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マスター:橘 律希
シナリオ形態:シリーズ
難易度:普通
参加人数:7人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2013/04/04


みんなの思い出



オープニング

●大波 源八
「やることなんてありゃしねーって…」
 新潟県新潟市。
 その繁華街の一角で、一人の男がくだを巻いていた。
 頭をボリボリと掻き、ぶらぶらとあてもなく歩く姿はハッキリと言って柄が悪い。
 道行く主婦が胡散臭げに男のことを見ては、距離を開けてすれ違う。
「せめて、昼飯食う前に連絡しろよなぁ…ったく」
 そんな視線など意にも介さず、男はお腹に手を当てる。先ほど食べた牛丼はまだ胃をずっしりと捕えたままだ。

 男の名は、大波 源八。公務員撃退士である。
 彼の在籍する撃退署は福井県にあるのだが、今日は業務上の理由から朝一で新潟市まで出向いていた。
 そんな彼の携帯が残念な知らせを伝えたのは、要件そのものは昼前に終わり、少し早い腹ごしらえをして帰ろうとしたとき。
『おまえ、今日はそのまま休め。ついでに2、3日帰って来るな』
「はぁ!?」
 告げてきたのは彼の上司。
 曰く、大波がまったく有休を取らない為に部下が有休を取りづらいと愚痴を零しているらしい。
 だから部下の為にも休め。仕事以外でも人生謳歌しろよ。そんなアドバイスを述べていた上司の声は、穏やかなのに有無を言わせない何かがあった。
「余計なお世話だってんだ、馬鹿野郎が…」
 大波自身は仕事一筋で生きてきたつもりはないが、特に趣味がないのもまた事実。
 言われてみれば、休日出勤にも喜んで出ていたような…。
『ちなみに、福井に帰って来てるのわかったら減給だから』
 なんとも理不尽な脅しまでかけられ、それでもその命令に従ってしまうのは、彼が骨の髄まで組織の人間であることの証拠かもしれない。
「どーっすかなぁ、おい…」
 繁華街を見回すも、これといって彼の興味を引き付ける様なものはない。
 当てもなくブラブラと歩く。

 ―――ん?

 ふと、彼の視界に飛び込んできた違和感。
 何とはなしにそちらを視線を向ける。
 そこにいたのは、繁華街の片隅を歩く数人の男女。
 一般人とはかけ離れた髪の色や瞳の色から、全員が撃退士であることは間違いないだろう。
「んー? どっかで見た顔だな…」
 男3人、女1人。
 そのうちの一人、男の顔に見覚えがある…気がするのだが、満腹なせいなのかいまいち頭の働きが悪く、思い出すことができない。
 彼その4人組は特に警戒する気配もなく、ある方向に向かって歩いていた。
「……まぁ、どうせ暇だしな」
 大波は、こっそりとその後をつけ始める。
 やがて目に飛び込んできたのは、『佐渡』行のフェリー乗り場だった。
「佐渡っていやぁ、お前…」
 コアを壊してからも廃棄ゲートが残り続けている町として、北陸の撃退署ではそれなりに有名な島である。
 本島から離れているせいなのか、有象無象の噂が飛び交い、あまりいい噂を聞くことはない。
「なるほど、な。そういうことか」
 大波は携帯を取り出すと、上司に電話をかけるのだった。


●盗人
「おっせえんだよ、お前ら」
 出会いがしらの言葉に、常葉奏(jz0017)が目を丸くした。
 巡回を終え、避難所に少し顔を出そうと歩く途中で久遠ヶ原の学生たちを待ち受けていたのは、役所の人でも避難中の町民でもなく、一人のガラの悪い男。
「まぁ、いいや。こっち来い、こっち。……いいから来いって」
 戸惑い、警戒する奏の腕を取り、大波 源八と名乗る男が自販機の前に引っ張って行く。
 時間は宵の口。あと30分もしないうちに完全に日は沈むだろう。
 闇に染まりつつある町を、自販機の明かりが白く照らし出していた。
「ほれ、これは俺の驕りだ。熱いから早く受け取れ」
 缶のお茶(ホット)を人数分買い込むと、有無を言わさずその手に押し付ける。
 缶越しに伝わる熱は冷えた体にじんわりと伝わり、お茶を手にした学生たちは無意識に一息ついていた。
 今日は季節外れの寒波が押し寄せてきているためか、とても寒い。予報ではこれから季節外れの雪風が吹く可能性も示唆されている。

「ちょっとお前たちに協力して欲しくてな」
 大波 源八が改めて自己紹介をし、事情を説明する。
 結論から言えば、今、この町の危険地域には別の撃退士たちが入り込んでいるらしい。
 つまり、フリーで悪の道に染まってしまった者たち――盗人――である。正確には空き巣、いや火事場泥棒と言った所か。
「どーにも顔が思い出せなかったんだが、署に問い合わせてやっとわかった」
 新潟市で後をつけていた大波だったが、4人組がフェリー乗り場に向かった所で、署に問い合わせをしたらしい。
 が、そこで上司と白熱バトルを繰り広げてしまい、慌てて切符を買おうとしたときは時すでに遅し。フェリーは出発してしまっていた。
 次の便で、ここ佐渡に来たものの当然その姿はなく、先ほどまで地道に聞き込みを続けていたらしい。
「で、どうやら奴らが危険地域に入って行った…というところまではわかった」
 4人組のうち、身元が判明したのは3人。
 ゲン、シバ、レナと呼ばれる3人組の盗人で、廃棄されたゲートが残された町に出向いては人のいなくなった家や会社に押し入り、残された財産を掻っ攫って行くのが手口らしい。
 天魔の襲撃と相まって直接的な被害がわかりにくいのと、その手口から目撃されにくいこともあり、数いる撃退士の犯罪者の中ではあまり目立ってこなかったようだ。

「そんなのって、ひどいよ!」
 説明を聞いた奏が怒り出した。
「ひどいだろ? 許しておけないよな? そんなわけで、だ。お前たち、どうせ巡回終えて暇だろ? ちょっと手伝え、な?」
 お茶、おごってやったろ?
 例え断る理由がないとしても、自販機のお茶一杯で手伝えとは恩着せがましいにも程がある。
「そんな顔すんなって。ほれ、なんか今日はお前たちが帰ってきたら一緒に飯食べるんだって、町の人たちが待ってたぞ。楽しみにしてたぜー。
 それなのに、こんな状況を伝えてガッカリさせるわけにはいかないだろう?」
 大波の言うことはもっともだが、なんだか納得がいかずに奏が口を尖らせた。
「おじさんも一緒に来るんでしょ?」
「ん? あー、いや。俺は別口だ」
 何でも奴らのうちの一人は、金山跡地の方へ向かったという目撃情報があるのだと言う。
 大方、展示してある金塊でも盗むつもりなんだろうよ、と憤慨半分、呆れ半分といった調子で大波がボヤいた。
「ほんとーにー?」
 奏が胡散臭そうに追及すると、大波が躍起になって訴え始める。
「ほんとだって! 信用しろよ! さっき身分証明書だって見せてやったろぉ!?」
 ふーん。
 まくしたてる大波を奏が半眼で見つめる。その態度に業を煮やしたのか、大波が奏の腕を取った。
「よーし、わかった。そんな目で見るなら、嬢ちゃん、お前も来い! 俺と一緒に来れば、言ってることが本当だってわかるだろ」
「え? え? えーーっ!?」
 引っ張られ、場の空気に流されるままに奏が側に止めてあった車に押し込められる。
 大波も素早く車に乗り込み、エンジンをかけると運転席から顔だけを出して振り向いた。
「お前ら、終わったら連絡しろよ。嬢ちゃんの番号くらい知ってるだろ。じゃあ、グッドラックだ」
 車はエンジンがかかると同時、あっという間に走り去っていくのだった…。
 


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リプレイ本文

●情報収集
「常葉ちゃんが拉致られたーーっ!!!」
 因幡 良子(ja8039)の声が辺りに響き渡る。奏と大波を乗せた車は、既に影も形もなくなっていた。
「誘拐されてたなら、それはそれで面白かったかもしれませんね〜。ふふふ〜」
「荒れた土地に少女誘拐、火事場泥棒。今更だが世も末って奴かな」
 落月 咲(jb3943)が良子に乗って冗談を口にすれば、牧野 一倫(ja8516)がやれやれと肩を竦める。
「盗人が現れるとすれば、住宅街か金融機関のある中央部でしょう」
「電話して犯人の手口聞いてみましょー」
 レイル=ティアリー(ja9968)が冷静に盗人の行動を分析し始めたところで、西園寺 勇(ja8249)が大波へ質問することを提案した。
「もしもし、常葉ちゃん?」
「大丈夫ですか、常葉嬢?」
 良子が電話をかけ、グラン(ja1111)が奏の安否を確認すると奏の元気な声が応える。
「大丈夫だよ。まだ金山に向かってるところなんだ」
 奏を仲介して、撃退士たちは大波から盗人に関する詳細な情報を得ていく。
 危険地域に向かった盗人のうち名前が判明しているのは、ゲン(ディバインナイト)とレナ(バハムートテイマー)の2人。加えて素性も名前も知れぬ男が1人。大波に言わせれば、この謎の男は危険な感じがしたと言う。また、その手口は銀行やお金持ちの家に忍び込み、現金や宝石などを盗むと言うオーソドックスなものであることも判明した。惜しむらくは、彼らがどこに向かったかわからない事だった。
 一通り情報を得た後で、紫鷹(jb0224)が奏に大波の援護の仕方についてアドバイスを送る。と、唐突に電話口の向こうにいるはずの大波に向かって叫んだ。
「大切な仲間だ! 無茶させないでくれよっ!」
 良子に宥められる紫鷹と入れ替わり、一倫が声をかける。
「まあ、なんかあったら呼べよ。行けたらすぐ行くつもりではいる。行けたらだけどね」
「うん、ありがとう! みんなも気を付けてね」
 電話を切ると、撃退士たちは二手に分かれて捜索を始めた。



●捜索
 夜の闇に沈んだ危険地域は人気も物音もなく、点在する街灯が無人の住宅街を寂しく照らす。冷たい風が吹き抜けるだけの町は静謐な空気に包まれていた。
 フェリー乗り場に最も近い場所から危険地域に足を踏み入れた複数の人影は息を潜め、足音を忍ばせながら住宅街を静かに進みゆく。
「空き巣か火事場泥棒か。能力者も人の子ということでしょうか?」
 人影の一つ、グランは寺社の境内から出てくると率直な疑問を口にした。
 彼は金銭や宝石の他、骨董品として仏像などが狙われる可能性も踏まえ、寺社も注意深く捜索している。
 一方、一倫は周囲の情報を取り漏らさないようにと、目を凝らし耳を澄まし警戒を続けていた。
「不意打ち受けるのは癪だしな」
 懐中電灯の灯りを住宅に向けるも、誰もいない家屋はどこもかしこも眠ったように沈黙を返す。
「目のやばい人、ですかァ。なんだかウチと同じにおいがしますよぅ…ふふふ…」
 謎の男に対する大波の印象を思い出し、咲の瞳が妖しく揺らめく。
 彼女は張り切って探索にあたっていた。それは住民の悲しい顔を見なくて済むように…という理由もあるが、それ以上に謎の男に強い興味を持った為でもある。
「寒くなってきましたね」
 グランが、吹き付ける風に雪が混じり始めたことに気付く。
 その寒さに身が凍えたのか、マナーモードにしていた一倫のスマホが振るえた。


 危険地域の中心部ではもう一組の撃退士たちが路地裏に身を潜め、ある建物を見つめていた。それは――銀行。
 今、盗人たちはその中に居た。
 窓の向こう側で不自然に揺らめく明かりに、業を煮やした紫鷹が怒りの声をあげる。
「…誰に邪魔される事も無い、効率的な稼ぎ方だな。…反吐が出そうだ」
 巡回を始めてから町や住民を特に心配し続けてきた彼女にとって、盗人たちの目的も手口も到底許せるものではなかった。憤りを隠すことなく、銀行の方を睨んでいる。
「まったく。力ある者の責務というものを教えて差し上げるべきでしょうか」
 レイルの目つきも鋭く、その声は怒気をはらんでいるのか厳しい。
 2人のピリピリした空気に当てられ、良子が緊張感に満ちた面持ちで問いかけた。
「えーと…誘拐された常葉ちゃん助けに金山へ行けばいいんだっけ?」

 ………。

「ハイごめんなさい真面目にやります」
 幸か不幸か、良子の声は真剣な二人の耳に届かなかった様だ。無反応な二人の後ろで良子が一人のの字を書いていると、その肩がぽんぽんと叩かれた。
「お待たせしました〜。ふふふ〜」
「お! 早かったね」
 咲の口から白い吐息が漏れる。住宅街探索組は連絡を受けた後、この近くまで自転車に乗ってきたらしい。
「途中、鍵のかかってない自転車があったものですから」
 グランが説明し、後で返しておきます、と付け加える。
 全員が揃ったのを確認すると、勇が路地裏に身を潜めながらワイヤーを電信柱に結び付け始めた。予想される逃走経路にワイヤーを張り、喉元辺りに引っかかるように調整している。
「これで泥棒さんつかまえちゃおー!」
 最近、睡眠不足が続いていた彼のクマはいつも以上に濃い。今も巡回後から訪れた眠気に襲われているのだが、そんな素振りも見せず元気よく動き回っていた。
「まあ、改めて説教とかする気もないんだけど、仕事なんでしょうがない」
「何が彼らを犯罪に駆り立てたのか、興味が湧きますね。とはいえ、犯罪は犯罪。捕らえて裁き受けさせるとしましょう」
 一倫がだるそうに銀行の方へ目を向け、グランが魔術書を開く。
 撃退士たちの視線の先、そこには銀行から出てきた盗人たちの姿があった。



●捕縛
「よし、行くぞ!」
「ちょっと待て」
 武器を構えた紫鷹が勢いよく飛び出そうとしたところで、一倫がそれを制止する。
 捕縛する際、抵抗されれば容赦するつもりはない。ならば、怪我をさせない今のうちに得られる情報を得ておきたい…というのが一倫が制止した理由であった。

 耳を澄ませば、盗人たちの会話が微かに聞こえてくる。
「どこに大物がいるってんだ!! サーバント一匹いやしねぇっ!」
「お、落ち着け、アザサ」
「そ、そうだよ。まだ町全部を回ったわけじゃないんだから…」

 アザサというのが、もう一人の謎の男の名前なのであろう。
 『大物』という単語には疑問が浮かぶも、それ以上は強まってきた風音にかき消されてよく聞こえない。
「後は捕縛してから確認すればいいことです」
 レイルが剣を抜き放ち、周囲を改めて見渡す。盗人のレナがヒリュウなどを召喚している様子もなく、盗人たちの会話は口論に発展していた。
 撃退士たちは目線を交わすと獲物を静かに構える。
 そして、呼吸を合わせた撃退士たちは一気に路地裏から飛び出した。

 闇夜に紛れての急襲に、盗人たちの反応が明らかに遅れる。
 まずは、レイルと紫鷹が先陣を切ってレナへと向かっていく。スレイプニルで逃亡を図られると厄介極まりない為だ。
 レイルは懐に滑り込みながら、身体を回転させる。遠心力を乗せた剣が閃き、その一撃はレナの足へ深い傷を負わせた。
 そのまま回転の勢いを利用してレイルが懐から離脱すると、入れ違いで反対の方向から紫鷹が音もなく接近する。
「怪我の一つや二つ、覚悟してもらうぞ!」
 斬りつけると同時、発生させた靄がレナの視界を覆った。
 突然の襲撃に加え視界も塞がれ、半分パニックに陥りながらもレナはスレイプニルの召喚を開始する。
 だが、召喚は失敗した。一瞬早く、良子がシールゾーンが周囲に展開していた為だ。
 スキルを封じられ、召喚に失敗したレナは愕然とした後、諦めの表情を浮かべて跪くのだった。

 一方、ゲンに向かったのは勇。レナに向かうと見せかけ、その動きに反応したゲンの足元へとワイヤーを放つ。
 虚を突かれたゲンが慌ててシールドを活性化し、辛うじて勇の攻撃を受け止める。
 そこへ、背後から接近したグランがスタンエッジを浴びせた。迸る電流がゲンの身体を駆け巡るも、歯を食いしばりスタンを免れる。
 反撃とばかりに勇に斬りかかるが傷は浅く、勇の頬に僅かに血が走る程度。
 不利を悟ったゲンはシールゾーンの効果を跳ね除けると、背中に天使の翼を生やしながら身を翻した。
 建物の合間を飛んで逃げるつもりだったのだろう。だが、その足は勇が仕掛けたワイヤーの罠に引っ掛かり、空中で体勢を崩してしまう。
「逃がさないよー!」
 その隙を逃さず勇がソニックブームを放ち、風の衝撃の直撃を受けたゲンが地に落ちる。
 そこにグランのマジックスクリューが襲い掛かり、意識朦朧としたゲンはその間に取り押さえられるのだった。

 残る一人、アザサと対峙しているのは咲。
「ウチの狙いはアナタですよぅ。斬り合ってみませんかァ?」
 アウルで加速した咲の斬撃がアザサの身体を抉る。だが、アザサは嬉々とした表情を浮かべて咲を見据えた。
「お前、いいなぁ…いいぜ、斬りあおうぜぇ…」
 その視線に、咲の背筋がぞくぞくと震える。対峙してわかったが、彼は堕天使であった。
「まさか人を相手に刀を振るえるなんて〜…ふふふ〜」
 腕を掠め、滴り落ちた自らの血に咲も笑みを浮かべる。お互いに同じような匂いを感じたのだろう。二人は刀と剣を振るい、嬉々として刃を交わす。
「さて、お相手願いましょう。逃げられるとは思わないでください」
 そこへ、レイルも加わり二対一で相対する。それでもアザサは怯むことなく、むしろ喜色満面で二人を迎え入れた。
「退屈してたとこだ…心ゆくまで斬りあおうぜィ!」
「おや。斬り合いがお好きなようですが、それにしては随分と一撃が軽いですね?」
 レイルはアザサの斬撃を受け流すと、身を回転させ、雪風を巻き込んだ直剣でアザサの身体を深々と切り裂く。
 お返しとばかりにアザサは二人の側面に回り込むと、禍々しいアウルを込めた剣を勢いよく振り下ろした。
「ひゃっはー!」
 放たれたドス黒い斬撃の波が二人に向かって突き進む。
 咄嗟にレイルはシールドを展開し、咲の前には一倫が防壁陣を展開して飛び込んだ。
 代わり、攻撃後の隙を突いて、咲が自重を乗せた重い一撃を放つ。
「あらら〜、もうおしまいですか〜?」
 白目を剥いて崩れ落ちるアザサに、咲が残念そうな声をあげる。と、その声に反応したのか、地に伏せる直前、アザサの身体が跳ねあがると咲の身体を大きく切り裂いた。
「終わるわけないだろォがァ!」
「では、終わらせてあげましょう」
 立ち上がり絶叫するアザサに、レイルの剣が容赦なく無慈悲に煌めく。
 一拍後、アザサは激しい血飛沫を上げながら今度こそ崩れ落ちた―――。



●宴
 全員を拘束した後、紫鷹が率先してレナの身体を検め、男性陣がそれに倣って残り二人を検める。
「廃ゲートなんて敵なんて全然出てこないよー! もっと最高に熱くなれる場所を紹介してくれる場所あるよ!」
 その間、勇が『堕天使を仲間にしてその内一緒に戦う熱い展開』を期待してアザサを学園に誘ってみるも、アザサは何も答えず不気味な笑みだけを返した。
 程なくして、残りの盗人を捉えた大波と奏に合流すると、盗人の身柄を大波と応援にきた撃退署の職員へと引き渡した。

「随分遅かったけど、何かあったのかい?」
 大波と別れた撃退士たちが住民たちが食事会を開いてくれるという町の集会所を訪れると、遅い戻りに不安を覚えていた住民たちが心配そうな表情を浮かべていた。
 その不安を良子があっけらかんと笑って否定すると、住民たちは安堵の表情を浮かべた。
 撃退士たちが盗人たちのことを語ることはない。戦闘の負傷も良子によって癒されており、顔などの目立つ部分の汚れもキレイに落としている。すべては住民たちに余計な心配をさせないようにという撃退士たちの気遣いであった。
「遠慮せずに召し上がって下さいね」
 勧められたテーブルの上には湯気の立ち上る暖かな料理や新鮮な魚介類を使った料理が並び、住民たちは一様に笑顔を浮かべている。聞けば、過去の巡回で親身になってくれたことが嬉しかったのだと言う。
(みな、苦しい思いをしているのに…)
 その心遣いに紫鷹が目を閉じ、心の中で深く感謝を述べながら手を合わせる。
「有難く頂きます」
 温かい味噌汁に口をつけようとした視界が白く染まった。眼鏡が湯気で曇り、そこで眼鏡をかけたままであることに気付いた。
(ふぅ…眼鏡も、流石に疲れた…な)
 その後、紫鷹は珍しい物を目に止めては興味津々で作り方を尋ねて回り、特に蕗の煮付けが気に入ったらしく、老婆からその味付けなどを熱心に聞き入っていた。

 真心のこもった料理と住民たちの温かい空気に、撃退士たちは巡回の疲れが癒されていくのを感じていた。
「だいぶ気温も下がりましたから、温かさが身に染みますねぇ」
「たまには、こういうのも悪くないですねぇ」
 温かい料理がレイルの纏っていた緊張感を和ませれば、咲はのほほんとした空気を楽しんでいる。
 良子は何やら住民とノリノリで話をしながら美味しそうに料理にパクつき、勇は眠気の限界が訪れたのか箸と茶碗を持ったままうつらうつら始めていた。
 徐々に賑やかになる宴の中、目立たないよう輪から外れているのは一倫。大人数で騒ぐのは性に合わず、疲れてしまうらしい。
 だが、そんな彼も機嫌は悪くない。
「さすがに支給品とは違うねえ…」
 近所の喫茶店の店主がコーヒーを用意してくれていたためだ。店主曰く『自慢の一品』というコーヒーを、彼はのんびりと堪能していた。

「食べて貰う為にここにあるんだぞ?」
 ふと見れば、紫鷹は蕗を残している少年を諭していた。自分も蕗が苦手なことを述べつつ、お手本とばかりに食べてみせる。
「凄いじゃないか、苦手なものに立ち向かった分心が強くなるな」
 負けじと蕗を口にし、苦虫を噛み潰したような顔の少年を紫鷹が優しい眼差しで見つめる。
「お、お姉ちゃん、顔近い…」
 気付けば、眼鏡を外した紫鷹の顔が少年の顔に急接近していた…。

「くかー…」
 勇はいつしか部屋の隅にひかれた布団の上で深い眠りについていた。
 レイルが巡回記録帳に宴の様子を記し、住民と歓待を受ける仲間の様子をグランが興味深そうに眺めている。

 穏やかで賑やかな宴は、いつまでも続くのだった…。





 ―――夜の日本海を一隻のボートが走る。
「おい、てめぇ、大物ってのはなんなんだ?」
 冷たい海風を背中に受けながら、大波源八は縛り上げられたアザサを締め上げていた。
 アザサは不気味な笑みを浮かべたまま、僅かに口を動かす。
「んだとぉ!? てめぇ、それ、どこで仕入れた情報だ!?」
 胸倉を掴み上げるも大波は経験から理解していた。この堕天使がこれ以上何も答える気がないことを。
「…ちっ、荒れそうじゃねぇか…」
 大波が無言で後ろを振り返る。その先では、淀んだ雲に覆われた島が闇に溶けてどこまでも広がっていた……。

 


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:5人

天つ彩風『探風』・
グラン(ja1111)

大学部7年175組 男 ダアト
┌(┌ ^o^)┐・
因幡 良子(ja8039)

大学部6年300組 女 アストラルヴァンガード
撃退士・
西園寺 勇(ja8249)

大学部1年306組 男 ルインズブレイド
天つ彩風『支風』・
牧野 一倫(ja8516)

大学部7年249組 男 ディバインナイト
騎士の刻印・
レイル=ティアリー(ja9968)

大学部3年92組 男 ディバインナイト
天つ彩風『想風』・
紫鷹(jb0224)

大学部3年307組 女 鬼道忍軍
微笑む死神・
落月 咲(jb3943)

大学部4年325組 女 阿修羅