●職員室にて
ある日の朝、久遠ヶ原学園小等部の職員室に3人の人物が集まっていた。
並木坂・マオ(
ja0317)、礼野 智美(
ja3600)、白蛇(
jb0889)の3人である。
担任は非常に渋い顔をしていた。
「やりすぎじゃないですか、これは?」
「じゃあ先生は別に考えがあるんですか?」
マオは担任に聞く。
「考えというか……単なるイタズラでしょう?」
「そのイタズラを主が放置したための今じゃろうて。大人しく受け入れよ」
白蛇の言葉に教師は言葉に詰まってしまう。
実際、彼は少女達が依頼斡旋所に駆け込むなど露ほども考えていなかった。
どうにも煮え切らない表情の担任に対し、
「幼稚園児ならともかく、小6にもなると女性も性的な事は恥ずかしいと思います」
智美は教師の前に詰めるように、一歩を踏み出した。
「そこを甘く考えすぎじゃないでしょうか、先生?」
少し苛立った様子で顔を近づけると、教師は「わかりました」と目をそらしたまま答えた。
「ただ、怪我を負わせるのは勘弁してください。みんな私の可愛い生徒なんですから」
こうして3人は教師にこれから起こる「騒動」に対しての説明を行うと廊下へと向かうのだった。
●スカートめくり隊
6年生の集まる廊下を、一際小さな頭身が歩く。
小等部1年の八塚 小萩(
ja0676)は、すれ違うものや生徒達を興味深げに見上げながら進んでいた。
「へー、ここが6年の教室なんじゃ……おっと、なんすねぇ!」
「ああ、そして俺たちの『戦場』でもある」
栄太は偉そうに腕組みした状態で胸をそらすと、ジャージ姿の小萩――今は『変化の術』で塚谷萩虎という男子に変装している――を案内した。
今は放課後の時間である。
授業から解放された生徒達は校庭に遊びに行ったり、仲間内で談笑したりと思い思いのことをしている。
そして今日もまた「スカートめくり」をしよう思っていた栄太と次郎、そしてドライの3人の前に『彼』は現れた。
「師匠、俺……スカートめくりしたいっす!」
『師匠』という言葉の響きに乗せられているうちに、いつしか栄太達は萩虎を何の疑いもなく受け入れるのであった。
「で、いつもならこの辺りでスカート履いた女子を狙ってめくりあげるのでござるが……」
ドライはキョロキョロと教室内を見渡す。
教室には数人の女子達が確認できるが、今日はなぜか全員ズボンやキュロットなどを履いてきている。
彼らがスカートめくりをするのは、女子達が慌ててスカートを抑える「反応」が面白いからだ。
これでは彼らの気に入る「反応」など返って来そうにない。
「どうする?今日はやめておく?」
次郎は2人に声を掛けるが、栄太は次郎の首を引っつかむと萩虎には聞こえないように、しかし荒々しく囁いた。
「バッカ、そんなことしたら俺らの印象が下がるじゃねぇか」
「師匠ー!スカートめくりの仕方、教えてくれるんすよね?」
「あ、ああ!ちょっと待ってろ!」
栄太は次郎を突き放すと、今度は廊下を眺めだした。
しかし廊下にいる女子たちも同様にズボンなどを履いており、『戦果』が期待できそうな相手がいない。
3人は萩虎を残し、壁際に張り付くように集まると顔を付きあわせた。
「おい、どうするよ……?」
「どうするって言ったって……もうみんな僕達のこと警戒してるんじゃない?」
「それは参ったござるな……後輩の前で顔が立たぬでござる」
そうしてしばらくコソコソと話し合っていると、唐突に萩虎の大きな声が聞こえてきた。
「丁度スカート穿いてる人が来たっすよ!師匠、お願いします!」
手招きする萩虎に3人は近づく。
そして指差す方を見ると、廊下の向こうでスカートを翻して歩く女子3人の姿があった。
たしかに他の女子たちのようにズボンやキュロットは履いていない。スカートの「めくりがい」があるだろう。
しかし……。
「こ、高等部じゃねぇか……」
栄太は呻くように呟く。
彼らが見つけたのは高等部の女子制服を着た月臣 朔羅(
ja0820)と、女子儀礼服を纏ったカタリナ(
ja5119)、そしてネコ耳メイド風の衣装の桐原 雅(
ja1822)であった。
「な、なんで高等部の人がここにいるでござるか!?」
「さ、さあ……でも高等部相手はまずいよ……やっぱり今日はやめ……」
「……スカートめくり、できないっすか?」
萩虎は上目遣いで残念そうに言った。
まるで失望したような眼差しの萩虎に栄太は思わず「いいや!」と怒鳴るように反論する。
「相手が誰だろうがスカートめくりをする!それが男ってもんだ!そうだろう!?」
「え、栄太殿!?」
「まずいって栄太!」
「さっすが師匠!いよ、久遠ヶ原イチ!」
「任せとけってんだ!アッハッハ!」
こうして萩虎におだてられた栄太を始めとし、ドライと次郎も渋々ながらスカートめくりを行うこととなった。
次郎はヒリュウを召喚し、相手の様子を伺う。
「目標はこの先を曲がったところをゆっくりと歩いてるよ」
「うし……」
次郎の報告を受け、栄太は『サイレントウォーク』を使用。ドライも屈伸運動を行い体をほぐす。
と、
「あ、師匠。ちょっと俺おしっこ出そうっす!トイレ行ってくるっす!」
「あ、おい……!」
すぐ傍のトイレに入るには、目標の3人がいる横を通らなければならない
萩虎は栄太の制止を聞かず一目散に男子トイレへと向かうと、軽く手を上げて入っていった。
「ったく、これだから一年生は……」
「次郎殿、相手には気づかれていないでござるか?」
「……うん、大丈夫だよ」
しばらくしてトイレから萩虎が戻ってくる。
高等部(実は一部大学部もいる)を狙うという彼らにとって一世一代の戦いは今、火蓋を切られようとしていた。
●おしおきの時間
小萩の“合図”に、カタリナは相手に気づかれないよう周囲を警戒する。
ついでに朔羅と雅の方を振り返ると、この依頼で同行した時から気になっていたことを聞いてみた。
「2人ともちょっと派手すぎません?大丈夫です?」
「大丈夫よ。抑え目にはしてあるから」
「うん。それにボクのは尻尾を揺らして、可愛く誘うんだよ」
「そうですか、平気ならいいんですけど……あら?」
ふと、すぐ近くをぱたぱたと飛ぶヒリュウに気が付いた。
可愛らしく鳴き声をあげる。
「ヒリュウですね」
「あ、本当だね」
「誰の召喚獣かしら……?」
ヒリュウを眺める3人。
そんな彼女達の後ろから、複数の影が近づいていた。
「おりゃぁぁ!」
「スカートめくったでござるー!!」
栄太は雅の、そしてドライは朔羅のスカートをがば、とめくりあげる。
ヒラヒラとした布がめくりあがり、その下から女性用の下着が現れた。
「ぶっ!?」
「おぅふ!?」
2人は思わず顔を赤くして動きを止める。
それは朔羅の下着に原因があった。
「あら、どうしたの2人とも?顔が真っ赤よ」
彼女が穿いているのは黒いレースの下着で、小学生男子が直視するには少々刺激が強すぎたらしい。
少しの間固まっていると、
「すぅ……」
特に反応を見せず平然としていた雅は手の中に隠し持っていたホイッスルを取り出す。
そして、
ピーーーーーーーーーーーーーー!!!
思いっきり吹き鳴らした。
「げ!?」
「ヤバイでござる!」
ホイッスルの音に驚いた2人は、急いでその場から逃げようとする。
が、
「ふふ、タダ見で帰れると思っているのかしら?」
朔羅は咄嗟にハリセンを取り出すと、ドライの足元を払う。
ドライが態勢を崩したところでカタリナは彼の服を掴むと、
「そんな悪戯して!こんな事をするから、私たち外国人が揄われるのです!」
何か思うところがあるのだろうか、カタリナはいつもより険しい顔でドライに圧し掛かるのであった。
「ニッポンではオレイマイリにこれを使うそうですね」
そう言うと掌のヒヒイロカネから釘バットを具現化させる。
「それともこちらが……いいでしょうか?」
もう片方の手に光り輝く『神輝掌』を見せ付けると、
「う、うわー!助けてでござるー!!」
ドライは大声をあげ、ガタガタと震えながら泣き出したのであった。
「助けて欲しかったら、大人しくお縄につきましょうね?」
そう(怖い)笑顔で告げるカタリナであったが、その後ろから、
「この、ドライを離せ!」
「きゃぁ!?」
ドライを助けようと駆けつけた次郎によってスカートをめくりあげられてしまう。
「くっ、やっぱりパンツ(ボトムズ)穿いてくるべきでしたか……!」
咄嗟に立ち上がって次郎の手から逃れたその瞬間、
「あ痛っ!?」
唐突に次郎は頭を抑え、廊下にへたり込んでしまった。
「お主のヒリュウはわしが現行犯で捕まえておるぞ。下手なことをすれば、もう一発お見舞いじゃ」
頭上から聞こえた声に顔を上げる。
そこにはハリセン片手に頭にたんこぶのできたヒリュウを抱えた白蛇の姿があった。
その後ろには彼女の召喚獣である『千里眼』が控えている。
「男子は女子を護るもの。好いた者の体を見たい男子の気持ちも分からぬでは無いが、泣かせてなんとする」
「う、うわぁ!」
次郎は驚き、慌てて白蛇のいる方と反対側へ逃げようとするが、
「どこに行くつもりだ?」
逃げ道を塞ぐように智美は立ちはだかる。
「男なら自分のしたことに対するけじめをつけろ」
「そうじゃな。というわけで仕置きの時間じゃ、覚悟せよ」
すぱーん、と小気味よい音と「うぎゃぁ!?」という悲鳴が響き渡った。
「くそ、次郎もやられちまったか……」
栄太は廊下をひたすらに疾走していた。
捕まった2人のことは心配ではあるが、今は自分の身を守るだけで精一杯である。
「やっぱ高等部相手は無理だったか」
悔しそうに呟くとふと、目の前に萩虎が立っているのに気づいた。
「おい塚谷!お前も早く逃げ……!」
「師匠助けるっす……ってああ、足が滑ったー!」
「ちょ、おま……!?」
萩虎は走り抜けようとする栄太の横から抱きついた。
走っていた勢いそのままに2人は壁に激突する。
「痛てて……なにすんだこの……!」
「どうやら、これまでのようね」
唐突に降りかかる声に、栄太ははっと頭を上げた。
そこには雅に率いられた美子始め、クラスメイトの女子達が勢ぞろいしている。
「げぇ、美子!?」
「今日こそ懲らしめてやるんだから、覚悟しなさい栄太!」
「くそ、やなこっ……」
「待つんだよ」
逃げようとする栄太を雅は『闘気解放』のオーラで押さえつけた。
冷ややかな眼差しで睨まれた彼はカエルのように縮こまってしまう。
「って、さっきの高等部!美子、どういうことだ!」
「どういうことも何も、栄太たちがスカートめくりやめないから依頼で来てもらったのよ」
「きたねぇぞ、オイ!」
「はいはい、一旦喧嘩はやめようね」
栄太と美子始め女子生徒達がヒートアップしそうなのを雅は慌てて止めた。
「角野さんたちがやりたいのはそういうことじゃないでしょ。だったら、ここは抑えておくほうがいいんだよ」
「あ……そ、そうですね」
美子は雅の言葉を聞いて冷静になる。
しかしその顔はにやり、とにやついたままであった。
「な、何だよ美子、その顔は……?」
「あら、顔に出てた?」
よく見てみると、顔がにやけているのは美子だけではない。
女子生徒一同、まるで悪の組織が捕まえた人間を前に「これから改造されちゃうのね可哀そうに」とでもいうようにニタニタ顔をしている。
気の毒そうな表情で雅は栄太の体を縛り上げると、肩に乗せて担ぎ上げた。
「えっと、やりすぎないようには注意するけど……覚悟するんだよ」
●イタズラの代償
西日差す夕暮れ時。生徒達は一様に校門を抜けて家路を向かう。
しかし今日はいつもの放課後と違っていた。
「なにあれ?」
「さぁ……あ、『反省中です。助けないでください』だって」
立札と共に立たされている3人の姿を見てなにかを察した生徒達は、一様に彼らの前を通り抜ける。
中にははっきりとくすくす、という笑い声をあげる者もいた。
「……しくしくでござるー」
「だからやめようって言ったのに……」
「くそぅ、思いっきり叩きやがって……」
「これもまた日本文化じゃ。大人しく受け入れよ」
白蛇は3人に諭すように語り掛けた。
結局あの後、彼らはおしり百叩きの刑にあった。
しかもズボンを剥ぎ取られ、スカートを穿かされた状態で校門に立たされているので恥ずかしいことこの上ない。
風でスカートが翻る度に見える、赤く腫らした尻は痛々しいものがあった。
「男ならこのくらい我慢しろ。あまり動くと自分の身を傷つけるだけだからな」
智美は脅すように彼らを縛りあげるソーンウィップを指した。
次いで彼女は少女達の方に向かうと、懐から財布を取り出す。
「依頼料は返そう。元々俺は報酬目的で来たわけではない」
「え!?」
その言葉に少女のひとりが非常に驚いた声をあげた。
「とんでもないですよ!私達も納得した上で依頼をかけたんですから……」
他の少女達も彼女と同じように辞退する。
「女の子なんだから遠慮するな」
「で、でも……」
こうして報酬を返そうとする知美と遠慮する少女達の横で、
「ここは生徒達の言う事を聞いてもらえませんか?」
「先生?」
担任が両者の間に入るように声をかけた。
「元々は私の配慮が足りなかったのが原因です。彼女達の依頼料は私の方で立替えますので、どうぞ報酬を受け取ってください」
真摯な眼差しの担任に「そういう事なら」と智美は彼の提案を受け入れるのであった。
「少しやり過ぎたかしら?」
「うーん、どうなんだろうね」
朔羅と雅はすこし心配そうな眼差しで成り行きを見守っていた。
そしてカタリナはというと。
「あら、こんな所にデジカメが……美子さんこれ使いますか?」
「あ、いいんですか?ありがとうございます!」
「……でもまぁ、自業自得よね?」
そんな朔羅の言葉を余所に思う存分カメラで彼ら3人の姿を撮影する。
「これに懲りたら、もう二度とスカートめくりなんてしないでよね!」
彼らは弱々しい声で「は〜い」と返事をするのであった。
そんな彼女の後ろにひっそりと近づく影がひとつ。
八塚小萩であった。
(スカートめくりとは、そんなに楽しいのであろうか……?)
むくむくと頭をもたげる悪戯心の赴くままに……、
「そりゃ!」
「ひっ!?」
スカートをめくりあげる。
白地にイチゴ柄の布地が衆目に晒されると同時に。
「キャーー!!??」
「おお、イチゴ柄とは可愛らしい!なるほどなるほど、スカートめくりも中々楽しのう!」
「なにしてるのかな?」
「ぁ」
ひょい、と少女のひとりが小萩の首根っこを掴んだ。
気づけば他の女子達も彼女を取り囲むように集まっていた。
「……もしかして、お仕置き?」
首を横に振る者は誰ひとりとしていない。
「ごめんなさーい!もうしないのじゃー!」
ばしーんばしーん、と黒猫褌に包まれたお尻が赤く腫れ上がる。
こうして小等部のスカートめくり騒動は解決されたのであった。