●
開店まであと少し。
件の教室の前には、話を聞きつけた者たちが列を作っていた。
(猫であるか……堕天してから、人間界の生命の多様さには驚きの連続である)
マクセル・オールウェル(
jb2672)は夢想する。
(先日の蛇といい、獅子に虎に熊にペンギンに鯨に狐にトナカイに犬に麒麟に、その他様々な愛らしい生命達!)
次々と浮かぶ多様な生き物(?)。
(しかし、愛らしさの極致といえば、やはり猫であろう。あの毛並み、三角の耳、円らな瞳、ピンとした尻尾! 和猫の短い尻尾もまた趣き深い……)
どうやら早くも人間界に毒されている。
「そう、これはただの息抜きです。息抜きですからね」
誰も聞いていないのに断りを入れるようなつぶやきを漏らしているのは、坂本 小白(
jb2278)。
どうやらそれぞれに事情があるようだ。
しかし、目的は同じ!
「さあ、いざ行かん、愛らしき猫達の元へ!」
扉が開くと目に飛び込んできたのは、猫、猫、猫の群れだ。
「ほわぁ 可愛いです〜♪」
近づいてきた白い子猫の頭を、市来 緋毬(
ja0164)が撫でてやる。
猫カフェ部(喫茶「猫の家」)の部員である彼女は、良いアイデアを吸収しようとリサーチに来ていた。
「よし、よし」
あやしながらそっと周りを観察。
ちょうど、戸次 隆道(
ja0550)がスタッフに渡された餌を使って猫と仲良くなろうとしているところだ。
鼻を近づけた猫が匂いを嗅いだあと、早速ひと口。
(これが猫カフェ…癒しが多いですね。まぁ、戦いを忘れて癒しの時間を…かな?)
次々と近づいてくる猫たちを撫でてやりながら、隆道はそんなことを思い浮かべる。
にゃあにゃあとその間も催促する猫たち。
「ちょっと待て、これ飲んだら遊んでやるから」
それは、黒夜(
jb0668)の周りでも。
ちょっと気になって入ってみたのだが、まだ小さい猫も多いせいか構って欲しいと近づいてくる。
更に足元でじゃれているうちに他の猫が突っかかって暴れ始めたではないか。
「こら、喧嘩するな。二匹とも遊んでやるから」
引き離して膝の上へ。
そんなことはあちらこちらで。
で、こんな愛らしい光景を目の当たりにした、リョウ(
ja0563)は素直に感動していた。
「‥ああ、この荒んだ世界でまさかこのような癒し空間があるなど――」
顔は微笑を浮かべるだけに留まっているが、両手では抱えてきれないほどの猫たちをもふって、全身で幸せオーラを振り撒いている。
「む、あれは――」
そうしているうちに目に留まったのは、部屋の隅で動かない黒い子猫。
人間や猫が多くて怯えているのだろうか? リョウはそっと近づいて子猫と目を合わす。
何かを感じたような気がした。
ひとりと一匹はしばらく見つめ合って――
同じように、逸宮 焔寿(
ja2900)も出会いを迎えようとしていた。
「猫さんに囲まれてもふもふなのです♪」
寝転がっていると白いふわもこ付きの服が心地良いのか、猫たちが乗っかってくる。
その中にトコトコと近づいてくる、手足の先や耳先がクリーム色で、口回りや尻尾の先が焦げ茶色の猫。
「以前見た事があるのですが、ブルーアイズがきらきらと…可愛いのですっ」
おいでおいでと手招くと向こうも気があるのか、焔寿に頭を寄せてきた。
くすぐったくて、思わず焔寿の顔がほころぶ。
猫布団のような状態になっているのは、水無瀬 快晴(
jb0745)も同じ。
「……ふむ。猫に埋もれるとこういう気分か」
ならば、と猫じゃらしを取り出して左右に振ってみる。
猫の顔が一斉に、左へ、右へ。
そして遂に飛び出した。
何か、一斉に!
「……取り敢えず、逃げなきゃヤバそうだ」
でも、逃げようとすれば追いかけるのが猫。
「こうなったら、これを」
快晴がまたたびを振り撒く。
粉末を嗅いで猫たちの挙動がだんだんおかしくなってきた。
「……可愛いかもしれない」
ゴロゴロと喉を鳴らしている猫に、快晴は再び興味を示す。
ほんと、何て可愛い生き物なのだろう。
「ふむ」
アレクシア・エンフィールド(
ja3291)が自らの膝に乗ってきた猫の身体を撫でてみた。
伸びをするような動きをしながら少しずつ喉を鳴らし始める。
ひと撫でするごとにゴロゴロと。
「ご機嫌のようだ……ふぁ」
そのうちに日頃の疲れからか、ついついアレクシアも微睡みだした。
猫も大きな欠伸をして目を細めていく。
「うむ、こう言うのもたまには良いな…!」
鬼無里 鴉鳥(
ja7179)も猫とじゃれて楽しんでいた。
一度は猫カフェに行って見たいと思っていただけにある意味で感動している。
「それにしてもこうも猫が集まっていると圧巻だ…」
手を伸ばせば直ぐに猫に触れる。
触っても逃げ出さない。むしろ、もっと撫でろと甘えてくる。
おまけに目の前で腹を出して横になる猫まで。
「可愛いものだ。…おや、マキナ殿。…と、蘇芳殿。…でーとかの?」
戯れているところに見知った顔を見つけて首を傾げる。
で、蘇芳 和馬(
ja0168)と、マキナ・ベルヴェルク(
ja0067)が何をしているかというと、
「…猫カフェか。こういうのもあるのだな」
「こう言う類の場所は、一度行って見たいと思っていたのですよ。付き合ってくれて、ありがとうございます」
案外、的を射ていた。
とはいえ、マキナは猫を前に物怖じしている。
右の偽腕は自らの力の象徴であり、砕き滅ぼすためのもの……。
ゆえに生身の左手で猫を追うが、マキナの不安が猫にも伝わっているのか、ふいっと逃げられてしまう。
(…どうやらおっかなびっくりの様子か。こうして見れば普通の女生徒だな)
和馬はそっと見守っている。
さて、どうなるのか。
事態を動かしたのは茶虎の子猫。
避けている方の右の偽腕に興味を示して、頬をこすりつけてくる。
(――あぁ…)
結局は関係ないのだ。
猫にとっては右の偽腕も含めて、マキナだと感じているのだろう。
その猫を膝に乗せ、毛並みにそって右の偽腕を動かす。
感触は無いはずなのに温かいものが感じられるのは気のせいだろうか。
「…ふむ」
和馬はマキナのその様子を見て気を緩めると、近づいてきたアメリカンショートヘアーをひょいとつまみ上げる。
まじまじと猫と向かい合い、そのまま猫と共にマキナの方を見遣った。
「…可愛いものだな」
「本当ですね」
穏やかな顔をしているマキナに向けても言ったのだが、この空気を壊さないように和馬は小さくうなずいた。
●
時間が経つごとに客の数は増える一方。
「うーん、猫カフェかあ…これだけいると、ソウカンだねっ☆ミ」
店内に入った、新崎 ふゆみ(
ja8965)を文字通り猫の群れが出迎える。
にゃーにゃーといずれも愛想を振り撒いていて、
「きいてきいてとーらちゃん♪」
ふゆみはその中から茶虎の猫の前足を持って、ちょうど手を繋ぐような形に持っていく。
「ふゆみのだーりんはちょーおかっこいー♪ やっさしぃーしつーよいーしちょーおいーけめーん♪」
のろけソングを歌いながら肉球もみもみ。
これには猫も堪らない。
「きいてきいてとーらちゃ…あぎゃっ」
反撃に引っ掻き一閃。
「うむむーう、にゃんこちゃんにはわかってもらえないのだ☆ミ」
手をふうふうしているふゆみを目に留めて、九十九(
ja1149)は心の中でつぶやく。
(…猫…一度やってみたいと思ってる事があったのにゃ、もといあったのさねぇ)
間違って口にしていないか、慌てて周りを確認するとおもむろに月琴を取り出す。
九十九の周りにいる猫たちはまだかといわんばかりに顔を向けている。
そんな猫たちに一度目配せを送ってから弦を鳴らした。
流れ出したのは定番のクリスマスソング。
猫たちもにゃーにゃーと歌に合わせて鳴き出した。
事前に断りを入れて、猫たちと今まで練習してきたのがようやく形に。
「あんなことも出来るんですね……おっと、ごめん」
思わず見惚れた、エルカノ(
jb2731)の指に子猫の前足が突っかかった。
手に持っている猫じゃらしを狙ってきたのだろう。
「にゃー、にゃー、にゃー♪」
鳴き声をまねて猫じゃらしを振るエルカノの動きを追って、子猫は首を振る。
目を見開き、尾っぽを真っ直ぐに立てて、小さな身体を背伸びするようにして大きく見せてから飛びかかった。
「ほら、こっちですよ」
猫じゃらしで膝の上に誘導すれば、飛び乗ってくる。
上目遣いにこちらを見る小さな顔が何とも愛おしい。
「‥‥にゃんこがいっぱいなの! こんなにたくさんのにゃんこに囲まれるなんて愛ちゃん、初めてなの。楽しむの!」
そこに入店した、周 愛奈(
ja9363)の声が響いた。
ハイテンションのままに猫たちが集まっている場所に飛び込んでいく。
「にゃああ〜」
のんきにしていた猫が間の抜けた声を出した。
「可愛いの!」
撫でてみるとさらさらの毛並みに撫でている手の方が気持ちいい。
何か猫の方もごろごろと喉を鳴らしている。
「‥‥気持ちいいの。にゃんこちゃんも気持ちいい、の?」
返事はないが目を細めて本当に気持ちよさそうだ。
おまけに近くにいる子猫もそれを見てちょっかいをかけてくるではないか。
「ちょっと待ってなの! おもちゃもあるから一緒に遊ぼうなの!」
両手で抱えきれないほどの猫によって、愛奈は段々と埋もれていく……。
「こ、こんなかわいい生き物、初めてだ…!」
その傍らでは、ルー・クラウス(
jb0572)も猫に囲まれていた。
もう一目見た瞬間に、感激で胸を撃ち抜かれてしまっている。
「にゃーって鳴くんだね、鳴き声までかわいいんだね」
デレデレであった。
腹を見せて横になった猫のお腹を恐る恐る撫でてみれば、そのもふもふっぷりに気も緩んでくる。
ああ、何という幸せな時間であろうか。
笑顔のまま、スマホで写真を撮って待ち受けにするほどのハマりっぷりであった。
幸せな時間を堪能しているのは、天河アシュリ(
ja0397)と、カルム・カーセス(
ja0429)の二人もだ。
「賢そうな黒猫がいれば使い魔に貰って帰ろうか、魔法使い的に」
膝の上に乗せた猫に目を落としながら、カルムがつぶやく。
「……ってのは冗談だが、のんびりさせてもらうとするかね」
次いで口元に笑みを見せれば、アシュリも微笑み返して、
「あれ? これ誰かさんにニテマスヨ?」
一匹の猫を抱き上げる。
しかし、抱かれるのは苦手なのか猫は手の中で暴れている。
「少し目つきが鋭かったり、いたずらっぽい顔に、漆黒の毛並み…」
喋りながら落ち着くように頭を撫でてやる。
「ん? 似てるか? むしろアッシュに似てる気がするが…」
カルムが覗き込む。
まだ暴れているようだ。
「悪戯好きはお互い様だろ」
「そうね、ふわふわして可愛い…あわわっ、セーターに爪がひっかっかっちゃった」
「暴れん坊だ。おい、お前さんはオスメスどっちだ?」
確認してみれば、どうやらメスっぽい。
「ほれ、やっぱアッシュに似てる……!」
「あたしの黒猫さんも勿論可愛いデスヨ」
「…っ」
不意打ち、だ。
いきなりアシュリが猫を挟んでハグしてきた。おまけに頭や頬っぺたを撫で撫でしてくる。
「こ、こらアッシュ。人が見てるだろが…」
「…この猫、家の子にしちゃ…だめ?」
カルムは猫に視線を落とし、
「…なら、お前さんウチに来るか? 立派な魔法使いの使い魔に育ててやるぜ?」
「ニャー」
「決まりだ」
さて、そんなことが行われている裏で、暮居 凪(
ja0503)はスタッフと宣伝の件で交渉を行っていた。
膝の上にはちゃっかりと確保した猫が一匹。
「あぁ――猫は、良いわね」
気分転換に撫でてやると手の動きに合わせて毛並みが伸縮する。
「そうね、いっそホームページをアリ、でしょうね。やるなら協力するわよ。猫の為だし――お安くするわ」
「は、はあ」
「料金は冗談よ。サーバーも無料の場所があるから、お金は必要ないはずよ」
ちょっと待っててと、凪はノートパソコンを広げるなりキーボードを操作する。
膝の上の猫は身体を一度伸ばしたものの、そのまま眠りについた。
「いい感じに寝てるわね。気に入ったのかしら?」
凪は少し笑みを浮かべ作業に戻っていく。
●
「ここか! 猫と戯れられるという場所は!」
店内では更に客が増えていた。
ハルティア・J・マルコシアス(
jb2524)もそのひとり。
(動物大好きな俺にとってこんな天国は滅多にねーぞ! …ただなぁ…俺、ほぼ狼。イヌ科なんだよな…)
果たして猫たちは来てくれるだろうか?
「よーし、おいでおいでー」
姿勢を低くして手招きすると、興味を示した猫が少しずつ近づいてくる。
そして手の届く距離にまで。
「よーし、よーし」
撫でてみたが、どうやら平気な様子。
ならばこれもOKかと抱っこしてみる。
するとゴロゴロと喉が鳴った。
「可愛いなー、このこの」
撫でながら興味は猫の肉球へ。
「ここはどうだろう?」
ぷにっ。
「ニャー!」
「…す、すまない」
慌てて逃げる猫を慌てて追いかけるハルティア。
似たようなことが、アストリット・クラフト(
jb2537)にも起こっていた。
アストリットがつい、と視線を向ければ猫は逃げていく……。
「ふむ……」
まあこんなのものだろうと思っていただけにショックはない。
むしろ、遠巻きに一匹の黒猫がじっとアストリットを見ていることに少し驚きを覚える。
試しに軽く手招きすると黒猫が寄ってきた。
「……物好きな猫よな」
そっと背中を撫でてやる。
すると黒猫は身体を擦りつけるようにしてアストリットに寄ってきた。
(あぁ、所詮この瞬間も既知でしかないが…まぁ、愛すべき既知として享受しておこう)
猫と寄り添う心地よい時間。
それを確保しようと、カルラ=空木=クローシェ(
ja0471)は頑張っていた。
「今日こそ…今日こそなでなでする…っ!」
猫好きだが気合が空回りして避けられてしまう。
ドニー・レイド(
ja0470)と歓談しながらも狙いは猫にロックオン。
でも……、
「うぅ…何で私だけ……」
「……ま、気にすんな。お前は悪くないさ」
猫は引っ掻くか、逃げていくばかりだ。
「……っ」
「…手を出してみろ」
「これぐらい自分でできるよ」
「ほら手を出してみろ」
引っ掻かれたカルラの手を、ドニーが治療していく。
「自分でできるって言ってるのに…ぁ、ありがと……」
照れつつも不器用な礼。
「それに、ほら、カルラ。……今度は引っ掻きやしないさ。お前、ずっとこうしたかったんだろ?」
ドニーがまず抱き上げて猫を安心させる。
猫が目を細めているところに今だと手招き。
「わぁ……」
恐る恐る伸ばした手は確かに猫の上でゆっくりと動く。
あったかい。
さらさらしている。
「こいつ、お前に似てるな?」
「…えっ?!」
突然の言葉に、カルラは雪が解けるくらい頬を紅くした。
ドギマギしたところに、ドニーが言葉を続ける。
「よし、お前の名前はアリスだ」
これが二人と猫の出会いであった。
ジェニオ・リーマス(
ja0872)がどうぞと、紫乃 桜(
ja2243)に猫のおもちゃを手渡す。
「さあ一緒に遊ぼうかー」
(ジェニオさん、そんなに猫が好きとは知りませんでした)
そんな感想を抱いた、桜自身も猫好きである。
まずはジェニオがおもちゃの魚が付いた釣竿で猫を釣ってみれば、かなりの当たりが。
「…わぁ凄い数来たよ!?」
ならばと、桜も試してみれば輪をかけて猫が押し寄せてくるではないか。
というか押し倒された?!
「だ、大丈夫?」
ジェニオが、桜をうかがう。
「なんだか懐かしいです。教会にいた頃は、小さな子達とこうやってごろごろしてました」
桜が笑顔で猫たちを抱えている。
空回りもしながらも楽しい時間が過ぎていく――けれど、もう少し色々とやってみたい……何せ、これはデートなのだ。
「あ、あの、後で一緒にお茶とかケーキとかどうかな」
ジェニオが小声で話しかけてみるが、桜はまだ猫に夢中。
「…聞こえてないか…まぁ猫に負けるなら仕方ないよね」
桜の猫抱く姿も可愛いから良いかとジェニオが思ったところに、カフェだったことを思い出した桜が、
「お茶にしませんか?」
と言ってにっこり微笑んだ。
「うん」
●
「…ん…まぁ、誘ってくれてありがとね」
猫カフェに入ろうとする、神喰 朔桜(
ja2099)はあまり乗り気ではなさそうだ。
破壊をもたらす身であることを自覚した今、どうやって猫に触れたものかと不安がある。
でも……、
「…わぁ…!」
目の前にいる猫たちを見て素直に感嘆が漏れた。
横顔を見ていた、北条 秀一(
ja4438)はそっと安堵の息を吐く。
(どうやら連れてきて正解だったようだ)
秀一の前で早くも、朔桜は近づいてきた猫たちをあやしている。
撫でてみたり、耳の裏を掻いてあげたり、膝の上に乗せてみたり。
「…あぁ、可愛い…」
当人は気づいてはいない、もう頬が緩んでいる。
「ほら、落ちそうだぞ」
膝からずれ落ちそうな猫を秀一が、朔桜の頭の上に。
「ちょ、ちょっと……!」
慌ててバランスをとる。
猫はのんきに乗せられたままで大の字だ。
尻尾だけが左右に揺れている。
「これは難しい…というか無理だよ」
「悪い悪い……っと?!」
秀一が手を伸ばしたところに、朔桜の膝に乗っていた猫が飛び退いた。
目の前を通られたもので目測が狂い……伸びた手が朔桜の胸に。
「……?!」
「す、すまん」
気まずい空気の二人。
「にゃーん」
その間も頭に乗った猫はまだぶらりぶらりとしていた。
さて、その近くではセラフィナ・ヒューリライネン(
jb2576)が猫と見つめ合っている。
知識としてしか猫を知らなかっただけに何もかもが新鮮だ。
「本当に興味深いですね」
向こうもこちらに興味を示しているのか、顔を近づけると向こうも近づけてきた。
試に触ってみるとさらさらしている。
触ったところを舐めているのは何か意味のある行動なのだろうか?
もっと試すことにして、おでこや耳の辺りも。
で、気がつけばその可愛さにはまっていた。
「これはもう何と形容するべきか…」
もう、お気に入りの一匹を抱きかかえて床をローリング爆走するほどにはまっていた。
「……ああいう行動を気に入る猫は少ないので注意してくださいね」
「わかりました」
真剣にうなずいているのは、御堂・玲獅(
ja0388)。
スタッフの手伝いをしながら猫の飼育方法を教えてもらっている。
「猫は手がかからないですよ。むしろ、こちらに生活サイクルを合わせてくれますしね」
「そうなのですか。賢いのですね」
よしよしと、玲獅は手近な猫の頭を撫でてやった。
スタッフの手伝いという意味では、月乃宮 恋音(
jb1221)も同様。
飼い主が見つからないと保健所に連れて行かれるのでは、と心配して里親探しを手伝っている。
この後は動物愛護センターの預かりになると聞いても、その思いは消えない。
「……猫さん、とっても可愛いですねぇ……」
恋音の手の中では猫がササミジャーキーをせっせとかじっている。
「……もう少し頑張りましょう……」
にゃーにゃーと周りを囲む猫たちを連れて、恋音の活動はまだ続く。
紅 アリカ(
jb1398)が入店して直ぐに目に留めたのはそんな光景。
「…なかなかこの手の依頼に参加できなかったし、今日は楽しむとしましょうか…」
恋音が提供したササミジャーキーを受け取り、早速猫たちに試してみる。
食いつきは上々。
「…やっぱり猫はいいわね。一緒にいるだけで落ち着くわ…」
膝の上に乗ってねだってくる猫によーしよーしと頭を撫でてからジャーキーを。
その間にも、ご馳走に目をつけた猫が集まってきている。
近づいてきた猫の顎を掻いてやり、横になった猫のお腹を撫でてみる。
みんな気持ちよさそうだ。
「…里親探しもやっているのね…」
ひと通り試してみると、次に気になったのは入って直ぐに目に留まった里親探しを手伝っている人たちだ。
自分もお手伝いしてみよう、とアリカは近づいていった。
こんな感じで猫カフェは猫と人で溢れていて、
(に、にゃんこいっぱい…! にゃんこで溢れかえる…! にゃんこで地面が埋まる…!)
「猫がいっっぱいだぜ!? わー! すごいすっごいもふもふしてるのだ!」
十八 九十七(
ja4233)と、ギィネシアヌ(
ja5565)がそう形容したのも間違っていないほどに。
「ここぞ楽園…! 約束の地…!」
興奮したまま、二人して猫の群れに飛び込んでいく。
出迎える猫たちも好奇心旺盛だ。
新手のやつが来たと鼻頭を向けて匂いを嗅いでくる。
「フッフフ、魔族(設定)の俺がこんな猫どもごときに…にゃあああ!」
ギィネシアヌは触ろうとした手をペロリと舐められた。
「いい子ですねぃ…」
九十七も近づいてきた猫の頭を撫で、それから背中へ、更には尾っぽの辺りまで順に撫でていく。
猫も気持ちがいいのか目を細めて、されるがままだ。
「はっ、いつの間にか背中に…!」
一方、ギィネシアヌの方は姿勢を低くしていたせいか、乗っかってくる猫が多数。
何か猫耳を引っ張ってくる猫まで。
こうやって堪能すること……30分。
「部屋の中で転がらないでください!」
お気に入りの猫を抱えてローリングしている二人の姿があった……もうローリング大人気♪
「…騒がしいですね、あれは」
姫路 ほむら(
ja5415)が喧騒を目で追っていくと、猫の山が見えた。
いや、正しくは猫に群がられている人間であろうか。
何か助けを求めるように手を伸ばしている。
「…もしかして」
近づいてみると、埋もれていたのは緋山 要(
jb3347)であった。
猫たちをあやしながら少しずつ掘り起こしていく。
ようやく解放されたのは10分後。
「姫路ほむらといいます。緋山さんは良い人なんですね、猫達にこんなに好かれるなんて」
「猫に好かれるというか、猫が勝手に寄ってくるんだ。俺は知らん」
ぶっきらぼうに、要は返して最後に自分の名前を付け加える。
「動物は本能で敵と味方を区別するって言いますし」
猫たちをもふもふしながら、ほむらは微笑を返す。
「俺はそんなんじゃない。…でも、お前は少し俺のガキの頃に似てるな。そんなに純粋じゃなかったけどな」
言って一拍の間が空いた。
「家にも犬と猫がいるんですけど、寮から俺を追いかけて撃退士になった父親の家に引っ越しまして…」
次いで、ほむらが話し出したのは自分のこと。
「犬猫と一緒に暮らせてるなら、純粋だろ」
言って、要は思い出したように付け加える。
「…猫か、一匹引き取ってみるのもいいかもな…」
「どんなのがいいんですか?」
また、猫の話が再燃。
周囲に群がる猫と一緒に穏やかに時間は過ぎていく。
●
客の足は途絶えない。
(猫、カフェ……人間は変わったことを考えますのね……)
ユーノ(
jb3004)はそう心の中でつぶやいて、スタッフに案内されてテーブルへ。
「さて、気ままに眺めているだけではこんなところへ来た意味もありませんし……あら?」
あるとは思っていなかった猫じゃらしを発見。
この辺りは素人が作ったゆえだろう。
「まあ、あって困ることはありませんわね」
早速、猫じゃらしを振って近くの猫たちと遊んでみる。
周囲にはいつでも飛びかかれる体勢の猫たち。
「おや?」
その中に一匹、目だけで猫じゃらしを追う子猫が。
「興味はあれど、簡単に馴れ合う気はない、といったところですの? ……なかなか面白い子ですのね」
ならば懐かせて見せようと、ユーノは心の中で誓いを立てるのであった。
一方、アステリア・ヴェルトール(
jb3216)もテーブルへと案内されていた。
(猫カフェですか…一度行って見たいとは思っていましたが、こんな感じの場所になんですね)
足元には既に二匹の猫が丸くなっている。
手を伸ばす範囲にも数匹の猫が。
(ちょっと感動です)
家名を背負う騎士として毅然とした振る舞いを常としているが、もう頬は緩みかかっている。
そっと寝ている猫に触れてみれば、「何?」という感じで顔を向けてきた。
続けて撫でれば、耳の裏辺りを掻いてほしいと手に顔を近づけてくる。
(あぁもう、可愛いですね、本当!)
もう猫の虜だ。
今度の入店者は、久遠寺 渚(
jb0685)。
「わーい、猫さんがいっぱい!」
もう。見ているだけで愛らしい。
「まー君(ペットの白い蛇(体長80cm))を連れて来られなかったのが残念です……」
それは素直に勘弁願いたい。
とりあえず、渚がそんなことを言っているところに、アドラー(
jb2564)の声が響いた。
「猫鍋やろうぜ。……そんな目で見るなよ、食わないぞ!」
手には土鍋。
一部の猫がびっくりしているが、渚は直ぐに意図に気づいた。
「うわぁ、アドラーさん、いい考えですね! 私、写真集持ってます! でも、本物の猫鍋は見たことなくて……」
尻切れとんぼの形になったのを、アドラーが継ぐ形で説明を始める。
「こうして土鍋を置いておくと猫が勝手に入って寝ちまうんだ」
日の当たる温かい場所に土鍋を設置。
すると興味を示した猫たちが何だろうと覗き込んでくる。
そのまま土鍋の中にちょこんと入ったかと思えば、横になって丸くなりながら身体を伸ばし始めた。
「この愛らしさ、たまらん!」
「か、カメラは持ってきてます! いっぱい、いっぱい写真撮ります!」
そうしているうちに入る猫は増えてきた。
アドラーは更に鍋らしくデコレーション。葱とか春菊とかを猫の上に並べていく。
中には複数の猫が入った土鍋も。
「お前ら、狭くないのか?」
答えはない。
だが、どの猫も気持ちよさそうだ。
「それにしても、こうやって丸くなった猫さんって、本当、可愛いですね……」
渚が撫でてみると気持ちよさそうに土鍋から前足を伸ばした。
そして、カシャカシャとシャッター音が鳴る。
愛らしい光景を目にしながら、ウィズレー・ブルー(
jb2685)は紅茶を一口。
「どの子も可愛いですね」
「本当に」
対面に座る、カルマ・V・ハインリッヒ(
jb3046)も同じように猫と紅茶を楽しんでいる。
「ふわふわですね…」
擦り寄ってくる猫に触れて、ウィズレーは楽しそうだ。
「里親になってみてはどうですか?」
「里親…? 一緒に住むって事ですか?」
「そうです。悪くありませんよ」
ウィズレーは試しに擦り寄ってきていた猫を抱き上げてみる。
銀色の毛並みに自分と同じ色の瞳。
「小さな庭があります。一緒に帰ります?」
返答の変わりか猫はゴロゴロと喉を鳴らしている。
カルマは何故か笑っている。
「とりあえずは育て方を調べなくてはですね…」
「なら帰りに図書館に寄ってみましょう」
「そうですね、図書館なら育て方を書いた本がありそうです」
膝の上に置いてやると猫はそのまま丸くなった。
行くのはもう少しかかりそうだ。
「流石に、この前の蛇と違って癒されるねぇ」
「やはり足があるのは良いですわね」
須藤 雅紀(
jb3091)と、香月 沙紅良(
jb3092)の二人も猫カフェを堪能中。
「もふもふして気持ちいい」
雅紀は猫の中に埋もれながら、沙紅良の様子をそっと眺める。
ちょうど長毛種の白猫を抱いて、もふもふ、撫で撫でと、無表情ながら満足しているようだ。
ゆえに話の種に蛇イベントの話を続けたところ……ああなるとは思ってもみなかった。
「フギャアア!」
抱きしめていた猫が苦しそうな声を上げて逃走。
蛇イベントのことを思い返して、沙紅良の抱きしめる力が強くなってしまったのだ。
「…あっ」
更に猫はテーブルの上に乗っていたジュースを蹴飛ばしてしまい、中の物が沙紅良の服の前面にかかった。
「ちょっと待ってろ」
雅紀は直ぐにスタッフを呼んで、持っていたハンカチを濡れた服に押し当てる。
「須藤様、お手を煩わせて申し訳御座いません」
「こういうの早くやっておかないとシミになっちまうからな」
ちょうど直視しづらい場所であったこともあるだろう。
当てていたハンカチが何か柔らかい場所へ。
直ぐに離すも、
「……っ、すまない」
「事故です故、お気になさらず」
二人とも顔が赤い。
そうしているとようやくスタッフが駆けつけてきた。
「猫、か。まあ、愛でるのも吝かでは無いが」
喧騒とは距離を置いて、エルフリーデ・シュトラウス(
jb2801)は猫を膝に乗せて穏やかに過ごしていた。
乗せているのはまだ子猫ながら大人しい。
紅茶を飲む傍らに撫でてやれば、撫でられるままに身体を伸ばす。
そして、撫でてきた手にかぷっと猫が噛み付く。
だが、すいっと牙は空振りした。
物質透過をしたのなぞ、子猫に分かるはずもなく。
「悪戯が過ぎるぞ?」
小突かれてもまだ不思議な顔をしている。
「……うん、あれは猫ツリー? はは、よくできている」
次いでエルフリーデが目を向けた先には、マクセルがいて、
「猫共よ、我輩にモフられるがよって、待て待て待て! なぜ我輩に登る?!」
何故かよじ登ってくる猫たち。
「わ、我輩は登り木ではないのである!?」
言っても猫には通じない。
「す、素肌に猫さんの爪……い、痛くないのでしょうか……?」
渚が唖然としながらもシャッターを切っている。
「負けられん! クリスマス猫ツリーに我は…なるっ!」
対抗して、ラカン・シュトラウス(
jb2603)も負けじと猫たちを集め出した。
猫のおやつに猫じゃらしを駆使してしきりに呼び集めていく。
「ふ…うぬら、我の魅力にメロメロであるの〜」
努力の甲斐もあって、だんだんと増えていく猫たち。
で、重い……。
「ハッハッハ! よかろう! その程度で倒れる我ではないわ!」
どや顔で踏みとどまる。
見よ! この雄姿を!
「ぬこちゃーーーーん!!(☆▽☆) あぁぬこちゃん可愛すぎるでーー!! あまりの可愛さにうわぁ、わわわわぁぁぁぁぁぁーーーー!! くぁwせdrftgyふじこlp(解読不能)!!」
そこに陽子(
jb0718)がとんでもないテンションで現れた。
もう最初からクライマックスだ!
「な 何をするダーッ!?」
ラカンの言うことなんて聞こえていない。
翡翠 龍斗(
ja7594)も呼んで、翡翠を下に、ラカンを上にして、どんどん猫を着飾っていく。
「ちょっと待て! 何を考えている?!」
ダメだ。
龍斗も言うが、聞く耳を持っていない。
まずい……。
龍斗は猫タワー設置用にマタタビエキスを持ってきている。
(これは隠しておかないと……)
「何それぇぇぇーーー!!」
「あ!」
辺りにぶちまけられるマタタビエキス。
「「ニャー!」」
「あああぁぁーーーー、ぬこちゃーーーーん!!」
もう視界のすべてを覆うように猫たちが殺到した。
●
(面白い事を考えるものだ)
宴もたけなわ。
ルーノ(
jb2812)は辺りで繰り返される大騒ぎに若干気圧されながらも猫カフェを楽しんでいた。
紅茶を飲みながら膝の上に陣取っている金色の瞳の黒猫に目をやる。
色々な猫が寄っては離れていったが、この猫だけはずっと膝から降りようとしない。
(…行き場所がないなら、引き取ってみようか)
堕天した直後は自分も行く場所がなかった。
「…お前、一緒に来るか?」
ふっと小さく笑って黒猫を撫で、そっと抱いて立ち上がる。
(名前を考えなくては、な)
同様に里親になろうという客は増えていた。
「里親探しも目的にしているのですね‥里親‥」
緋毬は猫といつも触れ合っているが、猫を飼ってはいない。
部の猫達は懐いてくれているが、一匹だけを特別扱いは出来なくて引き取ったりはしていないのだ。
「にゃぅ‥私と一緒に来てくれます?」
目の前にいる白い子猫に話しかけてみる。
もし、応えてくれたなら……。
「にゃあ」
鳴きがら、手に頬を擦りつてきた。
「猫さん、ありがとうですよ。よろしくです♪」
緋毬に新しい家族が増えた瞬間であった。
スタッフに猫の飼い方を詳しく聞いていた、玲獅も里親になっていた。
話を聞きながら、自分を気に入ってくれる猫を、自分が気に入った猫を探していたが、その手の中には小さなマンチカンが収まって、気持ちよさそうに寝息を立てている。
「今日からよろしくね」
優しく頭を撫でながら、玲獅は新しい家族を抱いていた。
「……なあに? どうしたの?」
傍から離れない茶虎の猫に、凪は目線を合わせて喉元を撫でてやる。
ネットで宣伝をしながら猫と戯れていたが、一番懐いたのはこの子だろう。
運命かどうかは分からないが、
「まあ、一匹ぐらいいいか」
頭を撫でてやりながら猫と一緒にその場を離れた。
リョウの傍らには一匹の黒い子猫が。
「――うむ。では帰ろうか」
「ニャー」
手を伸ばすと心得たように子猫は腕をつたって頭の上へ。
もうそこが自分の居場所だといわんばかりだ。
「猫はイイ。素晴らしい。まさに癒しと言えよう」
そう言って、リョウは出口へと歩いていく。
猫たちの作る癒やし空間の中で、牧野 穂鳥(
ja2029)は常々最終兵器だと思っている子猫たちに埋もれていた。ヘブン状態といってもいいほどに楽しんでいたが……どうしても引っかかることがひとつ。
「こんなに可愛いけど……」
依頼をこなす撃退士としての身の上は他の命までも背負えるのだろうか?
冷静になろうとする一方で目の前で無邪気に遊ぶ猫たちの仕草は言葉で表せないほどに愛らしい。
そわそわと目を動かし――見つけた!
大柄の傷を持ち左目が白濁したメインクーンを、運命との出会いを。
「…わ、私の家族になってください…!」
返ってきたのは見た目通りのふてぶてしそうな鳴き声。
でも、いい声だ。
「今いる寮がペット不可なら退寮も辞さない覚悟です…!」
両手を組んで説得する。
話が通じているのかは謎だが、穂鳥はスタッフに里親を申し出ていた。
里親探しの手伝いもあらかた終わり、アリカはそっと横を見る。
とことことついてくる子猫が一匹。
「…私を気に入ってくれたのね。それじゃあ、これからは一緒に過ごしましょう…」
そっと抱き上げると、子猫は興味津々とアリカの顔を見つめる。
安心させるように一度うなずいてから、その場を後にした。
「そうだな……名前は、スノウドロップ。女の子っぽい名前だけど、見た目が白いからいいだろう」
龍斗は新雪のような純白のスコティッシュフォールドを前にそう言った。
抱き上げて、これから一緒に暮らそうと言っても猫の方は無邪気な顔をしている。
「まあ、追々わかっていくだろう」
そんな龍斗の傍らでは、
「幸せになるのだぞ…」
何か、ラカンが猫にアイコンタクトを送っていた。
猫の方も何かうなずいている。
「……こいつ、もらってもいい?」
黒夜がスタッフに尋ねたのは、足先と尻尾の先が若干白っぽくなっている黒い子猫。
目の色は綺麗なブルー。
「いいですよ」
「そうか……」
よろしくと、子猫の頭を撫でる。
何か引きつけられた気がするが、今もその気持ちは変わっていない。
もしかするとこういうのを運命的な出会いというのだろうか。
「……お前に決めてみるか」
快晴は一番自分に懐いてきてくれた黒猫の里親を希望した。
すんなり通って、後は連れて帰るだけ。
ただ、黒猫は快晴の膝の上ですやすやと眠りについている。
起こさないようにそっと抱き上げて、快晴は出口へと向かった。
(……どうしましょう)
小白は悩んでいた。
子猫の里親になるべきかどうか考えを巡らせているが、なかなかに難しい。
寮はペットOK。
エサ代やその他の費用も、自分が無駄遣いをしなければ何とかなりそうだ。
責任を持って最期まで面倒を見切れる覚悟もある。
けど……、
(もし自分に『何か』があったら、引き取った猫はどうなるのでしょう?)
寮母か、あるいは同じ寮の誰かが引き取ることになるのか。
迷惑に思われないだろうか。
厄介者扱いされないだろうか。
結果的に不幸になってしまわないだろうか。
(……今回は、見送りましょう)
いつか猫に相応しい撃退士になれたなら、そのときは胸を張って引き取ろうと小白は密かに誓うのであった。
そいうい意味では、ハルティアも迷っているひとりだ。
「できれば、連れて帰りてーなー…」
猫はなかなか懐いてくれないし……。
懐いてくれるような猫とははきっと仲良くなれると思っている。
だが、
「「ニャーニャー」」
予想外にハルティアの前には猫がいっぱいいた。
「…困ったな」
さて、どうしたものやら。
「…じゃあ、僕がネコちゃんの親になります」
そう言ったエルカノの手の中には子猫が一匹。
「さあ、行くぞ」
アドラーも猫鍋に入っていた猫を連れている。
「ありがとうなのです」
楽しそうに出ていく、焔寿の手にはお気に入りの猫が入った籠があって。
「ぬこちゃん」
陽子の右手と左手と頭の上にそれぞれ一匹ずつ猫がいた。
こんな感じで猫たちはにゃーにゃーと嬉しそうに引き取られていく。
「連れて帰りたくもありますが、再会を願って…」
隆道は後ろ髪が引かれる思いでそう言った。
ああ、先ほどまで感じていた猫のぬくもりがはっきりと手の中に残っている。
「あー、かわいいなあ。このまま連れて帰りたいくらい…」
クラウスも別れ際に猫をぎゅうと抱きしめて別れを惜しむ。
猫たちは不思議そうに二人を見送る。
こうして最後の客も帰り、一日限りの猫カフェは幕を下ろした。
多くの出会いを生み、楽しい時間を作ってくれたスタッフと参加者たちに感謝を。
メリークリスマス。