりたい……」
 ぶつぶつうわ言を言いながら正太郎は拉致されてどこかへ連れ去られていった。



「新米撃退士がディアボロに戦いを一人で挑んだまま帰ってきていません。拉致されたものと思われます。何とかして彼を救出してきてください」
 斡旋所の女性職員がこめかみに手を当てながら絞り出すように説明を始めた。
 戻ってこない撃退士の名は東正太郎。
 スタイリッシュを目指して日夜修行に明け暮れる戦士だった。
 彼は一人でディアボロを倒したらスタイリッシュだと思って行ったらしいが、どう考えてもディアボロの方が強かった。
「ディアボロはまだ近くにいるようです。どうやら彼らも正太郎を人質にして、他の撃退士達をおびき寄せて一網打尽にするつもりのようです。現場には罠がしかけてあるかもしれませんので油断は禁物です。それではくれぐれも気をつけて行ってきてください」
 斡旋所の職員は皆に向かって丁寧にお辞儀をして部屋を出て行った。


リプレイ本文


 ネオンライトに長い髪を乱して――川澄文歌(jb7507)が跳躍する。
 都会の喧騒から逃れるように廃ビルに飛びこむ。
壁に背中を預けて身を屈めながら自身の気配を押し殺す。
 上がった息を整えて深呼吸をし、鋭い視線で階段の先を睨みつける。
 片方の壁の裏には静寂に佇むマキナ・ベルヴェルク(ja0067)。
 彼女は終焉を希求する身。
戦場に於いて、終幕を求めて摧き滅ぼす偽神(いつわりがみ)。
それしか出来ぬが故の名なれば、救済の手は仲間こそがと信ずる。黒焔の鎖を繰りなが
ら、ワイルドハンターたちに向けて先制攻撃を仕掛ける。
撃退士達が廃ビルに入った瞬間に闇の向こうから閃光が走った。
 闇を切り裂く蒼い弾丸の雨が稲妻のように鳴り響く。
身を屈めながら佐藤 としお(ja2489)と雪ノ下・正太郎(ja0343)が跳んだ。
空中で一回転しながら銃撃の嵐の中を進撃する。
軍服の坊主の男が巧みに体を捻りながら銃撃を放つ。
次々に背後の壁に穴が開いていた。
蒼きリュウセイガーが両手を構えて突っ込む。
坊主の背後から襲いかかると腹に鉄拳を叩き込む。
せき込みながら坊主は闇に血をばら撒いた。闇の中にすぐに隠れ潜む。
 白銀の髪を靡かせて着物の裾を抑えながら御堂・玲獅(ja0388)が前に躍り出る。敵は階段下の直ぐ傍の崩れた壁に隠れているように感じた。
「すたいりっしゅ――ならかっこよく歌っていきましょうか」
 階段とは反対側の下に展開する亀山 淳紅(ja2261)やスゥ・Φ・ラグナ(jc0988)に連絡する。銃声が続けざまに響いてすぐに二人は踊り場を走り抜ける。
壁を華麗に走りぬけるのはアーニャ・ベルマン(jb2896)。背中にサングラスをつけた猫のぬいぐるみを括りつけて――彼女は赤いマフラーを靡かせる。
 坊主が闇から一瞬巨体を露わした時だった。
 玲獅が白蛇の盾を掲げ、星の輝きで照らし出す。
攻撃を白蛇の盾で防ぎつつ、坊主のもとへ真っ直ぐに突っ込む。
両腕を必死に振って過激に攻撃を繰り出す。
ロケットランチャーが火を噴いた。辺り一面が白い煙の炎に包まれる。
 猛烈な火力に吹き飛ばされそうになったが、玲獅が歯を食いしばって踏ん張る。フェアリーテイルで光弾を操り、一度坊主の背後へ迂回後にぶつける。
 応援にやってきた淳紅も坊主の手元を狙い撃つ。
 坊主が手を撃たれた時に一瞬、隙が出来た時だった――。
 突然闇の中から現れると文歌とアーニャは両側から挟み打ちをするように敵の胸元に跳びこむ。
「坊主男の足を止めました。あとは一気に攻撃ですっ!」
 文歌が渾身の電撃を放って、坊主をその場に釘づけにした。
 マキナと淳紅が坊主に向かって動けない坊主に猛攻を仕掛けた。
 巨体に巻きつけられた鎖を解こうともがく。不意に淳紅の銃火に遣られてその手からロケットランチャーが地面にたたきつけられた。
「リュウセイガー・ウォール!」
 リュウセイガーが吠えながら闇に舞い上がる。
 天から稲妻のように咆哮して叩きつけられる必殺技。
 グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ―――――
 苦しみに耐えきれずに地面に崩れ墜ちた。
 
 

華麗にスタイリッシュに撃退士達はディアボロ達と交戦を繰り返す。
階段に仕掛けられた無数の罠にスゥ達が苦しめられて動けない。後ろから颯爽と跳び込みながらとしおが前に出てきてトラップに攻撃を仕掛ける。
集中しながら目を閉じると文歌は魔法を放つ。夜空に華を咲かせる花火のように、広範囲に色とりどりの炎を撒き散らし爆発を起こす。
文歌は颯爽と階段の間をスカートを翻しながら登っていく。
これぞまさにプリンセス・オブ・スタイリッシュ!
発煙筒を焚いてハンターをおびき寄せる。
 二階で囚われの身の東正太郎にもその銃撃戦は聞こえてきた。
 裸に葉っぱのビキニを身に付けた新米の撃退士。
 縄で雁字搦めに縛れており、はた目からはとても変態的に見えた。
 だが、そんな見た目とは裏腹に本人はとても真面目だ。
 縛られた縄を解こうと何度ももがくが外れない。
 椅子から立とうとして不意に振り返ると金髪碧眼の美女が立っていた。
 こめかみに銃口を当てていた。緊張と不安で鼓動が爆発しそうになった。
 女が不敵な笑みを浮かべて引き金に手を掛ける。
 観念して目を静かに閉じた時だった――。
「――待ってろ、今助けるからな!」
 サングラスを放り投げて髪を掻き上げたとしおが華麗に現れた。
 入口のドアからすぐに身を低くして金髪刑事の元へと突っ込んでいく。金髪が動いて交わそうとしたところにスゥがサンダ―ブレードで切り裂きにかかる。
 背中を切られた金髪美女が壁に叩きつけられる。急いでマシンガンを撃とうとしたが、としおが覆いかぶさるように壁ドンを叩きつける。
「彼女、名前を教えて貰えないかい?」
 この人は何をやっているんだ?!
 戦闘中に美女のディアボロを口説いている!
 これぞまさにナンパ・オブ・スタイリッシュ!
 正太郎はあまりの興奮に頬を赤くした。
 まるで自分が名前を聞かれたかとでもいうように身をくねらせる。
 ッッコイイイ! ッッコよすぎるよ、としおさん!
 としおが金髪美女を惹きつけている時にアーニャが現れた。
 壁伝いに天井から颯爽と敵に気づかれないように降りる。
(いやぁぁ〜〜、こんな変態だなんて聞いてない!!)
 内心冷や汗を掻きながら急いで縄を叩き斬る。正太郎をすぐにお姫様だっこしてその場を離脱しようと窓の方へと走る。正太郎は体を縮こまらせて大人しくしていた。
 葉っぱ三枚のビキニの男が上目づかいに見つめてくる。
 恥ずかしそうに頬を赤らめて芋虫のように体をくねくねさせていた。
「あっ……そこは……駄目……アーニャさん……もっとやさしく抱っこして……」
 ぶつぶつと何か気持ち悪い発言を呟き続ける正太郎。
 背中にぞっとおぞけが走るアーニャ……。
 金髪が逃がしはないと後ろからマシンガンをぶっ放す。
 アーニャが正太郎を担いだまま窓ガラスを割って闇に跳んだ。
 雨あられの弾丸の中をアーニャが華麗に交わす。
 金髪美女が気を取られた瞬間に、としおはすぐに間を詰めた。
「美しき敵よ、散り際も華麗に……」
 一瞬のうちに、金髪は胸を撃たれて血を口から吐いた。
 崩れ墜ちる美女をそっと胸に抱える。
 としおは優しく敵の目を閉じてその場に優しく寝かせた……。



「動きも反応も良い……成る程確かにすたいりっしゅです。
けれど――踊りで僕らは殺せませんよ?」
 闇に跳躍する黒豹のように――ワイルドハンターをスゥが追いかける。
 降り注ぐ弾丸の雨の中で次第に体が消耗していった。腕や肩を撃たれてそれでも歩みを止めることもなく敵に牙を向けていく。
 玲獅が倒れそうになるスゥを止めるように癒す。
自らが前線に代わって楯になる。
 それでも治るとまたワイルドハンター目がけてスゥが突っ込んで行った。
「血だらけの泥だらけになって、体中に青あざを作って、情けなくみすぼらしく顔を腫らして。血反吐と一緒にキザったい台詞を吐くような奴が、そのうち化け物じみた強さを手に入れるんです」
スゥが歯を食いしばって敵の包囲網の中を突き進む。
弾丸が体を幾度も貫いても――
傷だらけの天使がそれでも地獄に墜ちるのを拒むかのように。
「だけど無茶はしないように。
撃退士は、滅茶苦茶格好悪くても、最後には勝たなきゃ駄目ですから」
 マキナと淳紅も彼女を援護をしながら切れ目なく攻撃する。ワイルドハンターも両足を撃たれて動きが鈍り始めた。リュウセイガーが後ろから近づいて羽交い絞めにする。
 暴れようとするハンターに淳紅も前から迫って補足した。
 背中を抑え込まれたハンターが必死に離れようともがき苦しむ。文歌がその隙に今度は真正面からハンターに襲いかかる。
「一瞬の油断が命取りですよ」
 ここぞとばかりに魔法攻撃を叩き込んだ。
 次々に叩き込まれて辺り一面が煙へと包まれていく。
 波状攻撃にマキナも目を一層険しくして参加した。
「――故に疾く幕を引こう。
戦場など、現世に具現した地獄でしかないのだから」
 その信念、鋼の求道に曇りなく――。
 マキナの抜刀した猛火がワイルドハンターの体を包み込んだ。
 マシンガンを落として膝を着く。
 闇に咆哮しながらハンターは花弁の如く赤く散り果てた。



 ネオンライトの光が消えて戦闘はついに終わった。廃ビルが崩れそうになっていたため、すぐに撃退士達は救い出した正太郎を担いで外に出てきた。
 裸に葉っぱビキニを身に付けた彼は怪我をしていたが無事だった。玲獅がすぐさま救出した直後に迅速に介抱した御蔭だった。
もっとも擦り切れたビキニの紐は直せなかったが――。
 取り戻した彼の剣をスゥが渡す。
受け取った彼は恭しくお礼を述べる。ほっと安堵の息を漏らした時だった。
「女の子にそんな姿見せるなんて最低! 信じられない」
助け出した本人のアーニャが危機とした表情で迫ってきた。
「なんで気持ち悪い格好してるの。露出狂なの!?」
「ちがうんだ、戦闘のためには動きやすい服装が必要で――」
 理由を聞いたアーニャはますます顔を真っ赤にした。
ふーっふーっふーっ……と顔真っ赤にして怒る。
素っ裸に近い変態スタイルの男性を担ぎ、目の当たりにしたことがショックだったので
ある。こんなヘンタイな見た目の後輩を助け出したのだから当然だった。
「どんだけセンス無いの。それが格好いいと思っているの!?
普通の学生服でいいでしょ。『世の中の良い子の皆さんは『久遠ヶ原の撃退士かっこいい!』とか思ってるんだからね。
そもそも弱いくせにディアボロ3体に挑むなんて無理。ベテランでも勝てるかどうかだよ」
 マシンガントークで怒りを露わにする。
「もぅ……私の猫のほうがずっとカッコイイよ」
猫のぬいぐるみずいっと見せ付ける。
それでも正太郎は上の空だった。どこかぼっとした顔でアーニャの顔を見つめている。
なにかとてもいやな予感がした。
「アーニャさん……か、かわゆす」
 頬赤らめて突然重大な発言をしてくる正太郎。
「な、なななななな、あんたなんてヘンタイイイ!」
 アーニャもなぜか顔を真っ赤にしてダッシュして行った……。
 正太郎が慌ててアーニャを追いかけようとして今度は、長い髪を掻き上げながら文歌が颯爽と現れて目の前にある写真を差し出してきた。
 そこに映し出されていたのは救出の際デジカメで捕まっている姿だった。
 正太郎が一瞬にして青ざめる。
 これが俺……? なんてカッコ悪いんだ。
こんなところを文歌さんに見られたなんて。
俺はもう生きていけない!
「噂には聞いていたが、全国の正太郎さんに謝れと言いたい」
 雪ノ下が追い打ちをかけて、後ろではマキナと玲獅までが冷たい視線を寄こす。
 何も言えないまま茫然と正太郎は立ち尽くす。
 やっぱりビキニがまずかったのか……?
「あなたはこれがスタイリッシュに見えますか? 撃退士としてのスタイルなんてものはきちんと実力をつければ自然と出てくるものなんです。形から入らず,実力をつけてください。せめて危険の判断が出来るくらいには……」
 文歌の説教に正太郎はうなだれた。
 美少女で正太郎の好みの女の子から辛辣な言葉を浴びせかけられる。
 ひそかに可愛いと憧れていたのだった。
 アイドルのような美少女に正太郎は鼓動を高ぶらせていた。
 それだけに正太郎はショックを隠せない。
 もうこのままでは立ち直れそうになかった。
 正太郎は一大決心をする。自信を取り戻すために――。
「文歌さん……俺の味噌汁を毎日作ってください!」
 今度はその言葉を聞いた文歌が絶句した。
 だって目の前に居るのは葉っぱ3枚ビキニの裸の男である。
 頭を下げてくる正太郎に何も言えなくなる。
「俺を男にしてください――って、あれ? 文歌さん?」
 頭をあげるとそこに彼女の姿はすでになかった。
 文歌は長い髪と短いスカートを翻してスタイリッシュに去った後だった。


依頼結果