●
まっかなおっめっめっの〜斉凛(
ja6571)にゃ〜んは〜?
ぬいぐるみ――という意味を持つラグドールの仔猫にMetamorphose。
体型は例外的にかなり小型ではあるが、アルビノな毛並みは非常に柔らかくシルキー。穏やかで人懐っこく、心を許すとごろにゃ〜んの甘えん坊ににゃりますにゃん。
寒空の下、そんなちみっちゃぃ姿できょろきょろり。
心身求めるのは勿論、
『ご主人様……ご主人様はどちらに、あ――!』
猫になっても通常運転な凛である。
『大好きなご主人様のお傍にいたいですの。ご主人様にゃーん』
ぬいぐるみがよちよち歩くよ主人の許へ。
『ご主人様に何かお食事を……あ、桜餅もう食べてるわ。じゃあ、お花ですわね!』
――何故。
滑り台の上で常備食の桜餅を頬張る黒犬、藤宮 流架(jz0111)の為に凛は走る。寒さに負けない色彩を探して駆け回る。小柄なにゃんこにはかなりの運動量だ。だが、
『お花、お花、ご主人様にお花似合いますわ』
愛しい主の為ならば一匹でもえんやこら。
一輪咥え、ぴよよよ。
また一輪咥え、ぴよよよ。
何往復したであろうか。
無言ですぃーっと滑り降りてきた流架は、仕様で頭部のみ――Ver.Winterなダンデライオンに様変わりしていた。めっちゃアートされている。
ご満悦な凛、流架にすりすり。
そこへ、一走りしてきたダイナマ 伊藤(jz0126)が『うお、どしたんルカ』と彼の頭部を凝視しながら近づいてきた。凛は、びくっと身体を震わせて流架の後ろへ隠れる。そして、向かって来る彼にてしてしと肉球パンチで威嚇。爪は出さないというか爪がない。
『来ないでくださいですの』
『あ? なんでよ』
『アレクさんは大きくて……それに、顔が怖いですの』
どうにも出来ない事案発生。
『失せろ』
『へい』
ダイナマにとって流架の一言は絶大な威力を誇ります。
『ご主人様のお傍は心地いいけれど、皆楽しそうに遊んでるわね……混ざりたいですの』
ふと、親友の御子神 凛月(jz0373)が、砂場でぽつん。主の頬へ名残惜しげに温もりを寄せた後、
『りつ、遊びましょうですわ』
真白と薄桃、ちまい背中が二匹並んだ。
●
『おろ? ……目線が低い? もふもふお手手……おぉ、犬だぁ……犬……犬!? リングは!?』
仔犬になった春都(
jb2291)
しかし、彼女にとって重要なのは目先の事象ではなかった。誕生日に兄からプレゼントしてもらったリング――大切な“心の置き場”を首から下げているのを確認して、ふぅ、と安堵の吐息を零す。
『よかった……よし! 折角なので楽しみましょう!』
テディベアカットのアプリコットトイプードル春都、いきまぁーーーす!!!
四足で風を切る感覚は実に爽快であった。
小さな黒鼻で冬の空気を嗅ぎ、ふわふわの耳で細波のような気配を知り、その無垢な瞳に映り込む世界は――前向きに走り続けるダイナマ。
『あ、ダイ先生! ――とう!』
ぐしゃ。
基本的に猛ダッシュの彼。
背中に飛び乗り“はいよーしるばー”を味わいたげふんげふんの春都、タイミングに失敗して砂に塗れても諦めません。
『おお! たかーい! ダイ先生、もふもふだぁ〜♪』
『そうか? お前さんは相変わらずちっちぇなー』
何度も機を見て、ついにダイナマのてっぺんを取った春都。ちょこんと座り、真っ直ぐ滑らかに伸びた彼の毛を肉球でわしゃわしゃ。
『ダイせんせ、走って走って! 誰かを追いかけてみて下さい! なんて☆』
高揚した琥珀色の瞳で、春都はてしてしとダイナマの頭をプッシュした。
『よっしゃ。静岡まで茶ぁ汲みに行く勢いで走ってやんよ』
『意味はわかりませんが気合いはわかりました。えへへ、はいよーダイせんせー♪』
一匹は春都の為に!
春都は一匹の為に!
――瞼の裏に映る光の為に。
共有する幸福感で駆けよう。
●
一羽の鳥が弧を描いていった、
――ように見えた。恐らく気の所為だろう。しかし、今、自分の身に起こっている事象はその類では説明がつかない。
世間はX’mas Eve。
そう、恋人達の夜。自分も例外ではない。今夜は家に女を待たせているのだ。彼女の為にと、厳選した食事――素材や製法に拘った、安心安全な高級キャットフードも手に入れたというのに。空気を読まない緊急依頼に溜息を呑み込んで駆けつけた彼。
「サボテンの天魔か? 周囲は犬猫しか見当たらないが、依頼主は何処にいる?」
情報が錯綜しているのだろうか――彼はそう思考しながら、サボテンを咥えて此方に歩いてきた犬の頭に掌を置いた。
その時、犬が不敵に笑った。
「……む。サボテンの棘が刺さったのか」
筋張った掌に視線を落とす。
――筋がない。代わりにあったのは、
『……肉球? 四足? 全身に黒毛、だと……!?』
彼は何を言っているのかわからなかった。
彼は何をされたのかわからなかった。
只、目の前のシベリアンハスキーだけが、してやったりの顔をしていた。
『よっ。ファーフわん』
聞き覚えのあるその低音ボイス。ファーフナー(
jb7826)の広いおでこ(犬仕様)に電撃が走る。よみがえるSummer memories……。
踵を返すカーキ色の尻尾を呆然と眺めながら、ファーフナーは『またあの保険医か……』と、腑に溜め込んだ思いで息をついた。
『ええと……ドンマイ? ですの。桜餅、召し上がれ。良かったら一緒に遊びましょ』
凛の励ましにあぐあぐ。
以上、ファーフナーの事の始まり脳内回想録であった。
●
『わわわ、身体が軽い!』
ぴょいんぴょいん。
幸せをもたらす猫とも言われているコラット――木嶋 藍(
jb8679)、何時もより余計に跳ねております。
『……ダイ先生、でかいよう。頭撫でたいのに届かない……。って、わ! りっちゃんめちゃカワ! ぎゅむー』
海の底を映したブルーアイズ。
冬毛でもっふりふわまんまるの毛並みは、餅以上に柔らかい洋色のブルーグレイ。左耳には彼女の“光”からの贈り物であるエメラルドのドロップピアスが優しく揺れている。
『――丸いね、藍君。何時ものことだが』
しかし“光”の言葉は実に優しくない。
『ね、猫違いです、僕ただのコラット界のヒーローで――』
『では、悪役は俺に任せておくれ。さあ、ぽんぽんを見せろもふもふしてやるー』
『わー!?』
犬と猫が戯れております。
『お腹マッサージされちゃった……。流架、めっちゃ綺麗だね〜。毛並みつるつるー』
柔和な眼差しで藍を見つめる流架の首元を、わしゃしゃーと撫でる藍。そして、流架の胸に頬を寄せてぎゅむっと彼を抱き締めた。
そこへ、優雅な容姿の犬種が一匹、『あ!』と振り向いた藍の頭を撫でた。
『随分可愛い姿になったな、藍』
『藤忠さん! わぁ、美犬!』
滅紫色のフラットコーテッドレトリバーになった忍生まれの美男子――不知火藤忠(
jc2194)が、梅重色の双眸を穏やかに細める。
藍は彼の背中にぴょんと飛び乗ると、ぬっこぬこな笑顔で流架の方へ向き直った。
『頼もしい友達なんだー。すごく男前な人でね、心の強い人。人の姿もめちゃくちゃ綺麗なんだよ。……ちょっと先生に似てるかな……』
『ん? ほう。初見がこんななりで申し訳ない。戦闘科目を担当する藤宮 流架だ』
『不知火藤忠だ……二人とも名前に藤が入っているな。面白い』
『おや、そうだね。ふふ。二藤並んで舞うのも楽しそうだ』
『わ、見てみたい! ――で、こちらが鬼のように強いスパルタ先生です。でも、人の心に敏感で、優しくて……真っ直ぐであろうとする人。いつも私を“掬って”くれる大好きなヒーロー先生なんだ』
面に浮かぶ彼女の感情を眺め、藍と流架を包む温かく甘い雰囲気を感じた藤忠は、『ふむ』と首を傾けた。
『二人は付き合っているのか?』
すとれーと。
『え?
……。
――っ!? 付き……!?』
あっぷるあうとー。
『も、もう! 藤忠さんってば!』
『事実ではないのか?』
『じ、じじつですけど……』
『……仲いいね、君達』
『――ああ、いや、藍は元々妹分の友人でな。俺とも仲良くしてくれる良い奴だ』
『ふふ、わかっているよ』
『ん? 心配していないのか? そこは嫉妬したとか何とか言って恋人に甘えておく場面だろう』
『おや、そうかい? では……俺の湯たんぽは一生俺のものだ』
『既にそんな仲に……』
『わーーーっ!? もうなにいってるのーーーっ!!』
行き場のない羞恥心に、たたたっ――藍は全力疾走。重力をものともしない勢いで、近場の木を駆け登る。
『あっ、凛ちゃん! 良かったら一緒にどう? 木登り楽しいよ!』
『にゃー? が、頑張りますわ』
行きはよじよじ、
『Σは、はぅ……高いですわ、怖いですわ。助けてくださいませ』
――帰りはこわいにゃー。
凛にゃん、流架わんに首根っこをぷらんぷらん咥えられて回収。主人の甘噛みに双眸をうっとりとさせていると――ぽふん。流架の計らいで、藤忠の背中へお邪魔することになった。
『あ……犬の上に登れたら楽しいかな、と思っておりましたの。嬉しいですわ』
ふわふわとした藤忠の長い毛触りは抜群。
『良い眺め……大きいっていいなぁ』
小柄な身体がちょっぴり気になるお年頃なのです。
『あ、そうだ。わんこは甘味って大丈夫かな? 良かったらみんなで食べよ!』
藍が、へびぃな袋をずりずり。
林檎はないけど桜餅とダークチョコマフィンならあるよ! ということで、まっふもちもちイタダキマス。
●
生きているゆるキャラと噂されているわんこ――ヤブイヌ。
『犬……に……なった……』
己の姿に淡々と驚きを示すのは、浪風 威鈴(
ja8371)
月光の下、銀色の毛並みが美しく映えていた。左耳のイヤーカフスは彼女の煌らしく、自然な色彩を放つ。
『なんか……ボク……周りと違い過ぎてて……犬っぽく……ない……?』
夜の公園をてくてく散歩していると、犬と猫とサボテンと――何処かの漫画の題名のようなセットを発見。「珍しい……」とサボテンに触れてみれば、早変わりしたのはずんぐりとした胴体。犬ですか狸ですか? しかしこの顔、愛嬌ありすぎ。
『こんなの……聞いてない……』
突然の事態に、絡んだ思考の紐が解けずにおろおろ。シベリアンなハスキーの声が無駄にでかくてビクぅ。威鈴は森色の視線を前方にやったまま、後方へ猛ダッシュ。器用な四足を見よ。
そして《地形把握》で土地勘をものにした威鈴は、隠れられそうな場所へささささ……。暫く、じぃっと周りの様子を眺めながら心音を落ち着かせていた。
『皆……楽しそうに……遊んでる……あ……ジャングルジム……?』
じぃ〜〜〜。
威鈴わん、興味をそそられたようです。
金属パイプの骨組みをスルスルと潜っては遊び、リアルターザンをしているダイナマの仕草を真似てターザンロープで風を切る。少し疲れたのでブランコで休憩しようとするも、座面がぐらぐら揺れて宙ぶらりん。漸く、ふぅ、と一息ついていると、
『おろ? 浪風さん?』
春都が声をかけながら走ってきた。どうやら威鈴と散歩がしたいようだ。
『散歩……? ボク……と……で良いなら……』
小首を傾げる威鈴に、春都はにぱぁ。
土の香り、力強い木々の声、吸い込まれそうに澄み渡る夜空――威鈴の身体は、心は、何処か安定した心地を覚えた。
途中、顔を洗っていた凛月も誘い、三匹並んで枯れ芝生をふみふみ。
冬風がぴーぷーと威鈴達の毛を撫でていった。
『ちょっと肌寒いですかね?』
『寒い……の……? 森……とか……いるのが……多いから……平気……だけど……』
『さぶい』
『あ! 三人で身体を寄せ合ったらぬくぬくですよ! きっと!』
『そうね』
『ボク……も……? 良いけど……』
春都の言葉を不思議そうに聞き受ける威鈴が、二人へ“添う”。
すり。
ぽわぽわ。
ほっこり。
その温度に微笑みを浮かべていた春都が、『はっ!』と。
『そうですそうです……お二人の事を下の名前でお呼びしてもいいですか?』
『名前……別に……呼びやすい……方で良い……』
『私も』
『ありがとうございます! 私は呼び捨てでもあだ名でも何でもばっちこいです! えへへ……これからもよろしくお願いします!』
『んと……ボクで……良ければ……』
威鈴の心音に、穏やかな“葉擦れ”が広がったような気がした。
●
強固な忠誠心と忍耐力を持つが、見知らぬ人間に対しては警戒心が強いと言われているドーベルマン。
まんまの性質。
根っからの忠犬気質――ファーフわん。
本音を零せば猫に憧れていた。
だが、自分はやはり“犬”としてしか生きられないのだろう。
『(理解していたことだ。さて……夏のような醜態を晒さぬよう、大人しくひっそり過ごさなければな)』
しかし、動物の本能には抗え(ry
風で揺れるブランコへダッシュ。
尻尾ヘリコプター。
目の前を走っていったダイナマにアイスブルーの瞳がギンギラリン。さり気ない以上にターゲットロックオン。
彼は猟も出来る犬。
完膚無きまでに犬であった。
・
・
・
星空を眺めながら甘味を食べ終えた藤忠は、凛月とボールで遊んでいた。
『み、見て藤忠! ボールに乗れた!』
『ふふ、その姿で燥いでいる凛月は可愛いな』
『Σは!?』
ぼて、とボールから転げ落ちた世間知らずのお嬢様。藤忠の妹分に似ている為、彼は何となく放っておけないのだ。
『流架もダイナマもだが、早く人間の姿で話してみたいものだ』
『今と大して変わらないわよ』
それはどうなのだろう。
『大型犬とちまい猫……傍から見たら保護者と子供か。――む?』
藤忠の双眸がギンギラギンに追いかけられるダイナマを発見。
犬の本能発動!
『凛月、また後でな』
彼は颯爽と走っていった。
男と男の真剣勝負が今、始まる――!
『(ふふ、皆遊んでるなぁ。雪降らないかなぁ〜、降ったらホワイトクリスマスで楽しいんだけどなぁ)』
高い木の上でトイプードルの尻尾がぱたぱた。
●
ぼわわわん。
――わんにゃんタイム終了!
「よっ、ファーフナー。お疲れ」
保険医ニヤリ。
またやってしまった渋メン、脱力。
「スパルタ教員と聞いていたが、そんな風には見えないな」
「猫を剥がせば鬼よ、彼」
「凛月。ああ、やっぱり可愛かったじゃないか」
「う、うるさい」
藤忠は口許を緩めながら凛月の頭を撫でた。
「何だか妹が増えた気分だ」
「……じゃあ、きちんと護りなさいよ。私を」
藍と流架は少し離れた場所でライトアップされた木を眺めていた。
「これ、クリスマスプレゼント。桜の花弁と白い雪が舞うスノードーム。……夢の桜も綺麗だったけど、いつか春の桜も見に行こうね」
愛おしそうに微笑み置く彼の面へ爪先浮かし、藍はハニーベージュな色を――吐息を、そっと流架の唇へ重ねたのだった。
はらり。
「あ――」
はらはら。
仔犬の願いが届いたのだろうか、雪の花弁――雪花が舞い、夜の温度を包んだ。
「今が、今日が、幸せなX’masになりますように……」