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マスター:タカば
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2012/11/20


みんなの思い出



オープニング

●不穏な計画
「うーん、いまいちインパクトがないなあ」
 手の上でシャーペンをクルクル回しながら美琴はつぶやいた。
「演劇の出し物、まだ決まらないの?」
 友人の沙織が美琴の手元を覗きこむ。そこには演劇の案がいくつも書かれていた。だがそれらにはことごとくバツ印がつけてあった。
「ヒーローもの、ロマンス、悲劇……って、いろいろ考えたんだけど、なかなかパっとするアイデアがなくてさ」
「ヒーローものとかいいんじゃない? 久遠ヶ原の生徒ならアウルを使って派手な演出できるだろうし」
「確かに……アウルの炎なら、爆発させても火事の心配はないもんね」
 でも、と美琴は首をかしげる。
「単純なヒーローものっていうのもつまんないよねえ」
 なにしろ久遠ヶ原の文化祭だ。
 普通の文化祭にはないユニークな出し物が大量にあるなかで、単なるヒーローものをやったところで霞んでしまうに違いない。
「あ、いいこと思いついた!」
 腕組みしていた美琴がぱっと顔をあげた。
 その瞳は異様なくらいキラキラと輝いている。
「女装魔女っ子ヒロインショーとかどう?」
「じょそ……え? 男子が女装して出るの?」
 言葉の意味がわからず、思わず沙織は聞き返す。女の子が魔法を使うから『魔女っ子』なのではないだろうか。
「そうそう、で、女の子の出演者男装ね。悪の男装の麗人とかいいわよね。女装お姉さまも捨てがたいけど」
 そうと決まれば人集めよ! と美琴は部屋を飛び出していった。
 後に残された沙織は眉間にシワを寄せる。
「美少年が来たらいいけど、ムキムキの男子が来たらどうするつもりかしら……」
 そのつぶやきを聞く者は誰もいない。


リプレイ本文

●素敵なショーの始まり
「こーんにーちはー!」
 久遠ヶ原学園祭、特設ステージ上でマジカル♪みゃーこ・猫野・宮子(ja0024)は観客に元気よく挨拶した。
 いつもの女の子らしい格好ではなくタキシードにマントという一風変わった服装だ。
(魔法少女なら参加しないわけには……って、女装魔法少女? どうしてこうなったの)
 どうしても何も、今回の依頼は異性装舞台なのだ。司会役も例外ではない。
(と、ともかくやることになった以上は頑張るよっ)
 ぐっと拳を固めて気合を入れると、宮子は改めて観客に向きなおった。
「魔法少女ヒロインショーに来てくれてありがとう! 僕は司会のおね……いやお兄さんだよ! よろしくねっ。良い子の皆、元気かな?」
 客席にマイクを向けると、子どもたちがばらばらに返事をする。
「うーん声が小さいぞー。もっと大きな声で返事しよう♪ こーんにーちはー!」
『こーんにーちはー!』
「お返事してくれてありがとう! じゃあ早速魔法少女を呼んでみようか。みんな、一緒に呼ぼうねっ。せーの……」
 どかーん!!
 宮子が魔法少女を呼ぼうとした瞬間、爆音がステージに響き渡った。
「な、何なのこの音は!」
「魔法少女ヒロインショーですって? くだらない、くだらないねえ」
 ほーほほほ、と高笑いしながらステージにもうお婿に行けない・星杜 焔(ja5378)が現れた。黒のセクシーボンテージに仮面をつけた彼は、ごてごてした装飾の効果もあってか立派な女王様だ。……ただし、高すぎる身長を除けば、だが。
 焔は手に持ったムチをピシッと打ち鳴らす。
「我が名前はフレイム! この会場はわが非モテ秘密結社ネガダークが占拠する! ナギーラ、ダンディマウス、出ておいで!」
「ははっ!」
 客席の後方からキャストが2人、姿を現した。彼らは各々武器を振りかざし、子供を威嚇しながら舞台へと向かってくる。
 ハイテンション小動物・イリス・レイバルド(jb0442)とぴよぴよは正義・凪澤 小紅(ja0266)だ。
「ねずみ怪人ダンディマウス、フレイム様のために参りました! このステッキの力で世界全てをダンディに変えてみせましょう!」
 焔の前まで来ると、イリスは燕尾服の裾をさばいてうやうやしくお辞儀をした。カイゼルひげが無駄にふっさふさである。
「黒騎士ナギーラ、ただいま参上しました! 」
 兜と胸鎧をつけた小紅も一礼する。こちらはいかにも職務に忠実な軍人といった風情だ。胸が大きすぎてどうにも収まらず、胸鎧をつけるはめになったことは乙女の秘密だ。
「ここにいる人間全てに、我が秘奥義……未来永劫非モテになるよビームをお見舞いしてやるよ!」
 焔の言葉に、宮子が大仰に驚く。
「そ、そんな恐ろしい攻撃をするなんて……! 非モテは嫌だ!! 誰か助けて!」
 彼女の呼び声に応えるようにステージに新たな人物が現れた。

●魔法少女見参!
「皆さん、助けに来ましたよ!」
 軽快な音楽とともに、彼らは現れた。
「はっ、その声は!」
『正義の味方、魔法少女参上!』
 おっとり系ガンナー・天月 楪(ja4449)、期待の撃退士・色彩 白黒(jb1202)、非モテの怨念・ラグナ・グラウシード(ja3538)の3人はステージの中心で颯爽とポーズを決める。
 彼らを見た瞬間、観客は一瞬絶句した。
 楪はいい。白いうさ耳とひらひら青ミニワンピースがとても似合っている。胸の前にかかえた黒いウサギのぬいぐるみもキュートだ。白黒もミニスカ衣装をよく着こなしている。上から羽織った長いマントが可愛らしさを強調しているし。
 だが、真ん中に立つラグナが全てをぶち壊していた。なぜなら、彼は筋肉質な男性撃退士だったからだ。
 彼の鍛えぬかれた体は、衣装のフリフリミニスカートと頭飾りが可愛いだけに、より一層見る者にダメージを与えた。しかもまとっているオーラのせいか、思わず視線がラグナへと引き寄せられてしまう。
「悪い子はお仕置きしちゃうぞっ!」
 くねっ、としなを作ってキメポーズをした瞬間、観客は思わず爆笑した。
「フレイム様! 魔法少女がきちゃいましたよっ!!」
 正義の味方の登場に、イリスがわたわたと慌てる。それを焔がふふんと鼻で笑った。
「お仕置きと言われておとなしくしている私じゃないよ! ナギーラ、客席から子供の人質をとるんだ!!」
「……くっ、そんな卑怯なことをしろとおっしゃるのですか?」
「我ら悪の秘密結社は目的のためには手段を選ばないのだ! やれ!!」
 命令されて、小紅は客席の最前列に目を向ける。彼女から一番近い場所には……女子制服にランドセルを背負った女子児童コスチュームの巨大な男性、撃退士・ボブレモン(ja9618)がいた。
 ニカっと笑うボブレモン。しかし、小紅はさっと視線をそらした。
「誰か、人質になりたい者はいるか?」
「ミーが人質になるYO!」
「えーと、手頃な人質は……」
 尚も目を合わせようとしない小紅の前にボブレモンが立つ。
「ミーが人質だと不満だって言うの!?」
「ええと……まあ……不満というか……子供に見えないというか」
「ミーはまだ小学一年生だYO! このランドセルが見えないの?」
 見えない。全然見えない。小さなランドセルはボブの広い背中に完全に隠れてしまっている。
「もうそいつでいいじゃない。さっさと連れて来なさいよ」
 上司である焔が投げやりに言う。
「いや明らかに小学生じゃないし!」
「人質になってミーがみんなを守るNE!」
 ボブレモンがびしっときめると、客席から拍手が巻き起こる。彼を人質にとることに、観客は異論がないようだ。泣く泣くボブレモンをステージ上に連れていく小紅を見て、白黒がくやしがる。
「クッ、幼い少女を人質に取るなんて……!」
「ほほほほほ、これでは手が出せないでしょう。魔法少女よ、お前たちから先にぼっちにしてやるわっ!」
 戦いの火蓋は切って落とされた。

●熾烈な争い
「行け、ナギーラ、ダンディマウス!」
「了解!!」
 焔の命令に従い、イリスと小紅が駈け出した。
 イリスはステッキを剣代わりにして楪に襲いかかる。軽くステッキを当てられた楪はその場にがくりと膝をついた。彼の抱えているウサギのぬいぐるみから苦しそうな声が漏れた。
『ウサっ!?』
「く……このちからは……何なの?」
「ふははは、苦しいだろう魔法少女! このステッキには、叩いたものをダンディにする力があるのだ。叩かれるたびに、相手のダンディ度はあがってゆき、最後には太眉とカイゼルひげが生えた者は私の支配下におかれる!!」
 尚も楪をステッキで攻撃しようとしたイリスに、ラグナが飛び蹴りで割って入った。
「魔法少女にカイゼルひげを生やすなんて、そんな大惨事、私が許さない!」
 大惨事はお前だ。
 ムキムキ魔法少女に観客は心のなかで総ツッコミした。
「騎士……もう、こんな事は止めて下さい! 貴方がやりたかった事は、本当にこんな事なのですか?!」
 白黒は泣きそうな顔で小紅に光の玉を放った。肩口に光が当たると、騎士は苦しそうに口元を歪める。
「く……言うな! これも、あの方の崇高なる理想のため。私は……私はあの方に逆らえない」
「でも!」
「ほほほ、騎士よ、その小娘をやっておしまい!」
「この卑怯者―っ!」
 笑っていた焔にラグナがマジカルステッキを振り下ろす。なんとか受け身をとったが、フルスイングで殴られるとかなり痛い。
「ちょっと……この人質が目にはいらないのかいっ」
「友人を裏切るような、嘘つきは……お仕置きしてやるッ!」
 ごん、がん、と繰り出される攻撃を見て、観客がどよめいた。
 迫真のバトルだと囁かれているが、実態は私情のかなりはいった本気の攻撃だったりする。
「ぐうっ……」
 魔法少女の攻撃に秘密結社の面々が、同時に膝をついた。
『楪、今こそ必殺技を使うのだぴょん!』
 黒いウサギのぬいぐるみから煽りセリフが飛び出す。楪はくるくるとターンすると、アウルの光で巨大なウサギさんを創りだした。
「ファントムブレイカー!」
 必殺技の名前を叫ぶと、ウサギの口からビームが発射される。光を受けて、悪の一団は倒れた。
「はあ……はあ……勝ったね」
 ぺたん、と白黒が座り込む。
「でももう、ちからが出ないよぉ」
「勝ったんだからいいじゃないか……って」
 どっかーん!!
 全ての力を出し切った魔法少女達に、スモークで作った爆風が襲いかかった。彼女たちもまた床に倒れる。
「ふはははは!ここまでは筋書き通り。そろそろ僕の出番のようだね?」
 いままでおとなしく司会をしていた宮子がばさりとマントを翻す。彼女にはさきほどまでなかった猫耳と猫しっぽがついていた。
「全員弱っている今がチャンスにゃ! 魔法少女も秘密結社もみんなまとめて僕が倒しちゃうにゃ!!」

●真の敵
「そんな……力が出ないこんな時に……っ!」
 ラグナが苦しげに体を起こした。立つことが出来ない魔法少女と秘密結社の面々を宮子が見下ろす。
「だけど、相手は一人です。みんなで力をあわせれば!」
「僕は一人ではないよ?」
 くすくすと宮子が笑う。そこへ、今まで倒れていたイリスが駆け寄った。
「待ってたぜ、この瞬間をぉぉッ!!」
「なっ……ダンディマウス、お前裏切る気か!」
 騎士が驚いて目を見開く。その様子を見てイリスは高笑いする。
「初めから組織など見切りをつけてたのよッ! はっはー! お前達をダンディな下っぱ戦闘員に調教してやっよ!」
「世界は、我らダンディズム同盟のために!!」
 タキシードと燕尾服の二人は左右対称のキメポーズをとった。
「私達は……何もできないの?!」
 悔しがるラグナの肩に焔が手をおいた。
「いいや、まだ手はあるさ」
「フレイム、敵のあなたが何を?」
「何、一時的に手を結ぼうと思ってね。あの二人……ダンディズム同盟は私達共通の敵。そうだろう?」
「しかし……いや、他に手はないか。いいだろう」
 男たちはがっしりと手と結んだ。
「なんと、魔法少女と秘密結社が手を結んだYO!」
 いつの間にかマイクを拾っていたボブレモンが叫んだ。彼らは一丸となってダンディズム同盟に向かっていく。
「貴方と共に戦える日がくるなんて……嬉しいですけれど、浮かれてばかりは居られません。はああっ」
 白黒と小紅が同時に武器を振りかざした。しかし、敵はあっさりと攻撃をかわす。
「うーん、まだまだ力が足りないようだNE! 会場のみんな! 彼らを応援して、一緒に悪の組織をやっつけよう!」
「私の力を……君たちの正しい心で聖なる力に!」
「さあ、みんなでシャウト! GA・N・BA・RE!」
『がんばれー!』
「まだまだ足りないYO! GA・N・BA・RE!」
『がんばれー!!!!』
 子どもたちが声をそろえて応援する。その時、ステージ上で爆音が響き、真っ白い光がはじけた。
「ば、馬鹿なぁぁーーッ!! このっダンディがぁぁぁー!!?」
「くぅ、まさかここまで強いとは! きょ、今日の所は引き分けにしておいてやるにゃ! 覚えてろー!!」
 光に追いやられるようにして、二人は退場していった。
「みんなー、センキュゥ!」
 客席から大きな拍手が起きるなか、緒に勝利を分かち合っていた秘密結社の小紅と焔はふっと身を引いた。
「あっ……二人ともどこに行くの?!」
「私達は非モテ秘密結社ネガダーク、一時手を結んだとはいえお前たちとは相容れない存在なのだ」
 焔が舞台袖に向かう。その後に続こうとした小紅のマントを白黒がはしっと掴んだ。
「騎士……!」
「君と私とでは住む世界が違いすぎる。もう、私を惑わすな」
「騎士……何時か、貴方と分かりあえる日が来ると、私は信じています」
「今日の所は、退く。次に会った時は……敵だ」
 マントから白黒の手を振り払い、小紅もまた退場する。一瞬悲しそうな表情になったあと、白黒はぐっと顔をあげた。
「魔法少女の活躍でステージの平和は守られたYO! みんな、センキュゥ!」
 ボブの言葉に、また拍手がおきる。
 大盛り上がりのなか、無事舞台の幕が降りた。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:6人

無念の褌大名・
猫野・宮子(ja0024)

大学部2年5組 女 鬼道忍軍
繋いだ手にぬくもりを・
凪澤 小紅(ja0266)

大学部4年6組 女 阿修羅
KILL ALL RIAJU・
ラグナ・グラウシード(ja3538)

大学部5年54組 男 ディバインナイト
うさ耳はんたー・
天月 楪(ja4449)

中等部1年7組 男 インフィルトレイター
思い繋ぎし翠光の焔・
星杜 焔(ja5378)

卒業 男 ディバインナイト
見よこれが魔法少女だ・
ボブレモン(ja9618)

大学部4年201組 男 阿修羅
ハイテンション小動物・
イリス・レイバルド(jb0442)

大学部2年104組 女 ディバインナイト
トキメキ☆魔女っ子美少年・
色彩 白黒(jb1202)

高等部2年7組 男 ダアト